プロデューサーと作曲家のコミュニケーションについて・鳥嶋氏はチョコボのテーマがお気に入り
鳥嶋氏:
堀井さん。植松さんの方から『ドラクエ』がすごく洗練されているって聞いてて。どうですか。
堀井氏:
嬉しいですね。僕ね、音楽を発注するときは「感じ」は伝えなくて。例えば「町の曲」とか「城の曲」とか、「洞窟の曲」とか、「フィールドの曲」とか。
曲数だけを伝えて、先生に作ってもらったんですね。そんな感じでした。
植松氏:
そうですね。基本的に僕もそんな感じです。曲数も言われなかったかな。始めはね、1作目、 2作目あたりは「ここに曲をつけて」っていうのがあったかもしれない。多分3作目ぐらいからは、シナリオを渡されて「よろしく」って感じだったと。
坂口氏:
1作目とか、容量がそんなにないんで、 そもそもそんなには入らないんですよ。だからもちろん、バトルがあって、フィールドがあって、町があって、ダンジョンがあって、みたいな話にはなるんですけど。
で、入りそうだったら、「やっぱりバトル、もう1曲あった方が盛り上がるよね。どうよ植松さん」みたいな。「どうよどうよ」って(笑)。
植松氏:
そうそう、そのへんはうまいですよね。
鳥嶋氏:
なるほどね。
Naz氏:
でも、ゲームの実物がまだない状態で、たとえば坂口さんが植松さんにイメージを伝えるのって、なかなか難しいかなと思うんですけど、そうでもない……? おふたりのキャッチボール的には。
植松氏:
シナリオを何度も読んでいると大丈夫ですかね。僕、時間がないときはシナリオを読みながら作っているんです。文字を追いながら。文章を追いながら、メロディーを作りながら読むときもある。
それはほんと滅多にはやらないですけどね。「これはもう時間足りないな」と思うときだけ。
Naz氏:
『ファイナルファンタジー』の、1本の音楽を全部作るのって、どれぐらい時間がかかるんですか。
植松氏:
どれくらいでしょうかね。でもほら、僕、その当時は社員でしたから、開発チームと同じぐらいはかかりますよね。だからやっぱり1年、1年半ぐらいは。
坂口氏:
そう、最初の頃は10ヶ月とか。1年に1回出してたんで。
植松氏:
ああ、そうだね。 でもそれはすごく長いですよ。だってね、アニメーションの仕事の方って、もう3日で50曲と作ってますから(笑)。
鳥嶋氏:
はいはい。
Naz氏:
なんかあんまり言えない話かもですけど、あるスポーツの国際大会だと、皆さん前日までお仕事されてました。開会式の前日まで作ってて、「もう間に合わないかも」っていうのはよくある、っていうふうに。
植松氏:
でしょうね。あるかもしれない。
Naz氏:
しかも2日前に別発注が来て、2日で仕上げて、その大会の開会式に出すみたいな。ああいうのを見てると、ちょっともう、音楽家の方たちに対する気持ち。
植松氏:
そんなのに比べたら、ゲーム音楽なんて楽勝ですよ。
坂口氏:
え、まだまだ僕は辛口で言っていいってことですか。「2日でやってね」みたいな。
鳥嶋氏:
(笑)。
Naz氏:
堀井さんって、たとえばすぎやま先生の音楽に対して、「いや、ここちょっと違う」みたいなことってされるんですか。
鳥嶋氏:
あ、そうそう、ダメ出し。
堀井氏:
じつはけっこう言うんですけどね。ちょっと言いづらいんですけど、「ここ伸ばして」とか、「もうちょっとこれして」って言うと、いきなり先生から電話が来るんです。それが恐怖で(笑)。
坂口氏:
電話が来るんだ。
堀井氏:
機嫌を損ねないように、「こうした方がいいんじゃないですか」みたいなことをね。
Naz氏:
なるほど。たとえば、もう具体的じゃなくて、ちょっと迂回した、というか。
堀井氏:
そうですね。「ここの部分はいいんで、ここは生かして、このあたりにもうちょっと、悲しそうな雰囲気をつけてもらって」みたいな。
Naz氏:
あの、『序曲』『ロトのテーマ』って、あれって……
堀井氏:
先生、5分で作ったって。
Naz氏:
はい、おっしゃってましたね。
堀井氏:
「56年と5分」みたいな話で。
植松氏:
それ、いい言葉ですよね。56年と5分。
堀井氏:
あれはすごくよかったですね。スッと入ってきて。
Naz氏:
そういう奇跡はあるんですね。
坂口氏:
『ビッグブリッヂの死闘』って『FF』ですごい人気のある曲があるんですけど。それも一瞬だって言ってたよね。
植松氏:
一瞬で作ったから余計にこう、あんまり人に聞いてほしくないってのは(笑)。
坂口氏:
だけど人気なんですよね、あれ。
鳥嶋氏:
ご自分で作って手応えがある曲と、ユーザーからの反響ある曲ってやっぱりずれます?
植松氏:
ずれますね。ずれることもありますね。
Naz氏:
そう。なんか鳥嶋さんがいろいろ辛口でおっしゃるんですけど。植松さんの『ファイナルファンタジー』の曲の中で、お好きな曲があるみたいで。
坂口氏:
そうなんですか。ちょっと聞いたことないな。
Naz氏:
ちょっと聞いてみたいなと。あの曲です。(「チョコボのテーマ」が流れる)
植松氏:
ありがとうございます。
鳥嶋氏:
これね、大好きなんですよ。 『FF』のある種コミックなところと軽さ。だけど、1回聞いたら耳を離れない。僕ね、坂口さんに「鳥は当たらないよ」って言ったらしいんだけど。(『ドラゴンクエスト』の)「スライム」と違って。
坂口氏:
チョコボで独立して、レーシングとか作ったじゃないですか。「僕、チョコボをヒットさせたいっすよ」って言ったら、鳥嶋さんが「鳥はダメだ、鳥はダメ」って(笑)。
Naz氏:
やめて~(笑)。
鳥嶋氏:
でもこの音楽を聞いたときに、すごくチョコボのイメージが立体的になってくるんだよね。
植松氏:
あー、ありがとうございます。
坂口氏:
これはどうやってできたんですか。
植松氏:
ああ、これも意外と時間かかってないな。これも一瞬かもですね。
Naz氏:
テクノバージョンとか、『エレキ・デ・チョコボ』とか『ウクレ・le・チョコボ』とか、いろんなバージョンがあって。ファンの方にとっても「珠玉の『ファイナルファンタジー』曲」ってところがありますよね。ラジオとか、この曲を流すと数字が上がるんですよ。
鳥嶋氏:
(笑)。
坂口氏:
数字上がる、まじか。
Naz氏:
SNSの反響とかも含めて。
坂口氏:
吹奏楽のコンサートをやってるじゃないですか。あれで僕も1回フルートを持って上がったんですが。あのときも、チョコボの曲だよね。
植松氏:
そう。アンコールで、チョコボの曲をみんなで演奏するってコーナーがあるんです。お客さんで楽器持ってる人はみんなステージに上がって、オーケストラと一緒に演奏するっていうコーナーがあるんですけど、それはやっぱり喜ばれますね。
坂口氏:
そうですね。それはやっぱりチョコボの方がいいって感じ。
Naz氏:
この間、渋谷さん【※】もステージに上がられてましたよね。
※渋谷員子氏:スクウェア(現・スクウェアエニックス)所属のCGデザイナー。初期の『FF』シリーズのドット絵などを担当。
植松氏:
あーそうそう。最近上がってくる、彼女もフルートかな。
坂口氏:
北瀬【※】もフルートです。 北瀬も練習して。
※北瀬佳範氏:スクウェア・エニックス取締役。1990年にゲームデザイナーとしてスクウェアに入社し、『聖剣伝説』や『FF5』などを担当。
植松氏:
みんな、ほんとに吹いてんの?
鳥嶋氏:
(笑)。
坂口氏:
吹いてる吹いてる。だって、楽屋で3人で吹いて。Bパートかなんかが、みんな吹けなかった。それで「ここは吹いたフリでいいか」って言ってたのを、僕は必死で練習して、そこも吹いたんですよ。そしたら北瀬が「ずるい。いつの間に練習したんですか」って。
鳥嶋氏:
いい話じゃない。
坂口氏:
渋谷と北瀬は、フルートの先生をつけてやってましたよ。ありえない(笑)。
ゲーム音楽のオーケストラコンサートを開催する意義・ゲーム音楽にはプレイの思い出が込められる
Naz氏:
植松さんって、最近海外も回られてて。 実際に海外のファンの前で、チョコボの曲を含めて演奏したときのリアクションのよさ、すごさって、どう感じてますか。
植松氏:
まあでも、チョコボはやっぱりね。言葉を介さなくても、やっぱりこの曲調、みんな楽しくなれますよね。喜んでもらえますよね。どの国の人にもね。
Naz氏:
いま、世界でどれぐらい回られてるんですか。
植松氏:
いや、わかんない(笑)。オーケストラコンサートのワールドツアーはもう参加してないんです。昔は逐一オーケストラについて出てたんですけどね。
でも何年ぐらい続いてるんだろうな。もう十数年続いて、200回までは行ってないかもしれないけど、100何十回、あちこちでオーケストラコンサートがやられてる。これ、意外と知られてないと思うんですけど。
日本のオーケストラ音楽がこんなに10何年ツアーが続いてるって、 意外とすごくないですか。ゲーム音楽だから、おそらくみんな軽く見てるかもしれないけど、あんまないと思う。
Naz氏:
ないですね。すぎやま先生もずっとコンサートやられてましたし。ああいう形で、クラシックのオーケストラのコンサートが続いていくことがすごいことだなと。
植松氏:
いや、もうもともとは本当にすぎやま先生ですよ。
「ゲームの音楽をオーケストラでやる」って当時はおそらく、世の中にそんなに理解されなかったんじゃないかな。ブラームスとかチャイコフスキーやるならわかるけど、 「ゲームかよ、テレビゲームかよ」って。
でもところが、子どもはちゃんと理解してるんですよね。
鳥嶋氏:
やっぱりね、なんでみんながゲーム音楽のコンサートに行くっていうと、RPGですから、やっぱり苦楽を共にして。
辛いとき、悲しいとき、そこで時間を過ごしていて。何気なく聞いてるけど、やっぱり印象に残ってるんですよね。
植松氏:
そういうことかもしれないですね。
鳥嶋氏:
経験値としてね。だから色々思い出が蘇ってくるんじゃないですかね。そこは強いんじゃないかな。
植松氏:
うん、そうですね。
堀井氏:
何十時間も聞く曲って、ゲーム音楽以外ないですからね。 50時間、60時間、延々聞いてますからね。
Naz氏:
本当にそうですね。 あと『ドラゴンクエスト』で言うと忘れられない効果音っていうのは、レベルが上がると……ここの音出ますかね。
(ドラクエのレベルアップ音が流れる)
これ。これはちょっと発明なんじゃないかなと。
植松氏:
こういう作曲、できないですよね。
Naz氏:
これ、2音で作ってるってことですよね。これ、音楽家として、どうやったら、どういう発想から考えてくる……。
植松氏:
まず僕、すぎやま先生に追いつこうなんて思ってないですから(笑)。
鳥嶋氏:
(笑)。
植松氏:
僕が子供の頃から、もう売れっ子作曲家でしたからね。
Naz氏:
いや、これがすごいなって。あと、超個人的ですけど、仲間が集まって出会う、たとえばサマルトリアの王子と出会うときの音楽出ますかね。
(『ドラゴンクエスト2』サマルトリアの王子が加入する場面のジングル)
植松氏:
はいはい。出会った気がしますよね。「これから一緒になるんだ」みたいな。
Naz氏:
こういうのって、やっぱり音楽家の方たちのもう本当に発明。なんかすごいこと。
植松氏:
すぎやま先生クラスがやってるってのがすごいんですよ。
ほんとにね、あの人、ゲームが大好きで、ゲーム音楽をなんとかしたいっていう思いがあったようで。 若手のゲーム音楽作曲家の連中を集めてコンサートとかもやってましたし。
僕ね、『FF』の1作目が終わった時に、会社に電話がかかってきて。「すぎやま事務所の人から電話がきてるんですけど」って。
それで電話を取ったら、すぎやま先生じゃないんですけど、「すぎやま事務所の〇〇です。すぎやま先生が『ファイナルファンタジー』の音楽を褒めておられました。それでは頑張ってください」って。
一同:
(笑)。
植松氏:
で、「いやー、マジかなこれ?」とか思ってたら。
坂口氏:
いたずらだって思いますよね(笑)。
植松氏:
ゲーム雑誌とか読んでると、すぎやま先生がインタビューでいろいろな若手作曲家の名前を出してくださって。
ですから2作目以降は、 『ファイナルファンタジー』が出るたびに、すぎやま先生が直々に電話かけてくれて。「あそこはああだった、あそこはああだった」って。
鳥嶋氏:
コメントをくださるわけですね。
植松氏:
はい。「あそこはイマイチだった」とか。 で、『FF6』のね、オペラあったじゃん。
坂口氏:
はいはい。
植松氏:
で、『FF6』が終わった後、電話かけてくださって。「植松くんは、オペラをなにも知らずに書いただろう」って。
一同:
(笑)。
坂口氏:
そう言われたの。それは俺知らない。それすごいね。
植松氏:
でも、ありがたかったですよね。いろんなサジェスチョンをいただけるっていうのがね。
坂口氏:
で、なんて答えたの。「オペラもなにも知らずに書いたろ」って言われて。
植松氏:
「……その通りです」って。
鳥嶋氏:
(笑)。
坂口氏:
「少しは知ってます」とかって、返してやりなさいよ(笑)。
植松氏:
いやいや(笑)。
Naz氏:
でも、すぎやま先生って『ドラゴンクエスト』をレベル99まで上げるぐらいの。根はゲーム好き。
鳥嶋氏:
だから本当に好きだったんだね。『ドラクエ』だけじゃなくて、『FF』も毎回コメントを出すぐらいやりこんで。
坂口氏:
やらなきゃ聞けないですもんね。
Naz氏:
植松さん、逆に『ファイナルファンタジー』シリーズはもう自分で全部プレイをされてっていう。
植松氏:
アホみたいにやりますよ。デバッグ作業っていうのがあるんですけど、全員でやるんです。延々やってますよ。
Naz氏:
いやいや、そういうの聞くとなんかもう「信じられるな」って思うというか。
植松氏:
でも、ほろりとくるシーンとかがあるんですよ。だから僕、ゲームをデバッグしながら、横にトイレットペーパーを置いてます。トイレットペーパーで涙を拭きながらやってる。
鳥嶋氏:
(笑)。
坂口氏:
でも何度もやるじゃないですか。いや、その間に泣かないでしょ。
植松氏:
まあまあ、ね。
坂口氏:
でもそうか。それはそれで、何周も何周もして、それでラスボスをクリアしてエンディングに行くと、別の涙が出てくるね。「そろそろ終わりだ」みたいな、「プロジェクト終了」みたいな。
植松氏:
あれ、けっこう悲しいもんですよね。終わると。もう1年、2年。
鳥嶋氏:
終わりですもんね。