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家庭用ゲーム機の「NOW LOADING」の始まりからローディングの歴史を振り返ってみた

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対戦格闘ブームの寵児となったネオジオ

 そもそもネオジオは、SNKが1990年春、業務用ビデオゲームと同等のゲームを家庭でも遊べることを売りとした、新システムの統一ブランドとして打ち出したものだ。 業務用の「MVS(マルチビデオシステム)」、家庭用の「NEO-0」とも、大ぶりのカセットでソフトを供給【※】。その内部には基板2枚が重ねられており、ひとつだけでも大容量のROMを複数配置。それぞれがメインCPUをはじめ、キャラクター表示、音楽や音声の機能を担うLSIに個別に接続されるようになっていた。つまり、ファミコン初期のカセットの規模を極端に拡大したのが、ネオジオのカセットとも言えるわけだ。

※業務用と家庭用のカセットに物理的な互換性はない。

 それだけにネオジオ(本稿では以下、「ネオジオ」は特に注記のない限り家庭用を指す)は、本体が5万8000円・カセットは2万8000円からと、カタログ価格が他の家庭用ゲーム機の2倍をゆうに超える高額商品。一方でソフトのラインナップはMVSと共通化されており、RPGやウォーシミュレーションゲームなどは用意されなかった。このため当初は、レンタルビデオチェーンと提携して本体込みでの貸し出しを前面に押し出すなど、家庭用ゲーム機市場で他社と真っ向から組み合うことは避けていた

 ところがゲームセンターでは1991年、カプコンの『ストリートファイターII』(以下、ストII)をきっかけに、対戦格闘ゲームの巨大なブームが勃発する。『餓狼伝説』を開発していたSNKは、同作の年末発売に先駆けて7月にネオジオの本体とカセットを値下げし(本体4万8800円)、販路の拡大に踏み切った。
 さらに翌年以降、『ストII』のSFC版が登場して家庭用ゲーム機にもブームが波及する中、SNKは『龍虎の拳』『餓狼伝説2』『サムライスピリッツ』とヒット作を連発。アーケードの新作が1〜2ヵ月程度でそのまま遊べるようになるネオジオは、たちまち対戦格闘ゲームマニアの垂涎の的へと変貌した。

 とはいえ、対戦格闘ゲームのキャラクターが持つアニメパターンの膨大さは、カセットの製造コストを嫌でも押し上げる。「100メガショック」【※】を打ち出した『龍虎の拳』以降のソフトのカタログ価格は、3万円前後に再上昇。実売価格でも2万円前後することが多く、特に中高生のプレイヤーにとって、生半可な覚悟では手を出せないという心理的ハードルは高かった。この状況を打開し、ネオジオユーザーの裾野を広げようとしたのが、ネオジオCDということになる。

※ここで言う「100メガ」は100メガビット(12.5MB)のこと。

最後のネオジオCDはなぜあんなにクソ長ロードだったのか

 ネオジオCDは、周辺機器としてCD-ROMドライブが追加されたPCエンジンやメガドライブとは異なり、カセットは使えない“CD専用機”だった。プログラム用には2MB、キャラクター用には4MB、音声用に1MBのRAMが内蔵されており、これは初期のネオジオのカセット1本のデータがほぼ収まるだけの容量がある。ソフトの価格が高くても8000円前後とカセットに比べ安く、しかもゲーム中のBGMをCDから直接流せることが売りにされた。

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ネオジオCD(画像はWikimedia Commons「Evan-Amos」より)

 しかしこれだけのRAMを使いつつ、本体価格をネオジオとほぼ同額の4万9800円に抑えるためか、CD-ROMの読み取り速度が標準仕様のドライブが使われている。結果的には「大容量のRAMと低速のストレージ」という、実にアンバランスな組み合わせになってしまった。本体発売と同じ年の末に投入された新作のひとつ『真サムライスピリッツ』の時点で、タイトル画面までのロード時間が1分以上、対戦相手が変わる際に20秒程度のローディングが入るようになっていた。

 対戦格闘ゲームは、プレイヤー同士の対戦プレイだと1〜2分で決着がつくことも珍しくないというテンポの速さが特徴だ。それだけに、実測はともかくプレイヤーの心情面では、「対戦している時間よりもローディングの方が長い」と感じられてもやむを得ないだろう。アーケード他社との熾烈な競争で、対戦格闘ゲームのキャラクターのデータ量がますます拡大していく一方、大都市圏ではカセット版ネオジオソフトの値崩れもしばしば起きるなど、CD-ROMの利点を活かしづらい環境が形成されてゆく。

 1年後の1995年末、CD-ROMドライブを2倍速にした「ネオジオCDZ」を投入して挽回を図ったものの、結局ネオジオCDシリーズの「“NOW LOADING”ばかり見ているゲーム機」という悪評の強烈さは簡単には覆らなかった。ごく少数、RPGを含むネオジオCD専用作品も登場したものの、新規ソフトの発売はMVSやネオジオより早く終息している。

ローディングが当然、になった1990年代後期の家庭用ゲーム機

 先に触れたとおり、ネオジオCDの発売は1994年秋だった。この年、日本の据置型家庭用ゲーム機の世代が一気に更新されたのは、あらためて説明するまでもないだろう。PSのほか、「3DO」「セガサターン」「PC-FX」と出揃った各機種が、軒並み2倍速のCD-ROMドライブを採用している。一方、やや遅れて1996年に発売された「ニンテンドウ64」(以下、N64)は、SFCに引き続きROMのカセットを採用した。

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ニンテンドウ64(画像はWikimedia Commons「Evan-Amos」より)

 ところがSFCとN64では、カセットの位置づけに決定的な違いがある。N64の場合、ROMの内容は本体のRAMにコピーしたうえで実行・利用される。つまり、他社のCD-ROM採用機に比べればかなり高速とはいえ、必ずローディングが行われるという内部的な挙動は共通していることになる。

 なぜこうなったのか。大きな理由として、この1990年代中盤以降の世代の据置型ゲーム機ではCPUが高速化したため、主記憶にも相応の高速性が求められるようになったという点が挙げられる。

 この課題は一足先に、パソコンで顕在化していた。パソコンの主記憶は家庭向けの低価格機やモバイル向けを除き、RAMの占める割合が大きかった。
 RAMを大きく分類すると、高速だが集積化が難しく高価なSRAM(スタティックRAM)と、制御が複雑なものの大容量で安価なDRAM(ダイナミックRAM)の2種類があるが、パソコンの主記憶に使われるのは圧倒的に後者のDRAMだった。ただそのグレードによってはCPUの足を引っ張ることもしばしばあり、特に実務向けのパソコンではコストをかけて少しでも高速なDRAMを採用するケースが珍しくなかった。

 1990年代に入ってCPUの高速化・高機能化が進むと、このDRAMの遅さは大きな問題となり、その速度を向上させる手法がさまざまに開発されていく。1990年代中盤には、一般向けのパソコンでも「EDO」などの高速化手法を導入したDRAMが使われるようになっていた。またCPU内部やその周辺に、小容量のSRAMによる「キャッシュメモリー」を置く手法もある。プログラムの中でも頻繁に使う部分やデータをここへ一時的に格納することで、CPUの高速性を引き出すという仕組みだ。

 セガサターンやPS、そしてPC-FXも、CPUそのものはパソコン向けとは異なるものの、高速化手法を備えるDRAMとキャッシュメモリーのうち後者は少なくとも備えていた。一方N64は、RAMに当時最新の高速性を誇った「RDRAM(Rambus DRAM)」を採用【※】。加えてCPUにキャッシュメモリーも内蔵し、理論上の最大処理能力では他社ゲーム機を圧倒した。

※なおN64は、同じRDRAMをCPUと映像LSIの両方が使う仕組みになっている。

 しかしカセットについて見てみると、当時の一般的なROM単体のデータの信号線は16本(16ビット)までがほとんど。N64のCPUの外部とのやり取りは32ビット単位なので、速度を優先するならROMを2個組にする必要があった。さらに信号線が増える分、回路やコネクターの電気的設計の難易度が上がり、コストがかさむことが想定される。しかもこれらの課題を乗り越えたとしても、RDRAMの最大性能に比べて、かなり見劣りする速度しか出せなかったと考えられる。

 SFCの時点でも、ソフトの価格が1万円を超すものが続出するなど高額になっていた以上、カセットの製造コストは到底上げられない。そのためN64のカセットのROMは16ビットでの接続にとどめられ、実質的にストレージと同じ利用方法にせざるを得なかったわけだ。

進化するゲーム機、だからこそ避けられないローディング

 こうして、CD-ROMなどの光学ディスクに比べると速いがRAMよりは遅いという位置づけになったために、家庭用ゲーム機でのROMの使い道は限られることになった。処理速度より小型化や省電力が優先される携帯型への影響は限定的だったものの、インターネットへの接続や、ソフトのダウンロード提供などへの対応が求められるようになると話は変わってくる。2004年発売の「ニンテンドーDS」ではRAMが標準の主記憶になり、専用の「DSカード」は、中身はROMだがストレージとして使われている。

 またネットワークに接続しない、「ニンテンドークラシックミニ」のような復刻ゲーム機でも、主記憶はRAMになっている。これらには低コスト化のため、CPUや映像LSI(GPU)、周辺機能などを統合した「SoC(システムオンチップ)」が使われている。それがパソコンやスマートフォンに近い汎用性のある構成のほうが、より価格を抑えるにも、またOSや仮想マシンなどのソフトウェア資産を使う上でも、何かと都合がいいのだろう。

 つまり近年のビデオゲーム機において、ファミコンやネオジオのように、CPUの主記憶としてROMを使うカセットを採用することは、まったく非現実的と言える。システムソフトウェアとして、本格的なOSがごく普通に使われている点も考えあわせれば、起動時をはじめ何かにつけてローディングが入るのは、もはや避けようがない

 ところで、スマートフォンのスペック表などの一部では、フラッシュメモリーがROMと呼ばれているのをご存じの方も多いだろう。確かにフラッシュメモリーはデータの書き込みが可能だが、技術的にはROMの派生にあたる。ただし、高密度化に向いている「NAND型」は主記憶には使いにくい。SSDやメモリーカードはもちろんのこと、スマートフォンや家庭用ゲーム機でも、このNAND型フラッシュをあくまでストレージとして使っているのが実情だ。

 フラッシュメモリーのストレージは、製品グレードや対応インターフェースによって転送速度の違いが出やすい「PS5」が内部増設できるSSDの仕様を、特に高速なものに限定しているのはこれが理由だ。
 なにしろ4Kやそれ以上の高解像度ディスプレイへ対応するため、キャラクターや背景などの立体モデルのデータ、とりわけそれらの表面に貼る画像(テクスチャー)の精細さは重要度を増している。「Xbox Series X|S」「Windows 11」の場合、これらのデータをCPUを介さず、ストレージからGPUのVRAMに直接読み込む仕組みを採用して、問題の軽減を図ろうとしている。

 ただしパソコンではすでに話題になっているが、高性能なSSDは、CPUやGPU、SoCと同様に十分な放熱が必要となる。また過熱した際に、動作速度に制限をかける機能も盛り込まれている。ビデオゲームの作品世界の拡張、あるいは映像や音響の充実は、ストレージに占めるデータ量に置き換えられてきたが、これまではローディングの時間がその代償だった。それが、時間と熱との積になってきたわけだ。

 この“時間と熱との積”の問題は、携帯型ゲーム機では、電池の問題も絡め、CPUなどの処理速度をどの程度抑えるかという形で、長らくついて回ってきた。最近でも、「Nintendo Switch」の2019年春のファームウェア更新で、ロード時間が短縮されたことが話題になったが、一部報道では、これはCPUの動作速度をロード中のみ引き上げるようにした結果とされている。時間の削減と、発熱や電池消費の一時的増大を引き換えにしたことになる。

 一方据置型ゲーム機は、しっかりした排熱機構もあってか、今のところ標準搭載のSSDの発熱が動作速度に影響を及ぼすには至っていないようだ。では気が早い話ではあるが、次の世代ではどうなるのか。やはりその時点での最高速に近いSSDか、それとも発熱が現在のものに近いことが優先されるのだろうか。もしかすると、今後の大型タイトルのローディングがどこまで(再度)長くなっていくのかが、その選定にも影響するのかもしれない。

“ないに越したことはない”はずのローディング、だが……?

 さて、近年のゲーム機でファミコンやSFC世代の復刻タイトルを遊ぶ際も、先に触れた復刻ゲーム機と同様に、ローディングが発生することになる。ダウンロード版のソフトでは、ストレージの占有量を確認すると、実物のカセットの容量とはケタ違いになっていることもしばしばだ。それゆえに“すぐ”にはゲームが起動しない点は、いささか納得のいかない向きもあるかもしれない。

 しかしこれは、仮想マシンのプログラムやユーザーインターフェース、いわゆる「どこでもセーブ」【※1】といった追加機能などが加わった結果だ。現代のゲーム環境やプレイヤーの需要に適合させるためのコスト、とでも言えばいいだろうか。少なくともゲーム起動後は、実物以上に待たされることはまずない。元が磁気ディスクやCD-ROMのソフトの場合、転送速度の違いに加え、シーク【※2】などのドライブの機械的動作にかかる時間がほぼ排除されるため、ローディングは相当軽快になっているはずだ。

※1 ゲーム中、任意のタイミングの状況をすべて保存し、またそれを読み込んでゲームを再開できる機能。復刻ゲーム機や復刻タイトルでは多くの場合、仮想マシンのCPUやメモリーの状態を丸ごと記録することで実現している。
※2 ディスク媒体上の所定の位置に読み書き機構を移動させること。

 いずれにしても、プレイヤーの心理としてはローディングは少なく短いほどいいし、ない方がさらにいい。これは数十年前から変わらない基本原則だろう。ただ中には、ローディングが“たくまざる演出”になっていたケースもある。

 その一例が、PCエンジンのCD-ROMソフト『ときめきメモリアル』だ。このゲームの見どころのひとつであるデートに際して、プレイヤーは「○月○日に△△へ行かない?」と電話で女の子を誘うことになる。このとき、返答がイエスでもノーでも、そのセリフの表示の直前に音声データのロードが入る。そのわずかな待ち時間【※】に、プレイヤーの心拍数は否が応でも跳ね上がるというわけだ。

※厳密には、ここではデータのロード時間よりシーク時間の方が長いようだ。

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 この待ち時間は、ゲーム中の設定で音声をオフにすると発生しないので、少なくとも開発当初の意図には含まれていなかった挙動だと考えられる。しかしこれがいかに効果的だったかは、のちにカセットで発売されたSFC版で証明されたと言えるだろう。なぜなら、こちらでは該当シーンに音声がないのに、セリフの表示にわざわざ“間”が入るように改変されているからだ。

 この点「PCエンジンミニ」収録版は、筆者には少々残念だったというのが正直なところだ。意識的に入れられた待ち時間ではない以上、削減されたからといって文句をつけるのは筋違いなのだが、やはり味気ないという印象は抑えがたく、自分のことながら始末が悪い。さて、今の最新ゲームが数十年後に復刻される際にも、やはり「ローディングの時間がないと味気ない」という意見が出てくるのだろうか。

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ライター
コンピューター文化史研究家。2013年より約2年間、ブログにて 「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。その際、1999年末まで約20年分の日経産業新聞縮刷版にヘトヘトになりながら目を通した。
Twitter:@Kenzoo6601

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