【新連載:中東編】廃課金者は急増、中東が舞台のFPSにも歓喜…アラブの“お前ら”も、意外と人生エンジョイ中?【世界は今日もゲーマーだらけ(メディアクリエイト佐藤翔氏)】

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車で暴走する若者たちが社会問題に!?

――とはいえ、イスラームの戒律の厳しさは、揺るがないだろうとも思うのですが。

佐藤氏:
 もちろん、そうです。
 例えば、現在もサウジアラビアでは映画が法律で禁止されています。ここは議論があって、「映画館は作ってもいいんじゃないか」という意見も出ましたが、やはり男女が一緒の空間で見ることがよくないという判断はあるように思います。実際、現地のイベントやカンファレンスに参加すると会場に男女を隔てる壁があって、女性の写真を撮影でもしようものなら、一発で国外追放です。

佐藤氏も審査員として参加していたアラブのゲーム開発者のコンテスト「Battle Of Games」の様子を、サウジアラビア側主催者が撮影したもの。画面奥に、壁を確認することができる
(画像はBattle Of Games – ArabNet Riyadh 2016より)

――うむむむむ。じゃあ、逆にサウジの若者は何を楽しんでいるのですか?

佐藤氏:
 おそらく私の考えでは――サウジの娯楽って、3つしかないです。
 まず1つ目が。YouTubeで「サウジドリフト」で検索してみてください。サウジの若者の暴走を大量に見ることができます。

――『頭文字D』の世界ですか(笑)。ただ、日本だとよく「若者の車離れ」とか言われますけど、別に他の国では移動手段として「自動車」の存在感は今でも大きいんですよね。

佐藤氏:
 車は、もう大好きですね。サウジなんて道路も広いし、お金と時間をいくらでもかけられますし。
 実のところ、私も長らくサウジドリフトは、単に外の人間が過剰に面白く言い立てているだけじゃないかと思ってたんですよ。ところが現地で話を聞くと、「俺の友達は無免許運転で死んだんだよ…」みたいな話が普通に聞こえてくる。暴走する若者たちが、どうも本当に社会問題になってるんですね。

 そして、2つ目はテレビ番組です。映画館はないですがテレビならOKです。なのでディズニーアニメや日本のアニメはみんな見ています。

――前回、日本のアニメの人気ぶりはたっぷり聞かせていただいたのですが、ディズニーがありなんですか! いや、ついついISIS【※】みたいなイスラーム過激派のイメージが強くて、中東の人って米国文化を嫌ってるのではないか……と勝手に思ってまして。

※ISIS
Islamic State of Iraq and Syria(イラクとシリアのイスラム国)の略称。イラクとシリアで活動するイスラム過激派組織。IS、ISIL、ダーイシュ、イスラム国などと呼ばれる。シリア・アラブ共和国北部の都市ラッカを首都として国家樹立を宣言しているが、外交関係で国家の承認を行った国家はない(2017年7月7日時点)。

佐藤氏:
 いやいや、ディズニーは子供に人気ですよ。本もちゃんとあります。留学している人も多いので、アメリカ文化に慣れている人は多いです。それに映画館がダメなだけで、映画のDVDは普通に売られてますからね。

現地で売られているディズニーの漫画
(画像:編集部撮影)

 で、3つ目が最初にも話したゲームになります。
 つまり、テレビゲーム――この3つがサウジアラビアの若者の娯楽なんですね。

――昔のヤンキー漫画に出てくる不良みたいな生活ですね(笑)。

佐藤氏:
 まあ、サッカーなんかも人気なんですが、どうでしょう。最近は路上を車がバンバン走っていて危険だし、体育館の建設も追いついてない。そういう中で猛暑でサッカーをするより、涼しいクーラーでも効いてる場所で『FIFA』をやってた方がいい(笑)……というのが最近の風潮じゃないかと思います。
 しかも女性になってくると、車を運転することが禁止されていますから、手軽に課金できるモバイルゲームは非常に伸びています。

「2016年12月号の「新興国ゲームビジネスレポート」に載せた、「FIFA」の専用ゲームカフェです。アラビア語にちゃんとローカライズされてますね」(佐藤氏)
(画像:佐藤氏撮影)

市場が急成長中! サウジのゲーム事情

――それでは、そろそろ本格的にサウジアラビアのゲーム事情を訊いていきたく思います。ズバリ日本企業にとって、サウジアラビアっておいしい市場なのでしょうか?

佐藤氏:
 結論から言えば、新興国の中でも、大変に可能性のある市場です。

 というのは現在、ゲームを売る国とゲームを作る国が、世界的に見ると分かれている状況があるんです。その中でサウジは、「ゲームを作る国」としては50も会社がない程度でまだまだなのですが、先ほども話したように「ゲームを売る国」としては有望なんです。

 ちなみに、その逆が東欧ですね。今、世界の国でも間違いなく「ゲーム開発」では最も元気のある地域ですが、人口の増加率が低くて、若者が少ない。しかも、ただでさえ少ない若者は、どんどん西欧に行ってしまう。現地では「50代、60代のマーケットをどうやって取っていくか」という会話もよく出ています。実はマーケットとしては、あまり明るい話はないんですね。

――東欧なんて、いま世界のゲーム産業で最も伸び盛りなので、華やかなイメージがありましたが、確かに人口動態を考えれば今の話は自明ですね……。

佐藤氏:
 ちなみに、そういう意味では「市場と産業のバランス」が良いのは東南アジアです。政府機関がゲーム開発に大きく支援していて、「ファイナルファンタジー」シリーズの映像部分の下請けをマレーシアの企業がやっています。既に東南アジアで350個くらいの会社があって、レベルも上がる一方ですね。ただ、1人辺りのGDPが高い国は、シンガポールなど一部の国家に限られます。

地域別ゲーム市場とゲーム産業の成長期待度(佐藤氏解説)
(表:編集部作成)

 その一方で、インドやパキスタン、バングラディシュといった南アジアでは、開発では成果をあげだしていますが、市場としては、まだまだ難しいですね。インドなんて250も会社があるのですが、電気やインターネットなどのインフラがあまりに整っていないし、一人あたりの所得も非常に低いので、市場としての弱さは否めません。

 中南米なんかは、全体で400個くらい会社があるし、マーケットとしても面白いけど、関税がべらぼうに高い。PS4が10数万円とか平気でする地域なので(笑)。代わりにブラックマーケットが異常発達しています。ポテンシャルはありますが、今後の政策次第ですね。

――そう聞くと、中東に特に注目される理由がわかりますね。

佐藤氏:
 なにしろ、急成長中の市場ですからね。
 特に、ゲームを遊ばなかった女性がスマホを持ちはじめて、どんどんユーザーとして入っているのは強い。そういう下からの活性化に、国家として娯楽市場を上から大きくしていく動きもある地域は、世界でもなかなかないです。それに中東はどの国も豊かです。大きな課金をしてくれる中東のユーザーを獲得して、同じイスラーム圏の北アフリカに攻めていくような戦略も可能になります。
 しかも、日本のコンシューマーゲームへのリスペクトが、中東では大変に強いんですよ。

PS2で時間が止まってる…!? サウジアラビアのゲームの歴史

――それは面白いですね! どういうことなのでしょうか。

佐藤氏:
 サウジで面白いのは、新興国では珍しく、PCゲーム市場が弱いことなんです。
 ラテンアメリカや東南アジアやインドでは、PCゲーム市場が無視できない規模で存在していますが、中東では小さいですね。パソコンの普及率は決して低くないので、インターネットに規制があったのが大きそうです。無論、ネトゲもあるし、ゲーミングPCも売られているのですが、どういうわけか弱いですね。

サウジアラビアで爆発的に普及したというPlayStation 2
(画像はAmazonより)

 逆に家庭用ゲーム機はPS2のときに、もう爆発的に普及しました。ただ、任天堂のシェアは小さいです。Xboxとなると、最近はやや盛り返してはいますが、見る影もないという感じです。
 そういう感じな上に、結構な数の家庭がPS3以降は家庭用ゲーム機をそんなに買ってません。だから、日本のゲームが凄かったPS2の時代の記憶が今なお色濃いんです。

――つまりPS3より前の、日本が「世界一のゲーム大国」だった時代の記憶が上書きされていないんですね。しかし、なんでまたPS2でそんなに普及したんですか?

佐藤氏:
 あまり大きな声では言えないですが、ソフトの海賊版を作るのがPS2は容易だったんですね(苦笑)。

「この写真を見てください。こちらのゲーム販売店の店名が「コルサンゲームス」。コルサンってアラビア語で海賊っていう意味で、昔は海賊版を売ってたそうです」(佐藤氏)「まんまですね」(編集部)「こんな直球な名前の販売店は、僕の知る限り世界中でここだけです(笑)」(佐藤氏)
(画像:佐藤氏撮影)

 これは新興国でPS2が売れまくった、非常に大きな要因です。やはり新興国でのゲームの普及史を見ると、たいてい海賊版が大きな役割を果たしています。残念な話ですけど。サウジも昔は海賊版が多かったですね。今では普通にお金を出して買えるだけ豊かになって、かなり減りましたが。

――PS2って、そんな感じだったんですね。

佐藤氏:
 ただ、遊ばれるゲームの傾向は、やはり西欧諸国に似ています。というのもソニー流通では、「ヨーロッパ+中東+アフリカ」でEMEA(Europe, Middle East and Africa)という一つの地域のくくりなんですよ。

――「ヨーロッパと一緒でええやろ!」って、わりと雑ですね(笑)。

佐藤氏:
 ですから、FPSや戦略シミュレーションは、やはり日本よりも強いジャンルです。欧州からの流通がそのまま中東での流通になっていて、人気がそのまま反映されているイメージです。

サウジアラビアにある任天堂の専門店の外観
(画像:佐藤氏撮影)

 ちなみに、任天堂はシェアこそ少ないですが、しっかりと中東でのゲームソフトや関連商品の流通に力を入れていて、サウジにも任天堂の専門店があります。そもそも、新興国でも一地域に特定のディストリビューターがいる体制が整っていて、そこは任天堂の強みです。サウジで売られているポケモンのパッケージを見てもらうと、UAE、サウジ、マレーシア、シンガポールは同じ会社が扱っているということがわかります。

――ちなみに、サウジのゲーム史ってどんな感じなのでしょうか?

佐藤氏:
 実はサウジにゲームが入った時期そのものは、かなり早いです。
 アラブ人にとって、貿易は昔から重要なビジネスですから、新しいものに触れる機会が多くて、すぐに新しいものを取り入れます。具体的には、最初はAtari 2600【※1】くらいから入ってきて、アーケードもすぐにガンガン入ってきて、NES(Nintendo Entertainment System)【※2】もありました。

※1 Atari 2600……アタリ社が1977年に発売した家庭用ゲーム機。ファミコン以前にアメリカで大ヒットして、家庭用ゲーム機市場の基盤を築いた。発売当初はAtari Video Computer System(Atari VCS)という名称だったが、1982年に後継機種のAtari 5200が発売された際に、Atari 2600に改名された。
(画像はWikipediaより)

 一方で先ほどPCゲームが弱いと言いましたが、この時期にホビーパソコンも入っています。ちなみに、MSX【※3】には湾岸諸国バージョンがあって、現地の会社が作った「サハル(石)」というMSXの現地ライセンス生産版があったんです。

※2 NES(Nintendo Entertainment System)
いわゆるアタリショックの余波で壊滅していた北米ゲーム市場に1985年に投入された現地版ファミコン。これにより北米のコンシューマ市場は息を吹き返す。1991年にはスーパーファミコンの北米版ハード・Super Nintendo Entertainment System、通称SNESも発売される。いずれもカートリッジの形状に日本版との互換性がない。

※3 MSX
1983年に米マイクロソフトと当時のアスキーによって提唱された8ビット・16ビットのパソコンの共通規格。

――結構、ゲームを遊ぶ環境は早くから整っていたんですね。

佐藤氏:
 そこで面白いのが、MSXで結構コナミのゲームが遊ばれていたそうで、コナミのブランドイメージが日本企業の中では相当に強いんです。昔は『FIFA』よりも『Pro Evolution Soccer(PES)』、つまり『ウイイレ』のほうが強かった時代もあります。もちろん、『メタルギアソリッド』も、めっちゃ好きですよ。小島秀夫さんがドバイを訪問したときに、湾岸諸国中から人が集まってきたこともあったくらいです。イスラームの教え的にも、どうやら大丈夫なようです。

「メタルギア」シリーズ監督 小島秀夫が初の中近東訪問

クラスに一人は月100万!? サウジの廃課金者たち

――でも、そういうコンシューマー優位のマーケットに、AppStore以降、一気に新しい波が到来しているわけですよね。たぶん、これはサウジに限ったことではない、世界的な動向だと思いますが。

佐藤氏:
 そういうことですね。一番大きい変化としては、スマートフォンが普及して、新興国でも女性がゲームをプレイするようになったのが挙げられますね。

(画像は『Pokémon GO』の公式サイトより)

 なにせ簡単にGoogleやAppleでゲームがダウンロードできるようになり、やろうと思えばジェイルブレイクやルート化もできる。もちろん非正規の利用ではあるんですが、新興国ではモバイル機器専門のショッピングモールにでも行けば、すぐにやってもらえます。「ポケモンGO」だって、アメリカでリリースされた当初からみんなプレイしていましたからね。
 特にサウジの場合は、4GやLTEも普及しています。そもそもTD-LTEを世界で最初に商用利用したのがサウジです。

――となると、課金はどうなのでしょうか?

佐藤氏:
 平均で1人あたり月間30ドルという数字もあるくらい、廃課金者は確かにたくさんいます。これはサウジだけではなく湾岸諸国で調査しても必ず出てきます。一方、ARPPU(課金者一人当たり平均月課金額)は、ヨルダンのゲーム開発者、Hussam Hammoさんが発表した数字では270ドル(約30000円)ということでした。

Why mobile developers shouldn’t ignore the high-spending Middle East

 僕が新興国に行くときは、ホテルに泊まらずに一般の家庭に泊めてもらうんです。そうして、家族に色々と話を聞くのですが、だいたい子供のクラスメイトに1人くらい、月100万円とかとんでもなく課金しちゃってる人がいます。

――まじすか(笑)!

佐藤氏:
 そういう現地調査をすると、モバイルゲームの勢いを実感できますね。
 だって以前に調べたときなんて、クラッシュオブクラン』【※】のトップ5のクランのうち、3つがアラブ系でしたから。

※クラッシュオブクラン……2012年からSupercellによって開発、運営されているスマートデバイス向けのオンラインストラテジーゲーム。自分の村を発展させつつ、資源調達のために、他プレイヤーの村を襲撃したりする。世界中にプレオヤーがおり、クラン戦も白熱している。
(画像はGoogle Playより)

――それはヤバいですね(笑)。でも、そうなると中東の市場は、世界中の企業が狙っているように思うのですが……。

佐藤氏:
 まず、かなり真剣に目を付けているのが中国企業です。
 中国語の海外進出レポートを読むと、必ず中東の話は出てきます。韓国でも、ちょくちょく話は出ているようです。欧米企業も、アブダビにオフィスを持ったり、ローカライズ戦略を進めたり、ここ数年でずいぶん中東への進出が増えています。

――ううむ……では、日本はどうなのでしょうか。

佐藤氏:
 出遅れています。でも、僕はまだまだ諦める必要はないと思っていて、むしろチャンスはあると思いますよ。

 まず、先ほども言ったようにPS2の印象が強いので、まだまだ日本のコンシューマーゲームへのリスペクトがあります。
 それに前回にもお話ししましたが、やはり80年代~90年代に放映されていた日本のアニメは人気が高いです。『キャプテン翼』は、向こうでは「キャプテン・マージド」という名前で親しまれている、ダントツの知名度のアニメです。『一休さん』も、とんでもない人気です。それに『UFOロボ グレンダイザー』【※1】や『恐竜大戦争アイゼンボーグ』【※2】も、いまだに人気です。

※1 UFOロボ グレンダイザー
『マジンガーZ』、『キューティーハニー』などを手がけた永井豪氏原作のロボット漫画、及びそのアニメ作品。アニメは1975〜1977年の間、フジテレビ系列で放映されていた。本作はヨーロッパや中東でも非常に高い人気を誇っており、海外で「日本アニメ」が広く認知されるきっかけを作った作品のひとつ。

※2 恐竜大戦争アイゼンボーグ
1977〜1978年の間東京12チャンネル(当時)で放映されていた、円谷プロダクション制作の特撮・アニメ番組。「円谷恐竜三部作」と称されるシリーズの第2作目で、キャラクター部分はアニメ、恐竜や巨大ヒーローの活躍場面は特撮で撮影された。

――なんでそんな作品が……(笑)。

佐藤氏:
 サウジは90年代、まだ娯楽が車とテレビしかなかったんです。しかも、番組の数も不足していました。その時代に、日本から買い付けて、アラビア語にきちんとローカライズした日本のアニメがたくさん放映されていたことで、絶大な影響力を誇るようになっています。

 ただし残念なことに、最近の日本のアニメはローカライズされていません。知っていても若者やマニアックなアニメ好きといった、コアな層に限定されている状況です。

――それって、やはりある時期以降の深夜アニメが、日本の文脈に寄りすぎだったのも大きいんでしょうか……。アニメ製作にまで、いよいよ海外資本の話が来だしているので、最近は少し状況が違うかもしれませんが。

佐藤氏:
 そうですね。2016年の12月に現地で買ったオタク系雑誌で、アラビア語で『文豪ストレイドッグス』【※】が特集されていて驚きましたよ。ただ、どうしてもコアな層向けなのは否めませんね。

※文豪ストレイドッグス……朝霧カフカ原作、春河35作画による日本の漫画作品、及び小説やアニメなど作品群の総称。漫画は2013年より「ヤングエース」にて連載開始した。太宰治、芥川龍之介といった文豪がキャラクター化され、「人間失格」、「羅生門」といったそれぞれの文豪の作品名を冠した異能力を駆使して戦うアクションシリーズ。
(画像:編集部撮影)

 ここはシリア紛争の影響もあるかもしれません。アラブ圏ではシリアの会社がアニメの吹き替えをやっていて、そのクオリティが非常に高かったことが大きかったという話を聞いたことがあります。

 ちなみに、漫画はあまり読まれていません。日本人には分かりづらいところですが、向こうでは紙が高いんですよ。漫画は紙媒体なので物流が重要で、紙をヨーロッパから輸入するとコストが高いんです。
 ただ、北アフリカのモロッコ辺りになれば、フランス語圏なのでフランスから流れてきた漫画が充実しています。なぜか『神の雫』【※】というワインの漫画がイスラーム圏なのに売られていて、面白かったですね。

※神の雫……2004年に「モーニング」(講談社)で連載が始まった日本の漫画。原作:亜樹直、作画:オキモト・シュウ。さまざまなワインが登場し、初心者にも分かりやすく描かれている。
(画像:佐藤氏撮影)

――それは面白いですね(笑)。しかし、90年代以前のオタク文化であるとは言え、日本のコンテンツにリスペクトがあるのなら、それを使わない手はないですね。

佐藤氏:
 そうですね。今からでも現地での繋がりを作らなければいけません。政府とのコネもそうだし、ユーザーを理解することもそうで、これを上手く繋げていけば日本にもチャンスは残されています。
 アラブには新興国のマーケットで必ず登場してくる「華僑」【※】が少ないんですよ。これも華僑には慣れていない、日本人に強みだと思いますよ。

※華僑
中国国籍を保持しながら外国に移住した中国人またはその子孫。正確な数は把握されていないが、世界の華僑人口は2000万人に上るという。ユダヤ商人、印僑(インド商人)と並んで“世界3大商人”と言われている。

――「華僑」って、ノワール小説【※1】とかVシネ【※2】に出てくるくらいのイメージで、あんまり馴染みがないんですよね。大変に貧困なイメージで申し訳ないですが……(笑)。

※1 ノワール小説
暗黒小説とも呼ばれる。犯罪小説のジャンルの一つ。主人公が犯罪者、ファム・ファタールと呼ばれる悪女が登場する作品が多いなどの傾向がある。もとは、ハリウッドで20世紀前半に作られたフィルム・ノワールと呼ばれる作品群や、米国のパルプ小説でジム・トンプソンのような作家が発表していたような作品に影響を受け、第二次世界大戦後にフランスで書かれたミステリ小説群の呼び名からきたもの。

※2 Vシネ
東映Vシネマ。1989年より東映ビデオ株式会社が制作・発売を開始した、劇場公開を前提としない、レンタル向けの映画。ハードボイルドタッチの作品に始まり、極道ものやギャンブルものの作品が多い。

佐藤氏:
 こういうマイノリティのネットワークは、意識して観察しないと分かりませんからね。でも、ゲームの流通などを見るとき、このマイノリティのネットワークはものすごく重要です。そこは次回、ブラックマーケットについてお話する際に、たっぷりと話しましょう。

 実際のところ、華僑たちは既に東南アジアやアフリカでは、かなり活躍しています。ところが、中東にはなぜかいない。私も理由を考えてみたのですが、どうもイスラーム圏が豚肉とお酒がNGなのが大きいように思うんです。中国人は「飲みニケーション」を大事にするし、豚肉の中国料理も多い。つまり「華僑の得意技」が使えないんです。

現地雑誌での『ONE PIECE』特集
(画像:編集部撮影)

イベントにサウジの国王陛下が直々に登場!

――そういえば、最近サウジアラビアの王族やビジネスマンが日本に1000人ほど来たという話が、ずいぶんニュースになっていましたよね。なんでもサウジアラビアのサルマン国王が46年ぶりに来日し、日本に技術協力や投資を求めたと聞いています。

佐藤氏:
 彼らと日本のあらゆる業種の会社のビジネスマッチングイベントが都内で開催されたのですが、私はその中のひとつ「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム」というイベントに出席していました。

 ちなみに、このイベントでは最後の交流会で、やけに物々しく金属探知機などが出てきたんです。何が起きるんだと思っていたら、なんと国王陛下がサプライズで直接いらっしゃって……あれは本当にびっくりしました。まあ、日本人以上にサウジ人がびっくりしてましたけど(笑)。普通のビジネスミーティングの場ではなかなかお目にかかれないですからね。それだけ王室サイドも熱を持っているあらわれです。日本の世耕経済産業大臣とサウジアラビアの複数の大臣も出席していました。

サルマン国王訪日、日本との経済関係強化に期待-東京で「ビジョン2030ビジネスフォーラム」開催-

――おお、サウジアラビア政府としても、日本に興味を持っているのですか。

佐藤氏:
 このイベントの目的は、サウジアラビアが2030年に向けて打ち出した経済改革プラン「ビジョン2030」【※】が、日本企業にどんなビジネスチャンスがあるかを伝えるものでした。
 もちろん、彼らの日本への興味は、まずは「お得意様」であるところの石油ビジネスのパートナーです。ただ、この「ビジョン2030」は石油ビジネスでやっていく限界を踏まえて、「脱石油依存」を目指したプランです。ここで「国民の娯楽文化消費を、2030年までに家計支出費の2.9%から6%に倍増させる」という目標を掲げているんです。

 その中でICTセクターでも日本に興味を抱いていて、特に注目している分野として「ゲーム産業」が挙げられていたんです。ゲームが、IT産業であると同時に文化振興にもなるジャンルとして捉えられているんですね。

※ビジョン2030
2016年4月25日にサウジアラビア政府によって発表された、同国の経済改革計画。2030年までに従来の石油依存型の経済から脱却し、観光や製造業、物流といった経済の多角化をめざしている。「活気ある社会・盛況な経済・野心的な国家」の3本柱を掲げている。

――まあ、ゲーム産業も広義のIT産業ですからね。しかも、日本のプログラマの層の厚みって、実はかなり子供の頃からゲームで遊んできた影響が大きいと思います。

佐藤氏:
 そうです。ゲームの周辺からは優秀な人材が輩出されてくるんです。
 IT産業として、波及効果が非常に大きいんですね。ゲームを中心としてITの人材が育つし、良いゲームを出すことで国家のアピールにもなる。ですから実は今、いろんな国でゲームの振興政策が行われ始めています。サウジの場合は、そこで特に市場をアピールしていたのは面白いところですが。

――ただ、政府が興味を持つというのは、わりとレーティングとかの面で諸刃の剣のような気もしますが。

佐藤氏:
 そのとおりですが、この状況は日本の企業にとって、チャンスなんですよ。
 だって、これまでは基準も分からないまま、発売できない作品も多かったんです。でも、こういう動きになれば、こちら側から合理的な新たな基準を要求することができる。この動きにうまく乗れば、日本企業のゲームがアプリストアでトップに来るようなチャンスもあります。

――政府が日本企業に興味を持っているチャンスでもあるわけですしね。

佐藤氏:
 ええ、そのとおりです。
 ただ、サウジは他の中東諸国と比べてもビザが取りにくくて、「世界一入国しにくい国」と言われることもあります。やはり本格進出には、現地のユーザーさんと現地のマーケットをきちんと見ることが大事になります。そういう部分で、我々メディアクリエイトも、ぜひお手伝いできればと思っています。

――今日は、リアルなムスリム圏の解説を聞けて、本当に面白かったです。過激派だのテロだのという単語が全然出てこない、この文化圏の解説を初めて聞いた気がします。次回もぜひ、こんな感じで僕らの「偏見」をぶっ壊してください!(了)

 佐藤さんによるサウジアラビアのお話、いかがだっただろうか。ゲームが娯楽の中で大きな割合を占め、意外と許可されているゲームが幅広いなど、なかなか知ることのできないゲーム事情が垣間見えたのではないだろうか。
 ちなみにここだけの話だが、電ファミでは佐藤さんの仲立ちで、先日サウジアラビアの政府関係者と会合の場を持つことができた(!)。どういう話をしたのかは秘密だが、何か楽しいことが起こればと思う。

 さて、次回の連載では、密輸品や海賊版など怪しげな取引が横行している「ブラックマーケット」を取り上げる。世界のゲーム流通の全貌を知るには、クリーンなマーケットだけでなくこういったマーケットを観察することも必要だ。
 南米、東欧、東南アジア……。世界で100ものゲーム関連のブラックマーケットを把握し、危険を冒して現地に足を運んできた佐藤さんにしかできない、強烈なお話を楽しみにしていよう。

関連記事:

「ムスリム圏でポケモンGO禁止はウソ」 ヨハネスブルグまでも実地調査した男が“その目”で見てきた、新興国のゲーム産業やブラックマーケットの実態とは?

インタビュアー・著者
ライター・編集者。
Twitter:@jamais_vu
インタビュアー・著者
電ファミニコゲーマー編集部員。映画を観るのとアナログゲームをするのが好き。
Twitter:@_k18

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