きっかけは、とある母親がXに投稿したイラストでした。そこに描かれていたのは公式では描かれない、ポケモンが進化する “途中” の姿。
「まず絵がうまい」「発想がおもしろい」といった称賛の声とともに、多くの人を驚かせたのはその圧倒的な生物学としてのリアリティでした。なかでも、さなぎの中で「体がドロドロに溶ける」といった描写には、生き物に対する深い解像度がうかがえます。
このイラストを描いた少年は現在、高校2年生。自閉スペクトラム症であり、特定の分野で驚異的な集中力や記憶力を発揮するサヴァン症候群であると医師から言われています。
しかしこのような特性の有無にかかわらず、このイラストが非常に興味深いことは変わりません。そこで本人に直接、この「ポケモン進化の過程」についてどのように想像を膨らませているのか解説をしてもらいました。
というのも筆者はこの少年の母親と普段から頻繁に連絡を取り合う親しい友人であり、少年とも会ったことがあるどころか、みんなで一緒に旅行にも行ったほどの仲。つまり「親戚のおばちゃんポジ」です。
そんな関係性だからこそ聞き出せることがあるのではないか。
じつは昔から『マインクラフト』の建築など空間認識能力の高さについても実力を見ており、これを機に「どういう世界が見えているのか」「アイディアはどうやって思いつくのか」といったところを改めて聞いてきました。本稿では解説してもらった内容を紹介していきます。
結論を先に書いておくと、才能の塊でした。
取材・文/柳本マリエ
本稿で紹介している「ポケモン進化の過程」のイラストおよび独自の法則・解説は、作者個人の想像と考察に基づくファンアートです。公式の解釈を示すものではありませんので、あらかじめご了承ください。
ここの家の人たちの才能が怖い
まずは今回の取材に応えてくれたメンバーを紹介します。
こもたろ:
高校2年生の男の子。ポケモンだけでなく『マインクラフト』、『ルイージマンション』、『マリオカート』、太陽の塔、お菓子作り、農業、歴史、世界情勢など多分野に詳しい。推しのYouTuberは投げ銭ができないぶん、広告をしっかり見ることで応援している。
こもろ(姉):
大学1年生の女の子。軽音部に入り、「人生でいまがいちばん楽しい」と大学生活を満喫中。独学でイラストを勉強している。数枚見せてもらった作品があまりにもうますぎて完全に “絵師” だった(SNSは万垢らしい)。
moro(母):
ハンドメイドが趣味の2児の母。ライブドアブログで「moroの家族と、ハンドメイドと。」「moroのハンドメイド」を毎日更新している。『ゼルダの伝説』シリーズはガチ勢。家事・育児・ゲームをこなしながら複数のブログを絶え間なく更新するため、周りからは「いつ寝てるの? 布団で寝てる?」と常に心配されている。竹書房より7冊の本が発売中。
……漏れなく全員に才能がありすぎる。筆者はここの家の人たちの才能が怖いです。ということでさっそく話を聞いてみましょう。
ポケモンの「空白の瞬間」を描く独創的な進化予想図
──そもそもポケモンはどこから入ったの? ゲーム? アニメ?

いちばん最初に目にしたのは、アニメ『ポケットモンスター ベストウイッシュ』です。

当時はランクルスばっかり描いてたよね。

うん。ゲームを始めたのはけっこう最近で、2年前の誕生日プレゼントに『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』を買ってもらったことがきっかけです。最初のポケプラはガブリアスでした。

──こもたろくんはポケモンのどんなところが好きなの?

やっぱり “進化” です。「レベルアップすると進化する」ってすごくわくわくするじゃないですか。3段階に進化していくところにいちばん興味があります。
──まさにこの進化(イラスト)だよね。このイラストはSNSでもすごく反響があったけど、「生物への理解」と「ポケモンへの理解」が両方ないと描けないと思うのね。突拍子もない進化ではなく、ちゃんと説得力があるよ。

へへ、ありがとうございます。
──こういう進化の過程を想像するときって、なにか法則みたいなものはあるの?

あります!!
──へええ、ということは自分なりの「法則」に従って進化の途中の姿を想像して描いていくわけだ。


たとえば、本物のさなぎ【※】は中身がドロドロに溶けて形を変えていきますよね。虫ポケモンの場合はそういうリアルな変化を取り入れています。
※さなぎは中身がドロドロに溶ける
なんとさなぎは液体状になって体をリセットしたのち、その体液を利用して成虫へと “作り替えられる” らしい。
──Xではドロドロに溶ける前に「毛が抜け落ちる」ってところもすごく注目されていたよね。

それについては、ケムッソがカラサリスを経てアゲハントになる際に「毛が残ったまま溶けるのは不自然ではないか」と思ったんです。
──ええっ、どういうこと?

成虫のアゲハントには毛がないため、溶ける前に抜いておかないと完成した時に毛が混じってしまいます。そこで、いったん「毛が完全に抜け落ちてから進化していく」というステップを挟むことにしました。
──ああ、なるほど。自然な流れになるように調整しているんだね。
公式設定を深掘りしたうえでストーリーを膨らませる
──公式が出している『ポケモン生態図鑑』も参考にしているの?

『ポケモン生態図鑑』は持っていないんですけど、公式の設定は非常に重要です。サザンドラを例に挙げると、進化前のジヘッドは「2つの頭は仲が悪く餌を取り合う」という設定があります。
──うん、公式動画でもその描写は公開されているよね。


はい。そこから、進化の過程で「強い方の頭が威嚇してもう一方を圧倒し、退けられた頭が小さな腕になっていく」という流れを想像しました。公式の生態に基づいた「喧嘩」というドラマを進化に反映させています。
──へええ、「仲が悪い」「喧嘩」という設定からストーリーを膨らませたんだね。いまの説明を聞くと、筋がとおっていてすごく納得できたよ。とはいえその想像って、だれにでもできることではないと思う(しばらく放心)。

ありがとうございます。
──でもさ、逆に想像力がそこまで豊かだと複数の選択肢が生まれることもあると思うのね。たとえばこもたろくんの頭の中で「想像A」と「想像B」があったとき、そのどちらも同じくらいのリアリティがあった場合はどういう基準で採用していくの?

それは、人と “かぶらないほう” を選んでいます。僕のように「ポケモンの進化」を想像して公開している人はいっぱいいるじゃないですか。そういう方々とできる限りかぶらないように。
──なるほど!? 界隈でのかぶりを気にしてるんだ!?

はい。どうしても見たり聞いたりしたものに影響は受けてしまうと思うんです。でも、できる限りかぶらないように、たとえばポーズを変えたり、自分の解釈を組み込んでまったく同じにならないように気をつけています。
進化の “一瞬” を切り取る動きとポーズ
──ポーズでいうと、こもたろくんのこのイラストはアニメーションのような “動き” があるよね。動きを感じさせる工夫はある?

はい。単に形が変わるだけでなく、表情やパーツの動きにこだわっています。たとえばコフキムシが進化するとき、粉に飲み込まれて「うわうわ!」という驚きの表情をさせたり。
あとは、ハクリューからカイリューへ進化するときも背中から小さな翼がにょきっと生えてくる様子が見えるようにしました。

──ああ、予兆をしっかり意識している、と。「つぎになにが起こるか」をポーズで表現しているんだ。ミニリュウやハクリューの尻尾も残像のように位置をずらして描くことで、イラストの中に “時間の経過” を感じるね。

時間の経過はすごく意識しています。ほかにも、ユニランが腕を伸ばして分裂して最終的な形に近づいていくポーズなど、自分なりに「どう進化するのが自然か」を追求しています。
──うんうん、言っていることはすごくわかる。でも100歩譲ってそういう想像はできたとしても、多くの人はそれを出力できないんだよね。

こもたろのすごいところは、「頭で想像したことを実際に描ける」ってところだと思う。あと線に迷いがないんだよね。普通、迷うでしょ(笑)。
──ああ、“絵が描ける人あるある” だ(笑)。
進化の途中であえて “退化” をさせる驚きの発想
──さっきコフキムシの表情の解説をしてくれたけど、進化するにつれて「顔つき」や「体の模様」が変わるポケモンもいるじゃない? たとえばシビシラスがシビビールになるときみたいに、見た目が大きく変わるときの法則もあれば教えてほしい。

じつは模様の変化を考えるときに、あえて「逆」をやってみることがあるんです。
──えっ、逆???

はい、逆に “退化させる” んです。
──進化しているのに……退化させる……?

そうです。進化の段階が進んでいるのに、つぎの段階へ行く前にあえて一時的にパーツを退化させてからまた別の形に発達させる。そうすることで、最終的な見た目の違いを自然につなげられるんです。
──なるほど! リセットして形を整え直すようなイメージだね。自分で設定を噛み砕いて、そうした「余白」の時間を描いているのはおもしろいね。

模様に限らず、古い角が折れて新しい角が生えたり、パーツをいったん分離させてからまた合体したり。

──ああ、それでいうとアゲハントになる前に「ドロドロに溶ける前に毛が抜け落ちる」のもそうか。つぎの段階へ行く前にあえてその工程を挟むことでその後の進化が自然になる、と。なるほど。
青からオレンジへ、どうつなぐ? 色彩の法則とは
──進化前後で色が大きく変わるポケモンもいるけど、もしかして色の変化にも法則があったりする?

(色鉛筆でグラデーションを描きながら)進化前後で色が異なる場合、そのあいだの「中間色」を想像して色を重ねます。たとえば、ピチュー → ピカチュウ → ライチュウへの進化では、このようにピチューのレモン色に色を重ねてレモン色 → 黄色 → 山吹色と徐々に変化させます。
──なるほど。いま説明してくれたピチューからライチュウへの進化は黄み系で完結しているけど、たとえばこれが、ハクリュー(青)からカイリュー(オレンジ)のような劇的な変化だったら?

いま(上記で)描いたこのグラデーションを基準に考えているので、ハクリュー(青)からカイリュー(オレンジ)だったら青→緑→黄→橙と、中間色である緑色や黄色を経由してオレンジにたどり着きます。
──本当だ。ちゃんとグラデーションになってる。こもたろくんのイラストに説得力があるのは、解像度の高さだけではなく、法則にブレがないからなんだね。
「ポケモン進化」の制作フロー5ステップ
──いま話してもらったことをまとめると、大きく5ステップくらいの流れがあるように感じました。
ステップ1:公式設定の徹底的なインプット
ベースとなるポケモンの公式情報を徹底的に頭に入れるステップ2:生物学的なリアリティの付与
ゲーム上の変化ではなく生きものとしての自然な変化を組み込んでいくステップ3:表情やポーズによる時間の可視化
静止画の中で進化という「動き」を表現するための工夫を凝らすステップ4:色彩の論理的なグラデーション
進化前後で大きく色が異なる場合、そのあいだをつなぐ論理的なカラーチャートを組み立てるステップ5:界隈(他者の作品)への敬意と差別化
自分にしかできない表現になっているかを確認する
……と、軽い気持ちでいろいろ聞いちゃったんだけど、想像以上に法則がしっかりしていて、私の頭がパンクしそうです(笑)。今回は説明のために丁寧に図解してくれたけど、普段はこの考え方を頭の中だけで、しかもその多くを即興で行っているってところがすごいよね。ちなみに、このなかでいちばん大切にしていることってなんだろう?

やっぱり、「ほかの人とかぶらないこと」です。僕もいろんな影響を受けてしまっているのですが、そこに自分の想像を混ぜるようにしています。
──話を聞いていると、もちろんほかの人(界隈)への配慮として「かぶらないこと」を意識はしていると思うけど、なんというかもっと “大もとのところ” で独自性の追求そのものを楽しんでいる感じがするね。根っからのクリエイター気質というか。

それでいうとポケモンをはじめ、好きなことに対する興味とこだわりは強いね。追求心なのかな。好きなものを観察するときの集中力がすごくて、それが記憶力にもつながっていると思うんだけど、たとえばポケモンも頭の中では「立体」としてイメージできるみたいで。
──えええっ。

こもたろは「少ない情報から立体的な構造を推測すること」が得意だよね。空間認識能力ってやつ?
──そうだそうだ、今日は『マインクラフト』(以下、マイクラ)についても聞きたかったんだよね。















