それは8月の某日のことであった。
私はさる場所で、新作ゲーム『白銀の城』の試遊体験会に参加してきた。
同作はヴィクトリア朝風の巨大都市《シルバニア》を舞台としたオープンワールドのアクションRPG。ものすごく分かりやすく言うと、産業革命期のロンドンみたいな都市を自由に探索できるというタイトルだ。
先だってトレーラー映像が公開されており、オシャレなクッキー缶のパッケージ絵とかになってそうな建造物や、探偵モチーフだという主人公、レトロな浪漫漂う路面電車に、通行人の中に潜む怪物を暴くアクションなど、私の心のヴィクトリアン乙女がきゃあきゃあ黄色い声を上げちゃうような要素がいろいろ詰め込まれている。
この作品の試遊体験会に参加してきました。
参加して……！来ました……！
参加して、来たことしか、言えません……！なぜならそれ以外はまだ書いちゃダメって言われたから。
「ゲーム体験については、今後公開されるテスト版や正式版を基準としてご評価いただきたいと考えており、今回はゲームコンテンツに関して解禁を見送る判断をしました。これはあくまで、より完成度の高い体験を皆様にお届けするためであり、より良いゲームを届けるための判断となります」
筆者の自認するところ、私は類まれなる生来のぐうたらものである。ぐうたらものなので、なるべく仕事はしたくない。労働は少なければ少ないほど良く、できるならお金だけが欲しい。
先日ほかの編集者とお酒を嗜む会があったのだが、そのうちひとりは黒霧島の海の中でぐでんぐでんのスライムみたいになりながら「仕事したくないよぉ」「月曜日来ないで欲しいよぉ」以外の言葉を話せないモンスターと化してしまった。労働はかくも人間性を破壊する。
そんなわけなので、最初に「ゲームプレイについては未解禁で」と言われたときは「そっか～書いちゃダメか～」以外の感情がなかった。公式が未解禁だと言ってるものを無理に書くわけにもいかないし、書いちゃダメなものはしょうがない。これはべつに私が生来のぐうたらものであるとか、できるなら一文字も書かずに取材費だけ降ってきて欲しいとか、そういうことは一切まったく無関係です。
しかしながら炯眼稀なる敏腕編集デスクJ氏は無慈悲にも次のように述べた。「そっか、じゃあそれで書きましょうか！」
わははご冗談をと笑って流そうとしたが、デスクの目はマジである。低解像度Webカメラの向こうで曇りのない瞳が「行ったからには何か書くべきなのでは？」と真摯に語りかけている。それが仕事でしょ、と心のヴィクトリアン乙女も同調してそんなことを言う。おまえは私の味方しろ。
というわけなので、『白銀の城』の試遊体験会に参加してきました！！！！
本稿で言えることはマジでこれが全てなのだが、尋常ならざる探偵的洞察力の持ち主であれば、筆者の文体のわずかな揺れやインクの滲み、ディスプレイ越しに香る乾いた羊皮紙の匂いとかから、なんかあることないこと行間から読み取れるかもしれません。そうであってくれ。
いや言いたいことは結構あって……！こう……なんか、すごいぞ……！（語彙不足）
うん、ダメですね。さすがに「お代官様、そんなご無体な！」すぎる。せめてなんか言わせてくれ……。言いたいことは本当にたくさんあるんですよ！具体的にはアレとかコレとかソレとか！心のヴィクトリアン乙女もめちゃくちゃ大暴れしてる。まあ何にも言えないので、トレーラー映像見てもらうほうがまだ情報量あるんですが……。
今回の体験会では30分ほどゲームを触ることができたんですが、本当に「開発中のバージョンをいったん触ってみんなの感想聞かせてね！」みたいなのが主目的らしく、かなりがっつりしたアンケートに回答したりしました。
プレイ後に開発のえらいひとにちょっとだけお話を聞いたんですが、「こんかいの版はまだ完成版にはぜんぜん遠くて、これからちょー頑張ってもっとすごくする」（レギュレーションに最大限の配慮をした曖昧表現）らしいです。一刻も早く完成させて遊ばせてくれ！そして何か言わせてくれ……！
のどの奥に龍角散でもとれないイガイガが鬼のように詰まってる感じでめっちゃ苦しい。たすけて欲しい。取材レポートでこんな気持ちになることあるんだ。
というわけで、私からみなさまにお出しできるものは以上です。ご拝読に感謝します。「マジで情報量ゼロじゃねえか」といった類の苦情はここではお受けいたしかねます。なんにも言えないけど、言いたいことはたくさんある感じのゲームだった。これだけ覚えて帰ってください。いやほんと早く普通のベータテストやって欲しい。
どこかで本作をプレイしながら、「そういえばなんかずっとモゴモゴしてたライターが言いたかったことってこれかなあ」とか思いを馳せていただけると嬉しいです。待て、而して希望せよ！
