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ゲームを習うサービス「ゲムトレ」がサービスを開始。運営者にどんな効果があるのかを聞いてみた

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 10月1日、家庭教師がゲームを教える「ゲムトレ」がサービスを開始した。オンラインのビデオチャットを通じて、トレーナーからゲームを教えてもらうサービスだ。

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(画像は「ゲムトレ」公式サイトより)

 eスポーツという言葉の浸透とともに、その分野自体が理解されているかは別として、日本国内ではプロゲーマーを目指す専門学校や、競技向けのゲームをプレイする部活動などが広まりつつある。だがこの「ゲムトレ」は、“ゲームを習い事にする”という、おそらくいまだ誰も挑戦したことがない内容のサービスだ。

 生徒たちはオンラインのビデオチャット越しにトレーナーの指示に従い、一緒に『フォートナイト』などの最新作をプレイし、ゲームについての知識や腕前を高めていく。そんな「ゲムトレ」を通じて、生徒たちは脳を鍛えたりコミュニケーション能力を高め、さらにゲームをきっかけにコミュニケーションの輪を作ることが目的になるという。

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小幡和輝氏

 同サービスの主催者である小幡和輝氏は弱冠25歳。話を聞くと、不登校だった自身の過去の体験と対比するように「ゲムトレ」について語ってくれた。はたして「ゲムトレ」を通じてどのようなことを“習う”ことができるのだろうか。

文・取材/Nobuhiko Nakanishi
編集・取材/ishigenn


「ゲームの家庭教師」はどこから始まった?

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──本日はどうぞよろしくお願いいたします。「ゲームを習い事にする」……というのは馴染みのない言葉ですが、まず「ゲムトレ」がどういったものか、お聞かせいただけますでしょうか。

小幡和輝氏(以下、小幡氏)
 単純に言えば、“ゲームの家庭教師”ですね。オンラインのビデオチャットを利用して、トレーナーと生徒が一緒にゲームをプレイしながら授業しているんです。現在はほとんど「ゲームだったらコミュニケーションが取れる」という不登校の子どもを持つご家庭が利用されています。

──具体的にはどのようなことを教えているのでしょうか?

小幡氏
 ゲームによりますね。たとえば『スマブラ』(『大乱闘スマッシュブラザーズ』)なら、ネット対戦で実際に使えるテクニックを通話しながら教えます。『フォートナイト』なら、チームを組みながら講師が指示を出したり動きを教えたりします。ゲームを通じて何かを教えてるというよりは、ゲームそのもののテクニックや駆け引きをしっかりと教える感じです。

 ちなみに、ゲームはやり込むと昼夜逆転してしまうイメージが強いですけど、このサービスは朝に授業があるので、朝起きるようになるというのも特徴です。好きなことが朝にあればみんな起きるんですよね。

──公式サイトを見てみると、サービス料金は月5800円で2コマ、月9800円で4コマということですよね。

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「ゲムトレ」の料金プラン
(画像は「ゲムトレ」公式サイトより)

小幡氏
 そうですね。

──正直なところ、「そのお金で何かゲームを買って、ネットの攻略Wikiを見たり周りの人に教えてもらえばいいのでは?」……と考えてしまう人も多そうです。

小幡氏
 ぶっちゃけると、とても怪しいサービスだと感じる人はいると思いますし、Twitterでもそういう意見をいただくこともあります。ただ、僕自身が10年ほど不登校になって、そのあいだずっとゲームを通じてコミュニケーションがあったという経験があるんですね。

──その原体験が、このサービスを始めるきっかけになった?

小幡氏
 そうですね。

──それは小幡さん自身が不登校だったような?

小幡氏
 はい。幼稚園生のころからなかなか園に行けなくなって、小学校2年生から中学校3年生までは、ほとんど学校に行っていません。得意科目を続けたくても授業時間が終わったらできないし、やりたくない不得意なことも避けられない。僕にとって当時の学校は「とにかく好きなことをさせてくれない、嫌なことばかりさせられる場所」という感覚でした。

 不登校気味になると、どうしても学校でも浮いてしまって、いじめの対象にもなりました。

──そうやって引きこもりがちになっていく中で、ゲームに救われた?

小幡氏
 いえ。僕は不登校だったんですけど、引きこもりではないんです。むしろ、当時は超ポジティブだったんです(笑)。

 同じく不登校のいとこと仲がよかったんですが、ふたりで延々とゲームをやったり、地元のフリースクールに通ってゲーム仲間をたくさん作ったりしました。不登校になってからの方が、とても明るい生活を過ごしていたんです。

──学校というコミュニティでは馴染めなかったけど、ほかの場所ではゲームを通じて仲間を作り合うことができたと。

小幡氏
 誤解されがちですけど、不登校とひきこもりは別のものなんですよね。「不登校」になることが問題なのではなくて、「不登校になってから何をするのか」が重要なんです。

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 だから、僕はこれまで不登校の子を対象に活動してきましたが、引きこもっている状態については肯定していません。不登校の子は何とでもなるんです。でも、引きこもりの状態が続くと、コミュニケーション不全に陥ります。

 学校の役割には、最低限の学力をつけさせることと、一種の社会性を身に着けさせることがあります。僕の持論としては、それは実は学校じゃなくてもできるので、不登校でもいいんですという話なんですね。

──なるほど。

小幡氏
 カードゲームとかをやっていると、高校生とか大学生とか社会人とか、年上の友達もたくさできました。彼らがお金を自由に持っていてカードを買ったりしていたので、「はやく働きたい」とずっと思ってました。実際に18歳のころには、地域の活性化を目指した自分の会社を立ち上げました。

──フリースクールという「学校以外のコミュニティ」があったのは、小幡さんの人生にとって大きな助けになりましたね。

小幡氏
 僕が住んでいたのは和歌山の人口1万人ぐらいの小さな地域で、小学校と中学校もひとつずつだったんです。みんな僕が不登校であることを知っていたし、登下校で学校の子が僕の家の前を歩いているんですよ。本来ならコミュニティが合わないと、9年間はその変わらない人間関係のなかで過ごさないといけないんですよね。

 でも、僕は自治体が運営していたフリースクールがたまたまあったので、救われたんだと思います。学校の外にそういった環境があるかないかで、状況はまったく違う。

──つまり小幡さんにとってのフリースクールのような場所を提供するのが、「ゲムトレ」だというわけですね。

「コミュニティ参加への興味」と「ネットの不健全性からの加護」

──ゲームを通じてコミュニティに属することには、どんな利点があるとお考えですか?

小幡氏
 子どもたちに興味を持ってもらえるかどうかが、まったく違いますよね。2019年、僕は日本中を回って不登校の子どもたちと一緒に話す会をしたんですけど、子どもたちは最初ぜんぜん話さないんですよ。でも、ゲームの話になると目の色が変わって食いついてくる。

──学校というコミュニティを一度拒絶した子どもたちですから、たしかに大変だと思います。その心の扉を開くためにゲームが鍵として機能している。

小幡氏
 全国を回っているときに、『スマブラ』がすごく強くてチームからスカウトされていると言ってる子がいて、実際にとても強くて僕は当然のようにボコボコに負けたんですね。でも、その様子を見ていた別の子と3人でやってみたら、その新しく入ってきた子が勝っちゃった。

 それでふたりの子どもの親御さんに話を聞いてみると、最初の子の親はゲームにすごく理解があって、大会とかの参加にも賛成しているそうなんですけど、あとからきた子の親はゲームに反対していて、どうやったら辞めさせられるのか頭を悩ましている。

──子どもたちはゲームに興味を持っていて、それがコミュニケーションへとつながる可能性があるのに、ゲームが上手いことやゲームを続けることが認められない環境があると。

小幡氏
 ゲームは子どもたちをコミュニティへ導くツールでもあるのに、まだそういうことが凄く起きやすいカテゴリだなと思います。

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 自分は囲碁が得意で和歌山県の代表になったりしたこともあるんですが、たとえば囲碁や将棋ならこういうことは起きにくいですよね。プロを目指している子供より自分の子どもの方が強かったら、プロを目指すかどうかは別として、「習い事」としてやることを認めると思うんですよ。でも、ゲームだと認めづらい。

 「ゲームを教える」というと、eスポーツのプロ選手を目指してトレーニングするという印象を持つ人もいるかもしれませんし、実際に集まってくるトレーナーのレベルはとても高いです。でも、そうではなく「習い事」としてのゲームをアピールしていくことができればと思っています。

 たとえば囲碁や将棋、ゴルフとかのスポーツでも、プロ選手やプロのトレーナーがいる一方で、アマチュアで全国大会で活躍するというレベルの人も、仲間内で強いんですよという人もいる。そういう種目では、レッスンや教室を開いて生活している人もいますよね。

──そう伺うと、「ゲームの家庭教師」というのもしっくりくる気がします。まだまだ社会全体から受け入れられることは難しそうですが。

小幡氏
 いまはまだは難しいかもしれませんが、ビデオゲームもいずれそうなっていくんだろうなと考えてます。

──たとえば、インターネットやオンラインでもゲームのコミュニティはある……とは思いますが、けっして子どもたちを導くような、優しいコミュニティではないですものね。

小幡氏
 実際にゲームプレイ会を運営して感じたんですが……オンラインゲームのコミュニティって、そんなに健全じゃないなと思いました(笑)

──そうですね(笑)。すべてがそうではないと思います。

小幡氏
 たとえばこのあいだ、『フォートナイト』の初心者大会を開催したときに、ふたつ悲しいことがあったんです。

 まず初心者大会と銘打っていたのに、みんなゲーム上のマナーとかに異様に厳しいんですよね。掲示板上で「なんでこんなことも知らねえんだよ」みたいな発言がある。で、けっこうひどいことになってから親が出てきて、「○○の親です」みたいな発言があったんですが、それに対しても「なりすまし乙」と言い返したり。

 「初心者の大会の場所ですよ」と言ってるのにこうなっちゃうんだったら、オンラインの大海原に放り込んだらどうなっちゃうんだろうと思いました。サブアカウントをわざわざ作って参加しようとする上級者までいましたよ(笑)。

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──インターネット上は優しい人ばかりではないですし、逆に経験がないゆえにインターネット上で間違いを犯してしまうと大きな汚点として残ってしまいますね。

小幡氏
 僕はフリースクールとかに通っていましたし、オンラインゲームが当たり前になる前だったので、そういう経験がなかったんですよね。正直なところ、「ゲムトレ」を使わなくてもオンラインゲームで誰かと繋がっていくことはできるんですけど、「心が強くないといけないな」と思いました。

──(笑)

小幡氏
 なんかまあ、オンラインゲームの世界って、完全に健全な世界ではないよねと(笑)

──そういう意味では、信頼のあるトレーナーが付いてくれるというのは利点だと思いますね。

小幡氏
 いまの子供は、必ずどこかのタイミングで確実にオンラインにつながるんで、そこでトレーナーがついていてくれるというのは、親御さんにとって少し安心できる部分かもしれないです。

ゲームを知らない親の認識にも変化

小幡氏
 そういえば、さきほど話にでた『スマブラ』が上手い子の親は、そのときに大きく価値観を揺さぶられたみたいですね。ゲームのことってわからないんですよね。親はそのゲームの中の評価のポイントを知らないので、それを親にしっかり教えて上げることで、変わることがあります。

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──たとえばどのように変化するのでしょうか?

小幡氏
 たとえば、「ゲームに没頭して子どもが課金を続けるのでは」と気にする親御さんもいらっしゃるんですが、そもそもその仕組をわかっていますか?と聞くと、わかっていないことも多い。

 いまだと『フォートナイト』は、課金で勝ちを得るわけではなくて、スキンやエモートを手に入れる形式じゃないですか。どう考えてもそこまで課金ができるデザインではない。だけど多くの親はわからないから、無料で課金形式のある『フォートナイト』のようなビジネスモデルでも、悪なのではないかと思ってしまう。

──親の世代がわかっていないことが多くあると。

小幡氏
 データに課金と聞くと、やっぱりお金を使って勝つというイメージがあるんですよね。だからさっきの『フォートナイト』の話をすると、「えっ、そうなんですか?」と驚かれます。

 ただ、それを知らないのはしょうがないんですよね。だってゲームを遊んでいないんだから。日本を巡ってみて、けっこう勉強になりました。今後も“習い事としてのゲーム”を通じて、ゲームへの認識に変化が起きればいいなと思っています。

──ありがとうございました。(了)


ライター
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Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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