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『パワポケ』はなぜこんなにも尖っているのか? 極秘資料とともに開発陣が語る開発哲学と『パワポケ』らしさ

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「ほるひす」を作った方はもう大人。使われすぎて嫌になってないか心配【パワポケ6】

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※『パワプロクンポケット6』
2003年12月、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売。表サクセス「社会人野球編」の主人公は、タイムパトロールで時間犯罪者を追って作中世界へ。エネルギー問題を解決するワギリバッテリーを開発する会社・和桐製作所を犯罪者から守るため、野球と仕事に奔走する物語。『がんばれゴエモンシリーズ』のゴエモンインパクト戦をオマージュしたイベント戦闘もある。
裏サクセスは「しあわせ島編」。表サクセスの和桐製作所存続をかけた試合で負けると、借金のために謎の組織・BB団が運営する強制労働施設・しあわせ島に送られてしまうという、表からつながっているシナリオ。
キャッチコピーは「おもしろゲームがどっさり!」。

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西川:
 『パワポケ6』はなんの話しやっけ。

萩原:
 しあわせ島。

三浦
 ワギリ。

西川:
 これはあれですね、某漫画の地下労働場をイメージして。

──名前を言ってしまうと、「ざわ……ざわ……」となってしまう(笑)。

萩原:
 私はまたファンタジーを作りたかったので、乗り気じゃなかったです。いま考えたら、薄暗いところで謎の草を育てたり、けっこうヤバいことをやってましたよね。ヤギとか……。

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西川:
 ヤギのネタって井上さん(※井上秀登。『パワポケ6』まで制作を担当後、『実況パワフルメジャーリーグ』シリーズに参加。『パワポケR』ではサクセスを中心としたプログラム・シナリオの調整全般を担当)が言い出したんやっけ。

萩原:
 最初、休憩所に行くと、ティッシュが飛んでいくアニメーションも作っていたんですけど、結局さすがに自粛したんですよ。

西川:
 あ、あれは世に出てないのか。

萩原:
 珍しくブレーキを踏んだところですね。子どもには刺激が強い。

西川:
 これもリメイクするときにはうまいことマイルドにしてもらいましょう。

山本:
 できるのかなあ……。

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──表サクセスの「社会人野球編」についてはいかがでしょうか。

西川:
 タイムパトロールで未来からやってきた主人公が、現代に残ったらハッピーエンドになるんですよね。

三浦
 未来に戻るエンディングも、グッドエンディングっぽかったですけどね。物悲しいけど、悲惨な感じではない。
 あと、ほるひす【※】が大活躍でしたね

※ほるひす
『コロコロコミック』の読者応募企画にて採用されたキャラクター。当時6歳だった投稿者がクレヨンで描いた作品をゲーム内で忠実に再現したため、他のキャラと明らかに作風が異なるが、なぜか主人公以外は外見について疑問を抱かない。読者応募で採用された他のキャラは他作品に登場することはないが、ほるひすはシリーズにおけるマスコットキャラと化し、『パワプロ』シリーズ、『パワプロアプリ』にも逆輸入されている。

萩原:
 住居は製作所のロッカーで、開けると和室があるっていう。

 当時『コロコロコミック』で読者からキャラクター募集をして、漁火剛といっしょに採用されて。漁火剛が1位になったけど、みんなのお気に入りはほるひすでした。「ほーむらんをうつけど、ひっともうつよ」って意味わからん、採用。

西川:
 インパクトがすごかったからね。『パワプロ2013』で出ることになったとき、後ろに割り箸をつけてくれとお願いしたら、ホンマにやってくれた。ぺらぺらの体の後ろに割り箸がついてるんです(笑)。大喜びしましたね。

萩原:
 このキャラクターを作った方はもう大人になっていると思うんですけど、使われすぎて嫌になってないか、少し心配です(笑)。

三浦
 子どものときの応募作が、いつまでこすられんねんと(笑)。

一同:
 (爆笑)

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西川:
 でも、あんなに愛された読者応募のキャラクターも珍しいんじゃない。

萩原:
 ラーメンマンか、ほるひすか。

西川:
 『パワポケ7』の「大正冒険奇譚編」ではラスボスになって。登場するときにガンダーロボをぷちっと潰すところ、大好き。

萩原:
 あのキャラにはみんな思い入れがありますね。

「甲子園ヒーロー編」は最後のロボット戦が難しすぎると言われてました【パワポケ7】

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※『パワプロクンポケット7』
2004年12月、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売。
表サクセス「甲子園ヒーロー編」は、謎のヒーローが主人公のいる野球部に入部。活躍を歓迎していたが、助っ人のはずが徐々に野球部を占領していき、居場所を乗っ取られてしまうという物語が展開。
裏サクセスは「大正冒険奇譚編 」。多額の借金を背負う帝都の冒険探偵である主人公が、野球人形の完成と借金返済を目指して冒険するRPG。
キャッチコピーは「ガッツだ! ファイトだ! パワポケ7!」。

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──『パワポケ7』はゲームボーイアドバンスで最後の作品となりました。

西川:
 テレビでコマーシャルをやってくれたり、マスクを作ってくれたり、いろいろとやってもらいましたね。

──表サクセスは正義に関する名言も含めて、記憶に強く残るシナリオのひとつだと思います。

西川:
 難易度は凄まじく高かったですけどね。最後のロボット戦【※】が難しすぎると言われてました。ちょっとやりすぎたかな。

※最後のロボット戦
真のエンディングを目指すルートにて、高い能力を持つヒーローのチームと野球勝負に勝利したあと、ミニゲームであるガンダーロボとのラスボス戦に勝利しなければならない。

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三浦
 負けたら野球の最終戦からやり直しで。必死で勝って、ミニゲームでやられてやり直しと。回数制限もありましたね。せめてミニゲームからやり直しでよかったかもしれないですね。

萩原:
 もう野球はしたくない……となってしまう(笑)。

──アメリカのドラマ『ザ・ボーイズ』など、昨今は打倒ヒーローとなる構図のシナリオが人気を博していますが、それに近い話をすでにやっていたというわけで。

西川:
 主人公がヒーローだとお話が成立しないですからね。この話のバックボーンにあるのは、プロ野球の移籍でFAで来た人ばかりがいいポジションをとって、生え抜きがないがしろにされてるやないかと問題になっていた時期があったと思うんですけど。そのあたりの構造を反映して、このネタになったような記憶があります。だから生え抜き組と移籍加入組が対立するんじゃないかな。

 その構造で、生え抜き側から見たシナリオが『パワポケ7』、移籍側からの視点が『パワポケ9』。がんばってるのによそから来たやつらに居場所を奪われてしまう…という話と、嫌がられてもがんばるしかないんやという話。そのこと自体は明言していないんですけどね。どっちが悪いわけでもなく、いうなれば状況が悪い。

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――絶対的な正義はない、あくまでもなんらかの対立構造があるだけというのは、シリーズを通しての特徴だと思います。

西川:
 そうですね。そういう複雑な思いがあって、最後に「正義とは」って話が少し出てきます。

三浦
 あの有名なやつですね。

西川:
 それだけでは納得がいかなかったので、『パワポケ9』はハッピーエンドにしたかった。お互いに協力する道もあったんじゃないかなと思ったんです。

──裏サクセスは「大正冒険奇譚編」です。

西川:
 例のほるひすが出てくるあれですね。

三浦
 大正編はみんなノリノリで作っていた記憶があります。

萩原:
 鬼が出てくるんですよね。いま大人気の鬼を滅する作品と同じ時代設定で。

山本:
 さきがけといってもいいかもしれない(笑)。

──現代に存在するものが、すでにだいたいあるので都合がいいという話もありましたね。

西川:
 そうそう。希望に溢れていた時代なので、快男児編というか、探偵を主人公にして昔でいう少年冒険活劇ものをイメージしました。たしか、ミッション形式をやってみたかったのかな。小さいクエストをクリアしていくと、全体のストーリーが進むタイプを作ってみようと。

山本:
 マップは一本道の縦スクロールでしたね。

三浦
 タテに動いてサイコロ振って遭遇するだけやから、避ける要素もない。でも、あれでいいんですよね。

萩原:
 鬼はものすごくリアルに描いてしまって、気持ち悪かった(笑)。血管が浮き出る感じなど、ガチでドット絵に挑戦しましたね。

三浦
 かわいい女の子が鬼になるって話なので、あれでばっちり。

──変な絵を描きたくてチームに入った萩原さんとしては、まさにやりたかったことのひとつですよね。

萩原:
 そうですね。『パワポケ6』のゴキブリもそうだし、『パワポケ7』でもたくさんモンスターを描けたので。RPGをやるとキャラクターを含め、グラフィックをたくさん用意しないといけないので、それはもう楽しかったです。

新しいハードの1作目だから裏サクセスを作る時間はない、「はい地雷」【パワポケ8】

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※『パワプロクンポケット8』
2005年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。表サクセスは「特命ハンター編」。違法サイボーグを取り締まる組織の一員である主人公が、プロ野球選手として球団に潜入捜査を開始。野球選手として生活しながら犯人との戦いに立ち向かう。
裏サクセス「昭和冒険奇譚編」は前作「大正冒険奇譚編」の続編だが、マインスイーパー系ゲームとなっている。
キャッチコピーは「バンバン野球バラエティ」。今作以降、『パワポケ』シリーズはゲームジャンルを「野球バラエティ」と表記するようになった。

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西川:
 次がいよいよDSになった『パワポケ8』ですね。『パワポケ3』でサイボーグネタをやったので、次はサイボーグを探し出すという方向に。サイボーグ対策室に勤務する主人公が潜入捜査をするんやけど、じつは主人公が所属する組織のほうがヤバいところやった……という話。まあ、ありがちではあるんですけど、最終的には仲間と戦うことになる。

──このテーマはどのように決まったのですか?

西川:
 元ネタは『スナッチャー』とか、あのあたりですね。今回はちょっとカッコいい感じでいきたいという考えがあったんやと思います。だから『パワポケ8』の主人公だけ、他とちょっと違うんです。だいたいは野球バカなどボケとして出すんですど、今回は最初から強い。

三浦
 身体能力が高いので、野球のルールは一切知らないけど、やってみるととんでもない活躍をするという。

西川:
 任務で潜入したのに、最終的には野球が好きになって終わる。ハードボイルド系のかっこいいのをやってみたかったんですね。そして新しいハードの1作目やから、裏サクセスを作る時間はない、「はい地雷」と。

三浦
 ハードが変わったときは地雷。『パワポケ14』で終わらずにまたハードが変わっていたら、きっと地雷やったんでしょうね。

西川:
 『パワポケ3』では安全地帯があったのが、今回はナシで。

三浦
 安全地帯があったのは『パワポケ2』ですね。端っこを歩いたら大丈夫だったので『パワポケ3』では安全地帯をなくしています。『パワポケ8』ではアイテムが使えることと、シナリオがついているのが特徴です。

山本:
 最近またやってみたら、『パワポケ3』はすっと地雷ゲームに入るので、驚きました。『パワポケ8』は一応、「大正冒険奇譚編」から話がつながっているので。

西川:
 地雷の先まで行ってもらうために、ストーリーのヒキを作ろうと追加したんかな。とはいえ時間がないから表キャラの使い回しが多かった。

萩原:
 スターシステムということで(笑)。

『パワポケR』の購入特典で『ダッシュ』がプレイ可能【パワポケダッシュ】

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※『パワポケダッシュ』
2006年3月、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売。従来の野球システムではなく、カード野球という新システムを導入。のちに『パワポケ14』の「札侍」へと発展していく基礎となる。
表サクセスの「親父ボール編」は、試合観戦中にホームランボールが父親に直撃。死亡してしまったのだが野球の神が現れ、5年以内に少年野球で日本一になれば生き返らせると告げられて、父の霊が宿ったボールとともに日本一を目指す。
裏サクセスは「地獄ダンジョン編」。死んでしまった父に会うために地獄の底を目指す、ローグライクRPG。ちなみに、シリーズ屈指の鬱エンディングとして有名な、彼女キャラエピソードの縦読みの件は今作に登場する。
キャッチコピーは『野球はいつでも出たとこダッシュ!』。外伝として発売されたが、ストーリーはパワポケ甲子園以外のシリーズ全作品と繋がっている。

『パワポケ』はなぜこんなにも尖っているのか? 極秘資料とともに開発陣が語る開発哲学と『パワポケ』らしさ_064

西川:
 で、このあたりで『パワポケダッシュ』やね。

山本:
 『パワポケダッシュ』は僕が初めて『パワポケ』シリーズに参画した作品です。ディレクター兼プログラマーの方がひとりと、プログラマーの僕、デザインで藤岡さんも入っていました。サクセス部分はディレクターの方が手がけ、その他のカード野球、地獄ダンジョンは僕が担当でした。

 ナンバリングタイトルとは違うことをするうえで、より子ども向けに作ろうとして。子どもの中にはアクションが苦手な子もいるだろうということで、カード野球という少し変わったシステムになったんです。シナリオも、ナンバリングでは高校、社会人、プロなので、こちらは少年野球の話にしようと。

──『パワポケR』の購入特典で『ダッシュ』もプレイできるんですよね。まだプレイしたことのなかったシリーズファンがよろこんだと思います。

山本:
 ナンバリングに比べると生産本数が少なかったので、僕としても感慨深いです。初回購入特典という記載があるパッケージを買っていただいて、ぜひプレイしてほしいですね。

――どういった経緯でナンバリングから派生したんですか?

山本:
 ナンバリングをDSに移行する形で開発していた時期に、まだゲームボーイアドバンスにも芽があるんじゃないかと、並行して作ることになったんです。

西川:
 ゲームボーイからアドバンスに移行するとき、かなり時間がかかったので、DSでも時間がかかる予想があり、商機を逃さないように……という発想で。

山本:
 そのはずだったんですが、意外とDS移行が速く進んでしまった(笑)。

西川:
 一応、DSにもカセットを刺してプレイできましたからね。僕も当時、『ダッシュ』が発売されたときは買ってプレイしましたよ。

山本:
 地獄ダンジョン編は、僕が当時ローグライクにハマっていたので、作りたいといって担当しました。参考にしたのは、『NetHack(ネットハック)』。すべてテキストで構成されていて、プレイヤーは「@」、犬は「d」などと表示されるゲームです。

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西川:
 罠を踏んで、「Z」に周りを囲まれて、「うわ〜嫌なトラップ」ってなるゲームやね。

山本:
 『ダッシュ』が終わって、少し違うタイトルを挟んで、『パワポケ8』に戻ったという感じです。

いま振り返ってみると、地獄のような仕事量でした【パワポケ9】

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※『パワプロクンポケット9』
2006年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。表サクセス「さすらいのナイスガイ編」は、大型スーパーに客を取られた商店街が舞台。風来坊の主人公が偶然街に立ち寄り、商店街の野球チームの助っ人として復興に協力していく。『パワポケ7』黒野鉄斎のセリフ「正義の反対は、別の“正義”あるいは“慈悲・寛容”なんじゃ」を体現する作品。
裏サクセスは「スペースキャプテン編」。宇宙最強の帝国に立ち向かうスペースオペラSF。アクションとRPGを兼ね備えたゲームデザインとなっている。宇宙を旅して一定期間中に規定量のワクチンを集めることが目的。
キャッチコピーは「こんなゲームがあったのか!!」。

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──『パワポケ9』は「さすらいのナイスガイ編」と「スペースキャプテン編」です。

萩原:
 『少森寺編』【※】もあるので3本立てでしたね。

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※少森寺編
『パワポケ9』のみに採用されたミニサクセス。強化合宿のために小森寺を訪れるつもりだった主人公はバスを間違えてしまい、山奥の少森寺へ。間違いに気づいた主人公だったが、夏休みが終わるまでの40日間、少森寺で修行をする羽目になる。

三浦
 体験版みたいな感じだけど、選手もちゃんと作れるようにしようと。

──「さすらいのナイスガイ編」は、先ほど『パワポケ7』の話にも出た件ですね。

西川:
 生え抜き組と移籍組の対立構造を反対側から見ようと、『パワポケ7』のシーンを意図的にコピーしている部分もあります。ただし、結末はハッピーエンドで。

萩原:
 これって元ネタありましたよね。ギターで戦うやつ。

西川:
 『快傑ズバット』やね。『パワポケ8』の主人公がカッコいい感じやったから、『パワポケ9』もちょっとカッコいい感じにしようと。

萩原:
 でも、ちょっとカッコ悪い部分もある。

──住む家が無い系主人公という変わり種。

西川:
 彼女キャラの家に居候したり、カブトムシの匂い【※】がするからね(笑)。単純にカッコいいだけじゃなくて、西部劇テイストもある。どこからかふらっと来たやつが、事件を解決して去っていく。

※カブトムシの匂い
とある小学生から「おじちゃんから、カブトムシみたいなにおいがするでやんす!」と言われてしまうイベントがある。そのほか、草やきのこ、古いパンなどを食べて下痢や栄養失調になることも。

三浦
 河川敷にテントを張って住んでたりして(笑)。

萩原:
 現代版スナフキンのイメージなんて言ってましたね。釣りしてたなあ。

三浦
 彼女キャラのシナリオ担当をして、テントに住んでる人とどうやって話を展開させるのか、悩んだ記憶がありますねえ(笑)。みんながんばってそれぞれのやり方を模索しました。

──裏サクセスは「スペースキャプテン編」。これは表と裏のどちらから会議が始まったのでしょうか。

西川:
 これは表を先にやってますね。この資料を見ても「なにする? 宇宙編」というメモがあるから、宇宙編をやるのは早く決まって、なにをやるのか長いあいだ議論してたんじゃないかな。

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『パワポケ』はなぜこんなにも尖っているのか? 極秘資料とともに開発陣が語る開発哲学と『パワポケ』らしさ_070

萩原:
 積荷を運ぶボードゲームがあって、みんなでやった気がします。

三浦
 『Galaxy Trucker(ギャラクシートラッカー)』ですね。

西川:
 それでイメージがまとまって、作り始めた。あとダースベイダーが亀田っていうのは早めに決まっていましたね。

三浦
 宇宙戦闘、がんばって作りましたよ。3Dポリゴンやけど2Dのシューティング。RPG的な戦闘もあったし、開発がしんどすぎて次から彼女キャラの担当、辞めましたから(笑)。お話を書いてる時間がないので、裏サクセスに専念させてくださいと。作業量がゴツかった……。

西川:
 『パワポケ9』は表も裏も均等に力を入れてがんばってたよね。表サクセスのミニゲームには相手を弾き飛ばす、大乱闘アクションゲーム【※】もあったから、かなり力が入ってた。

※ミニゲーム「夕日に向かってパンチDEポンチ」
大乱闘の格闘ゲームで、制限時間内に生き残るか、体力がもっとも多い人が勝ち。ゲージがたまると固有の必殺技が使えるほか、アイテムも配置。キャラクターによって攻撃方法や能力が異なる。このミニゲームは通信対戦可能で、2人~4人まで同時バトルが可能。

山本:
 いま振り返ってみると、地獄のような仕事量ですね(笑)。恐ろしい……。

「バトルディッガー編」は3本買ってセーブデータを陣営ごとに作っていました【パワポケ10】

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※『パワプロクンポケット10』
2007年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。表サクセスは「甲子園一直線編」。強豪校に入れなかった主人公が寮制の高校に入り、野球部の監督・先輩のしごきに耐えて、甲子園を目指す。タイトルどおり野球漬けで甲子園を目指すシナリオだが、特定のキャラと付き合うことで、シナリオの裏側で暗躍する勢力の存在を垣間見ることができる。
裏サクセス「バトルディッガー編」は、古代人の残した謎の遺跡に戦車で潜って宝を探す、戦車カスタマイズRPG。ダンジョンはローグライク、敵に接触するとRPG戦闘が始まる。ゲーム開始時に3つの陣営「レッドドラゴン」「ブラックタイガー」「ホワイトベア」のどこに参加するかによってシナリオが変化する。
キャッチコピーは「おもしろい野球ゲームができました!!」

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西川:
 『パワポケ10』はけっこう売れたんじゃなかったかな。

山本:
 そうですね。野球のシステムが本家に近づいたことが大きいと思います。シナリオも王道で人気がありました。

三浦
 完全3Dポリゴンになったり、初めて実況もついたりと進化しましたからね。それまでは強振が強かったので、初心者も打ちやすくなったらいいなと思って、ミート打ちを強くする調整もかけてました。のちに「フルダケ」【※】などより簡単にプレイできるようにシフトしていくんですが、その方向のきっかけはここからだという気がしますね。

※フルダケ
タイミングを合わせてボタンを押すだけでバッティング操作ができる機能。

西川:
 表サクセスの舞台となった、壁に囲まれて隔離された親切高校って元ネタがあったのかな。たぶん、野球の強い学校はだいたい寮生活をしているってイメージからだったと思います。

※注:『パワポケ10』の公式ガイドにて西川氏が「親切高校の設定はしあわせ島がベースになっていて、とくにオープニングは意図的に、知っている人ならしあわせ島を連想できるような構成にしています」と語っているほか、名門校の厳格な上下関係を扱った作品となっている

──『パワポケ10』の公式ガイド本では、「一部では『パワポケはギャルゲー』と言われているので、今回は『野球もおもしろい』というイメージを打ち出したかった」という趣旨のコメントをされていますね。

西川:
 そうですね。『パワポケ7』がヒーロー編で変化球だったので、リアルに寄せようとした気がします。仲間もチャラいキャラクターではなく、丸刈りが多かったり。厳格な上下関係や実力主義の徹底を出そうと思って。

──「身砕流北高校」もリメイクで「美才流喜多高校」に名前が変わっています(笑)。

山本:
 『パワポケ10』もリメイクが大変やな……。

 あと、今作にはドンジャラのようなミニゲームがあるんですけど、これは僕が『パワポケ10』の前にPSP版の『麻雀格闘倶楽部』を作っていたことが影響しています。本家のアーケード版を参考にしたルーチンをPSP版で作って、さらにそれを『パワポケ』に活かしたという流れです。もともと麻雀が好きなので、とても楽しく作っていました。

──裏サクセスは「バトルディッガー編」。ローグライクとRPG、みなさんの好きなものが合体したゲームになっています。

山本:
 集大成のようなゲームになっていますよね。

西川:
 『パワポケ5』以来、また陣営ごとに3つストーリーを書いて。クリアしたあとも無限ダンジョンがあるんです。ダンジョンに入ると自動セーブされるから、ゲームオーバーになったら仲間がいなくなる。あれ、きついよね。『ウィザードリィ』に慣れた年寄りが多いからそうなっちゃうけど、やり直し回数を変えたり、だんだん難易度がゆるくなってはます。

三浦
 あと、覚えてるのはシロタさんに退場いただかないと……っていうのが。

西川:
 ああ、そうやったな。

三浦
 仲間キャラを集めていく過程で、あるキャラが仲間に入る条件のひとつに、シロタというキャラの動向が関連する条件があって。そのキャラがシロタさんより強いので、シロタさんに倒れてもらう人が多かったんじゃないでしょうか。

西川:
 「バトルディッガー編」はめちゃ気に入ってたので、自分で3本買って、セーブデータを陣営ごとに作ってた(笑)。

三浦
 おもしろかったですよね。戦略、装備、仲間を考えて。

萩原:
 曲も良かったですよね。

──公式ガイドを持ってきたんですが、「バトルディッガー編」のページを見ると、野球ゲームの本とは思えないんですよ(笑)。

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一同:
 (爆笑)

山本:
 野球の要素が一切ない(笑)。

三浦
 RPGのマップだけですね(笑)。

──開発者たちが心の底から楽しみながらゲームを作っていたことを踏まえてこのページを見ると、シリーズの懐の深さが改めて感じられます。

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ライター
毎日ウルトラ怪獣Tシャツを着ているフリー編集・ライター。インドネシアの新聞社、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。意外なテーマをかけ合わせた企画とインタビューが得意。守備範囲は政治・社会からアイドル、スポーツ、お笑いなどエンタメまで。30歳を超えてなお、相変わらず「マリオ」「ドラクエ」「パワプロ」「スパロボ」「ロックマン」の最新作をプレイしている現状に、20年前から精神年齢がまったく変わっていないことを痛感している。
Twitter:@mori_yusuke
副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

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