ソニーは10月28日、小型空間再現ディスプレイ「ELF-MN1」の発表およびメディア向け体験会を開催した。
本製品は、専用の3Dメガネやヘッドマウントディスプレイを装着することなく、3DCGのキャラクターやオブジェクトを立体映像として鑑賞できる6インチのディスプレイだ。発売は2026年12月11日を予定し、市場推定価格は5万4000円前後(税込)となる。
従来の空間再現ディスプレイは、3DCG制作や工業デザイン、医療などの業務用途を中心に展開されてきた。一方、今回の「ELF-MN1」は小型化とスマートフォンへの対応によって、個人クリエイターや一般ユーザーにも利用の幅を広げている。
……つまり、裸眼3Dで“推し”を好きに眺められる未来が近い。
体験会では、Gugenka(グゲンカ)が展開中のデジタルフィギュアサービス『ホロモデル』をはじめ、AIキャラクターと話せるアプリ「Animates」、Steamで発売予定の『Fenestra: my focus, her future』など、「ELF-MN1」に対応するソフトウェアのデモを体験することができた。
本稿では、発表会で明かされた製品の特徴とともに、ゲームやキャラクターコンテンツにおける活用の可能性を紹介していく。
専用メガネなしで立体映像を楽しめる6インチの小型ディスプレイ
まず、ソニーの「空間再現ディスプレイ」について簡単に説明しておこう。
空間再現ディスプレイは、視線認識センサーによってユーザーの瞳の位置をリアルタイムに検出し、その位置に合わせた立体映像を表示できるディスプレイだ。
見る位置に合わせて投影するため、ユーザーが顔を左右に動かしたり、ディスプレイをのぞき込んだりすると、それに応じて映像の見え方も変化する。
ソニーはこれまで、同技術を採用した「ELF-SR1」「ELF-SR2」を展開している。しかし冒頭でも紹介したように、これらはどちらかと言えば業務用の製品で、おいそれとは手が出せない価格帯であった(50万円前後)。

一方でこのたび体験できた「ELF-MN1」は「創造の世界を、机の上の日常に。」をコンセプトに、一般ユーザーにとっても身近な製品を目指している。50万円から5万円台って、どうやってここまでお安くできたんですか、ソニーさん。
そんな本製品の特徴のひとつが、透明なアクリル製スタンドを採用した筐体デザインだ。
画面と机の境界を目立ちにくくすることで、映像の中のキャラクターが現実空間に存在しているかのような印象を与えてくれるのだという。
また、Windows PCにくわえて、iOS/Androidスマートフォンとの接続にも対応していることは大きなポイントだ。USB-Cケーブルをたった1本つなげるだけで、対応アプリの裸眼立体映像が楽しめる。
スマートフォンへの給電機能も備えているため、机の上にキャラクターを常時表示するといった使い方も想定されている。
いちオタクとして興味深い展示だったのは『ホロモデル』だ。
本サービスはこれまで、スマートフォンのAR機能を利用し、現実風景にキャラクターを表示して写真撮影を楽しむものだった。それが本製品につなげば、裸眼立体視で目の前にキャラクターが現れるようになる。
体験会では「初音ミク」や『Re:ゼロから始める異世界生活』のヒロイン「エミリア」が展示されていた。視線認識でキャラクターがこちらに顔を向けるので、なんだか実際に見つめられているような気分である。写真越しでは立体感をお伝えできないことが残念だ。
『ホロモデル』では複数のキャラクターを並べて好きなポーズを取らせたり、その配置を保存するシーン保存機能、登録したポーズを順番に切り替えるプレイリスト機能にも対応するそうだ。設置環境に合わせて光源や影の向きを変更することもでき、キャラクターの実在感をさらに高めている。
当初は「デジタルフィギュア」という概念があまりピンと来なかったのだが、「ELF-MN1」越しに眺めてみるとその魅力がよくわかる。アニメーションするうえ立体的に見えるので、バーチャルなのに実在感がある。これなら確かに欲しくなる。
AIコンパニオンアプリ『Animates』では、ディスプレイに立体表示されたキャラクター「Ani」(もとはAIチャット「Grok」のキャラクター)との音声会話を体験できた。
筆者はふだんから帽子を逆向きに被って取材しているのだが、Aniにそのことを指摘され、さらには「カッコイイ」とまで褒められ思わずニヤけてしまった。
カメラを通じてユーザーの外見を認識し、リアルタイムに会話してくれるのがこのデモの特徴だ。平面の画面越しではなく、目の前に立体的に現れたキャラクターから直接話しかけられると、これまたひと味違った体験になる。
STAYRESIDENTが手がける『Fenestra: my focus, her future』のデモでは、ディスプレイに本作で育成する少女「フェネストラ」が投影されていた。これはゲームを起動したうえで「ELF-MN1」側に出力しているとのことだ。まだ開発中のものではあるが、実際のゲームとはまた違った体験になりそうだ。
いままでモニター画面の中に閉じ込められていた推しが、自分の生活空間に一歩近づいたような感覚。デモをほんの少し触っただけでも、そんな夢のような時代が近づいているのだと感じずにはいられなかった。
頭を左右に動かして自機を操るシューティングゲームが面白すぎた
体験会で長々と足を止めてしまったのが、本製品を使ったシューティングゲーム『PARALLAX FIELD』だ。

空間コンテンツクリエイターのVoxelKei氏が制作したもので、ディスプレイのトラッキング機能を利用。プレイヤーが頭を左右に動かすと、それに連動してゲーム内の自機が移動する。
自機は自動で攻撃するため、頭の位置を調整しながら敵の弾をよけ続け、ボス敵の撃破を目指していく。シールドゲージがゼロになるとゲームオーバーだ。パワーアップアイテムを取得すると、攻撃できる敵の数が増える。
大きく頭を動かすよりも、細かな位置調整を繰り返すほうが安定してプレイできた点が特徴的だった。また、ステージが進むと背景の見せ方が変化し、空間に奥行きを感じられるようになる。
頭の動きで機体を操作するという新しい体験、そして絶え間ない弾幕を意外と避けられる手ごたえが相まって、プレイに夢中になってしまった。これ、すごい楽しい。
なおVoxelKei氏によれば、なんとシューティングゲームを作ったのは初めてなのだというから驚きだ。

また、同氏は空間表現のデモ『Inverspherarium』も展示していた。
こちらはVR空間で表現していた立体的な世界を、卓上に持ち込むという試みだ。まるで一つひとつの空間が球体の中に閉じ込められたようなデモで、クリエイターによって新しい表現が生まれる可能性を感じるものだった。

このほか、ソニー社内のクリエイター作品や、メディアアーティストの坪倉輝明氏による『Rain Shelter-雨宿り』、XR/CGクリエイターのYORIMIYA氏による『CHARA³ CLOCK』、ビビビ技研のオレンジ氏による『MEISHI Pop!-メイポプ!』『Vマド mini』などが会場に展示。
立体的な空間表現からキャラクターを楽しむコンテンツ、さらにはカードを使って好きなキャラクターを召喚できるデモから、バーチャルにアクアリウムを再現したものまで、「ELF-MN1」の特徴を生かした作品をさまざまなクリエイターが制作している。






個人クリエイター向けの開発環境も用意
「ELF-MN1」は、既存のアプリケーションを楽しむだけでなく、コンテンツを制作するための開発環境も用意されている。
現在、独自のコンテンツを制作するクリエイター向けに、Unity用プラグインの提供とOpenXRのAPIへの対応を進めているとのことだ。これにより、スマートフォン向けアプリの開発や、ほかのデバイスと共通で利用できるコンテンツの制作が可能になるという。
体験会では「XYN空間キャプチャーソリューション」との連携も紹介された。撮影した写真から3DCGモデルを生成し、Unityに取り込むことで「ELF-MN1」に表示できる。
デモの中には、コスプレイヤーを360度から撮影して生成した3DCGモデルが展示されていた。「実在人物をデジタルフィギュアとして鑑賞する需要を検証するための実証実験」とのことで、生成したモデルを上下左右に回転させながら鑑賞できるようだ。
このほか、一般的な写真から生成した3DCG背景にキャラクターを配置する、立体フォトフレームのようなコンテンツも展示されていた。
今回の体験会で印象的だったのは、立体映像そのものの技術だけでなく、それを日常生活の中でどう楽しむかという方向性がわかりやすく示されていたことだ。今後は対応アプリケーションの拡充と開発環境の整備によって、一般ユーザーが3Dコンテンツを現実の中に持ち込めるようになっていくことだろう。
ゲーマー目線で楽しみなのは、人気タイトルからデジタルフィギュアがいくつも登場し、いつでもどこでも推しを召喚できるような未来だ。
好きなキャラクターを画面越しに眺めるだけでなく、同じ空間で時間を過ごす。そんなオタクの夢が、少しずつ現実になり始めている。















