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フロム新作『SEKIRO』の“テンポの良さ“を『ダークソウル』『Bloodborne』と比較しつつ分析してみた──「ドゥーン……ズバッ!」から「ズン!ズバッ!」に

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 2月27日、フロム・ソフトウェア本社にて、新作ソフト『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、『SEKIRO』)のメディア向け試遊会が行われた。
 3月22日に発売予定の『SEKIRO』は、高い難度や斬新なマルチプレイが人気の『ダークソウル』シリーズ、『Bloodborne』で知られる宮崎英高氏が手がける、和風テイストのアクション・アドベンチャーだ。

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 東京ゲームショウ2018や全国の店頭体験会などで実施された試遊版ではステージは「破戒僧」と戦う1ステージのみ、また1プレイにつき15分の制限があった。
 しかし今回の試遊会ではほぼ製品版に近い内容を、ゲーム開始から序盤にかけて、またゲーム中盤のステージを2時間にわたってじっくりとプレイすることができた。

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今回の試遊会ではPC版をXboxコントローラーでプレイ。

 『ダークソウル』シリーズや『Bloodborne』(以下、両者を指して「ソウルボーン』とする)から引き継がれるハードな難度、死んでも1度だけ復活できる「回生」システム、持久力を廃し新たに設定された「体幹」システムなど、『SEKIRO』には語るべきものが多いのだが、筆者が2時間のプレイを通じて最も印象に残ったのは、「圧倒的なテンポの良さ」だ。

 『SEKIRO』はとにかくテンポが良い。明らかにテンポを意識してデザインされている、と感じるほどにだ。
 しかし、そのテンポの良さはゲーム体験にどういった影響を与えているのだろうか。また、「ソウルボーン」のテンポとどのように違っているのだろうか。
 本稿では、その「テンポの良さ」というテーマに絞って、「ソウルボーン」と比較しつつ『SEKIRO』の魅力をお伝えしよう。

文/実存


「忍殺」のテンポの良さが作りだす、爽快で流れるようなアクション

 『SEKIRO』をプレイしてまず気づくのは、敵を一撃で倒す「忍殺」アクションのテンポの良さだ。

 「忍殺」は「ソウルボーン」での「致命の一撃」に相当するのだが、致命の一撃のアクションの際に若干のウェイトが入るのに対して、忍殺ではほとんどウェイトが入らない。

 稚拙な表現を承知の上で言い表すならば、致命の一撃が「ドゥーン……ズバッ!」というテンポ感であるのに対して、忍殺では「ズン! ズバッ!」となる。

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『ダークソウル3』での「致命の一撃」
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「忍殺」のテンポ感

 また、致命の一撃を行うには敵の攻撃を「パリィ」で弾く、もしくは背後に回り込むというステップが必要なのだが、忍殺を行うには敵の「体幹」を崩すだけでよい。
 しかも、致命の一撃はあくまでも大ダメージであって必ずしも一撃必殺ではないのだが、忍殺では雑魚敵であれば必ず一撃で倒すことができる。 

 ボス敵の場合は体幹ゲージが強固で、何回か忍殺を行う必要があるのだが、雑魚敵の場合は刀で2、3回も斬りつければすぐに体幹が崩れる。
 そのうえ、敵の体幹を崩すほかにも、背後から忍び寄ったり、高所から敵の頭上に飛び降りることでも忍殺は可能だ。

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 つまり、致命の一撃に比べて忍殺は圧倒的に狙いやすいものになっている。これによって、道中の雑魚敵をスピーディーに処理することが可能になり、ゲーム全体のテンポ感の良さにつながっている。

 「ソウルボーン」のように敵のHPを削って倒すことも可能なのだが、斬りつけで敵のHPが減るスピードよりも、敵の体幹が崩れるスピードのほうが速い。
 そのため、ヒットアンドアウェイでじっくりと敵を倒すよりも、積極的に攻撃を加え、ガンガン忍殺を決めていく“攻め”のプレイスタイルが有利につくられている、と言っていいだろう(少なくとも雑魚敵に関しては)。

ストレスフルな要素が意識的に削られている

 忍殺のテンポの良さに加え、『SEKIRO』ではストレスフルな要素が随所でかなり意識的に削られているように思える。

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 まず、『SEKIRO』では「ソウルボーン」で通例となっていた持久力(スタミナ)が削除されたことが挙げられる。
 持久力は攻撃や回避、ガードやダッシュの際に消費される。持久力ゲージの大きさはステータスに依存するため、貧弱な序盤では2、3回ほどしか攻撃を続けることができない。
 そのため、強力な敵に対しては攻撃したら一旦離れ、持久力の回復を待ってから再度攻撃、という手段が基本行動となる。

 しかし、『SEKIRO』では、その持久力が削除されたことで、連続攻撃やとっさの回避を心おきなく繰り出すことができる。ダッシュでも持久力を気にすることなく、ずっと走り続けることが可能だ。
 このことでもまた、積極的に前に出て、敵を斬り崩していく攻めのプレイが有効になる。

 また、敵のハードな攻撃もさることながら、高所からの“落下死”もまた「ソウルボーン」シリーズの風物詩だったが、『SEKIRO』では落下ダメージがほとんどなくなった。
 かなりの高さから飛び降りてもダメージは受けず、しかも奈落に落ちてもHPが十分にあれば、落ちた場所の手前から再開することができる。
 そのため、プレイヤーはダメージを気にせず、ピョンピョンと気軽に飛び回ることが可能だ。

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 なお、フロム・ソフトウェアの宣伝担当・北尾氏によると、『SEKIRO』で持久力ゲージや落下のダメージがなくなったのは、主人公が「忍びだから」だとのこと。
 あくまで一般人であった「ソウルボーン」の主人公とは違って、『SEKIRO』の主人公は凄腕の忍びであり、超人的な身体能力を備えているからだ。
 
 そのほかにも、デスペナルティが大幅に緩和されたことも挙げられる。
 『SEKIRO』では経験値とお金を兼ねていた「ソウル」「血の遺志」から、お金と「スキルポイント」に分割された。「ソウルボーン」では死ぬとその場にすべて所持しているソウルや血の遺志を落としてしまうが、『SEKIRO』では半減するのみ。
 そのうえ、一定の確率で死んでも所持金やスキルポイントをロストしない「冥助」というシステムの存在により、より“死にやすく”なっている。
 このように、ゲームプレイをよりストレスフリーに、テンポよく進められる工夫がなされているといえよう。

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 しかし、一点だけテンポの良さという面では残念な部分もあった。
 「ソウルボーン」では敵を倒すと自動的にソウルや血の遺志を回収できるのだが、『SEKIRO』ではスキルポイントは自動で回収されるものの、敵の落としたアイテムやお金を回収するためには、倒した敵の近くでアクションボタンを長押しして「吸引」する必要があるのだ。
 とはいえ、それ以外のあらゆる要素がテンポよく仕上がっていることに変わりはない。

「安全だが面倒なプレイ」よりも「危険だが容易なプレイ」を選びやすい

 『SEKIRO』では、忍殺やダッシュ、ジャンプといった個々のアクションのテンポの良さに加えて、敵の配置やマップ構造になされた工夫によって、よりテンポのよいプレイスタイルを推奨するデザインとなっている。
 言い換えるならば、『SEKIRO』では「安全だが面倒なプレイ」よりも「危険だが容易なプレイ」を選びやすくなっているのだ。
 それはつまりどういうことなのか、「ソウルボーン」での一般的なプレイスタイルを確認しつつ説明していこう。

 「ソウルボーン」では、敵との戦いは一対一が基本である。
 しかしまた、そのセオリーを真っ向から否定するかのごとく、大勢の敵と遠距離攻撃を放ってくる敵が同時に配置されているような、いわゆる“初見殺し”のマップが存在するのも「ソウルボーン」の伝統だ。もちろん、『SEKIRO』にもその伝統は引き継がれている。

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『Bloodborne』最序盤の難所。正面から突っ込むと、たこ殴りにされるだけでなく、2方向から銃撃されるうえに犬まで襲いかかってくる。なお、『Bloodborne』ではアウトレンジから一方的に攻撃可能な武器はほとんどないので、誘き出しによる各個撃破が基本となる。

 プレイヤーがそうした局面に出くわした場合、主な対処方法は次の三つにわけられるだろう。

 一、ひとりずつ誘き出し、近接攻撃で各個撃破する。
 二、遠距離から弓や魔法などで各個撃破する(いわゆる“弓チク”)。
 三、敵を無視して走り抜ける。

 三の走り抜ける方法は上級者や周回プレイ者には有効だが、初心者や一週目のプレイヤーにはなかなか採りづらい。
 そういうわけで、一の誘き出しか、二の遠距離攻撃による各個撃破が主な攻略方法となる。

 しかしながら一の誘き出し戦法も、失敗すれば多数の敵に囲まれる危険がある。
 そのため、上記の三つの手段のうちで最も安全な(ように思われる)手段は二の遠距離攻撃、いわゆる“弓チク”となる。

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『ダークソウル3』より、序盤の難所のひとつ。前方高所に配置されている太った敵はプレイヤーを追尾する遠距離魔法を放ってくる。無視して通り抜けようとすると、側面から多数の敵が飛びかかってくるという仕掛けだ。 

 敵の攻撃が届かない遠距離から弓矢でチクチクと削る“弓チク”は、たしかに安全なのだが、非常に面倒である。弓矢によるダメージは、大抵の近接攻撃に比べて低く設定されているうえ、距離が遠いほどダメージも減衰するからだ。
 しかし、面倒だからといって厄介な敵を放置しておけば、その分死ぬ危険性も高い。「ソウルボーン」では死んでもその場に落としたソウルや血の遺志を回収すればデスペナルティは軽微で済むが、弓チクが必要になるような危険地帯であれば回収するまでの道のりもまた一苦労だ。

 したがって、プレイヤーは弓チクをせざるを得なくなる。
 だが、上記で確認したように、弓チクは基本的に「安全だが面倒なプレイ」なのだ。

 一度の挑戦で突破できればそれで済むのだが、そもそも弓チクが必要になるような危険地帯では、何度も死んで、何度も挑戦するほうが普通である。
 だが、死んで再度挑戦するたびに弓チクを繰り返すことは、プレイヤーに苦痛を与えることになる。

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『ダークソウル3』での危険地帯の例。画像の敵は接近すると最大HPが一時的に激減する煙を噴射する。
しかも10体ほど一箇所に固まっているため、下手に突っ込むと画像のように死ぬ。
とはいえ、10体もの敵を一匹ずつ弓矢で倒すのも骨が折れる。

 さて、筆者の見解では「ソウルボーン」では(とりわけ『ソウル』シリーズにおいては)、危険な局面で弓チクという「安全だが面倒なプレイ」を強いられてしまう、という問題があった。
 しかし、『SEKIRO』ではこの問題に対しての素晴らしい回答を示している。遠距離にいる厄介な敵に対して、こちらも遠距離から応戦するのではなく、素早く近づいてあらかじめ処理することが可能なのだ。

 「ソウルボーン」では遠くの敵に近づくためには、地続きのマップを歩くしかなかったのだが、『SEKIRO』では高所や遠距離に配置されている敵に対して、ジャンプやダッシュ、「鉤縄」アクションを駆使してそのまま近づいてくことができる。
 そのうえ移動に関わるアクションはどれもスピーディーなため、ほかの敵に取り囲まれる前に、厄介な敵を先に倒しておくことが可能だ。

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遠くの敵でもジャンプやダッシュ、鉤縄を駆使して素早く近づき、忍殺で即座に仕留めることが可能だ。

 もちろん、危険地帯のど真ん中に飛び込んでいくことになるため、一定のリスクを伴う。しかし、雑魚敵は基本的に忍殺で素早く倒すことができるので、弓チクよりも圧倒的に効率がよく、簡単だ。
 すなわち、「安全だが面倒なプレイ」よりも「危険だが容易なプレイ」のほうを採用しやすいのである。

 このように、『SEKIRO』は「安全だが面倒なプレイ」よりも「危険だが容易なプレイ」を推奨することで、挑戦と死、そして再挑戦のサイクルのテンポが非常に心地よいものになっている。
 ゲームを攻略するうえで面倒になりうる要素を徹底的にオミットすることで、プレイヤーは死のたびにせざるを得ない面倒な作業を気にすることなく、挑戦を繰り返すことができるのだ。

 『SEKIRO』は、何度もの死と何度もの挑戦を前提とした“死にゲー”としての完成度を、その洗練されたテンポの良さによって、さらなる高みへともたらしたといえるだろう。

(C) 2019 FromSoftware, Inc. All rights reserved.

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ライター
フロム新作『SEKIRO』の“テンポの良さ“を『ダークソウル』『Bloodborne』と比較しつつ分析してみた──「ドゥーン……ズバッ!」から「ズン!ズバッ!」に_013
哲学科を卒業後、ディオゲネスのような暮らしを送っていたが、2017年11月より電ファミニコゲーマー編集部に加入。
ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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