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“ガンダムを知らない人が楽しめる”ことを目指すFPS『GUNDAM EVOLUTION』。そのゲーム性には「強制大縄跳びの恐怖を和らげたい」という“祈り”も込められていた…!?

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“FPSのお約束”を守るゲームデザイン

──個人的には従来のガンダムゲームと比較して、ゲーム内の仕様であったり、全体的なUIであったりが“今までのガンダムゲームっぽくないな”と感じた部分もあるんです。これも意図的な仕様なのでしょうか。

穂垣氏:
 今回、ガンダムファンだけではなく、全世界のシューターファンに向けた作品ということで、従来のガンダムゲームに寄せると“FPSのお作法”からどんどん外れていくというところがありまして。

 たとえば“クリティカルヒット”……他のゲームでいう“ヘッドショット”がないと“PvPのFPSゲームらしさ”というものが格段に落ちてしまうんです。

 かといって「クリティカルヒットの箇所を原作どおりコクピット部分にする」場合、頭部であったり、腹部であったり、はたまた股間であったりとバラバラになります。「ガンダムは知らないけどFPSだからやってみよう」という方にとって難しい環境になってしまう。

『GUNDAM EVOLUTION』ヘッドショットの位置
『GUNDAM EVOLUTION』ヘッドショットの位置

──ある意味で原作の知識を必要とするゲームになってしまうと。

穂垣氏:
 はい。それは避けたかったというのが意図としてあります。マッチ中のUIも従来の作品に近いものであったり、メカメカしいものを含めて様々とテストしていたんですが、やはり「〇〇の情報を見たい時は自然とここに目が行くよね」というような配置であったり、視認性を重視したデザインを最終的に採用しました。その上で「ブースト」や「ステップ」といった“ガンダムらしさ”を前面に出していこうと。

『GUNDAM EVOLUTION』ゲーム画面

──『オーバーウォッチ』のファンからも「UIはOWよりも見やすい」なんて声も上がっていましたね。

丸山氏:
 もともと競技シーンにいた開発スタッフを据えているというのが大きく影響を与えていると思います。今回もνガンダムを実装しましたが、Gマニューバのフィン・ファンネル・バリアを劇中の三角錐で表現してしますと、ビームが画面に映りこんで視界を悪くするんです。

 なので、あえて展開する角度を変えて視認性を向上させていたりします。原作再現という観点から見るとマイナスなポイントですが、サンライズさんとも協議の上で調整を行いました。

インタビューの実施日は2022年の12月中旬ごろ

『GUNDAM EVOLUTION』のフィン・ファンネル・バリア
協議の上で実装されたフィン・ファンネル・バリア

──ゲームの対戦バランスだけでなく、作品自体の要素という部分でバランスを考慮しなくてはならないと。

丸山氏:
 「ガンダムを知らない人でも遊べるFPS」と「ガンダムをすでに知っている人も楽しめるFPS」のラインを狙っていく作業になります。“世界観の尊重”と“ゲーム性”は時に相反する要素になってしまうので、非常に難しい部分ですが、今も取り組んでいる領域の一つです。

 ただ、根本的な部分として「原作を再現するタイトルはすでにあり、将来的にも取り組む事項」ですが、「ゲーム性を優先するタイトルは前例がほぼない」というのがあります。なので「本作を通じて、ガンダムを知らない方々にガンダムを知っていただく。興味を持っていただく」というのも最終的な目標の一つでして、IPの枠を広げることにも繋がってくると考えています。

──海外展開は無論ですし、国内でも若い層に向けたアプローチというのも大きいポイントでしょうか。

丸山氏:
 「ガンダムっていう名前は知ってるけど原作に触れたことはない」というような方、とくに若い方は多いと思うんです。また、40年という長い歴史があるゆえに「敷居が高くて入りにくい」というような部分もあると思うのですが。

──逆に開発側からしても「こういうゲームを作らないと、すでにいるファンは喜んでくれないだろう」という認識もあったのではないかなと。そこに踏み込んでいったわけですね。

丸山氏:
 はい。なので、弊社としても、ガンダム作品としても、大きなチャレンジです。

なぜ『ガンダム』というIPでプッシュせず、ゲームバランスを詰めるのか?

──プレイしていて「ガンダムというIPでプッシュする」雰囲気が少ないと感じたんです。ゲーム性を優先するという部分もありますが、たとえばプレイマップなども基本的にオリジナルで、歴代の作品に出てきた地名・戦場などを使用したものではないですよね。

 ここは採用しても「ガンダムファンには馴染み深く、そうでない人にもストレスにならない要素」だと考えるのですが、あえてのオリジナルなのでしょうか。

丸山氏:
 マップに関しては「歴代の作品に登場した戦場を使おう」という案を検討はしていました。ですが、それを実装しようとすると、どうしてもマップの再現をする必要があるんです。

──確かにまったく関係のない地形で名称だけというのはいただけないですね。ファンからも「は?」となると思いますし、何より名称を使う意味がなくなってしまう。

丸山氏:
 はい。再現という点が制約になって、チーム同士の平等性であったり、将来的なステージの改修が行いにくくなってしまうんです。ゲームのコンセプトに反してしまうので、ローンチ時は汎用的な戦場をモチーフにしています。今後、絶対に原作を再現するマップは出さないということではありませんが。

──登場する機体にタンク、DPS、ヒーラーといったロール(役割)の概念がないのも特徴的かなと。それに近い能力を持つ機体はあっても、完全に棲み分けをしているゲーム性ではないですよね。

 これによって比較的自由に編成が行えますし、ある意味で編成が固定化されないというメリットはあるかと思うのですが、同時にバランス調整も極めて難しいのではないかなと感じます。

穂垣氏:
 難しいか、難しくないかという点でご回答するなら「難しい」です。我々もテストプレイは懸命に行っていますし、同時に「このメタは強いよね」という予想であったり、テストも実施していますが、やはり実際にプレイしていただく環境とは試行回数が文字通りの意味で桁違いなわけです。

──確かに。意図した通りに使用されていることもあれば、その逆もある。

穂垣氏:
 開発チーム内でも多種多様な環境でテストを実施していて、それこそ“競技層だけ”、“カジュアル層だけ”だったり、様々な層を混合したプレイも実施しています。

 それらから得られるデータやスタッツで「プレイ層でどのような変化がみられるか」を観察、分析したり、もちろん実際のプレイで得られるデータも含めて調整を掛けていくことになりますが、実際には想定を上回る、下回ることもあります。そうした場合は「何が原因なのか」「どのレートで強いのか」といった要素も含めて分析を行っていく。

──ゲームルールの選定にはどのようなプロセスがあったのでしょうか。

穂垣氏:
 一番最初に作ったのは「キャプチャー」ですね。ただ「一つのルールでサービスを継続していくのは難しいよね」ということで、そこから試作を重ねて様々なエリアでの戦闘を楽しめる「ドミネーション」であったり、戦闘の局面が流動的に切り替わる「デストラクション」、いわゆる“爆破ルール”を取り入れたりしました。

──穂垣さんもいわゆる“爆破ゲー”のご出身ということで。

穂垣氏:
 爆破ルールの面白いところは、爆弾設置後に攻防がきれいに入れ替わる点だと思っています。ですが、今までのタイトルはリスポーンがないラウンド制のタイトルが多かったじゃないですか。ラウンド中に倒されたら次のラウンドまで基本的に眺めてるだけという。

──当たり前に認識していましたけど、言われてみれば確かにそうですね。

穂垣氏:
 本作はリスポーンありなので、「よりカジュアルに爆破ルールを遊べるんじゃないか?参入敷居を下げられるんじゃないか?」という経緯もあって実装に至っています。それこそ他のタイトルだと「これを覚えてないと話にならない」みたいな戦術や概念が多いと思うんですよ。

──「置きエイム」だとか「空爆」だとか。

穂垣氏:
 そうですね。本作は設置する場所も2箇所を用意していることで「フラっとA地点にいったら敵がいなくて設置ができました」のような、キルだけではなく、ルールの下でチームに貢献できる体験をカジュアルプレイヤーの方にも味わっていただけるのではないかなと。

 味方から称賛を受けるというのはプレイへのモチベーションに繋がりますから、非常に重要なポイントだと捉えています。

──確かに言われてみれば、マヒローのグレポン(REN-DOグレネード)は「ここから撃ち込むと強い」とか、スナイパー(ジム・スナイパー)は「この射線を通せる」とかがありますけど、他のゲームと比較して「この〇〇が超強い」みたいなのは少ない気もします。

『GUNDAM EVOLUTION』ジム・スナイパーII

穂垣氏:
 機体の特徴を活かしていきたいというコンセプトもあります。他のタイトルだと「この定点でグレ投げると解除が何秒できないから時間稼げるよね」みたいなものもありますが、本作では「投げつけようとサザビーが盾を構えてたら、そのまま解除や設置行けちゃうよね」という場面もあるんです。

 何度も設置や解除にトライできますし、その最中に体を張って守るという行為もできる。「機体の能力を活かしたプレイ」が行えて、それがポジティブなコミュニケーションに繋がっていくという点は意識している部分です。

『GUNDAM EVOLUTION』サザビー
『GUNDAM EVOLUTION』サザビー

──「ブースト」というガンダムゲームではおなじみですが、他のFPS作品にはあまり見られない独自要素がありますよね。こちらについてはどのようなプロセスを経てゲームに取り入れたのでしょうか。

穂垣氏:
 全員がブーストを持つことで「近距離を得意とするキャラが近づきにくい」とか、「スタンや引き寄せなどの“当てると強い”攻撃が当てにくい。相手側からすると見てから回避できる場合もある」などの問題があります。

 その上でブーストというシステムを組み込む以上は“使用した時の気持ちよさ”を提供する必要もあるので、どうしても初速を早くしなくてはならない。そのバランスを取るべく、攻撃のヒット判定などは回数を多く重ねて調整を行っています。得られるデータは無論ですが、実際に使用したフィールも非常に重要なので、双方を加味してテストを日々行っている状況です。

──話が少し逸れますが、先行したPC版にCS版が加わり、現在はPC版とCS版でサービスが行われています。入力機器の違いやエイムアシストの有無であったり、ゲームバランスがかなり異なると思うのですが、そこを含めた調整は極めて困難ではないでしょうか。

穂垣氏:
 その部分に関しては相当難しいです。ピック率であったりゲーム内のダメージ値であったり、開発チーム内で「これ以上は差が生まれるとダメだよね」という“アラートゾーン”的な範囲を取っています。担当チームによる日頃のデータの観察、分析、それに伴う調整の検討など、かなり工数を割いている部分です。CS版はリリースされたばかりなので、現在はデータを取っている段階ですが。

──それぞれのプラットフォームにおける入力機器からくる固有の強さを発揮していたりするケースもあると思うので、ゲームバランスを突き詰めると、共通のバランスでサービスを行うというのは……。

穂垣氏:
 はい。なので一概に「このまま双方のプラットフォームを同じバランスで運営します」ということではありません。いつか限界が来る可能性はあると思っています。

──理想としては共通のバランスなのでしょうか。

穂垣氏:
 もちろん、可能な限り共通のバランスにしたほうがいいとも思っています。ただ、それによって、どちらかで力不足になってしまったり、逆に環境のトップとして君臨してしまうのは、ゲームの性質上、望ましくない部分であることも事実です。今はまだデータを取る、見る期間なので──。

──「変えない」とも「変える」とも言えませんよね。

穂垣氏:
 はい。「可能性はあるかもしれない」ということです。

──本作は比較的少人数のバトルコンテンツになっていますが、やはり将来的には競技シーンを作ることを意識したデザインなのでしょうか。

丸山氏:
 そうですね。日本でも「GGGP2023」という賞金付き大会を開催しますし、海外でもガンダムのゲームとして初となる賞金付き大会の開催を予定しています。といっても、いきなり大会を開催したとしても注目されるというわけではなく、継続的に実施しないとコミュニティが形成されないという点もありますので、しっかりと取り組んでいきたいです。

──「いきなりPvPは怖いから、まずはPvEで慣らし運転をしたい」といった層にフィットするようなコンテンツは用意されるのでしょうか。間口を広げるモードと言ったほうが良いかもしれませんが。たとえば、ありきたりですが「協力プレイで巨大モビルアーマーを倒せ!」というようなコンテンツだったり。

丸山氏:
 大会の運営だけですと、どうしてもプレイしていただける層が狭まってくると考えていますし、より間口を広げる遊び方(モード)は本作にも必要な要素になってくると思います。現時点で明確にお伝えできるものはありませんが、そういった箇所も含めて今後のアップデートで進化させていければなと。

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ライター
『アマガミ』に脳を破壊された結果、フリーランスライターに。FPSやTPSをメインに遊ぶトリガーハッピーだが、ノベルゲーやレトロゲーも好む雑食ゲーマー。美味しいご飯とお酒もゲームと同じくらい好き。
Twitter:@Shiki_Natsugami
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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