自分の推しにだけ、なかなか新しいカードがこない。
運営型のゲームを長く遊んでいれば、一度は味わったことのある寂しさだと思う。人気の差があるのは頭ではわかっている。それでも、更新のたびに別の名前ばかりが並ぶ画面を見ていると、どうしても「自分の推しは、そこまで大事にされていないのかな……」という気持ちが顔を出す。
リリース時点から、ホロライブのタレント54人が登場する『hololive Dreams(ホロライブドリームス)』──略して『ホロドリ』は、本来であれば、そうした偏りが生まれやすいゲームのはずである。なにしろ54人だ。
ところが本作の開発チームは、内部で「全員主役」というコンセプトを掲げているという。
たとえば、特定のタレントにだけ新しいカードが集中しないよう、全員の実装数をそろえることを目標にしている。スケジュールの都合で、一時的に枚数がそろわない時期もある。それでも、人気の差にかかわらず、どのタレントも主役として扱う。「それが結果的にタイトル全体の熱量につながるはず」という考えかただ。
その姿勢は、UIにも表れている。操作するキャラクターを変えると、画面のデザインがまるごと切り替わる。タレントごとに、もちろん全員分。じつに54人分である。
あらためて紹介すると、本作は2026年7月23日にリリースされた、ホロライブ初の公式スマホゲームである。リリース時点で150曲以上が実装されたリズムゲームであると同時に、パークで建築やミニゲームを楽しんだり、タレントたちがゲーム内を動き回る姿を眺めたりできるタイトルだ。
そして、本作のプロデューサーを務めるのは興 那月(オキ ナツキ)氏。ホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社がIP・タレントに関わる調整を、株式会社QualiArts(クオリアーツ)が開発全般を担うなか、興氏はフリーランスとして、全体企画に携わっている。
過去には『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』を立ち上げ、プロデューサーとディレクターを務めていた人物である。その興氏と共に、クオリアーツでは社内の開発ノウハウを持ち寄り、リズムゲームに精通したメンバーも集めた体制で、本作の制作が進められることになった。
今回のインタビューでは、ホロライブでリズムゲームを作ることになった経緯と、その難しさをうかがった。
「全員主役」という方針は、どこまで本気なのか。そして、実在するタレントが題材であるがゆえに、開発の途中ではデビューする方も、活動を終える方もいた。そのとき、開発の現場で何が起きていたのか。ホロライブ初の公式スマホゲームがどう作られてきたのかを、お聞きした。
開発陣も議論に議論を重ねた、白銀ノエルさんの水着イラスト
──本作はリズムゲームでありながら、施設を建てたり、ミニゲームを遊べたりと、リズムゲーム以外の遊びも充実していますよね。まずは、ゲーム全体の遊びをどう設計していったのかからうかがえますか。
興 那月氏(以下、興氏):
本作は「純粋なリズムゲーム」ではなく「リズム&RPG」と謳っているとおり、さまざまな遊びを融合したタイトルなんです。ですから、リズムゲーム以外の全体的なゲームフローの構築にも、初期からかなり力を入れて話し合いました。
──パークでは、タレントさんたちがそれぞれ「らしい」振る舞いを見せてくれるのも印象的です。こうした動きは、どのように作りこんでいったのでしょうか。
興氏:
パーク内での動作も、タレントさんご本人へのヒアリングを行ったうえで作りこんでいます。たとえば「高いところが苦手」というお話をうかがっていたら、高い場所には行かないようにしたり、怖がるモーションを入れたりと、そうしたパーソナリティまでゲーム内に反映しています。
さらには「オレンジジュースは好きですか?」「コーラは好きですか?」といった、細かい嗜好までヒアリングしています。その結果として、星街すいせいさんのオムライスには野菜が入っていない仕様になっているんです。
──タレントさんご本人のパーソナリティまで、細かく反映されているんですね。ビジュアル面でいうと、リリース直後に実装されたノエルさんの水着姿のイラストもかなり大胆で、正直驚きました。
興氏:
清書があがったタイミングでカバーさんと協議したくらいでして。
──そうなんですか!?
興氏:
イラストの作りかたで言うと、基本的な進行はすべてクオリアーツさん側にご担当いただいています。クオリアーツさん社内で描いてくださることもありますが、外部のイラストレーターさんへお願いしている例もあるんです。その場合は、タレントさんの魅力にあうような方をピックアップして依頼しています。
ですのでノエルさんの場合も、選定の時点で「わりとグラマラスな体型を描くのが得意な方」にお願いはしていたんです。ただ、衣装デザインの時点では「まあまあ刺激的だけど、そこまでではない」というラインだったんですよね。もともとの衣装デザインにはもっと布があったんです。
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— ホロライブドリームス【ホロドリ】 (@hololive_dreams) July 27, 2026
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──では……いったいなにが起きてあんなことに?
興氏:
そこにイラストレーターさんのタッチや表現が加わって完成版があがってきたとき、私たちも「けっこうすごいのがきたぞ……」と、チーム内でどよめきまして。普通のタイトルだったら、恐らく「やりすぎ」でストップがかかるレベルだと思います。
でも、本作はやはり「タレントさんありき、魅力を引き出すことありき」なので、ノエルさんご本人とカバーさんとも協議した上で今の形になっています。
そのあたりの攻めた表現も、ご本人の意思を汲み取りながらやっていければと思っています。もしNGが出ていたら、今後はそのラインにあわせていくことになります。今回は通った形ですね。
活動を終了する方も、デビューする方もいる。実在するタレントでゲームを作る難しさ
──「タレントさんありき」とおっしゃいましたが、リリース時点で登場しているタレントさんの人数は54人。ひとりひとりヒアリングしつつですと、その調整だけでも大変ですよね。
興氏:
そうなんですよね。そもそもリリース初期から「54人がプレイアブル」というのは、珍しいとは思います。加えて、みなさん現実で活動されているタレントさんです。そのぶんの難しさもありました。
──活動を終える方などいらっしゃいますもんね。
興氏:
活動終了のお知らせを受けたときは、どう対応するか悩んだこともありました。結果として、お蔵入りになったイラストもあります。「ファンのみなさんにお見せしたかったな」と、チーム内で話すこともあるんです。
──それは……こたえますね。
興氏:
ゲーム的な影響はもちろんですが、私たちもホロライブのタレントさんが好きですので、ファンとしてショックというか……二重の悲しみと言いますか。
正直なところ、開発途中は「これ、やりきれるのか」と思ってしまうくらいダメージをくらってしまっていた時期もありました。
──一方で、ゲーム開発中にデビューしたタレントさんもいますよね。
興氏:
じつは、私たちが企画を立ち上げた時点では、「Justice(ジャスティス)」も「FLOW GLOW(フロウ グロウ)」もまだデビューしていなかったんです。ですから当初は、その時点で活動されている方々だけを対象に制作を進めていました。
開発を始めたころは、ちょうど「Advent(アドベント)」と「ReGLOSS(リグロス)」がデビューしたばかりの時期でした。そこから「なんとかリグロスまでは入れよう」と、クオリアーツさんがすごく頑張ってくださって。
──デビューして日が浅い方は、まだ参考にできる材料も少ないですよね。
興氏:
そうなんです。タレントさんって、日々の配信のなかでキャラクター性が決まっていく部分があるじゃないですか。
イラストを描く際にも「その子の一番らしさが出る部分を描こう」となる。ただ、デビュー間もない方だと「じゃあ今のらしさってどこなんだろう?」というところから、開発の過程で一緒に探りながら進める必要があって。そこはかなり大変でしたね。
それでもできる限り魅力を詰めこみたくて、配信をリアルタイムで視聴したり、ファンアートをたくさん見たり。「今のファンの解釈はどうなっているのかな」と確認しながら、調整を重ねていきました。
──たった1ヵ月、2ヵ月で、当初は思ってもみなかった属性がつくこともありますもんね。
興氏:
ええ。なので、そこはもう私たちも「寄り添って作っていこう」という覚悟を持って挑みました。
──それでいうと、新しく活動を開始された方の実装も、このゲームの楽しみですよね。たとえば「Justice(ジャスティス)」や「FLOW GLOW(フロウ グロウ)」を待っている方もいると思います。
興氏:
私たちとしてもできる限り早く実装したいと思っています。ただ、なにぶん本作は、タレントさんおひとりに関わる開発の物量がすさまじく多くて、どうしても一定の準備期間がかかってしまうんです。
具体的なことはまだ明言できないんですが、絶対いいものにしますので、どうか気長に待っていただけるとうれしいなと思っています。
掲げたコンセプトは「全員主役」。そのためにカードの実装数は絶対にそろえる
──54人という人数をゲームに登場させるうえで、方針として掲げていたものはありますか?
興氏:
私たちとして絶対にブレたくなかったのは「タレントさん全員の魅力をお伝えする」ということでした。内部的なコンセプトとして「全員主役」というものを掲げていたんです。
タレントさんご本人から見ても、ファンの方から見ても、「自分の推しがちゃんと主役である、特別である」と思ってもらう。それを考えの根底に置いておこう、と話していました。
その方針がもっともよく表れているのが、全員分の個別UIです。タレントさんを変えると、UIのデザインが全部変わるんですよ。
──54人分すべて個別で用意するというのは、とんでもない物量です。
興氏:
正直な話、こういう作りこみは開発として、決して効率的な考えかたではないんです。コスパでいうとよくありません。
それでも「全員主役」「タレントさんとファンが心から喜べるものを作る」という信念のもと、クオリアーツさんがいっさいの妥協を許さずにやり遂げてくださって……。いやもう本当に、すさまじい熱量で応えていただきました。
──個別UIのほかにも、その「全員主役」という方針が具体的に表れている仕様はありますか?
興氏:
「カードの実装数をそろえること」ですね。ここは絶対にやろうと心に決めています。
やっぱり悲しいじゃないですか。更新頻度のせいで、ファンに「自分の推しは公式からそこまで特別だと思われていないのかな」と感じさせてしまうのって。そういう思いをさせるのが、私はものすごく嫌なんです。
もちろん、一定の人気の差はどうしても生まれてしまいます。それでも全員の露出機会をなるべく揃える。それが結果的にタイトル全体の熱量につながるはずだと考えています。
……ただ、ひとつだけ申し訳ないところがあって。こんなことを言っておきながら、スケジュールの影響で、12月ぐらいに実装枚数の一時的な逆転が起きてしまうんです。
──季節やイベント時期による変動は、運営型のゲームであれば当然起こり得るものだと思いますが……。
興氏:
いや、その時期による変動についても、私たちは「全員の1枚目を実装し終わらないと、2枚目は絶対に実装しない」という考えで臨んでいたんです。
ただ、ゲーム内の衣装モチーフには「この時期にしか出せない」というものがあります。
当初は11月で1枚目を実装しきる想定だったのですが、リリース時期の関係で12月にはみ出てしまったんです。でも12月には時期モチーフの衣装を用意していて、これは時期をズラせない。その結果、一部のタレントさんの1枚目の実装が遅れてしまったんです。本当に、申し訳ないという気持ちです。
──一時的なスケジュールのズレはあれど「全員の更新頻度を同じにする」という方針をうれしく感じるファンは多いと思います。とはいえ、今後もその方針で運営していくのは相当大変そうな印象です。
興氏:
とくに大変なのは、やはり54人という人数がいること。しかも、イベントに出るキャラクターの組み合わせも毎回変えていきたい。そうなると、ものすごいパズルが発生するんですよね。
とはいえ、機械的に割り振るのではなく「関係性のあるタレントさんの組み合わせをお届けしたい」という思いもあります。54人のタレントさんをどういう組み合わせで実装していくか。かなり難易度が高いのですが、しっかり調整していきたいと思っています。
なぜホロライブのリズムゲームを作ることになったのか?
──ここからは、このゲームを作ることになった経緯についてお聞きしていければと思います。まず、そもそものきっかけは何だったのでしょう?
興氏:
もともとカバーさん側に「ゲームを作りたい」という構想があったんです。私自身はフリーランスのプロデューサーなのですが、たまたまご縁があってお会いする機会をいただいた際に、そのお話をうかがいました。
ただ、その時点であったのは「ふわっとリズムゲームみたいなものを作りたい」ということだけでした。私自身、その頃からホロライブが好きでしたし、『スクフェス』の開発に携わっていた経歴も含めて力になれるだろうと。それで「ぜひ私にやらせてください」とお伝えしたんです。それが始まりですね。
──「ホロライブでリズムゲームを」というアイデアを聞いて、興さんとしてはどう感じましたか?
興氏:
最初に思ったのは、「そのまま普通のリズムゲームは作りたくないな」ということでした。
というのも、『スクフェス』をリリースした当時は、スマホで遊べるリズムゲームというジャンル自体がほぼなかったんです。だからこそ、リズムゲームを出したこと自体がヒットのきっかけになりました。
でも今は、すでにさまざまなリズムゲームが溢れている。そのなかで「ホロライブのリズムゲーム」としてリリースした場合、好きな人はもちろん遊んでくれるでしょうけど、そこ止まりになるんじゃないかと思ったんです。
──ファンの方が遊んでくれるなら、ビジネスとしては成立しそうにも思えますが。
興氏:
ホロライブの既存ファンがプレイするだけでは、意味がないと思ったんです。
私自身もファンでしたから、作るからにはタレントさんやホロライブというIP自体が活性化して、タレントさんにも喜んでもらえるものにしたい。その気持ちが強くありました。だからこそ、「ただのリズムゲームじゃないもの」を作らないといけない、と。
──「ただのリズムゲームじゃない」というのは、具体的にはどういうことですか?
興氏:
そこが、本作の企画において一番大きく考えていたところですね。従来の考えかたで作った場合の問題はふたつありました。
ひとつは、リズムゲームというジャンルの問題です。リズムゲームは最初のとっかかりとしては遊びやすくていい。ただ、リズムゲームに終始してしまうと、どうしてもプレイスキルで人を振り落としてしまう。すべてのホロライブファンがついてこられるゲームにするのは難しいんです。
もうひとつは、「ホロライブのリズムゲームが遊べる」というだけだと、ホロライブのファン以外の方が手に取る理由がない、という問題です。
つまり、「ホロライブファンで音ゲーが苦手な方も楽しめるゲーム」でありながら「ファン以外の方も手に取るようなスケールの大きいゲーム」。そういうものを作りたい、というのが最初に思い描いたビジョンでした。
──裾野を広げつつ、既存のファンも取りこぼさない。かなり難しい両立に思えます。
興氏:
従来のリズムゲームは、「リズムゲームをするためにリズムゲームをする」というか、プレイすること自体が目的になっているタイトルが多いと思うんです。そこで私たちが考えたのが、リズムゲームを「大目的のための過程」として遊んでもらうこと。そういう体験を混ぜこむことでした。
参考にしたのは、自分自身の経験です。私はアクションゲームがあまり得意ではないんですが、『モンスターハンター』はすごく好きなんですよ。
「あのモンスターを倒せばこの素材が手に入る。この装備が作れる」という目標があるから、アクション部分がただのしんどいものにならない。目標のために頑張れるんですね。あの構造を、リズムゲームに持っていけないかと考えました。
現状、完全にうまくいっているとは言いづらい部分もあるかもしれません。それでも、この構造なら「リズムゲームは苦手だけど、進めるなかで出てきたからちょっと頑張ろうかな」となる。その過程で、ミニゲームやストーリーといった要素も楽しんでもらえます。リズムゲームに終始させないことで、音ゲーが苦手な方にも遊んでもらえるゲームにしたい。そういう思いで作っています。
──「ホロライブの配信」と「ゲーム」、その両方があることにはどんな意味があると考えていましたか?
興氏:
おこがましい話かもしれませんが、配信とゲームが、お互いを支え合う「両輪」のような関係になったらいいなと考えていました。
ゲームがきっかけで配信にもより興味を持ってもらう、配信でタレントさんのことが好きになってゲームももっと楽しんでもらう。そういう環境を将来的に作ることができたら、私たちにとっても、タレントさんにとっても素晴らしいことなんじゃないか。そう思っていました。












