『プロセカ』がボカロファンやミクたちに与えた影響 ― ニコニコ動画が果たしていたような役割を担うかもしれない【開発者座談会】

 セガとColorful Paletteが共同で開発・運営を行うスマートフォン向けリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、プロセカ)は、2021年3月30日でサービス開始から半年が経過し、ハーフアニバーサリーを迎える。

『プロセカ』がボカロファンやミクたちに与えた影響 ― ニコニコ動画が果たしていたような役割を担うかもしれない【開発者座談会】_001

 2020年9月30日にサービスが開始されて以来、ユーザー数は300万人を突破するなど非常に好調で、「懐かしのボカロ曲がTwitterのトレンドに入っていると思ったらプロセカだった」ということも頻繁に起きている。また「Google Play ベストゲーム2020」ユーザー投票部門ゲームカテゴリの最優秀賞を受賞するなど、その内容も高く評価されている。

 電ファミニコゲーマーではこれまでに、『プロセカ』の世界観やストーリーと、本作の最大の特徴でもあるバーチャルライブについてのインタビューをお届けしてきた。だが取材時にはサービス開始前だったこともあり、実際にサービスが開始された時点で新たにわかったことも多い。

 そこで今回は、『プロセカ』の開発・運営に欠かせない3名のキーパーソンに、これまでの歩みを振り返ってもらうとともに、次の半年、そして1周年に向けてどのような展開が考えられているのかを、自由に語ってもらった。

左から近藤裕一郎氏佐々木渉氏小菅慎吾氏

 『プロセカ』のプロデューサーでありColorful Palette代表取締役社長の近藤裕一郎氏と、セガ側のプロデューサーである小菅慎吾氏は、過去のインタビューにも登場していただいたが、今回はさらに、『プロセカ』立ち上げから企画に深く関与していたクリプトン・フューチャー・メディアで音楽ソフト「初音ミク」の開発などを担当している、佐々木渉氏にも加わっていただいた。

 この10数年で世界の音楽シーンを大きく書き換えたプロジェクトのリーダーである佐々木氏が、以下で語っている言葉からも明らかなように、『プロセカ』は単にリズムゲームとしての展開だけでなく、初音ミクをはじめとするバーチャル・シンガーたちにとっても大きな影響を与えたプロジェクトとなっている。

 なにしろゲームの中では、『プロセカ』のキャラクターとミクたちがフルボイス(※バーチャル・シンガーは一部パートボイス)で会話を繰り広げるだけでなく、有名ボカロPが生み出した名曲の数々を人間とミクたちが一緒に、それもあくまで自然な形で共演して歌っているのだから。

 今回の鼎談では『プロセカ』の現在と今後だけでなく、バーチャル・シンガーやいわゆるボカロカルチャーのさらなる可能性にまで話が広がっているので、そうした点に興味がある方も、ぜひご一読いただきたい。

取材・文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二

20代前半までのユーザーが『プロセカ』全体の8割を占めている

──過去のインタビューにご登場いただいた方もいらっしゃいますが、改めて『プロジェクトセカイ』でどのような役割を担っているのかを教えてください。

近藤氏:
 Colorful Paletteの近藤です。『プロジェクトセカイ』ではColorful Palette側のプロデューサーと、あとはディレクターを務めています。プロデュース業務全般と、あとはゲームの品質管理とか、そういうことをやっていますね。

小菅氏:
 小菅です。セガのプロデューサーとして、ゲームやその他色々なお取り組みを全部見ている形になります。近藤さんと同じようなプロデュース業務と、あとは3DCGのところに入って見ています。

佐々木氏:
 クリプトンの佐々木です。初音ミクのライセンス元として、プロデューサーに近い立場で、大枠の相談から監修業務であったりとか、あとはサウンド制作周りの調整であるとかを、セガさんたちと連携してやらせていただいています。

──この記事が掲載される頃には、『プロセカ』のサービス開始からちょうど半年を迎えることになります。ここまでの間には、「Google Play ベストオブ2020」のユーザー投票部門で最優秀ゲームを受賞するといったこともありましたね。

「Google Play ベストオブ2020」ユーザー投票部門

小菅氏:
 一緒にノミネートされたタイトルが、ユーザーさんから高く評価されている作品ばかりだったので、その中から選んでいただいたというのは、めちゃめちゃ嬉しいですね。近藤さんも「このアワードがいちばん良かった」と言っていましたよね。 

近藤氏:
 常日頃から、ユーザーさんのことをいちばん大事に考えてやらせてもらっていたので、ユーザーさんから高い評価をいただけたのは、本当に嬉しかったですね。これを話している時点ではまだ半年続けられていないので、正直あまり実感はないんですけど、今の難しい業界でいいスタートを切れて半年間サービスを継続できたので、今後もがんばらないといけないなと思います。

PS4『初音ミク Project DIVA Future Tone DX』

佐々木氏:
 ウチは『初音ミク -Project DIVA-』の1作目から、ほとんどプロデューサーに近い立場でセガさんといろいろとやらせていただいたので、僕のほうからこちらのお二方に、「『DIVA』の時はこういうふうにユーザーさんに喜ばれた、怒られた」だとか、「こういうところでプチ炎上した」というような、ポジティブだけではない情報もいろいろと説明していたんです。新キャラとミク達のバランスとか、最初はおっかなびっくり、緊張しながらやっていたところがあって。それに対して今は、すごくリラックスできているというか、受け入れられた感がありますよね。

近藤氏:
 初音ミクさんをはじめとするバーチャル・シンガーは、これまで10年以上続いている歴史があって、大勢のファンがいらっしゃるコンテンツなので。それに対して『プロジェクトセカイ』はけっこう踏み越えた部分があったので、最初はかなりセンシティブにやり取りをさせてもらいました。情報のひとつひとつにまで、細やかに配慮してもらっていましたね。

佐々木氏:
 そうですね。ファン層が何レイヤーかに分かれているので。昔からの初音ミクファンの方もいらっしゃれば、『千本桜』や『カゲロウプロジェクト』の時代にすごく楽しまれていた女性ファンを中心としたレイヤーもあれば、今のYOASOBI【※】さんのようなネット発の新しいJ-POPみたいなところを楽しまれている方もいるので。そのみんなに通用するものって、どういうものなんだろう? むしろあんまり考えないほうがいいのかな、みたいにいろんな話をさせてもらった記憶がありますね。

※YOASOBI
コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraによる、2人組の音楽ユニット。2019年に発表された「夜に駆ける」が大ヒットを記録した。コンポーザーのAyaseは、YOASOBI結成の以前からボカロPとして楽曲を発表しており、YOASOBIの楽曲を初音ミクがカバーしたアルバムもリリースしている。

小菅氏:
 スマホのユーザーはすごく人数が多いので。その人たちが一度にドバッと入ってきたら、どうなっちゃうんだろうというのはありましたね。

佐々木氏:
 そうですね。『DIVA』からのユーザーと、スマホのリズムゲームユーザーが一体化するのかというところは、まったくの謎でしたね。でもその辺を明らかにするための近藤さんのマーケティングリサーチがスゴくて。「こんなにアンケートを採るんだ!」みたいな。

近藤氏:
 いやいやいや(笑)。僕はユーザーインタビューやアンケートを、けっこう大事にしているんです。自分の感覚も大事だと思うんですけど、100万人規模のコンテンツでそれを過信しすぎると、本当に大きな失敗をしてしまうことがありますから。自分が見ているユーザー像と、実際のユーザー像に乖離がないかどうかを、ちゃんと確認しなきゃいけないので。もし乖離があれば、それが100だろうが1だろうが、埋めていかないといけない。その作業は今現在でもやっているんですけど。

──今お話にあったように、初音ミクのファンがかなり幅広い層に渡っているなかで、『プロセカ』は特にどういった層の人たちに受け入れられているのでしょうか? 

近藤氏:
 事実だけの話をすると、20代前半まででユーザーさん全体の8割ぐらいですね。さらに言うと、10代の方が5割から6割を占めています。あと、これは当初考えていた比率より多かったんですけど、今は女性ユーザーさんのほうが若干多いですね。6割強ぐらいが女性の方々です。

──SNSなどで『プロセカ』を話題にしているユーザーさんの様子を見ると「けっこう若いのかな?」と思っていたんですけど、本当に若いんですね。そして今のお話だと、女性ユーザーのほうが多いというのは、事前に想定していなかったのですか? 

近藤氏:
 そうですね。キャラクターの比率的にも女性キャラクターのほうが多いですし。もちろん僕も、以前関わっていたゲームでの経験から、男性向けのリズムゲームでも3~4割ぐらい女性のユーザーさんがいらっしゃるのは分かっていました。でも女性ユーザーさんのほうが若干多い、という比率にまでなるのは、想定外と言えば想定外でしたね。それが良いとか悪いとかの話ではなくて、あくまで事実としての話ですけど。

小菅氏:
 セガとしては正直を言うと、年齢層がもっと上だと思っていたんです。それが蓋を開けてみたら、ふだん僕らが相手にしているお客さんとはまた違う層の方たちだったので。そのあたりはColorful Paletteさんのほうでやっている、ユーザーさんとの信頼感の結び方みたいなものが、上手くいっているのかなと思います。

佐々木氏:
 20代前半までのユーザーというところで逆算すると、『カゲプロ』が流行っていたり、小説が沢山リリースされていた時期もそうですし、あとはニンテンドーDSが流行った時に「うごメモ」でボカロ曲を楽しんでくれた人たち【※】だとか。ちょうどニコニコ動画からYouTubeへと楽曲の発表場所が広がっていくなかで、あの時にいたファンの子たちが今、『プロジェクトセカイ』というフォーマットでカジュアルに遊んでくれているんだなと。

 ネットで個人クリエイターの情報を追いかけるのはそれなりにカロリーが高いなかで、ボカロ曲を何らかの形で気軽に楽しみたいという需要と、『プロセカ』ならではのポップな部分が結びついて、こういったネットカルチャーに対する潜在的な遊び方というか、楽しみ方がひとつハマったんだなと。

 『プロセカ』ファンの内訳では、20代でボカロ曲が好きでも日常的に接する機会が減っていた方もいる一方で、昔からボーカロイドに注目してくれている古参ファンや、曲やイラストを手がけてくれていた人たちでも、『プロセカ』を遊んでくださっている方はたくさんいて。そういう意味では、プロセカによって、どこかの層が離れてしまったという反動や副作用は最小限で、当初思っていたよりも「平和だなぁ」と思う部分はありますね。

※「うごメモ」でボカロ曲を楽しんでくれた人たち
ニンテンドーDSiやニンテンドー3DSでリリースされた「うごくメモ帳」では、ボカロ曲に合わせて手描きアニメが動く動画が人気を集めて、数多く投稿されていた。

近藤氏:
 「平和」という言い方が正しいのかどうかは分からないですけど、オリジナルキャラクターがいたりといった『プロセカ』の世界観が受け入れられるまでに、僕としては正直を言うともう少し時間がかかるだろうと思っていたんです。なるべく悪いほうに考えていたほうが、なにかあった時にすぐ対策を打てるというのもあるんですけど(笑)。そこが思った以上に早めに受け入れてもらえたのは、嬉しい誤算というか。

佐々木氏:
 2007年から2012年位のニコニコ動画での盛り上がりの時期を思い返した時に、ひとつの動画に対して「この曲いいよね」と、みんなでコメントを寄せ合う楽しさがあったと思うんです。それに対して今は、『プロジェクトセカイ』に何か曲が追加されたりした時に、Twitter上でみんながその曲に対して、「懐かしい」だとか「こういうふうに楽しんでいた」だとか、いろんなコメントをしていて。

 そういうコメントがたくさん集まって、Twitterのトレンドになる。そういう現象そのものがみんな大好きというか…ボカロ曲やクリエイターにそれぞれ思い入れがあって、それに対していろんなコメントをするロケーションがあることが、懐かしくて幸せな行為になっているんじゃないかと思っていて。『プロセカ』については「だから、これで良かったんだな」と感じることができました。

 最初期に、近藤さんとはいろんな可能性のお話をしたのですが、ここにたどり着けてよかったなと思います。

──本当に『プロセカ』のサービス開始以来、何か新しい発表があるたびに、それが必ずTwitterのトレンドに上がってきますよね。

近藤氏:
 若いユーザーさんが多いというのもあると思うんです。若い方はやっぱりSNSを使われているので。

 僕らが生放送をやる時は、絶対に何か1つは、ユーザーのみなさんの期待を超えるサプライズをするぞという気持ちで挑むんですけど。それでSNSが盛り上がってくれているのは嬉しいですね。

佐々木氏:
 SNSの展開は、もともとセガさんのほうで『DIVA』が展開していたチャンネルなども使わせていただいていたんです。「これで『DIVA』に追いついていければいいよね」とか言ってたら、『プロセカ』の方がとんでもない勢いになってしまって(笑)。

──僕ももう少し年齢層が高めのイメージで考えていたので、ストーリーに関しても、たとえば学生時代にボカロ曲が好きだったユーザーさんが、自分の思い出を振り返りつつ、あの頃のボカロ曲で……みたいな楽しみ方になるのかなと思っていたんです。ところが先ほど伺ったように10代から20代前半が中心だと、むしろリアルタイムの感覚で『プロセカ』のストーリーを捉えているのかなと。

近藤氏:
 まさにおっしゃる通りかと思います。作っている側としては、僕らの学生時代というよりは、今の子たちが感じている問題だとか、抱えている思いのほうに共感してもらえたらという気持ちで作っていますから。なにしろ僕らが若い時には、インターネット音楽サークルなんてほぼなかったですし(笑)。今の若い子たちに共感してもらえるお話にしたいというのは、常に思っています。

KAITOやレンがいる時点で、男女混合ユニットにすることは運命でした

──『プロセカ』に関してはもうひとつ、男女混合のユニットが存在することが、スマホリズムゲームとして大きな特徴だと思います。それについてのユーザーさんの反応はいかがでしょうか? 男性キャラの人気などは、想定外のところがあったのではと思うのですが。

近藤氏:
 先ほどお話ししたように、ユーザーさんの男女比率みたいなものは想定外ではあったんですけど、キャラクターの誰が人気になるとかそういうことも、正直事前にあまり考えたことはなかったんです。そういう意味では、もともと想定していなかったものなので。

小菅氏:
 プロジェクトの最初の頃は、今ここにいる3人で、キャラクターの男女の人数比率だとか、そもそも男性キャラを入れるべきなのか、といったことについてよく話をしていましたね。「大丈夫かなぁ?」と。

佐々木氏:
 もともとウチのキャラクターの中にKAITOと鏡音レンがいたので。彼らが入ることがある程度マストだった中で、オリジナル男性キャラとのバランスが……というのもありましたから。でも一方では、女性キャラクター中心のゲームだと男性キャラを入れるのは難しい、みたいな噂も聞いていたので。

KAITO(画像はAmazon | カイト V3(KAITO V3) | 音楽制作 | ソフトウェアより)

 そんな中でも、KAITOというのが、ウチのキャラクターの中でも相当に謎の存在感があるんです(笑)。ボカロファンの中でもコアな所で、意外とKAITOのファンが多くて根強くて。たとえば、『プロセカ』で小豆沢こはねを演じている秋奈さんとは、これ以前からお仕事をさせていただいていたんですけど「私、ミクも好きですが、特にKAITOが好きなんです。なんでか分からないんですけど。かわいくありません?」みたいなことをおっしゃっていて(笑)。あと、中国の取引先のご令嬢が、KAITOが好きすぎてわざわざ札幌まで来てくださったり…。行動力のある方でKAITOのファンが多いなーと感じています。

 KAITOって“カッコイイ”だとか“可愛い”といった次元だけではないところで愛されている、珍しい特徴のキャラクターなんです。柔らかさや、緩さ、包容力というかツッコミどころも多い…バーチャル・シンガーの中ではミク以上に唯一無二だなと。今回は、そんなKAITOとレンと、新しい男性キャラクターのデザインみたいなところが上手くリンクしてハマったんだと思うんですけど。そこはもう、Colorful Paletteさんの女性スタッフのみなさんの想いみたいなものが強かったんだろうなと。

近藤氏:
 今、佐々木さんがおっしゃったように、KAITOとレンがいる時点で、男女混合にすることは運命というか、絶対にそうしなきゃいけないと思っていました。そうなった時に、男女の比率としては同じぐらいか、多くても1/3ぐらいかなと設計していった形ですね。

 その中で気をつけなければいけないのは、男性向けには女性キャラクターしかいない、女性向けには男性キャラクターしかいないというゲームが多い中で、それらを混ぜることで生まれる良い化学反応と、悪い化学反応があると思うんです。その中の良い化学反応だけを得られるように、かなりセンシティブに考えましたね。

──いち男性ユーザーとして言わせてもらうと、『プロセカ』の男性キャラって、男性ユーザーの視点から見ても反発を生まない、絶妙なバランスが考えられていると思うんです。

近藤氏:
 男性から見てもイヤじゃないし、むしろ好感を持てるキャラクターであるというのは、徹底的に意識しましたね。

──その結果として、『プロセカ』は男女混合のユニットであることで、ストーリーの幅などもすごく広がっていると思います。

小菅氏:
 それは間違いないですね。プロデュースサイドからすれば、本当にチャレンジではあったんです。でも今振り返ると、別に普通のことですよね、男女混合の音楽ユニットなんて。

──実際のバンドでも、ボーカルだけ女性といった編成は普通にありますから。

小菅氏:
 今の子たちを描くという時に、リアリティもあって。僕らの学生時代だと、何かいろいろ考えちゃうかもしれないですけど、今の子たちからすれば当たり前ですから。そのへんの心地良さみたいなものが成立していると、音楽も広がってくると思います。

佐々木氏:
 そもそもボカロ曲だとかネットのクリエイターの人たちが、中性的で魅力的な価値、女性的な感覚やデリケートさみたいなものを、自然にみなさんが身にまとっていて。それの走りがボカロだったという部分もあるんじゃないかなと思うんです。ネットの世界では、リアルの世界より引っ込んだところに性別の意義があって、「男なのか女なのか」より性別の中でのバランスや、繊細かどうかのディテールの方が重要なのかなと思います。

 クリプトンには海外のアーティストから「一緒にやりましょう」といろんな問い合わせをもらうんですけど、特に性的にマイノリティなアーティストが、初音ミクという存在をすごく高く評価してくださることが多く、とても光栄だなと思っていました。ミクたちは人間でない存在なので、ファジーな感覚を可能性として大事にしていきたいんです。

 男女キャラが上手く受け入れられているのもあって『プロジェクトセカイ』って、無属性で多様なんだと思うんです。恋愛だとか、何かしらの解りやすいテーマありきのコンテンツよりも無属性なので、だからニーゴなどのストーリーにおける心が揺らぐ表現も、受け入れやすいんだろうなと。

小菅氏:
 ゲームを作る時、コンセプト作りで無属性になると怖いんですよ。広く万人受けを狙う難しさが必ずあって、通常ではまずやらない手法です。そこを正面からミクさんが牽引してくれるのは大きいですね。

佐々木氏:
 初音ミクだと、古来から「ミクオ」といってミクを男性化して楽しむ方もいますし。ジェンダーみたいなところはある種、ネットの遊びの中で自由に変質されたり、行ったり来たりできるものだという、そういう土台はもともとあったかもしれないですね。

3DMVに関しては今後、質と量の両面で拡張していきたい

──ユーザーさんは今、『プロセカ』をどのように楽しんでいると考えていますか? 

近藤氏:
 ザックリ分けると2つの楽しみ方があると考えていて。まずひとつは、キャラクターの成長やストーリーを見守って応援するという楽しみ方で。もうひとつはリズムゲームとして楽しんでいると。

──その楽しみ方を次の半年に向けて、さらに深めていくような施策は何かありますか? 

近藤氏:
 主体にあるのはキャラクターで、これが根幹の部分だと思っていますから、そこに関連するコンテンツは、これまでと変わらずずっとやっていきます。ただ、半年とか1年のスパンで見た時に取り組んでいきたいのは、コミュニティですね。ゲーム内で同じものが好きな人たちや、同じ遊び方が好きな人たちが一緒に集まったら、それは絶対に幸せじゃないですか。そこをこの半年、1年で強化していきたいというのがあります。なので、フレンド機能も入りましたし、バーチャルライブの待合エリアも拡張しました。

 あとは新しいイベントも予定しているんですけど、それはチームイベントですね。そういうものも含めてコミュニティを強化していって、同じものを好きな人と出会って、仲良くなって。それをけっこう主眼に置いています。

 本当にアクティブな人だと、Twitterで検索してつながったりしているとは思うんですけど、そこで足りない分をゲーム側で上手く補っていければと。『プロセカ』は今後、ゲームの中だけでなく外側の部分も含めて、いろんなコンテンツを提供していくと思うんです。たとえばリアルのライブをやるよ、となった時に、1人で見るよりも、同じものが好きな仲間が集まって見たほうが面白いですよね。そういう未来を目指しています。

──リズムゲームの部分では、シングルプレイの「ひとりでライブ」と、マルチプレイの「みんなでライブ」がありますよね。ユーザーさんとしてはどちらを楽しまれているのですか? 

近藤氏:
 比率で言うと「みんなでライブ」のほうが若干多いかな、という感じですね。でも用途が違いますね。「みんなでライブ」はみんなでいるというにぎやかな雰囲気があると思います。それに対して、自分自身でフルコンボを目指して詰めたいなと思う時は「ひとりでライブ」を遊ぶという、あっちはあっちで需要がありますから。どちらかにすごく偏っているというわけではないので、いい塩梅かなとは思っています。

──他にこういう新しい楽しみ方を加えていきたい、というのは? 

近藤氏:
 妄想は無限に出てきますけど(笑)。根底にあるのは「『プロセカ』がボカロやインターネットシーンの音楽の入口になってほしい」ということです。その中でクリプトンさんやセガさんとずっと話しているのは、「何かを作るきっかけ」に、もうちょっとなってほしいということですね。

 たとえば今、楽曲の公募をやっていますが、そちらはセミプロというか、アマチュアの中でも経験のある方々が参加しやすい形になっていて。あれはあれでいいと思っていますけど、それ以外に何も作ったことのない人だとか、いろんな人たちが気軽に参加できるものが、もっとあるといいなと思っています。その結果、「作って良かった」と感じてもらえばいいなと。

 そういう意味では、先日開催した「塗りマス!」コンテストとかは、すごく参加しやすいと思うんです。用意された線画に色を塗っていくものなので。

 入賞できるかは置いておいて、そういう何も作ったことのない人でも気軽に参加してみたいと思えて、それが面白いというところに上手くつながっていくと、『プロセカ』らしいし、ボカロらしいし、ここでしか出せない魅力になるんじゃないかなと思っています。

佐々木氏:
 創作にはいろんな形があって。TVなどのメディアからお仕着せの曲を聴く形だと、歌詞とメロディーにフォーカスが当たりやすく作られているところが、ボカロ曲だとイラストがあって、MVがあって、動画もあって、ボカロPさんのこだわっている音だとか詩だとか、世界観のディテールもあって、その立体感が解りやすいだろうと思います。曲を好きになったときに、関連する情報や関係者を掘り下げられる感じ。『プロセカ』を通じて若い人たちに、好きになった曲や、クリエイター達が作った流れを深追いできるんだよと、何ならクリエイターになるのも楽しそうでしょ?と伝えていけたらなという部分もありますね。

 これは『DIVA』の頃からで、まず最初にキャラクターを好きになった子たちや、3DのMVで「歌って踊って可愛い」と感じたファンが、そこからニコニコ動画に流れてきていたというのがありました。『プロセカ』でもやっぱり、セガさんを中心に作っている3DMVが一番お客さんに楽しまれる入口やキッカケになっていて。そこからボカロPさんを追いかけたり、イラストレーターさんを追いかけたりという裾野まで、良い形で広げられている。そこが上手くいくのが重要かなと思うんですけど。

小菅氏:
 3Dに関しては、質も上げたいですし、量も上げたいというのがあるので。今は3DMVが月2本分というペースなんですけど、そこをもうちょっと広げたいなと。みなさんいろんなものを見たいでしょうし。例えば、MVの中でも場面転換させたりできるようになれば、演出の幅がもっと広がるでしょうし。そういったところを将来的に広げていければ、もっともっと援護射撃できると思うので。セガ側では今、そういうところを考えていますね。

──また、バーチャルライブではルームあたりの上限がこの半年間で、15人から100人にまで増えましたね。

近藤氏:
 バーチャルライブに関しては、じつはシステムを根幹から作り直しました。サイバーエージェントのゲーム事業部に研究開発チームというのがあるんですけど、そこが作ったものをベースとした新しいシステムに入れ替えたんです。

 以前は他の会社が提供しているツールを使っていたのですが、どうしても人数制限がかかってしまって。そこを作り直して、今は実質無制限になりました。ルームあたりの上限は意図的に100人にしているんですけど、それが何ルームできてもいいという。さすがにとんでもない数になったら無理でしょうけど、日本で運営するのなら事実上、何の問題もないぐらいには増やせています。

小菅氏:
 基盤の部分を広げたのは、リリースしてからけっこう早い時期ですね。以前のインタビューにもあったと思うんですけど、バーチャルライブは『プロセカ』にとってかなりの武器になりそうだと考えていて、実際にお客さんの反応も非常に良かったので。ここは伸ばすべきだろうということになって、まずはバックヤードを増やしましょうと。

 待合エリアも含めて、やれることをもっと増やしていきたいんです。フレンドの話でも出たと思うんですけど、バーチャルライブでけっこう友達ができるんですよ。待機時間にいろいろ話すじゃないですか。それがライブ後にすぐ別れちゃうのが残念だと思って、それでいち早くフレンド機能を開発したりして。

──バーチャルライブに関しては、0時以降の深夜帯にも開催を検討するという話があったと思いますが? 

近藤氏:
 深夜帯に2回、1時と2時に増えましたね。深夜しか遊べないという人は、ずっとバーチャルライブが見られないことになってしまいますから。

小菅氏:
 セガの他のスマホゲームよりも『プロセカ』は、ピークタイムが1時間ぐらい後ろですね。他のゲームはユーザーさんの平均年齢が30代ぐらいなので、それよりも若いぶん、遅くまで起きている方が多いんだなと。

近藤氏:
 「昼間にもっと開催してほしい」という声もあったんですけど、それはどちらかというと定員の問題が大きかったので。先ほどお話ししたようにシステムを作り直した結果、満員になることがなくなったので、そこは今は一定解決したと思っています。

『プロセカ』のおかげで、KAITOやMEIKOのボイスに改めて労力をかけることができた

──バーチャル・シンガーの表現についてお聞きします。これまでだとライブのMCでちょっとしゃべるみたいなものはあったかもしれないですけど、『プロセカ』のように長いセリフを、しかもドラマとして説得力のある形で話すというのは、かなりのチャレンジだったと思いますが? 

佐々木氏:
 そういった試みをやっていかなきゃ、となったのはけっこう昔のことなんです。それこそミクがファミリーマートさんのキャンペーンをしていた(※注:2012年~2015年)後期から始まっていて。その頃は「ミクでアニメをやりませんか?」「ドラマをやりませんか?」「ラジオに出てもらえませんか?」という要望があって。当時は無茶だと思っていたんですけど、同時に需要もあるんだろうなと思ってました。

 それでもミクは「初音ミクシンフォニー」というイベントの中でそこそこしゃべったりしていたんですけど、MEIKOやKAITOは非常に難しくて。

 そんななかで『プロセカ』の企画が出てきて、この企画を成立させるために、KAITOとMEIKOにもきっちりと取り組んで、人も手もかけることができたんです。それはセガさんと近藤さんのご提案の中で理由をつけて、社内に通せたところなので。普通だったらそこに、これほどの労力をかけることは難しかったですから。なので『プロジェクトセカイ』は、僕らにとってもすごく捻くれた勝負のプロジェクトというか、ゲリラと言うか……振り返ったらちょっと寒気が(笑)。

小菅氏:
 クリプトンのみなさんには、本当にいろいろと動いてもらっていますから。ここまで制作していただいているのは、他の作品ではできないなと思います。

近藤氏:
 ボイスもちょっとずつ進化していて。いちばん最初に作ってもらったものと今とでは、声の自然さもぜんぜん違っていますね。もしかしたら今後、音声を差し替える部分もあるかもしれないですけど。

佐々木氏:
 もともとはクリエイターさんがボイスや発声を作り込んで、多種多様な歌があるという文化なので、こういうふうに我々が「やってますよ」と言うのも珍しいんですけどね。我々には我々の試みがあるし、作家さんには作家さんの試みがあるし、両方とも受け入れられる世界になったなと。これが10年前なら大炎上だったと思いますけど(苦笑)。

──しかも単にキャラクターがしゃべるだけではなくて、セカイごとに性格付けも違うじゃないですか。以前のインタビューで話題に出た「アッパーなミクさん」だとか。そのあたりはどのように試行錯誤されたのでしょうか? 

佐々木氏:
 Colorful Paletteさんのほうで表現したい世界観の中にいる多種多様なミクのイメージが、ドラマにおじゃまさせてもらうというか、次元の違う存在として雰囲気を出していくというところでチューニングしていったら、自然とそういうふうになっていった感じですね。ニュアンスやテイストというのはどちらかというと、現場の若いスタッフさんが「ここなんじゃないか」というところに、制作のおじさんが合わせていくスタイルなので(笑)。

小菅氏:
 「ミクがセカイごとに違う」と言われて、最初は「それを3Dで全部作るんですよね?」と思いました(笑)。「マジか!? でもやろう」と。

バーチャル・シンガーたちが、ストーリーの中でちゃんと役割を持っている

──『プロセカ』の物語は、まず最初に5つのユニットごとのメインストーリーとバーチャル・シンガーたちのストーリーがあって、そこにイベントストーリーという形で、新しい物語が追加されていく形ですよね。その中で各ユニットのイベントストーリーに関しては、メインストーリーから続く少し先を描く形で進んでいると思うのですが、それだけではなくて学校や街を舞台にして、ユニットを超えたキャラクターの交流みたいなものも、少しずつ描かれています。それは今後どういう方向になっていくのでしょうか? 

近藤氏:
 基本的にはユニットごとのストーリーがあって、それを軸にして進んでいく形です。ストーリーに関しては、キャラクターたちの成長を描いていくというのが根底にあるので。だとすると、彼ら彼女らが壁に当たった時に、その壁を越えるために自分自身でいろいろと考えるかもしれないし、誰かの一言からの気づきがあるかもしれないし。その中でバーチャル・シンガー、つまりミクさんたちの言葉からの気づきがいちばん多いと思うんですけど。

 でも普通に考えると、すごく閉鎖的なコミュニティの中だけで、そういうものがあるわけではないじゃないですか。バイト先の先輩から言われるかもしれないし、学校の友達から言われるかもしれない。ユニット混合のイベントはそのあたりを開放して、各々のキャラクターが他のユニットのキャラクターと触れあって、それぞれが自分たちのユニットに持ち帰っていくという考え方ですね。今後もそういった形で続いていくと思いますし、だから最終的にはおそらく、全員のキャラクターが知り合いになるかもしれません。

──ゲームをプレイすることによってだんだんと、あの20人のキャラクターたちが生活しているシブヤの街、みたいなものが見えてくるのが、すごく魅力的だなと思うんです。キャラクターごとのサイドストーリーに、意外な人間関係が隠れていたりとか。

近藤氏:
 そうですね。サイドストーリーも含めると、どこにどのキャラクターが出てくるのか、けっこうサプライズなところもあったりするので。

──個人的な感想になっちゃうんですけど、この半年間のイベントの中だと、自分は体育祭のストーリー(「走れ!体育祭!~実行委員は大忙し~」)が好きなんです。あそこまで性格が真逆なキャラクター同士だと、むしろ仲良くなるんだ、みたいな。

近藤氏:
 えむとまふゆですか。あの2人を仲良くなったと言っていいのかはアレですけど(笑)。でも、そういう関係性も面白いなと思います。

──あと、ミクさんが普通に体育祭の応援に出てくるというのも楽しくて。

近藤氏:
 バーチャル・シンガーたちが現実世界に出てくる頻度は、ちょっとずつ上がっている気がしますね。

佐々木氏:
 これまではミクがすごく人気で、他のキャラクターはミクほどの人気はないよね、と協業先からも思われやすかった中で、『プロセカ』の中ではMEIKOの出番をすごく気づかってくれていたり、レンやKAITOにこんなに需要があったんだ、みたいなバズり方をしてくださったりするので。クリプトン的には今までMEIKOやKAITOにあまり手をかけられていなかったところもあったので、「報われたね、良かったね」と草葉の陰から見ています(笑)。

──MEIKOに関しては、『プロセカ』のプレイヤーの間で「MEIKO姉さん」という敬称が、普通に通用するようになりましたよね。

佐々木氏:
 役割の中でちゃんとポジションを持たせてもらっているのが、ほんとハッピーだなと思いますね。

──リン・レンはある意味、すごく分かりやすい弟や妹のポジションだと思うんですけど、考えてみればMEIKOやKAITOは、かなり不思議なポジションですよね。

近藤氏:
 ウチの実家の母親や姉や姪も『プロセカ』をやっているんですけど、みんなKAITOが好きなんですよ。「お兄さんっぽくて安心感がある」と。バーチャル・シンガーと人間という括りじゃなくて、普通にいちキャラクターとして「KAITOいいよね」と言っているのを聞くと、「垣根がないんだなぁ」って思いますね。

佐々木氏:
 ミクは「可愛いアンドロイド」というお手本がSFの中であったと思うんですけど、その可愛いアンドロイドよりも前に出ていた旧型のお兄さんが、「包容力がある」と受けとめられるのって、斬新だなぁと思いますよね(笑)。

──それはやっぱりユーザーさんとの相互関係の中で、キャラクターが育っていっていると考えていいのでしょうか? 

近藤氏:
 そうですね。僕らとしては、必要最低限のキャラクター付けはさせていただいている部分があって。とはいえバーチャル・シンガーに関しては、それは本当に必要最低限に留めているので。それをどう受けとめて、どう楽しんでいただくかというのは、ユーザーの皆様に委ねているところではあります。さっきの関係性のところも含めてですけど。

人間とバーチャル・シンガーが共に歌う際のチューニングは、今でもフィーリングです

──次は楽曲についてお聞きします。この半年間で過去の名曲だけでなく、有名クリエイターによる書き下ろしの新曲が次々に登場して驚いたのですが、これはもともとそういう想定だったのでしょうか? 

近藤氏:
 そうです。オリジナル曲を一定ペースで追加し続けることが、絶対に必要だと思っていたので。ボカロ界隈のクリエイターの方々に、コンスタントにオリジナル曲を書き下ろしていただいて実装していくというのは、本当にいちばん最初から要件として入っていました。そのためにいろいろな苦労があり、今も佐々木さんにはそういう交渉をお願いしているんですけど、とにかくそれは最初からの意図ですね。

──しかもクリエイターの方々が、各ユニットのキャラクターやストーリーに即した楽曲を作られていて。それがオリジナルの新曲として出てくるのは、ゲームをプレイしている側として、すごくインパクトがあります。

近藤氏:
 それは僕らというよりも、クリエイターさんの側でかなり汲み取ってくださっている部分が大きいですね。僕らからはそこまで細かいオーダーをしていないんですよ。

 こういうコンテンツを作る時に、けっこう細かく指定する場合もあると思うんですけど、ボカロのクリエイターさんはご自身の持ち味だとか、独自の世界観が強くあると思っているので。どちらかというと僕らが気をつけているのは、「今回はこういうテーマの曲だから、こういったクリエイターさんに書いてもらいたい」という部分ですかね。そうすればクリエイターさんの持ち味もおそらく活きるし、いいんじゃないかと。そこから先は、必要最低限のキーワードとイメージみたいなものをお渡しして。そうすると、すごく汲み取って書いてくださって、歌詞や曲調も合わせてくださっているということだと思います。

佐々木氏:
 いちばん最初の頃は、『プロジェクトセカイ』というゲームで、声優さんが歌ってミクもいてという、今までのボカロ曲にはない謎ロケーションみたいなものについて、作家さんもかなり戸惑われていたと思います。純粋に「この企画、コケるんじゃないか?」と推察された方もいると思いますし。ユーザーさんにも過去の名曲になればなるほど、その名曲をゲーム側の趣向や都合で料理する、みたいな見られ方もしていたと思うので。

 ただ、GigaさんやDECO*27さん、Mitchie Mさんらが『プロジェクトセカイ』の第1波のオリジナル曲を出されると、他のクリエイターさんはそれを分析されて、「客層はこうで、この曲のこの要素がこう伸びているんじゃないか」だとか、そのへんの肌感を、みなさんお持ちだなと。そこからはすごく早くて、イラストレーターさん含めクリエイターさん同士で、いい意味で「この人がこう来るなら自分はこうする」みたいな感じになって。だから今では、「このユニットの曲を書きたい」とおっしゃってくれることも増えましたね。

小菅氏:
 実際にゲームを遊んでくださって、シナリオも読み込まれている方がすごく増えましたから。

近藤氏:
 最初の頃は「一緒に歌うって、どういうこと?」といった質問をたくさんいただきましたね。声優とバーチャル・シンガーが一緒に歌うとどういう音や雰囲気になるのか、と。

小菅氏:
 まず「一緒に歌えるの?」という不安もありましたから。

──そこに関してクリプトンさんとしては、人間とバーチャル・シンガーが一緒に歌っても大丈夫だという自信があったのですか? 

佐々木氏:
 大丈夫かどうかと言う自信は、正直そんなにあったわけではないですけど。ただ、安室奈美恵さんやBUMP OF CHICKENさんとミクとのセッションだったり、ボカロPさんだとピノキオピーさんがボカロと一緒に歌うのを模索されている流れの中で、一緒に歌うことで良くも悪くも目立って、アイデアも際立って、それがすごくチャレンジングというか、ひとつの壁を乗り越えようとしているように感じてはいました。まぁ、今回は全部がチャレンジだったので、ここもチャレンジしていいかなと(笑)。

近藤氏:
 僕としては、いちばんのチャレンジがそこだったんですよ。そこに関してはけっこうギリギリまで答えが見えていなくて。最初に公開した「スイートマジック」が完成したのが本当にギリギリの時だったんですけど。

佐々木氏:
 ああ、その話はヤバいヤバい(笑)。本当に公開の数日前でした。

近藤氏:
 それまでは完成音源がなくてイメージが沸かない中で、佐々木さんが連れてこられたサウンドチームのエンジニアの方々がすごくがんばってくださって、実際いい音になって。

 人間とバーチャル・シンガーが一緒に歌うのは、普通にやるとたぶん成立しなくて、裏でかなりスゴイ処理をしているんですよ。その結果、僕らが聴いても違和感なくまとまっているという。

小菅氏:
 そこに関しては明確なレギュレーションがあるわけではなくて。僕らもいまだに佐々木さんに見てもらいながら、曲ごとにバランスを取っているんです。

佐々木氏:
 最終的にはフィーリングのお話だったりするので。それこそColorful Paletteの若いスタッフの子に、SlackのDMで作った音源を聴いてもらって「しっくりきますか? きませんか?」みたいな尺度で確認させてもらって(笑)。

 我々みたいな制作と、リアルタイムに楽しく聴いてくださっている方とでは、押さえているポイントがみんな違っていて。反響でも賛否両論、今でも当然いろいろあったりする中で、やっぱり若い人たちに聴いてもらいつつ、長く聴けるものがモアベターですから。バーチャル・シンガーが人間っぽくなることがゴールでもないですし、そこのさじ加減って本当にフィーリングだなぁと。

 でも最終的に、『プロセカ』全体がそういう…いい意味で未完成なフィーリングになりましたよね。

近藤氏:
 そうですよね。

──僕なんかはむしろ、最初から違和感なく聴いていて。アナザーボーカルでバーチャル・シンガーだけの歌声にしたり、過去の名曲を遡ってオリジナルのボカロバージョンを動画で聴いたりすることで初めて、人間とバーチャル・シンガーが一緒に歌っていたことを意識するというか。

近藤氏:
 バーチャル・シンガーと人間が一緒に歌える事が成立するからこれをやろう、ではなくて、もうちょっと違うところからスタートしているんです。人間とバーチャル・シンガーが共存する世界で、「じゃあどう共存するの?」という話になって。僕はいまだに覚えているんですけど、小菅さんたちと話している時に「一緒に歌うしかない」という結論になって、じゃあ佐々木さんにもそう言いにいくしかないと。

小菅氏:
 けっこう最初の頃から「一緒に歌うしかない」という話になったんですけど、さすがにトライするものが大きすぎて、しばらく寝かせたんです(笑)。いよいよとなった時に、佐々木さんに対して、これはもう相談からですよね。「本当にそんなことできるんですか」というところからのスタートでしたね。

佐々木氏:
 ウチは逆に、最初から一緒に歌う方向でいきたいなと思ってはいたんですけど、それを言い出しても責任を取れないので、告白されるのを待つ、みたいな(笑)。そうしたら「来た来た」と(笑)。

近藤氏:
 その結果、「無理かも」ということを一個一個成し遂げていって。本当に奇跡みたいなものですね。

佐々木氏:
 でもユーザーの方から見ても、声優さんたちとバーチャル・シンガーたちが一緒に歩み寄ろうと努力している雰囲気が伝わって、応援したいなと思ってもらったり、「みんなで仲良く」とか「お互いに理解し合いながら」というのを感じ取ってもらえたんじゃないかと思います。言葉にしちゃうと説教臭いものになってしまうところを、試みとして声や音で示せたというか、伝わるものがあったんだろうなと。それは、とても音楽っぽいなと思いますね。楽器と楽器が認め合いながら重なっていく感じですね。

新しい音楽を発見する上で、『プロセカ』がひとつの橋渡しになれている

──以前のインタビューで「『プロジェクトセカイ』がボカロの音楽が盛り上がっていくきっかけになれば」とおっしゃっていましたが、この半年間で、そうしたきっかけになれたという実感はありますか? 

近藤氏:
 あるかないかで言うと、少しはあるのかな……とは思います。『プロセカ』にはずっと最近の曲を入れているわけではなくて、ひと昔前の有名な曲も入っていますし、ある程度再生数はあるんだけどちょっとマイナーな曲も入っていたりするんですけど。新しい音楽を見つける上で、『プロジェクトセカイ』がひとつの橋渡しになってくれているというのは、少しずつ実感できていますね。

 たとえば、『ミルククラウン・オン・ソーネチカ』という曲が僕は好きなんですけど、『プロセカ』収録曲の中ではそんなにすごく有名なわけでもなくて。でも『プロセカ』に入ることが発表されると、Twitterのトレンドに入ったんですよね。それで楽曲のもともとのファンの方にも喜んでもらえましたし、本家の曲のYouTubeのコメント欄を見ると「この曲を知ることができて良かったです」みたいな新しい書き込みがあったりして。そういう感じで、貢献できることもあったのかなと。

 ただ、今の状況が100点満点だとはぜんぜん思っていないですし、何かを作るきっかけになってくれればいいなというのが最終的にあるので、そこに関してはまだまだ、できていることとできていないことがあるかなと思いますね。

佐々木氏:
 このあたりってニワトリタマゴの関係で。『プロジェクトセカイ』の素晴らしさと、ネットのクリエイティブのそもそもの素晴らしさと両方あって、それが調和しているからだと思うんです。

 言葉にするとチープになるんですが、ボカロPさんだとかイラストレーターさんだとか、クリエイターさんの中に共鳴する感じ…共感覚というか、言葉にならない何かをものすごく広い範囲に伝播させる力を持っている方々がたくさんいらして。そういった方々に対して、プロジェクト側がいい形で「共振器」になれていて、『プロセカ』の物語に彼らの曲がドラマティックにはめ込まれることによって、非常に広い範囲に素早くお届けできる、みたいな。結果論ですけど、そういうハーモニーみたいなものが少しできていて。

 こうなるためのニーズもあったし、底力もあったし、結局これを生んだのはリスナーひとりひとりの念というか。ネットのクリエイティブって、決められたルールはない思うんですけど、雰囲気を乱すことはしたくなかったんですよね。そこの微妙なバランスは、すごく難易度が高かったですが、近藤さんがもともとボカロPとして活動されていたりとか、セガさんはセガさんで『DIVA』の頃からCGの表現を蓄積されていたりとか、それぞれ生き様の中で準備してきたんですよね。

 そういう想いが一点に集まりつつ、ドミノ倒し的にバーッと広がっていったのかなと。

近藤氏:
 針を100本並べて、そこに糸を順番に通していくような、そんな感じですね。何かがハマったからというよりは、そういう繊細なものをひとつずつ解決していくことで、全体が上手くハマっていってくれたというか。

──僕らとしては、全部じゃないにしても90本ぐらいにはすでに糸が通った状態で見ているので、最初からすごく綺麗に作られているように見えたんですけど、実際の作業はそうではなかったということですか? 

近藤氏:
 いえもう、ぜんぜん。最初の2年ぐらいは本当に、みんな大変だったんですよ。

佐々木氏:
 今、近藤さんがおっしゃっているハードルって、内部的にはけっこう高くて。セガさんもそのへんは一番大変というか。

小菅氏:
 その針もまっすぐ並んでいるわけじゃないですからね(笑)。あっちこっち向いているところを通していく、みたいな。でも結果的にお客さんの手に届くところには、しっかりとしたものをお届けできたので、良かったと思います。

『プロセカ』のe-Sports大会は、「RAGE」史上2番目の同時視聴者数を記録

──『プロセカ』はゲームそのものだけじゃなくて、ゲームをどう見せていくかの部分の戦略も、すごく考えられている印象があります。ゲーム中の3DMVを、YouTubeで順次公開したりだとか、受け手の側が求めていることを、きちんと理解されている感じで提供されているので。

近藤氏:
 僕の考え方としては、根本的には良いプロダクトがないと絶対にダメなので、まずは良いプロダクトを作ることがいちばん最初に来るんですけど。

 先ほど、マーケティングが強い、みたいなことを佐々木さんが言われていたんですけど、僕としては本当に良いものを「これは良いよね」とちゃんと思ってもらえるように見せることも大事だと思っているだけなんです。『プロジェクトセカイ』は業界的にも、プロモーションが上手くいっていると言われることが多いんですけど、基本的にはまず良いプロダクトを作って、その上で『プロセカ』であれば『プロセカ』にしかない良いところをメンバーが理解して、それをしっかりと伝えていくことが大事で。

 『プロセカ』なら、たとえば初音ミクさんたちバーチャル・シンガーがいることだったり、好きだったボカロ曲に3DMVがついてリズムゲームで遊べることだったり、難易度「MASTER」っていう本当にめちゃくちゃ難しい難易度があるということだったり、そういったものを、それを魅力的に感じる人にしっかりと伝えていく。その中で、難易度「MASTER」は音ゲーマーの方々にすごく刺さるものだというところまでは比較的簡単にわかるんですけど、そこから先、どう伝えたらいいかはクリエイティブ勝負というかアイデア勝負で。そこで「社築(やしろきずく)【※】さんを超えろ!」みたいな企画が生まれてくるわけですけど。

 なので、ユーザーさんやお客さんやコアなファンの方々がそもそも何を求めているのか、その人たちに本当に喜んでもらえるような要素はなんだろうか、というのをまず突き詰めて考えて、それをプロダクトに落とし込むところが、上手くいっている理由の8割ぐらいなんです。プロモーションは正直、それをどういうふうにみんなに伝えていこうか、という残り2割の感じですね。

※社築(やしろきずく)
にじさんじ所属のVTuber。音ゲーについての造詣が深く、プロリーグの監督も務めている。『プロジェクトセカイ』ではリリース前からプロモーションに参加している。

小菅氏:
 今、例に出た難易度「MASTER」に関しても、最初はそこの部分を見せていたら「難しすぎる」みたいな声が出てきたので、もっと遊びやすい部分を見せていったりだとか、そういうこともしていましたね。

──難易度の話が出てきた流れでお聞きしますが、まさか『プロセカ』が「RAGE プロジェクトセカイ 2020 Winter」として、e-Sportsにまで進出するとは思っていませんでした。

近藤氏:
 あれは正直、あんなに好評になるとは思っていなかったんですよ。ただ、チームに「チャレンジはしよう」「チャレンジはしたほうがいいよね」という価値観が大前提にあるので、音ゲーの大会を賞金付きでやってみるというのも、まぁいいんじゃないかというぐらいの温度感だったんです。そうしたらかなり盛り上がって。

 サイバーエージェントグループが関わっているe-Sports大会「RAGE」のイベントのひとつとしてやったんですけど、それが「RAGE」でも歴代2位ぐらいの同時視聴者数になったんです。

──しかもその大会の決勝曲としてサプライズ発表されたのが「千本桜」で。そういうところまで上手くできていたなと。

近藤氏:
 同じことをずっとやっていても絶対に飽きられますし、何か新しいことをやり続けないといけないので。「RAGE」にしても、好評だったからといって第2回をそのままやるのでは意味がないので。じゃあ、より面白くするにはどうやるか。でもそれも、当たり前のことを言ってるだけですけど。

 僕は、世界的に大ヒットしているゲームとかもよくやるんですけど、そういうゲームってじつはけっこうゴリゴリにアップデートして内容を変えてくるんですよ。環境も変わるしUIも変わるしで、その時は戸惑うんですけど、結果として面白くなっていて。10年前のそのゲームを見ると古く感じるんですけど、今のそのゲームを見てもぜんぜん古く感じない。途中で一気に変わったわけじゃなくて、ちょっとずつ進化しながら今に至っているんです。そういう体験がベースにあるので、やっぱり変えていかないとダメだよな、という気持ちが根底にありますね。

「セカイ」を大きく広げていきたいが、薄まってしまわないようにしたい

近藤氏:
 ソーシャルゲームとかスマートフォンゲームの寿命は何年、みたいな話がありますけど。僕はもっといきたいというか、海外のゲームだとそもそも、寿命みたいな話がなかったりもするので、それは目指していくべきだと思います。結果としてそこまで上手くいくかはともかくとして、姿勢としてはそれをやっていかないとという気持ちで、今も開発を続けています。

佐々木氏:
 採り上げたいボカロ曲だとか、参加いただきたいクリエイターさんが際限なくいらっしゃるので、そういう考え方がベースになってきますよね。

近藤氏:
 そうですね。ずっと進化し続けていきたいとは思っていますし、ユーザーのみなさんが「こういうものがほしい」というものは順次検討していきます。でもそれだけではなくて、「こういうものが来るとは思っていなかったけど、それはすごく嬉しい」というものを仕込むことに、僕らは一種の責任感を感じていたりもしますから。むしろそれがないとダメだなと思っているので。

 ユーザーのみなさんへは、ワクワクしてもらったぶんだけ良いものを提供できればと思っています。ハーフアニバーサリーと言わず、1周年、2周年、3周年と続けられるだけの良いコンテンツにできるよう、引き続きがんばりますのでよろしくお願いします。

佐々木氏:
 こういう風に、長く続けていきたいなと思うんですよ。で、自分達に出来る地道な努力を続けていきたいなと思うのはサウンド面のテクニカルさだったり、ミクとMEIKOの差を埋めることだったりするのですが、皆さんの評価を見ながら改善していくしか無いので、今はコツコツ続けていきたいなと思っています。

 3DCGのほうも、このプロジェクトが注目されればされるほど、どうやっていこうかというのがさらに難しくなっていくので。そこはセガさんも大変だなぁと。どうですか? 

小菅氏:
 3Dに関してはとにかく、さっきお話ししたように表現を上げていこうとしていますし、そうすればストーリー性を持ったものも、もっといろいろと作れるようになると思います。そこから楽曲のほうもさらに展開が広がるでしょうし。

 私としては『プロジェクトセカイ』をより「広げたい」と、より「届けたい」の二軸で動いていて。「広げたい」はグッズであったりとか、他のメディアへの展開とかですね。場合によってはリアルライブみたいなこともできたらいいなと思っていますし。

──『プロセカ』はタイアップやコラボも、いろいろと考えられますよね。

小菅氏:
 そうですね。『プロセカ』というタイトル単位だけではなくて、ユニットごとのコラボもすでに動いています。

──それこそ男女混合ユニットもいるので、いろんな切り口ができると思いますし。

小菅氏:
 作りやすいですね。佐々木さんもさっき言っていましたけど、『プロセカ』はいろいろな土壌に広げられる「器」になっているので。今後はいろんなところにお出かけしていくと思います。

 もうひとつの「届けたい」としては、今は日本で楽しまれているコンテンツですけど、できればもっと世界に出ていって楽しまれるコンテンツになれたら、もっといろんなことができるんじゃないかと。

──現状で、海外でのサービスの予定は? 

小菅氏:
 まだ検討している段階ですが、海外を見据えた動きをしていきたいと思っています。YouTubeのコメントでも外国の言葉をけっこう見かけているので、いろんなところから注目されているというのは実感しています。日本だけではなくて、もっと多くの人に遊んでもらえるような動きを、これから取り組んでいきたいと思っています。

佐々木氏:
 今、夢はいろいろ広がっている最中だと思うんですけど、その中でヘンに薄まってしまわないように注意しながら、ファンのみなさんとコミュニケーションを取って広げていけたらいいなと思っています。

近藤氏:
 いろんなやりたいことは無限にあるんですけど、クオリティは落としたくないですよね。やりたいことを良いクオリティでやれるように、がんばっていますので。

──どうもありがとうございました。(了)


 鼎談の中にもあるように、『プロジェクトセカイ』はゲームの中でオリジナルキャラクターが繰り広げている物語とボカロ曲が結びつくことで、ボカロ文化やネット音楽の「器」、つまりプラットフォームとして機能し始めている。それは今後、ゲームの人気が拡大していくことで、『プロセカ』がかつてのニコニコ動画が果たしていたような役割を、今後担っていく可能性をも秘めているのかもしれない。

 ハーフアニバーサリーを迎えた『プロセカ』は、今後も新たな試みが用意されているという。ゲームをすでにプレイしている人はもちろんのこと、まだ触れたことがないという人も、この機会にぜひチャレンジしてみてほしい。

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