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やっぱりスマゲーで1,200円は高い!?『マリオラン』の”ツラい”状況をゲーム開発者が語ってみた【「島国大和のゲームほげほげ」第三回】

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なぜ「買い切り型」にしたのか? その1:ゲーム性

 次に、なぜ『マリオラン』は買い切り型なのかについても考えてみたいと思います。

 コンテンツの内容はメディアで変化します。
 アーケードにはアーケードのゲーム性、コンシューマーにはコンシューマーのゲーム性。スマホにはスマホのゲーム性があります。

 アーケードは、100円でバンバン死んでバンバンコンティニューして欲しいですから、アクション&コンティニューのゲーム性(ゲーセンというのは、坪単価いくら稼ぐかの商売です。アーケードのゲーム機が1円でも多く稼ごうと思ったら回転率です)。

アーケードゲームはいかに「悔しい!」と思わせて、コンティニューしてもらうかが重要。

 コンシューマーは、買い切りメインなので、一度お金を払ったら以後タダで遊び放題というのがウリですね。コストパフォーマンスの面から長いゲームが求められ、メーカーも中古に流れにくい長いゲームを良しとしたので、RPGなどの長いゲームが好まれました。アクションゲームも繰り返し遊ぶタイプになります。

コンシューマーでは、腰を据えてじっくり楽しんでもらえることが重要。

 そして今隆盛している「基本無料+ガチャ・消耗品課金」タイプのゲームにも、それ用のゲーム性があります。基本的には、「無料で集客して場を形成し、場で楽しく遊ぶためには課金が必要」といったゲーム性ですね。
 全プレイヤーの1割程度が課金をするといいますけど、課金のハードルを低くするために、蓄積要素やキャラクター要素などが盛り込まれます。スキマ時間で遊べて、かつ長期間遊べるようなバランス。そして一人当たりの課金額を最大化するにはガチャや、イベントダッシュ。

スマホゲームは移動中などのスキマ時間で手軽に遊ぶことができる。

 あと無課金で広告だけの広告モデルもありますね。広告はそんなに大きい利益にはならないので、開発コストや運営コストのかかるゲームでは無理です。

 そして、『マリオラン』は、スマホという土俵で、コンシューマー的な買い切りで登場しました。

 ランゲームでアイテム課金のものもたくさんありますし、これだって「基本無料+アイテム課金」型にすることはできたわけです。そうしなかったのは、やりたいゲーム性なりがあったんでしょう。
 『マリオラン』の現状のシステムのままでは、アイテム課金化は難しいですし、ガチャも無理。そもそも長期的に継続プレイできるタイプのゲームではないですしね。

 正直1,200円にしても、最初から買い切りにして、序盤3ステージ無料にしない方がストアの評価は荒れなかったんじゃないのって話もありますが。
 なにしろマリオという大看板なので、これもいろいろな力学が働いたかなぁと。

なぜ「買い切り型」にしたのか? その2:安心感

 そして、買い切りで得られるもう一つのメリットが「安心感」です。

 世間が任天堂のゲームに期待するものに「安心感」があります。子供に「ほい」と渡して平気なゲーム。後から後から課金でお金を引っ張られたり、よくわからない広告をクリックしたりしないもの。エロ広告も出てこないもの。
 任天堂は、これを意識していると思います。このブランドをここまで維持してきたのも大変な積み重ねですし、そう簡単にそのブランドを毀損できないでしょう。

 これも、買い切りゲーじゃないと実現が大変ですね。

安心して遊べるという部分は公式サイトでも強調されている。
(画像は『スーパーマリオ ラン』公式サイトより)

 「広告なし課金なしの面白いゲームを作れ」とか、開発者はカスミを食え、と言わんばかりの発言も見かけますがこれは無視して。

 あと、『ポケモンGO』は安心じゃねーか、というツッコミをネットで見ましたが。
 『ポケモンGO』は、もともとポケモンが収集型のゲームだったので、「基本無料+アイテム課金」と相性が良かったですし、ヘルシー課金といいつつ、ソシャゲ定番のガチャとしての孵化装置やアイテムインベントリの拡張などがあります。
 というか、いわゆる基本無料型は『ポケモンGO』で成功したので、買い切り型を試したかったってのもあったんじゃないですかね?

 このあたりも、色々な力学が働いたんだろうなと推測します。

任天堂が守った「安心感」というブランド。

「買い切り型」が嫌われる時代がきてしまった

 ぶっちゃけると、「基本無料+アイテム課金」って、昔は忌み嫌われてたじゃないですか。月額課金も忌み嫌われてましたけど、それ以上に。

 それが今では、買い切りのゲームが嫌われるわけです。

 これはもう、時代の移り変わりを感じますね。「ゲームはタダで当たり前」という空気がもう作られてしまったわけです。
 言いたかないですけど、マジコンとかですね。某政党の代表のご子息とかも普通に使おうとしてたという話ですし、「カジュアルに違法コピーで遊ぶことへの慣れ+不景気の長期化」もあって、このあたりの感覚値が大きく変わったなと思います。

ゲームソフトの違法コピー・ダウンロードにより市場は大きな被害を受けた。

 そもそもネットゲームは、違法コピーでコンシューマーゲームが商売として成立しにくい中国、韓国で隆盛し、課金体系も練り込まれました(最初月額で登場し、基本無料の消耗品課金、ガチャ課金などを経て、今はハイブリッドですね)。
 スマホソーシャルのアイテム課金も、そういったバックグラウンドもあってのことです。一朝一夕で生まれた仕組みではない
 とうとう買い切りの方が嫌われるという時代です。
 
 知人のソシャゲーマーが言ってたんですが。

 「ガチャには夢がある。買い切りには夢がない。」

 これは、半分冗談ですけど。半分冗談ではないわけです。

ガチャには「夢」がある。この言葉の意味は重い。

課金のタイミングがストレス強め!?

 ゲームはメディアがCDになったあたりから、体験版とかが出てきましたが(ロムカセットは高くてそんなもの作れなかった)、これ、「どういう体験版が一番満足度が高いのか」を考えると面白いです。

 『体験版だけでひとまず満足できる。だが、満足し過ぎない。』

 これが優れた体験版だと思います。

 体験版で満足できないと、この先お金を払ったら満足できるのかどうかが不明ですし、満足できなかったという不満が大きくなります。ゲームの評判も下げかねない。
 逆に体験版で満足し過ぎると、もう本編を買う気が起きません。本末転倒ですね。

 『FINAL FANTASY VII』の体験版や、『逆転裁判』の体験版を覚えていたら思い出してみてください。あのキリのいいところまで遊べてとりあえず小さく満足させる感じが、おそらく本編を売るために必要な体験版でないかと思います。

やっぱりスマゲーで1,200円は高い!?『マリオラン』の”ツラい”状況をゲーム開発者が語ってみた【「島国大和のゲームほげほげ」第三回】_002
『FINAL FANTASY VII』の体験版は対戦型格闘ゲーム『TOBAL No.1』のおまけとして付属した。
(画像はプレイステーション オフィシャルサイトより)

 そして、上手くバランスのとられたソシャゲのアイテム課金やガチャって、ひとまず満足するところまで遊べて、そのあとで課金タイミングなんですよね(開始早々、ご祝儀として課金する人もいますけどー)。

 個人的な感想ですが、『マリオラン』は満足する手前で無課金パートが終わってしまうので、ストレス強めですね。

 あれを一般的なソシャゲの文法にのっとって作るなら、ステージ数を10倍ぐらい水増しして、無課金で遊べるステージをもっと増やしたうえで、後半で課金したくなる仕組みをねじ込むと思います。ここまでプレイしたからには辞めちゃうのはもったいない、と思ったあたりが課金時でもありますし。

やめるのはもったいないと思った時が課金時。

 このあたり、どういうのが良いかは人によっていろいろ違うわけですが、ソシャゲって何%がどの辺で離脱したかとかが、がっつりデータが取れるので、最大公約数を狙って調整がなされていくわけです。
 DeNAなんてものすごいデータの蓄積があったでしょうから、狙い撃ちするならできたと思うんですけどね。不満が少なくて、利益を最大化するあたりの落としどころを。
 いろいろ考えた結果か、何かの力学が働いたか。

 マリオという大看板の価値を毀損するわけにはいかんわけですので、無料や安い値段はつけにくい。
 マリオとつけたからには、ガチャやイベントランキング課金ってわけにはいかぬ。
 マリオとつけたからには、見事なゲームでなくてはならない。
 マリオとつけたからには、多くの人の思惑が交差する。

 こりゃ大変そうだー。

ゲーム内容のあれこれ

 話題として一番ピーキーだったのが課金付近だったのでその話に終始しましたが、ちょっとだけゲーム本体について語らせてください。

 『マリオラン』はかなり丁寧にチューニングされていて、ローディングのタイミングとか、ストレス回避のために使われた労力はかなりのものだと思います。
 こういうところって、目に見えてなにかが変わらないし、効果測定テストするにも大掛かりなのでので、コストかけにくいんですよ。さすがの任天堂だと思います。
 ゲームバランスもずいぶん練ってあって、プレイしていると結構な発見があります。

 ただ、不満も多いです。
 昨今のスマホゲーム事情からみると、ちょっと難度上昇曲線がキツめだし、快感要素も少ないです。チュートリアルに重要な情報が入ってなかったりもする。

 さらに言うと、マリオという、土管の上に乗ってはしゃがむという探索型ゲームと、ダダーっと走りまくるランゲームは相性が悪い。この辺は、本来はソニックとかの領分ですよね。

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土管の中や空の上といった様々なところに隠されたコインやアイテムを探し回るのも『スーパーマリオ』の醍醐味だ。
(※画像は3DSバーチャルコンソール版『スーパーマリオブラザーズ3』 任天堂ホームページより)

 また、ワンキーアクションとしてよく練られたゲームシステムですが、マリオという、もともと自由にあっちこっちいけるゲームのキャラだと、動作を制限されている印象を強く受けます。
 しかもやってることがコイン集めなので、めちゃくちゃストイックですね。

 普通のマリオならコインを取り逃がしても、タイムアウトまでは同じところを何度も挑戦すればいいわけですが、ランゲーなので、失敗すると死に戻るとか、三角蹴りとか、泡を使うとか相当ストレスがたまる
 ランゲー的なつくりをする場合、ストレスを高め過ぎないように死なずに走ればOK、コインは取っただけプラス、みたいな方向にバランスを取るわけですが、マリオですからそうしちゃうとマリオっぽくない。

 というわけで、わりと「マリオ+ワンキーランゲー+固定額売り切り+無料パート少なめ」という、かなり険しい道を選んだタイトルだなと思います。

 いいですねー、チャレンジ。
 チャレンジなくして進化も発展も青い海もないッス。

まとめー

 『マリオラン』はずいぶん「今風」に抗ったゲームシステムと値段設定だと思います。
 業界でこそこそ食べてる人間としては、超ウェルカム&頑張れー、といった気持ちです。

 過当競争もかなり限界まで来ていて、いまのままのスマホソシャゲ的な商売はどんどんつらくなるでしょう。
 いろいろな商売パターンを試すのはどうしても必要です。
 任天堂みたいな、予算も強力なIPもあるところがチャレンジしてくれるのはありがたいことです。

 任天堂ではありませんが、スクウェア・エニックスも、買い切りゲームを多く出していて利益も出ており、今後も力を入れていくとのことですね。

 ソシャゲしかない状況よりも、ソシャゲもあるし他のゲームもあるといった状況の方を自分は好みます。

 願わくば、「ゲームなんか腰掛けだ。無茶してこれで利益だしたら次の何かに行くぞ」って会社に市場制覇されるよりも、「ゲームをしっかりと作っていくんだ」って会社には頑張ってほしいものです。こちとらゲーマーなので。

 はい。では今回はこんなところで!

文/島国大和

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