もはやゲーマーの間ではひとつの文化として定着しつつある「リアル・タイム・アタック」こと「RTA」。国内最大のイベント「RTA in Japan」の規模感も年を重ねるごとに拡大していくなか、「RTA in Japan Summer 2021」でひときわ目を引くチャレンジが発表された。
それが『リングフィットアドベンチャー』の「Beat World1 Intensity Level 30, Intended」だ。これは同作のワールド1を負荷30でゲームが指示する通りポーズやトレーニングをして攻略していくRTAとなっている。8月15日には実際に見事なランを披露し、同時接続者が18万人を越えるなど、大いな注目を集めた。
──しかし、「any%」も「100%」も、やはり普段から鍛えていないと走り切れないですよね……。
えぬわた氏:
僕も「any%」を初めて走ったときはすごくきつかったです。「100%」も繰り返す内に少しづつ楽になっていったので、身体を慣らしていくのは大切ですよね。
「100%」に挑戦するころは週5日でリングフィットをやっていて、週1日はジムに行って1日休む、みたいな生活をしていました。ジムでは『リングフィットアドベンチャー』で苦手な部分を重点的に鍛えてましたね。
──具体的にはどこが苦手でどこを鍛えたんでしょう。
えぬわた氏:
「100%」RTAでは負荷のかかるフィットスキルをやらないといけないんですね。具体的には赤系の技「バンザイプッシュ」とか「リングアロー」とか。で、ジムではワイヤーを引っ張るトレーニングをリングコンよりも高負荷でしていました。足もスクワットを200キロくらい負荷をかけてやってました。
──逆に『リングフィットアドベンチャー』での弱点をジムで鍛えていたという……。
睡眠、食事、カーボローディング。まるでアスリートの如く望むRTA
──お話うかがってると、アスリートの方の話を聞いているような気分になりますね。逆に『リングフィットアドベンチャー』RTAのゲーム的な部分となると、どこにあるんでしょうか?
えぬわた氏:
ほぼチャートですね。RPGのRTAと同じなので、どのタイミングでどのレベルにしておくかとか、どの技を覚えておくか、この技でこのボスを倒せるとか、そいう計算をしておきます。
逆にテクニック的なものはほぼないですよね。一発勝負でけっこう体力を消耗していくので、それほど精密なことはできないです。そういった意味では、参入障壁は低いかもしれませんね。それ以外の部分で壁は高いんですけど。
──ただただフィジカルとメンタルが重要になると。
えぬわた氏:
心が折れる人はいるんだろうなと。たまに挑戦して途中でやめる人もいますね。
──そういう方になにかアドバイスのようなものはありますか?
えぬわた氏:
個人的には「やめる」という選択肢もすごく大事だと思っています。意地になって最後までやって身体を壊したら元も子もない。
一応、僕のやり方としては、徐々に走る量を増やしていきました。2時間から3時間、3時間から4時間、そういう刻み方をして、自分の限界を少しづつ伸ばしていくということが大切ですね。
あとはやはり、日頃のフィジカルトレーニングが大切だなと。
──(笑)。やはりゲームの話に聞こえない。
えぬわた氏:
ちなみに100%に挑戦する際はカーボローディングも重要です。カーボローディングってご存じですか?
──いえ、初めて聞きました。
えぬわた氏:
マラソンの選手とかも取り組んでいるんですが、直前に炭水化物を蓄えてグリコーゲンという運動エネルギーになるものを蓄えて臨む。そういう知識とかも必要ですね。
──走られる前日は実際にどうされてたんですか?
えぬわた氏:
体調を万全にするというのと、炭水化物多めにとるというのと、あとは睡眠ですね。
──28時間やって眠くなりませんか?
えぬわた氏:
眠くなりますね。「100%」RTAはお昼の12時くらいに始めたんですけど、深夜2時くらいには眠くなるんで、座らないようにしていましたね。座ると寝落ちする可能性があるので。
──RTA中の食事も大変ですよね。
えぬわた氏:
カロリーメイトやゼリードリンクを、こまめに摂取するようにしてました。食事というより栄養補給ですね。
最後に重要なのはメンタル。そしてえぬわたさんは“ゲーマー”だった
──『リングフィットアドベンチャー』の100%RTAで一番大切な要素はなんでしょうか?
えぬわた氏:
最終的には体力よりメンタルの方が大切なのかなと。というのもこのRTAを走っている人で、僕以外にマッチョな人はいないんですよね。身体は大事ですが、意思がなにより大事です。
──どう自分と向き合うかとかですね。完走してどうでしたか。
えぬわた氏:
海外で少し話題になってくれて、海を越えて配信で応援してくれたのがありがたかったです。
僕も心が折れそうにはなるので、応援の力はすごかったです。孤独にひとりで練習しているときは辛いんですけど、本番走り終わったときは皆さんに感謝の気持ちを伝えたかったですね。
──完全にアスリートですね。オリンピック競技のインタビューのようです。でもお話を聞いてるとRPGのRTAによくある「精神の摩耗」だとか「ロスとリカバー」とかもきちんとある。そのあたりはきちんとゲーム的なお話になっているんですよね。興味深いです。
──今回「RTA in Japan」で走られるレギュレーションについてお伺いしてもいいですか?
えぬわた氏:
今回はワールド1の負荷30で「Intended」を走ることになってます。なので3ステージを17分18分程度でクリアします。レベリングも最低限です。「100%」RTAだと25周走るんですけど、今回は1.5周になります。
──最適解ですね(笑)。「100%」RTAとの違いはありますか?
えぬわた氏:
どうしても使える技が少ないので、その中でどれがDPSが高いのかを計算して走る感じになりますね。
──特別な見どころのような部分はありますか?
えぬわた氏:
RTAによく出てくるすごいバグとか、数フレームのテクニックとかは全くないのでそこは期待しないで欲しいですね(笑)。
──絵面はすごいですけどね(笑)。
えぬわた氏:
そうなんですよ。絵面しか期待できない(笑)。本当にまっとうにゲームに向き合って、ゲームを力でねじ伏せるのを見ていただくしかないかなって。あと短時間なので、できる限り綺麗にきちんと運動したいなと思ってます。
──最後に読者の方にコメントがありましたらお願いします。
えぬわた氏:
これよく言われるんですけど、僕はマッチョだから『リングフィットアドベンチャー』のRTAを走っているわけではないんですよね。アスリートである以上にゲーマーで、たまたま自分にあうRTAがあったからこのゲームのRTAをやっているというということを誤解されたくはないですね。
初めてやった時にちょっと非難の声もあったんです。アスリート的な人間が急に『リングフィットアドベンチャー』に乗り込んできたら、それはいい記録が出るだろうと。でも僕はゲーマーなんだよと思ってやっているんです。
──なるほど。肉体強者がちょっと気になったから挑戦したのではなくて、もともとゲーマーでありマッチョでもあったから『リングフィットアドベンチャー』のRTAに挑戦されたと。
えぬわた氏:
走っているうちに応援してくれるようになった人たちには感謝してます。その応援なしでは走ってこれなかった。さきほど「100%」RTAを走りきった時に応援してくれた人に感謝を伝えたかったというのは、そういう背景もあります。
──ありがとうございました。