実写版『アイドルマスター』を3周した男の告白、私たちは既に「アイマスKR」の登場人物だったのです──過酷なアイドル・サバイバルの裏で崩壊する“第四の壁”

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『アイマスKR』が誕生するまでの実話

 ここからは、『アイドルマスター.KR』というドラマがどのようにして誕生したのか説明しましょう。これはフィクションではなく、現実世界でのお話です。

 2016年某日。韓国某所にあるスタジオの一室に、韓国各地から19名の少女達が集められていました。彼女たちをここに集めたのは、『アイドルマスター.KR』の制作スタッフ。そして彼女たちこそ、この革新的なドラマの為に立ち上げられる新生アイドルグループ「RealGirlsProject」、そのメンバーとして集められた19人の夢見るアイドル練習生達でした。

 ドラマの制作前からアイドルを目指し続けてきた不遇のアイドル練習生達。何の経験もない素人にグループが解散して行き場のなくなった練習生。『THE IDOLM@STER』の原作が好きな女の子に、既に海外でデビューを果たしているユニット。彼女達はそれぞれ異なる理由でこの場所に集まってきましたが、全員が胸に同じ夢を秘めた仲間同士でもありました。それは、「アイドルになりたい」という強い夢。

 しかしながら、「アイドルになりたい」という夢を持っている以上、彼女達は仲間でありながら、ライバルにもなってしまいます。ここに集められた19人の中から実際にデビューすることが出来るのは、成績上位のたった10名。それもドラマの制作スタッフ曰く、練習成果は動画サイトで定期的に公開され、誰がデビューするのかは「ファン投票によって決定される」と言うではありませんか。

 2016年5月から、19名のメンバーは「A Team」「B Team」に分けられ、数か月にわたる厳しいサバイバルを戦い抜くことになりました。2016年8月にデビュー予定の、「RealGirlsProject」というアイドルグループという10名の枠に滑り込むために。

 そんな彼女たちの「RealGirlsProject」の最初にして最大の仕事が、『アイドルマスター.KR』というドラマへ出演することだったのです。

 ……そうです。この『アイドルマスター.KR』というドラマは、ドラマで描こうとしていた「過酷なサバイバルを経てアイドルグループがデビューする」という架空のシンデレラストーリーを、まず一度、現実で本当に実行してしまっているんです。

 ドラマより先にサバイバルを経験したアイドル達は、ドラマより先に団結し、衝突し、相談し、既に一歩一歩前進を果たしてきました。そうして現実に行われてきた彼女達の現実の物語をベースに、このドラマの架空の物語は作られました。

 過酷なサバイバルを勝ち残ったアイドル達は、自分自身の名前でこのドラマに出演しています。そして、現実に起きていたであろう喧嘩・対立・嫉妬とよく似たストーリーの喧嘩・対立・嫉妬を、ドラマの中でもう一度演じるのでした。

 それを知って以来です。このドラマの中で行われている全ての出来事が、現実なのか架空なのかの判断がつかなくなってしまったのは。

そしてドラマに関わる現実の全てが、ドラマの設定の一部にしか見えなくなる

ユキカ(寺本來可)

 例えば先ほどのユキカ。作中でMVの役を取り合う時に、「ユキカは声優をやった経験があるんだよ」という台詞を言うんです。聞いた瞬間、愕然としました。ドラマの中のアイドル達はポカーンとしていましたけど、私にはその意味が分かってしまったから。だってこのユキカ、日本じゃ『ぎゃる☆がん』の声優さんとして知られていた人だったから……!

ハソ(クォン・ハソ)

 もうこうなってくると、ドラマに関わる現実の全てが、ドラマの設定の一部にしか見えなくなってくる。アイドルが心労で倒れたエピソードにしたってそうです。ドラマでは「テリ」というアイドルが倒れたはずなのに、現実では「ハソ」というアイドルがサバイバル中に倒れたニュースが出回っていた。い、いや……ごめんなさい。このドラマは現実じゃないんですから、実際に倒れたのはハソです。ハソなんでしょうけど、もうドラマを架空の話として見る事が難しくなってしまって……!

ソリ(キム・ソリ)

 また、メンバーの中で最年長のソリは、ドラマ内でもメンバー最年長のアイドルです。最年長のキャラクターという立場上、もちろんドラマ内では他のメンバーを気遣うお姉さんのような役回りを任されています。最年長であるからこそ「その年齢でまだアイドルを目指しているのか」といった類の中傷も受け、ドラマ内でも夢と現実の狭間で揺れる彼女の微妙な心情が描かれます。ある意味では……架空のお話としてはとてもベタなキャラクターで、お約束の展開だと言ってもいいでしょう。

 しかし彼女は架空のアイドル「ソリ」でありながら、現実のアイドル「ソリ」でもあります。現実に行われたサバイバルでも、彼女は他のメンバーを気遣うお姉さんのような役回りでした。では、作中に出てくる「私なんて来年は28歳よ」という自虐的な彼女の台詞には、どこまでが現実で、どこまでが架空なんでしょうか。いや、こんなものは物語上の台詞に決まってる。決まってるんでしょうけど、私にはもう、そんな気持ちでこのドラマを見ることが出来なくなってしまったんです……。

つまり『アイマスKR』とは、ファンが物語に介入できるドラマ

 『アイドルマスター.KR』の製作陣は、そういうファン心理をよく分かっているのでしょう。それを分かっているからこそ、架空の中に巧く現実を織り交ぜてくる。推しのアイドル同士がイチャイチャしているシーンを「これは現実にあったことかも!」と思いながら見られるのは幸せですよ。現実のアイドル達のSNSを確認したら、本当に彼女達が相互フォロワーになっていることもある。幸せ。超幸せ。

 そして先ほども言った通り、このドラマは面白い。面白すぎるんです。ドラマが面白いという事は、辛い出来事が毎回のように起きている裏返しでもある。ドラマ中でアイドル達が誹謗中傷を受ければ、「もしや実際にあった誹謗中傷なのか…?」と気が気でなくなる。ドラマ中でアイドル達が現状を嘆いているのを見れば、「そんな辛い台詞を言わせないでくれ…」と目を覆ってしまいそうになる。

 製作陣は、本当によく分かっているんでしょう。そんなシーンを目の当たりにしたとき、ファンがどんな心理に陥ってしまうのかを。簡単な話です。架空の世界で登場人物がどれだけ苦しんでいたところで、現実にいる私達には彼らを何一つ助けてあげる事は出来ない。だって、ドラマは作り話なんだから。架空の物語に現実の存在は介入することは出来ない。それは、当たり前の話なんです。

 でも仮に、それが可能だとしたら……どうですか? 架空の物語に、現実の私達が介入できるんだとしたら。現実にいる私達が、架空の登場人物が困っている時に、手助けをしてあげられるんだとしたら。やるでしょ。そりゃやりますよ。だって出来るんですもん。この『アイドルマスター.KR』なら。このドラマでなら、現実にいる私達にも、架空のアイドル達の物語に介入することが出来てしまうんです……!

 だって、日本1stライブの客席の映像が、ドラマ本編の1カットとして使われてしまったあの時から、現実の存在であるはずの私達ファンは、既に『アイドルマスター.KR』というドラマの世界の登場人物なのだから。

 こうして思えば、『アイドルマスター.KR』というドラマは最初から、私達ファンが物語に介入してしまえるように作られていたドラマでした。

 そもそもドラマに出演する「RealGirlsProject」のメンバーを選んだのだって、現実に存在する私達の人気投票です。架空のドラマ『アイドルマスター.KR』は彼女達のデビューまでの軌跡を描いた物語なので、こうして現実にデビューを果たして活動している「RealGirlsProject」は、事実上、架空のドラマの延長線上にある物語を今もなお演じ続けているキャラクターだということが出来ます。

 だから『アイドルマスター.KR』には、まだレビューを書くことは出来ません。何故ならこのドラマで描かれたのは「アイドル達のデビュー」までで、デビューした後の結果はまだ確定していないから。このドラマのエンディングの意味は、現実で活動を続けている「RealGirlsProject」が成功するか失敗するかによって、ハッピーエンドだったことにもバッドエンドだったことにもなってしまいかねないからです。

 委ねられているんです。私達の手に。ドラマの結末が。「RealGirlsProjectというアイドルグループのファン」という登場人物の一人として、私達はドラマの物語に介入することが出来る。このドラマをハッピーエンドで終わらせたいと思ったのなら、「彼女達はデビュー後に大人気アイドルになった」という筋書きを実現するために、私達は、自らの手で彼女達を応援して現実を変えることが出来る。

ただ見守っていて 私の人生の主人公は私なんだから

날위해태양은뜨고지고 하루를선물해줘

私のために太陽は昇り 今日という日を贈ってくれるわ

 

눈부신햇살 발걸음위로하나둘쌓여만가

眩しい陽射しは一歩に二歩と足跡の上に積もっていく

 

하얗게펼쳐있는세상에 내꿈을멋지게그려놓자

広大な白い世界に 私の夢を描きあげよう

 

시작해 난할수있어

始めよう 私はできる

 

남이정해놓은틀안에 갇혀서살긴싫어

他人の決める限界の中に 囚われて生きたくない

 

난누구보다 더자유롭게하늘을날고싶어

私は誰よりも自由に空を飛びたい

 

단하나보석처럼반짝일 그빛이되려고노력할래

世界で唯一の宝石のように輝く 光になれるように頑張るわ

 

시작해 난할수있어

始めよう 私はできる

 

지난시간들과 눈물은내게용기가되어

過去と涙は私に勇気を与えてくれる

 

힘내라말해 끝까지멈추지않을테니

応援して 最後まで止まりはしないから

 

내모습지켜봐줘 내삶에주인은나야

ただ見守っていて 私の人生の主人公は私なんだから

 こうして改めて韓国版「THE IDOLM@STER」の歌詞を読み返してみると、『アイドルマスター.KR』は確かに、この歌詞通りのアイドル像を存分に描き切ったドラマでした。二度と味わえないほどには、このドラマの物語の展開の凄まじさは初見の心を揺さぶりました。ドラマの大筋は「アイドル達のデビューまでの奮闘を描いた青春ストーリー」と説明しても間違いないとは思うんですが…、この歌の歌詞通り、それはもう「過去と涙が勇気を与えてくれる」物語が繰り広げられるんですよ…!

 実写化作品だからこその試みだったのかもしれません。尋常じゃないんです。アイドル達に襲い掛かるトラブルの質と量が。所属している事務所の倒産、仲間だったはずのアイドルの裏切り移籍、そこからアイドル同士の生々しい喧嘩がはじまり、「用なしのゴミだって自覚したらどう?」との煽りを受け、ゴミ箱の中身をぶっかけての喧嘩別れで終わる。これが第一話、私が目の当たりにした初めてのアイマスKRで、たった10分の間に行われた出来事でした。

 アイドル同士の嫉妬、芸能界の確執、騒ぎ立てる世論の醜さ……。このドラマは全編を通し「現実感のある揉め事」を描くのが上手い一方で、それを「退屈させない」ように描くのがもっと上手い!
 全24話という長丁場のドラマですが、途中でダレてしまうことは一切無いので安心してください。次から次へとトラブルが絶え間なく発生し、そもそも緊張の糸が途切れるシーンがほとんどありませんからね。

 「ただ見守っていて 私の人生の主人公は私なんだから」──アイドル達は第一話から団結の為に手を取り合おうとしますが、彼女達の足並みはことあるごとに乱れ、何時も必ず窮地に追い込まれます。大丈夫、安心してください。彼女達は成長します。大丈夫、安心してください。回を重ねるごとに発生する問題の規模は大きくなり、彼女達の成長を上回る問題が最終回まで延々と生まれ続けますから!

 『アイドルマスター.KR』

 本当に、恐ろしいドラマです。作中の世界と現実の世界が、あまりに地続きに結びつきすぎている。1話1話をかけてたっぷりと、私達にアイドルが奮闘する様子を見せつけてくる。彼女達はみんな一癖二癖ありながらも可愛いアイドルばかりで、ドラマの中で苦労を見せつけられている分、否が応でも応援したくなってしまう。

 そして24話を楽しく見終えた時、気付かされてしまうんです。「RealGirlsProject」が、ドラマの延長線上として現実に存在しているように。自分達もまたドラマの延長線上として現実に存在していて。劇中であれだけ苦しんでデビューまでこぎ着けた彼女達を、自分達は今、現実で応援することが出来てしまうことに。

 さて、改めて皆さんにお願いがあります。一話だけでいい。いや、やっぱり全話見て欲しい。いっそ全話見た上で、DVDも買ってほしい。ほんの少しだけでもいいんです。私と一緒にこのドラマを「ハッピーエンド」へと導いてくれませんか。

 いいんです。いい。とりあえず、見ましょう。見れば分かる。見れば分かるんです。ドラマの中で頑張るアイドル達を見て、彼女達を自らの手で応援することが出来ると知ったら、きっと皆さんだって今の私と同じ気持ちになる。

 私を信じて、『アイドルマスター.KR』というドラマを見てくれませんか。

 本当に、本当の本当に、このドラマは本当に……面白いんですから!!!

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc. & IMX, Inc

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著者
ゲームストリーマー。『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』で作家デビュー。ゲームコレクターとしても活動しており、ニューメキシコ州はアラモゴードに実際に埋められていたATARI 2600の『E.T.』や、中国で国辱と呼ばれているMS-DOS用ソフト『血獅』などを所有。古今東西の低評価ゲームを探しては再評価する活動を続けている。
Twitter:@KgPravda

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