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『アビス』は、ひとつの奇跡だった──膨大な開発資料とともに『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣に聞く、「生まれた意味を知るRPG」が生まれた理由【ゲームの企画書】

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勃発、アクゼリュスがツラすぎて進めない問題

──『アビス』は「プレイヤーがルークに感情移入する」ことを重視して作られているとは感じていたのですが、ここまで徹底的に「主人公に入りこむ」ことを前提にしているのがすごいと思うんです。本当にルークのことが嫌いになってしまったら、ゲームとして成立しないくらいの作り方ですよね。

実弥島氏:
プロットの段階では、ルークはもっとイヤなやつだったんです。

でも、そこまでやってしまうと、ユーザーさんがルークを好きになれなくてゲームを投げてしまう可能性もある。だから、「好きになってもらえるけど、イヤなやつ」というギリギリのラインをみんなで探していたんです。

「ここまでならOKじゃない?」「これはちょっと好きになれない」といったギリギリのラインをみんなで探していった結果として、それがルークの造形になりました。

その最たるものが、アクゼリュス崩落のイベントですね。
ストーリーを逆算して考えていくなかで、一度ルークがいままで生きてきた自分を折らなきゃいけない……つまり、折れるだけのショックな出来事が起きなきゃいけないんです。

そして、「いまの若い子たちがショックなことってなんだろう?」と考えたら、やっぱり「仲間や友だちがいなくなる」「ひとりになる」といったことがツラいだろうなと思ったんです。さっき樋口さんも「帰属意識」とおっしゃっていましたけど……

樋口氏:
まさに、帰る場所がなくなりますからね。

実弥島氏:
それをやらないと、ルークはその先に行けないですからね。

周りのキャラクターだってなんの意味もなく、急に「お前は嫌い」とは思わないから、そこの下地としてイヤなやつじゃないといけない。でも、イヤなやつすぎると……という、そこのせめぎ合いで、ルークはこういうキャラになっていったんです。

穴吹氏:
当時、「ツラすぎて、プレイヤーが投げ出さないか」みたいな議論はかなりしましたよね。

樋口氏:
結局、その議論は最後まで永遠にやり続けましたね。

実弥島氏:
やっぱり、私はシナリオを書いている側だから、どうしても「俯瞰」で見てしまうんです。だから、私自身は「ルークの気持ちに入りこむ」ことはないというか……ユーザーさんの最初の体験としては平気じゃないように書いているんですが、「ここから立ち直る」ことまで考えているから、そこまで気にはならなかったんですね。

でも、シナリオを読んだ方のファーストインプレッションは「ショック」だったし、テストプレイをした方も、「こんなにひどいことを仲間に言われたら、このゲームを続けていく自信がない。辛い」と言われていました。

つまり、ルークが嫌いになるというよりかは、「周りの仲間がキツいから、ツラくてやめてしまう」というフィードバックが、ナムコさんの方から結構上がってきたんですよね。

樋口氏:
「ルークとアッシュ、主人公が逆じゃないか問題」がある程度落ち着いたじゃないですか。そうすると、今度は「アクゼリュス問題」が出てきたんですよね。

とくに、RPGは通しで遊ばないと、わからない部分があるじゃないですか。
そこを調整していくために、テストプレイもかなり広く、初見の人に遊んでもらうんです。その時期はもうほぼゲームができあがっていて、ストーリーの流れも完成している状態で……そのアクゼリュスのフィードバックが上がってきた。しかも大量の人数から。

やっぱり開発側として無視できないとは思ったのですが、どうせ後戻りもできないし、それがこのゲームのウリだから、このまま世に出てなにか起きてしまっても、それはそういうものだと受け入れるしかないと。

だから、もう無視ですよ。
というか、当時は「無視するしかない」って感じだったんですけど(笑)。

一同:
(笑)。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_029

実弥島氏:
実際、あのときは本当にナムコさんから「もうちょっとマイルドに変えてくれ」という話もあったんですよね。それを、テイルズスタジオ側で議論していました。

私としては、このゲームは別にユーザーさんにイヤな気持ちになってもらいたいとか、ひとりぼっちになってもらうことがメインではないから、ユーザー体験としてマイルドな方がいいなら、シナリオを変えてもいいとは思っていました。

ただ、そのときに長谷川さんが「でも、実弥島さんがやりたかったことは、これなんでしょ?」と言ってくれて。私としても、「仲間が離れてしまって、そこから自分を確立していき、もう一度仲間と絆を作っていく話がやりたい」とは思っていました。

そこで、「やりたいんだったら、これで通していいよ」と。
それからテイルズスタジオ側の統一見解として、そのままのシナリオで行くことになりました。ナムコさん側も、「じゃあもう無視しよう」と(笑)。

穴吹氏:
さきほど樋口さんも言ってましたけど、もともとのシナリオにフックがなかったから、実弥島さんにシナリオを頼んでいたんですよね。そのフックが一発で来たのに、そこでマイルドにしても仕方がないというか。そこが判断の決め手だったのかなとは思います。

あとは、吉積さんが最後に「これでやる」と言ったのは、すごく覚えています。

実弥島氏:
そうそう、吉積さんが「俺が責任持つよ」とおっしゃってくださったんですよね。アレはすごくありがたかったです。

「よし、私だけの責任じゃないぞ!」と思えたというか(笑)。

樋口氏:
そのへんのことを思い出すたびに、自分のことが恥ずかしくなりますよね……そこも含めて、学びのエピソードなんだなと思うようにはしてるんですが。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_030

──ただ、定量的なデータとして「マイルドにしてほしい」といったフィードバックが上がってきてしまうと、それに抗うのはかなり難しいと思うんです。当時は、それを覆すだけのなにかがあったのでしょうか?

穴吹氏:
ぶっちゃけ、それは「それで進められる時代」というのがあったんじゃないですか?

樋口氏:
やっぱり、「品質保証」って強いんですよね。

「マイルドにしてほしい」といった声がたくさん出てきたのは、開発中のテストプレイではなく、より一般的な人たちにプレイしてもらったときだったんです。いまは品証が強いから、その段階でそういう意見が出てくると、かなり大変だと思います。

ほかにも、いまは「これをやらないとメタスコアに響く」「倫理的にどうなのか」といった点を重視しなきゃいけないんですけど……『アビス』を作っていた当時は、そこに対して「なに言ってんの?」でゴリ押しできなくもなかった時代でした。

穴吹氏:
いまはもっと開発にお金がかかって、よりゲーム開発に失敗できない時代になったんですよね。だから、一般的な意見に対しては、すごく慎重になっています。

ただ、当時はもうすこし作りたいものに対して寛容だったというか……「実弥島先生がこれで行きたいと言うなら、それで行こう」と、我々が感じた直感を信じることができた時代だったのだと思います。

いまこのシナリオが一発目に出てきたら、判断が違ったかもしれないですね。

実弥島氏:
私も、「いまこの話を出すか」と言われると、ちょっとわからないですね。

基本的に、「そのときのユーザーさんがどれだけ受け入れられるのか」が結構あるかなと思っていて……『アビス』のときは、「ソフトの値段」を考えていたんです。いまは、自分でもそんなこと考えてたのかと思いますけど(笑)。

とにかく、自分がゲームを買って遊んだときに、その値段に対して「このソフトを買ったからには、遊びつくさないとな」と思えていたし、ゲーム1本にかける時間がいまよりも全然長かったし、熱量も高かった。

だから、アクゼリュスまでプレイした方なら、「せっかく買ったんだから、その先まで見よう」と思う人の方が多いはずだと思っていたんです。

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_031

【ゲームの企画書】『テイルズ オブ ジ アビス』開発陣インタビュー:史上最多級の開発資料とともに聞く、『アビス』という名の奇跡_032

樋口氏:
見事にそれを中学生とかで食らってる人が、たくさんバンダイナムコグループに入社してきてますからね。

実弥島氏:
やっぱり、PS2のあの時代だったから、そこまで考えていましたね。

もしかしたら、途中で投げる人も、中古屋に売っちゃう人もいるかもしれないけど、おそらくここ(アクゼリュス)は超えてくる。そこを超えれば断髪のイベントがあって、みんな「おっ!?」と思ってくれる……“はず”。そこはユーザーさんを信じていました。

自分だったら、おそらくこのゲームを初めてやったときに、「なんだこれ?」と思いながらも、ここでやめてしまったらお金を出した分だけ腹が立つから、この先までやるだろうなと思ったんですよ。だから、ユーザーさんも進んでくれるだろうと。

でも、いまは逆にゲーム以外にもいろいろな遊びがあるし、イヤな思いをしてでもそこを乗り越える必要はないから、こういうシナリオは書かないと思います。同じ話だとしても、もっと違う書き方をするかなと。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
Twitter:@ougaan21
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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