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ケモノは売れない?感情移入できない?いやいやご馳走だろ!ケモノは絶対にメジャーになる!そんな想いから生まれたケモノゲー『戦場のフーガ』に迫る【CC2松山洋×新里裕人インタビュー】

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『戦場のフーガ』が短期間で完成しなかったわけ

──ここからは、より詳しく『戦場のフーガ』について伺っていければと思います。今回は、本作のキーマンである新里さんにも同席してもらっています。まずは、お二人がどのような形で『戦場のフーガ』に関わられたのか、その立ち位置などについてお聞かせください。

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新里氏:
 『戦場のフーガ』は、弊社の初パブリッシングとして3つの作品を展開する「ネクストプラン」というプロジェクトの第一弾です。自分はその施策の責任者というポジションで、始めは制作プロデューサーに就き、本作のディレクターと二人三脚で制作を行ってきました。

 ただ、弊社にとってパブリッシングは初の試みだったので、様々な部分で上手くいかないこともあり、試行錯誤を繰り返していく中で、「時間がかかりすぎてるので、もう畳まないと」「プロジェクトを完成させないといけない」といった事態が迫ってきました。

 そこで『戦場のフーガ』の完成に向け、途中からディレクター兼チームリーダーとして開発に加わり、2021年に入ってようやく完成させることができました。

──おお……大変な道のりだったようですね。

新里氏:
 元々の企画発案は松山で、ふたりで話し合いながら私が企画書としてまとめました。そこからプロジェクトが立ち上がって、制作がスタートしています。途中でディレクターとして入ってからは、仕様を書いたりチームの管理を行ったり……プロモーションを含めたもろもろに携わりつつ、やり取りをしながらゲームを作ってきました。本当にもう、ようやく完成したなという想いです。

──開発陣のまとめ役だけでなく、ゲームそのものをまとめる立場でもあったんですね。ところで、本格的に『戦場のフーガ』の開発が始まったのはいつ頃ですか?

新里氏:
 本格的というと、3年前ですかね。

松山氏:
 社内では「C5」と言っているんですが、この「ネクストプラン」で初のパブリッシングタイトルをやりますよと社内に向けて掲げたのは、2017年くらいです。「受託は受託で続ける一方で、スマッシュヒットを狙える新しいIPを自分たちで作っていく」と社内向けに宣言して、そこからアイディアを募集し、動き始めたのがこの時期です。その時に複数のアイディアが集まり、「この方向で行きましょう」と決まるまでにもそれなりの時間がかかりました。

 今もそうですが、当時はバンダイナムコさんなどと業務委託契約を結び、自分たちから様々な提案はしつつも、いただいたお金とスケジュールに合わせた範囲内でモノを作る、というのが基本でした。

──その基本ラインとは別に、新たな方向性を模索した道のひとつが、自社パブリッシングであり、「ネクストプラン」の『戦場のフーガ』だったわけですね。

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新里氏:
 ゲーム制作は、重厚長大で巨大な規模にどんどんと膨らんできました。PS3やPS4辺りの時代からですね。それだと、1本作るのに100人規模になり、3年4年かかるのが当たり前。このままだと、若手の育成という意味も含め、あまりよくないと考えました。

 そこで、今から15年くらい前のゲーム開発の規模感で、期間は1年から1年半、チームも10人や20人程度でゲームを1本作り、若手の成長を促すプロジェクトを始めようと決めて始めた……んですが(笑)。

──ですが?(笑)。

松山氏:
 社内でアイディアを集めたら、「こういうのがやりたい」みたいなのがわーっと集まるんですけど、匙加減がみんな分かってなくて。「これって結局どれくらい開発費かかるの?」と聞くと、「10億円くらいですかね」と言われて。「ねえ、話聞いてた?」ってなるわけですよ(笑)。

 さらに、「じゃあ期間はどれくらい?」「3~4年はかかりますね」「だから、話をね!?」みたいな(笑)。

──アイディアと期間が膨らみがち問題ですね(笑)。

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松山氏:
 ウチの現場の感覚が“そうなっていた部分”もあったので、1発目はお手本というか、「こうやって企画を作るんだよ」という部分から始めないとダメだなと思い、『戦場のフーガ』については私が企画立案をしました。

 そして、新しい挑戦をするのであれば、25年前にサイバーコネクト(※当時の会社名)が初めて作った『テイルコンチェルト』を内包する「リトルテイルブロンクス」の世界観を持つ作品にしよう、新たなステージに挑むならここからだろうと思い、『戦場のフーガ』は「リトルテイルブロンクス」シリーズ最新作になりました。

 ちなみに『戦場のフーガ』は、『テイルコンチェルト』や『Solatorobo』と同じ「リトルテイルブロンクス」の世界ですが、作品的に因果関係はなく、単体で独立・完結している完全新作です。何の前準備も必要なく、まっさらなままで遊べます。

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──最初の企画立案の時点で、『戦場のフーガ』の特徴的なポイントは既に盛り込まれていたのでしょうか。

松山氏:
 子供達が戦車に乗って旅をする、「ソウルキャノン」という恐ろしい兵器を積んでいる、子供の命と引き換えにするジレンマを抱えたRPGを作るといった点は、既に決まっていました。

 それを具体的な形に落とし込んでいこうと、順番に取りかかっていったんですが……最初に企画を作ったのが2017年で、チームが3人や5人というごく少数の状態でスタートしたのが2018年ですね。

 ですが、2018年はまだ本格稼働ではなく、プロトタイプみたいなものを作っていました。で、2019年に徳島で行われた「マチアソビ」などで、皆様にバトル部分だけプレイしてもらったりして、徐々に進めていきまして。本格的に「作りましょう!」と稼働したのは、正直に言うと2019年からですね。

 そこから、2019年、2020年とおよそ2年が経ち、2021年も現在ですでに半年が過ぎていますから、延べで換算すると概ね3年かかっている感じですね。

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──自社パブリッシングという初の試みもあり、模索も多かったことと思います。

松山氏:
 最初、1年から1年半と言っていたのに、結局3年かかっとるやないかって話なんですが、これにも理由がありまして。今でこそタイトルも言えますが、当時は『ドラゴンボールZ KAKAROT』や『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』を作っていて。『鬼滅』は今もですけどね。で、他にも受託でやっているプロジェクトもありまして。

 こうした受託案件の開発が多忙になった場合、やはりそちらを優先するわけです。自分たちのタイトルを後回しにして。なので、本来『戦場のフーガ』にアサインされるべきスタッフが、受託案件に回って向こう1年はアサインできない、という状態になることも。

──受託案件を遅らせるわけにはいきませんしね。

松山氏:
 人がいないとゲームは作れないので、2019年からはちょっと無理くりで、福岡の制作会社に『戦場のフーガ』のプログラム部分をまるごとお願いしたり。

──全て社内制という点にはこだわらず、軽快なフットワークで事態に当たったと。

松山氏:
 というか、社内で手の空いているプログラマーがいなかったんですよ。0人だったんです(笑)。

──そうだったんですか!

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松山氏:
 プログラマー0人でゲームは作れませんから(笑)。『ドラゴンボールZ』や『鬼滅の刃』のゲーム開発が遅れるわけにはいかない。でも「始められないね」だといつまで経っても『戦場のフーガ』は完成しない。そこで、とにかく動かそうと決め、協力してくれる外部の会社にお願いをし、ここまで何とか進めてきたという感じです。

 なので、本プロジェクトにおける私の肩書きは、制作総指揮となります。

──主要な要素を含めた企画原案に限らず、全体を監督する立場でもあったんですね。

松山氏:
 今回はパラメータひとつにまで口出ししていますし、テクスチャやモデル、モーション、エフェクトなども全部見ています。なので、ある意味“サイバーコネクトツーの純度100億%”みたいなタイトルになったのは、今回が初めてですね。

 当初の予定よりも時間こそかかってしまい、小人数短期間とまではいきませんでしたが、プロジェクトの意義としてズレてはないかと思います。

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──『戦場のフーガ』の開発において、若手とベテランの割合はどのくらいだったんですか?

松山氏:
 半々です。若手だけだと完成しないので。若手を引っ張り上げるベテランも必要なんです。元々、この組み合わせをイメージしていましたし、狙い通りにできたかなと思います。

──では若手育成という目標も叶えられたんでしょうか。

松山氏:
 そうですね。ウチのスタッフで、ゲームデザイナーのヨアン・ゲリト(フランス人)は、それまで別プロジェクトの業務をやっていたんですが、そちらの役目を終え、『戦場のフーガ』を立ち上げる時に抜擢しました。とはいえ30代なので、そこまでの若手ではないんですが。

 でもこれまでは、いちゲームデザイナーとして仕様書を書いたり、ミニゲームやバトルといった一部分を担当するのが今のゲーム開発なんですよね。そうではなく、ゲームの仕様全般を任せる、いわゆる「クリエイティブディレクター」として、とにかく新里に提案をする。で、新里が「それをやりたいのは分かるけど、それをやったところでどんな効果が生まれる?」と打ち返す。こういった会話を、とにかく毎日、恋人みたいな密度でやるんですよ。

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 そこで、「あ、これだったらイケるね」と核心を持ったものだけが、新里から私の方に上がってきて……で、結局またここで打ち返すんです(笑)。「やるんだったら、ここまでやらないと意味ないんじゃない?」って。

 ちなみに、最終的にはこの3人で話をしていましたね。終盤の頃とか。

──ディスカッションを繰り返すことで、ゲームもブラッシュアップされ、若手も育っていくと。

松山氏:
 ヨアンは元々、昔から日本のゲームが大好きなんですよ。スーパーファミコンの『クロノ・トリガー』とか。なので、ゲーム的なセンスと言いますか、勘どころは持っているんです。持っているんですが、それと「ディレクター」というポジションは、活躍の度合いが全然違いますので、今回は彼自身にも新たな挑戦があったのだと思います。

 新里がずいぶん鍛えてくれたおかげで、また次に繋げられるんじゃないかなと。なので、狙い通りの成長を促せたと感じています。

子どもの命と引き換えに敵を一掃する「ソウルキャノン」

──これまでの「リトルテイルブロンクス」と比べて、現時点における『戦場のフーガ』に対するユーザーさんの反応はいかがでしょうか。

松山氏:
 特に「ソウルキャノン」の存在が大きいと思いますが、フックが強いだけありますね。発売日に向けて情報を毎週出しているんですが、「ソウルキャノン」の情報を出した時の反響が一番大きかったですね。

 禁断の兵器なので、ここにフックがあるのは分かっていましたが……ただね、ちょっとモヤっとするところがありまして。

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敵との闘いの中で、子どもたちがピンチになると発動を迫られるソウルキャノン。敵を一掃する協力な一撃ですが、それには大きな代償が……。ソウルキャノンを使うかどうかは、プレイヤーの選択に委ねられています。

──と言いますと?

松山氏:
 新人研修の一環として、社内でモニターを行ったんです。今年は、福岡本社と東京スタジオ合わせて40人の新人が入りまして。その全員に、『戦場のフーガ』を遊ばせたんですよ。「決まった期間の中で、クリアしなさい」と。で、そのパラメータのデータを集めて、調整に役立てるという計画でした。

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──新鮮な反応も得られそうですし、興味深い施策ですね。

松山氏:
 で、その結果がちょっとショックだったんですが……40人中、3割以上のスタッフが「ソウルキャノン」を撃ったんですよ 。

──……3割、ですか。

松山氏:
 新里は「まあ、大体それくらいかな」と許容範囲っぽかったんですが、私の感覚だと「10~20人いて、ひとり撃つか撃たないか」かなと。いやだって、人の心を持ってたら普通撃てないからね!? だってソウルキャノンですよ!(笑)

──分かります(笑)。自分も、極力撃たないプレイに走ると思います。

松山氏:
 なのにね、ヒドイ奴になると、12人の子供しかいないのに、6人も「ソウルキャノン」にしたからね!?

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 だから、終わった後に呼び出しましたよ。「お前、頭おかしいのか!?」「どういうつもり?」と(笑)。

──問い質したんですね(笑)。

松山氏:
 しかも12人の中で一番幼いのは4歳の子なんですよ。「メイ」って言うんですが。なのに、その子からソウルキャノンにしてましたからね!

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──それは……確かに、色々と話を聞きたい(笑)。

松山氏:
 まあ詳しく聞いたところ、今回は研修だったので、ソウルキャノンを使ったのは「期間内にクリアするために」という理由でした。コンテニューばっかりやっていたら時間が足りなくなってクリアまでできないかもしれないので、「ここはもう、使っておこう」と……いわばジレンマがあり、クリアを優先する判断でした。

──なるほど……研修ですから、まあ……。

松山氏:
 なのでこっちも、「う、うん、そうね、研修だからね」と……。

──……ですが、本音としては?

松山氏:
 「けど、撃つかなぁ!?」って(笑)。

新里氏:
 撃つにしても、4歳の子じゃなくてもねぇ。

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松山氏:
 ほかにいくらでもいるやん、って話ですよ!

新里氏:
 ある意味、「ソウルキャノン」で人格判断が(笑)。

松山氏:
 人間、性善説や性悪説など色々ありますが、新里は割とクレバーで「いや、撃つよ」「3割以上はいる」とね。

新里氏:
 ゲームデザイン的に言うと、0%だと困るんですよ。

松山氏:
 それはもちろんもちろん。

新里氏:
 そこは葛藤して欲しい部分だし、こういうゲームがあまり得意じゃない人にとって「ソウルキャノン」は救済策でもあるんです。使ってしまうけど、それで先に進める……という選択肢はアリだと思います。

 あとは、その道を選ぶ人が何割くらいいるか、ですね。そこは計算しにくい部分でもありますが。でもまあ、全員がゲームが上手いわけではありませんし、全員がパーフェクトなプレイを目指すわけでもない。なので、「まあ、いるんじゃないの?」という気持ちは確かにありました。

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──ですが、4歳からというのは……。

新里氏:
 そのデータを見た時は、正直「えっ、メイ!?」とは思いました。

松山氏:
 新人だから、20歳とか21歳が多いんだけど……今の若い子、怖いわー(笑)。撃ちまくってるからさ。

新里氏:
 「ソウルキャノン」を使うにしても、我々の想定だと、「ボロン」や「ソックス」あたりかなと思っていたんです。

 ところが、意外と主役級のキャラだったり、小さい子が「ソウルキャノン」に使われたりしていて、予想外でしたね。

──なるほど、それは確かに意外でした。

新里氏:
 なので発売後は、「チュートリアルで誰をソウルキャノンに使った?」みたいな話題が出てくるんじゃないかと思っています。

松山氏:
 これは海外も含めた話なんですが、まだ発売もされていないのに、もうRTAの話題が出ているんです。しかも、悪魔のRTAですよ。「12人全員をソウルキャノンにしてクリアを目指す」みたいなね。

──先ほどの言葉をお借りすると、人の心がない発言ですね(笑)。

松山氏:
 一応、言っておきますよ? ……そのプレイ、できます。

──できるんですか!

松山氏:
 全員ソウルキャノンにした状態でクリアすることは、可能なんです。

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新里氏:
 一番最後に待っているクライマックスの戦闘で、最後のひとりが犠牲になる──という形ですね。

松山氏:
 そのかわり、このプレイはめちゃめちゃ大変ですからね!? 12人いる中で、ひとりふたりが欠ける分には、やりようはあります。穴を埋めることもできます。

──万全ではないにしても、窮地というほどではないと。

松山氏:
 でもね、12人が6人になると、もう控えがいなくなる。で、5人、4人、3人……と減っていき、それでも物語は進みます。そしてふたりになり、最後はひとりきりですよ。バトルに勝つことは当然キツイに決まってます。

──12人のユニットで攻略していたゲームが、終盤はひとりふたりで戦うなんて……絶望的な予感しかしませんね。

松山氏:
 めっちゃキツイですからね。……でも、できます。

──ちなみに、12人全員を「ソウルキャノン」に使う方法は、RTA的に速いんですか?

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松山氏:
 いや、速くはないと思います。そもそも……ちょっとネタバレになるかもですが、社内におけるプレイでは、全員ソウルキャノンルートのクリアは2周目が最短でした。

──初プレイで目指すのは、相当厳しそうですね。ちなみに、2周目というのは、いわゆる周回プレイですか?

松山氏:
 はい。周回プレイはパラメータを引き継げるので、どんどん強くなります。1周目でもトゥルーエンドを見ることはできますし、逃した方は2周目に挑めば、1周目より楽に目指せます。どこまで遊ぶかはユーザーさん次第ですが、12人の子供たちはかなり成長できます。カンストがかなり上なので。

 私の感覚では、先ほど話した12人全員がソウルキャノンになるという、いわゆる「全滅エンド」は、3~4周やらないと難しいと思います。ただ、社内では2周目で成功した猛者もいました。

──「全滅エンド」よりも、トゥルーエンドの方が難易度的に楽ですか?

松山氏:
 それが普通だよ!(笑)。 全滅とかやめてくれって話だからね。一応、想定はしてますけど。

 基本はトゥルーエンド。やっぱり、ハッピーエンドを目指して欲しいんです。そのために用意してるんですから。

新里氏:
 一番クリアしやすい方法は、「ソウルキャノン」も使って、残り9~10人くらいでクリアを目指す形かもしれません。特に強い強敵を「ソウルキャノン」で倒せますから。

 全員生存を目指すと、「ソウルキャノン」を使わずに強敵を倒さないといけないので、ちゃんと攻略する必要があります。

──腕に自信がある方は、戦略をしっかり立てて挑む。ちょっと苦手な人は、周回プレイで強くして。それぞれの形で、トゥルーエンドを目指せるんですね。

松山氏:
 ええ、その通りです。

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──ちなみに誰かがソウルキャノンになると、物語にも影響は出るんですか?

松山氏:
 これは進めていくと分かるんですが、「ソウルキャノン」に捧げてしまった後も物語は続きます。で、物語は決まっており、そのストーリーに合わせたイベントイラストとか出てくるんです。

 そのイラストですが、ソウルキャノンになった子供のところは、ぐしゃぐしゃっとした線で塗りつぶされます。

──それは……キツイですね……。

松山氏:
 「ソウルキャノン」を使った罪悪感を植え付けるための演出なんですけど、直接見ていただいたらわかると思います。

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新里氏:
 最初は、制作側の都合という意味で入れた演出だったんですが、実際にやってみたら「これ、エグイな」と実感しまして。

 ちなみに「全滅エンド」の時も、この演出が関わってきます。

──それは見たい……ような、誰も失いたくないような(笑)。ところで、『戦場のフーガ』のプレイボリュームはどの程度でしょうか?

松山氏:
 社内のモニタープレイの傾向で言うと、1プレイが大体14~5時間。2周目だと強くなっているので、大体10時間ほど。初見でノーマルエンド、そして2周目でトゥルーエンドを目指すとしたら、ざっと25時間くらいですね。

新里氏:
 このゲームは、エンディングは複数ありますが、エンディングすべてをコンプするゲームではないと思っています。そして、決まった主人公もおらず、ある意味では12人全員が主人公なので、誰をメインで使うかはプレイヤーに託されています。結果として誰を犠牲にするのか、プレイヤーにとって誰を主人公にするのか、それは遊ぶ方次第です。

 インターミッションで交流でき、子供達同士が仲良くなることもできますが、誰と誰を仲良くするかも、プレイヤーさん次第です。

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──その点の自由度が高いというか、プレイヤー側の選択が反映されやすいんですね。

新里氏:
 狙いとしては、プレイヤーさんの中にドラマを作って欲しいんですよ。誰と誰を仲良くさせるかを決めて、自分にとっての『戦場のフーガ』のドラマはこうなんだと、作り上げてもらえたら嬉しいんです。

 ストーリー上で用意されているイベントを見るだけでなく、「この子とこの子のコンビ、最高だな!」というプレイ感覚も込みで体験して欲しい。実際、モニター会の時も、組み合わせの話で盛り上がっていましたね。

松山氏:
 ちなみに『戦場のフーガ』の配信ガイドラインは、全部OKにしてます。これはウチのポリシーでもあります。

──全部というと、ストーリーからエンディングまで全て、という意味ですね。

松山氏:
 今まで作ってきたものは、お預かりしているものがほとんどなので、原作者や著作者の意向に従って配信禁止エリアなどが設定されていました。

──今回の『戦場のフーガ』は、自社パブリッシングなので、さきほどのポリシーを貫けるわけですね。

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松山氏:
 我々サイバーコネクトツーの基本的なポリシーになりますが、自社パブリッシングタイトルに関しては、エンディングまで含めて全部実況配信可能にしています。

 なので、我々も楽しみなんですよ。皆さんのプレイを見たいなと思っていまして。

──物語を進めた時の反応や、誰と誰を仲良くさせるか。また、「ソウルキャノン」を使うかどうか。使うとしたら、誰を犠牲にするのか……実況も見どころが多そうですね。

松山氏:
 各メーカーさんのポリシーにもよると思うんですけど、「ネタバレされると売れなくなる」という考えから実況配信を禁止されているケースもありますし、それはそれでいいと思うんですよ。

 ただ、本作に関しては……例えばストーリーはネタバレかもしれませんけど、ゲームプレイって人それぞれじゃないですか。『戦場のフーガ』を実況配信している方が何人いても、そのプレイ内容は全部違うと思うんです。

 なので、配信されたから、ストーリーのネタバレを食らったから、といった理由で『戦場のフーガ』の魅力がなくなるかと言われれば、そんなことはないと考えています。そこの自信もあり、今回は全てOKと。

売れなかったら倒産? 常に真剣勝負で挑む理由

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──『戦場のフーガ』は初パブリッシングタイトルとなりますが、会社としてはどのような形で取り組まれたのでしょうか。例えば、万が一パブリッシングタイトルの売れ行きが振るわなくても、受託案件で会社の経営・運営を維持できるような状況を先に作ってから着手した、といったケースなどもありますが。

松山氏:
 「そのタイトルが売れなくても、会社は大丈夫」なんてのは、エンタメでもなんでもありませんね。

 このタイトルがダメだったら、全員首くくって死ね──と言えるくらい、自信があって売れるものを作って勝負しないと、何がエンタメだって話ですから。安全圏から「売れなくてもいい」なんてビジネスは、ウチでは絶対にやりません。

 完全に「One or Eight」。生きるか死ぬか。イチかバチか。それがエンタメの真骨頂でしょう。

──今回の『戦場のフーガ』を含め、常に真剣勝負、常在戦場と。

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松山氏:
 なので、『戦場のフーガ』が売れなかったら、サイバーコネクトツーは潰れます。

──非常に力強い断言ですね。

松山氏:
 それでいいんですよ(笑)。ウチら、エンタメやってるんですから。「お金に余裕があるからやりました」なんて勝負は、勝負じゃないよ。もちろん、各社意見はあると思いますが、少なくともウチはそうです。

──では、お答えしにくい流れだとは思いますが、このお話について新里さんはどのようにお考えでしょうか。

新里氏:
 これはちょっと言いにくいですね(笑)。まあ、例えの話も経営リスクの話であって、売れて欲しくないわけではないのは分かります。

 自社パブリッシングは、受託案件と比べると、チャレンジャブルな部分はあるんじゃないかなと思います。今回の「ネクストプラン」……「C5」でやろうとしていることは、新しいIPをウチから発信することなんですよ。でもIPって、世の中にはもう山のようにあって、新しいものも常に出ていますよね。現れては消え、現れては消えで、極一部だけがヒットして継続している。

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 そういう意味でのリスクは、オリジナルタイトルなら常に抱えています。そこでリスクヘッジをするために、なるべく開発費を少なめにするというのは、この「C5」にあった課題のひとつでした。

 『戦場のフーガ』の開発に関しては、そのリスクが上がってしまってから市場に出す形になったので、真剣度もより上がっていると思いますが、「C5」の本質はこういったチャレンジャブルな部分にあると考えています。

 もちろん「ヒットしなければいけない」という責任はすごく待っていますが、やってみないと分からない部分でもあります。我々は、『戦場のフーガ』はすごく面白いものが出来たと手応えを感じていますが、これがちゃんとお客さんに届くかどうかはまだ分からないので、頑張って伝えていきたいなと思っています。

──答えづらい流れの中、誠意あるコメントをありがとうございます。自社パブリックは、こちらが想像する以上に大変なことが多いと思いますが、それでもこの挑戦に臨んだ理由や狙いはなんですか?

松山氏:
 サイバーコネクトツーが次の段階に進むためですね。もちろん、今後も受託はやっていきます。ウチは今、大きく分けると受託が3ラインあって、自社タイトルも3ライン。開発期間や規模は違いますが、どちらのラインでもちゃんとヒットが狙える会社にしていきたいと思っています。

 自社IPは未来永劫残ります。そして、自社IPは純度100%のサイバーコネクトツーです。これが、今の自分たちが考えるお客さんとの向き合い方のひとつです。

──自社IPをどのように活かすか、その展開や展望なども既にありますか?

松山氏:
 『戦場のフーガ』はゲームだけでなく、それ以外の展開も計画しています。自社IPなので、何の制約もない状態で世界に向けて展開できると思いますので、ぜひご注目ください。こちらは、時が来れば発表します。

『戦場のフーガ』は正解がないゲーム

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──ここまで、開発の背景や狙い、特徴的な「ソウルキャノン」についてのお話などを伺ってきましたが、ここからはゲームとしての『戦場のフーガ』を詳しく教えていただければと思います。

新里氏:
 『戦場のフーガ』は、2017年に企画を立てた時には、かなりシミュレーションゲーム(以下、SLG)寄りでした。しかも、リアルタイムなSLGで。

──ゲームのジャンルからして、当初と今は大きく違っているんですね。

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新里氏:
 子供達がいっぱい出て、戦ったり生活したりする──そのコンセプトは最初から変わっていませんが、表現方法としてはリアルタイムで考えていました。子供たちがいっぱいいるので、ユニットとして運用するという意味では、SLGの方がいけるんじゃないかなと思いまして。

 ですがリアルタイムなSLGって、ぼーっとしてると時間だけが経って、いつの間にかゲームオーバーになってしまうジャンルなんですよね。このジャンルに慣れていない方からすると、どうしても敷居が高い。

 そこから「このゲームが目指しているのは、本当にこれなのかな?」と考え、現在のかなりRPG寄りなゲームになりました。

──当初は、どんな形のゲームだったんですか?

新里氏:
 最初は、生活パートとバトルパートがもっと混然一体としていました。それを、「インターミッション」と「バトル」に明確に分け、わかりやすくしています。

 「インターミッション」の部分もリアルタイムではなく、アクションポイント(AP)を消費して行動します。このAPが、いわゆる「時間」の代わりですね。何かをすると時間がかかりますから、行動することでAPを消費するという形で表現しまして。

 リアルタイムSLGを遊んだことがない人も、シミュレーション的な要素を楽しんでもらえるようなものにしようと考え、何度も改修して今の『戦場のフーガ』になりました。

──ジャンルを変えるような改修を経て、完成した作品なんですね。

新里氏:
 実はバトルについても、何度も改修しました。コンセプトとして決まっていたのは、巨大な戦車に砲座がいくつもあるので、子供達を砲座や各施設に配置する。そして、子供の能力によって効果が変わる。この点は一環して貫き通していますが……うまい感じのゲームには、なかなかまとまらなかったですね。

──どんな風に手こずられたんですか?

新里氏:
 システムとして形にすることはできるんですが、プレイしている側に面白さがちゃんと伝わらなかったんです。そこで何度も何度も作り直しを行い、どうやって分かりやすさを出すか思案しました。

 改修を繰り返す中で大事にしていたのは、「どの子供を配置しても戦いの印象が変わらない、というゲームには絶対にしたくなった」という点ですね。子供の配置を入れ替えることで効果が、引いては手応えが変わる。この分をどれだけちゃんと表現できるか、この部分の試行錯誤を何度も行いました。最終的には、かなりうまい匙加減にできたと思っています。

──匙加減に奮闘した一例などを、教えていただいてもいいですか?

新里氏:
 ゲームのコンセプトとして、子供の入れ替えが大きなウェイトを占めますが、ソウルキャノンの使用で子供が減っていく可能性があるため、「この子がいないと、この戦いは絶対に勝てない」というハマりが発生しないよう、余裕を持たせたバランス取りが必要でした。こういった匙加減は、結構難しかったですね。

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──子供達の個性を押さえて均一化すれば、バランスは取りやすくなりますが、入れ替えの醍醐味が減じますし、かといって個性を強めるほどバランス取りが難しくなる……確かに難問ですね。

新里氏:
 今はそれが、かなりうまく設計されていまして。例えば、「マルト」という砲撃系のキャラがいるんですが、この子がもしいなくなっても、近い立ち回りができるキャラが他にも何人かいるんです。もちろん、完全に同じではないんですが、積むような状況にはなりません。

──入れ替えることで、あまり触れていなかったキャラの個性や性能に気づく機会にもなりそうですね。

新里氏:
 はい。入れ替えは、欠員だけで発生するわけではないんです。“怪我”や“落ち込み”といった状態異常で、「今このキャラは使えない」という状況が発生します。こういう時に入れ替える必要があり、他のキャラの魅力に気づく機会にもなるんじゃないかなと。

松山氏:
 怪我などで仕方なく後ろに下げ、「次のインターミッションまでの我慢だ」と思いつつ、別のキャラを前衛に持ってくる。戦っていると「あれ? このキャラ意外といいところあるな」と気づけるのも、『戦場のフーガ』の醍醐味のひとつですね。どのキャラも万能ではなく、どのキャラも魅力がある。

──近い立ち回りができるキャラがいるので、ハマりはない。でも、まったく同じではないので、そこから個性も見えるし、戦い方にも変化がある。なんだか、人間関係にも通じそうな話ですね。そのポジションにはつけても、その人にはなれない、みたいな。

新里氏:
 人間関係といえば、「この子とこの子を仲良くしないとダメ」は絶対にしたくなかったので、システム面とゲームバランスの双方でしっかり調整しました。プレイヤーの想像や妄想による「この子とこの子を仲良くさせたい」を通るゲームにしたかったんです。

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──入れ替えが、新たな魅力や気づいてなかった戦略の発見に繋がるんですね。では、この『戦場のフーガ』を通して表現する際に、特にこだわった点はどこでしょうか?

松山氏:
 音楽ですね。サイバーコネクトツーが作るもの全てに共通している話なんですが、物語を楽しみたいだけだったら、アニメを見たり漫画を読んだりすればいいんです。映画でもいい。だからこそサイバーコネクトツーは、モノ作りのモットーとして、ゲームソフトと物語の融合を掲げています。ただ「NARUTO-ナルト-」のゲームを作るんじゃない。ただ「鬼滅の刃」のゲームを作るんじゃない。それはオリジナルのゲームタイトルでも一緒です。

 本作『戦場のフーガ』でも目指したのは、ゲームシステムと物語の融合体験です。これこそが、ゲームにしか出来ない楽しみなので。そこに大きく貢献できているなと思うのが、音楽です。

──本作の体験に、音楽がどのような形で貢献しているのですか?

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松山氏:
 『戦場のフーガ』には、ドラマを彩る音楽、そして主題歌「轍に咲く花」を含めた歌がいくつも入っているんです。今回、日本とフランス現地で収録を行ったんですが、合唱団のコーラスがありまして。これがドラマを彩るように効果的に入っており、悲しいシーンでは悲しいコーラスが流れますし、子供達が頑張るシーンでは前向きなコーラスが入るようになってますので、このコーラスもご注目いただきたいところですね。

 ちなみに今回のボイスは、日本語ボイスとフランス語ボイスの2対応でして。「なんで英語じゃないの? どうしてフランス語なの?」という点については、ゲームをプレイしていただけると分かります。……分かるかな? 深読みすると分かるようになっていると思います。

 そしてコーラスも、実はフランス語で流れるようになっています。ゲームプレイと物語のシンクロについて、このコーラスがものすごく貢献しているので、ここはぜひ実感してください。

──テキストとボイスの設定は、個別にできますか? 例えば、日本語表示で、ボイスはフランス語みたいな形とか。

松山氏:
 できます。

──では、周回プレイでボイスを切り替える、というのも楽しそうですね。

松山氏:
 ちょっとこの場を借りて言うと、このプロジェクトが始まって間もない時に、ウチの公式フェイスブックのコミュニティでアンケートを実施したんですよ。

 その時すでに、日本語とフランス語の両対応というのは決めていたんですが、キャラクターのボイスについて、海外のお客さんに聞いてみたんです。「日本語ボイスは日本人の声優さん、フランス語ボイスはフランスの声優さんにする」か、それとも『Solatorobo』の時のように、「日本の声優さんにフランス語も頑張って喋ってもらう」、そのどちらがいいかアンケートを取ったんです。

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──それは気になるアンケートですね。結果はどうでした?

松山氏:
 それが、8:2どころか9:1くらいの割合で、「絶対に日本人でやってください」と。日本のゲームなんだから、日本人にやって欲しい、という声が圧倒的多数でした。

 なので今回は、キャストの方々にものっっっすごく苦労してもらったんです。

新里氏:
 声優さんにとっては地獄ですよね。

松山氏:
 日本語の収録はスイスイ行きましたよ、皆さんプロですから。で、サクッと終わった後、「では、ここからフランス語の収録に入ります」と始まりまして。全てのフランス語のボイスを、先ほど話したフランス人ディレクターのヨアン・ゲリトが喋り、それを録音した音源を声優さんに聞いていただきました。

──日本人声優による、フランス語収録……なんだかすごい展開に。

松山氏:
 さらにヨアン・ゲリトがその場でディレクションもして、指導も行いました。

──本場の人間による指導ですね。

松山氏:
 フランス語の唇をぶるっと動かす感じを、とにかく耳コピと目コピでやっていただき、「もうちょっと違いますね、あとひと息いきましょう!」みたいな修正を何度もしましたね。

新里氏:
 「rの発音が入ってない!」みたいな指導もありましたね。何を言ってるんだか、こっちも全然分からなくて。

──日本語とフランス語の収録時間は、どれくらい差が出ましたか?

松山氏:
 2~3倍はかかりましたね、フランス語パートの収録は。ただ、さすがに日本の声優さんがフランス語で歌うのは無理なので、そこに関してはフランスの音楽学校に協力していただき、現地のフランス合唱団の方々に歌っていただきました。

──ぜひそうであって欲しいという気持ちと、精神的ダメージが増える予感に恐れつつ伺いますが、その合唱団の方々はお若いんでしょうか?

松山氏:
 はい。

──『戦場のフーガ』に出てくる子供達の年齢に近いくらいの……?

松山氏:
 はい、そういうことです。そのイメージでやりましたので。

──期待に応えていただきありがとうございます、「ソウルキャノン」を撃つのが更に気が重くなりそうです。

松山氏:
 一見すると、「12人の子供達が、旅をしながら戦車で戦って先に進み、ストーリーがあってトゥルーエンドがあるRPG」なので、割と王道に見えるかもしれません。ですがこの作品は、世界観やストーリーやシステムだけではなく、表と裏の顔があって、様々な謎が散りばめられています。これは設定や物語についてだけでなく、システム面でも。

 我々が、事前にそれをネタバレすることはありませんので、ゲームプレイの中で皆さんに違和感を感じていただき、気づいてもらえたら嬉しいです。「これ、なんなんだろう?」と思うところがいくつもあるので。

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 「ひょっとして、こういうこと?」みたいな形で、プレイを通して気づいて欲しいので、あえて我々からは言いません。ゲームプレイの中で、その謎に触れ、繰り返し遊ぶことの意味を見出していただけるといいかなと思っています。

 パッと見は、ジブリ映画のような牧歌的な雰囲気に見えますが、我々的には「ジブリ」ではなく、『新世紀エヴァンゲリオン』ですし、『天元突破グレンラガン』です。そっちの方が、感覚的には近いかなと。

──今のお話を聞いた上での印象になりますが、「心に刺さるゲーム」なんですね。

松山氏:
 はい、そうです。

 このゲームは間違いなく面白いし、世の中に新しい波紋を生むというか、唯一無二の作品になると思います。そして、サイバーコネクトツーにおける今後の代表作になると確信したので、胸を張って『戦場のフーガ』を世界にお届けしよう──という話をスタッフに向けて、2021年の年明けにしました。

──これ以上ないほどの自信に満ちたコメントですね。

松山氏:
 まあ面白いからね!

──それは、開発者としての立場を抜きにして、いちゲーム好きとしての視点から見ても?

松山氏:
 間違いありません!

──お話を伺って、まさにサイバーコネクトツーの純度100%だと実感しました。

松山氏:
 つま先から髪の毛の先まで全て、これがサイバーコネクトツーです。

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──分かりました。『戦場のフーガ』のプレイを楽しみにさせていただきます。こちらは少し余談となりましが、「ネクストプラン」の時に発表された残り2作品、『刀凶百鬼門(トーキョーヒャッキモン)』と『CECILE(セシル)』が、次のパブリッシングタイトルとして発表される見通しでしょうか。

松山氏:
 だと思います。順当にいけば『刀凶百鬼門』が出て、その後に『CECILE』という順番になります。ですが、おそらく来年、これとは別の新しいニュースもお届けできると思いますので、楽しみにしていてください。

 ちなみに『戦場のフーガ』は、タイトル画面にも謎があります。ゲームをやり込めばやり込むだけ、隠されている要素が明らかになります。それが世に出た辺りから、『刀凶百鬼門』と『CECILE』を含めた「復讐三部作」の本当の意味を、お客さんが理解するのかなと思います。そこもぜひ、実際のプレイでお気づきください。

──本当に仕掛けが多いゲームなんですね。

松山氏:
 ね? ウチらしいでしょ?

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新里氏:
 「短期間小人数開発って何なのかな」って思いながら、ちょっとずつ色々と仕込みました(笑)。

松山氏:
 短期間でも小人数でもないよ、もう(笑)。

新里氏:
 なので、本当に密度の高いゲームになっていると思います。

松山氏:
 『戦場のフーガ』が大ヒットしたら、支えてくれたお客さんに何か恩返しをしたいですね。『戦場のフーガ』の利益は、『戦場のフーガ』のファンに還元すべきだと思いますので。

──今後の展開が楽しみですね。

松山氏:
 ぜひご期待ください。

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 ……あの、最後に一ついいでしょうか。

──もちろんです。

松山氏:
 最後に改めてお伝えしておきますが、「ソウルキャノン」は使わないといけない兵器ではありません。また、説明のためのチュートリアルを除くと、“絶対に使わされる”(使用を強制される)といったことも絶対にないので、“使う”“使わない”を決めるのは皆様です。

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新里氏:
 そうですね。ですので、『戦場のフーガ』は正解がないゲームといえます。好きなように遊んでください。何かをやって失敗したと考えるのではなく、自分がやったことは全部が正解だと思ってくれれば幸いです。

──ゲームの根本的なテーマは「選択」であると。

松山氏:
 その通りです。そして、その選択をプレイヤーが選ぶ。道を選び、子供達を選び、命を選ぶ。この選択の全てが、皆様の手に委ねられているゲームになります。

新里氏:
 そういう意味では、取り返しがつかない要素はないので、遊び続けることで、このゲームを100%楽しむことができます。どうかのびのびとプレイしてください。

松山氏:
 ぜひ自分の手で選んで、結末を見届けて欲しいなと思います!

──熱い思いをありがとうございました!

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 「リトルテイルブロンクス」に突きつけられた3つの十字架や、自社パブリッシングゆえに純度100%を詰め込めたサイバーコネクトツーの本気などが語られたこのインタビューは、かなり刺激の強い内容と言えるだろう。

 しかしこの刺激の強さは、挑戦の表れとも言える。突きつけられた 壁、倒産の可能性も内包する自社パブリッシング、純度100%を注いだゲーム開発。そのいずれからも、過酷さが伝わってくる。

 だが過酷なのは、その全てに立ち向かったからだ。「リトルテイルブロンクス」を、そして自社パブリッシングを諦めれば、この過酷さからは容易に抜け出せる。そして、既にお分かりの通りだと思うが、諦めずに挑んだからこそ『戦場のフーガ』が世に出た。

 戦い続けたサイバーコネクトツーが、この『戦場のフーガ』で、戦いと選択をプレイヤーに突きつける。インタビューで語られたように、本作に絶対の正解はない。だからこそ、あなたがどんな正解を選ぶのか、その選択こそが最も大事なゲーム体験となるだろう。

 選択には過酷さが伴う。わざわざ苦しい道を選ぶ必要もない。そして、サイバーコネクトツーは過酷な道を選んだ。この『戦場のフーガ』を遊ぶかどうか決められるのは、あなたの“選択”だけだ。

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