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堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦。「いちばん好きなゲームは何ですか?」「ゲーム作りにはなにが大切ですか?」『ドラクエ』『FF』生みの親に聞いてみた【TGS2024】

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タッグ結成初期の作品と、当時のスクウェア社内の雰囲気について

鳥嶋氏:
坂口さんとしては、植松さんのどの辺に、作曲家としての才能を感じてたんですか。

坂口氏:
『ブラスティー』とかで1度仕事はしていたので。なんていうか、メロディーが好きでした。 いまでもそう思うけど、やっぱり独特じゃないですか。

『FF』とか、 普通あのメロディーは浮かばないですよね。なんかちょっと不思議な音階じゃないですか。和でもないし、洋でもないし。かといってこう、東南アジアでもない。 でも、なんかちょっとアジアのテイストが。

やっぱりそうするとゲームに個性がつくじゃない。

植松氏:
はいはい。

坂口氏:
なんとなく、よくありがちなピコピコ音じゃ嫌だな、と。当時のアーケードゲームとかでは大体似たような曲が。ループで「ピラリラピラリラ」みたいな。

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Naz氏:
でも8ビットミュージックって、3音ぐらいしか使えないんじゃありませんでしたっけ。それで、その中で作るっていうのって、初めての体験ということですよね。

植松氏:
そうですね。でもほら、それをゲームだと思えば楽しいですよ。3つでどんなことできるかなっていうの。だいたい、たいがい人間って、縛りが多い方が想像力が働くもんです。

鳥嶋氏:
あー、わかる気がする。

植松氏:
ですよね。何やってもいいよって言われたら、意外と。

Naz氏:
でも、その中で、スクウェア唯一の音楽担当者として、孤軍奮闘していくというか。ゲーム音楽を作るのも初めてっていうことですよね。ゲーム音楽を作るっていうことって、意外にこう、すっとのめり込めたんですか。

植松氏:
うん、だって、仕事としてそれしかないですからね。音楽の仕事をやりたいんだけど、 なんにも音楽の仕事なんか取れなかった自分が、毎日作曲をしていれば給料がもらえるんですよ。そんな素晴らしいことあります?

鳥嶋氏:
声をかけられて、そのあとってゲームで遊んだりしました?

植松氏:
いや、もうガンガンにしましたね(笑)。初めの頃はよくやってました。スクウェアって、 売られてるゲームがほとんど置いてあるところがあったんだよね。

坂口氏:
はいはいはい。単純に自分たちが遊びたいから、全部買ってくるんです。

植松氏:
そう、それを借りて週末とかに家でずっとやったりとか。それはもう研究のためとかじゃなくって。

坂口氏:
普通に遊んでた。

植松氏:
やってましたね。

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Naz氏:
なんかその時って、『ザ・デストラップ』っていうスクウェアさんの最初の作品で、そのときからってことですよね。

植松氏:
『デストラップ』はね、僕はまだ入ってない。

坂口氏:
『デストラップ』が2作あって、次が『ブラスティー』ってやつ。僕の3作目で一緒にやってもらったので。

Naz氏:
『デストラップ』に関しては、坂口さんがシナリオを担当したんですよね。

坂口氏:
そこらへん全部そうですね。 シナリオというか、「シナリオっぽいもの」がゲームの設計図でもあるので。その当時、そんなに深いシナリオとかじゃないじゃないですか。

Naz氏:
なるほど。ちなみに最初に出会った時の、坂口さんと植松さんのお互いの印象ってどういう感じだったんですか。

植松氏:
どういう(笑)。スクウェアで誰かが、 「みんなで決まった時間にラジオ体操をやろう」っていう案を出したんですよ。そしたら坂口さんが「いや、ダメ」って(笑)。

鳥嶋氏:
ラジオ体操(笑)。

坂口氏:
いろいろありました。僕なんか、みんなに 「ごません」を持ってって、「これすっげえうまいぞ」って言って。みんな食べ出したんですよ。「あ、ごませんうまい」って。

そしたらこう、開発室が狭いじゃないですか。「ごません」 の匂いでこう、臭くなっちゃって(笑)。次の日から「ごません」禁止令とか出して、そういう、あれですね。ラジオ体操禁止みたいな。

植松氏から見た『ドラクエ』すぎやまこういち氏の音楽と、エネルギッシュな当時の『FF』スタッフたち

堀井氏:
僕から質問、ひとついいですか?

たぶん『FF』の音楽のときって、すでに『ドラゴンクエスト』が出てたと思うんですよ。『ドラゴンクエスト』は、すぎやまこういち先生のクラシック調だったんですけど。そういう曲を意識したりとか。なんか、「どう思った」ってありました?

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植松氏:
あのね、『ファイナルファンタジー』の1作目を作る時から坂口さんから言われてたのは、とにかく「『ドラクエ』と違うものを作ろう」って。

すぎやま先生は音楽を構築して作っていくタイプで。いっぽう、どちらかというと僕は流行歌を作るような、メロディーを重視するタイプだったんですね。

たぶんそこらへんは、「すごく複雑なクラシックの構成的な音楽を作るのが得意なすぎやま先生」と「そんなことができない僕」だったんで。

そんなに努力しなくても差別化は図れたと思います。ただ、坂口さんはもうほんとに始めから「『ドラクエ』とは違うものを作ろう」って。

鳥嶋氏:
先ほど植松さんがスクウェアにあるいろいろなゲームを遊んだっておっしゃってましたが、『ドラクエ』も遊ばれたんですか。

植松氏:
『ドラクエ』も遊びました。やっぱりすごかったですよ。特にファミコン、スーファミのあたりで、すぎやま先生とよくお会いする機会があったんですけど。

先ほどおっしゃっていたとおり「電子音3音で音楽を作るのって、難しいですよね」とすぎやま先生に聞いたら、「僕は2音で作ってるんです」って言われて(笑)。

Naz氏:
えーっ。

鳥嶋氏:
(笑)。2音!?

植松氏:
2音で作ってて、もうひとつの音源は、効果音用に残してるんです。

坂口氏:
『ドラクエ』の最初の方って、2音なの!? 初めて知った。

堀井氏:
1個SEに使って、あと2音で。

坂口氏:
びっくりしましたね、言われて初めて気づいた。

鳥嶋氏:
いや、僕も初めて知った。

植松氏:
だから『FF』の音楽は、「パシュパシュ」とか、効果音が入ると、1音、音楽からなくなる。でも、『ドラゴンクエスト』はなくならないんです。

坂口氏:
2音で書いて、もう1音は効果音用にキープしてるからか。

植松氏:
いや、プロフェッショナルってすごいなと思いましたね。

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Naz氏:
いやー、これはすごい話ですね。なんか、『FF1』のときに坂口さんと植松さんが、音楽とゲームのキャッチボールをされて、「曲順を変えたらオッケーになった」みたいな話があって。

坂口氏:
テープ事件ですね。僕が悪いんです。

Naz氏:
その話をちょっとぜひ。ちょっと。

植松氏:
普通に曲を10曲ぐらい作って、「こんな感じかな」って坂口さんに渡したら、「ぜんぜん違う」と。

でも「ぜんぜん違うって怒られるほどひどいかな」と思って。ちょっと自信があったんで、こっそり曲順を入れ替えて、数日後に「これは?」って聞いたら「完璧だ……」って。

一同:
(笑)。

鳥嶋氏:
その話を聞くと、僕は鳥山明さんのキャラクターをボツにしてね、また同じのを送ってきたらオッケーしたことがありまして。やっぱそうなんです(笑)。

坂口氏:
いやー、まあよくないですけどもね(笑)。

鳥嶋氏:
じゃ、逆に坂口さんから植松さんに発注するとき、どういう発注の仕方をするんですか。

坂口氏:
特にないですが、シナリオは渡します。世界観の説明とかは毎回するけど、「こんな感じの」ってのはないですね。

植松メロディーっていうのが存在するじゃないですか。もちろんそれを求めて一緒にやってるわけなんで。そんなに細かい指示出ししなくても、外れることはないっていうか。 この「独特感」は、やってくるわけなので。

鳥嶋氏:
いろいろ聞いていて、坂口さんのチームのスタッフに対する仕事の出し方って、けっこうアバウトですよね。

坂口氏:
アバウトですね(笑)。

鳥嶋氏:
だから、それでまとまっていくっていうのが、僕は聞いていて不思議でね。

坂口氏:
なんでしょうね。

植松氏:
いや、みんな若かったんで。あんまりこう、プロフェッショナルな現場での経験もない人たちばっかりが集まってたんで。

「俺が俺が」ばっかりが集まってましたよね。だから、坂口さんがなにも言わなくても、みんななにか「しでかす」んです。

『ドラゴンクエスト』さんと『ファイナルファンタジー』が明らかに違うところは、『ドラゴンクエスト』さんって、遊んでいても洗練されてるんですよ。「ソフィスティケイト」というか。

で、『ファイナルファンタジー』って力技な感じがするのね。若さに任せて。

鳥嶋氏:
ストリート感がある。

植松氏:
そう(笑)。いい言い方をすれば(笑)。

Naz氏:
いい話ですね。すごいいい話。

鳥嶋氏:
それはやっぱり坂口さん、スタッフのやる気とか、個性を殺したくないって考えがあったの。

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坂口氏:
最初からまとめちゃうと、たぶん小さいものになっちゃうんですよね。 やっぱりこう、素材としてせっかく元気なみんななので、彼らの発想で出してもらって。

ただ、もちろん組み合わせるときに容量制限ももちろんあるんで、容量制限を言い訳にカットした。
「それは入らない」とか、「実現不可能だ」とか。

でも、物作りってそっちの方がいいじゃないですか。とりあえず組み上げて、カットすることで最後整形する方が、元気のいいものが作れるんで。

そこが大きいのと、あとはプログラムっていうのが、どうしても一本柱であるんで。それを最初の頃はナーシャ・ジベリ【※】がほぼひとりでやってましたから。

そことのコミュニケーションを僕が握ってしまえば、 結局実装されていく流れの中で、ナーシャを介して統一感が生まれるっていう。

※ナーシャ・ジベリ氏……『FF1』~『FF3』までを担当したプログラマー。ファミコンが正規に想定していない方法でプログラムを組むなど、いわゆる「天才プログラマー」としてのエピソードが知られる。

鳥嶋氏:
「最後は俺が握ってて、締めるから大丈夫だ」って思ってるのよね。

坂口氏:
やっぱりゲームのいちばん違うところって、たぶんプログラムが柱にあることなんですよね。いくら企画段階でいろんなアイデアを出しても、最後はプログラム次第なんです。

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ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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