刀剣男士が“人の一生に寄り添う“物語──じんわりと心があたたまるミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年の子守唄〜【ゲネプロレポート】

 刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』(DMMゲームズ/Nitroplus)【※】を原案としたメディアミックスが大きなムーブメントを巻き起こしている。

※「刀剣乱舞-ONLINE-」
DMM ゲームズとニトロプラスによる、2015年1月14日にサービスを開始したPCブラウザゲーム。2016年3月にはスマホアプリ版も開始され、現在好評配信中。名だたる刀剣が戦士の姿となった「刀剣男士(とうけんだんし)」が歴史の修正を目論む敵“歴史修正主義者”と死闘を繰り広げていく。メディアミックスも盛んに行われ、2015年10月にミュージカル『刀剣乱舞』が開幕、他に舞台、TVアニメ、映画など様々なメディアで展開している。

 『刀剣乱舞-ONLINE-』に登場する“刀剣男士”が広く知られることとなったのは、なんといっても、平成最後となった「第69回 NHK紅白歌合戦」(NHK総合/2018年12月31日放送)の企画コーナーに出場した、ミュージカル『刀剣乱舞』の刀剣男士の勇姿だろう。

 まさに、『刀剣乱舞』に世間の注目が集まっている今、満を持して、2019年1月20日に初日を迎えたのがミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年の子守唄〜だ。

出演:崎山つばさ(石切丸役)、荒木宏文(にっかり青江役)、太田基裕(千子村正役)、spi(蜻蛉切役)、横田龍儀(物吉貞宗役)、牧島 輝(大倶利伽羅役)/鷲尾 昇(徳川家康役)、大野瑞生(松平信康役)、中村琉葦(竹千代役 ※Wキャスト)、川尻拓弥(竹千代役 ※Wキャスト)、高根正樹(吾兵役)ほか/演出: 茅野イサム、脚本:御笠ノ忠次、振付・ステージング:本山新之助

※ミュージカル『刀剣乱舞』
2015年10月ミュージカル『刀剣乱舞』トライアル公演をかわきりに、これまでにシリーズ5作品が上演されている。ミュージカルとライブの二部構成という特徴を持っており、1部のミュージカルでは、歴史の戦場を舞台に刀剣男士が激しく闘う重厚な歴史ドラマが描かれている。2部では、オリジナルの衣裳を纏った刀剣男士がきらびやかなライブを繰り広げる。音楽活動も盛んに行われており、2017年9月27日に発売した4thシングル『勝利の凱歌』(刀剣男士 formation of 三百年)は週間チャートでも1位を獲得。その後も発売の都度、チャートの上位をにぎわせている。

 本公演はミュージカル『刀剣乱舞』(以下、『刀ミュ』)シリーズ3作目として2017年春に上演された演目の再演。演出の茅野イサム氏は囲み取材で「間違いなく『刀ミュ』のレベルをぐっと押し上げてくれた作品です」と語り、「出演者の経験の深さやスキルの高さが大きかったのですが、スタッフの技術の向上も大きかったと感じていて、この作品があったことで、『刀ミュ』のハードルがあがり、“これを超えていかなければならない”という思いがその後の作品へとつながりました」と明かしている。

 さらに、「昨年末の紅白歌合戦を経て、2019年は『刀ミュ』第二章の始まりです。その最初をこの作品で飾ることができることをうれしく思います。台本は変わっていませんが、演出は大きく変わっていて、ひとりひとりの役作りに関してもよりいっそう深まっているので、楽しみにしていてください」と自信をのぞかせた。

 そこでミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年の子守唄〜、2019年再演のゲネプロの模様をお届けしよう。

取材・文/おーちようこ
撮影/武田真由子


“歴史を守る”ため人の人生に寄り添った刀剣男士が得たものは?

 物語はとある本丸の日常から幕を開ける。なにやら手帳に書き付ける石切丸(崎山つばさ)。それは今回の出陣を記録に残そうという思いから。その書き始めは新たな刀剣男士が本丸に顕現した日からだった──その刀剣男士とは千子村正(太田基裕)。

 披露される曲『脱いで魅せまショウ』で文字通り、妖艶な歌と踊りで客席を魅了。その後も独自の立ち位置と距離感で、妖刀としての自身の在りようを表現する。そんな千子村正 を「誤解されやすいが、悪いやつではない」とフォローする蜻蛉切(spi)の姿からは、生真面目さと実直さがにじみ出ている。

 そんな折、天文11年12月、三河・岡崎城付近での遠征任務から戻る道中だったにっかり青江(荒木宏文)と大倶利伽羅(牧島 輝)は、歴史を変えんとする時間遡行軍の襲撃に遭遇する。
 2振りが城内へと向かうと、徳川幕府の誕生に貢献することとなるはずの松平軍の重臣たちが時代遡行軍と乱戦し、次々に討ち死にしていた。助けに入った2振りは松平広忠たちの最期に立ち会い、彼が守り抜いた赤子を託される。

 なんと、その赤子こそ、のちに徳川家康となる竹千代だった……! かくして刀剣男士たちは、時間遡行軍によって歴史から消された家臣と成り代わり、“歴史を再現、再生するため”江戸幕府誕生させる希望である竹千代に寄り添い、その生涯を見届けることとなる。

 本作の見どころは、なんといっても、刀剣の付喪神である刀剣男士たちが子育てに奔走し、ひとりの人間に寄り添い、ときに喜び、あるいは哀しみ、激しく心を動かす姿。

 かつて、にっかりと笑った女の幽霊を斬ったという逸話を持つ、にっかり青江は 、命を落とした酒井忠次に成り代わり、赤子の成長を見守る。
 赤子の柔らかな感触を初めて知り、驚きに顔を輝かせ、乳母車にのせあやしながらも不思議そうに赤子を見つめ、笑みを浮かべる。演じる荒木宏文は、自分の中に少しずつ生まれる“人の成長を愛でる喜び”をふとした表情や視線のゆらぎ、声色で好演。

 一方、服部半蔵として竹千代に仕えることを選んだ石切丸は、同じ部隊の刀剣男士にすら伝えていない“ある覚悟”があった。それは、家康の長子、松平信康が辿る悲劇の最期を自らの手で行うということ。

 父に切腹を命じられ、その介錯を服部半蔵が担うという歴史を知っているからこそ、服部半蔵に成り代わる。御神刀として人々の暮らしに寄り添い過ごしてきた石切丸。だからこそ演じる崎山つばさのはっとするような美しく穏やかな笑顔がより一層、切ない。

 任務を受けながらも、「慣れ合うつもりはない」と距離を置いていた大倶利伽羅は、百姓から武士を目指す兵の熱心さに感銘を受けた竹千代の口添えにより、兵に剣術を教えることになるが……。
 戦乱の世で兵の命が奪われるのを目の当たりにしたとき「だから慣れ合いたくなかったんだ」と、小さくつぶやく姿に、はっとさせられた。

 演じる牧島輝は初日会見で「初出陣で緊張している」と語っていたものの威風堂々とした存在感とともに、孤高の刀剣男士を熱演。

 徳川家に仇なす存在として語られる“妖刀伝説”をもつ千子村正は、自身が「妖刀だから」という理由で、竹千代を育てる刀剣男士を見守るだけにとどまり、真面目に任務に就く刀剣男士たちにしばしばちょっかいを出す。

 ことあるごとに「脱ぎまショウか?」と手合わせを申し込んでは大倶利伽羅に無視され、蜻蛉切に叱られて、その掛け合いに客席からは笑いが起こり、場を明るくしてくれる。

 最初は距離をおいていた千子村正が、ある日、井伊直政として歴史に参加することを選ぶ──それは、人の成長に寄り添う刀剣男士たちに感化されたからだろうか。

 その変化を、演じる太田基裕はにぎやかなやり取りのあとにふと見せる鋭い眼差しといった繊細な演技で、言葉よりも如実に伝えていた。

 かつての主・本多忠勝として徳川家康のそばに侍ることを「畏れ多い」と恐縮していた蜻蛉切。生真面目な蜻蛉切だからこその在りようだが、物吉貞宗から“代わりが務まるという思いこそが奢りであり、そのままで忠勝への思いをぶつければいい”と発破をかけられ、自身がここで活躍しなければかつての主の活躍が歴史に残らない、と気付いて単身敵陣に飛び込み大活躍を見せる──その誠実な姿を快活に演じたのはspi。主を思うがゆえの奮闘は華麗にかつ荒々しく、朗々と歌われる『ただ、勝つために』とともに観客の心は踊り、奮い立つ。

 しかし、そんな彼を思うからこそ戒めるのが、徳川家康(鷲尾 昇)だ。無茶をするなとたしなめ、平穏の世を望み、繰り返し「死ぬな……」と周りの者に告げる。その姿からは、家康が幼き竹千代当時から刀剣男士たちによって大切に育まれたことが伺える。

 6振りの刀剣男士のなかで真っ先に残された赤子が後の徳川家康となる竹千代だと気付いたのは物吉貞宗だ。家康が愛刀として常にその懐に帯びていた刀だけに、残された赤子の行く末を思い鳥居元忠としてそばに寄り添い、その人生を見守り、家康の最期を看取る。

 にこにこと微笑み、「幸運を運ぶ」とされた脇差・物吉貞宗を演じるのは横田龍儀。誰よりも家康の成長と活躍を喜ぶ姿は微笑ましい。けれど優しいだけでなく、刀剣男士として責任を果たそうとする芯の強さも見せる。

 赤子をあやすときに歌われる『瑠璃色の空』をはじめ、『希望の源』『かざぐるま』など、同じ楽曲がたびたび歌われるが、場面によって、歌う刀剣男士によって、あるいは歌い方によって、伝えられる思いが次々と新たに描かれる。歌に思いを乗せ客席へと届けられるのは、ミュージカルならではの醍醐味だ。

 本作で描かれているのは、歴史を題材にした、人と刀剣男士が紡ぐ物語。
 印象的だったのは、年を取り老いて死にゆく「人」がそれぞれの年齢にあった俳優により演じられていることに対し、その人生に関わる刀剣男士たちが変わらぬ姿で真摯に在ることだ。“人”と触れることで、刀剣男士がその内面を変化させていく姿にじんわりと心があたたまる。

 作中では、長い任務を終えた刀剣男士たちがそれぞれになにを得たのか、語られることはない。けれど、その表情は実に晴れやか。しばし訪れた平穏な日常で、石切丸がつづる記録が誰かに読まれる日は来るのだろうか──。

 第1部がミュージカル、第2部がライブという構成で届けられる本作。1部で繰り広げられた刹那の物語とは打って変わって、第2部はオリジナルの衣裳を纏った刀剣男士によるライブが存分に披露され、幸せな空間が劇場に広がった。

 ミュージカル『刀剣乱舞』は、2019年に初演より4周年目を迎えることとなる。しかし、いまだその熱量たるやとどまるところを知らない。

 2019年は、以前より上演されていた国内でのライブ公演から満を持して4月20日より『加州清光単騎出陣 アジアツアー』が予定されているほか、7月4日からは初のライブ公演となる『髭切膝丸 双騎出陣2019』も予定。さらに秋には新作公演が行われることも発表されており、ファンにとっても楽しみが盛りだくさんな1年となることは間違いないだろう。

©ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

【ミュージカル『刀剣乱舞』 〜三百年の子守唄〜】


東京公演(天王洲 銀河劇場)2019年1月20日~2月3日

大阪公演(サンケイホールブリーゼ)2019年2月8日~11日

京都公演(京都劇場)2019年2月17日~3月3日

東京凱旋公演(TOKYO DOME CITY HALL)2019年3月15日~24日

 

【あわせて読みたい】

 

佐藤流司の“新たな伝説“! 「ミュージカル『刀剣乱舞』 加州清光 単騎出陣2018」の魅力を探る

「ミュージカル『刀剣乱舞』 加州清光 単騎出陣2018」。手練れのダンサー陣を従え、赤と黒とが織りなすステージでは“佐藤流司”としてどんなパフォーマンスを魅せたのだろうか。

関連記事:

お値段1体300万円──『刀剣乱舞-ONLINE-』三日月宗近が等身大で登場! さすがの審神者もどよめきの嵐

『刀剣乱舞』ファンがこの3年間で巻き起こした覇業を振り返る。107万円の公式Blu-Rayに約70件の申し込み、刀1本の展示で経済効果が4億円、幻の日本刀復元に4500万円を調達!

著者
おーちようこ
ライター・インタビュアー。著書に『2.5次元舞台へようこそ ミュージカル『テニスの王子様』から『刀剣乱舞』へ』(星海社新書)、若手俳優のロングインタビュー連載『舞台男子』シリーズ(一迅社・KADOKAWA)など。似顔絵は漫画家の雁須磨子さん画。Twitter:@yoko_oochi

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
電ファミのDiscordでこの記事について語ろう!

関連記事

SNSで話題の記事

新着記事

新着記事

連載・特集一覧

カテゴリ

ゲームマガジン

関連サイト

その他

若ゲのいたり
榎本俊二の現代ゲーム用語大全

カテゴリーピックアップ