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型破りのゲームデザインで400万DL・MAU70万超突破。ゲーム実況者と一緒に作る、実況向きのゲーム作りとは?

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『脱獄ごっこ』はまいぜんシスターズが実況しやすいように、オーダーメイドされたゲーム

──実況しやすさとゲーム性の関係について、もう少し詳しく聞かせてください。『脱獄ごっこ』がほかのオンラインゲームと決定的に違うのは、どんな点だと思いますか?

戸塚氏:
 『脱獄ごっこ』の最大の特徴は「アイテムをランダムで渡す」という部分だと思っています。普通のゲームだと、得意な武器を自分で選んで持っていくじゃないですか。
 もちろん『フォートナイト』みたいに、何も持っていない状態から武器を拾い集めて揃えるものもありますけど、それにしたって、拾い集めた中から自分の得意な武器を選んで変えられるわけで。

 でも『脱獄ごっこ』の場合は、最初にアイテムを全部ランダムに渡してしまうんです。最初は僕としても難しい仕様だなと思っていました。
 でもよくよく考えてみると、ユーザーにランダム性を強制することで、毎回実況しやすくなるんですよね。「ヘンな武器を渡されちゃって、どうすりゃいいんだ!」というふうに、まず最初のリアクションを取ることができる。
 まいぜんシスターズは実況を繰り返すことで、そういうツボをしっかりと把握しているんだろうなと思います。

──なるほど。その点で思い出したんですが、ニコニコ動画で自作ゲーム実況が流行った時期に、クリエイターから「実況者のリアクションを想定して仕掛けを作る」という話を聞いたことがあって。
 たとえば、ムチャクチャな難度のだまし討ちみたいな仕掛けって、ゲームとしてはまったく面白くないんだけど、実況した時のリアクションは引き出せる。「難しいトラップだとか仕掛けだとかは、ゲームの難しさではなく、あくまで実況者のリアクションを引き出すもの」という考えなんですね。『脱獄ごっこ』もたぶん、それと近い発想だと思うんです。

戸塚氏:
 その通りですね。かなり近いと思います。

──その視点は、普通のゲームデザイナーからは決して出てこない発想ですよね。

戸塚氏:
 非対称型の対戦ゲームに人狼の要素を組み込んだのは、まいぜんシスターズが2人組の実況者だというところに理由があると思っています。そのほうが、ストーリーが作りやすくなるんですよ。

 普通にみんなが市民だったら、ぜんいちも市民だ、マイッキーも市民だ、じゃあ一緒に協力しよう、で終わっちゃうんです。でも人狼の要素があると、最初はお互いに敵か味方か分からないんですね。毎回「僕は市民だよ」と言いながら、ストーリーを作ることができる。ぜんいちとマイッキーの2人組だからこそ、この人狼の要素をしっかり表現できる。
 具体的に彼らに「こういうことですよね?」と確認したわけではないんですけど、たぶん全部動画につながっているんだと思います。実際に彼らの動画を見ると、そういうことをやっていますし。

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(画像はトイレで遊んでたら泣いた【脱獄ごっこ】 – YouTubeより)

──「実況に向いているゲームってなんだろう?」というのは、けっこう重要なテーマだと思っているんです。これまでは、ゲームは遊ぶものだと思われてきたけれど、今は動画や配信などで「見るだけでも楽しい」という認識が広がっている。そこにちょっとしたインタラクティブ要素が加わることで、「ゲームを楽しむ」という市場の裾野がさらに大きく広がる可能性があると思うんです。

 でも、その「実況に向いている」ということに本気で向き合っている人はまだ少ないように思えるんです。その点で戸塚さんは、今の日本で実況向けのゲームについて、かなり深いところまで考えている、数少ないうちのひとりだと思います。
 なのでその点について、もう少し具体的にお聞きできればと思います。

戸塚氏:
 それで言うと、YouTuberというのは千差万別という結論になってしまうと思っています。僕が今話していること自体は間違えていないと思っているんですけど、ただそれが最終的にハマるかどうかは、各クリエイターによるはずなんですよ。

 YouTuberにはそれぞれ、彼らなりの編集論やストーリーテリングが必ずあって、それが個性となって視聴者に刺さるんです。動画を見ているファンもそこに敏感で、編集のやり方を急に変えたりすると、コメント欄に編集に対しての感想が書き込まれたりするらしいんです。

 だから「実況しやすいゲーム」というのは、見た目を派手にするだとか、難易度を上げて死にゲーにするだとか、そういういった普遍的な動画映えだけではなく、究極的にはその実況を行うYouTuberに向けてパーソナライズされる必要があると思うんです。
 その意味では、『脱獄ごっこ』は、まいぜんシスターズ自身が自分たちで実況しやすいように作られているわけですね。なにしろ彼らが実況に使いたいと思うアイテムを、自分たちで考えて追加したわけですから。
 もちろん僕も、まいぜんシスターズもみんなが楽しめるゲームを作ろうとしているし、今もその気持は変わらないんですが、極論すると、『脱獄ごっこ』はまいぜんシスターズの実況に最適化されたゲームなんじゃないかなと思ってます。

──『脱獄ごっこ』はまいぜんシスターズさんのオーダーメイドで生まれたゲーム、ということですね。

戸塚氏:
 そうですね。たとえば「待ち伏せする動画はみんな楽しんでくれる」という話にしても、彼らが自分たちの視聴者と向き合っての話なので。そういう意味では、彼らのファンに向けてパーソナライズされたゲームとも言えるのかもしれません。

──先ほども仰られていましたが、なぜ待ち伏せする動画の評判が良いのでしょう?

戸塚氏:
 まいぜんシスターズはぜんいちとマイッキーのコンビだと紹介しましたけど、ぜんいちは頭が良くて、マイッキーは天然の可愛らしい方なんですよね。そんなふたりがときには騙し合いながらも、大切な友人としてゲームを楽しんでいる姿から、『トムとジェリー』みたいな愉快さを視聴している方は感じているのかもしれないです。

 トラップが映えるのもきっと二人の会話があってこそだと思います。なので、もし別のクリエイターとがっぷり四つに組んでゲームを作っていたら、非対称のゲームを作ったとしても『脱獄ごっこ』とはまったく違うものになったと思います。

──なるほど。あくまで、まいぜんシスターズさんにマッチするからこそなわけですね。

戸塚氏:
 そうですね。振り返って考えてみると、自分は前職からYouTuberと企画や案件で関わらせて頂いていますが、上手くいかなかったゲームは、YouTuberの文法に合わないものになってしまっていたと思うんです。

 ゲームとしてはその出来栄えに喜んでくれたケースがほとんどだし、クリエイターが「これはいいですね」と言ってくれた機能もあったはずなんです。でもそうした機能が実際に実況で使われたシーンはほとんどなくて、むしろクリエイターがそのゲームの実況の方法がわからずに、苦労している姿を見ることもありました。

『脱獄ごっこ』のユルさに惹かれた子どもたちが、まいぜんシスターズを真似て実況し始めた

──まいぜんシスターズさん自身が自分たちのために、ある意味オーダーメイドで作り上げた『脱獄ごっこ』ですが、結果的には彼らのファンを飛び越えた人気を集めたわけですよね。その理由はどこにあると思いますか?

戸塚氏:
 『脱獄ごっこ』は最初、一気にダウンロード数を伸ばしたんですけど、じつは半年も経たずに失速していったんです。ところがやがて、まいぜんシスターズによる『脱獄ごっこ』実況動画の再生数がどんどんと伸びてきて、彼らの動画シリーズでいちばん人気のある『マインクラフト』実況動画には勝てないにしても、他の実況動画の再生数は超えるようになってきたんです。

──それはどうしてだったんでしょう?

戸塚氏:
 そのとき、彼らは「『脱獄ごっこ』が認められてきました」と言っていたんですね。
 つまり、まいぜんシスターズが繰り返し『脱獄ごっこ』を実況することで、彼らのファンが徐々に、「『脱獄ごっこ』は面白い動画シリーズだ」と認識するようになったんじゃないかと思います。それで再生数が徐々に増えてきて、新規流入の視聴者も増えてきたんだと思います。

──『脱獄ごっこ』の実況動画がまいぜんシスターズのファンに認められたことで、ゲーム自体の人気も伸びてきたということですか。

戸塚氏:
 そうですね。さらに驚いたのは、『脱獄ごっこ』の実況をする人がどんどん増えてきたことです。じつは今、YouTubeはもちろんですけど、Mirrativ(ミラティブ)とかでも毎日、2000ぐらいの動画・配信が上がっているんですね。
 とくにMirrativは子どものユーザーがすごく多いので、『脱獄ごっこ』を遊んでいるまいぜんシスターズの真似をして実況してくれるようになったんです。それで気がつくと、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響もあって、MAUが急速に回復してきたという状況ですね。

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(画像は初心者 VS プロ【脱獄ごっこ】 – YouTubeより)

──まいぜんシスターズの動画を見ていたファンが、今度は自分たちで『脱獄ごっこ』を実況し始めたと。彼らはどういった動画を上げているんでしょうか?

戸塚氏:
 新たに『脱獄ごっこ』を実況してくれるようになった人たちの動画を見てすぐに気づいたのが、彼らの多くがまいぜんフォロワーで、まいぜんシスターズの実況のスタイルに、多かれ少なかれ影響を受けているということでした。
 つまり彼らはまいぜんシスターズの『脱獄ごっこ』動画から実況の方法を学んで、自分たちで動画を作るようになったのではないかなと。

 そういう意味で『脱獄ごっこ』は、YouTuberへのパーソナライズが、ほかのゲームではあり得ないぐらい上手くいっている例なんだと思います。

──彼らファンは、なぜ一番人気の『マインクラフト』ではなく、『脱獄ごっこ』の実況を真似したのでしょうか?

戸塚氏:
 その理由は、何個かあると思いますが、一番は『脱獄ごっこ』特有のユルさにあるのかもしれません。僕たちはこのゲームを、できるだけユルく作っているんですね。もちろんユルく作りすぎて失敗したこともあるんですけど。

 作っていて、やっぱり迷うときがあるんです。そんなときに「どっちが正解ですかね?」と聞くと、まいぜんシスターズは必ず「みんなが楽しめるようにユルい方向にしましょう」って言うんですよ。

──ユルい方向、ですか。

戸塚氏:
 たとえば『脱獄ごっこ』には、爆発するとものすごく吹っ飛ぶアイテムがあるんですけど、
 リリース当初はそれを使うと門を飛び越えて、スイッチを全部押して門を開けなくてもゴールできたんです。さすがにたくさん抗議が来て修正したんですけど。

 じつは、開発側で、「これってゲーム性破綻しているけどどうなんだろう?」と話したときに、まいぜんシスターズは「これに最初に気づいたユーザーは、凄い喜ぶかもしれないですね」と言ったんです。そんなふうに、判断に迷った時はより大味な方向を選ぶようにしているんです。

 新しいアイテムを作る時も、まいぜんシスターズからは「最初は凄い強くていいですよ」と言われています。そうじゃないと新アイテムを楽しみにしていた方々をガッカリさせてしまうので。だからユルさというのはすごく大事にしていると思います。

──「このアイテムは最初めっちゃ強かったんだけど、さすがに強すぎて弱体化されちゃった」みたいなストーリーを想定した上で、あえてそう設計しているのですか?

戸塚氏:
 うーん、全部想定してというのはちょっと違っていて。そういうことはあえて考えないようにしています。
 たとえば、ちょっと前にとあるオンラインゲームで山登りが流行っている」という記事を読んだことがあるんです。誰も登らないだろうと想定していた建物の屋根に、ユーザーががんばって登りそれを楽しむ。ところが、運営側がそれを面白がって、登りにくいところにルートを作ってあげたら、誰も登らなくなったそうなんです(笑)。

 つまり、それと同じようなことだと思います。今は『脱獄ごっこ』の開発も人数が増えたので、僕はもうマップデザインはやっていないんですけど、スタッフには「登れる“かもしれない”ものは置いてほしいけど、登る道順を作るのは止めてくれ」と言っていますしね。

──ヘンに開発側の意図が見えてしまうのもよくない、ということなんですね。

戸塚氏:
 まいぜんシスターズの言う「ユルさ」というのは、最終的にユーザーが開発者が想定していない物を発見して喜ぶものに繋がるのであれば良いという考え方なんじゃないかなと思ってます。

 まいぜんシスターズは、昔はいろんなゲームの実況をやっていたんです。その中で『マインクラフト』の人気が伸びていって、それにつれてそのシリーズのストーリーも、どんどん重厚になっていったんですけど。彼らのファンがTwitterで「『脱獄ごっこ』で久々に、ぜんいちの大笑いを聞いた気がする」と書いていて、僕は個人的にこれが凄い嬉しかったですね。ファンに認めてもらったような気もしましたし、二人の遊び方を見てここでは雑に遊んでもいいんだという印象を持ってくれた様な気がしたので。

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(画像はYouTube「脱獄ごっこがバグりまくって大爆笑したwww 」より)

──以前、フロムソフトウェアの宮崎英高【※】さんと『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の話をしたことがあって。『ブレス オブ ザ ワイルド』のマップって、街から街までの道とか、山頂までの道とか、けっこうちゃんと設計されているんだけど、パラセールでの移動が、それを全部ぶっ壊しているんです。……なんだけど、宮崎さんは、そのぶっ壊しているところがいちばんの面白さになっていると言うんですね。

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(画像はゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

 宮崎さんによると、設計された通りの体験を遊ぶのは、面白さとしては1.5流ぐらいだと。ちょっと壊れた面白味を自分で見つけて遊ぶのが、じつはユーザーさんにとってはいちばん面白い。そんな話をしていました。

※宮崎英高
 フロム・ソフトウェア代表取締役社長。『Demon’s Souls』や『DARK SOULS』シリーズ、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』を生み出して、ゲームデザイナーとして世界的に高く評価されている。

戸塚氏:
 それはすごくよく分かります。まいぜんシスターズもきっと、同じことを感じていると思います。まいぜんシスターズからはたまに、「バグを見つけたんで、その動画を上げてもいいですか?」って聞かれるんですね。「ぜんぜんいいです、むしろスイマセン」みたいに返すんですけど(笑)。

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(画像はYouTube「秘密警察官スキンで悪者を連行する!【脱獄ごっこ】」より)
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(画像はYouTube「秘密警察官スキンで悪者を連行する!【脱獄ごっこ】」より)

 『脱獄ごっこ』がなぜ小学生や若い人たちに刺さったのかというと、やっぱりそのユルさからだと思うんですよ。ゲームって本来、遊んでるだけで楽しいものじゃないですか。ところが、やり込めばやり込むほど、「勝たなきゃつまらない」みたいなところに陥っちゃって。

 でも『脱獄ごっこ』では、究極的には勝ち負けはどうでもいいんです。人狼だけど市民を助けてもいいし、人狼どうしで殺し合ってもいいし、市民だけど全員殺そうとしてもいいし、みたいな。アイテムもランダムなので運の要素も強いですし。そういうユルさからただ遊んでるだけで楽しいよね、という雰囲気になるのがいちばん大事だと思うんです。

──たしかに言われてみれば、そのあたりのユルさだとか、キャラクターの声の雰囲気だとか、昔のFlashゲームみたいなパルプな味わいを感じますよね。この感じが今の若い人たちにもウケるんだというのが、個人的にはけっこう衝撃でした。

戸塚氏:
 ありがとうございます。まいぜんシスターズはゲーム開発者ではないので、そういうユルさを許せる度量があるのかもしれないですね。

 他にも、まいぜんシスターズはよく「完璧じゃなくてもいい」とも言っていて。たぶん「完璧じゃなくていい」という言葉の裏側には、ユーザーがずっと何かを探し続けることができるという意味合いもあるんだろうと思いますね。

YouTuberと信頼関係を築いて、彼らが本当に満足するゲームを作り続けたい

──すごく抽象的な質問になってしまうんですけど、ゲーム実況ってなぜ、こんなにも世界的に流行っていると思います?

戸塚氏:
 難しいですね。「ひとりで配信するのにゲームがいちばんラクだから」というのは、正直あると思います。ひとりでも配信できるし、極論ですが大騒ぎすれば、楽しく遊んでいることを伝えやすいとも思うので。裾野が広がっているのはそういった部分が大きいかなと思います。

 ゲーム実況なら、ゲームという相手がいるので一人でもすぐに始めることができるわけですよね。ゲームがうまかったり、リアクションが面白かったりすれば目立つし、選択肢も豊富なので遊び方も選べます。そういうところが主流になった要因かもしれませんね。

──とはいえ、何のネタもなしに実況しようと思うと、なかなか難しいじゃないですか。意外と選択肢は少なくて、知識を披露するか、自分のことを語るかぐらい。だから実況者にとっては、いかにネタがあるかというのが、すごく重要なそうなんです。

 結局うまくいかなかったんですが、昔ニコニコ動画でクイズ機能が企画されたことがあって。当時は「そんなことより画質を良くしろよ」と叩かれていましたけど、もともとは今言ったように、実況者に話すネタを提供するという意図があったそうなんです。

 これからTwitchにしろYouTubeにしろ、そういうふうに実況者がネタにできるような、ゲームと連動するような機能や技術が出てくると思うんです。そういうものに対してはどのように見ていますか?

戸塚氏:
 ライブストリーミング系の機能を取りこんだゲームはどうだろう、という企画はもちろんあります。でも『脱獄ごっこ』の場合は、どちらかというとライブよりも動画のほうが人気なんですね。これも過去の検証から得られた話なんですけど、ライブストリーミングって、ダウンロード数にはそれほど結びつかないというのがあって。

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 最初はライブなら一緒に遊べるから、みんなインストールするんじゃないかと思ったんですけど、やっぱりキチンと作り込まれた動画のほうが、最終的な数値は伸びるんですよ。

──ライブストリーミングのコンテンツって、見る時間を合わせなきゃいけなかったり、体感的に重いんですよね。その点、動画は非同期でいつでも見られるという利点があるかと思います。

戸塚氏:
 短い時間に面白さが凝縮されていますしね。

──逆に言うと、動画でこういう機能があればこういうことができる、というのは?

戸塚氏:
 うーん、難しいですね。ライブストリーミング系だと、視聴者数に応じてマップがどんどん派手になっていくとか、そういうことを考えやすいんですけど。
 でも動画の場合は、開発者として考えるのは難しそうですね。最終的に動画を作り込むのはYouTuber側になってしまうので。

──戸塚さんご自身としてスマホアプリではなく、コンシューマ機のゲームを制作することに興味はありますか?

戸塚氏:
 プレイヤーの裾野を広げるという意味では、コンシューマへの対応はマストだろうと思っています。モバイルだと動画の配信がやりにくいという理由で、やらない人も多いので。
 そうした展開が『脱獄ごっこ』でできればいいんですけど、今はまだモバイルに注力していますね。

 いずれにしても「YouTuberと開発前から一緒に取り組むことが成功パターンの軸となる」というのが、よそにはないウチの強みだと思っています。僕らが今後作っていくのは、そうした形のゲームになるのは間違いないですね。

 その際に大事なことは、一緒に作るYouTuberの文法に合わせて、彼らのクリエイティビティを引き出せるゲームを作らなければならないということですね。そうでなければ、彼らが持っている本当の影響力を引き出すことはできないですから。(了)

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(写真提供:UUUM)

 自らゲームを遊ぶことに慣れ親しんでいるゲーマーほど見落としてしまうかもしれないが、ゲームをプレイしながら現在の状況を視聴者に説明し、さまざまなリアクションを披露したり、ときにはゲーム内でのシチュエーションを自ら作り上げるゲーム実況は、それ自体がある種の技術と才覚によって生み出されるクリエイティブな行為だ。
 当然ながら、そこにはYouTuberごとに固有の表現スタイルが存在し、採り上げるゲームとの相性や、そのゲームを表現する上での切り口の違いなどが生じてくる。

 今回の取材で戸塚氏が語ってくれたように、『脱獄ごっこ』はまいぜんシスターズが自身の実況スタイルに最適なゲームを自ら作り出して、彼らの実況が人気を得ることでゲームそのものも人気を拡大していった形になっている。ゲーム実況の人気がさらなる高まりを見せつつある状況で、こうした例は今後、さらに増えていくかもしれない。その先陣を行くUUUMのゲーム開発への挑戦からは目が離せないだろう。

 もちろん、ひとつのゲームが特定のゲーム実況に偏りすぎてしまうと、それはプレイスタイルの固定化にもつながりかねない。ただ一方で、ゲーム実況の力によって新たなプレイスタイルを開拓し、それを多くの人に伝えることができるというのも、これまでの多くのゲーム実況が証明している。特にオンライン要素を持つゲームに関しては、多かれ少なかれ、ゲーム実況の影響を無視できない時代になってきたのは間違いない。

 ゲーム実況がゲームデザインにどう影響するのか、そしてゲーム実況をどのようにゲームに活かすのか。こうした点について実況者だけでなく、ゲーム開発者や我々ゲーマーも、改めて考えてみるべきだろう。

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インタビュアー
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電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
ライター
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過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
編集
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ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
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