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6000回ものテストプレイが傑作人狼ゲーム『グノーシア』を産んだ!「汎用テキストの再利用」によって誕生した、「本当に1000回遊べる推理ゲーム」の作り方とは

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周回プレイを繰り返していると、矛盾が生じてもプレイヤーがつじつまを合わせようとする

──『グノーシア』って、“ゲームならではの表現”ができている作品だと思うんです。つまり、漫画やアニメなど他のメディアと違う、「ゲームでしかできない表現」を意識した作りになっていて。

 ゲームならではの特徴のひとつに、「個人の体験にキャラクターの機能やゲーム内での物語が伴う」ということがありますよね。
 たとえば『ポケモン』だったら「このポケモンにここで救われた」とか、逆に「このポケモンにはめちゃくちゃ苦戦した」という体験が、プレイヤーごとにあると思うんです。それは自分の手持ちのポケモンの趣味性や方向性によって大きく左右されますよね。

川勝氏:
 その点でいうと、ゲームには「プレイヤーに見せていいもの」「見せてはいけないもの」があると思うんです。

 『グノーシア』のキャラクターにはパラメータが6つあるんですけど、それはあくまで表に出ていてプレイヤーが認識できるパラメータであって。じつはそのほかにも、表示されていない裏のパラメータもあるんですよ。

 表に出ているステータスは「カリスマ」とか「ステルス」とか、ゲームのルールを理解していく上で必要だったり、理解しておいたほうがいいだろうというものだけで。
 裏のパラメータには「社交性」「LOVE値」「相性」などがあって。プレイヤーの遊び方によってこれらのパラメータが変動して、展開が変わるんです。

 もっと言えば、同じ展開でも思い入れが違うんです。過去に自分がゲーム内で獲得した知見を、次のループで活用してほしいという意図が強く押し出されていますね。

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──『グノーシア』では周回プレイを続けることで、キャラクターのストーリーパートが進んでいくじゃないですか。つまり物語が断片的に語られていくわけで。

 『グノーシア』のキャラクター表現の本質というのは、周回プレイで遊んでいくうちに感じられるようになるそのキャラの癖や個性ですよね。しかも、それが断片的に語られるストーリーと上手く噛み合って浮き彫りになっていく。それは半分、プレイヤー側の思い込みでもあるんですけど、そこも含めてスゴイなと思いました。

川勝氏:
 『グノーシア』は人狼パートを繰り返すことで、イベントとイベントの間を線でつなでいく形になるんですが、そのイベントの出方がプレイヤーによって違うので、組み合わせが無限大にあるんですよ。

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 そのために、あるイベントAとイベントBをつなげたときに「折り合いがつかなくなる」という問題が発生することがあるんです。

──イベントAとイベントBでキャラの言っていることが変わってしまったり、矛盾したりという問題ですね。

川勝氏:
 ただ、プレイヤーがこのゲームを肯定的に遊んでいると、そういった「折り合いがつかなくなる」箇所で、がんばってつじつまを合わせようとする考えが働くんです。『グノーシア』の実況プレイを見ていると、そういった場面によく出くわすんですよね。

 たとえば、あるキャラクターが論理的な性格を持っているとします。周回プレイを繰り返していると、そのキャラは論理的なのでプレイヤーのことをグノーシアだと思っているはずなのに、論理を超えて自分をかばい続けてくれたりするんです。

 そうするとプレイヤーは「論理的だったのにめっちゃ矛盾していることを言ってるじゃん。あいつは絶対に負けると分かってるのに、それでも自分を守ってくれるんだ!」みたいに考えるんです。
 これまでの経験と体験がさらに上乗せされて、肯定的に更新されていくんですよね。

──確かに、そうやってプレイヤーの感じ方が変わっていくようになっていますね。

ゲームはプレイヤーの想定を超えることを起こすかもしれない。だが、それこそが面白い

──最初はストーリーがなかったとのお話でしたが、ではキャラクターの個性はいつ生まれたのですか? ストーリーを膨らませていく上で、絶対に避けては通れない道だと思うのですが。

川勝氏:
 キャラクターの個性に関しては、いちばん最初に登場する「セツ」を例にして、話したいと思います。

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セツ

 セツというキャラクターは最初に設計した時から「猪突猛進で正義感が強い」という性格を持っていたんです。
 テストプレイではさらにその特徴が浮き彫りになっていって、「自分の思った通りに動いてくれているぞ」と思ったんです。

 だけど、数百回と繰り返しプレイしていくと、時折、セツがポンコツな一面を見せてくるんですよね。ゲーム中に不器用な行動をするんですけど、それが「可愛いな」と思ったんです。
 本当はそういうポンコツな一面を見せるキャラ付けをする想定はなかったんですけど、プレイを通じて生まれたこの魅力を生かすために、そこを設定とストーリーで補うことをしていきました。

 だから、プレイヤーの遊び方とコンピューターの生み出した輪郭に合わせて、設定とキャラクターを後付けしてもっと顕在化させた、という作りになっています。

──プログラムされたキャラクターを実際に動かしてみて、そこから見えてきた魅力を上手く、設定やストーリーで補っていったわけですね。

川勝氏:
  セツが「夕里子」というキャラと対決するシーンがあるんですけど、セツは夕里子をすぐコールドスリープさせたがるんですよ。プレイヤーはそのやり取りを通じて、セツに猪突猛進なところがあることを発見していくんです。

 でも、その猪突猛進さのせいで反撃をくらって、セツがコールドスリープされちゃってイベントが発生しないということも起こるんです。なので、このイベントが出るときはクリアしやすいように、「セツの猪突猛進さを抑えよう」という話し合いをしました。

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 だけどそのとき、「作り手の都合でセツのキャラを歪めてもいいのか?」と疑問に思ったんです。
  なので、そこのループで夕里子をコールドスリープできなかった場合はイベントを終了して、同じイベントがまた出たときに、コマンドをひとつ追加したんです。

 セツと夕里子が再会して、セツが主人公に「あの人をなんとかしなきゃ」と言ったときにコマンドが追加で出てきて、プレイヤーがセツに対して「がんばるな」と言うことができるんですよ。
 それを使うと、セツが「がんばらないほうがいいんだ、ごめんなさい」と返して、そこで内部パラメーターを落として、猪突猛進さを抑えるんです。そうやって、キャラクター性をできるだけ尊重する作りにしていますね。

hamatsu氏:
 このキャラはサクッとできたとか、逆にこのキャラは苦労した、とかというのはありますか?

川勝氏:
 設定やストーリー、セリフでラクだったというのは、ラキオですね。シナリオ担当曰く、ラキオは楽しく、あまり考えずにできましたね(笑)。

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hamatsu氏:
 あぁ、なるほど(笑)。ラキオはやっぱり、キャラが立ってるなって感じがすごくしますよね。「のびのび生きてるなぁ」って。

川勝氏:
 作り方が作り方なので、そういうものもにじみ出ちゃってるのかもしれませんね。

hamatsu氏:
 『グノーシア』の面白さって、「ストーリーのためのキャラ」がいないところが大きいなと、そのお話を聞いて改めて思いました。

 ストーリーに従わされているキャラって、いろんなフィクション全般にいると思うんですよ。「このキャラクター、話を進めるためだけに殺されちゃったな」みたいな(笑)。そういう表現って、あまり面白くないと思うんですよね。

川勝氏:
 そうです、そうです。昔『ウィザードリィ』というゲームに「バタフライナイフ」って武器があって、それがすごく好きだったんですよ。
 忍者が使うと、数パーセントの確率でクリティカルヒットして、敵の喉をかき切って一発で倒せるというぶっ壊れ武器で(笑)。

 しかも、どの敵であっても例外なく適用されるみたいで、最後のボスも一発で倒せるんです。つまり「例外処理がない」という点に、魅力を感じてしまうんですよね。

──レトロゲームならではって感じがしますね(笑)。

川勝氏:
 『グノーシア』でも「あっ、これは作り手の都合でこうしたのかな」みたいなのが嫌なので、それは極力排除しました。

 僕たちはいつも「遊んでくれた人がどうなるかは分からない」と言っているんです。つまり僕たち制作者も含めて、「ゲームはプレイヤーの想定を超えることを起こすかもしれない」ということを言い表しているんです。

 だから、「しげみちのイベントが発生した」といっても、その直後にすぐコールドスリープされることもあるだろうし、グノーシアに襲われることだってあるわけですよ(笑)。
 その公平性みたいなものがきっと、リアルな体験の中に根付いていくんじゃないかなと思っているんです。

──その予測不可能性みたいなものって、ゲームが持っている最も強い表現のひとつだと思います。それは「ゲームでしか成し得ない」というか。

 以前、電ファミで『ダビスタ』のインタビューをした時に、「自分の予測を超える」ということがテーマのひとつになったんですよ。
 あらかじめステータスや挙動を設定はしているんだけど、『ダビスタ』ではユーザーがその予測を超えてくる部分をあえて許容している、みたいな話があるんです。

 でも、今のゲームで予測を超えさせるというか、自分の想定を超えさせるって、すごく難しいことだろうと思うので。

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hamatsu氏:
 そうですよね。難しいと思いますけど……。でも、そこをさらにもう一段上回ろうとしてる勢力も現れてきていませんか?

 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や、そのフォロワーの『クラフトピア』とかは、その予測不可能性をもう一段バージョンアップしようとしていると感じるんですよね。「そういう予測不可能性こそ、やっぱり大事だよな」という勢力の新たな台頭だと思います。

 

 『グノーシア』もそういった勢力のひとつですよね。先ほどの『ウィザードリィ』のバタフライナイフの話もそうなんですが、「ゲーム自体の“強さ”」みたいなところにすごく感動した人が作ってるんだなという感触がありますね。

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(画像はSteam:Craftopia / クラフトピアより)

川勝氏:
 「ご都合主義」みたいなものを面白くないと感じることが、やっぱりあるんです。「何が起こるか分からない」というところの不安定さが持つ魅力というか。

 『グノーシア』は不安定な世界だということが根底にあるので、何が起こってもまぁ許してくれるかな、という。

──逆に、そうやって認めてしまうことによる不都合も起きるんじゃないですか?

川勝氏:
 そうですね。内部的な数字って、バグることがあるんですよ。だけどエラーコードが出てきた場合に備えて、それが出てくることが前提になっているイベントを作っているんです。「水そうめん」というイベントなんですけど(笑)。

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──それはスゴイ(笑)。

川勝氏:
 通常だったら、そういう状況にならないようにするべきなんでしょうけど(笑)。だけどそこに余白を残して、バグが出ても「宇宙が崩壊して面白いよね」って考えました。

誰でもクリアできるためにレベルアップとステータスが存在している

──アドベンチャーゲームでありながら、『グノーシア』にはレベルの概念があって、レベルアップでステータスが上昇していくじゃないですか。あれはなぜ必要だったんでしょうか?

川勝氏:
 レベルアップに関しては、人狼ゲームが苦手な人でもレベルが上がれば勝てるようになるということを意識して導入しました。
 要は「誰でもクリアできたらいいな」って思っているんです。人狼ゲームが苦手な人でも、能力で殴っていくみたいなことができたほうが遊びやすいし、幅が広がりますよね。

──なるほど。たしかに、人狼ゲームってある程度慣れないと難しいですもんね。

川勝氏:
 プレイヤースキルだけに依存するゲームというのは、ちょっともったいないかなと思っているんです。特に、人狼ゲームのビギナーという人にはやっぱり難易度が高いはずですから、自分が時間をかけて遊んだものに対する価値を、ちゃんと残してあげたいと思って。

 だから勝っても負けても経験値をもらえるようにしているのは、「プレイしたものに対してちゃんと報酬を与えよう」という意図なんです。
 セツも「これまでかけてきたこのループ、無駄にしたくない」って言いますもんね(笑)。

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──人狼ゲームを攻略していく部分と、パラメータ的にも強くなるという二重のレイヤーで、プレイヤーの遊びを担保しているということですね。

川勝氏:
 そうですね。ハードゲーマーだけじゃなくて、ビギナーの人にも楽しんでほしいという思いがあったので。

 ただ、同じパラメータにずっと数値を振り続ける人がたまにいるんですよ。まぁ、たぶんいるだろうなとは僕らも思っていたんですけど(笑)。そういう人は途中で「ヤバい」と気がつくと思います。

 だから僕らのほうでも応急処置として、ある条件下で人狼ゲームを進めると、パラメータを再度振り直せるようなイベントを作ったりしていますね。

──そこの部分でも、プレイヤーが自由に試してみる幅を持たせているわけですね。

川勝氏:
 6個のパラメータに数値をどう割り振っていくかという、自分の成長のさせ方の楽しみってありますよね。「自分の性格もこうだから」と、自分の性格とキャラクターのパラメータを一致させたい人もいますし。

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 そういう意味では、本当の「ロールプレイ」ですよね。「素の自分を演じる」という意味でのロールプレイングゲームになっていると思います。

──あのパラメータって、上がれば上がるほど単純にプレイヤーが優位になるんですか? 敵側のパラメータも上がっていったりするんでしょうか?

川勝氏:
 敵側のパラメータも上がります。自分が強くなるのに合わせて、各キャラクターの特記事項が解放されて、能力値がドン!ドン!と上昇します。

 敵側はバランスよくパラメータが上がっていくわけじゃないので、個々の能力がより顕在化されます。もっと性格が尖っていくというか、キャラクターが立っていくようになっていますね。

──プレイが進めば進むほど、キャラクターが尖っていくというのも、なかなか面白い設定ですね。

川勝氏:
 あとは、経験値稼ぎをしてレベルアップしたい人もいるだろうということで、戦い方や結果によって経験値の上がり方が変化していくようになっています。

 ゲームのルールをセッティングするときに、どの役職でどういう人数でやると経験値がもらいやすいかな、もらいにくいかなということを、自分で調整することができるんです。

 じつはある設定の仕方をすると、「勝利した時の経験値がすごく多い」という仕様があるんですよ。

──そんな隠し要素もあるんですか!

川勝氏:
 それを残すか削るかは制作メンバーと話し合ったんですけど、結局残すことにしたんです。「プレイヤーがゲーム中に発見して見つけた喜びを、こちらの都合で消す必要はない」ということで。

 多少バランスが壊れようがどうだろうが、見つけた人には大きなご褒美だから良かったわけで。逆に経験値稼ぎがイヤな人は、わざわざやらなくても大丈夫ですし。

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──ちなみに、それって攻略wikiとかでは広まっているんですか?

川勝氏:
 あんまり広がってないですね。もっと言うと、Nintendo Switch版にはギャラリーモードがあるんですが、その存在も特に明かしてはいないですから。

──『グノーシア』って、普通のゲームのように攻略情報を共有し合う感じが、まったくしないんですよね。

川勝氏:
 みなさん固有のプレイスタイルがありすぎて、たぶん共有しきれないんだと思いますね(笑)。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke
ライター
『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』ありがとう。黙々とゲームに没頭する日々。こっそりと同人ゲーム、同人誌を作っています。ネオ昭和ビジュアルノベル『ふりかけ☆スペイシー』よろしくお願いします。
Twitter:@zombie_haruchan

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