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『アーマード・コア』があまりに強すぎて「フロム・ソフトウェアから直々に出禁をくらった」と噂される伝説のレイヴン・YOU氏に20年越しの真実を聞いてきた

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伝説のイレギュラーの苦悩。「勝たなきゃ存在価値がない」というプレッシャー

──先ほど、大会で知り合ったご友人と今でも友人関係が続かれていて、連絡を取ったりキャンプに行かれたりしているとお聞きしましたが、他にも当時のAC界隈にまつわるエピソードがあればお聞かせいただきたいです。

 私が聞いた噂話だとアニメ版『ポプテピピック』【※23】などで知られている『AC部』【※24】さんは、元は「ARMORED CORE部」だったとか……。

『アーマード・コア』が強すぎて「公認イレギュラー」になった伝説のレイヴンに話を聞いた_018
※23「ポプテピピック」
「大川ぶくぶ」氏による4コマ漫画作品。キャッチコピーは「とびっきりのクソ4コマ!!」。パロディや風刺、ブラックユーモアを基調とした独特のスタイルで一世を風靡。後にアニメ化され、こちらのキャッチコピーは「どうあがいても、クソ」である。
(画像は#1「出会い」|あらすじ|TVアニメ「ポプテピピック」公式サイトより)

※24「AC部」
安達亨氏、板倉俊介氏、安藤真氏によって1999年に結成された映像制作を中心に活動をしているクリエイティブチーム。『ポプテピピック』では「ボブネミミッミ」「ヘルシェイク矢野」の製作で名高い。

YOU氏:
 あはは!(笑)。AC部の「安達亨」さんですよね。「徳川一星/ビッグ・ザ・将軍」のね。
 私も去年くらいかな、初めて知ったんです。徳川一星なんて異彩を放ちすぎている名前なので、当時から「この人ネットやったりしてないのかな、誰なんだろうなぁ」なんて探していて。

 『ポプテピピック』でAC部って出て、テロップで「安達亨」って出た瞬間に「あれ、この人の名前どこかで見たことあるんだけどなぁ」って(笑)。

 MOAの説明書にはチャンピオンアリーナ在籍ランカーの本名が記載されているんですが、読み返してみたら「本人やん、マジかよ」ってなりました(笑)。

──当時の人からの証言が大きすぎる(笑)。

YOU氏:
 しかもタンク【※25】で優勝してるんで「この人凄いなって」(笑)。

※25「タンク」
戦車型の脚部を用いたアセンのこと。また、そのAC。初代3部作では「軽量2脚」「中量2脚」「重量2脚」「逆関節」「4脚」「タンク」が存在し、それぞれ個性的な性能を持つ。脚部はACをアセンする上で戦術のメインとなるパーツであり、中でもタンクは「防御力の高さ」と「構え(固定砲台状態)にならなければ撃てない一部の肩武装を自由に撃てる」メリットがあるが、機動力が非常に低いというデメリットを持つ。

──他にも思い出に残っている方はおられますか?

YOU氏:
 チャンピオンアリーナの「ザキ」さんがフロムさんに就職されたとは聞きましたね。『ダークソウル』シリーズに関わられたって聞いて、凄いなぁって。

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(画像はConcept | DARK SOULS Series Siteより)

 九州の方は相変わらず楽しい方々が多くて、他は家庭を持たれたりとか……僕もそうですけどね。普通のおっさんになってますけど(笑)。

──すべてが思い出と仰られていましたが、やはり「友人であり、レイヴンであり、戦友」の周囲の存在が大きかったと。

YOU氏:
 本当にそうなんです。やっぱり愛媛の大会が凄く自分の中では大きくて「いろんな人がいて楽しいな」って思えた。

 その後もずっとライバルだった人と数年越しに和解できたりとか。ある大会の3位決定戦だったかな。そこで久しぶりにお互い本気で戦って、結果として僕は負けてしまったんですけど、それが生涯のベストバトルだなと今でも思っています。小細工なしの決闘というか、本当に正面から戦おうという感じで。

──熱すぎますね。騎士道というか……決闘というか。

YOU氏:
 もう本当に「ガチで殴り合おう」という。それで試合が終わった後に思わず握手をしてしまったんです。やっとお互いに分かり合えた感じで。

 僕も現役の時は人が言うには「殺気を纏っていた」らしいんですが、それはもちろん本来の性格ではないんです。どうしても「勝つのが当たり前」というか、公式から「イレギュラー」なんて呼ばれちゃっていましたからね。プレッシャーが凄いあったんですよ。自己催眠じゃないですけど、「勝たなきゃ存在価値がない」みたいな気持ちが前面にあって。自分に追い詰められました。

 やっと最近になって「普通に楽しめる」ようになってきたんです。悔しいですけど、純粋な負けも飲み込めるようになりましたね(笑)。

──「イレギュラー」としてではなく「レイヴン」として楽しめるようになった。

YOU氏:
 「イレギュラー」の称号は凄く重かったですね。出る大会で「当然勝つんだろ」って目で見られているのは分かっていたし、自分も「勝たなきゃいけない」というのがあったので。過呼吸になりかけたり、勝ちが確定するまでの数秒が異様に長く感じたり。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

 それを繰り返している内に、面白くなくなってきてしまって。「勝って当たり前」を続けるのがなんでこんなに苦しいんだろうと。純粋に楽しめなくなったんです。
 でも、そんなふうにだんだんとおかしくなっていく過程で、チームのメンバーが「もういいんじゃないか」って言ってくれたんです。それで重荷が下りたというか、凄く楽になりました。本当に感謝しています。

──伝説のイレギュラーと呼ばれたレイヴンが、勝利を目指すあまり、人間性を失いかけていた時に仲間からの声で救われる……。まるで映画を見ているような気分です。

YOU氏:
 もう自分がやってきたことを考えると友達は残らないんじゃないかって思いますけど、ありがたいことにみんな残ってくれて。今でも付き合いがあるような無二の友人と、結果的に巡り合わせてくれたので、そういう意味でも『アーマード・コア』には感謝してますね。

──生半可な気持ちだったらそこまで打ち込めないですよね。自分が自分でいられなくなるほど打ち込んだ結果、いろいろな方との出会いがあって…。「伝説のイレギュラー」ってどんなレイヴンなんだろうと思っていました。

YOU氏:
 フェイスオフの方が良かったかも。夢を壊しちゃったかもしれない(笑)。

──もう神話化しているというか、神格化されているというか。「勝負を突き詰め過ぎたレイヴン」という印象が強すぎて、人間性が排除されている感じじゃないですか。当時のサイトや掲示板もなくなってしまっているものがほとんどですし、今に残っている情報が断片的すぎるんですよね。

YOU氏:
 僕も内面的な部分というか、勝負において「弱い部分」というのは身内にしか見せていなかったので……。他のレイヴンからしたら「憎いヤツ」だったりとか、「憎悪の対象」だったりしたのではないかなと。

 2chとかでももうボロクソに叩かれてていましたから(笑)。周囲からは「人でなし」とか、そういう感じだったんだろうなと今になって思います。

──「イレギュラー」という言葉が一人歩きしていたんでしょうね。「認定レイヴン」ではなくて唯一無二の「イレギュラー」ですから。

YOU氏:
 本当にタイミングだったとは思うんです。たまたま4回優勝してしまったのが大きかったのかな。連続で優勝していたので、フロムさんからも「そろそろいい加減にしてくれる?」という感じでね。

 しかも4回目の優勝が「キャンセル枠」だったんですよ。既にフロムさんから「出ちゃダメですよ」って言われてたんですけど、「そこをなんとかお願いします」みたいな感じで無理やりねじ込んでもらった上での優勝で(笑)。そこで「もう本当にダメです」って言われちゃって(笑)。

──フロムさんからしたら「出られるとどうしようもない」って感じでしょうね……。

YOU氏:
 いやそんなことはないと思うんですが……。でも、出るからには勝ちたいですからね。

──キャンセル空きから入ったとしても「ちょっと楽しんでいこう」ってノリでは戦えないですよね。出たからには勝ちたいと。

YOU氏:
 はい(笑)。あと実は他のレイヴンが開いた「認定証持ちは参加不可」って大会があったんですけど、偽名で参加してしまいまして……。

──いや、それは本当の意味で「大会荒らし」じゃないですか(笑)。

YOU氏:
 それでやっぱり優勝してしまって。今なら完全に炎上案件ですよね(笑)。
 最初は友人の付き添いで行ったんですけど、見ている内にウズウズしちゃったんですよ。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──本当に「身体が闘争を求めている」(笑)。

YOU氏:
 オープニングのデモ画面見てたらもうダメで、「そういえばメモカ【※26】持ってきてたな……」って(笑)。

 フリー対戦だけすればいいかなって思ってたのが「偽名で出ちゃおう」と。しかも名前が「ニヒル男爵」というナメた名前で(笑)。「何者なんだ」ってザワついたんです。

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YOU氏愛用のメモリーカード。全部で10枚ほどAC専用のメモリーカードがあるそうだ

※26「メモカ」
メモリーカードのこと。PS1~PS2まで使用された。ゲームのセーブデータは本体ではなく、このメモリーカードに保存される仕組みになっていた。これを持って大会に参加することで「俺のAC」で戦うことが可能になる、レイヴン(当時のPS1プレイヤー全員だが)必須アイテム。

──まさか参加者も「ニヒル男爵=YOUさん」だなんて思いませんよね。

YOU氏:
 機体名も「パラダイスロスト」じゃなくて「失楽園」って名前だったんですけど、知ってる人からは速攻バレまして……。「アイツなんで出てるんだよ!」って(笑)。主催に文句言っている人もいましたね。

 これも今だからこそ明かせるというか。本当にすみませんでした(笑)。

伝説のイレギュラーの苦悩。その後。

──かなり濃いお話をお聞かせいただきました。これまでのお話はMOAまでになりますが、それ以降(PS2~)の作品についてはプレイされたんですか?

YOU氏:
 『ARMORED CORE 3』(以下、ナンバリングタイトルはAC〇と表記)まではプレイしていました。ただAC2以降、基本操作は変わらないんですが、ACの挙動がかなり変わって「少し自分には合わないな」と感じたんです。一応、『ARMORED CORE 2 ANOTHER AGE』(以下、AC2AAと表記)の大会は優勝したんですが、まだ戦術とかが発展する前の「強かった機体」を友人から教えてもらって、それで優勝したので。

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(画像はAmazon | ARMORED CORE2 ANOTHER AGE | ゲームより)

 AC3でもハンドロケット【※26】をハンドガン代わりに使って固め斬りをするようなことをやっていたんですが、初代3部作よりもラグを顕著に感じるようになったんです。あまりフェアな対戦ができないというのを感じてしまって……。それ以降は「やっぱり初代3部作でいいや」という感じで戻った感じですかね。

※26「ロケット」
無誘導のロケット弾を画面中央に発射する装備。手持ち式と肩武装があり、YOU氏が使用していたのは手持ち式のもの。YOU氏はサラっと言ってのけたが、高速で動き回る敵機にノーロック【※27】で当てる技術(しかも対人戦)は既に人を超えている領域であることに留意されたい。

※27「ノーロック」
本シリーズでは基本的に「敵をロックオン⇒射撃」という順番で射撃攻撃を行うが、ロックオン距離の範囲外からの射撃や、ロケットのようにそもそもロックオンができない武装などは、ロックオンをせずに射撃攻撃を行う。これをノーロックと呼ぶ。

──PS2から「対戦ケーブル」ではなく「iLINKケーブル」を使用するようになりましたね。

YOU氏:
 そうなんです。「顔を合わせて対戦」という形は変わらないんですが、初代3部作よりもラグが大きくて片側のプレイヤーが有利になっていた。「当たるはずの弾が当たらない」とか、その逆とかもありました。

 AC3が出た時は「爆風のエフェクト凄いな!ヒット判定あるのかな?」みたいにワクワクしていたんですが、いざやってみると「違うなぁ…」って感じで。初代3部作に思い入れがあり過ぎたというのもあるかもしれませんね。

 なので初代時代からの友人とかも、結構やっていない人が多かったりしました。そこで「僕の中では」ですけど、「初代3部作で終わってしまったかな」という感じです。

 シリーズを否定する気はまったくないし、以降の作品を楽しまれている方もたくさんおられるのを見ているし、今後、僕はプレイしないと思うけど、新作が出てくれたら嬉しいですし。『アーマード・コア』という作品が続いていってほしい。

──なるほど。初代三部作で一区切りがついたYOUさんの中での『アーマード・コア』ですが、それ以降のご趣味などは……?

YOU氏:
 フィギュアを作ってます。ガレージキットとか。他にもキャンプに行ったりバイクに乗ったり……。あとは子どもと虫取りに行ったりとかしています。

──お子様はYOUさんが「伝説のイレギュラー」だった事実はご存知なんですか?

YOU氏:
 「知ってる?」(お子様に聞かれる)……知らないみたいです(笑)。

 自分がプレイしていても「また『アーマード・コア』やってるー」とか。そんな感じです(笑)。

──引退した伝説の戦士が家庭を持って静かに余生を過ごしてるみたいな。映画だったら当時の戦友が尋ねてくるやつですよ。

YOU氏:
 もう嫁にも「過去の栄光に浸るのはやめなよ」とか言われてます(笑)。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──そんな中、取材を引き受けていただいてありがとうございます。

YOU氏:
 いやいや、僕も久しぶりにこういうお話ができて嬉しいですし、当時の友人にも「取材を受けるんだよ」なんて話をしたらゲラゲラ笑ってくれて。

 やっぱり地理的なこともあって、九州の友人とかとは会えないことも多いんですが、久しぶりに再会しても当時のまま振舞える。「この前に会ってたよね」という感じで。

 (お子様登場)……ちょっと出てこないで(笑)。

──可愛らしいお子様ですね。父親が伝説のイレギュラーだったことをお子様が知る時は来ますかね……。

YOU氏:
 子供が大きくなってネットサーフィンとかするようになって、ふと僕の名前で検索とか掛けたら「何これ」みたいな感じで知るかもしれませんね。

 そうなったら、ちょっと面白いかなって(笑)。

──『ガルパン』などのフィギュア製作はいつ頃から始められたんですか?

YOU氏:
 『ガルパン』もACの友人から聞いたんです。2017年ごろに「見てみるか…」なんて見始めたら、もうすっかりハマってしまって。聖地巡礼とかもして。

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(画像はガールズ&パンツァー(GIRLS und PANZER)|公式サイトより)

 ずっとACばかりやっていたんですけど、以前から模型製作には興味があったので、それに火が付いた形です。「なにかモノを作る」というのをやりたいなと。

 最初は戦車の模型を作っていたんですが、ガルパンなので「戦車の上にキャラを乗せたい」って気持ちが出てきて、そこからフィギュアを製作し始めたんです。なので3年くらいになりますかね。

──ACからガルパン、そして模型、フィギュアへと……男の子が好きなヤツを制覇する勢いですね。

YOU氏:
 そうですよね(笑)。もうずっとACしかやってこなかったので、他の遊び方が分からなくなっていたというか。でもやっと、それ以外で打ち込めるモノが見つかったんです。

 当時のレイヴンの中にはモデラーさんとかもいたんですけど、自分が模型を作り始めるようになったら繋がりが戻ってきたりとか。ワンフェスとかイベントにも行ったりして、今ではすっかり自分がモデラーみたいになりました(笑)。

──闘争への欲求を別の欲求へとしっかり変えることができたんですね。本当にいい話ですよ……。

YOU氏:
 僕としては、本当に気に入った作品を楽しみ尽くすというか、骨がなくなっても味がするぞみたいな…(笑)。そういう感じなんです。

 未だに初代3部作の底まで行ったとは思っていないので、今でも腕が落ちない程度に練習したり、たまに当時の友人たちと対戦会をやったり。お互いの生存確認の意味も兼ねてますけど(笑)。

──当時の攻略本に「ACを一生楽しむ本」みたいなのがありましたけど、少なくとも20年は楽しめるってここに立証されましたね。

YOU氏:
 新作を待つのも楽しみ方のひとつですが、自分の気に入っているシリーズ作品を、やり込みの先へ行ったりとか、とにかく練習したりとか、そういうのも楽しみ方のひとつだと思うんです。

 僕は才能はなかったんですけど、「やり続ける」「努力し続ける」というのはACから学べたなと思います。「やり続ければば可能性はある」って。もちろん、成果が実らなかった人もいましたけど、少なくとも「昨日の自分」よりかは間違いなく強くなれる。

 そういう積み重ねは人生にもいえるのかなと。指の皮も数えきれないくらい剥けましたし、親指が摩擦で火傷もしましたし、コントローラーの十字キーのエンボスが消えてテカテカになっちゃったり。でも、それくらいやり込んだことって、モノが違っても、自分のエネルギーとか自信になると思うんです。自分の好きなことは徹底的にやってほしいと思います。

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YOU氏によって使い込まれたPS1コントローラー

──説得力が強すぎます。

YOU氏:
 「たかがゲーム」とは思いませんし、自分の好きなことを突き詰める。これって大事だと思うんです。

 なので「なにかを一生懸命にやっている人」というのが大好きですね。心の底から応援したくなりますし、負けそうになったり、辛いことがあっても前進し続けてほしいなと。
 自分にも言い聞かせていますけどね。「明日の仕事、嫌だなぁ」なんて思ったりもしますから(笑)。かつての自分に負けない毎日を送れるようにって感じですかね。

 特に模型だと勝ち負けじゃないんです。「なんとしても勝つ」ではなくて「いかに自分の技術を上げられるか」という戦いなので。そういう意味では前より謙虚になれたかなとも思いますね。人と争うことから離れて生活できて、少し安心しています(笑)。

「人」としての、伝説のイレギュラー。

──ご家族とかとゲームされたりとはしますか?

YOU氏:
 痛いところを突いてきますね(笑)。

 ……今でも家族とゲームをしたりすると、負けてくると、若干……こう……(笑)。

──体が当時の熱を忘れていない(笑)。

YOU氏:
 「抑えよう」なんて思ったりするんですが、気づくと嫁に「大人げないからやめなさい」って怒られていますね(笑)。それでも当時の僕しか知らない人だと、「え、誰?」みたいな感じなんで。結婚するなんて思われていなかったでしょうし、そもそも僕自身も思っていませんでした。性格も身も丸くなったなぁって感じです。

 当時の自分の対戦中の写真とかを見返すと「うわぁ…近づきたくねぇ…」ってなりますから。そもそも「本当に自分だったのかな」って思う瞬間もあります。「イレギュラー」と呼ばれていた頃の僕を神格化してくださっている方とかもおられるんで、ちょっとガッカリされるかもしれませんね。

──でも、当時のYOUさんを知らない方ってどうしてもそういう面があると思うんです。情報が濾過されていくというか、鋭利な情報だけが残っていく。そうなると神格化するような側面が強くなっていくと思うので。

YOU氏:
 確かにそうかもしれません。以前、なにかで見かけたんですが、かなり話が盛られていることもあったりして。「これ誰? え? オレ?」みたいな感じ(笑)。

 なので「こうやって神話とか伝説って作られていくのかなー」みたいな目で面白く見ています(笑)。

──神話化されていないYOUさんのお話をお聞かせいただきたいです。

YOU氏:
 関東での大会が終わった後とかですね、僕の家の方で対戦会とかをやっていたんですよ。もう関西からも九州からも来てくれていたんですけど、対戦が終わった後に食べる「ぎとぎとラーメン」というラーメン屋さんがあって。名前の通り「こってり系」のラーメン屋さんなんですけどね。それを食べるのが恒例行事になっていたんです。

 「ラーメン食べに来ました」みたいなノリで九州から来てくれたりで、お店も全員がレイヴンで埋まる(笑)。それを毎月やってたんですよ。普通なら半年に1回とかでしょ?

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YOU氏と仲間たちが食べていた「ぎとぎとラーメン」。美味しそう!

──なんというか、もう熱量が凄い。みなさんそれだけにACに賭けていたんですね。

YOU氏:
 今だとオンラインがメインって環境もあるでしょうけど、ありえないですよね。「ちょっとそこまで」「ラーメン食べに行ってくる」というノリで来てくれる(笑)。

 最終的には店主さんが亡くなられて、もうお店はないんですけど、みんな心の底から悲しんでいました。僕らを受け入れてくれたし、いつも気を遣ってくれたんです。サービスもたくさんしてくれて、食べきれない子には胃薬くれたりとか(笑)。

──なんとも古き良き時代と言いますか、人情味のある素敵なお話ですね。当時は食も目的のひとつでしたか?

YOU氏:
 あるかもしれませんね、僕自身が遠征した時も、地元のレイヴンがもてなしてくれたりしました。

 九州に遠征した時なんですけど、『一蘭』ってラーメン屋さんがあるじゃないですか。今だと凄くメジャーなお店になってますが、当時の本店に連れてかれたんです。メニューは選ばせてくれなくて、ラーメンのボタンを押したら、次にネギを20回くらい押すんですよ。お金が無くなったら札を入れて、今度はキクラゲを連打する(笑)。

 それで「よし食べよう」となって。食べ終わると、5人とか6人くらいで来てるのに会計が3万円くらいになってるんですよ。「バカじゃねーの」って(笑)。

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ネギ40倍、キクラゲ10倍の一蘭ラーメン。圧がすごい。

──今のゲーマーとしては羨ましい限りです。でも、そう考えると「遠征」って文化自体がなくなりつつあるかもしれません。

YOU氏:
 観光に行くわけではないんですよ。無論、ACをやるために行くんですけど、それでも現地の食べ物を食べたり、特産品を貰ったり。「ケーブルを繋がないと遊べない」からこそのことだとは思いますが、こういう「遠征」って文化が失われつつあるのは当時を知る人間として悲しいですよね。

 電車旅だったり、中には飛行機を使う人もいましたけど、電車内で食べる駅弁だったり、道中に作戦を練ったり、時にはトラブルが起きたり(笑)。そういうのが本当に楽しかったです。相方はなぜかコーヒーを必ずこぼす人だったんですが、リュックの中にこぼしちゃって着替えがなくなっちゃったりとか(笑)。本当に全てが思い出なんです。

──ゲーム友達とここまでリアルで濃厚な付き合いがあるというのも、今ではもう珍しいかもしれませんね。なんならゲーム内で結婚式が挙げられたり、どんどんゲーム側が現実に近いことをできるようにしているわけで。

YOU氏:
 あの頃のACは「直接会わないと遊べなかった」ので、人となりが分かるのも面白かった。ネット上では温厚な人が対戦になるとガチで殺しに来たり、イキっている人が実際に会ったら大人しかったり。

 現地での交流や打ち上げは、「『アーマード・コア』が好きな人同士の集まり」という感覚なんですよね。対戦から離れれば「いいヤツ」が多かったので余計に楽しくて。
 今のオンラインゲームは世界中の方と交流できますし、そういう面では本当にいいなって思いますが、ネットの交流だけではない、次のステップですかね。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──「ゲームで対戦し終わった後にラーメンを食いに行く」ということすら、既に難しくなっている。でも、実際にこれができたら、今でもどうやっても友情が芽生えてしまうんじゃないかなと思います。

YOU氏:
 本当にそういう環境があったからこそ、ACを続けられましたね。自身の思いと、周囲の思いが目指す場所が同じだからこその一体感がありました。

 少し逸れてしまうかもしれませんが、親御さんがACをやられてて、そのお子さんが対戦会に来てくれたこととかもあったんです。そしたら「親が話していた凄い人と戦えて嬉しかったです」と言ってくれて。

 彼からすれば、僕は「親の話と、MOAのチャンピオンアリーナの中でしか存在しない人」だったわけです。当時、まだ赤ちゃんだったり、そもそも産まれてすらいなかったり。その世代が「親がリアルで繋がりがあったから」尋ねて来てくれる。面白いですよね。同時に長生きするもんだなって思いました(笑)。

──もう完全に「いい話」すぎて感動しています。

YOU氏:
 もっとブラックな話とかした方がいいですか?(笑)。ただ、僕が「YOU/パラダイスロスト」だった頃は本当に尖っていましたから。やっと「イレギュラー」という暗示が解けたって感じです。

 現役だった頃にインタビューを受けてたら内容はまるっきり変わっていたかなって(笑)。

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──チャンピオンアリーナの在籍ランカーを見ると、みんな名前が「トゲトゲ」してますもんね。

YOU氏:
 もうみんな尖ってましたから(笑)。背比べじゃないですけど。

──それこそ笑えるネーミングだと、「徳川一星/ビッグ・ザ・将軍」くらいで。

YOU氏:
 ですよね(笑)。当時から彼は異質な存在で「この将軍は何者なんだ」って話題になっていた人物で。

──では「将軍」と「YOU」の面識はなかったんですね。

YOU氏:
 大会が1日違いだったんですよ。僕が優勝したのは2月8日の千葉の大会。「将軍」が優勝したのはその前日、2月7日の東京、上野の大会なんです。

 なのでタイミングが合わなくて。その大会以降、「将軍」は表舞台から姿を消してしまったので「いったい誰なんだ」と(笑)。真相に辿り着いた瞬間に当時の戦術も知ることができたんですが、「なかなかエゲつねぇ戦い方だな」って笑ってしまいました。

──ゲーム内では「徳川22代目将軍。自らACに乗り、戦場へ向かう姿は人々に感動を与え、熱烈な支持者急増。まさに男の中の男。」(MOAゲーム内より引用)と記されているのですが、実際の「将軍」はどのような戦い方を?

YOU氏:
 聞いた話によれば、大会を優勝した時はチャンピオンアリーナに登録されている緑ライフルではなくて、指を持ったアセンだったらしいんです。ステージの端まで一気に進んで……障害物が1個ある場所なんですけどね。そこで籠っていたという話を聞きました。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──「将軍」はまさかの籠城?戦をしていた(笑)。

YOU氏:
 そうです(笑)。指とミサイルで敵をひたすら削って、耐久力を活かしたAP差で勝つ戦術だったらしく。「将軍エグいなコレ」って(笑)。

 まさか『ポプテピピック』と、ここで繋がるなんて思わないじゃないですか。「なんだよAC部って……『アーマード・コア』かよ……」って(笑)。同じ認定証持ちってことで、不思議と親近感が湧きました。難しいとは思いますけど、1回は会いたいなって思っています。

──「YOU」と「徳川一星将軍」、奇跡の対面に期待したいところですが、当時、ACをプレイしていた方々がもう1度集まるってのは単純に面白そうですよね。

YOU氏:
 1回「リアルチャンピオンアリーナ」的なのを企画しかけたことはあるんですが、いろいろと難しくて。今でも身内の対戦会には3人、アリーナ在籍者が来るので、実質的にチャンピオンアリーナですけどね(笑)。

 たまに初代3部作を始めたって方が来てくれるんですが、対戦が始まるとみんなレイヴンに戻ってしまうので誰も手加減しないんです。自分もそうなんですけど(笑)。

──是非、集合は実現していただきたいです。正直、いちACプレイヤーとして自分が見たいです(笑)。

YOU氏:
 僕はチャレンジャーとして参戦したいですね(笑)。

──絶対シード枠じゃないですか。

YOU氏:
 やっぱりみんなと戦いたいですよ(笑)。

 でも、万が一にもそういう日が来る時のために腕を磨いておこうかなとも思えるんです。

──いやもう本当にいい話だなぁ……。ここまで長時間のインタビューを行わせていただき、本当にありがとうございました。最後に一言、いただけますでしょうか。

YOU氏:
 今は「イレギュラー」だった頃の自分とはまるで違いますけど、例えゲームでも本気で取り組めば人生の身になると思います。なので、eスポーツって文化が出てきたことも嬉しいです。ただ、自分がゲームをやっていた頃は「スポーツ」ではなくて、どちらかと言えば「戦争」という感じで。何もかも、全てを注ぎ込んでの「戦争」なんですよね。

 それくらい、でも他人に迷惑は掛けない程度に(笑)。どうしても、相手を嫌な気持ちにさせてしまう体験をしてしまうかもしれませんが、配慮しつつ、極限まで取り組めば、何らかの形にはなると思います。

 自分の自信にも、生き方の道しるべにもなるかなと思うので、「自分が好きなこと、夢中になっていること」に「人生を賭けられる」だけの熱量があるのなら、とことん取り組んだり、突き詰めていってほしいです。ただ、それだけに取り付かれると、人は闇落ちしちゃいますから。友達は大切にされてくださいね。

 僕は『アーマード・コア』に出会って人生が変わりましたし、フロムさんにも、対戦してきてくれたレイヴンたちにも感謝しています。まさか20年越しにインタビューを受けるとも思っていなかったけど、こういう機会をいただいて嬉しいし、楽しかったです。
 今日は本当にありがとうございました!

──「伝説のイレギュラー」のお話が聞けて本当に嬉しかったです!本日は誠にありがとうございました(了)。

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 YOU氏と話し始めた時、その語り口は非常に穏やかで、かつて「イレギュラー」と呼ばれていた頃の面影は伺えず、過去の「殺気溢れる姿」など、逆に想像もつかなかった。語られた通り、YOU氏が歩んだその道は決して平坦ではなかったが、「公認イレギュラー」から「伝説のイレギュラー」となった記憶は今も鮮やかな色合いを保ち続けている。

 だが、少しでも踏み込んだ話になれば、笑顔を絶やさずとも真剣な表情に一瞬で切り替わり、当時の『アーマード・コア』シーンを熱く語る様は間違いなく現役の「イレギュラー」であり「レイヴン」。なにより、そこにいたのはリアルな1人の「人間」だった。

 オンラインゲームが全盛の今、そもそものプレイに必要なハードの入手など課題は少なくないが、ぜひ機会があれば「身体は闘争を求める」、その源流となった「あの頃」の『アーマード・コア』に触れていただければ幸いだ。

 認めよう 君の力を 
 今この瞬間から君はレイヴンだ 

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ライター
『アマガミ』に脳を破壊された結果、フリーランスライターに。FPSやTPSをメインに遊ぶトリガーハッピーだが、ノベルゲーやレトロゲーも好む雑食ゲーマー。美味しいご飯とお酒もゲームと同じくらい好き。
Twitter:@Shiki_Natsugami
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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