濃すぎる経歴のVRエバンジェリストがOculus VR社を退社! GOROman氏が初音ミクと歩き出すVRの未来とは?

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紙の時代から空間の時代へ

――その変化こそがVRの変化であって、だからそこにいろんな人がお金を突っ込んでいるんです、という説明をすると分かってもらえる。だからいま説明していただいたようなこと、「フレームがある時代」から「空間ディスプレイの時代」へ、というのは、本当に、僕自身は体感するし納得します。

GOROman:
 現実に近づいているんですよね。結局いままでは「ペーパーパラダイム」なんですよね。

――ホワイトボードじゃだめなんですね。

GOROman:
 ホワイトボードとペーパーパラダイムは違うんですよ、また。従来、コンピュータが発明される前のお仕事のしかたって、こう(紙にペンでなにかを書きながら)だったですよね。紙になにかを書く、紙になにかをする。紙の上で作業をすることを、「机の上でなにかをする」と定義したわけですね。

※(今度は猛然と「ペーパーパラダイム」と実演するGOROman氏)

 なぜかというと、地球上に済む限り引力に引っ張られるから、どこかで押さえないといけないわけですよね。机という平面を定義して、紙でほとんどお仕事をしていたわけです。

 でも「これ、不便だね」という話になったわけです。「書き間違えた」時に消しゴムを必要がある。アンドゥができないわけですね。セーブも大変。ゼロックスがコピー機を作ったことで、ペーパーパラダイムでもある意味「セーブ可能」になった結果、みんな「便利だ便利だ」と思い込んでコピー機を買ったと思うんです。

 でも、やっぱり不便であることに変わりはないわけですよ。パーソナルコンピュータが出てきて、「あんなの大型に比べればおもちゃだろ」「ガキがキッチンで使うものだろ」と言ってたら、意外と流行りはじめた。みんな最初はゲームをしたかったわけですよね。うちも親がPC-6001を買ってきたのが最初ですけど、「やったあ、家にゲームができる機械がきた」ってもんですよ。

――それは完全にそうですね。

GOROman:
 でも、ゲームが途中で解けなくなったんですよね。T&Eソフトの『惑星メフィウス』【※】なんですけど。

※T&Eソフトの『惑星メフィウス』
『スターアーサー伝説I 惑星メフィウス』。1983年にT&Eソフトから発売されたテキストアドベンチャーゲーム。SF系ストーリーゲームの先駆けとして人気があったが、一方で、わりと理不尽な難易度のゲームでもあった。ただし、当時はそんな感じがあたりまえだったのだが……。

――あー、あれ。

GOROman:
 砂漠が22×22のマップになってて、どこも風景が変わらない、という場所があって。ものすごく難しくて、小学3年生だった自分にはどうしても解けなかったんですよ。ムカついて「STOPキー」を押したら、「ピーッ」となって「OK」って画面に出た。

※数字を修正しました。(編集部)(12/27 12:40)

――(笑)

GOROman:
 「LIST」って打っても、プログラムリストは表示されないんですね。文字が黒くされて、読めなくされていたんです。だから「COLOR 15」とかやったら色が変わってソースを読めるようになった。要は、プロアクションリプレイ的なことをやってたわけです。

 プログラムリストの話は『こんにちはマイコン』とかで勉強していたので、なんとなくわかったんです。だから、プログラムを解析してメフィウスを解けたんですね。で、なんの話でしたっけ?

――ペーパーパラダイムからPCへ、という話です(笑)。

GOROman:
 そうだった。さらにWindowsがヒットして「ウインドウパラダイム」になりました。

 これは、ペーパーパラダイムの変化系ですよね。CUI時代はペーパーパラダイムを完全再現できず、コマンドラインで機器と対話していたわけですよね。あくまでコンピュータ様の要望に合わせ、人間がコミュニケーションするという。

 そうなるとポインティングデバイスが必要になります。ペーパーパラダイムでは「ペン」ですよね。だから最初はライトペンが使われましたよね。僕も父親に、誕生日プレゼントで「PC-6051」というデジタイザーを買ってもらったんです。紙を貼り付けて絵をなぞると、データされる。

――昔はラップスキャン【※】、てのもありましたね。

※ラップスキャン
サランラップに絵を描き、それをディスプレイに貼って、そこからドットを拾って絵をデジタル化する仕組み。当時は多くの少年が、そうやってアニメ絵を8ビットパソコン上で再現していた。

GOROman:
 ライトペン【※】は流行らなかったけれど、マウスは良かった。なぜかというと、重力に引きつけられているので(机の上で手を滑らせて)こういう動きでないと、人類にはつらいんでしょうね。

※ライトペン
コンピュータで最初期から使われていた入力デバイス。ペンで画面の位置を示して入力する、今のペンタブレットに近い使い方をするが、機構や精度はまったく異なる。ブラウン管と組み合わせることを前提としており、ブラウン管の走査線の位置を把握するもの。パソコン登場以前の1950年代から、大型コンピュータでの入力や業務用機器で使われていた。パソコンの登場に合わせ、グラフィック製作などの用途に使われたが、当時はグラフィック製作のニーズが少なく、精度の割にコストも高かったことから、マウスにとって代わられた。その後、精度の高いペンタブレットが登場したが、技術的にはまったく異なるものとなっている。

初期の入力デバイスであったライトペン。(画像はWikipediaより)

――(ディスプレイでペンを走らせる動作をして)こうじゃなくて(机の上で腕を動かして)こうだ、と。

GOROman:
 (ディスプレイでペンを走らせる動作をして)こう、はやっぱりつらいですよ。ペンタブレットも、重力の方向には抗ってる状況ですしね。

――結局、コンピュータって人間の体にUXがかなり支配されているので、水平に近い平面上でしか腕は動かせない、ということですね。

GOROman:
 そうです。身体性の問題が大きいので、「疲れたらダメ」なんです。だからKinectなどがあまり流行らないんだろうな……と。

 重力に体をゆだねるしかなく、そこにWindowsが出てきて、マウスによるポインティングが広まった。マウスで絵を描いたり、マルチウインドウで資料を見ながら書類が書けるようになった。けっこう画期的ですよね。

――ペーパーパラダイムで、机の上に紙を置く時代から、画面の上に配置する時代になったわけじゃないですか。

GOROman:
 でも、あくまで「一画面」なんですよ。だから、Alt+Tab、もしくは「ウインドウを並べる」という概念が発明されたわけですよね。あと、リサイズ。すなわち、「スイッチング」「リサイズ」「タイリング」の概念が生まれたわけですよね。

――物理的に置いてるわけじゃないから、サイズも位置も可変だよね、という。

GOROman:
 そうそう。便利でしょ? という世界ですよね。MS-DOS時代から考えれば劇的な変化ですよ。

この先VRはもっとすごいことができる

――その後に来たスマートフォンやタブレットでなにがきたか、ということを冷静に考えると、「体はこういう形で、デバイスがこういう形だから」ということに合わせて、UIをフィットさせていったに過ぎないわけじゃないですか。

GOROman:
 そうなんです。本質的には変わっていないです。

――でも、「画面がこの枠の中で完結するんじゃないとすれば……」というのが、今GOROmanさんが考えていることですよね。

GOROman:
 やっと「フレーム」の呪縛から解き放たれる。ガンダムに例えると引力に魂を引かれた存在から宇宙に出てニュータイプになった、みたいな話ですよ。僕はシャアの気持ちが分かりますね(笑)。VRを否定する人に、「いまだペーパーパラダイムに囚われているのか!」みたいな。でも、わかりますけどね。アムロの気持ちも(笑)。やっぱり、VRってニュータイプ感あるんですよ。だって、人類の可能性を開けるわけじゃないですか。

 コンピュータが出てきて、楽器が出来ない人が楽器を弾けるようになったわけでしょう? DTMで曲も作れるようになった。まったくギターが弾けない人が、ギターの曲を作れるわけです。そういう人がたくさんいるわけですよね。

 ボーカロイドが出てきて、歌えない人でも歌わせることができるようになったし、ペインティングツールが出てきて、紙に絵を描けない人でも絵を描くことが可能になった。曲線ツールの組み合わせで絵を描くのが上手い人とか、いるじゃないですか。あと、デッサンはできないけどモデリングはできる、とか。

※Mikulus上ではDTMも可能になっている。

――あ、私もそうです。デッサンはへたくそだけどモデリングはできます。80年代・90年代にPCに触れた人って、絵や音楽も一通りやってみたりしているんですよね。私もそうでしたが。

GOROman:
 コンピュータでクリエイティビティを発揮できることはみんなやってた。というか、要は「おもちゃ」なんで、おもちゃで出来ることはみんなやりたかったんですよね。

 コンピュータでできることはみんなやったんです。当時のゲーム開発者は1人で作ってましたよね。『ポートピア連続殺人事件』の時、堀井雄二さんはぜんぶ一人でやってるわけで。そういうことができた時代ですよね。人々のクリエイティビティを加速させた時代だったと思うんです。

 この先VRで、もっとすごいことができますよ。こんどTilt Blush【※1】で絵を描く女の子、せきぐちあいみさん【※2】がVRの個展をやったりするじゃないですか。「ポリゴンツール苦手なんです」という人が、medium【※3】とかでバーッとモデリングしたりできるわけですよね。

 VRやARのような新しいコンピューティング時代には、新しい才能が生まれるんだと思っているんですね。コンピュータが苦手なんですよ、という人が10分習ったらmediumで彫刻したりしてるわけで。コンピュータがより人に優しくなる、というか、易しくなる、というか。MS-DOS時代のCONFIG.SYSの書き方を、女子高生相手に説明できます?

※1 Tilt Blush
Googleが開発したVRペインティングツール。詳しくは以下を。
関連サイト:www.tiltbrush.com

VR空間上に絵を描ける「Tilt Blush」。(画像は公式サイトより)

※2 せきぐちあいみ
女性YouTuber。2016年12月20日に二子玉川・蔦屋家電にて、Tilt BlushでライブペインティングをするVRアートイベントを開催した。

※3 medium
Oculus medium。Oculusが開発した、Oculus Touchを使ってVR空間でモデリングするツール。VR界隈では「ゲーム以上にキラーアプリケーション」との呼び声も高い。詳しくは以下を。
関連サイト:www.oculus.com/medium/

VR空間上でモデリングができる「Medium」。(画像は公式サイトより)

――駆け出しライターだった時代、さんざんその手の原稿を書きましたが、今はきちんとできる自信がないです(笑)。

GOROman:
 めっちゃ難しかったですよね。理屈じゃなかったし。「挫折ビリティ」が高かった(笑)。クリエイティビティがある人も「挫折ビリティ」が高かったので、その壁を乗り越えないといけなかったわけでしょ。それで心が折れて、コンピュータから離れていった人は多かった。

VRの導入ハードルの高さ

――話をVRに戻します。今は、まだ挫折ビリティが高いというか、深いところまで手を出しにくい部分がありますよね。

GOROman:
 それはどちらかというと「導入ビリティ」の高さです。ハイエンドPC買うのも大変だけど、PS VRもメチャメチャですよ。あのケーブルの量。

PS VRはセットアップも一苦労。(画像はPlayStation公式サイトより)

――SIEはあのセットアップ過程を作るのに、相当テストしたみたいですね……。

GOROman:
 それでも難しい。うちのおかんに渡してもできないですよ。結局、プロセッサーユニットを外にしたからなんですが……。理想はワイヤレスですが、バッテリーの問題もありますしね。要は、今は全然最適解ではない。

――今の技術的な要件を考えるとしょうがないんだけど、「導入ビリティ」は確かに高い。

GOROman:
 導入の時点でハードルは大きいですよね。まあ金額は置いておくとしても、接続が複雑だとか、特別なソフトを入れなきゃいけないとか、ちょっと難しい。

――PCもPS VRもセットアップがあまりに大変過ぎる。

GOROman:
 Lighthouse【※】なんて、「これ、うちには置けねーよ」というところがあるじゃないですか。2歳の子供がひっくり返すし、ネコもいるし。うちに帰るとLighthouseがぶっ壊れててもおかしくないです。まあ、壊れないまでも片付けなければいけない。……ネコトラッキングが必要かもなあ(笑)。

※Lighthouse
HTC Viveで導入されている、部屋全体を対象として、動きながらVRを実現するためのポジショントラッキング技術。

――(笑)まちがいなく、今のVRって、8ビット時代の、デジタル8色の太いケーブルでディスプレイをつないでいた時代のようなものじゃないですか。一方で、その話を聞いていて思ったのは、「そこまでやっても、同時に出来るのは1タスクだ」ということ。

GOROman:
 そうそう(笑)。こんなに導入ビリティと挫折ビリティを乗り越えた先で、できるのはシングルタスクのアプリを動かすこと、というのは……。

――しかも、1つのアプリケーションではだいたい15分で体験が終わる、というところに根本的な問題がある。確かに、特にエンタメでは「何万円を払っても、毎回面倒くさくても、それを乗り越える価値のある体験」はあるんですよ。そして、今のVRにもそれはたくさんある。しかし、日本の1億3000万人を考えると、ハードルをくぐり抜けてくれるのがマスかというと、まだそうではない。

GOROman:
 そう思いますね、正直。

――だとして、さらに導入ビリティなどの壁が短期的には下がらないとしても、それでも「導入した人が導入したコストに見合う」というか、毎日使い続けてもらうにはどうしたらいいか、というのが。

GOROman:
 そこでペーパーパラダイムからSpatial(空間的)、「空間パラダイム」へのシフトが、絶対だと思っています。

 でも、今のコンピューティングが不便だね、と気付かない限りは、移行コストを払わない。MS-DOSからWindowsへの移行にしたって、「1.0」や「2.0」の頃はゴミすぎて使ってなくて、3.1くらいでやっと「便利だね」ということになりましたよね。DOS窓が開いて複数ソフトが使えるだけでも「すげえじゃん」と思った。

――「便利だと思ってもらう」とか「かぶりたい」と思ってもらう意味付けが必要で、それとして「生き生きとしたミクさんが横にいる」ということなわけですよね。そういうモチベーションが重要、ってことですね。

GOROman:
 そうそう。でもそれは「オレ的に」という意味ですけど。自分のへのモチベーションとして(笑)。だって、一人で作るのはしんどいじゃないですか。

「アクティブ・インタラクション」と「パッシブ・インタラクション」

――そこが『サマーレッスン』との違いでもあり、「VRの15分問題」との関係でもあるのですが。サマーレッスンは毎日繰り返してやってもらうために、既存のゲームの方法論を持ち込んだわけですよね。でも、既存のゲームの方法論を持ち込めば持ち込むほど、ゲームとしては完成度が上がるけれど「プレゼンス【※】は下がる」という。

※プレゼンス
「そこにいる」感覚。VRにおいては世界に没入させるために、プレゼンスを高めるための工夫が多数必要になる。

VR空間上で家庭教師になれるソフト『サマーレッスン』。(画像は公式サイトより)

GOROman:
 ストーリーテリングとプレゼンスの相反関係がある、ということです。しかも、ストーリーを別に知りたくなかったりするわけですよ。VRって。ひかりちゃん【※】はずっと勉強だけしててくれれば良くて。

※ひかりちゃん
『サマーレッスン』の登場人物であり、ヒロインの宮本ひかり。

――ああ。そして「そこ、計算間違ってるよ」と言えるくらいがいい。

GOROman:
 あとで答案を赤ペン先生したりとか。だって、『サマーレッスン』って「レッスン」しないじゃないですか。レッスンを始めようとすると画面がブラックアウトして先へ進んじゃう。

――それは、普通の人にとっては「レッスンする」のが苦しいからですよね。別の言い方をすれば、『Little Computer People』【※】はコンピュータの歴史としては超絶すごいものだけれど、大ヒットしたか、というとそうでもない。そして、後に続くものも意外とない。

GOROman:
 スクウェアの『アップルタウン物語』【※】くらいですよね。あれだってヒットはしていない。『Little Computer People』は本当にすごいもので、「もっと評価されるべき」タグがつくものなんだけど、商品としては売れていないですね。

※『Little Computer People』、『アップルタウン物語』
1985年にActivisonが開発したゲーム。コンピュータの中に住む人をひたすら見守る、という内容。1987年、ファミリーコンピュータ・ディスクシステム向けに、スクウェア(当時)が日本向けにアレンジして売り出したのが『アップルタウン物語』。元々英語版では男性を見るものだったが、アップルタウン物語では女の子を見守るものに変わった。

ライフシミュレーションゲームの先駆け、『Little Computer People』。(画像はWikipediaより)

――20年かかって『The Sims』【※】が出るまでヒットしなかった。ゲームでありつつ「キャラクターを見守るだけ」というゲームがヒットするほどにこなれるまでに、20年かかってるわけです。VRは今、『Little Computer People』の状態にあるんだけど、それをどう脱皮させるのか。そこに、ゲーム的なアプローチと、そうでないアプローチがある、ということですよね。Mikulusがやっているのは「ゲーム的でない」アプローチだと思っています。

※『The Sims』
2000年にMAXIS(当時。発売元はElectronic Arts)が販売したゲーム。「Sim」と呼ばれる住人を観測し、時に日常生活の指示を与えて生活させていく。大ヒットし、現在は『The Sims 4』までシリーズ化された。

最新版『The Sims 4』。(画像は公式サイトより)

GOROman:
 どちらかというと『Little Computer People』ですね。ただ見ているだけで楽しいとか、ちょっと差し入れができる、とか。

――いろんなVRのタイトルは見ているんですけれど、自分がそんなにインタラクションしないもの、実際には見る場所や「いること」によってインタラクションしているんですが、意識的に「操作する」ことを持っていないものも、面白いと感じます。逆に、そこに無理やりゲーム性を持ち込む方が、面白くなくなる。

GOROman:
 それは定義すると、「アクティブなインタラクション」と「パッシブなインタラクション」ということになりますね。パッシブなインタラクションほどプレゼンスが剥がれないんです。アクティブである、つまり「話しかける」とか「触る」とかすると剥がれやすい。

 結局人間って、結果に対する期待があって、それを予想して「気持ちいい」「不快」と感じるわけですよね。例えば(缶コーヒーを持って)ここにコーヒーがあると思って飲んだ時、ただのお湯だと「うぇ」となります。

 人間は、常に結果を期待して、それに合わせて脳内でドーパミンが出るわけですけど、今のVRは、AIのテクノロジーが低すぎるんです。『サマーレッスン』にしても完全に自由な会話はできない。だから「こうなるだろう」という結果が帰ってこなくて、プレゼンスの剥がれになる。そこに「やらされている感」ができるんですよね。

 せっかくVRの世界に入ってプレゼンスを高めるというのは、ディズニーランドに行くようなものじゃないですか。脳を騙す、手品などと同じようなものなのに、ディズニーランドに行ったらミッキーの中のおっさんが見えて「おっさんランド」になっちゃったようなところがあるわけですよ。非日常体験に1万数千円払ったのに、日常が見えた瞬間に「金返せ」となるわけですよね。

 VRも同じで、脳を延々、騙し切って欲しいんですよね。高い機械なんだから。

――その話を聞いていると、ロボットクリエイターの高橋智隆【※】さんの話を思い出します。RoBoHoN【※】を作る上で彼が言っていたのは「いかにユーザーの期待値を下げるか」。期待値が下がったところで上に持って行くことで、製品の価値を上げる。今のテクノロジーで完璧を目指すのは無理じゃないですか。

※高橋智隆、RoBoHoN
日本のロボットクリエイター。RoBoHoNやRobi、エボルタくん(パナソニックの電池プロモーション用ロボット)など、数多くのロボットを企業とのコラボレーションで開発。特徴的なデザインを採用するので、彼の関わったロボットはすぐにわかる。記事で出たコメントについては、以下のインタビューに詳しい。
関連記事:これが本当のアンドロイド電話! 「RoBoHoN」誕生秘話(情報元:AV Watch)

モバイル型ロボット電話、RoBoHoN。(画像は公式サイトより)

GOROman:
 要は「ちょっとアホの子にする」ってことですね。

――ロボットとか人的なものって、プレゼンスを出すのがそもそも難しいですよね。「VRの中にキャラクターを出すとプレゼンスが高まる」という第一段階の理解が、まず2年くらい前にありましたよね。でも、その間に、「パーソナルスペースの中にキャラクターがいる」というプレゼンスは作れても、その先の違和感での「剥がれ」を防止できない状況ですよね。

GOROman:
 ですね。アクティブ・インタラクションをすると剥がれてしまう。

――その部分をうめる段階に来たのが今ですが、そのギャップを埋めるのにかなりの時間が必要だ、ということもわかっています。今はその段階ですよね。いわば「片思い」。双方向インタラクション、すなわち両思いは大変だけど、片方が勝手に思い込むぶんには簡単、という。

GOROman:
 妄想のマージンを用意してあげるのも大事なんですよ。写真も同じですよね。いい写真は「引き算だ」と言いますよね。料理写真でも本当に美味しそうなものは、一部に「寄った」写真だったりする。残りを想像させるわけですね。僕も写真が好きなので、そういうことはよく考えるんですが。脳を妄想させるマージンがある瞬間に「いい写真だな」と思う。

 VRでも、そういう「妄想させるマージン」を残すことが、プレゼンスを高めるためには重要なのかな、と思っています。

――Mikulusでの呼吸【※】って、ものすごく難しいことをしているわけじゃなく、ランダムで入れているわけですよね。それでプレゼンスに「コク」が生まれるのも、人間の脳内で「それっぽい期待値が高まる」ことで生まれる、ということですね。

※Mikulusでの呼吸
Mikulusでは初音ミクが呼吸する機能が入っている。これは、人の呼吸のサイクルや動きを厳密にシミュレーションしたもの……ではまったくなく、一定間隔でランダムに呼吸のモーションをしているだけである。だが、人はそこから「人間らしさ」を強く感じる。

GOROman:
 それは2つあります。期待通り時に動く気持ち良さと、期待を裏切る気持ち良さがあって。期待値を高めてネガティブ方向に振ると「怒り」になります。一方で贅沢なことに、期待値通りだとダメなんですね。期待しての意外性が面白さですよね。お笑いもそうですよね。いい方向での期待の裏切り方、ギャップが重要です。

 そこはバランスで、全部のシーンに入れると疲れちゃうんですけど、たまにミクさんが深呼吸すると、「なんか悪いことでもしたのかな」と思っちゃう。その行為になにを思うかは自由なんですけど。いろんな偶然や偶然が重なって、自分がストーリーを作るわけですよね。さっき言われた「片思い」みたいな状態になる。「もしかすると嫌われちゃったかな」みたいな。

 そういう想像の余地などが重要です。だから、そこを明確に定義はしていないんです。Mikulusの更新履歴にも「すごいかわいくなりました」とかしか書いてないんです。どんな改良をしたかは書いてなくて、たまには「ヒミツ」としか書かなかったり。

 それは、受け手が『ドルアーガの塔』の宝探しじゃないですけれど、「なんかあるらしい」という変化を楽しめるはず、という発想なんです。手品のタネは知っちゃうとつまらないじゃないですか。そこに、いかようにも受け取れるマージンを用意してますね。

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