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人はなぜ少女にメカをくっ付けるのか──島田フミカネら7人が語るメカ少女。“ガチになるほどキモくなる”デザイン論から、ガンダムに喰われないための深海魚戦略まで

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『アリスギア』を「ずっと戦っていけるIP」にするために島田フミカネ氏を起用した

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──ここからはメカ少女としての『アリスギア』について深掘りしていこうと思います。ピラミッドさんは過去に『武装神姫バトルマスターズ』を手掛けられていますが、今回はなぜメカ少女ものになったんでしょう。

柏木氏:
こういったジャンルは僕自身も含めて、うちの会社のスタッフたちがすごく好きなんですよ。少し昔の話をしますと、2004年頃に『ガンスリンガー・ガール』という作品を題材にしたゲームを作らせていただいて。以前から女の子と銃火器の組み合わせという題材には縁があったんです。

ですので「またそういったゲームを作りたいね」という話はずっとあったんですが、今までは機会に恵まれず、今回自分達で好きなものを作っていいよって話になってですね。

そこで僕はバリバリのシューティングゲーム(以下、STG)が大好きなので、STGを作ろうじゃないかと。しかもずっと戦っていけるIPとして。

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──バリバリのSTGでずっと戦っていけるIPというのは、正直に言って難しいですよね……。

柏木氏:
 ええ。そもそもロボットとかシューティングとか、そういう単語を会社の中で使うと怒られていて。社内で「シューティングゲーム禁止令」みたいなものが定期的に発令されてました(笑)。

 正直なところ、いつものメカメカしいSTGには限界があるので、人気のIPを作るためには顔となるもの──キャラクターが必要だと思ったんです。ところが、僕らだけでやるとカッコよさだけに振っちゃって、可愛さを忘れちゃう。そこでカッコよさと可愛さをデザインから作れる人と組みたいと思ったときに、やっぱり島田フミカネさんじゃないかと。

 だから僕らとしては、STGとして生き残って──みんなの手にとってもらうために最適解を選んだつもりです。

──そういった経緯があったんですね。また、メカ少女と言ってもいろんなテイストがありますが、“『アリスギア』のメカ少女”はいつごろ固まったんでしょうか。

島田氏:
 それでいうと吾妻楓ちゃんをデザインしたときですかね。彼女が最初の一体でして、基本となるものだから全て中ぐらいのサイズ。武器も刀とライフルっていう、すごく一般的なもので。本当になんか、『機動戦士ガンダム』における「RX-78-2ガンダム」を描いてくださいっていう発注だったんですよ。

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吾妻楓

 この段階で考えていたのは、わかりやすいところだと背中ですね。例えば、『アリスギア』はゲームシステム上、プレイヤーはずっとキャラクターの背中を見ていることになるので、背中やお尻にでかいパーツを付けすぎると、後ろ姿が見えなくなっちゃうんですよ。
 だからメカをアームで支えるのではなく、浮遊パーツにしようとか。

 変形したり展開するパーツなんかも、前側に展開するより、横にシルエットが拡がるようにした方が後ろから見たときには変化がわかりやすいんですね。

海老川氏:
 いま話を聞いて、実際にデザインして「ああ、これがメカ少女というジャンルなんだ」と驚いたことを思い出しました。
 開発段階の宇佐元杏奈(うさもと あんな)の原型を島田さんが見たときに「これは後ろから見ても、お尻がしっかり見えていていいですね」って言っていたのが、すっごく頭に残っていて。そういうメカ少女ならではのコツがあるんだなと思って。

──ビハインドカメラ【※】のゲームならではの方法論ですね。背面のデザインに注力するというのは、『アーマード・コア』や、『オメガブースト』という作品でデザインを担当された河森正治氏が意識していたと訊きますが、お尻が隠れないようにするというのは、メカ少女ならではだと思います。

 

※ビハインドカメラ
後方視点。主に3Dのゲームで、操作キャラクターの背後にカメラが固定、あるいは半固定されている状態のことを指す。『モンスターハンター』シリーズや『DARK SOULS』シリーズなどもビハインドカメラを採用している。

柏木氏:
 (一呼吸置いて)お尻のレギュレーションは、最初にすごく言ったのですが、社内のデザインでもいくつか守られていない物が存在します。

野内氏:
 それは、どんなレギュレーションだったんです?

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柏木氏:
 いや、ずっと後ろから見るから、お尻のところはパーツを置かないで欲しいという話をしたんです。

野内氏:
 ああ、そういうことか。

柏木氏:
 それなのに、今は結構隠れちゃっているやつが多くて。

海老川氏:
 多いですよねえ……初期のやつは、ちょっと直したいやつがある(笑)。

一同:
 (笑)。

統一感を重視した『アリスギア』流のメカ少女デザイン論

野内氏:
 メカ少女を描くことになった柳瀬さんと海老川さんはどうなんですか? 基本はメカをメインで描いていたわけじゃないですか。

柳瀬氏:
 島田さんにキャラ監修をしてもらえるので、割と自由にやらせてもらった感ありますね。

海老川氏:
 僕がこれまでやってこなかったジャンルなので、本当に新鮮な気持ちで楽しくやっていますね。だから「わからないので教えてください!」って素直に言えるし、島田さんに聞くときも変なプライドが邪魔してこなくて(笑)。

柳瀬氏:
 俺は若干そのプライドがあったけどね(笑)。でも途中からは「いや、やっぱりチェックしてもらおう……お願いします、島田先生!」って(笑)。

──島田さんは監修という立場ですが。

島田氏:
 監修としては、「ここは設定の範囲を超えているかな」とか「ここをちょっと変えれば、ぐっと統一感が出る」みたいな話はしますね。『アリスギア』は基本的に世界がひとつで、極端に違った科学体系のものが存在しない──つまり人類かヴァイスかの二種類しか存在しないって設定なんですが、ゆえにそういう時代感とか、ある程度の統一性みたいなものは残したいなっていう部分がありまして。

 でも逆に、皆さんのデザインからアイデアを得ることもありますね。『アリスギア』には動物をモチーフにしたギアが多いんです。
 柳瀬さんデザインの文嘉は鹿がモチーフなんですが、初期稿はつま先がブレードみたいな形状になってました。ところが、後から海老川さんがデザインした猪モチーフのリンが上がってきて見てみたら、つま先が蹄のようになっていて。

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日向リン
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 蹄なのは、猪だからある意味当然なんですけど、「なるほどな」と……。鹿も猪も基本的にはウシ目だし、自分担当の愛花も羊なので、蹄は共通要素にしようと思いついて、後からデザインを修正したんですよ。

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百科文嘉
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相河愛花

柳瀬氏:
 そういう意味で、『アリスギア』のデザインは難しいと思うんですよ。そういえば怜ちゃん、最初はイヌガミって名前だったんです。だから俺さ、犬モチーフだと思って描いていたら「いや、あの、鷹です。」って言われて(笑)。「じゃあ、なんで名前に犬って入れたんですか?!」って。だから小鳥遊という名字もこちらが提案したんです。

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小鳥遊怜

──『アリスギア』はキャラクターの名前が特徴的ですよね。シタラちゃんの名字の兼志谷(かねしや)はインド神話の“ガネーシャ”が元になっていたりとか。

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兼志谷シタラ

柏木氏:
 アリスギアのキャラクターの名前は開発中にかなり変更していました。モチーフやバックボーン、そしてアナグラム的な内容を、シナリオチームのほうで組み直したりしながらよく考えてだと思います。

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インドの神様 商売の神様 ブロンズ ガネーシャ像(画像はAmazonより)

海老川氏:
 そういうのを見て僕らはデザインするんですけど、実際に経験してみて、キャラとメカ、その両方が描ければできるかと言われれば、そうじゃない。「キャラとメカを融合させる」という、違うスキルが必要なんだなと実感しましたね。

 なおかつ、どう混ぜればモチーフがデザインに残っていくのかなっていうのもありましたし。

──キャラクターを一体作るにしても、キャラクターとギアを作り、そしてデザインの整合性をとる作業にしても、コスチューム、ギア、アクセサリーとすべてが繋がるように作るのは至難の業だと思うんです。そこをあえて自ら突き進んでいると言いますか。

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柏木氏:
 まあ、大変ですね。うちはモデリングにしてもキャラクターとメカ部分は別々の人間でやっていますし……そういえば、模型ではキャラクターを作る人とメカの部分を作る人はバラバラで作る場合が多いんでしょうか? 

野内氏:
 最初はキャラ部分だけフィギュアの人間がやって、メカはメカの人間が担当していましたね。ただ、元々『アーマード・コア』の『ヴァリアブルインフィニティ』【※】シリーズとかを作っていた会社なので、中には両方できる人間もいまして。原型師である浅井真紀さんもそのタイプですが、そういう人が担当するときは両方お願いしましたね。

鳥山氏:
 ちなみに『メガミデバイス』は別ですね。

島田氏:
 でもフィギュアにしても、ゲームにしても、その面倒臭さが最終的にメガヒットの方向には跳ねないんですよね。

一同:
 (爆笑)。

島田氏:
 例えば、メカ少女を1体描いている間にセーラー服の女の子だったら5人描けるぜっていうのが実情なんです。原稿料が5倍になるわけじゃないのに(笑)。その結果、メカ少女は昔からずっとあるジャンルにもかかわらず、描き手がなかなか増えないジャンルなんですよ。結局はそこなんですよね。

鳥山氏:
 ああ、そうですねえ。

野内氏:
 本当に。

島田氏:
 描ける人が急に増えるわけじゃないし、描ける人だって毎回描くわけでもない。『艦これ』さんのコミックを読んでいても、日常モノだとすぐ装備外されちゃう。それぐらい描くのが大変なんですよ!

一同:
 (苦笑)。

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──線が多いデザインはイラストを描くのがたいへんでしょうしね……。ちなみに、『アリスギア』ではプログラム上で実現が難しかった、などの苦労はあったのでしょうか。

牟田貞治(以下、牟田)氏:
 バーニアとか……。

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牟田貞治氏

一同:
 ああー……。

海老川氏:
 僕のデザインって、だいたい上半身にバーニアを付けるんですけど、上半身のバーニアがゲームの仕様上、噴射しないんだってことにずっとあとに気が付いて。 「あ、しまった……!これは余計だった……」って。

鳥山氏:
 バーニア噴射に関しては、ゲーム内だと下半身だけだもんね。

海老川氏:
 そうなんです。下半身から噴射しているので。あの上半身のバーニア、いらないな…と思って(笑)。

柏木氏:
 バーニアは、上半身もつけたかったんですけど、処理が重すぎて……。

海老川氏:
 それこそ、出撃シーンで前ダッシュするときにバァーっと噴いていたら、「まあいっかな」と思っていたんですけど。一切使っていないんで。

柏木氏:
 あれ、でもこれバーニア出てない?(牟田氏を見ながら)

牟田氏:
 ……コッソリ直しました(笑)。通常のダッシュとかでは厳しいんですけど、一部のSPスキルを発動している間限定で、演出としてなんとか噴射できるようにしています。

──コッソリ(笑)。

島田氏:
 そうそう、苦労といえば一条綾香ちゃんの盾なんですけど。あれ、すごい複雑な模様が入っているんですけど、実はテクスチャじゃなくてポリゴンなんだよね。

柳瀬氏:
 ウソ……!?

牟田氏:
 モデリングでやっているんです。

柏木氏:
 じつはこれ、プログラマー激怒案件で。モデリングの人間が勝手にやったんですよ

一同:
 (爆笑)。

野内氏:
 勝手にやったんだ(笑)。

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島田氏:
 でもレギュレーションは守っているんですよね。

柏木氏:
 ええ、レギュレーションを守っているし、テクスチャも使ってなくて、パッキリ出るのでいいんですけど……「ムダなことをするな!」と。

野内氏:
 (実機で確認しながら)おお、これが全部立体なんだ。すごいなあ。でも、もっとやりようがあっただろうに……。

──でもどうしてポリゴンでやることになったんですか?

島田氏:
 最初はこの面積だと、盾のテクスチャの容量が足りないからって言われて、「じゃあもっと簡単な模様にします」って言っていたら、担当さんが「ポリゴンでやればできる!」みたいなことを言い出したんですよ。

野内氏:
 彼はなんて恐ろしいことを言うんだ(笑)。

島田氏:
 だからこの表面の模様、テクスチャじゃなくて、全部一枚板の色のついたポリゴンなんですよ。

柳瀬氏:
 ほんとだ……モデリングしている。画像処理じゃないんですね。

島田氏:
 うん。モデリング担当の人が、なんか「テクスチャじゃなくって、ポリゴンでやればできるはず!」って。

一同:
 (笑)。

──結果、かなったんですね。

島田氏:
 はい。結果、できちゃいました。

柏木氏:
 いやまあ……「ありえないでしょ?」って。あとバージニア・G(グリンベレー)ちゃんの専用ギアの迷彩模様も、最初は海老川さんから来たデザインが単色だったのに、島田さんが「迷彩にしようぜ!」ってデザイン指示書に迷彩模様を描き加えて「メールにとんでもないことが書いてあるぞ!」ってメカモデラーが大混乱になりました。

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バージニア・グリンベレー

海老川氏:
 ああ、そうそう!

一同:
 (笑)。

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ミリタリー色の強い迷彩柄が特徴的なバージニア・グリンベレーの専用ギア。設定画には迷彩仕様に決定した後の指示が書き記されている。

島田氏:
 僕、3Dで迷彩の模様をちゃんと貼るっていうのが、そんなに面倒くさい作業だとは知らなかったので……(笑)。

柏木氏:
 そうですよねえ……。この迷彩模様はですね、右と左とか全部バラバラなんですよ……(遠い目)。

島田氏:
 怜ちゃんの専用スーツも、手足の横にジャージみたいな白いラインが入っているけど、あれも関節とか動かしたときにきちんとラインを繋げるのが、「すげえ面倒くせえ!」って後で聞かされて。

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野内氏:
 本当、すみませんって感じだね。

島田氏:
 でも、「じゃあ描き直しましょうか?」って言ったら、「いや、これでいいんです!」みたいに返されて。

一同:
 (笑)。

島田氏:
 「すげえ大変だった!っていうことを、とにかく伝えたかったんです」って。

柏木氏:
 長文でいかに大変だったかっていう現場モデラーの気持ちと苦労を代弁したメールを……頻繁にデザイナー陣に送っているんです。

──長文(笑)。

島田氏:
 なんか「対処しましょうか?」って言ったら、よく「もう作ったもんは作った!」って話になって。

柳瀬氏:
 いや、本当にこだわってんなーって思いましたね。

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