いま読まれている記事

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦。「いちばん好きなゲームは何ですか?」「ゲーム作りにはなにが大切ですか?」『ドラクエ』『FF』生みの親に聞いてみた【TGS2024】

article-thumbnail-240929t

1

2

3

4

5

6

プロデューサーと作曲家のコミュニケーションについて・鳥嶋氏はチョコボのテーマがお気に入り

鳥嶋氏:
堀井さん。植松さんの方から『ドラクエ』がすごく洗練されているって聞いてて。どうですか。

堀井氏:
嬉しいですね。僕ね、音楽を発注するときは「感じ」は伝えなくて。例えば「町の曲」とか「城の曲」とか、「洞窟の曲」とか、「フィールドの曲」とか。
曲数だけを伝えて、先生に作ってもらったんですね。そんな感じでした。

植松氏:
そうですね。基本的に僕もそんな感じです。曲数も言われなかったかな。始めはね、1作目、 2作目あたりは「ここに曲をつけて」っていうのがあったかもしれない。多分3作目ぐらいからは、シナリオを渡されて「よろしく」って感じだったと。

坂口氏:
1作目とか、容量がそんなにないんで、 そもそもそんなには入らないんですよ。だからもちろん、バトルがあって、フィールドがあって、町があって、ダンジョンがあって、みたいな話にはなるんですけど。

で、入りそうだったら、「やっぱりバトル、もう1曲あった方が盛り上がるよね。どうよ植松さん」みたいな。「どうよどうよ」って(笑)。

植松氏:
そうそう、そのへんはうまいですよね。

鳥嶋氏:
なるほどね。

Naz氏:
でも、ゲームの実物がまだない状態で、たとえば坂口さんが植松さんにイメージを伝えるのって、なかなか難しいかなと思うんですけど、そうでもない……? おふたりのキャッチボール的には。

植松氏:
シナリオを何度も読んでいると大丈夫ですかね。僕、時間がないときはシナリオを読みながら作っているんです。文字を追いながら。文章を追いながら、メロディーを作りながら読むときもある。

それはほんと滅多にはやらないですけどね。「これはもう時間足りないな」と思うときだけ。

Naz氏:
『ファイナルファンタジー』の、1本の音楽を全部作るのって、どれぐらい時間がかかるんですか。

植松氏:
どれくらいでしょうかね。でもほら、僕、その当時は社員でしたから、開発チームと同じぐらいはかかりますよね。だからやっぱり1年、1年半ぐらいは。

坂口氏:
そう、最初の頃は10ヶ月とか。1年に1回出してたんで。

植松氏:
ああ、そうだね。 でもそれはすごく長いですよ。だってね、アニメーションの仕事の方って、もう3日で50曲と作ってますから(笑)。

鳥嶋氏:
はいはい。

Naz氏:
なんかあんまり言えない話かもですけど、あるスポーツの国際大会だと、皆さん前日までお仕事されてました。開会式の前日まで作ってて、「もう間に合わないかも」っていうのはよくある、っていうふうに。

植松氏:
でしょうね。あるかもしれない。

Naz氏:
しかも2日前に別発注が来て、2日で仕上げて、その大会の開会式に出すみたいな。ああいうのを見てると、ちょっともう、音楽家の方たちに対する気持ち。

植松氏:
そんなのに比べたら、ゲーム音楽なんて楽勝ですよ。

坂口氏:
え、まだまだ僕は辛口で言っていいってことですか。「2日でやってね」みたいな。

鳥嶋氏:
(笑)。

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_019

Naz氏:
堀井さんって、たとえばすぎやま先生の音楽に対して、「いや、ここちょっと違う」みたいなことってされるんですか。

鳥嶋氏:
あ、そうそう、ダメ出し。

堀井氏:
じつはけっこう言うんですけどね。ちょっと言いづらいんですけど、「ここ伸ばして」とか、「もうちょっとこれして」って言うと、いきなり先生から電話が来るんです。それが恐怖で(笑)。

坂口氏:
電話が来るんだ。

堀井氏:
機嫌を損ねないように、「こうした方がいいんじゃないですか」みたいなことをね。

Naz氏:
なるほど。たとえば、もう具体的じゃなくて、ちょっと迂回した、というか。

堀井氏:
そうですね。「ここの部分はいいんで、ここは生かして、このあたりにもうちょっと、悲しそうな雰囲気をつけてもらって」みたいな。

Naz氏:
あの、『序曲』『ロトのテーマ』って、あれって……

堀井氏:
先生、5分で作ったって。

Naz氏:
はい、おっしゃってましたね。

堀井氏:
「56年と5分」みたいな話で。

植松氏:
それ、いい言葉ですよね。56年と5分。

堀井氏:
あれはすごくよかったですね。スッと入ってきて。

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_020

Naz氏:
そういう奇跡はあるんですね。

坂口氏:
『ビッグブリッヂの死闘』って『FF』ですごい人気のある曲があるんですけど。それも一瞬だって言ってたよね。

植松氏:
一瞬で作ったから余計にこう、あんまり人に聞いてほしくないってのは(笑)。

坂口氏:
だけど人気なんですよね、あれ。

鳥嶋氏:
ご自分で作って手応えがある曲と、ユーザーからの反響ある曲ってやっぱりずれます?

植松氏:
ずれますね。ずれることもありますね。

Naz氏:
そう。なんか鳥嶋さんがいろいろ辛口でおっしゃるんですけど。植松さんの『ファイナルファンタジー』の曲の中で、お好きな曲があるみたいで。

坂口氏:
そうなんですか。ちょっと聞いたことないな。

Naz氏:
ちょっと聞いてみたいなと。あの曲です。(「チョコボのテーマ」が流れる)

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_021

植松氏:
ありがとうございます。

鳥嶋氏:
これね、大好きなんですよ。 『FF』のある種コミックなところと軽さ。だけど、1回聞いたら耳を離れない。僕ね、坂口さんに「鳥は当たらないよ」って言ったらしいんだけど。(『ドラゴンクエスト』の)「スライム」と違って。

坂口氏:
チョコボで独立して、レーシングとか作ったじゃないですか。「僕、チョコボをヒットさせたいっすよ」って言ったら、鳥嶋さんが「鳥はダメだ、鳥はダメ」って(笑)。

Naz氏:
やめて~(笑)。

鳥嶋氏:
でもこの音楽を聞いたときに、すごくチョコボのイメージが立体的になってくるんだよね。

植松氏:
あー、ありがとうございます。

坂口氏:
これはどうやってできたんですか。

植松氏:
ああ、これも意外と時間かかってないな。これも一瞬かもですね。

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_022

Naz氏:
テクノバージョンとか、『エレキ・デ・チョコボ』とか『ウクレ・le・チョコボ』とか、いろんなバージョンがあって。ファンの方にとっても「珠玉の『ファイナルファンタジー』曲」ってところがありますよね。ラジオとか、この曲を流すと数字が上がるんですよ。

鳥嶋氏:
(笑)。

坂口氏:
数字上がる、まじか。

Naz氏:
SNSの反響とかも含めて。

坂口氏:
吹奏楽のコンサートをやってるじゃないですか。あれで僕も1回フルートを持って上がったんですが。あのときも、チョコボの曲だよね。

植松氏:
そう。アンコールで、チョコボの曲をみんなで演奏するってコーナーがあるんです。お客さんで楽器持ってる人はみんなステージに上がって、オーケストラと一緒に演奏するっていうコーナーがあるんですけど、それはやっぱり喜ばれますね。

坂口氏:
そうですね。それはやっぱりチョコボの方がいいって感じ。

Naz氏:
この間、渋谷さん【※】もステージに上がられてましたよね。

※渋谷員子氏:スクウェア(現・スクウェアエニックス)所属のCGデザイナー。初期の『FF』シリーズのドット絵などを担当。

植松氏:
あーそうそう。最近上がってくる、彼女もフルートかな。

坂口氏:
北瀬【※】もフルートです。 北瀬も練習して。

※北瀬佳範氏:スクウェア・エニックス取締役。1990年にゲームデザイナーとしてスクウェアに入社し、『聖剣伝説』や『FF5』などを担当。

植松氏:
みんな、ほんとに吹いてんの?

鳥嶋氏:
(笑)。

坂口氏:
吹いてる吹いてる。だって、楽屋で3人で吹いて。Bパートかなんかが、みんな吹けなかった。それで「ここは吹いたフリでいいか」って言ってたのを、僕は必死で練習して、そこも吹いたんですよ。そしたら北瀬が「ずるい。いつの間に練習したんですか」って。

鳥嶋氏:
いい話じゃない。

坂口氏:
渋谷と北瀬は、フルートの先生をつけてやってましたよ。ありえない(笑)。

ゲーム音楽のオーケストラコンサートを開催する意義・ゲーム音楽にはプレイの思い出が込められる

Naz氏:
植松さんって、最近海外も回られてて。 実際に海外のファンの前で、チョコボの曲を含めて演奏したときのリアクションのよさ、すごさって、どう感じてますか。

植松氏:
まあでも、チョコボはやっぱりね。言葉を介さなくても、やっぱりこの曲調、みんな楽しくなれますよね。喜んでもらえますよね。どの国の人にもね。

Naz氏:
いま、世界でどれぐらい回られてるんですか。

植松氏:
いや、わかんない(笑)。オーケストラコンサートのワールドツアーはもう参加してないんです。昔は逐一オーケストラについて出てたんですけどね。

でも何年ぐらい続いてるんだろうな。もう十数年続いて、200回までは行ってないかもしれないけど、100何十回、あちこちでオーケストラコンサートがやられてる。これ、意外と知られてないと思うんですけど。

日本のオーケストラ音楽がこんなに10何年ツアーが続いてるって、 意外とすごくないですか。ゲーム音楽だから、おそらくみんな軽く見てるかもしれないけど、あんまないと思う。

Naz氏:
ないですね。すぎやま先生もずっとコンサートやられてましたし。ああいう形で、クラシックのオーケストラのコンサートが続いていくことがすごいことだなと。

植松氏:
いや、もうもともとは本当にすぎやま先生ですよ。

「ゲームの音楽をオーケストラでやる」って当時はおそらく、世の中にそんなに理解されなかったんじゃないかな。ブラームスとかチャイコフスキーやるならわかるけど、 「ゲームかよ、テレビゲームかよ」って。

でもところが、子どもはちゃんと理解してるんですよね。

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_023

鳥嶋氏:
やっぱりね、なんでみんながゲーム音楽のコンサートに行くっていうと、RPGですから、やっぱり苦楽を共にして。

辛いとき、悲しいとき、そこで時間を過ごしていて。何気なく聞いてるけど、やっぱり印象に残ってるんですよね。

植松氏:
そういうことかもしれないですね。

鳥嶋氏:
経験値としてね。だから色々思い出が蘇ってくるんじゃないですかね。そこは強いんじゃないかな。

植松氏:
うん、そうですね。

堀井氏:
何十時間も聞く曲って、ゲーム音楽以外ないですからね。 50時間、60時間、延々聞いてますからね。

Naz氏:
本当にそうですね。 あと『ドラゴンクエスト』で言うと忘れられない効果音っていうのは、レベルが上がると……ここの音出ますかね。

(ドラクエのレベルアップ音が流れる)

これ。これはちょっと発明なんじゃないかなと。

植松氏:
こういう作曲、できないですよね。

Naz氏:
これ、2音で作ってるってことですよね。これ、音楽家として、どうやったら、どういう発想から考えてくる……。

植松氏:
まず僕、すぎやま先生に追いつこうなんて思ってないですから(笑)。

鳥嶋氏:
(笑)。

植松氏:
僕が子供の頃から、もう売れっ子作曲家でしたからね。

Naz氏:
いや、これがすごいなって。あと、超個人的ですけど、仲間が集まって出会う、たとえばサマルトリアの王子と出会うときの音楽出ますかね。

『ドラゴンクエスト2』サマルトリアの王子が加入する場面のジングル)

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_024

植松氏:
はいはい。出会った気がしますよね。「これから一緒になるんだ」みたいな。

Naz氏:
こういうのって、やっぱり音楽家の方たちのもう本当に発明。なんかすごいこと。

植松氏:
すぎやま先生クラスがやってるってのがすごいんですよ。

ほんとにね、あの人、ゲームが大好きで、ゲーム音楽をなんとかしたいっていう思いがあったようで。 若手のゲーム音楽作曲家の連中を集めてコンサートとかもやってましたし。

僕ね、『FF』の1作目が終わった時に、会社に電話がかかってきて。「すぎやま事務所の人から電話がきてるんですけど」って。

それで電話を取ったら、すぎやま先生じゃないんですけど、「すぎやま事務所の〇〇です。すぎやま先生が『ファイナルファンタジー』の音楽を褒めておられました。それでは頑張ってください」って。

一同:
(笑)。

植松氏:
で、「いやー、マジかなこれ?」とか思ってたら。

坂口氏:
いたずらだって思いますよね(笑)。

植松氏:
ゲーム雑誌とか読んでると、すぎやま先生がインタビューでいろいろな若手作曲家の名前を出してくださって。

ですから2作目以降は、 『ファイナルファンタジー』が出るたびに、すぎやま先生が直々に電話かけてくれて。「あそこはああだった、あそこはああだった」って。

鳥嶋氏:
コメントをくださるわけですね。

植松氏:
はい。「あそこはイマイチだった」とか。 で、『FF6』のね、オペラあったじゃん。

坂口氏:
はいはい。

植松氏:
で、『FF6』が終わった後、電話かけてくださって。「植松くんは、オペラをなにも知らずに書いただろう」って。

一同:
(笑)。

坂口氏:
そう言われたの。それは俺知らない。それすごいね。

植松氏:
でも、ありがたかったですよね。いろんなサジェスチョンをいただけるっていうのがね。

坂口氏:
で、なんて答えたの。「オペラもなにも知らずに書いたろ」って言われて。

植松氏:
「……その通りです」って。

鳥嶋氏:
(笑)。

坂口氏:
「少しは知ってます」とかって、返してやりなさいよ(笑)。

植松氏:
いやいや(笑)。

Naz氏:
でも、すぎやま先生って『ドラゴンクエスト』をレベル99まで上げるぐらいの。根はゲーム好き。

鳥嶋氏:
だから本当に好きだったんだね。『ドラクエ』だけじゃなくて、『FF』も毎回コメントを出すぐらいやりこんで。

坂口氏:
やらなきゃ聞けないですもんね。

Naz氏:
植松さん、逆に『ファイナルファンタジー』シリーズはもう自分で全部プレイをされてっていう。

植松氏:
アホみたいにやりますよ。デバッグ作業っていうのがあるんですけど、全員でやるんです。延々やってますよ。

Naz氏:
いやいや、そういうの聞くとなんかもう「信じられるな」って思うというか。

植松氏:
でも、ほろりとくるシーンとかがあるんですよ。だから僕、ゲームをデバッグしながら、横にトイレットペーパーを置いてます。トイレットペーパーで涙を拭きながらやってる。

鳥嶋氏:
(笑)。

坂口氏:
でも何度もやるじゃないですか。いや、その間に泣かないでしょ。

植松氏:
まあまあ、ね。

坂口氏:
でもそうか。それはそれで、何周も何周もして、それでラスボスをクリアしてエンディングに行くと、別の涙が出てくるね。「そろそろ終わりだ」みたいな、「プロジェクト終了」みたいな。

植松氏:
あれ、けっこう悲しいもんですよね。終わると。もう1年、2年。

鳥嶋氏:
終わりですもんね。

堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦_025

1

2

3

4

5

6

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ

インタビュー

インタビューの記事一覧