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『リングフィット アドベンチャー』がゲームとフィットネスを両立させたデザインに至るまで。貴重なプロトタイプ映像も公開【CEDEC2020レポート】

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『リングフィット アドベンチャー』がゲームとフィットネスを両立させたデザインに至るまで。貴重なプロトタイプ映像も公開【CEDEC2020レポート】_001

 新型コロナウイルスの影響で初のオンライン開催となった「CEDEC」が9月2日(水)から4日(金)までの日程で開催されている。最終日となる4日には、コロナによる巣ごもり需要の増大により大きな注目を浴びた任天堂の『リングフィット アドベンチャー』の講演が多数行われた。
 本稿では『リングフィット アドベンチャー』のプロデューサーを務めた河本浩一氏と、ディレクターの松永浩志氏による「~混ぜるな危険!~ゲームとフィットネスを両立させるゲームデザイン~」をレポートする。

取材・文/早川清一朗


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なぜ、ゲームとフィットネスを混ぜる?

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 『リングフィット アドベンチャー』はNintendo Switch用に2019年10月18日に発売された、「冒険しながら、フィットネス」をするための画期的なゲームだ。「リングコン」と呼ばれる円形の特殊なコントローラーとレッグバンドを使用し、ジョイコンと組み合わせて全身運動が可能となっており、発売後すぐに人気が爆発。コロナウイルスの影響下で外出が難しくなった時期には、Switch本体と共に入手が極めて困難な状況となり、今なお品薄の状況が続いている。

 発売から1年近くが経っても売れ続けているという近年まれにみるヒット作だが、冒頭に河本氏は『リングフィット アドベンチャー』開発については、自分の運動嫌いが大きな理由になっていると語ってくれた。長年身体を動かさずに延々とネットを観たり、ゲームをしたりしているうちに、気づけば血の巡りが悪くなり、筋肉が衰え代わりに贅肉が付いてしまったので、「これ、ゲームでなんとかできないかな……?」と考えたのが動機とのこと。そ
 こで思いついたのが「ゲームとフィットネスを混ぜて運動不足をなんとかしたい」というアイデアだったが、これは非常に甘い考えだったと、本音を吐露する場面も。

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 過去、任天堂では『Wii Fit』シリーズですでにゲームとフィットネスの融合を達成している。そこに新たな要素を加えなければ意味が無いと考えた河本氏は、フィットネスとRPGの融合を模索し始める。

 RPGを選択した理由は、河本氏がRPG好きということの他にも、「やったことを経験値として貯められる」「現実の体は変化しにくいが、ゲームの中でならすぐにレベルアップして強くなれる」「ストーリーやアイテムなどで変化を出せるのでフィットネスを長く続けてもらいやすい」など、運動を数値化してキャラクターに反映することにより疑似的な成長を行い達成感を得やすくすることが可能となっている上、継続したプレイのための変化をしやすいという理由があったとのこと。

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『リングフィット アドベンチャー』のプロトタイプ画面

 こうして開発がスタートした『リングフィット アドベンチャー』だったが、プロトタイプの画面を見ても分かる通り、当初はよりファンタジーRPG寄りの仕様となっていた。真ん中が主人公で、左にいる赤いキャラクターが実際のプレイヤーの動きを反映するアバターだ。

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 モンスターとの戦闘方法も、ひたすら殴るだけのシンプルなもの。タイトルの魅力を高めるためには、さらにフィットネスの種類を増やす必要があった。

フィットネスやゲームの種類を増やしたが、もの足りない

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 フィットネスの種類を増やそうとした際に立ちはだかったのがJoy-Conの両手持ち操作だ。運動の際に不便な上に、立木のポーズや足上げ腹筋、スクワットなど脚部の動きを認識できないという問題があった。

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 ここで考案されたのがバンドによる固定形式。当初は左腕と左太ももに固定することになっており、現在でも左太もも部分はそのまま使われている。

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こちらが当時のプレイ風景。左腕と左太ももにジョイコンを装備している。このときは右腕でジョイコンを操作し選択などを行うようになっていた。
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 最初期はパンチとランニングしか運動らしい動きはなかったが、パンチで岩砕き、崖登りが追加。ミニゲーム類も増やされ、戦いにもリズム感ある動きが導入され、徐々にゲームとしての方向性が見えてきたように思えた。

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 しかしながら、この時点ではまだフィットネスといいながら、上半身を鍛えるための運動が無く、ゲームとしても過去の体感ゲームを越えたものにはなっていなかったそうだ。そうして頭を悩ませていたとき、ハード開発チームから、ある提案が行われた。

円形の特殊なコントローラー「リングコン」は、ソフト開発チームにとって救世主となった

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円形の特殊なコントローラー「リングコン」は、ソフト開発チームにとって救世主となった

 それが『リングフィット アドベンチャー』の最大の特徴と言える「リングコン」だった。力を入れると曲がるリングコンは、どれだけ力が入っているのか見た目でわかり、上半身を鍛えることもできる。
 これにより、「上半身に負荷をかける」という『Wii Fit』以来の問題が解消された。さらには前代未聞の曲がるコントローラーという大きなインパクトもあった。「リングコン」の登場により、今まで滞っていた多くの問題が解決し、開発は一気に前進する。

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リングコン導入初期の画像

 このころにアートディレクターも合流し、グラフィックも製品版のイメージにかなり近づいた。リングコンの導入とともにプレイヤーのアクションが拡張され、製品版でも実装されている空気砲や吸い込み、ジャンプなどが追加された。

 難航するソフト開発に、ハード開発部門が新機軸を提案して新たな世界が生まれる。自社でハードとソフトを開発している老舗企業としての任天堂の底力が発動した瞬間だ。

こうしてゲームとフィットネスが混ざって……なかった

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 こうしてゲームとフィットネスを混ぜるためのパズルのピースはすべて揃ったと考えた松永氏は、喜び勇んで河本氏にソフトを見てもらうことにした。

 しかし河本氏の目には、そうは映らなかった。

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 ここで河本氏は「混ざっていませんでした」と発言。遊んでみると、ゲームやアクションは面白いし、軽く汗もかく。しかし運動回数が少なく、遊び終わると「面白いゲームを遊んだ」という感覚はあれど、「フィットネスをした」という気分にはならない。その理由を探った河本氏は「ゲームとフィットネスがまざっていない」という初期コンセプトに反する問題点のあぶり出しに成功する。

 なぜゲームとフィットネスが混ざっていなかったのか。その理由はゲーム部分の運動は軽めで、キツい運動は別コーナーの「道場」に集約されていたことにあった。ゲームをしてもキツい運動には行きつかない構造になっており、両者は混ざり合っていなかったのだ。

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 テストプレイした方の中からは「運動にならない」という声もあがり、「キツい運動をゲームの中に取り込むにはどうすればいいのか」という試行錯誤が始まった。

ゲームとしての楽しさを追求すると、どうしても運動は軽いものになってしまう

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 なぜ、キツい運動がゲーム部分から外されてしまったのか。理由は簡単で、キツイ運動は苦痛で、退屈だからだ。それにキツい運動をしているとゲームどころではない。運動しながら何かを狙うことも、よけることも難しい。

 つまり、ゲームとしての楽しさを追求すると、どうしても運動は軽いものになってしまうのだ。

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 この問題に気づいた河本氏は「ゲームとフィットネスを混ぜる」という最初の考え方が間違っていたと結論付ける。それはすなわちプロデューサーである氏自身が、自身のミスに気付いた瞬間でもあった。絶望に沈んだ河本氏であったが、今まで作り上げてきたソフトを投げ出すことはできず、起死回生を目指しての必死の試行錯誤がスタートした。

 しかしゲームとフィットネス、どちらを優先するにせよ、中途半端であってはならない。ゲームであればマリオやゼルダの方が面白く、フィットネスであれば動画で十分。やはりゲームとフィットネスを両立しかないと判断し、テストプレイヤーから寄せられた「こんなん運動にならへんで」という言葉を手掛かりに、再び前に進み始めたという。

むしろキツい運動が期待されているのではないか?

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 「運動にならへん」。つまり、わざわざ専用コントローラーまで用意しているソフトなのだから、キツい運動が期待されているのではないかと河本氏は気づきます。

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 そこで河本氏はどうすれば「キツい運動」をゲームに入れ込めるのかと考え、「リングコン・レッグバンドのような新型コントローラーに期待される運動らしさに応えられる」「キツさそのものが、他のゲームには無い特徴となる」「キツいので、身体が変わる可能性が上がる」と、キツさのメリットを挙げ、絶対にキツい運動を入れると方針を定めた。

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 「キツい運動は入れるし、運動したくなるし面白い、ただしゲームとは混ぜない」。一見すると矛盾しているような方針を実現するため、対策を河本氏と松永氏、そしてチームメンバーで考え抜き、ゲームとフィットネスを両立させる起死回生の試みがスタートした。

キツい運動を入れる3つの対策

 キツい運動を入れる3つの対策として考え出されたのが、以下の3つだ。

1.キツい運動をいっぱい配置
2.キツい運動してもいい、という気持ちに
3.キツい運動だけで面白く

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1.キツい運動をいっぱい配置する

 今までモンスターとのバトルには軽い運動を配置していたが、ここにキツい運動を導入。戦闘自体の数は多いので、ちょっと遊ぶだけでもかなりの運動量を確保できるようになった。
 たくさんある運動を攻撃スキルとして使用すれば、フィールド部分をプレイするゲーム部分とは、分離した状況で運動を行えるという発想の転換だ。

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 さらに、すでに完成していたコースでも階段を登るときは「モモあげ」に変更することで負荷を強化。新規に作るコースでは、なるべくキツイ運動を加えた。
 さらに道場をワールドマップ上の拠点に置き、行っていないマスに行きたい、クリアしておきたいというプレイヤーの欲求を喚起して、自分からキツい運動を行うように思考を誘導した。

2.キツい運動してもいい、という気持ちにさせる

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 この時点では、「ファンタジー世界で主人公となって冒険する」という初期のコンセプトがまだ残っていた。そのためタイトル画面や世界観もすべてがファンタジックであり、始めるとすぐにファンタジー世界の村にやってくる設定だった。

 これをゲームではなく「フィットネスツールだ」と思ってもらうように、タイトル画面をフィットネスジムの絵に変更。ファンタジー世界を冒険するのではなく、「あなた自身が現実世界でフィットネスするためのツールですよ!」と印象付けるように方針を改めた。

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 それにくわえて、本編を「アドベンチャー」という1つのフィットネス・プログラムとして扱うことにより、すでに完成しているファンタジー世界のアセットをほぼそのまま使用できるようになり、改修コストも最小限に抑えることができた。

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 さらに、いきなりキツい運動ができる「シンプル」モードを追加。道場として用意されていた運動も加え、「すぐに運動がしたい」というニーズにも対応可能となった。自分なりのフィットネスができるように「カスタム」モードも追加され、自由度も拡張されている。

3.キツい運動だけで面白くなるように

 しかし、いくらその気にさせてもキツい運動が苦痛であることに変わりはない。そこで次に、「キツい運動自体を面白くするしかない」という方向性での改良が行われた。

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 ここでEXP(エクササイズポイント)の体験や敵やスキルのバランス、レベルデザイン、現実パラメータの表示、やる気が出るようにちりばめた言葉など、多くの「成長による面白さ」「ゲームをプレイした結果のリアルへの反映」が面白さを感じる要素として追加された。

 特にスクワットのようなキツい運動については、とても強い力を使う分、とてもとても気持ちいい反応をするしかない。単にスクワット1回するだけで面白くする。そのような判断の元、12個の要素が追加された。

スクワットを面白くするために追加された12の要素

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 追加された要素のひとつ目が、ひざを曲げたら頭がボッ!と燃える演出だ。常時少し燃えていた頭に、新規の頭モデルを追加して、運動したときに燃えるように仕様を変更。もともとあった頭の炎を運動のトリガー反応に変更することにより、気持ちよさをアップしている。

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 更に、ひざを曲げたら太モモもボッ!と燃えるように変更された。光る+燃えるというトリガー反応を加えることにより、太モモの苦しさを視覚的に理解しやすくなった。

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 3つ目の要素がSEだ。「プルルルルル」というものから「ギュルルルゥイイン」という、派手で切れ味のある、分厚く何千回聞いても飽きない音に変更している。

 4つ目は振動。限界ギリギリまで振動を強くして、「太モモの苦しさ、わかってますよ!ここでしょ?」と伝えられるようになった。

 5つ目は、当初は無かった足の形の攻撃ビームが出るようになった点だ。

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 6つ目は運動時間・カロリーのカウントアップ。これにより、「この運動には意味がある」「ちゃんと記録している」とプレイヤーに訴えかけられるようになった。

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 7つ目が、使用している筋肉名の表示だ。いま、どこを鍛えているのかを理解できるようにして、苦しい状況でも、意味のある筋トレであることを思い出せるようになった。

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 8つめが、ひざを伸ばすとモンスターにできるだけ即座にダメージを与え、かつ1回ごとに反応があるように改良した点だ。

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 9つ目は、リングくんがスクワットのたびにボイスで応援してくれる仕様追加。

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 「OK!」「いいねー!」「輝いてるよ!」「よしよし!」「カンペキ!」「サイッコーだったよ!」などなど20種類以上のボイスが存在しており、スクワット1回だけで多彩な応援を受けられるようになった。毎回毎回言われるとうるさいのではという意見も出たそうだが、「これくらいしないと運動したくはならない」と、河本氏が押し切ったそうだ。

 10個目が、後半のペースアップ。ずっと同じペースだと飽きてしまうため、ペースを変化し飽きを防いで、なおかつ戦闘のクライマックスらしいテンションを持たせることに成功している。

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 11個目が、運動をするとキャラクターも汗をかくように仕様の変更。これは実際に汗をかいているプレイヤーの共感を誘うために行われた。

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 最後となる12番目が、ひざの曲げ具合によってダメージ、炎、音、ボイス、振動が派手になるという点。当初は特に変化を設けていなかったが、ひざを深く曲げればどんどん演出が派手になるようにし、プレイヤーが1回あたりの負荷を最大限にしたくなるように変更した。

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 これはかつて、『Wii Fit』のバランスWiiボードではちゃんと腹筋しても認識できないことがあり、ちゃんと評価されたかったという記憶から発想したと河本氏は語った。

 また、開発中にはクリティカルヒットも導入されていたが、運の要素を排除するためにオミットされている。

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 なお、40以上ある運動(バトル)の認識・評価は納得できるまでひとつひとつ手作業でカスタマイズされている。「重たい改造でした」と河本氏は語った。

キツさのコントロール

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 キツさのコントロールは、演出の変化と比べると地味ではあるが、追求すると極めて難しい問題となる。例えばプランク20回をギリギリでできる人にとって、20回をやりきったときの「やりきった感」は格別だが、少ないとやりきった感が薄れるし、多いと潰れてしまう。ちょうどいい回数だと、キツい運動も面白さに変わると考え、さまざまな設定が設けられることとなった。

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 『リングフィット アドベンチャー』では「リングコンの設定」「レッグバンドの設定」「運動負荷の数値」をアドベンチャーをプレイする初回に決める。このときリングコンをどれだけ押し込めるか・引っ張れるか。ランニング・ダッシュでどのように脚が動くかを測定し、ある程度個人に合わせた調整を可能とした。

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 しかしフィットネスそれぞれの運動の回数や、キープ時間が決まる数値、すなわち「運動負荷」については、個々の能力に差があり過ぎて「普通」を設定するのは極めて困難だ。当初はゲームの難易度のように1から5までの数値が設定されていたが、いきなり数字を聞かれても、ユーザーは自分の数字がいくつなのかを適切に判断できない。そのため、個人に合わせた適切な運動量を調整できないという大きな問題を抱えていた。

「多段階化」「アンケート」「推測」など地道な方法でキツさを調整

 そこで取られたのが、「多段階化」「手動調整」「隠す」「アンケート」「推測」という、地道な方法で運動負荷を調整する方法だった。

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 まず多段階化では運動負荷を当初の5段階から20段階に増やし、運動回数を細かく変えられるようにして個々の「ちょうどいい」に適応できる幅が広くなった。ただし実際には運動できる人の能力が高すぎたため、さらに30段階に増やしている。

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 アンケートでは、性別・年齢・能力・意欲などを調査し、ざっくりではあるがちょうどいい数値に近づける試みが行われた。しかし個々の能力差や意欲差は激しく、自己認識も「自分にとっては簡単だ(運動が苦手な人にとっては難しい)」というふうにズレがちではあった。そのうえ基準となる数値データは無いので、これを自力で作り上げるのにはかなりの労力を割くことになった。

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 手動調整では、毎回最初に「前回はいかがでしたか」と聞くようにして、楽勝だったら運動負荷を上げるよう提案し、キツかったら下げる提案をする。初回では調整しきれなかった個人個人の状態に、徐々にフィットさせていくために取り入れられた。これにより、能力や意欲に変化が生じても自然に対応できるようになるという大きな効果が得られた。

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 一回当たりのプレイ時間が長い場合は、だらだら遊んでいると推測し、運動負荷を上げるよう提案する機能も実装された。

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 こうして決定された運動負荷の数値は、メニュー階層の奥の方に隠し、「高度な設定」といういかつい名前にして、簡単に変更してはいけない数字だと思わせるように。運動負荷を変える際には警告も出すようにした。

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 これは30段階もある運動負荷を自由に設定できてしまうと、ラクしたいから1にして「つまらない」と思ったり、「俺は最強だから」と30にしてまったくできず、やはり「つまらない」と感じて止めてしまう可能性があるためだ。なお河本氏の息子さんは、これだけ深く隠しても見つけ出し、いきなり30にして止めてしまったというエピソードも明かされた。

あとは実際にやって確かめていくしかない

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 ただ、ここまで念入りに組み上げられたフィットネスや設定方法も、前例がない以上すべてが机上の空論にすぎず、プレイしながら確かめていくしかないというのが実情だった。

 そこで開発チームは徹底的にモニターを行い、膨大な時間をプレイに割くこととなる。

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 実際に体を動かすため、社内のシャワー室の使用許可をもらったが、男女1つずつしかなかったため、人待ちの列ができてしまったそうだ。また、企業フロアは床下に配線をおこなうスペースがあり振動が伝わりやすいため、一斉にプレイをしたところ、別の部署から地震が起きたと間違われたというエピソードも紹介された。

 もちろん河本氏も松永氏も毎日プレイ。全体では2000件以上のモニター意見があり、それをもとに「やる・やらない」を徹底的に精査。限られた時間の中で磨き上げた。

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 最終的に2134件のモニター意見が寄せられ、コストや実現性を考慮して1296件に対応。838件は未対応となった。

『リングフィット アドベンチャー』は汗の結晶

 こうして作り上げられた『リングフィット アドベンチャー』だが、河本氏がこの日に話したことは最初からわかっていたわけではなく、試行錯誤と調整を繰り返し、磨き上げて得られた知見だった。『リングフィット アドベンチャー』は、まさにチームメンバー全員の汗の結晶なのだ。

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 最後に河本氏は「ゲームとフィットネスは混ざらない組み合わせで、絶体絶命だった」と、膨大な労力と見直し、調整の連続だった開発の苦労を言葉ににじませた。

 しかし「やるしかないと決めて」、「こうにしかならない」と考えて、次々に実行。そしてモニターをしっかりと繰り返すことで、最後には形にすることができたのではないかと締めくくった。

 筆者の私見だが、少なくとも現時点においては『リングフィット アドベンチャー』は完全に成功しており、さまざまな年齢層に受け入れられているタイトルであることに間違いはない。筆者自身も購入してプレイしたところ肉体の変化を感じており、中年男性の救世主として新たな時代を作り上げているタイトルであると感じるところだ。

ライター
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ゲーム&アニメ&シナリオ&eスポーツライターを名乗る謎の生物。それぞれのジャンルでインタビュー・イベント取材・コラム・レビューをこなす何でも屋。

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