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堀井雄二氏×鳥嶋和彦氏のラジオ『KosoKoso放送局』の公開収録に、坂口博信氏・植松伸夫氏・松野泰己氏が参戦。「いちばん好きなゲームは何ですか?」「ゲーム作りにはなにが大切ですか?」『ドラクエ』『FF』生みの親に聞いてみた【TGS2024】

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バグ対応に奔走した『FF1』・坂口氏と植松氏は「センチなところ」が似たもの同士

Naz氏:
でも、いまひとつのタイトルを、下手すれば5年とか10年とかかけて、皆さんで、チームで作っていくわけですよね。 その時の、終わった時のその「完全燃焼感」って……

たとえばよく言うじゃないですか、F1のレーサーが終わったら、その勢いをどこにぶつけていいかわからないから、いろいろな発散の仕方をするって。

ゲームのチームの皆さんって、その辺ってどうなんですか。一大プロジェクトが終わった後の達成感の、そのあとに来るものっていうのは。

植松氏:
どうですかね。でも、スクウェアで音楽屋さんって少なかったんで、ひとつ終わったらもう次が待ってました(笑)。 あんまり休んだりとかはできなかったですけどね。

坂口氏:
あとは、バグが出ないでねっていう。

鳥嶋氏:
あ、当時あったよね。バグが出て、発売が延びるってね。

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坂口氏:
そうですね、今でこそダウンロードの形でパッチを当てて直せますけど。当時のロムカセットって、もう直せないですから。本当に大きいバグが潜んだ瞬間、回収じゃないですか。 会社が潰れるんですよ。だからもうドキドキですよね。

植松氏:
1作目からもう、バグがあったよね。

坂口氏:
バグありました。

植松氏:
1作目、バグがあって、もう倉庫に品物が置かれてるわけですよ。でもそれ、バグが出たっていうのは、市場に出回ったあとだとまずいんで。社員総出でその倉庫に行って、「こうしたらバグになりますので、やっちゃダメ」っていう紙を、1枚1枚全部に入れた。

鳥嶋氏:
紙を封入するんだ。

坂口氏:
最初の10万本ぐらいだけだったんで、まだ。でも、10万個に社員総出で紙を差し込んで。

そうすると面白いのは、誰かが「この箱、こう押さえたらすぐ紙が入りますよ」って言って、だんだん技が生まれてくるんですよ。で、そのうち、みんなの「箱に紙を入れるスキル」がどんどん上がっていくんです(笑)。

植松氏:
なかなか大変だったよね。

坂口氏:
そうだね、製作終了よりそっちの方が感動したよね。「終わったー!」みたいな。「紙入れ終了!」みたいな(笑)。

鳥嶋氏:
ということは『FF』の1作目は、バグがあるものと、ないものと、両方あるわけ?

坂口氏:
そうですね。だから、そのバグの紙が入ってるカセットはレアです。僕が買ったものには紙が入ってましたね。 「当たりだ!」って。あの時の人、誰かの指紋がついてるんです。

鳥嶋氏:
『ドラクエ』はバグで苦しんだことあります?

堀井氏:
ありますよ。言えないけどね。けっこうね、「このバグは出さないで」みたいな。

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坂口氏:
でもほら、バグも「裏技」とか言って。それこそ「ジャンプ」の袋とじで。

鳥嶋氏:
はいはい、ありましたね、堀井さんね。

坂口氏:
そうだ。それだって堀井さんとやってたんですよね、袋とじ。もうあれを貪るように読んでましたもん。

鳥嶋氏:
『ゼビウス』とかね、『スターフォース』とかね。

堀井氏:
はい、ありましたけどね。

Naz氏:
でも、堀井さんがすぎやま先生にドラクエの音楽をやっていただいてる中で、その翌年に『ファイナルファンタジー』の1作目が出たとき、植松さんの音楽がそこから出るわけじゃないですか。それを聞いたときっていうのは、こう……。

堀井氏:
これはこれで、僕は「新鮮だな」と思って。「こういう方法もあったか」と思いましたね。クラシックでもなくて、電子音でもなくて。『FF』の話にとても合ってるなと思って。さすがにシナリオ読んで書いてるだけあるな、って思いましたね。

Naz氏:
なんかすごいしっくり。私も1作目から全部やってみて、すごくこう、坂口さんの世界観と植松さんの世界観がぴったり合って、中に入っていけるっていうのが。

植松氏:
なんか、センチメンタルなところが似てる感じはしますよね。「救われたい」みたいな。

鳥嶋氏:
「救われたい」?(笑)

植松氏:
でも、そういうのってない? 物を作ることによって、自分が救われたい。こう……「 こんな世界になるといいな」「こんな家族になるといいな」「こんな毎日を過ごしたいな」っていうことを、形に作ることによって、って。

坂口氏:
ありました。だからやっぱり、ゲームが終わったときに感じる「あったかい気持ち」って、現実世界ではなかなか到達しないじゃないですか。 そこまでそんなイベントが重なって、あんなに気持ちが高まることはないので。

逆に、それをゲームのエンディングまで行って感じてもらうと、 たぶん、現実世界でも「この気持ちを大事に生きよう」っていうか。願いとしてありますね。

植松氏:
そういうとこ、似てるんですよ。鳥嶋さんの嫌いな「おセンチ」なところ。

一同:
(笑)。

坂口氏:
そう、「坂口の書くメッセージは女々しい」とか言うんだよ、この人は(笑)。

鳥嶋氏:
(笑)。まあでも、遊んでるときはやっぱり、いろんな感情を味わって楽しんでほしいんですよね。

植松氏:
そうですね。うん。

坂口氏:
そうですね。確かに、根底が似てるんだね。

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80年代の日吉の町で出会った青年2人と、全てオンラインで完結する現代との違い・「センチ」だけど、それが幸せなこと

Naz氏:
でも、こうやっておふたりが出会われたみたいに、おもしろい人同士が 出会う、運命的な部分だったり、必然性っていうのがある中で。いまってSNSやオンライン上で出会ったり、DMのやり取りから始まって……って、けっこう多いと思うんですけど。

そこからおもしろいものが生まれるのって、80年代といまでまた違ってきてるんですかね。いまのおもしろいものって、どういうケミストリーなんだろう。当時とは違うのかな。

坂口氏:
悪く言うと現代の方が「希薄になってるんじゃない」ってことですか?

Naz氏:
植松さんが、直接デモテープを坂口さんに渡すという行為じゃなくて、オンライン上のやり取りって、「また違う」っていう。そのときの表情とか温度感っていうのは伝わりにくいけど、「シームレスで便利」ということでもあると思います。

でもそこにはやっぱり、「ちょっと違いがあるのかな」っていう。

坂口氏:
どうなんでしょうね。でも、その「もの」自体、例えば曲自体に、どうしたって思いは詰まるじゃないですか、音楽って。そしたら、やっぱりそれを感じ取る作業なんで。

いま、現代においてオンラインでやり取りしようが、80年代に直にやり取りしようが、そんなに変わらない気はしますけど。

Naz氏:
なるほど。

植松氏:
いや、それはお互いに知ってるからだよ、きっとね。……でもそっか。初めてやりとりするにしても、音楽がよかったらそれでいいのか。

Naz氏:
やっぱり、そういう感じになりますか。

鳥嶋氏:
でもやっぱりSNSとか、そういうネットのやり取りじゃなくて、道端で会うみたいにさ(笑)。

あとで振り返ると、本質的には確かに「もの」自体で「いい・悪い」があるんだけど、そういうことのドラマ性とかね。そういうものって、自分たちの記憶の中に強烈に残るじゃない。

植松氏:
そういうことは、実体験の方ががっつり残りますよね。ちょっとオンラインだと便利すぎちゃって。

鳥嶋氏:
そうですね。

坂口氏:
確かに、日吉で 会ったときはやっぱり、光景として記憶に残ってますもんね。

植松氏:
うん。俺も覚えてる。

鳥嶋氏:
だから、いまだったらもう日吉にバイトとして集まったり、レコード店に行ってどうこうって、地政学的にそこに集まってやり取り、ってことはもう起きないからね。

坂口氏:
あのー……「ぶどうの木」とかいう喫茶店、あったよね。あのそばだったよね。違ったっけ。

植松氏:
駅からほら、商店街の……

坂口氏:
そう、喫茶店。「ぶどうの木」のそばだよね。

植松氏:
あそこさ、アーケードがあったよね。

坂口氏:
あったよね。昔。

植松氏:
今ね、この間行ったらなかった。

坂口氏:
日吉の町も変わったんですね。

鳥嶋氏:
こういう話ができるってのはね、幸せだと思うんですよ。確かに、僕の嫌いな「センチ」ではあるんだけど(笑)。

坂口氏:
大事なんですよ、センチが(笑)。

Naz氏:
そういう「植松さんという才能と、日吉で出会った」っていう原体験のまま、おふたりが40年間仕事をしていられるということが、クリエイターとかアーティストにとっては、すごく眩しく見えるし、羨ましいし。

「自分たちもそうだったらいいな」とか思える部分なのかなって、ひとつ思うというか。

植松氏:
どうなんですかね。そんなにお互いの関係のことを真剣に考えてるわけでは(笑)。

Naz氏:
(笑)。いや、そう思いますね。すごいことだなって。

坂口氏:
「そこまでプライベートが一緒じゃない芸人」みたいな感じ(笑)。「一応コンビは組んでるけど」みたいな(笑)。

植松氏:
そうね、そういうのあるかもね。「あえて接してない」ってわけでもないけど、 別に普段から会ってるわけでもないしね。まあまあ、国も違うしね。海外に住んでるっていうのもあるし。

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ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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