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アリスソフトのMIN-NARAKENが描く美少女絵は、なぜ色あせないのか? 『神のみ』若木民喜が訊く、『闘神都市』『鬼畜王ランス』を手がけた神絵師のこだわりとは

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「絵を描く」というより「キャラクターを作っている」

──会社の内情についてはあまり深く掘り下げると、後のチェックで「ここからここまでは削除で」とか言われてしまうのでこの辺にしましょう(笑)。そんな30年間、美少女ゲームで絵を描かれてきたわけですが、今後の美少女絵のトレンドは、どのように変化していくと思われますか?

MIN:
 これは難しいですよね。僕もわからないんですよ。「これからの絵柄って、どうなっていくと思う?」って僕が聞いているくらいですから。だから予想つかないところですよね。

若木:
 でも今の美少女絵のトレンドって、MINさん絵に近づいてきていません?

MIN:
 そうですか? なんか2周くらい回って帰ってきた感じですかね(笑)。

若木:
 最近女の子の目、めっちゃ小さくなってきていません?

MIN:
 そうですね。全体に淡泊になって、アウトラインをシンプルにしたりしている人の絵もよく見かけますよね。
 まあ、これからは個性的な絵柄が評価されるんじゃないかなあと思っています。結局そうじゃないと、平坦な絵ばかりになってしまう。もちろん突き抜けきれない個性だと受け入れられないでしょうけど、ひとたび突き抜けたら、それが大きな魅力になっていくと思うんです。これは絵柄にしても、キャラデザインにしても、ネタ的にしても、あるんじゃないでしょうか。

──「理想の美少女像」というのではなく?

MIN:
 そうですね。それぞれのシーンの中で、突き抜けた魅力を持つ絵が引っ張っていくんじゃないかなあと思っています。

──そういう状況の中で、MIN-NARAKENさんの絵は、いつ見ても古さを感じさせません。まさにトレンドの中にある印象があります。これを維持するのはどのようにしているんでしょうか?

MIN:
 1989年から絵を描いてきましたけど、当時トレンドとか全く意識していなかったんです。結果、10数年たって見直して、自分でも「あの頃によくこんな絵を描いていたな」って思うことはあるんです。もともと時代に合わせるのではなく、自分の描きたいものを描いてきた結果だと思いますね。
 ただ、最近のことで敢えて言うなら、なるべく若いイラストレーターさんと話をしたりはするようにしていますね。そういう人たちが何を見て、何を思って絵を描いているのか。もちろん僕が描いている以上は僕の絵になるんですが、そうした情報に常に触れるようにはしています。その結果として「古さを感じない絵」と言ってもらえるなら、僕としてはとてもうれしいですね。

──そんなMIN-NARAKENさんがかわいい女の子を描くときに一番大切にしているのは、どういうことろですか?

MIN:
 若木さん、どうです?

若木:
 ……わかんないなあ(笑)。

MIN:
 そんなこと言わずに教えてくださいよ。僕が聞きたい質問ですよ(笑)。

若木:
 僕は漫画家なのでお話もあってのかわいらしさじゃないですか。MINさんは1枚絵だけでかわいい女の子を描き続けているでしょう。これはすごくエネルギーがいることなんじゃないかと思うんですよ。

MIN:
 僕がここ数年来考えていることがあるんです。僕は絵というのは。技術的に圧倒すればお客さんはついてくると思っていた時期があったんです。でもそれは間違っていて、技術で引き付けられるのはある一定の部分までで、それ以上を求めるのであれば、キャラ付け──絵柄だけでない、そのキャラから滲み出す魅力のようなものが大事だと思うようになったんです。
 だから最近は、「この女の子はどういう性格で、どういうしぐさをして、どういうしゃべり方をするのか」というような内面的な部分を、しつこいくらい頭の中で想像してから、女の子を描くようにしています。そうすることで、単に「かわいい女の子の絵」というだけでなく、そこからキャラの魅力がにじみだしてくるようになるんだと思っていますし、それが無いとなにより自分で描いていて面白くなくなってしまうんですよね。

──ある意味、キャラクターづくりとしての絵ということでしょうか。

MIN:
 まさにそうです。若木さんが漫画で描かれているように、総合的なキャラクターづくりをしないと、かわいい女の子の絵というのは完成しないと思います。それができて初めて絵に深みが出ますし、あとから見直したときに「ああ、こういう女の子を描きたかったんだな」って納得できるんです。これは僕が「楽しんで絵を描くにはどうしたらいいか」を考えた結果の方法論なんですけどね。

若木:
 ものすごく腑に落ちるんですけど、長いこと絵を描いていると、キャラづくりのアイデアの引き出しも涸れていきません?

MIN:
 涸れますよ、30年もやっているんですから(笑)。

若木:
 その涸れている中からみんなに受け入れてもらえるレベルまでもう一遍持ち上げていくためのアプローチってなにかされたことはあります?

MIN:
 僕の場合は自分で楽しんで描かないと長続きしないというのを考えているんです。だから自分が楽しんで描けるのはどんな女の子なんだろう、どんなメカなんだろうというのは、常に考えて描いています。そうすることで、自分の描いている絵に深みが出てくる。だからやはり、「絵を描く」というより「キャラクターを作っている」ということを考えていることが多いですね。涸れたのを補うとするならば(笑)。

──「キャラを描く」のではなく「キャラを作る」というのは、深い言葉ですね。

MIN:
 僕は以前、線を描くのが本当に好きで、線さえ描けていれば、どんな絵でも描けると思っていました。でも、長く続けていく中で、それだけではダメだと気づいたんです。絵に対する思い入れや愛情がなければ、喜んでもらえる絵は描けない。思い入れや愛情の有無って、きっと絵を見た人に伝わってしまうんですよ。もしも自分の中でアイデアが涸れていると思うなら、より愛情と思い入れを込めて描く必要があると思います。

──やはり気持ちですか。

MIN:
 そうですね。僕が迷った時にいつも思い出すのは、自分が仕事を始めたとき、「なぜ絵を仕事にしようと思ったのか」なんです。いわゆる「原点」ですよね。「あの時はがむしゃらに描いていたなあ」とか「絵を描くのが楽しかったなあ」とか。そしてその当時の自分を憑依させて描く(笑)。そういうテクニックを身につけました。

「絵を描くのが辛くなったらツーリング行けばええやん」

──これって、とても大事なお話ですよね。今、絵を描くことに悩まれている方には、ある種の福音なのではないでしょうか。

MIN:
 僕もかなり悩んでいましたから。絵を描く意欲をそがれることってけっこうあるんですよ。技術的な限界も感じますし。そんな中でも描くとなれば、楽しみながら描くしかない。そのための環境や状況は、結局自分で整えなければいけないんです。それができなかったら、僕はとっくにこの業界から去っていたと思いますね。

若木:
 MINさん、ツーリングとかバンバン行くじゃないですか。ああいうのも、絵を描くのが楽しいって気持ちを維持するのに重要なんですか?

MIN:
 大事ですね。煮詰まっているのにしがみついても、いいことはないと思うんですよ。絵を描くのが辛くなったらツーリング行けばええやん、ドライブ行けばええやん、プラモ作ればええやんって思える人間なんで。それで気分が乗ってきたら、絵に向かえばいいんです。

若木:
 やっぱり気分転換は大事ですよね。

MIN:
 大事ですよ。絵に悩んでいるときに、絵のことばかり考えていたら精神を壊すと思うんです。考えても進まないし、描いても気に入らないから結局進まない。だったら一度、絵から離れればいいんですよ。結局「描きたい気持ち」が一番大事だから、それを取り戻すことが大切なんだと、これは今でも思っています。

若木:
 それ、実践したいですよねえ。なんか自信がなくなる時ほど練習しなきゃとか思ってしまいますけど、「絵を描きたい」という渇きのようなものを取り戻すことが大事なんですよね。

MIN:
 僕は心の持ちようで絵がガラッと変わってしまうんですよ。だったら、気持ちよく、楽しく絵を描きたいと思いますから。

──それができるというのも、アリスソフトさんという環境ならではなんでしょうね。

MIN:
 それは多分にあります。だから僕は会社には感謝しています。この方法で絵を描かせていただけましたから。

若木:
 だとしたら、MINさんがどこかのタイミングでフリーになっていたら、どうなっていたのでしょうねえ。

MIN:
 たぶんね、運送屋をやっていると思いますよ(笑)。

若木:
 インタビュー序盤のフラグを回収しましたね(笑)。

MIN:
 フリーは無理だと思います。多分、仕事を維持できないと思いますね。会社にいるから、絵を描き続けられているんだと思います。

若木:
 じゃあ、あのタイミングでアリスソフトに入社してよかったんですね。そうじゃなければ運送屋でトラックを運転しながら、pixivに絵を上げていたりしていたかもしれないですね(笑)。

MIN:
 そうね。同人はやっていたと思います。あとは運送屋のトラックを全部痛トラックにするとか(爆笑)。それで有名になったりしていたかもしれませんねえ。

──そういえば、一時期アリスレーシングというチームがありましたよね。

MIN:
 ありました。あれは楽しかったですねえ。アリスソフトからは絵を提供するという形での参加だったので、僕も絵を描いて、サーキットに応援にも行きましたよ。

若木:
 いろいろやっていましたよね。そういえば『大悪司』とかってかなり売れたじゃないですか。こういうときって、ボーナスとかいろいろあったんですか?

アリスソフトのMIN-NARAKENが描く美少女絵は、なぜ色あせないのか? 『神のみ』若木民喜が訊く、『闘神都市』『鬼畜王ランス』を手がけた神絵師のこだわりとは_006
(画像はゲーム・製品情報 | アリスソフト 公式サイトより)

MIN:
 お金についてはお話しできませんが(笑)、『大悪司』の時は旅行に行きましたね。個人では泊まれないような宿に、会社のスタッフで行きましたねえ。

若木:
 そういう景気のいい話、聞きたいですよ。

MIN:
 あの頃は1週間で1万本くらいゲームが出ていましたからね。だから確かに景気のいい時期はありましたね。

若木:
 それだけ景気のいい時を経験していても、アリスソフトのスタッフさんは高級車を買ったりとかしていないじゃないですか。そこがすごいですよね。

MIN:
 全然ないですね。せいぜいガンプラくらいかな(笑)。冗談はともかく、結局みんな一番好きなのが作ることなんですよ。だからゲームを作ったことで満足して、「マスターアップした! じゃあ、旅行でも行こうか」くらいの感じでしたね。

若木:
 そんなMINさんから見て、今の美少女ゲーム業界はどうですか?

MIN:
 いやいや、それは(苦笑)。それについては若木さんの方が知っているでしょう。

若木:
 何とか維持しているかなあってイメージなんですけどねえ。

──制作費がけっこうかかる上に、売り上げは頭打ちですからねえ。人気のブランドさんはもちろんあって、そこは売れているんですけどね。もちろん明るい話題もあって、ここ5年くらいに参入してきた新規メーカーのユーザーには20代の人も3~4割いたりするそうなんです。そういう世代にこれからも買っていただければ。

MIN:
 その意味では、これから我々も、若いユーザーさんに受け入れられるようなゲームを作り続けていかなければいけないと思いますね。

若木:
 MINさんには還暦になっても描いていただかないと(笑)。

MIN:
 ちょっと待ってください! これ本に掲載するときは、25歳って書いておいてくださいよ。年齢には厳しいですからね(笑)。

──了解いたしました(笑)。

「女性だと思っていました」とよく言われる

若木:
 今日はいろいろとMINさんの経験を伺ってきましたが、女性原画家さんもたくさんご覧になられてきたと思うんですよ。それこそ最初に指導を受けたYUKIMIさんとか。美少女ゲームで原画を描くとして、女性原画家っていかがですか?

MIN:
 線の描き方や色使いが繊細な方が多い印象ですね。というか僕は若木さんに聞きたいんですが、どうしてそれだけエロゲーをやっているのに、若木さんの描く女の子からは清楚さしか感じないんですか?(笑)

若木:
 僕、『Bible Black』とか好きだけど、絵に原画の聖少女さんの感じはまったくないですからね(笑)。

MIN:
 性的でないわけじゃなくて、女の子のかわいらしさはものすごく感じるんです。でも、滲み出るようなエロさよりも、全面的に可愛らしさが出てて、とても良いなあ、と僕は思っています。

若木:
 これ、まあまあコンプレックスなんですけど、もっとエロい絵を描きたいんですよ。ただ、『少年サンデー』には合っていたんじゃないですかね。

MIN:
 僕は若木さんがデビューする前から絵を知っていましたけど、その当時からかわいらしいなあと思っていましたね。

若木:
 そうですね。僕の絵も男感がないって言われるんですよね。

MIN:
 僕も言われますよ。「MIN-NARAKENです」って自己紹介すると驚かれるんです。「女性だと思っていました」って。よく言われますよ。

若木:
 それもMINさんが30年以上続けていられる理由なのかもしれませんね。

MIN:
 しぶといですから(笑)。

若木:
 それと1990年代の頃は世界観もハードなものが多くて、学園ものとかあまりなかったような印象があるんです。それこそバイクが似合う世界観とか。

MIN:
 シーズウェアさんとかそうでしたね。

若木:
 エルフさんも『同級生』が売れたけど、あえて言えば『DE・JA』とか『臭作』とかのほうがエルフの世界観だったのではないかとかね。そういう意味では、絵柄だけでなく内容も時代に合わせて変わってきていますよね。

アリスソフトのMIN-NARAKENが描く美少女絵は、なぜ色あせないのか? 『神のみ』若木民喜が訊く、『闘神都市』『鬼畜王ランス』を手がけた神絵師のこだわりとは_007
(画像は臭作【Windows10対応】 – アダルトPCゲーム – FANZA GAMES(旧DMM GAMES.R18)より)

MIN:
 それが見えやすいんですよね。美少女ゲームの流行りというのは。

若木:
 絵柄にせよジャンルにせよ、スター原画家やヒット作が生まれると変わっていきますよね。まあ、アリスソフトはあまり学園ものを作られていませんからね。

MIN:
 学園ものだと『同級生』とか『ToHeart』のような偉大なゲームがありますからね。

 さて、実は2時間くらいお話を伺ってきているので、そろそろ締めたいんですが(笑)。

若木:
 僕もいろいろお話が伺えて、参考になりました。MINさんはイラストレーターとしてはとてもちゃんと喋ってくれるんで、ありがたいです。

MIN:
 これ、ちゃんと喋っているんですかね(笑)

──では、最後にMIN-NARAKENさんから『16bitセンセーション』の読者さんにメッセージをお願いします。

MIN:
 僕も同人誌を読ませてもらっていますが、感銘といいますか、「ああ、こういうことってあるよね」っていうエピソードが満載です。ここで描かれた時代の美少女ゲームを知らない人にも、「この頃はこうだったんだな」って楽しんでほしいです。若木先生の熱い思いが詰まった本ですので、ぜひお楽しみください。そして美少女ゲームをよろしくお願いします。

若木:
 ありがとうございました!(了)


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