ゲームもエンタメもあふれるいま、『崩落の国』は約3時間という長さを選んだ
──ここからは『崩落の国』についてお聞かせください。メインストーリーのプレイ時間は初見で約3時間と、発表の時点で明かしていましたよね。
濱田氏:
はい。3時間というのは、ゲームとしてはかなり短めのボリュームだと思います。だからこそ、最初の発表の段階であえてお伝えしました。
買ってくださったお客さまに「思っていたのと違う」と感じさせてしまわないように、という思いもありました。
本体のタイトルには、やはり「何百時間でも遊べるもの」という期待をいただいていますから。少しずるい言いかたをすると、「CygamesEdgeという別ブランドだから、こういうのもアリだよね」と、受け入れていただける部分もあると思います。
──そもそも、なぜ3時間というボリュームにしたのでしょう。
濱田氏:
先ほどもお話ししたように、いまはSteamだけでも膨大な数のタイトルが出ていますし、ゲーム以外のエンタメも、昔とは比べものにならないくらいあふれていますよね。
僕自身、ファミコンのころから数えきれないほどのゲームを遊んできました。でも、アラフィフにもなったいまでは家庭もありますし、映画やドラマも大好きなので、ゲームが仕事とはいえ、遊ぶ時間を作るのはなかなか難しいんです。
そうなると、100時間かかるような大作には、なかなか手が伸びにくくなってしまって。興味はあっても、最初の数時間遊んだところで、どこか満足してしまうんです。そこで一度手が止まると「まあ、いいか」となって、よほど好きなタイトル以外は、エンディングまでたどり着かないことが増えてきました。
──いやあ……すごくわかります。
濱田氏:
でも、最初から「3時間で終わります」とわかっていれば、週末の半日ほどで、エンディングまでしっかり見届けられますよね。
それも、ただ短いだけではなく、起承転結のあるゲーム体験として「おもしろかった」と満足できる。いまは、そういう遊びかたを求めているお客さまも、けっこういらっしゃるのではないかと思うんです。それが、今回の作品を3時間にした大きな理由のひとつです。
『崩落の国』の尖りは、お腹の下が「ひゅっ」となる感覚を持続させること
──では、第1弾タイトル『崩落の国』の「尖り」はどこにあるのでしょう。
濱田氏:
「地表を目指して降りていく」という体験ですね。実際に遊んでみると、落下の緊張感のなかで着地点を見極めることになる。判断自体はシンプルですが、とても奥が深いんです。ゼレオさんともさまざまな議論を重ねて、このアクションを作り上げました。
では、降りていくうえで一番大事なのはなにか。落下したときに、お腹の下あたりが「ひゅっ」となるような、ぞぞっとする感覚があるじゃないですか。あの感覚をいかに持続させられるかが肝だと考えていました。
──高いところから下をのぞき込んだときや、ジェットコースターで落ちるときの、あの感覚ですね。
濱田氏:
そうですね。ただ、初見では感じられても、毎日のようにテストプレイをしているとすぐに慣れてしまって、あまり怖さを感じなくなるんです。
それで「これ、ちょっとイマイチじゃない?」という話になり、どうすればあの感覚を持続できるのか、現場でかなり協議しました。
──協議の結果、どういう結論に至ったのでしょう。
濱田氏:
あえて操作性を「少し生身っぽくする」。それが我々のたどり着いた結論でした。
──生身っぽく、というのは?
濱田氏:
ゲームのキャラクターのように思いどおりに動けるのではなく、人間の体のように、すぐには止まれない重さを持たせるということですね。
というのも、もともとゼレオさんのスタッフはアクションゲームが得意だったので、プロトタイプの時点では、すごく手触りがよく、小気味いいアクションになっていたんです。キュッと方向転換できるし、ブレーキもすぐにかかる。
でも、その操作感だと難易度が下がって、細い足場もサクサク進めてしまうので、恐怖感が出なかったんです。
──操作が快適すぎたわけですね。
濱田氏:
ある意味では、そうかもしれません。そこでゼレオさんに数値やパラメーターを調整してもらい、あえて少しもっさりした操作感にしました。
そうした制限を入れたことで、足場の配置などのレベルデザインがすごく活きてきたんです。同じマップなのに、「うわ、怖っ」「落ちそう」と感じられるようになった。このもっさりした操作感と足場の配置の組みあわせが、この作品のコアメカニクス(遊びの核)になっています。
『崩落の国』の原案者は、社内でも指折りのレベルデザイナー。原案者と開発チームが激論を交わして作る
──小・中規模の開発は、大規模なプロジェクトとは違って、少人数で密にやりとりをすることになります。そのぶん、どの開発会社さんと組み、どんな関係を築けるかが大事になりそうですね。
濱田氏:
まさにそうですね。実際、ゼレオさんとは以前別のプロジェクトでもご一緒していて、コミュニケーションの土台ができていたんです。お互いのスキル感もわかっていたので、『崩落の国』の企画が立ち上がったとき、真っ先にお声がけして相談しました。
とはいえ、パブリッシャー側のプロデューサーの意見って、どうしても立場上強くなってしまいますよね。僕もそれは自覚しているので、すべてを自分の言うとおりにさせないよう心がけてはいるのですが……それでも、開発会社さんに遠慮されることは多いと思います。
──ああ……受注する開発会社さんからすると、発注元の意見に異を唱えるのはなかなか難しいですよね。
濱田氏:
おっしゃるとおりです。でもゼレオさんのスタッフのみなさんは、こちらの意見をそのまま受け入れるのではなく、自分たちの考えをしっかりぶつけてきてくれるんです。
議論の場になると、「これ、よくないと思います」と素直な意見を言ってくれる。お互いに作品をよくしようとしてのぶつかりあいなので、悪い気はしませんし、結果としていつもいい形に落とし込めています。
──素敵な環境ですね。社内の方とも、やりとりは多いんですか。
濱田氏:
そうですね。『崩落の国』の原案者も社内のスタッフなので、彼とはよくやりとりしています。
もともと『崩落の国』は、先ほどお話しした社内ゲームコンテストから生まれた作品で、チームを組んで参加する人が多いなか、彼はたったひとりで作っていました。
──その原案者の方は、どんな方なのでしょう。
濱田氏:
本職はレベルデザイナーです。
Unreal Engineでレベル(ステージ)を作ることにとても長けていて、レベルデザインの能力は社内でも指折り。なにより、作業が速いんです。
──コンテストの段階では、どこまで形になっていたのでしょう。
濱田氏:
すでに『崩落の国』というタイトルも決まっていましたし、グレーマン(仮のモデル)で作ったシンプルなものではありましたが、いまの原型がありました。
何本か企画を見たなかで、僕は真っ先に「これが一番いい、これをやりましょう」と推しました。それで、いざ彼と会って話してみたら、「10年ほど温めてきた」という熱い思いを持っていたんです。
──10年越しの企画となると、相当な思い入れがありそうですね。
濱田氏:
ええ。最初に話したとき「これは世界観です」「これはキャラクター設定です」とまとめたバインダーを、3冊くらい渡されたんです。それを見て「なるほど、これは本気だな」と。
中身を読み込んでみると、当初の企画は、クリアまで15時間くらいかかりそうな、ボリュームもスケールも壮大なものでした。やりたいことはわかるけれど、我々が想定している予算内には収まらない。
そこで、彼が一番やりたいコアの部分はどこなのか、絶対に譲れない部分はどこなのかを考えました。コアを保ったままなら、うまくシュリンク(縮小)できるんじゃないか。そこを押さえつつ、ひとつのプロダクトとしてどうまとめるかを最初にかなり議論して、いまの形になりました。
──小さく素早く作っていく「CygamesEdge」のやりかたとも、相性がよさそうですね。
濱田氏:
そうですね。コアを見極めて絞り込む考えかたも、彼の作業の速さも、「CygamesEdge」の求めるスピード感にピタリとあうんです。いまは原案者であると同時に、クリエイティブディレクターも務めています。
自らの手でレベルを作りながら、世界観をはじめとする「自分が表現したい部分」の監修もすべて担っていて、本当に朝から晩まで、休憩時間も惜しんで取り組んでいます。
彼は普段は物静かなタイプなんですが、自分の企画となると「ここは譲れない」という思いがすごく強い。だから、現場の開発チームともけっこう激論を交わしながら作っていますね。
「CygamesEdge」のこれから。社外の開発会社やクリエイターとも組んでいく
──サイゲームスはこれまで、BitSummitやINDIE Live Expoなど、数々のインディーゲームイベントに協賛してきました。こうした取り組みは、今回の「CygamesEdge」設立にもつながっているのでしょうか。
濱田氏:
イベントへの協賛そのものが、設立の直接的なきっかけというわけではありません。ただ、根底にある思いには共通する部分があると思っています。
新しいアイデアや意欲的な作品が生まれ、プレイヤーのみなさんに届くためには、作品を作る環境だけでなく、発表したり交流したりする「場」も必要です。とくにインディーコミュニティにとって、そうした場はとても重要だと考えています。
そして、「CygamesEdge」はインディーを名乗るわけではありませんが、コミュニティのなかでの立ち位置としては、どちらかというとインディーの方々に近いところにいることになります。だからこそ、コミュニティとの交流を深め、新しい才能や作品に出会う機会を大切にしていきたいですね。
──サイゲームスとしてこれまで協賛してきたイベントに、今後は「CygamesEdge」としてどう関わっていくのでしょうか。
濱田氏:
「CygamesEdge」のチームには、リエゾン・オフィサー(連絡・調整役)を務めている者がおりまして、これまでサイゲームスとして行ってきたINDIE Live ExpoやBitSummitへの協賛も、彼が取り仕切ってきました。
ただ、これまでは「協賛金は出すものの、イベントにあう出展タイトルが自社にない」ということも、けっこうあったんです。
──たしかに……。サイゲームスさんのタイトルは、大規模なものが中心ですもんね。
濱田氏:
そうなんです。ただ、『ハチャウマ』 はドット絵のインディーライクな作品だったので、2023年のBitSummitでは、スポンサー枠をうまく活用できたこともありました。
これからもさまざまなイベントに協賛していく予定なので、今後はスポンサー枠を活用して、「CygamesEdge」のタイトルをみなさんに知っていただく機会につなげていきたいですね。
現在開催中のOSAKA INDIE GAMES SUMMIT 2026では『#崩落の国』を出展しております⚡️
— CygamesEdge (@CygamesEdge) October 3, 2026
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──今回の『崩落の国』は、開発会社のゼレオさんとの共同開発タイトルです。今後も、外部の開発パートナーと積極的に組んでいくのでしょうか。
濱田氏:
基本的には、サイゲームスで企画した作品を、初期段階から一緒に作っていく「共同開発」の形をベースにしたいと考えています。ケースによっては、完成に近いタイトルをお預かりして、パブリッシングだけを行うこともあるかもしれません。
パートナー選びで、規模や開発段階以上に重視しているのは、明確なアイデアや専門性があること。そして、限られた予算や期間のなかでも、作品のコアとなるおもしろさを一緒に突き詰められることです。国内外は問いませんし、チームでも個人のクリエイターでも構いません。
今回のゼレオさんのように、自分たちの意見をしっかり主張しつつも、対立するのではなく「一緒に出口を探してくれる」。そんなパートナーの方々と、今後もぜひご一緒していきたいですね。
──そうした優秀なクリエイターは、社内にもたくさんいるのではないかと思います。新ブランドに向けて、社内での声がけや公募などは行っているのでしょうか。
濱田氏:
いまのところ、社内で公式にそうした動きはしていません。というのも、「CygamesEdge」と『崩落の国』が発表されるまで、このプロジェクトを知っていたのは、社内でもごく一部の人間だけだったんです。
ただ、発表後は「CygamesEdgeってなんだろう」と興味を持って、僕や、僕の上長に「どうしたらこの新ブランドに関われるんですか?」と聞いてくる社員が、けっこういました。
そうした社内のクリエイターにとっても、「CygamesEdge」が新しいことに挑戦できる場になっていけばうれしいですね。

ブランドが掲げる「Stay on the edge.(尖り続けろ。)」。
濱田氏によれば、ここでいう「尖る」は単に奇抜であることとは少し違う。作品が一番届けたいおもしろさをはっきりさせて、そこを徹底的に磨く。万人受けしなくても、狙った人の心に深く残れば、それは十分に尖った作品だという。
この言葉には、尖ったものを一度作って終わりにしないという姿勢も込められている。市場やプレイヤーの価値観は変わっていく。その変化と向きあいながら、新しい体験を探し続けるということなのだろう。
尖ったものを1本作るだけなら、勢いでもできるかもしれない。けれど、年に2~3本を目標に、それを何年も続けるとなると話は別だ。
「尖り続けろ。」は、作り手自身に向けた言葉でもあるのだろう。尖り続けた先に、どんな作品が並んでいくのか。これからを楽しみに待ちたい。




