『魔法少女ノ魔女裁判』を手がけたAcaciaの新作ノベルRPG『配信少女ノ裏垢迷宮』。10月31日に開催された「東京ゲームダンジョン14」で試遊した本作は、ガールズバンドのメンバーによる生配信から始まった。
バンドはボーカルを亡くしたばかり。その死はメンバーのせいだという裏アカの投稿が広まるなか、カメラの前の彼女はひとつ息を整え、笑顔で挨拶する。画面はたちまち罵声で埋まり、「えへへ」と笑った彼女は、自分の炎上をこうたとえた。
「私の人生、いつも焚き火みたいであったか~い!」
この配信が、筆者にとってはAcaciaの世界への入口だった。
前作にあたる『魔法少女ノ魔女裁判』は未プレイだが、SNSでたびたび目にするうちに、Acaciaの描く世界を一度のぞいてみたいと思っていた。そんなつもりで試遊台に座ったら、画面の向こうでは少女が自分の炎上で暖を取っていた。
……このバンド、ひとり目からこうなのか。
本稿では、そんな筆者がひと癖もふた癖もあるバンドの面々と「裏アカ」の世界に振り回された模様を、ブースの写真とともにお届けする。
取材・文/なごみ
明るい「大好き」が、あとから響く
炎上に対して画面の向こうで「焚き火」と笑っていたのは、ガールズバンド「ラグドロップス」のギター担当、彩家リイル。亡くなったボーカルの灯野ネオンとは幼なじみだ。
Acaciaとジー・モードが手がける本作で、リイルたちは「裏アカ」の世界に閉じ込められ、そこからの脱出を目指す。ゲームは、迷宮を探索するパートと、少女たちのうち誰がその裏アカの持ち主なのかを探るアドベンチャーパートで構成される。
今回遊べたのは、東京ゲームショウ2026と同じ、本編冒頭を特別に編集したフルボイスのノベル試遊版だ。
あの「焚き火」が飛び出した配信は、「みっなさーん! こんばんはーっ!」という挨拶で始まる。
文字だけなら、新曲のお知らせでも始まりそうだ。ところが、声はほんの少し上ずっていて、にっこりした笑顔までどこか引きつって見えた。

そんな声で、リイルは画面に重なるコメントに答えていく。いじめの噂を否定するときも、「私はネオンが大好きですしっ!」と、語尾まで明るい。
配信を切って、ようやく「疲れちゃいました……」とこぼす。そこでふと、最初の挨拶の前に、彼女がひとつ息を整えていたのを思い出した。
さっきの「大好き」は、幼なじみに向けた言葉として、ごく自然に聞いていた。けれど、ひとりになったリイルは、亡くなったネオンに「私を迎えに来てくださいよ……」と呼びかける。
そして、首を吊るための紐に手をかけて、「……会いたい」。
バンド仲間のカイリからかかってきた一本の電話が、リイルを現実に引き戻す。さっきの「大好き」を、ずいぶん軽く聞いてしまった気がした。
異界で“びっくり顔”にホッとする
その翌日、ラグドロップスの五人がネオンの死後初めてスタジオに集まる。彼女の死をめぐって言い争う最中、全員のスマホに見覚えのない「裏Uアプリ」が現れた。
スマホが光り、五人が引き込まれた先は、SNSの闇が具現化した異界「裏U」。しかも、なぜか全員ステージ衣装を着ている。

鍵盤担当の水無月メイカは、普段からスマホを4台以上持ち歩き、いくつものアカウントを演じ分けているそうだ。
「なんでみんな衣装着てんの!?」と声を上げたかと思えば、次の瞬間にはウインクしている。「盛れてんだけど。私、めちゃくちゃ可愛くない?」
たしかに可愛い。……みんな、脱出できそう?
バンドでベースを担当する狭間ナギは、「裏U」の噂を知っていた。異界ではまずスマホの電波を確かめ、圏外なのに例のアプリだけは動くと気づく。プロフィールには「#自称サイコパス」とあるけれど、このなかではいちばんまともなことをしている気がする。今のところは。

やがてリイルが亡くなったネオンらしき姿を見つけ、メンバーはそのあとを追う。行き止まりの壁には、目や口が映ったモニターがびっしり。黒い腕が伸びる通路に、にこにこしたハート形の生き物まで現れた。
「囲まれてるぞ……!」と仲間に知らせるのは、もうひとりのギター、一ノ瀬カイリだ。リイルやネオンの幼なじみで、自分のことを強い女だと言う。
強気な物言いのわりに声は小さく、ライブのあとには必ず倒れてしまうという。この場で周りを見てくれているカイリのほうも、だいぶ心配である。
ドラムの神楽クロアは、人の世話を焼くのが好きなおっとりした子。「天使さま」と呼ぶぬいぐるみを連れていて、その声が聞こえるらしい。
ハート形の生き物と出くわしたときも、天使さまを片手に笑っている。クロアの隣ではメイカが目をまん丸にしていた。

さっきのウインクにはついていけなかったけれど、たぶん今はメイカと同じ顔をしている。状況はちっともよくなっていないのに、メイカのびっくり顔には妙に安心した。
そこへ剣を手に現れたのが、『魔法少女ノ魔女裁判』にも登場する二階堂ヒロだ。今作では「裏U」の案内人を務める。どうやら、リイルたちのような“迷子”に出会うのは初めてではないらしい。
顔には見覚えがある。けれど、剣を構えた彼女を見て出てきたのは「……強そう」のひと言。前作『魔法少女ノ魔女裁判』を遊んでいたら、ここはきっと沸いていただろう……。買ってきます。
気になる子が増えた。遊ぶゲームも一本増えた

ジー・モードの物販卓には、ピンクのハート形の台座に立ったアクリルスタンドが七つ並んでいた。両手を顔の横に掲げてウインクしている子がいる。
あっ、メイカだ。
あのウインクを見ると、「盛れてんだけど」まで声つきで浮かんでくる。ナギも、やっぱりスマホを持っている。ほんの少し前まで名前も知らなかったのに、七人並んでいるなかから、いつの間にか知った顔を探していた。


リイルのフォトカードも二枚並んでいた。試遊のあとで写真を見返すと、笑顔の一枚のほうで目が止まった。あの配信も、音を消していたら、ただの笑顔に見えたんだろうか。

卓のそばには、キャスト陣のサインが寄せられた大きなタペストリーも。ヘッドホン姿のリイルがにっこり笑っている。近くで見ると、その頬には涙が伝っていた。

アクリルスタンドのクロアは、手にしたぬいぐるみが目を引く。迷宮でもそちらに目がいっていたけれど、試遊の最後に流れたクロアのMV「天使とグッドエンドを」で、大きく映ったのは足に巻かれた包帯だ。自分を傷つけることを思わせる言葉まで目に入った。
えっ、いまのは何? と思っているうちに映像は終わって、画面にはこんなひと言が残った。
「あの子も、この子も──まだまだ人に見せたくないヤバい【裏】を隠してるんだから♪」
配信のあとまで見れば、リイルの「あったか~い!」も、ずいぶんやけっぱちな冗談に聞こえる。じゃあ、クロアは何を抱えているんだろう。あのびっくり顔を見て、勝手に安心していたメイカも?
最初はリイルの「焚き火」に面食らっていたのに、いまはバンド全員の“裏”が気になりすぎる。
……Acacia、おそるべし。
ちなみに、『まのさば』はもう筆者のライブラリにある。









