「このくらいならユーザーのみなさんも耐えられるんじゃないか」。“人の心がない”と言われる展開の、作り手の本音
──この1年のストーリー展開をふり返って、とくに印象に残っているエピソードを教えてください。
ジェソン氏:
私の場合は、メインストーリー43章の内容とプリンセスの物語ですね。
プリンセスは、V.T.C.の技術によって、長年生き続けてきました。直接的には描かれていませんが、そのあいだに数多くの悪いことをしてきたはずなんです。
それがネオンの痛ましい過去と絡みあうことで、ユーザーのみなさんがプリンセスに同情したり、好きになってくれたりしました。そのことじたいが、私にはすごく印象的でした。キャラクターのこれまでの歩みよりも、「最後にどんな選択をしたか」のほうが大切なんだと感じさせられましたね。
ジョンヒョン氏:
私は「STAR ANIS」ですね。以前からアニスには「炭酸水がすごく好き」という設定がありましたが、その理由が「STAR ANIS」のなかで描かれました。
物語のなかでは、彼女たちにとって大きな事件だったかもしれませんが、私としては「なぜ炭酸水が好きなのか」を知れたことが、けっこう印象に残っています。
ヒョンソク氏:
ちょっと待ってください。どうしておふたりの口から「アークガーディアン作戦」の話が出てこないんでしょうか。理解できません。この1年なら、いちばんはアークガーディアン作戦でしょう。
──三者三様ですね。それだけ、この1年は心に残るエピソードが多かったということでしょう。
ヒョンソク氏:
それから個人的には、「エイプリルフール」が、1年のなかで楽しめるレギュラーコンテンツのひとつになってきていると感じています。来年のエイプリルフールもいま準備していますので、ぜひご期待ください。
──いまお話にあがったエピソードもそうですが、壮絶なストーリーも『勝利の女神:NIKKE』の魅力です。ちなみに、作っている側から見ても「これは人の心がないな……」と感じるときはあるのでしょうか?
ジェソン氏:
私はありません。
ジョンヒョン氏:
やはり“人の心がない”から、そう言えるんですよ(笑)。
ジェソン氏:
私はシナリオを書く立場なので、つい「このくらいならユーザーのみなさんも耐えられるんじゃないか」と思ってしまうんです。
──それは人の心がないのかもしれません……(笑)。
一同:
(笑)。
ヒョンソク氏:
私はありますよ。「GODDESS FALL」で、クイーンがラプンツェルをいとも簡単にバラバラに壊してしまうシーンですね。あまりにも暴力的で、まさに人の心が感じられませんでした。
あのときは、ジョンヒョンさんに個人的に「ここにガラスが割れる音を入れてほしい」とお願いしました。粉々に砕ける絶望感を強く出すには、金属音よりもガラスの音のほうがいい。そうこだわった部分なので、印象に残っています。
──「ガラスの音」というのは、女性キャラクターならではの儚さのようなものも込めた表現なのでしょうか?
ジョンヒョン氏:
いえ。キャラクターの表現というよりは、文字どおり「いろいろなものが壊されて、割れる」という意味あいを、ダイレクトに盛り込みたかったんです。
ヒョンソク氏:
単に「壊れる」というより、はっきりと「割れる」。その衝撃が非常に強く伝わる表現になりました。
実際、金属が壊れる音よりも、ガラスが割れる音のほうがずっと刺激的なんです。すべては、あの“人の心がないシーン”を最高のものに仕上げるための工夫でした。
ジョンヒョン氏:
“人の心がない”と感じた展開で言えば、私も「GODDESS FALL」からになりますが、記憶に残っているのは最後のアニメーションです。
「OVER ZONE」を作り始めたころ、ジェソンさんに「リリーバイスって、のちにクイーンになって登場したりしそうですね」と話した記憶があるんです。
その想像が現実になったのを目の当たりにして……。そこからの怒涛の展開を見ていて、やはり容赦がなさすぎる、あまりにも残酷だなと思いました。
ヒョンソク氏:
メインストーリー46章も残酷でした。ドバンの策略によって、ピナの姿をした量産型ニケの大群がドロシーに差し向けられるじゃないですか。「あそこまでの数にする必要があったのか」と言いたくなりました。
斬新な手法で“人の心のなさ”を表現した、すさまじいシーンですね。こういうストーリーを書く人は、つくづく悪い人ですよ。
悲壮感が際立ち、セリフが映える。この1年でその狙いがもっともハマったのは、「GODDESS FALL」の最後のアニメーションだった
──公式YouTubeチャンネルで公開された4周年開発スタッフコメンタリーで「アレンジ版などを除き、リリース後の4年間で約700曲を手がけた」というお話がありました。曲数が増えていくなかで、制作体制や進めかたはどのように変わってきましたか?
ジョンヒョン氏:
じつは、サービス開始当初から制作体制や進めかたは大きく変わっていないんです。
あえて変わった点を挙げるなら、キャラクターや状況の「テーマ」をより積極的にとり入れるようになったことですね。『NIKKE』も長く続き、登場人物の物語が積み重なってきたので、それをうまく音楽に活かしています。
もちろん私ひとりで全曲を作っているわけではなく、優秀なスタッフたちと一緒に制作しています。基本的にはシナリオを読んで、「ここでユーザーにこういう感情を抱いてほしい」という狙いをもとに作っています。
──曲を作る際、シナリオ担当サイドとはどのようなやりとりをしているんでしょう。
ジェソン氏:
じつは私たち、あまり直接的なやりとりはしていないんです。シナリオが完成してジョンヒョンさんにお渡しすると、たいてい、いつの間にか曲ができあがっているんですよ。
シナリオがまだ完成していない段階でも、彼がふらっと訪ねてきて、「今回のテーマはなんですか?」「題材はなんですか?」と聞いてくることがあります。
それに答えると、やはりいつの間にか曲ができあがっている。だから、彼がどんなプロセスで作業しているのか、私にはさっぱりわからないんです。
ジョンヒョン氏:
直接のやりとりが少ないのは、最近は既存キャラクターの変化を描くことが多いからかもしれません。じつはサービス序盤には「この人物はいったいなぜ登場するんだろう」と思うこともあったんです。
端役に見えるのに専用イラストが用意されていて、「いまは出番が少ないけれど、あとで絶対になにか起きるんだろうな」と感じさせる人物ですね。
初期フェーズでは、そうした設定のすり合わせをよくしていました。その積み重ねがあるからこそ、いまは多くを語らなくても済むようになったんです。物語の蓄積によって、音楽として「やるべきこと」が明確になったのだと思います。
──同じコメンタリーで、曲作りでは「どのタイミングでどんな曲を流せば、悲壮感が際立ち、セリフが映えるか」を常に意識されているともおっしゃっていました。この1年でその狙いがもっともハマった場面はどこでしょうか?
ジョンヒョン氏:
それもやはり、「GODDESS FALL」の最後のアニメーションですね。
先ほどの話にもつながりますが、「OVER ZONE」のプロローグでリリーバイスを見たときから、「彼女はいずれクイーンになる」という予感があったんです。当時はまだそんなシナリオは存在しなかったのですが、強い確信がありました。
だからリリーバイスのテーマ曲を作るときも、「のちにボスとして登場したら、こんな雰囲気になるだろう」と想像していたんです。結果的に、あの破壊的な場面に曲が見事に馴染んでくれました。
ヒョンソク氏:
曲名についてもお話ししておいたほうがいいんじゃないですか?
ジョンヒョン氏:
タイトルがちょっと覚えにくいんですよね。「001 129 129 208」になっているはずです。
曲名にそのまま「リリーバイス」と書いてしまったら、それだけで重大なネタバレになってしまうじゃないですか。なので、ネタバレを避けつつ「リリーバイスの曲だ」とわかるように、ああいう別のかたちで示したかったんです。
ヒョンソク氏:
クイーンのバトルシーンの冒頭や、登場時の演出もとても素晴らしかったと思います。
ジェソン氏:
私は「ARK GUARDIAN」ストーリー2の演出ですね。最後のテキストが出るときに「Nearly White」の曲が流れて、タイトル画面に戻ってもその曲がずっと続くんです。ただでさえ胸が締めつけられるような曲が、つらい物語と重なる。あの見せかたは最高でした。ものすごく印象に残っています。
物語は4周年を境に大きな区切りを迎え、幕が下りたところから新しい物語が始まる
──この4年間で、開発チームじたいにもさまざまな変化があったと思います。いちばん大きく変わったと感じるのはどんなところでしょうか?
ヒョンソク氏:
ここで初めてする話かもしれませんが、『NIKKE』の開発チームが組織され、チームの文化が形づくられたのは、コロナ禍の真っ只中だったんです。
だからおもしろいことに、いまでも開発メンバーは外食より自席で食事をとるのを好んだり、会食に慣れていなかったりするんですよ。コロナ禍の名残ですね。ただ、そうした文化も少しずつ、いい方向へ変わってきています。
──コロナ禍の真っ只中に生まれたチームならではの、意外な一面ですね。
ヒョンソク氏:
また、開発プロセスでは、みんなが心をひとつにして動ける環境ができてきました。
先ほどジョンヒョンさんが、物語を見ればやるべきことがわかると話していましたね。メンバー全員が『NIKKE』の物語や「なにを見せるべきか」への理解を深めて、それを汲み取るスピードが格段に上がったのだと思います。
ジェソン氏:
私が実感しているいちばん大きな変化は、開発チーム全員の技量がすさまじく上がったことです。以前なら100の仕事に100の時間をかけていたのが、最近は80の時間で済むほどになりました。
では、余った20の時間で休むのかというと、そうではありません。また別のものを作るんです。そうしているうちに、ゲーム全体のクオリティがどんどん底上げされていきました。上がった技量で生まれた余裕も、次のものづくりに回す。そんなストイックさも含めて、チームは大きく変わったと感じています。
──4周年以降、指揮官をいちばん驚かせたいポイントはどこでしょうか?
ジェソン氏:
新しい舞台、新しい登場人物、そして新しい展開が待っています。「『NIKKE』でこんなことにも挑戦するのか!」と驚いていただけるような内容になるはずです。
ただ同時に「自分が遊んでいるのは『NIKKE』なんだな」と安心していただけるように、馴染み深い部分に新しさを乗せていくことを目標にしています。
ヒョンソク氏:
『NIKKE』らしさを保ちながら新鮮さを届けるという方針は、ストーリー以外の部分でも同じです。
『NIKKE』も5年目を迎えるにあたって、長く遊んでいただいているぶん、システム面ではどうしても古く見えてしまう部分もあると思うんです。なので、ゲーム内のさまざまな改善を積極的に進めていく1年にしていきます。詳細は、今後のデベロッパー・ノートにご期待ください。
──最後に、日本の指揮官のみなさんに向けてメッセージをお願いします。
ジェソン氏:
4年間も愛してくださって、本当にありがとうございます。たくさんの幸せを感じることができたのは、ひとえに指揮官のみなさんの愛があってこそです。
物語は4周年を境に、大きな区切りを迎えます。ですが、その幕が下りたところから、また新しい物語が始まります。
みなさんに「4年間愛情を注いできてよかった」と思っていただけるよう、よりよい物語を準備していますので、ぜひ楽しみにお待ちください。
ジョンヒョン氏:
ひとりのクリエイターとして、この素敵な物語をみなさんと分かちあい、一緒に涙を流し、一緒に喜ぶことができたのは、このうえない光栄です。とても感謝しています。
みなさんからたくさんの応援とエネルギーをいただいたおかげで、ここまでやってこられました。いただいたあたたかい気持ちを大切にしながら、これからも最高のコンテンツをお届けしていきます。
ヒョンソク氏:
『NIKKE』の開発に携わる者として言うと、“人の心がない”というのは褒め言葉だと思っています。
4周年で大きな区切りを迎え、来年からはまた新しい展開をお届けしていきます。ジェソンさんにはこれからも“人の心のない人”であり続けてもらい、ジョンヒョンさんは彼の“人の心のなさ”をサウンド面から全力でサポートする。そして私は、このふたりをサポートする。その役割を、しっかり果たしていくつもりです。
初心を忘れず、これからもずっと同じ気持ちでがんばっていきますので、ぜひご期待ください。
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