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「名越スタジオ」にはどんな人材が集まっている? 制作中のゲームの内容は? 『龍が如く』新作の発表は100点満点で200点? 名越稔洋氏が語るスタジオのいまと未来

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TGS2022における『龍が如く』チームの発表は「200点あげてもいい」最高のものだった

──せっかくの機会なので、東京ゲームショウ関連のお話もできればと思います。まず、セガさんの『龍が如く』新作の発表会はいかがでしたか? 名越さんとしては初めて開発側ではなく、外側からの視点で『龍が如く』の発表を見たわけですが……。

名越氏:
 すばらしい発表だったと思います。私がやっていてもあれだけのボリュームを一度にできたかと問われたら自信がないですし、なおかつグローバル対応に全力を注ぎつつ成し遂げたというのは、私は100点を超えて200点あげてもいいかなと。

──おお! 『龍が如く』チームの皆さんも喜ばれると思います。

名越氏:
 まあ、それだけ現場の尻は叩いているんでしょうけど(笑)。でもそれは仕方がないじゃないですか、出すものがそれだけ多いわけですから。その分スタッフをいたわりつつ、またどんどん前に進んでいただけたらと思いますね。少なくとも現段階の評価としては、私はもう、満点以上のものをあげたい。

「名越スタジオ」にはどんな人材が集まっている? 制作中のゲームの内容は? 『龍が如く』新作の発表は100点満点で200点? 名越稔洋氏が語るスタジオのいまと未来_004
(画像はYouTube「『龍が如く8』ティザートレーラー」より)

──3年ぶりのリアル開催(2021年は小規模実施)となったTGSですが、現地の印象はいかがでしたでしょうか。

名越氏:
 コロナ禍での開催ということで、まだまだ制約が多くて少し寂しいところもありましたね。それでも、せっかくやるんだから楽しんでもらおうよ、みたいな業界の意地のようなものは感じられました。伝わるものはけっこうあって、そういう心意気は買ってあげなくちゃいけないな、と思わせてくれるショウだったと思います。

 あとPC関連メーカーや海外のパビリオン的な出展が充実していたように感じましたね。その一方でコンソールメーカーのド派手な感じがなくなってしまったのはちょっと寂しいかな……。

──ここでリスナーからの質問も拾っていきたいと思います。「名越さんがいま注目しているサービスやテクノロジーはありますか?」という質問が届いているのですが、いかがでしょうか。

名越氏:
 そうですね……いま話題になっているものだとメタバースとかNFTとか、そういったものですよね。といっても全然否定するつもりはなくて、メタバースの流れは当然来るものかなと思っています。可視化できる仮想現実化されたコミュニティから物を買ったり、遊んだりっていう。そういう中で仲間どうしつながっていくっていうのは一番わかりやすいので、そこはその通りになっていくだろうなと予想しています。

 ただまあ、そういったインフラ自体を作るのは私たちの仕事ではありません。それに乗っかって物を作っていくのが我々の役目ですから。もちろんゲームにせよ、イラストにせよ、音楽や映像にせよ、そういう新しく完成したインフラとデバイスの誕生の過程でビジネスチャンスが生まれていくっていうのは期待してもいいんじゃないかな、と考えています。

──続いてもうひとつ。近年、AAA級タイトルでも初日からサブスクリプションサービスに取り入れられていたりするケースがあると思うのですが、こういった状況はどのようにご覧になっていますか?

名越氏:
 私はもうそこを論評できるような立場にないかなと思いますが……(笑)。ビジネス的な勝ち筋がある作品なら、それは悪いことではないと感じます。ユーザーさんから見ても安く面白い作品を遊べるならそんなにいいことはないだろうし。

 ただ、つらいところですよね。「ああそうか、こんなにすごいタイトルもそういうふうに売られちゃうんだ……」みたいに思ってしまう部分はあります(笑)。

 とはいっても「安くて面白い」ってユーザーさんからしたら本当に最高のことなので、じゃあ自分たちはどうやって戦うんだ、というところですね。それはもう我々なりにがんばってそれでも成り立つ仕組みを作り、「楽しんでください、お願いします」って言うしかないのかな。

 ひと言でいうと、ユーザーさんからすれば最高なんですけど、作り手からしたら「やめてくれ」って話です(笑)。

「それってゲームと関係ねえじゃん」と言われてしまうような新しいものを作りたい

──そういえば名越さんと言えば、今年3月ごろからTOKYO FMでラジオ番組「名越スタジオ presents Future Lounge」を放送されていますよね。

名越氏:
 あれは「新しい出会いをしたい」っていう思いでやっています。なので番組的に数字を取れる人というのも気にしてはいますが、それ以上に私が本当に会いたい人に会っている、という感じですね。ゲーム業界の方でなくても、仕事の仕組みや将来について話していく中で、「これはけっこうゲームに応用できるんじゃないか」って参考になる意見もいただけることが多いんですよ。

 直近だと元テレビプロデューサーの佐久間宣行さん【※】とか。年齢的にはもうそれなりの方が多いんですけど「でもまだまだやっていくんだ」という気概があって。諦めていない人が好きだし、私自身も諦めない人間のひとりでありたい

 でも、そのためには何かしらの手段、決断が必要になっていくじゃないですか。そういう部分を学ぶには、やはり人にいっぱい会って、お酒を飲んで、みたいなところを大事にしていきたいですね(笑)。

※元テレビ東京プロデューサー。『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』といった番組を立ち上げたことで知られる。

「名越スタジオ」にはどんな人材が集まっている? 制作中のゲームの内容は? 『龍が如く』新作の発表は100点満点で200点? 名越稔洋氏が語るスタジオのいまと未来_005
(画像は「名越スタジオ presents Future Lounge」公式記事コンテンツより)

──これまでにお会いした中で、名越さんが影響を受けた方とか、印象的な方ってどういう方なんでしょう?

名越氏:
 そうですね……いっぱいいるんですけど、私の最初の師匠は鈴木裕さん【※】ですね。あの人からゲームのイロハをすべて教わりました。いわば大師匠ですね。

 ユーザーインターフェース周りっていまは常識化しているものですけど、遊びやすさや安全性を担保したうえで面白さを生み出さなくちゃいけない、っていう部分は当時は学べないことだったりしたんですよね。そういったところを教えていただいた先人の方たちには大いに影響を受けたと思います。

 いまでは私たちもその立場になったわけだから、やっぱり伝えていかなくちゃいけない。ミーティングの中でも仕様を聞いて「これはすごく面白いよね」とか「ここは余計だよね」っていう気づきをたくさん増やしてあげたいと思っています。そのために、どう伝えるのがベストか、ひと言ひと言をこれまで以上に真剣に考えるようになりましたね。

※株式会社YS NET代表取締役社長。セガ在籍時に『スペースハリアー』や『シェンムー』、『バーチャファイター』シリーズなどを生み出した。

──ノウハウを伝えていくという点で言うと、最近だと『スマブラ』の桜井政博さんがYouTubeで動画の投稿を始めたじゃないですか。

名越氏:
 あれはもう化け物ですよね、いい意味で(笑)。

一同:
 (笑)。

名越氏:
 私は逆立ちしても彼のゲームセンスには勝てません。彼と話していてわかるのは、「どう遊ぶか」の美学が最初の設計の段階でもうクリアに浮かび上がっているんですよ。

 それでいて、あれだけ頭が良いのにソフトな感じで話すじゃないですか。天才肌の人って往々にして暴れん坊タイプなんですけど、桜井さんは周りに対してのストレスを見せない。そこが一番びっくりするところですね(笑)。

──(笑)。名越さんは鈴木裕さんをはじめ、レジェンド的な方々を大勢見てきてらっしゃいますもんね。 

名越氏:
 最近で言うと、「諦めないカッコよさ」を一番感じたのは岡本(吉起)さんですね。カプコンを辞められたあとに『モンスト』を大ヒットさせて。

 当時は本当に驚きましたけど、やっぱりかっこいいですよね。諦めていなかったんだ、みたいな。