あらかじめ決まっていた物語に“介入する”のはおもしろい。なぜおもしろいのか。きっとその物語が潜在的に秘めていた「新たな側面」を生み出し、見つけ出す喜びがあるからだ。
しかし、介入しすぎてもおもしろくない。なぜなら、物語がもともと持っていた“結末”は普通に見たいからだ。
ほどほどに介入して場をかき乱しつつ、ストーリーの大枠を“正しく”味わう体験はできないものか……
できます!
『MARY – メアリ姫の奪還』はそんな「いろんなリアクションを見てみたい」欲求を持つ方々にぜひ手に取ってもらいたいゲームだ。いつも使っている日本語からたった“1文字”足して、物語の展開に関与することができる。
そんな本作はつい先日、スマホでも遊べるようになった。これで歩いているときにふと「あのとき〇〇入れてみたかったな……」と思いついたら、すぐ入力して反応を確かめることもできるわけだ。
10月31日に開催された「東京ゲームダンジョン14」のブースを訪れると、このスマホ版が展示されていた。電ファミの投稿でもたびたび「気になる」と反応されている方々が多い本作だが、まずはぜひ無料版にアクセスして触れてみてほしい。本稿では、筆者が現地で本作を遊び、受けた印象をざっくりとお届けする。

取材・文/ryoyuu
あれ……ぜんぜん単語が浮かんでこないぞ?常識に囚われていると改変は難しい
本作を遊んでいてまず感じたのは、変な単語を出すのは意外と大変ということだった。場を荒らしてキャラクターの反応を楽しみたいのに、頭が物語の展開に引っ張られてしまう。こっちは姫を救う代わりにヒラメを救いに行ったり、男女に突撃したり好き放題やりたいのだが……

プレイヤーが行う操作は「ボタンの内容を編集する」だけで、とてもシンプルだ。
物語は「はじる」を「はじめる」に変えると始まり、魔王にさらわれたメアリ姫を救いに行く。
「はじる」「はじらう」にすればメニュー画面のメアリ姫が恥じらう姿が見られるし、「強そうな“相手”を見つけた」は「強そうな“アイテム”を見つけた」に変えることもできる。

このボタンを眼の前にして、瞬時にいくつ単語を思いつくだろうか?筆者は現地で遊んだときは何も浮かんでこなかった。
ちなみに、負けるときは普通に負ける。道中で強そうな相手を見つけたときは、そのまま押したら死んでしまった。流されたままではダメなのだ。もっと自分の頭を回転させ、ヘンテコな展開にもっていかなくては……
何も考えずに進めてはダメ。自分らしい戦い方を見つけよう
予想外の発言に困惑しまくるキャラクターたち。もっといろんな反応を引き出したい
本作で登場するキャラクターは正直めちゃくちゃノリがいい。みんな素晴らしいリアクションを返してくれるが、なかでも王様と魔王はプレイヤーの奇行に対して諦めない姿勢を見せてくれておもしろい。
さらわれてしまった姫を助けるために王様と会話するシーンでは、「姫を喰いに行きます」とそのまま言えば投獄されるが、「お姫を喰いに行きます」と謎の配慮を交えてみると「ちょっと丁寧に言ってみても関係ないわ!」と、ちゃんとツッコミを返してくれた。

この“おちゃめな一面”は、魔王と対峙したときにも感じられた。この戦いで使えるボタンは短文の連続で、バリエーションもいろいろ浮かびやすい。

戦闘中で絶体絶命に陥ったときは、苦しまぎれに「とめる」を「認める」に改変してみた。すると、いきなり魔王が「寂しかった」と自己語りを始めるなど、ユーモアに溢れた展開が盛り込まれている。
本作では、この“意外な一面”を自分のアイデア次第で生み出すことができるのだ。いったい、どのくらいパターンがあるのだろうか……?

なんと、本作は記事執筆時点(10月31日)で約30分程度のボリュームで、計6エンド・544通りの分岐があるようだ。“意外な一面”があまりにも多すぎる。
そんなやりたい放題感が味わえる本作だが、変人ロールプレイを楽しみ、会話に混沌をもたらしながらも、ストーリーの大枠はきちんと進んでくれることが多い。これはありがたい。「あのシーンでこの単語を入れてみたい」という欲求も比較的すぐに実行できるということだ。

本作には、unityroomで公開中されている無料版と、現在開発中のSteam完全版【※】が存在する。前者は記事執筆時点でPVが71万を超え、Steam完全版はウィッシュリスト1万件突破と、非常に注目度の高い作品だ。
※Steamストアページによると、ギミックやストーリーはunityroom無料版の5倍以上で、新たな分岐、新たな仕掛け、メタ要素、ゲーム内ゲームなどが追加されている。
「ボタンに“1文字”足して物語を変えるゲーム」このアイデアは非常におもしろい。だが、実際に遊んだことであらためて感じたことがある。
それは、この独特なアイデアは「ひとつひとつに丁寧なリアクションが返ってくる」という、プレイヤーの持つ“いたずら心”に火をつけてくれるテキストの誠実さが生み出すおもしろさでもあるということだ。
なお、展示には本作の開発者・夜路地氏が手がける別作品『人のいない世界に』もあわせて展示されていた。こちらは人類滅亡後に目覚めたロボットが、自身の電源を切るまでの切ないストーリーが描かれた作品となるようだ。同氏が手がける独特な世界観に興味を惹かれた方は、ぜひこちらもチェックしてみてほしい。



