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【新連載】「とある魔術の禁書目録」は”格ゲー”世代? 鎌池和馬が語るゲーム史がラノベ作家に与えた影響【ゲーム世代の作家たち】

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「Web小説」に今までの創作理論を捨てて挑んでみた

――最近出た『最強をこじらせたレベルカンスト剣聖女ベアトリーチェの弱点 その名は『ぶーぶー』』【※】について聞いてみたいんです。あれ、実は最初に話した「ソシャゲ」世代の「Web小説」系へのオマージュとして書かれているように思うんです。

最強をこじらせたレベルカンスト剣聖女ベアトリーチェの弱点 その名は『ぶーぶー』  (画像は電撃文庫公式サイトより)
イラスト/真早
※最強をこじらせたレベルカンスト剣聖女ベアトリーチェの弱点 その名は『ぶーぶー』
やけにゲームライクなシステムの異世界『グランズニール』で最強の座に上り詰めた剣聖女ベアトリーチェと、彼女と将来の約束を交わしたという伝説の男『ぶーぶー』。彼ら二人を中心に巻き起こるドタバタ異世界交流。
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鎌池氏:
 ええ、そうですね。
 『インテリビレッジの座敷童』【※】を執筆している最中に、自分が取り扱っている社会問題が中高生向けじゃなくなっていったんです。国の借金の話とかって、重要な話題ではあるけれども、中高生がリアルに身近に感じる物語とは言いがたい。そこで中高生に思い切って寄せた作品を書いてみたくなったんです。
 そのとき、一度2004年頃から構築してきた理論が、2015、6年になって通じるのかを一旦疑ってみて、思い切って時代の流れに寄せてみたんです。

※『インテリビレッジの座敷童』
電撃文庫MAGAZINEのイラスト企画『illust×story』のコラボレーション企画として発表されたオカルトコメディ。シリーズは全9巻で、鎌池和馬による「初・シリーズ完結作品」でもある。

――なるほど。具体的には、どういう変化を意識されたんですか?

鎌池氏:
 2004年頃は、主人公が「最強に見えている敵」に対して弱点をどう探すか、というタイプの話が非常に強い魅力を持っていたんです。ただ、それも2010年を越えてきた辺りで、「シャーロック・ホームズが苦しんでる姿をわざわざ見たくないよね」みたいに、途中の苦労をスキップするのが当たり前になってきたような、と感じています。
 そうなると、謎解きで物語を作るにしても、出し方を変えていく必要があるんです。例えば『刑事コロンボ』みたいに最初は敵側の視点に立って、あとからどんどんボロが出ちゃうタイプの話はどうだろう、とかね。

 その一つの回答が『最強をこじらせたレベルカンスト剣聖女ベアトリーチェの弱点 その名は『ぶーぶー』』だったんですよ。ただ、ストーリーの骨格は原点回帰にしています。例えば1章は竜退治で、2章は時代劇でも描かれる一対多数のチャンバラで、3章は1対1の決闘という風にして、一世紀以上前から続く伝統やロマンにRPGやMMO的な味付けをする事で、誰でも楽しめるものを作ってみたつもりなんです。

三木氏:
 具体的に言うと、世界観は新しめに、でもやっていることはオーソドックスに、という感じですかね。

――先ほどの「ソシャゲ」世代の「Web小説系」の分析は、この経験から出たものだったんですね。ちなみに、手応えはどうでしたか?

鎌池氏:
 結局、共通認識化は済んでいると思っていたゲーム的な要素についても、やはり説明は必要だということが分かってきたんです。なんにせよ丁寧にケアしていくことは大事だな、と。結論としては「やっぱりページ短縮にはならないなー」っていう(笑)。

――うーん(笑)。我々も読ませていただいたのですが、鎌池さんのずっとやってきた「意地と意地のぶつかり合い」で、最後はガッツリ処理していて、「ああ、これは“Web小説系”の皮を被った鎌池さんだ」と思いました。

三木氏:
 でも、今の鎌池さんの言い方ってかなり計算しているような感じですが、単純に「私だったらこう書くけどな?」という想いの純粋な発露に、僕には見えましたけどね(笑)。

シリーズ完結編『インテリビレッジの座敷童9』(画像は電撃文庫公式サイトより)
シリーズ完結編『インテリビレッジの座敷童9』
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「拡散性ミリオンアーサー」誕生の経緯

――ちなみに、まさに“ソシャゲ”であるところの「ミリオンアーサー」を鎌池さんは実際に手がけられていますよね。

鎌池氏:
 最初はパソコンのブラウザゲームだったんですよ。持ち込まれたときは、2Dのアクションゲームにストーリーを乗せられないかという話だったと思います。
 例えば戦闘機モノの無線通信みたいに、戦況報告やキャラの掛け合いをラジオドラマみたいな感じで出して、アクションゲームをしているバックグラウンドで音声を流してストーリーを作れないか、みたいな話です。まあ、それが紆余曲折あって、なぜかスマホゲームになったんですけども(笑)。

――それを「ミリオンアーサー」に組み込んでいった、と。そのときに、ソーシャルゲームの特徴を考え抜かれたと思うんです。

鎌池氏:
 ソーシャルゲームって、やっぱり「こういうものですから」で済ませる発想が強いので、まずはジャンル全体に改めて疑問を抱くのが結構大切でしたね。
 例えば、スクエニ様からは「もう全員女の子でいいんじゃないですかね?」という話も出たんですけど、「うーん、まだ早いなあ(笑)」みたいな。「そいつは地盤を固めてからじゃないですか?」みたいな話し合いをしたりして。

――ラノベ作家のほうが常識的な対応をするという(笑)。

鎌池氏:
 まあ、当時はガチャやカード合成がメインだった時代なんですよ。
 私も実は話が来た当初はスマホゲームをやっていなかったのですが、調べてみるとそういう話が出てくるわけです。でも、モンスター同士の合成ならわかるけど、スポーツ選手や不良などを題材にした現代風のゲームで、ガチャで入手した人同士を合成すると強くなるのとかを見て、システムとしてはありだけど、作品世界の中で彼らは一体どうなってしまったんだというか、これはまたシュールすぎるな、と(笑)。
 そこら辺の設定にまつわるナゾな部分を、改めて回答してみようと挑んだのが「ミリオンアーサー」でした。

――ちなみに、鎌池さんは「とある」シリーズのゲーム化でもシナリオをされてますよね?

鎌池氏:
 原稿レベルですべて書いたものもあれば、監修したものもあります。
 ただ、あっちは私が書いた小説のフォーマットの文章を、向こうにゲームに落とし込んでもらったという感じです。どちらにしてもストーリーに重きを置いてもらい、かなりわがままを言わせてもらっているので、シナリオライターと呼ばれるとすごく違和感があります。これは「ミリオンアーサー」のときもそうでしたけど。

――でも、そこは作家ならではの謙遜のような気もするのですが、三木さんどうでしょうか(笑)?

三木氏:
 いやいや、僕は大変に器用だなと思いましたよ。
 ゲームは地の文がないし、そんなにダラダラと長いものは読まない。そういうテクニカルな部分はまずキッチリと意識して打ち出していたのが凄いと思いました。

鎌池氏:
 とはいえ、求められたのはゲーム単品での独自性より、原作のテイストの方を強めに出すことだと思うんです。それに乗って、「まあ多少わがままが利くかな」という印象で仕事をさせてもらったところはありますね。

――まずは原作者としての役割を果たした、ということですね。

(画像はPlaystation Vita版『拡散性ミリオンアーサー』プレイステーション®オフィシャルサイト ソフトウェアカタログより)
(画像はPlaystation Vita版『拡散性ミリオンアーサー』プレイステーション®オフィシャルサイト ソフトウェアカタログより)

最初に触れたメディアはゲームだった

――鎌池さんご自身は、ゲームを作ってみたいという想いを抱いていた時期はあったんですか?

鎌池氏:
 やっぱり、自分の考えたストーリーを漠然とでも形にしたいと思ったとき、真っ先に本やゲームが浮かんでいたのはありますね。
 たぶん影響を受けたメディアとしては、映画の存在が大きいんですよ。でも、さすがに映画は1人で作れないことはわかる。それに対して、ゲームは当時ハードルの高さがわからなくて、気軽に作れるような気がしてしまったんですね。実際には、大きな会社に入って、多くの人をまとめながら作っていくものだったわけで、ただの錯覚ですけどね(笑)。
 その意味では、ゲームというのは私にとっては良くも悪くも身近なメディアだったんだと思いますね。テレビ台の下にとりあえずあるものであって、ゲームを特別視するような世代ではすでになかったんです。映画なんかと同じ、ストーリーを表現する大きな箱の一つでしたね。

――でも、お話を聞いていると、メディア体験としてゲームが大きい気はするんです。

鎌池氏:
 最初に触れたメディアがゲームなんですよ。小説よりも、いや漫画よりも早いかもしれない。『ロックマン』なり『ワギャンランド』なりをやりながら、自分なりに思い浮かべたストーリーをベースにしてボタンをカチカチ連打していたんです。そこをベースに培われていったものはあると思います。ゲームに最初に触れた頃に、すでに物語を作りたいという感覚があって、後追いで小説とか映画をやりたいと思っていった感じです。

 ただ、その後は「ゲームかな? 文章かな?」と行ったり来たりしていた感じですけどね。そこからラノベに行ったのは、手の中にあるツールで作れるものは何か、取捨選択の連続だったのかなと。イラストにも馴染みがあったし、富士見ファンタジア文庫や角川スニーカー文庫、もちろん電撃文庫も読んでいましたから。
 まあ、当時は何かしらストーリーめいたものを作りたいという夢だけがあって、あとはフラフラしていた感じですよね。ゲームをやるにはサラリーマンになるのかあ、小説家は狭い門なのかあ、と諦めたり戻ったりを繰り返してました(笑)。

――普通の人っぽいエピソードで、安心する読者も多い気がします(笑)。でも不思議なんですが、インタビューであまりそういう話はされてきていないですよね。これは他の「ゲーマー世代」のクリエイターの方も同様で、皆さんゲームにものすごい時間を費やしてきたはずなのに、いざ影響の話を改めて聞くと、映画や小説の影響ばかりを語ってしまう傾向がある気がするんです。

鎌池氏:
 まあ、私は小説なんかは、読んでいたのは年間せいぜい10冊とか20冊くらいなんですよ。映画は週に1~2本のペースでしたけどね。映画館にこそ行かなかったですが、金曜ロードショーや日曜の放送を見ていたんです。ネット全盛の今と違って、タダで楽しめる娯楽の代表でしたし。実際のところ、私の場合も客観的に見て、映画の影響はやはり大きいんですよ。エンタメと聞いたときに、まずはアクションが思い浮かぶし、ホラーと聞いてもまずは手足を動かして脱出する映画的な物語が思い浮かんでしまう。

 ただ、時間で言えば、ゲームの割合は大きかったとは思います。まあ、多くても1日7時間程度だった気はするんですけど、確かにメディアへの接触時間の割合で言えば半分くらいは占めているんですよ。基本は“やりこみ派”だったんですけど、月に1本はどんなときでも新しいゲームに触れていたと思いますしね。中古屋で買いあさって千円くらいのものをいつも何本もやっていたし、当時は2ヶ月に1本くらいのペースで「絶対やりたい」という新作は出ていましたから。

2013年にバンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンタテインメント)より発売されたPlaystation Portable用アドベンチャーゲーム『とある魔術と科学の群奏活劇(アンサンブル)』。
鎌池氏は4つあるルート内の一つ「魔術・表」ルートを書き下ろしている。
(C)鎌池和馬/アスキー・メディアワークス/PROJECT-INDEX MOVIE
(C)鎌池和馬/冬川 基/アスキー・メディアワークス/PROJECT-RAILGUN
(C)2013 NBGI

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