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ナムコ黄金時代のアーケードゲームをまとめた伝説の本『ALL ABOUT namco』に込められた熱意。35年の時を経て復刻した理由を訊く【『べーマガ』編集長 大橋太郎インタビュー】

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 時は1985年。多くのゲームファンに衝撃を与えた一冊の本が、電波新聞社から発行された。

 その本とは、その名も『ALL ABOUT namco(オールアバウトナムコ)』。本書は、マイコン雑誌の『ベーマガ』こと『マイコンBASICマガジン』の別冊として発行されたもので、ナムコ(※現在のバンダイナムコエンターテインメント)のアーケード用ビデオゲーム第1号作品である『ジービー』から『メトロクロス』まで、1978~85年までに登場した歴代タイトルの詳細な解説・攻略が掲載されているのが特徴だ。

 アーケードゲームのほか、ナムコのファミコン用ソフトをはじめ、電波新聞社が開発・発売した、各種PC向けに移植されたナムコゲームのタイトルも網羅。
 さらにはアーケードゲームのドット絵やBGMの楽譜集、キャラクターグッズまでもが豊富に掲載され、その名のとおりナムコゲームの魅力がぎっしりと詰まった一冊で、累計でなんと30万部も発行された。

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筆者所蔵の『ALL ABOUT namco』(※1994年発行の再販版)。ファンの間では長らくプレミア価格が付いていた逸品だ

 本書の発売当時はインターネットなど存在せず、アーケードゲームの情報が活字となってメディアに掲載されるのも極めてまれなことだった。
 しかも、当時のゲーセンは「不良の温床」として、世間から目の敵にされた真っ只中の時代でもあった。だからこそ、当時のゲーム好きにとっては、本書はまさにバイブルとも言うべき存在だったのだ。

 筆者が本書の存在を初めて知ったのは小学生の頃。本屋さんで値段を確認したら、当時の小遣いではとても手が出せない金額だったので、泣く泣く購入をあきらめた。しかし、幸運なことに本書を持っていた友人がたまたま1人いたので、友人宅へ遊びに行った際は夢中になって読みあさり、ゲーセンに出掛ける前の予習によく利用させてもらったものだ。限られた小遣いしか使えなかった少年時代、本書にはいったいどれだけ助けられたことだろうか……。

 後年、アルバイトで稼いだお金で購入した本書(※正確には、1994年の再販版)は、今でも仕事用の資料として大切に使わせていただいている。

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『ゼビウス』の攻略ページより。全エリアのマップの写真を添えて攻略法を解説し、隠れキャラクターなどの情報も漏れなく掲載されている(※筆者の私物で撮影。以下同)

 そんなゲームファンにとっては伝説の一冊とも言うべき、『ALL ABOUT namco』の復刻版が、2020年8月31日(※先行販売の店舗では8月22日)に発売されることが、同社およびバンダイナムコエンターテインメントのサイトで電撃的に発表された。筆者に限らず、80年代からゲーセン通いをしていた方であれば、誰もが大いに驚いたことだろう。

 それにしても、今から35年も前に作られた本を、なぜ今になって復刻をしようと思ったのだろうか? しかも、今や本書に掲載されたゲームは、全国どこのゲームセンターに出掛けても、遊ぶことがほとんどできないものばかりだ。それでも復刻を決断した背景には、何か特別な意図や思いが込められているのではないだろうか。

 そこで筆者は、初版から今回の復刻版まで編集・制作を手掛けた、電波新聞社の特別顧問であり、『電子工作マガジン』および『マイコンBASICマガジン』の編集長を務める大橋太郎氏にインタビューを試みた。
 新型コロナウイルス対策のためリモートでの取材となったが、お話を伺うと本書の復刊に対する並々ならぬ情熱が、こちらのモニター越しにひしひしと伝わり、たいへん感銘を受けた。

 かつてのナムコゲームファンや『ベーマガ』読者はもちろん、最近になって実況動画などでレトロゲームに興味を持つようになった皆さんも、ぜひ最後までご一読いただきたい。

取材・文/鴫原盛之

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電波新聞社の大橋太郎氏(※大橋氏提供)

社内もメーカーも復刻を快諾

──本日はよろしくお願いいたします。初版の発売から35年が経過した2020年というタイミングで、『ALL ABOUT namco』をなぜ復刻させようとお考えになったのでしょうか?

大橋氏:
 一番の大きな動機は、ここ数年の間に東京で2回、大阪で1回開催した「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」【※1】というイベントを開催したら、すごく多くの皆さんに喜んでいただいたことですね。
 もうひとつは、山下章先生【※2】が去年から準備を進めていて、今年の8月に開催する予定だったゲームを使ったイベントに合わせて出そうと思ったことですね。ただ残念ながら、イベントはコロナの影響で中止になってしまったのですが。

 実は以前から、「電子出版で出してはどうか?」というお問い合わせを何度かいただいていました。確かに、今ではネット上で高額で取り引きされていますし、特に最初の大きいやつ【※3】は、いいものがほとんど残っていないんですよね。ただ、復刻するならば電子書籍ではなく紙で、以前となるべく同じものにして出そうと思いました。

※1 「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」
『マイコンBASICマガジン』の元編集者やライターなどが出演したトークイベントのこと。2015年に第1回が開催され、、2018年には東京と大阪で1回ずつ開催された。

※2 山下 章先生
現スタジオベントスタッフ代表取締役。『マイコンBASICマガジン』のライターとして、「山下章のレスキュー!AVG&RPG」(※後に書籍版も発売された)などの名物コーナーを担当。テレビ番組『パソコンサンデー』では、ゲーム評論家としてレギュラー出演もしていたことでも有名。

※3 最初の大きいやつ
1985年に発行された、『ALL ABOUT namco』の初版本のこと。初版はB5判で、1994年以降に再販されたものはA5判で発行された。

──復刻にあたって、バンダイナムコエンターテインメントとのライセンス交渉はスムーズに進んだのでしょうか?

大橋氏:
 はい。今はちょっと離れてしまったのですが、私とかつてのナムコさんとは30年以上前からベッタリの関係で、昔は五反田から蒲田(※筆者注:両社のオフィスの所在地を指す)まで、バイクで1日に3、4回も行ったり来たりしていたこともありました。
 今のバンダイナムコさんのご担当の方にも、当時のことをご存知の方がおりまして、「ぜひ、やっていただければ」と非常に好意的でした。ほかの関係者の方々からも、「『ALL ABOUT namco』は欲しいよね」と言われましたので、じゃあ復刻をやってみようと。

──復刻にあたって、電波新聞社さん社内での反応はいかがでしたか? また、企画はスムーズに通ったのでしょうか?

大橋氏:
 これは偶然なのですが、電波新聞社は今年でちょうど創立70周年で、『マイコンBASICマガジン』の母体になった『ラジオの製作』が創刊65周年にあたる節目の年でもあるんです。
 そこで、「何か記念になることができないか、考えてほしい」という指示を会社からも受けていましたので、この機会に復刻をしてはどうかと考えました。

 今の社内には、こういう大きな仕事をした経験者がいないんですよ。ですから、若手といっしょに交流を深めながら本を作ったり、売る側との交渉をしたりとか、ちょうど良い機会にもなりましたね。
 復刻版の広告を、次の『電子工作マガジン』の別冊に掲載するのですが、せっかく広告を出すのであれば、読者が見るだけでも楽しくなる、役に立つようなものを作ろうということで、関連するスポンサーに出稿をお願いしたら、お蔭様で広告がほぼ出そろいました。
 面白いことに、『ALL ABOUT namco』がきっかけでゲーム業界に入ったという方が、スポンサーの方々にもいっぱいいらっしゃったんですよね。こちらの広告の内容も、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

──7月下旬に、復刻のリリースがバンダイナムコと電波新聞社のサイトでそれぞれ発表されましたが、反響はいかがでしたか?

大橋氏:
 最初にバンナムさんのサイトで発表させていただいたのですが、もの凄い反応がありました。
 ご担当の方から、「山のようにたくさんの問い合わせがきて忙殺されてます。電波新聞社さんのサイトでもちゃんとリリース出してくださいよ!」って言われちゃったので、「ハイ、すみませんでした!」と我々のほうでも急いで掲載しました(笑)。

 皆さんのネットの書き込みを拝見したら、もうボロボロになった昔の『ALL ABOUT namco』の写真がズラーッとアップされていたんですよ。全員が同じような写真を一斉にアップして、「復刻版が楽しみです」と書いて下さっていたのを見て、ああ、やっぱり紙で作ってよかったなと思いましたね。

細かい修正を加えつつ、原本の内容を忠実に復刻

──そもそも、初版の『ALL ABOUT namco』の版下は社内にずっと保管してあったのでしょうか?

大橋氏:
 当時はフィルムで残していたのですが、印刷所とかを調べてみたら、昔のものはある程度の時間が経ったら廃棄していたそうです。ですが、今ではスキャン技術が非常に発達していますし、しかも「自炊」という言葉があるように、低コストでデータとして取り込めることはわかっていましたので、スキャンデータさえ作れればできるだろうと思いました。

 ただ、復刻するからにはひと味違ったことをやりたいなと思っていまして、スキャンをして下さる業者さんをいろいろと探し回っていたのですが、新宿に古文書でも上手にスキャンできる技術をお持ちの業者さんが見付かったんです。
 去年の暮れ頃だったと思いますが、まずは自分の目でどのぐらいのクオリティのものができるのかを確かめようと、実際に本を持って行って相談してもらったんです。

 そうしたら、担当の方が「私もこの本を持っていました。ぜひ私にやらせてください!」と言われたので、もうびっくりしちゃいまして。そのお蔭で、結構いい値段でやってくださると言うので「ヨッシャ!」と(笑)。
 それでも、コストはある程度は掛かってしまうのですが、かなりクオリティの高い、良い状態でスキャンができるということでお願いをすることにしました。

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自宅でのリモートワークにて編集作業に勤しむ大橋氏(※大橋氏提供)

──記事を書いた当時のライターの皆さんに、改めて加筆や校正などのお願いをしたのでしょうか?

大橋氏:
 いいえ。今回のところはお願いをしませんでした。過去にも何度か増刷をしていましたので、今回もその流れと同じものとして考えて、できるだけ原本に忠実に、令和版として増刷したいと思って作りました。文字は私がすべて目を通して、明らかな誤りがあった箇所には手を入れさせてもらいましたが、それ以外はほぼそのままにしてあります。

──制作中に、特にご苦労なさったところはありますか?

大橋氏:
 活字が元々小さかったので、どうしようかなあと考えましたね。最初はスキャンしたものをそのまま出そうかと思ったのですが、プロの方にお話を聞いたところ「文字化けが大量に出てしまいますが、OCRで取り込んだほうがきれいにできますよ」とアドバイスをいただいたので、じゃあそうしようと。

 OCRでスキャンしたデータが2月頃に出来上り、さあ作るぞと思ってデータを見たら、もう凄まじい数の文字化けが出ちゃいまして……。それをコツコツと直しつつ、ご協力いただいたデザイナーの方といっしょに、画像も2回、3回とページごとに色合わせをしながら作っていきました。かなりの時間が掛かりましたが、イベントの開催予定の時期に何とか間に合わせることができました。

──申し上げにくい質問なのですが、初版の『ALL ABOUT namco』には、画面写真の位置や楽譜にいくつか間違った箇所があったと思います。復刻版では、これらの間違いが修正されているのでしょうか?

大橋氏:
 実は作業中に、当時の作曲者の方から「ちょっと違っている部分があるから、直せないか?」というお話をいただいていました。
 そこで、最後の3ページ分だけ白ページが作れましたので、そこにアフターケアと言いますか、原本ではどこが間違っていて、正しい表記はこうですよという情報を載せることができました。実際の曲とどこが違っていたのか、そこも含めて楽しんでいただければと思います。

──そうだったんですね。楽譜のコーナーには、各タイトルのBGMがずらりと掲載され、しかも爆発音や敵の飛行音などの効果音までもが、五線譜上に書かれているのを初めて見たときは、子供心に衝撃を受けました。

大橋氏:
 あの楽譜はですね、元々は自分たちで耳コピーして作っていたんですよ。当初はナムコさんに「楽譜をください」ってお願いしたのですが、ダメと言われてしまったので、こちらで作ったものをナムコさんにお持ちしたんです。そうしたら、我々の熱意が通じたのか、「じゃあ、これを使いなよ」とサウンドご担当の方が楽譜を渡して下さったんです。
 当時お世話になった方に、また今回の復刻でもお世話になりましたのでナムコさん、今のバンダイナムコさんとの友情が再び深まったのではないかと思っております(笑)。

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今となっては貴重な、ナムコ歴代のアーケードゲームの楽譜が豊富に載っているのも『ALL ABOUT namco』の大きな魅力だ

昭和から令和になっても変わらない、『ALL ABOUT namco』に込めた情熱

──今から35年以上も前に出たゲームの情報を載せた本を復刻するうえで、素朴な疑問がひとつあります。そもそも、本書に載っているゲームは、今ゲームセンターに行っても遊べるお店がほとんどないですよね? それでも復刻版を出す意味は、どんなところにあると思われますか?

大橋氏:
 『ALL ABOUT namco』は、当時の若い読者に対して「コンピューターゲームは、こうやって企画されて、こんなふうに作られているんだよ」とか、「こういう技術者や、コンポーザーが求められるんだよ」ということも伝えたいなと思って編集した本なんです。その内容は、今でもきっと役に立つのではないかと。

 今のゲームは完全にブラックボックスになっていますが、当時のゲームのようにドット絵を1つずつ描いて作るようなことが、実は基本になっているんだということを知ってもらうことには意義があるのではないか。それなら、復刻やってみようじゃないかという気になりました。

 確かに、本に載っているゲームが、今ではゲームセンターに行っても置いていないのは一番の問題だなとは思いました。秋葉原とか日本橋とかにある、一部のお店に行けば遊べるみたいですが、本で見て楽しむこともできるのではないかと思います。

 実は、去年のお盆の時期に、秋葉原の駅ナカで『ギャラクシアン』とか『マッピー』とか、手のひらサイズの小さいナムコゲームの筐体が売られていたのを偶然見掛けたときに、「おおっ!」と胸がいっぺんに熱くなったことがあったんですよ。
 その筐体を売っている会社の方にお話を聞いたら「売れてますよ」と仰っていたんです。ああ、今はこういうものがあるんだったら、『ALL ABOUT namco』とうまいこと組めば、きっとイケルのではないかと思ったこともありましたね。

──掲載内容が当時のままとなりますと、『ALL ABOUT namco』のターゲット層もおのずと限られてきますよね?

大橋氏:
 かつての『マイコンBASICマガジン』の読者は、今では40~50代の方ですよね? 『ALL ABOUT namco』には、楽譜やドット絵集も載っていますし、これからは全国の児童生徒が全員PCに親しめることになりますから、例えば本を見ながら自分でドット絵を描いたりして、「こういう世界もあるんだよ」と親子で楽しめるきっかけができたらいいなあと。昔から本を編集している私としては、ぜひそうなったらいいなと思いますね。

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白黒ページにはドット絵集も掲載され、作品によってはドット単位で使用したカラーを記しているものもある

──本書には、ナムコゲームの関連グッズを紹介するコーナーもありましたよね。掲載されたグッズは、おそらく販売がすべて終了していると思いますが、こちらのリストや写真も掲載されているのでしょうか?

大橋氏:
 グッズのページについても、「現在では販売しておりません」と欄外に注釈を入れたうえで、歴史的な資料になるだろうということでそのまま残しました。
 昔は電波新聞社でもグッズを作って販売していましたが、当時の広告もそのまま載せました。ただし、電話番号などは消してありますけどね。同様に、ファミコン用ソフトや各種PC用の移植版のソフトを紹介するコーナーも「販売していません」と書いたうえで、内容はそのままにして載せています。

 それから、今回スポンサーになっていただいた5社の皆さんが取り扱われているソフトやハードも、巻頭の2ページでご紹介していますので、「今でも、こんなものがあるんだよ」ということを、ぜひご覧になってみてください。

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『ALL ABOUT namco』に掲載された、電波新聞社などが開発・発売したナムコゲームグッズの紹介コーナー

──今回、復刊のお仕事をされたうえで、昔の記事構成やナムコゲームの内容などについて、何か気付いたことなどはありますか?

大橋氏:
 『ALL ABOUT namco』を最初に発売した当時は、「ゲームセンターは不良が出入りする場所だ」というイメージがまだ世間にはあったんです。それでも、何とか大人にもゲームの文化の素晴らしさをわかってほしいなと思っていました。ましてや感性の鋭い、若い人たちに対しては、当時の最先端だったナムコのすごく新しい、文化創造物を分かってもらえたらいいなと。
 今回、改めて自分で作った本を読み返していたら、そんな思いを込めて作っていたんだなあと当時のことがよぎりましたね。ああ、自分も若い頃は偉かったなあと(笑)。

 『ALL ABOUT namco』は、小学生でも理解できるような書き方をしているんですよ。
 自分たちは、昔の『ラジオの製作』や『マイコンBASICマガジン』の頃から、小学校5年生を対象に、難しい漢字はなるべく使わないという書き方を徹底してずっとやってきました。ナムコの素晴らしい数々のゲームを、子供でもわかりやすい語り口で丁寧に、当時は大学生や高校生だったスーパープレイヤーの皆さんに、原稿用紙に手書きで原稿を執筆していただいて出来上がったのが『ALL ABOUT namco』なんです。皆さんの努力のお陰で、こんなにいいものが出来上がって、本当にありがたいなあと思いましたね。

『ALL ABOUT』シリーズの復刻は続くのか? 今後の展開にも大いに期待

──『ALL ABOUT namco』は、1987年に第2弾となる『ALL ABOUT namco II』も発売されましたが、『II』を復刻する予定はあるのでしょうか?

大橋氏:
 今回の復刻版では、これからもシリーズとしてやっていけるよういなったらいいなという思いも込めて、表紙の上の所に「『ALL ABOUT』シリーズ令和版」と書きました。最初なので失敗しないよう慎重に、なおかつ皆さんに納得していただけるような本にしようと思って、部数や価格設定を考えて編集しました。

 最初のうちは、まあ簡単にできるだろうと思っていたのですが、実際にやってみたらすごく大変でしたね……。ただ、これで復刻が1回できましたから、皆様が希望していただければ、それからバンナムさんが「いいですよ」と言って下さったら、『II』の復刻もやりたい気持ちはあります。

 『I』と『II』とでは、そこに載っているゲームのナムコイズムは変わらないけど、作風が全然違いますよね? 『I』に載っているゲームも凄いけど、『II』に載っているゲームは、何だか大河ドラマみたいなもの凄い作品もありますからね。今、eスポーツをやっている方々にも、逆にこういうものが新鮮でうけるのではないかと、そんな思いもあります。

──ほかにも、『ぷよぷよ』『ストリートファイターII』シリーズなど、『ALL ABOUT』シリーズの本はたくさん発売されましたが、こちらの復刻もお考えになっているのでしょうか?

大橋氏:
 そこまでできるのかは、今の段階ではまだわからないですね。ですが、かつて山下先生がPCゲームを世に広めた『レスキュー!AVG&RPG』の本とかは、今でも読んでみたいと思う方もいらっしゃるのではないかと思います。

 実は今回、バンナムさんの担当の方から「ナムコグッズもぜひ」とも言われていたんですよ。当時は皆さんのお陰で、たくさんのバジェットをご用意いただいていましたから、すごく良い素材を使って、お金も掛けてこだわったグッズを作ることができていました。でもその前に、グッズを復活させるためにはいろいろな研究が必要でしょうけど、もしできたらうれしいですね。

 それから、これは私の勝手な妄想ですが、当時のソフトを出してもいいかもしれませんね。X68000とか、あるいはPC-6001とか8001とか、電波新聞社のマイコンソフトから発売したナムコゲームの移植版を、今のWindowsやMacのPCで、昔と同じクオリティで遊べるようなものがあっても面白いのかなあと。今では、なにわさん【※4】も我が社の重鎮ですしね。

※4 なにわさん
数多くのナムコ作品をPC版に移植したプログラマー、藤岡忠氏のこと。現在は電波新聞社マイコンソフト事業部の責任者で取締役。

──楽しいお話が続きますが、そろそろお時間が迫ってきたようです。それでは最後に、『電ファミニコゲーマー』の読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか?

大橋氏:
 35年も前に作った本が、またこうして日の目を見ることは、私としてもたいへんうれしいですし、もしかしたら当時お読みになっていた皆さんにとっても、この本の中には時空が詰まっているのではないでしょうか。
 私もこういう趣味の世界がずっと大好きで、小さい頃にアマチュア無線をやっていたときには、CQ出版社さんの古い雑誌とかを夢中になって読んでいましたから、当時の記事の一字一句、回路図のひとつひとつを今でも覚えているんですよ。そんな昔の気持ちに戻っていただきつつ、今の生活において何かの癒やしになってくれたらとてもうれしいですね。

 今は表立って、堂々とゲームができる時代です。昔はこういうゲームがあったんだよ、今でも遊びたければ、こういう手段があるんだよっていうことをぜひ知っていただきたいですね。あるいは、コロナ禍というこの機会に、親子で競いながらゲームを楽しんでもらったり、専門のツールじゃなくてドット絵とかでキャラクターを作っていたんだよとか、楽譜を見て音楽の勉強しながら体験してもらえたら、すごくありがたいなと思います。

 ゲーム産業は、かつての『マイコンBASICマガジン』の読者が世界中に広めたと言っても過言ではありません。もう一度、日本を電子立国として再生するために少しでもいいからお役に立ちたいなと思っています。
 私は今でも、『電子工作マガジン』の付録になっている『マイコンBASICマガジン』を編集していて、そこにはプログラムの投稿ができるコーナーも載せています。今や1,000円ちょっとでプログラムが組めるツールが買えますし、それがきっかけであっという間にプログラムを覚えちゃう子もいるんですよね。

 もう間もなく73歳になりますが、こんな楽しいことがあるんですから、これからもまだまだ頑張って仕事をやっていきますよ。(了)


 歴代のナムコゲームの情報をあまねく網羅した『ALL ABOUT namco』。今回の取材を前に、久々に本書をざっと読み返してみたが、攻略記事のレベルは極めて高く、ドット絵や楽譜集などにも多くのページを割くことで、単なる作品リストにとどまらない、各タイトルの魅力を見事に引き出した構成は、今の目で見てもまったく飽きることがない。そんな復刻版の発売は、ゲームファンのひとりとしても本当に喜ばしい。

 初版が発行された35年前と変わらぬ情熱を注ぎ込み、見事に復刻を実現させた大橋氏の偉業には、改めて心より敬意を表したい。また、復刻版の発売を機に、当時のナムコゲームの素晴らしさが、とりわけその存在を知らない若い世代にも、広く知られるようになることを願ってやまない。

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