声色ではなく「精神性」で表現。「How」になるまでの「What」を詰める
──4つの魂の中には一見すると男性的にみえるキャラクターも混じっていますが、芝居をするにあたって、どういったところを意識されたのでしょうか?
花守さん:
少女と対話しているプレイヤーさんには、男性っぽさに限らず会話からいろんな人間の要素を絶対に感じてほしいと思いました。「どうしたらそれぞれの属性らしさを感じてもらえるのか」というのを、何度も開発のみなさんにうかがいながら取り組ませていただいたんですね。
口調だったり、語尾が、こういう属性の人だったらここで視線をずらすかとか、ごまかすかとか、笑うかとか。そういった本当に細かいところまで考えて、「この子は〇〇っぽいな」という個性を相談しながら作っていきました。
──話し方や語尾ではなく、すべて芝居で伝えているんですね。
花守さん:
あとは、精神性の部分が大きかったなと思います。
山中氏:
通常、いろいろな人間を演じるとなったら、喉の位置を変えたり、声色や響きで芝居をやっちゃうんですよ。でも、『UN:Me』では体は女の子なんです。どうやってプレイヤーの方に違和感や引っかかりを持ってもらうか。そこがとても重要だったんですね。
ですから、収録時に花守さんが引っかかるところがあったときには、僕のほうから「でもこういう状況で、こういうタイプの人ってこうやって答えちゃうときがあったりするよね」といった説明をして。それって、もはや演技の話ではなく、「人間ってこうだよね」という話なのですが、そこをとことん話し合って収録していきました。
花守さん:
もちろん、考え方は人によってまったくバラバラだというのは、前提として持っています。けど、その中でどこか滲み出る生きている人間の個性が乗ったらおもしろいな、と考えて。
「こういうときって、こういう人ならどうリアクションしますかね?」と開発陣の皆さんとディスカッションしながらお芝居するのは、すごく楽しかったですね(笑)。
山中氏:
ゲームの音響って、基本的にはディレクションを「音」や「聴こえ」でしている現場が多いんです。「もっと明るく聞こえるように」とか「もっと可愛らしく」とか。そういう音としての正解を提示するのが近道なんです。でも、それって役者のクリエイティブをひとつ飛ばしている形になるんです。
ですから「この人はこういう人間で、いまこう思っているんです。それを入れたらどう変わりますか?」というやり取りを贅沢にさせてもらったという感じです。
花守さん:
「How」でディレクションするのではなくて、「How」になるまでの「What」をいっぱい詰めてもらうというか……情報をもらって、そこから取捨選択をして、「こうアプローチをします」と提示していく。そうすることで、すごく水が動くというか、キャラクターの解像度が、お互いに上がっていきました。
収録ブース越しにみんなの中で「こういう子かもしれない」という気づきを得ていくみたいな、そういう空間でしたね。お芝居していくごとに、まるでゲームでプレイヤーが少女と向き合うように、私たちが4つの魂と「対話」して、その子のことを知っていく時間があったと思っています。
──印象に残っているシーンやセリフはありますか?
花守さん:
印象に残っているのは、魂それぞれの「段階」です。それぞれの魂には記憶を思い出していくような「段階」があるんです。自分を取り戻すトリガーを会話の中で引いたときの反応が、みんなバラバラなんですね。目線のそらし方とか、笑い方とか……。とくに笑いに関しては、「なぜいまこの子は笑っているのか」と感じる部分もあって、感情の揺らぎがみんなバラバラなんですね。
最初はみんなまっさらな状態から始まるんですよ。自分自身が誰なのかがわからない。でも、「自分は自分だ」という感覚を持っている。ですから、少しずつその子たちの内面を掘り下げていくという作業を、会話の中でもしていくんです。
そして自分を取り戻していったときに、その子たちが前向きに思い出したことを話してくれるのか。それとも、別の意図を持って会話を広げていくのか。それが結構バラバラだったんです。それが「人間っておもしろいね」というのにつながっていくというか。
──話を聞けば聞くほど、本当に難しい役柄を演じていらっしゃるなと……。冒頭のお話で触れていただいていましたが、『UN:Me』は、不安や恐怖を体験できるゲームでありつつ、「4つの魂と向き合う」という体験の比重がすさまじく大きいんですね。
河合氏:
実際に遊んでいただいたら、その割合が多いことに気づいていただけると思います。
山中氏:
ただ、対話の部分を担当してる自分からすると、そこだけで引っ張っていくことってできないんですよね。それ以外のおもしろそうな部分を、河合さんや佐々木さんがすごく担保してくれています。
対話も踏み込めば楽しいんだけど、プロモーションとしては地味な部分というか、なかなか伝わりにくい要素だと思いますので……。
佐々木氏:
作品のコンセプトとして、最新のTGSのビルドにいたるまで当初から変わっていないのは、やっぱり「対話」の部分なんです。「少女が正面に座っている」という構図にはとてもこだわっていますね。
『UN:Me』は、「少女と向き合う」というのが根幹のテーマにあります。プレイヤーに対して、まっすぐ目の前に座らせて、目線を合わせたかった。ですから、少女との対話シーンは開発初期のころブレていないんですね。
「小さな演技」を拾うモーションキャプチャー
──モーションキャプチャーに関して、詳細をおきかせください。
佐々木氏:
TGS試遊バージョンは、モーションキャプチャーを取り入れた内容になっています。
河合氏:
プレイしていただければ、モーションのクオリティが上がっていると感じてもらえると思います。
佐々木氏:
いま入っているのは、まだ汎用的なキャプチャーが多い状態です。声はワンオフで、モーションは半分スクリプトで動かしているといいますか。声もワンオフ、モーションもワンオフと、両軸がバッチリとなっているように、これからブラッシュアップしていく予定です。
──花守さんの声、芝居が先にある状況からモーションキャプチャーを収録するというのはふつうのゲーム制作の順番からいうと真逆ですよね? モーションを担当された芝井美香さん【※】もたいへんだったのではないですか?
※芝井美香さん……モーションアクターとして、これまでさまざまなタイトルのキャラクターを担当している。
山中氏:
大きな芝居だったら、まだわかりやすいと思うんです。でも、今回はすごく小さい芝居が多くて……。
花守さん:
狭い空間の中で1対1で向き合っているシチュエーションですから、「聞かせる」というよりは「聞かれたから話してる」というお芝居になっているんですね。
本当に小さな世界での、見逃してはいけない要素がたくさん詰まっていて……。たぶん、聞き逃したらこぼれていってしまうくらい。
だから本当に、このお芝居を拾って動きをつけるというのは、ゲームを通してプレイヤーさんが味わうような、すごく心の負担があるお芝居だったと思うんです。私の芝居を受け取ってもらって、さらに動きのお芝居をしていただけたというのは……すごく光栄であると同時に「大丈夫でしたか?」と、寄り添いたくなるというか。
──声にモーションキャプチャーの動きがついたものは、花守さんもご覧になったのですか?
花守さん:
映像として少しだけ見させていただきました。私が初期に見せていただいていた対話のシーンより、さらに「人間と話している感覚」を強く感じました。
自分の当てた声が入っている映像を見るのは初めてだったということもありましたが、プレイヤーの皆さんは「人と話すのってこんなにたいへんなんだ」という気持ちを味わうことになるんだろうな、と感じたというか。
──モーションキャプチャーのディレクションは、どのように進められたのですか?
佐々木氏:
僕と共同ディレクターが担当したのですが、先に声の演技がここまでがっつりあるというシチュエーションは、芝井さん自身も経験がほぼない状況だったんですね。
ですから、収録の方法から考え、ボイスを流しながら1.5秒ぐらい遅れて、そのモーションを撮るという方法を採用したんですね。
そうしないと、声のテンションや間の取り方に合わせられないと判断したんです。特殊な撮り方でしたので、そういった面でのたいへんさがありました。
たぶん、さきほどお話したように、最初からこの形式で収録しようと決まっていたら「いや、それはやめよう」という話が出ていたかもしれません。
そう考えると、結果としてはベストの選択ができたというか。花守さんの芝居に応えるという形になったことで、正解が選べたんだと思います。作品のクオリティという意味で、ベストを選べたと。
山中氏:
花守さんの収録の現場に河合さんが同席されていたことが大きかったと思っていて。実際に芝居を見てもらったからこそ、「モーションキャプチャーで動きを用意しよう」という決断をせざるを得なくなったというか(笑)。
「いま、この場所で生まれたこれほどの芝居を殺しちゃダメだよね」と思っていただけたんですよね。
河合氏:
圧倒的な演技でしたので、それに合わせてキャラクターというか、造形、動きを作っていくしかないなと……。
──座ってる状態での動きの演技という難しさもありますよね。表情で見せなければならないところもあるでしょうし。
佐々木氏:
「正面に座った状態で本作の要素を満たそう」という決断を先にしていましたので、その中での変化、微細な変化で楽しませなきゃいけないというのは当初から課題に掲げていたんですね。
ボイスとテキスト、演技とカメラワーク。そして、そこにかかる演出。できる手段はこれくらいしかないわけです。わかりやすく「魂が変わったらUIの色を変えよう」という手段を取り入れるわけにはいかないですし。
河合氏:
それでやれたら楽なんですけどね(笑)。
山中氏:
そういった演出は僕がずっと拒否し続けていました。「まったく見た目が変わらないからこそ、些細なところに注目する」とわがままを言わせていただき、結果としてモーションキャプチャーに行き着いたというか。
河合氏:
山中さんの指摘どおり、モーションキャプチャーが入ったことによって、それぞれの魂の差みたいなもの、魂の個性が本当にわかりやすくなったんですね。体の動きもそうなんですけれど、いちばんは「目の動き」。「ここで視線をそらすんだ」とか、「ここで目が泳ぐんだ」という目の動きがものすごく生々しさを生み出しているんです。
花守さん:
でも、その情報を声の芝居から取るのって、すごく難しかったと思うんです。映像を見させていただいたときに、「うわっ! 魂ごとの差が出てる。うれしい!」という感動が私の中でもありました。
山中氏:
こちらから「ここで目をそらしてください」といった指示は出していないので、音から拾っていただいていますね。
佐々木氏:
今回、キャプチャーをお願いしたのは、ツークン研究所さん【※】で、東映さんのスタジオなんですね。フェイシャルに関しては、日本一のところだと思っています。
微細な演技が必要となると、フェイシャルの重要度はすごく大きい。そんな中で、ツークン研究所さんにお願いできたのは幸運でした。
※東映ツークン研究所……東映株式会社の研究組織。モーションキャプチャやフェイシャルキャプチャなどのデジタル技術を中心に映像制作を行っている。
──なるほど。
佐々木氏:
ただ、収録の後もいろいろありまして。キャラクターの骨格が違うので、リターゲッティング【※】を当てはめても、なかなかうまくもとの演技の良さが出せなかったんですね。
芝井さんのマーカーで表情を撮っているので、キャラクターとは当然顔が違うわけです。そのため、ずれが生じてしまうというか。ですから、一括で全部処理する前に、しっかりとキャラクター性を保つためにコンバートしていく工程を入れ込んだり……。
──こだわりがすごいですよね。
佐々木氏:
花守さん、芝井さんの芝居を受け取ったときに「これを悪くしてはいけない」と必死でした。
花守さん:
ここまで開発の皆さんのお話を聞いて、最初に「こう作ろう」と思っていた段階から何倍ものクオリティになっていると感じました。でも、それくらい『UN:Me』では「対話」が魅力の大きな比重を占めているんですよね。
開発に携わった方全員が「最高の対話を作るにはどうしたらいいのか」というところを細かく突き詰めた結果がいまなんだろうなと感じます。
──すごく贅沢なゲームだ、と強く感じました。
山中氏:
極端な話、シーンとしては「テキストが表示されてボタンを押す」。それだけでも「そういうもの」として成立するものなんですよね。
そこにこれだけの時間とこだわりをかけているわけです。もしかしたら、いまお話している内容も、『UN:Me』をプレイされる方によっては、聞き流してしまうような、見過ごしてしまうようなものかもしれません。でも、そこにこれだけ時間とこだわりを入れさせてもらっている。本当に、「贅沢なゲーム」になっていると思います。
花守さん:
挑みたかったところなんですよね。いまは時代的に「短い時間の中でたくさんの情報を手に入れたい」と思うことが多いと思うんです。
けれどそんな中で、本当にちゃんと人と長い時間をかけて話すという体験を、プレイヤーさんが進んで「やってみたい」と思ってもらえる作品にしたい。そう思いながら、私もお芝居させていただいていたので……。
──消費されないもの、ということですよね。
花守さん:
「消費すること」が当たり前の中で、「私はいま、この人と時間をかけて対話をしたい」と思ってもらえたらうれしいですね。
4つの魂から話を聞きたい、対話をしたい、その人のことを知りたい、と思ってもらえたらいいなと。そういうところが、やっぱりたくさん詰まってるんだなと、いまみなさんのお話を聞いて改めて思いました。







