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『アビス』は、ひとつの奇跡だった──膨大な開発資料とともに『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣に聞く、「生まれた意味を知るRPG」が生まれた理由【ゲームの企画書】

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「いつか歌を基軸に展開していくゲームが作りたい」と樋口さんが僕に話してくれました。その時の彼はいわゆる少年の目をしていました。そして彼は「しかし実現は難しい。半ば諦めている」と続けました。

そんなもったいない話は無い、と思いました。

あのキラキラの目だけを材料に、曲は書けます。

SONG FOR TALES OF THE ABYSS
「譜歌 ~song by Tear~」
藤原基央

『テイルズ オブ ジ アビス』は、奇跡だった──

インタビューを通して語られたこの言葉が、ものすごく印象に残っている。

本作は2005年に発売された『テイルズ オブ』シリーズの10周年記念作品であり、ちょうど発売から20年が経ったいまも、多くのファンに愛されている。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_001

人間臭いキャラクターたち、「命」を追及した鮮烈なストーリー、オープニングの「カルマ」の存在感……そんな数々の要素が重なって、シリーズ内でも異様な存在感を放っているタイトルでもある。

『テイルズ オブ ジ アビス』の異様な密度は、この存在感は……果たしてどのように作られたのだろう? そう思ったところから、このインタビューを企画した。しかし実際に聞いてみたところ、なんかもう……いろいろな意味で「奇跡」としか言いようのない開発秘話が出てきてしまった。

コンセプト、ストーリー、キャラクター、音楽──そのすべてが、『アビス』の開発では最初から計算したかのようにハマっていった。らしい。ひとつひとつの小さなピースが上手くハマって、『アビス』という大きな奇跡になった。

そんな20年越しの開発秘話を語ってくださるのは、今作のチーフディレクターを務めた樋口義人氏、メインシナリオライターを務めた実弥島巧氏、ダンジョンプランニング&マップコンセプトデザインを務めた穴吹健児氏のお三方。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_002
左から、樋口氏、実弥島氏、穴吹氏。

ディレクターとしての樋口氏、シナリオライターとして作品の中核を作り上げていった実弥島氏、当時若手として『アビス』の開発を経験した穴吹氏のお三方の視点から、20年前の開発を振り返っていただいた。

そして、「ゲームの企画書」史上最多かもしれない膨大な開発資料とともに、『テイルズ オブ ジ アビス』という名の「奇跡」に迫っていく。

当時プレイして、心を掴まれた方も、いろんな意味で心がメチャクチャになった人も……20年越しのこのインタビューに、ぜひ十字架を立ててください。

聞き手/ジスマロックTAITAI川野優希
文/ジスマロック
編集/実存
撮影/松本祐亮


最初の企画書って、「テイルズ オブ シンフォニア2」?

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_007

──いや、すごい数の資料ですね。本当にありがとうございます。今回は発売20周年を迎えた『テイルズ オブ ジ アビス』について、いろいろとお聞きできればと思うのですが、この「テイルズ オブ シンフォニア2(仮)」と書かれているものが最初の企画書なのでしょうか?

樋口義人氏(以下、樋口氏):
そうだと思います。
現存しているなかでは、たぶん一番古い資料かなと。

実弥島巧氏(以下、実弥島氏):
私は参加したのが一番遅いから、この資料は知らないですね。
でも、2003年ということは、『テイルズ オブ シンフォニア』【※】と並行して動いてましたよね?

※「テイルズ オブ シンフォニア」
2003年にナムコから発売された、ニンテンドーゲームキューブ用のRPG。のちに、PS2などの各ハードに移植されている。衝撃的な展開のストーリーや、キャラクターの「好感度」が搭載されたシステムなどを含め、いまもなお根強い人気を誇るタイトル。

穴吹健児氏(以下、穴吹氏):
実際『シンフォニア』のあとに作り始めたから、「シンフォニア2(仮)」と書いているんだと思います。余談ですが、『シンフォニア』を開発しているときは「ファンタジア2」と呼ばれていました。

樋口氏:
チームも、コアメンバーはほぼ『シンフォニア』からスライドする形だったんですよね。

もしかしたら、いまでもシリーズもののタイトルはそうなのかもしれないのですが、当時の「テイルズ オブ」は基本的に「次のタイトル」がある前提で動くことが多かったんです。そして、このときはナムコテイルズスタジオ(以下、テイルズスタジオ)が開発を行っていて、開発のラインがふたつありました。

おおまかには『テイルズ オブ デスティニー2』を作っていたラインと、そのあとに『シンフォニア』を作ったラインに分かれていて、後者のラインが「次は何を作る?」というタイミングになった段階で、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)側から企画の依頼がやってきます。

そこで、テイルズスタジオの企画担当の人たちが「こういうタイトルはどうか」と出したものが、この企画書になりますね。

──つまりこれは、本当に初期の内部向け資料ということでしょうか?

樋口氏:
そうですね。一番最初に、ナムコ側が「これを作りましょう」と決めるための企画書になります。外には一切出ることがない資料だと思います。

だから、この企画書から実際の『アビス』でその通りになっている仕様と、なっていないものが多々あって……(笑)。

穴吹氏:
「洗練されたグラフィック」とかも書いてますよ。

樋口氏:
逆に、そのぐらいしか書かれてないですよね。ここから、実際に中身を作っていくタイミングで、開発メンバーが増えていったりします。

だから、当時は「プロジェクト化するのが先」みたいな空気があったんです。
まずやることを先に決めて、そこに具体的な中身を詰めていくから、どうしてもスケジュールがタイトになったりするんですよね。

穴吹氏:
この時期って、並行してPS2版の『シンフォニア』を作ってませんでした?

樋口氏:
あと、海外版の『シンフォニア』も作っていたし……一応そこと『アビス』の開発チームはわかれていたけど、兼務している人も多々いましたね。結構カオスな状況だったのは覚えています。

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──では、実弥島さんは開発当初から参加されていなかったのでしょうか?

実弥島氏:
私は、割と最後に参加していて……「シナリオ担当が最後に参加する」というのも珍しいと思うのですが、開発側で「お話の方向性を変えよう」ということになり、そこで私が参加することになったんです。

だから、ゲームは一旦「作りかけ」の状態だったんですよね。
そこでお話の方向性を変えることになって、タウンやダンジョンの数は全部確定していたから、「それを活かして、全部回る形で書いてくれればあとは何でもいい」とだけ言われていて(笑)。

一同:
(笑)。

実弥島氏:
もう、本当にそれしかオーダーがなかったんです。
作りかけのものを活かしつつ、シナリオの方向性を変えて、ゼロから作り直す形でした。

樋口氏:
そうでしたね……実は、実弥島さんが入る前に書いていたシナリオが4つくらいあったんですが、それがあんまりうまくいかなくて、かなり難航していたんです。そこで、実弥島さんに入ってもらった形でした。

実弥島氏:
オーダーしてくれた方からは、「『シンフォニア』のときにあれこれ指定したから、今回は好きに書いていいよ」と言われていたんです。私としては、『シンフォニア』も割と好きに書かせてもらえたと思っていたのですが!

そこで2004年の3月くらいに呼ばれて、4月末にはほぼFIXさせていました。

樋口氏:
プロットとシノプシス(あらすじ)はできあがっていましたよね。

実弥島氏:
いや、完成してましたよ?

「時間がないから、とにかく早く!」と言われて、4月末で完成稿を出していました。しかも、「時間がない」と言われていたのに、いざシナリオの制作に移ろうと思ったら、「ナムコ側で誰がプロデューサーになるか確定していないから、ちょっと待ってて」と言われたんです。

そこが確定するまでシナリオに手をつけちゃいけないから、それまで年表を書いたり、設定などを埋める作業を7月くらいまでずっと続けていました(笑)。

穴吹氏:
たしか、そのへんの資料もあるかもしれないですね。

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実弥島氏が書かれていたという世界観設定のテキスト。2004年の4月に書かれている。実際の設定とちょっと名前が違うところもあったり……?

実弥島氏:
ほら、2004年4月13日って書いてあるじゃないですか!

樋口氏:
ホントだ!

実弥島氏:
「4月末にFIXした」ということは、すごく覚えているんです。
辛かったから!

一同:
(笑)。

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「みんな滅びてしまえ!」実は、1ヶ月半で完成していたシナリオ

──ちなみに、「実弥島さんが入る前のシナリオが難航していた」というのは、具体的にはどういう状況だったのでしょうか?

樋口氏:
あまり正確には覚えていないのですが、「フック」とか「尖り」みたいなものが、どうしても出てこなかったのだと思います。ゲーム側の都合を重視する傾向もあったので、そこに対するシナリオの面白さも足りていなかった。

あとは、やっぱり『シンフォニア』の話が強烈だったので、次はその衝撃を超えなくちゃいけないじゃないですか。そこを含めて、難航していましたね。

穴吹氏:
僕は、『アビス』の初稿が出てきたときは、衝撃を受けたのを覚えていました。
実際にチーム内でも一発で決まったし、実弥島さんに対して「あ、この人って天才だったんだ」と(笑)。

自分が『シンフォニア』に入ったころにはシナリオがある程度完成していたから、実弥島さんの凄さをよくわかってなかったのですが、『アビス』の開発が難航しているなかで現れて、イチからすごいのを書いていくところを見て……本当に「実弥島さんって天才だったんだ」と思いましたよ。

──その初稿は、どのくらいの文量だったのでしょうか?

実弥島氏:
A4で言ったら、4~5枚くらいだったと思います。

──開発チームとしても、そこでもうバチっとくる感じでしたか?

樋口氏:
いやあ……もう、バチっときましたよ!

ただ、やっぱり「賛否両論なもの」が上がってきてはいました。
でも、いまだから言えるのですが、「賛否両論がないもの」の方がよくないと思うんです。「否」の部分も刺さっているから、それが「否」になっているわけで。

そこが当時の開発チームのなかでも、最後まで物議を醸し続けてはいました。
ただ、そのくらいの「尖り」が、プロットの段階で出ているんです。普通は「アッシュとルークって主人公が逆じゃない?」と思うところも、そういう反応も狙って書かれている。それがもう、実弥島さんが天才であるゆえんですよね。

実弥島氏:
いままで仕事をしてきて、こんなに天才って言われたことないですよ。
うれしい! たまには褒めてほしい!

一同:
(笑)。

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こちらが、開発当時に実弥島氏が書かれたという初稿(シノプシス)。この段階でストーリーの大まかな流れがほぼ書かれている。

──では、本当にキャラクターや世界観の設定なども、1ヶ月くらいで完成されたんですね。

実弥島氏:
本当に1ヶ月半で作っていましたね。

単純に「スケジュールがないから、1ヶ月半で決めて」と言われていたこともありましたが、おそらく世界観の設定とプロットの初稿は、ほぼ同時に4月13日に出していると思います。

──ちょっと信じられないくらいのお話ですね。あれほど重厚な『アビス』のストーリーが、ほぼ1ヶ月で作られたとは思えません。

実弥島氏:
まあ、このときは『シンフォニア』の開発のあとで、ちょっと疲れていたので……なんだかんだ言って、『シンフォニア』の開発スケジュールもやっぱりキツかったじゃないですか。

で、呼ばれて来てみたら、『シンフォニア』よりもっと厳しいスケジュールで「書いて」と言われて……「みんな滅びればいいのに」と思いながら1ヶ月半書いていました。

樋口氏:
もう『イデオン』じゃないですか!

実弥島氏:
ホントそうですよ。
『イデオン』とか『ザンボット3』よろしく、「人類は悪だ!滅びてしまえー!!」みたいな気持ちで書きました(笑)。

樋口氏:
プロットに、それが全部出てますよね。

ただ、このへんを語るときに絶対忘れちゃいけないのが、テイルズスタジオ側のリードプランナーとして参加していた、長谷川崇さん【※】ですよね。もともと長谷川さんはシナリオの専門家ではないのですが、キャラの設定や物語に対して、ものすごく知見やこだわりを持っていたんです。

その長谷川さんと喧々諤々しながらシナリオを書かれていた印象があります。

※「長谷川崇(はせがわ たかし)」
バンダイナムコスタジオに所属していた、ゲームデザイナー。『テイルズ オブ ヴェスペリア』『テイルズ オブ ゼスティリア』ではシナリオを担当。『テイルズ オブ ジ アビス』では、プランニングリードとして参加。

実弥島氏:
私が『アビス』に参加するときに、「好きに書いていいよ」と言ってくださったのが、長谷川さんなんですよね。むしろ長谷川さんとは『シンフォニア』で喧々諤々としていたから、『アビス』では好きにやらせてくれて……本当に自由にやらせてもらったから、こんなことになったんですけど(笑)。

樋口氏:
まあ、『シンフォニア』で信頼もできていたんだと思います。
チーム内で賛否両論が起きていたときを含め、長谷川さんの存在は忘れちゃいけないですよね。なくてはならない人です。

穴吹氏:
ちなみに、長谷川さんは僕のお師匠さんでもあります。

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──やはり『アビス』のストーリーは、賛否両論を避けられない内容だったと思うんです。ただ、これが最初から全体の開発コンセプトやテーマとして決められていたのではなく、実弥島さんが好きに書かれた結果として生まれているということなんですよね。

樋口氏:
当時は、いわゆる「開発コンセプト」のような筋が通った柱を立てて作るよりかは、クリエイターの個性を押し出していくことによって、パッケージができあがっていくような作り方が強かった時代だったと思うんです。『アビス』も、その結果としてこうなっていると思います。

逆に、いまその作り方をしようとすると、なかなか大変なことになるというか……これができたのは、PS2の時代くらいがギリギリなのかな? 開発にもそこまで時間がかからないし、チームも何百人とかじゃない。だから、人の思いがコミュニケーションのなかで浸透しやすかったんですよね。

そのころだったから、できた作り方なんじゃないか……と、振り返ると思ったりはします。

実弥島氏:
まだ、いろいろコンパクトに作れた時代でしたよね。

たしかに、『アビス』のストーリーはいろいろとチーム内で賛否両論もあって……プロットの初稿を出したときに、開発のみなさんから「これはアッシュを主人公にして、アッシュの目線で遊んでいくのがスタンダードじゃないの?」と、結構言われたんです。

ただ、私はレプリカのルークが主人公であることに、全然違和感がなかったんですよね。

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藤島氏が描かれたアッシュのキャラクターラフ。

実弥島氏:
アッシュを主人公にすると、ゲームシナリオとして「子どもの頃はこんな思いがあり、国を捨ててヴァンについていき……」という、ユーザーに共有していないアッシュの情報を体験させるために、ものすごく労力がかかったり、長い前置きが必要になると思うんです。

でも、レプリカのルークを主人公にして、「7歳以前の情報がない」ことにしてしまえば、そこの部分をカットできるんですよね。だから、どちらかというと、レプリカの設定どういうというより、共有するべき情報をカットすることで、ユーザーさんがよりルークに感情移入しやすいように作っているんです。

だから、「主人公は逆じゃない?」と言われたときは、むしろ「こっちの方がゲームとしては楽じゃない?」と思っていました。

樋口氏:
……いまは穏やかな口調で話してますけど、当時の実弥島さんは激しかったですよ~?

一同:
(笑)。

樋口氏:
まあ、お互いの若さもあったかもしれないけど……結構ストレートな言葉でそう言われたのを覚えています。でも、最終的には納得して、いまと全く同じ内容で作っていくことになりました。

僕はどちらかというと、このプロットを持ってナムコを説得する側に回るんですよね。ミイラ取りがミイラになりました。ただ、社内でも「これで最後までやります」と決めてはいましたね。

実弥島氏:
ありがとうございます(笑)。

結果として、そう設定したからには「レプリカの物語」として作るけど、最初の出だしは設定やテーマがどうこうというより、「とにかくユーザーさんが自分を重ねやすくする」ことでした。

当時の『テイルズ オブ』シリーズのプレイヤー層がだいたい中高生のファン層だったから、その子たちがどんなものが好きかと考えたときに、やっぱり「ジュブナイル」的なものが好きだろうなと。そこからジュブナイル向きのテーマとして、「自分探し」を選んだんです。

自分探しをするなら、自分がある人よりもない人の方がいいし、ない人の方が重ねやすい。テーマとしてこの物語を書くというよりかは、「どういう設定をつけていったら、ユーザーさんが自分を重ねてくれるかな」「ルークの気持ちになってくれるかな」と考えて、書いていったような記憶があります。

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貴重なラフ画と振り返る、『アビス』のキャラ作り

樋口氏:
たしか、プロデューサーの吉積(信)【※】がやたらと『池袋ウエストゲートパーク』の話をしていた時期があって、開発当時も「こういう主人公がいるんだよ」と言ってたような……結果的にルークがそういう方向に染まったわけじゃないんだけど、吉積もそういうことが言いたかったんだろうなと。

※「吉積信(よしづみ まこと)」
バンダイナムコセブンズに所属している、プロデューサー。過去に『テイルズ オブ』シリーズのプロデューサーを務めていた。SFC版の『テイルズ オブ ファンタジア』からシリーズに携わっており、『アビス』を含めた多くのタイトルでプロデューサーを務めた。

実弥島氏:
だから、実際のルークはカラーギャングというか、渋谷の「チーマー」的な設定になったというか……こちらとしても「そういう主人公がいいです」と話していました。そこが、吉積さんのイメージ的にも上手くマッチングしたんでしょうね。

いまで言うと、「マイルドヤンキー」とかになるんですかね?

──ちょっとチャラい感じですよね。

樋口氏:
まさに「帰属意識」とか「仲間感」って、そういうところで醸成されますよね。

実弥島氏:
実際、ルークの設定に「モデルは渋谷のチーマー」と書いたような気がするんですよね。そこをモデルに、ルークの背中にあるマークなどが追加されていったのだと思います。

そういう感じで、ルークの衣装も貴族じゃなくて、ファンタジー世界におけるチーマーをイメージしてもらいながら藤島先生にも描いてもらったのだと思います。普通の貴族とは違う、ルークのちょっと外れたものがそこに出てるのかなと。

──だから、ルークはお腹が出てるんですね。

実弥島氏:
たぶん、そうだと思います。

……いや、そうかな?
チーマーお腹出してたかな?(笑)

樋口氏:
藤島先生のなかでは、これがファンタジー世界のチーマーなのかもしれないですよね。

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(画像はテイルズチャンネル+より)

──キャラクターのラフ画も何点かいただいていますが、キャラデザ周りでの藤島先生とのやり取りのなかで、なにか印象に残っていることなどはありますか?

実弥島氏:
藤島さんのデザインは、上がってくるたびにチーム内でも「うおお、こうだよね!」と盛り上がっていたのですが……ジェイドだけは、ちょっとイメージと違ったんです。

最初に上がってきたのは、現在のデザインよりも、もう少し若さがあるような短髪のジェイドだったんですよね。ただ、私としてはもう少し歳をとった感じで、ちょっと取っつきにくそうなイメージを出してほしかったんです。

それをナムコさんにお伝えしたら、「ちょっと藤島さんにNGは出しづらい」といった話になり、また議論が起きて……。

樋口氏:
そうだ、実弥島さん怒ってましたね(笑)。

実弥島氏:
本当に「いや!ジェイドはこうじゃないと成り立たないんです!」と熱弁したのですが、ちょっと私も大人げない態度を取ってしまって……あのあと、みなさんに謝ったんですよね。

もちろんナムコの方も私の意図はわかってくださっていたんですが、やっぱり藤島先生はお忙しい方なので、そこにリテイクを出すのはどうなんだと。でも、私としてはもうちょっと違うイメージにしたくて……会議室で暴言の応酬が……。

樋口氏:
ほかにもいろいろと議論はあったんですが、このジェイドの件は強烈だった覚えがあります。

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実弥島氏:
本当に、ワガママを言ってご迷惑をおかけしてしまったんですけど……結果として、藤島先生もすばらしいデザインを上げてくださいました。「やっぱりプロの方はすごいな」と、改めて思いましたね。

樋口氏:
実際、このジェイドの件を伝えたときも、藤島さんは快くお受けしてくださったんですよね。そのときに、「藤島さん相手だとしても、やっぱり言わなきゃいけないことは言うべきなんだろうな」と学んだんですよね。

……という経験もあって、『ヴェスペリア』のときは藤島さんといろいろと相談しながら作り上げていくことができましたね。

実弥島氏:
藤島先生はすごく優しい方なんです。ただ『アビス』を作っていたときはまだ一度しか直接お会いしたことがなくて、間合いもよくわかっていなかったので、余計に「本当に言っていいのかな?」と思いながら……でも、言わなきゃイカンと思ったんですよね。

──キャラクター制作としては、実弥島さんが作られた設定などを、藤島先生にお渡しするような流れで作られていたのでしょうか?

樋口氏:
そうですね。
そこに、ゲーム的な要件が追加される場合もあります。

あと、逆に先生側から提案があるときもあったりして……そのへんを全部混ぜてもらう形で、一度デザインしてもらっています。だから、一回じゃ終わらないことが多くて、何回かやり取りを重ねていきますね。

実弥島氏:
いろいろ要件が混ざっているのですが、結果としていつもかっこいいデザインが上がってくるんですよね。それこそ『シンフォニア』のころに、当時のFAXからクラトスの初稿が出てきたときは、みんなで「うおお、かっけえ──!!」と騒いでいました(笑)。

文字でしか書いていなかったものが、説得力を持ってデザインとして出てくるから、本当にすごいなと。毎回すばらしいものを書いてくださいます。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_019
ここから触れる、ティアのラフ画。

実弥島氏:
あと、私が好きなのは、細かい武器のギミックまで描いてくださったりするところですね。

たとえば、ティアの場合、「武器はナイフです」「それでルークが髪を切ります」といったゲーム要件はお伝えしているのですが、ナイフの形やスリットを入れる場所なんかは当然指示しているわけがないので……これが来たときには「天才だ!」と思いました(笑)。

樋口氏:
まさに、「ティアだ!」と思いましたね。

穴吹氏:
藤島先生が描いてくださった武器を、ゲーム内でどういう扱いにするかも毎回悩むところですよね。初期武器にするのか、それとも強い武器にするのか……それこそ『ヴェスペリア』のユーリの場合は、「ニバンボシ」をいい武器にしましたね。

──キャラクターデザイン時に、藤島先生と直接打ち合わせなどはされるのでしょうか?

樋口氏:
打ち合わせはしますね。
そこでご質問を受けたりもします。

実弥島氏:
ちゃんと設定を読み込んだうえで、きちんと指摘をしてくださいます。
アニスの設定なんかも、「導師守護役(フォンマスターガーディアン)は、彼女だけ女の子なんですか?」「どういう編成なんですか?」といったことを聞いてくださって、それをデザインに反映してくださるんですよね。

そこは設定に書いていなかったから、私としても口頭で細かくお伝えするような感じで進めていきました。

樋口氏:
「ルークの髪のグラデーションは、なぜこうなってるんですか?」みたいな話もしましたよね。

──お聞きしてみたかったのですが、ルークのラフ画に書かれている「ルークは赤から白っぽい色へのグラデ、逆にアッシュは赤から黒っぽい色へ変化します。名前の意味合いもあるのですが……」というコメントは、どういった意味なのでしょう?

実弥島氏:
たしか、当時はまだルークとアッシュは仮名のままだったんですよね。ルークが「ヴァイス」、アッシュが「シュヴァルツ」で、ドイツ語の「白と黒」から取っていました。そこを汲み取ってくださったのだと思います。

私は名前を決めるのが苦手で……『アビス』は、全部「色」から仮名をつけていたんですよね。

樋口氏:
「カーマイン」という仮名のキャラもいましたよね?
誰でしたっけ?

実弥島氏:
カーマインはガイですね。
ジェイドは、そのまま翡翠色の「ジェイド」から取ってます。

とりあえず、最初のあらすじでは「主人公が~」「ヒロインが~」と仮のままで書いていくのですが、段々「ヒロインのお兄さんが~」「ヒロインのお兄さんの部下が~」と、形容詞が長くなっていくんですよね。これはそろそろ名前を決めなきゃダメだと(笑)。

そこで一旦仮名を入れて、いろいろ固まったころに本格的な命名会議を開いてもらい、みなさんに命名をお願いしていました。

穴吹氏:
当時「ヴァイス」という仮名がついていたころに、ルークのモデルじゃない別のキャラクターがいましたよね?

樋口氏:
あ、それは検証用で作ったやつかな?

たぶん、最初の企画書用にモデルを作って、その名前をあとで「ヴァイス」に変えて、最終的にルークになっていったような……だから、「ヴァイス」ですらない最初のモデルがあったんですよね。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
Twitter:@ougaan21
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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