たった2年で『ペルソナ4』へ。描きたかったのは「リテラシー」と「殺人事件」
── 『ペルソナ3』が2006年に発売され、次のナンバリングタイトル『ペルソナ4』は2008年と、わずか2年後の発売でした。当時の現場を思い出していただき、どんな状況・背景で、2年で『ペルソナ4』を出すことになったのかをお聞かせください。

橋野氏:
2年間というと今は短い印象ですが、
副島氏:
昔、自分が入社したときなんかは、複数タイトルに関わっていれば年に1本ぐらいリリースされていたような印象でした。
橋野氏:
だけど何よりも『ペルソナ3』が出た時は口コミで結構評判が良くて。会社的にも前は赤字ばっかりだったなかで、利益も少し出たということで「またすぐ作らなきゃ」というムードがあったと思います。ユーザーさんが『ペルソナ3』をちゃんと楽しんでくれている間に「しっかり続きをまた作りたい」というかたちで急いで作ったのは覚えています。それ以上の理由は特にないですね。
── では、『ペルソナ4』のテーマや、橋野さんがどのようにアプローチしたのか、注力したポイントについてお聞かせください。
橋野氏:
『ペルソナ4』は『3』と同じ登場人物たちがまた出てくるわけではないんですが、『3』の時は「時間が限られている。だから充実して今を生きよう」というふうに思った登場人物たちが「次に葛藤を受けるとしたら」と考えたんです。
つまり、いまを充実させようと思っても、世の中にはいろんな情報が溢れています。何を信じて、何を嘘と見抜けばいいのか。そういう「リテラシー」がなければ、いかに今を生きようと思っても、うまくいかないんじゃないか。そう考えたことが、テーマを決めたきっかけだったような気がします。後付けかもしれないし、当時から考えていたかもわからないんですけど。
── 『ペルソナ3』から『ペルソナ4』にあたって、他にもインスパイアされた要素や変わったりしたテーマがあると思いますが、いかがですか。
橋野氏:
「殺人事件もやりたいな」という話はしていて、チームの人とはその話をしました。副島さんにも、事件の絵を描いてもらいましたね。
副島氏:
そうですね「舞台を田舎にして、事件が起きる話にしよう」とか、そういう話を最初はしました。
橋野氏:
副島さんにイラストをお願いするとボロボロの女子高校生が川に浸かって、何が起きたんだってぐらいの悲惨な絵が最初にあがってきていましたね(笑)

影響を受けた作品でいえば、僕は金田一耕助の話が好きなんです。金田一の話って面白くて、いろんなしがらみのある田舎の町で事件が起こるんですよ。
そこに東京から呼ばれた、風来坊のような金田一耕助がやってきて、田舎の風習をぐっちゃぐちゃにぶっ壊しまくるんです。最後は「この人が犯人です」と明かして、犯人は自殺して、だいたい全てをぶっ壊したまま飄々と東京に帰っていくんです。
つまり、動かないまま固まっていた文化を、外からやってきた「異邦人」がぶっ壊して帰っていく構造なんですね。
そこがすごく面白いと思っていて、『ペルソナ4』でもやれないかなと考えたんです。主人公が都会からやってきて、探偵ごっこをして、事件を解決して帰っていく。ほかのみんなはその町に残っている。その形でジュブナイルを作った記憶があります。

地続きに感じる短いスパンでの開発。それぞれのおもいや感じた変化
── 『ペルソナ4』の音楽について『ペルソナ3』とは全体的にトーンが変わり、よりロックに寄せた方向性があったと思います。その背景を教えていただけますか。
目黒氏:
まず橋野さんは「2年って、当時は意外と長い」というお話でしたが、僕は結構短いなと思っていました。
多分その頃、僕は『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 アバドン王』の音楽をやっていて、いっぱい曲を書かなきゃいけませんでした。それでコンセプトを考えている暇がなかったんです。
だから『ペルソナ4』の世界観が、見た感じでポップなロックがちょっと似合いそうだな、という単純な考え方でポップロック的なものにしたと思いますね。
── 副島さんは、キャラクターデザインにおいて進化したところや、新しく挑戦したところはいかがでしたか。
副島氏:
『ペルソナ3』の時は、プレッシャーなく「わーい」って描いちゃった感じがあったんです。でも、『ペルソナ3』を作って、その次を作るとなると、比較対象ができて、少しクレバーになる感覚がありました。
だから、テーマカラーを選ぶにしても、キャラクターの衣装をデザインするにしても、目的意識ができた印象はあったかもしれないです。
本当は『3』みたいにゼロイチで組み立てないといけなかったとは思うんです。けれど、当時はまだ若かったので、『3』を前提として、じゃあ続編の『4』はどうしようか、と考えていました。
具体的には、『4』は田舎が舞台と聞いて「その舞台に似合う洋服やトーンはどういうものなんだ」とか、「田舎の子と言ったらジャージを着てるよね」と考えていました。
あとは、アイコニックなものをどうやってキャラクターデザインに入れ込むかを、『ペルソナ3』の時より頭を働かせて作っている印象です。

── 『ペルソナ4』においては、印象的だったエピソードや意見が割れた点はありましたか。
橋野氏:
僕は目黒さんには、「こういう曲で」と言ったことはほとんどないんです。「こういうゲームで」という説明はすごくするんですけど、基本はお任せですね。
副島さんから上がってきたもので、唯一言ったのは、松永綾音というキャラクターについてです。このキャラクターはけっこう地味な子なので「もうちょっと可愛くしたら」とは言いましたね。結果としては変わらなかったですけど(笑)

副島氏:
最初に橋野さんから聞いたのが「金田一耕助と田舎の殺人事件」で、その後もビジュアルにするとものすごく暗くなりそうな資料を渡されたんです。これをそのまま描いたら相当暗い感じになりそうだとおもいまして、いかに明るさモチーフの暗さを両立するか、ということをよく考えたことを覚えています。
目黒氏:
僕はドラマの『トリック』を全部観ろと言われましたね。見なかったですけど(笑)
橋野氏:
あまり覚えてないですが。あんまり揉めなかったような気がしますね。
── 逆に、『ペルソナ3』を一緒にやったうえで『ペルソナ4』に臨み、チーム内での協力関係が変わったり、慣れてきた部分もあったのではないかと思いますが、いかがですか。
橋野氏:
作り方的に『ペルソナ3』の時は「シナリオを作っているチームはシナリオを作る」ように分業的なスタイルで、たとえばダンジョンを作っている人たちがシナリオに対して意見を言うことはなかったんです。
でも『ペルソナ4』から、部門を跨いでいろいろなスタッフに意見を聞くようになりました。シナリオが上がれば、それはデザイナーでもプログラマーでも、みんなにシナリオを読んでもらって、感想をチーム内で集めたり。キャラクターデザインについても、まずラフが上がったらメインのスタッフに見てもらうかたちに変わったと思います。
『キャサリン』が『ペルソナ5』開発に与えたもの。大人の恋愛を描いて高まったジュブナイルへの創作意欲
── その流れで、時系列で『ペルソナ5』についてお伺いします。『3』から『4』までは2年のスパンでしたが、『4』から『5』までは8年ほどと長い時間がありました。まず『ペルソナ5』に至る背景はいかがでしたか。
橋野氏:
『3』が終わって『4』をすぐ作って、『4』もおかげさまでプレイヤーの皆さんに結構喜んでもらえました。『ペルソナ4』はギャグ要素とかも結構入れたりして、ライトな感じで明るく作っていましたね。
『ペルソナ4』を作り終えて、そこでなぜか「変なものを作らなきゃ」という強迫観念があったんです。だから、すぐペルソナはやらずに、『キャサリン』【※】という作品を立ち上げたんです。
※『キャサリン』…… 2011年にアトラスが発売したアクションパズルゲーム。恋人との結婚に悩む30代男性・ヴィンセントが、謎の女性キャサリンとの浮気と悪夢に翻弄される物語。悪夢の中でブロックを動かして塔を登るアクションパズルが特徴。
『ペルソナ』の方がうまくいっていたので「今ならこの変な企画が通るかもしれない」と思ったんですね。経営者に「これを作らせてください」と言ったらすんなり通って、奇跡的に変なゲームが立ち上がったんです。ただし、会社には「すごく短い時間で作ります」と言っていたのに、作っているうちにすごく時間がかかってしまいました。
なにより『キャサリン』を作っていると「もうやだな、この大人の恋愛」と感じて、高校が舞台のジュブナイルがすごく作りたいという気持ちになっていったんです。
プレイヤーの皆さんは、そのプレイ時間だけのお付き合いでいいんだと思うんですけど、『キャサリン』を2年も3年も作っていると、本当に辛い気持ちになったんです。
── ある意味、『ペルソナ5』に取り組むにあたっては原点回帰したような気分だったのでしょうか。

橋野氏:
いや、『3』と『4』とはけっこう変えなきゃいけないとは思っていました。
なので当初は高校が舞台である設定もやめて「10代の高校生がバックパックを背負って世界中を旅する」ような、旅行のゲームにしようという方向で進んでいました。でもだんだん作りづらくなってしまったんです。
副島氏:
「旅行」の企画段階で、たくさん絵を描きましたよね。
橋野氏:
そうですね。結果として方向転換をしたのですが、初期の頃に時間をかけてしまって少し詰まってしまったため、開発期間が伸びてしまったという経緯もありました。
また、会社周りも親会社が変わったりとゴタゴタしていて、色々あった時期なんです。
副島さんからは「鼻を明かすゲームにしましょうね」と言われて「どうやって、誰の鼻を明かそうか」と、手こずった思い出があります。
── 副島さんはいかがでしたか。キャラクターデザインにおいて、当時色々と手探りだったところはありましたか。
副島氏:
さっき話にあった『キャサリン』は日頃やらないテイストの作品で、転機になったと考えています。
橋野さんはよく「日頃見ないものを見てみたい」ということを言うんです。そこで僕は一応「清純派」で売っていたところが、突然「アダルトなものを描け」と言われたんです(笑)

でも、技術的なところを言うとフル頭身のモデルでイベントや演出をすることなども経験できたんです。だから『ペルソナ5』の実験という側面もあり、非常に有意義でした。
だから、「じゃあ次、いよいよ『ペルソナ5』を作るぞ」という感じで、気持ち的には前向きに取り組んだ作品でしたね。
『ペルソナ5』で「怪盗」がテーマになった背景
── 目黒さんはいかがですか。音楽面では『ペルソナ5』はジャズ寄りの要素が強くなりました。『ペルソナ5』での転機についてお聞かせください。
目黒氏:
僕は『キャサリン』を間に挟みつつ、ペルソナシリーズが本格的に始動するまで時間があったので、コンセプトを考えるために長く時間をかけさせてもらえたんです。
でも、2年くらい「ああでもないこうでもない」と考えても、なかなかいいアイデアが浮かびませんでした。このままだと、怪盗団の話ならよくある『ルパン三世』みたいな、ブラスセクションを使ったビッグバンドっぽいジャズになるのかなと考えていたんです。
最終的には先ほど申し上げたジャミロクワイの初期みたいな感じになりました。きっかけは覚えていませんが、ジャミロクワイの初期がちょうど1980年代後半から1990年代の前半ごろで20年以上前なので、2回りくらい前の時代の音楽なんです。
だから、みんなアシッドジャズ【※】が流行ったのを覚えてないだろうな、と思ったんです。新しい世代の人もあまり聞いたことがない「ちょっとかっこよさそうな曲」が「怪盗団の高校生がちょっと背伸びしてかっこつけている感じ」と合うんじゃないかなと思い、アシッドジャズをテーマにしましたね。
※ジャミロクワイ/アシッドジャズ…… アシッドジャズは、1980年代後半から1990年代前半にかけてロンドンのクラブシーンで生まれた音楽ジャンル。ジャズにファンクやソウル、ヒップホップの要素を掛け合わせた。ジャミロクワイは、そのムーブメントから登場したイギリスのバンド。『ペルソナ5』のサウンドの方向性を理解する手がかりになる。
ちょうどあの頃、日本でサチモスといったアシッドジャズのバンドが流行り始めてたんです。だから発売が遅くなったことで時期がかぶっってしまい「俺が考えたネタなのに、俺が考えたものじゃなくなっちゃったな」と思った記憶があります(笑)
── 目黒さんのお話にもあった「怪盗団」が『ペルソナ5』の転機だと思います。橋野さんが「怪盗団でいこう」と思った背景や、ストーリーで注力されたポイントはいかがですか。
橋野氏:
『4』の時は、殺人事件とか金田一とかがありましたが、『ペルソナ5』については昔からルパンが好きだとか、怪盗が好きだから今度は怪盗にしようというのはありませんでした。
ただ『5』を制作しているときは毎年のように『ルパン三世』の長編アニメが公開されていて、『ルパン三世』ってなんでこんなに長く愛されているんだろうと思ったんです。いっぽうで、怪盗ってジャンルのキャラクターは『ルパン三世』以外にあまりいないとも思いました。
だから、もし『ペルソナ』で怪盗をやって、「怪盗いいじゃん」って思われたら、ちょっと面白いかなと思って選んだんです。

あともうひとつ。怪盗って何を考えているかわからないんですよね。
怪盗をモチーフにした作品は基本的に、最後に「実はこんなこと考えてました」って種明かしを「他人である怪盗」からされる構造なんです。これをもし、プレイヤーと一心同体の自分が動かすキャラクターが「怪盗」である場合、シナリオを作るのは難しいだろうと思いました。
そのいっぽうで、もし上手く「怪盗」が主人公のゲームを作れたら面白いだろうと思いチャレンジしたという経緯です。
「自立」への怖さを描いたジュブナイルと、それぞれの「自己投影」
── 本日のお話ではずっと「ジュブナイル」が大きなキーワードとして挙げられていますね。『ペルソナ5』に出てくる大人たちは、印象的な悪人が多いですが、ジュブナイルとして大人をどう捉えているのでしょうか。
橋野氏:
別に大人が悪いというわけではないんです。
「自立」って言葉があるじゃないですか。自ら立つ。この大地に両足で立って、自分の目でこの世界がどうなっているのかをしっかりと見る。
誰かに「この世界ってこうなってるから、こう生きた方がいいよ」と言われるのではなく、参考にはしつつも自分の目でしっかりと見て「この世界は今こうなってて、自分の良さや弱さは多分こうだろう、だからこう生きていこう」ということを考える。
これが「少年少女から大人になるステップ」という意味でジュブナイルですよね。

ただ、それって怖いじゃないですか。「正解とされてきた、「大人世代から言われた生き方」ではない生き方を自分で選ぶのは、なかなか難しいと思うんです。
皆さんも人から勧められた進学先や進路じゃなく、自分がこうしたいと思って飛び込んでみた経験があるかもしれないですね。正解もないし、わからないけど「多分これが正しいんじゃないか」と考えて先に進む。たぶん、それが大人になるってことだと思うんです。
その時に邪魔になる誘惑や邪魔になる誰かの決められた価値観をどうやって打ち破ればいいのか。そういった道筋を『ペルソナ5』では描きたかったんです。
たとえば『ペルソナ5』では露骨に「学校ってこういうもんでしょ」という、金メダリストの鴨志田【※】みたいな人物を学校に置いて、「お前たちはこう生きろ。自分に従ってればいいんだ」という世界を描きました。
そこで、どうやって鼻を明かして「誰かに支配された世界を、自分たちで選んだ世界に変えるのか」ということにこだわっていた気がします。
※鴨志田……『ペルソナ5』に登場する鴨志田卓。主人公が通う秀尽学園高校の体育教師で、バレー部の顧問。元オリンピック金メダリストという立場を盾に、学校を支配している。怪盗団が最初に「改心」させる標的となる人物。

── 目黒さん、副島さんにもお伺いしたいのですが、各作品において、ご自身のテーマや取り上げたテーマ、キャラクターなどにどこまで自己投影されているのでしょうか。
副島氏:
どちらかといえば、自己投影というより「こうだったらいいな」「こうなりたかったな」という「理想」ですよね。
「こういう学園生活だったらよかったな」という理想を意識しているという意味では、反対の意味で自己投影はしてるかもしれないです。

目黒氏:
音楽はちょっと、自己投影って難しいんです。
橋野氏:
でも、プレイをイメージして音楽を作るんですよね。そこは投影しないの?
目黒氏:
自己がプレイしてる感じを投影……確かにそうですね。
それを自己投影とすると、僕は曲を作る時にニュートラルな感情の状態から「こういうゲームでこういうシーンで」という想像をして、「自分自身がどういう感情になるか」をイメージして作るんです。
だから、そういった意味で自己投影をしていると思います。そうした制作スタイルで楽曲を作っているので、基本的に日々の生活では怒ったり悲しんだりはあまりしたくなくて、常にフラットな感情で過ごしたいと思っています。
副島氏:
キャラを描くときにも、そうした感情のスイッチみたいなものはあります。やっぱりキャラクターを描いているとき、怒っている顔を描くと、怒っている顔になるんですよ。最近は顔に出さずに描く術を身につけましたが、会社で座席を決めるときには「自分が描いているところを見られない場所に、席を置いてください」って言うんです。
橋野氏:
誰も見てないよ。見てない(笑)
目黒氏:
見てますよ(笑)橋野さんに「目黒さんさ、すっごい怒って曲書いてるよね」と言われたことがあります。
橋野氏:
サウンドブースに小窓があるんですが、用事があって行こうとすると、目黒さんがすごく下を向いて難しそうな顔をしていることがあるんです。だから、「ちょっと入るのやめておこう」ってなるんです(笑)
