講演の当日に決まった「Unreal Engine 5.9」の発表。AIが業界を揺るがす中でも創業当初の理念は変わらず
続いて登壇したのは、Epic Games Japan代表の河﨑高之氏。同氏はまず、昨年のイベントでは過去最高となる約1800名が来場し、今年は講演数が30以上と過去最多になったとコメントした。

河﨑氏は、「日本のクリエイターがゲームの楽しさそのものを形作ってきた」としつつ、アニメや自動車製造業、文化財のデジタルアーカイブなどにも「Unreal Engine」が活用されていると語る。
インディーゲームを展示するブースが初めて登場するなど、本イベントは新たな広がりも見ているが、Epic Gamesが掲げる「We succeed, when you succeed」(皆さまの成功こそが私たちの成功)のビジョンと使命は創業当初から変わらないという。
ティム氏と同じように、河﨑氏もAIによってゲーム業界が大きな変化と多くの課題に直面していることにふれた。ものづくりのありかたや業界の展望が変化する中でも、Epic Gamesは変わらず、開発者の挑戦を支える存在であり続けるとのこと。
河﨑氏は直近の国内タイトルでの「Unreal Engine」活用例として『エースコンバット8 ウイングス・オブ・シーヴ』や『メタルギア ソリッド デルタ: スネークイーター』、『ペルソナ3 リロード』を挙げ、フォトリアルな表現だけでなく、作品ごとの個性的な演出も実現できるのが「Unreal Engine」の強みだと語った。
6月にリリースされた「Unreal Engine 5.8」も振り返られた。5.8が注力したのは、おもに3点。まず、新たな主機能を実際のゲーム制作に耐えうるレベルまで熟成させること。つぎに、エンジンをより安定させ、さらに高速化すること。そしてワークフローを見直し、イテレーション(設計からテスト、改善までのサイクル)をさらに速めることだ。
そして、本講演の当日に急遽決定した発表事項として、「Unreal Engine 5.9」がリリースされることが明らかになった。発表の翌週にはプレビュー版を出す予定とのこと。
「Unreal Engine 5.9」ではAIを活用したワークフローの改善、Webプラットフォームへの対応、レンダリングやアニメーション機能のアップデートなど、さまざまな新機能や改善が盛り込まれているという。現在、GitHub上の5.9ブランチにもいくつかの変更が加えられており、今後数日間でさらなるアップデートを予定しているそうだ。
最後に河﨑氏はティム氏の講演内容を振り返りつつ、「Unreal Engine 6」をコアとして、世界中のゲームやコンテンツ、コミュニティ、そして経済圏をつないでいくと語った。Epic Games Japanとしても、日本の開発者やクリエイターのために、本エンジンの導入を全力でサポートしていくとして、講演に幕を下ろした。
AI自身がツールを運用。出力結果の検証・改善が可能となり生産性が爆発的に向上
基調講演の終了後、河﨑高之氏が同席のもと、ティム・スウィーニー氏への質疑応答の時間が設けられた。質疑応答に先立ち、まずはティム氏からゲーム業界の現状についてコメントがあった。

ティム・スウィーニー氏(以下、ティム氏):
非常に興味深い時代になってきていると思います。とくにゲーム開発という分野においては非常に大きな変化が起きていますし、ゲーム経済圏の面で見ても状況は目まぐるしく変わっています。
その変化を巻き起こしているのが、AIツールによるあらゆることの加速です。こういった時代において、AIツールを採用する企業としない企業では、競争力に大きな違いが生まれてきます。中国や韓国などでもAIツールの採用率は高まっており、この流れを止めることはできないでしょう。
そういった時代背景を受け、私たちも「Unreal Engine」でAIによる作業の加速を最大化していき、それによってゲームがよりすばらしいものになるお手伝いをしていきたいと考えています。ゲームの競争力そのものが根本的に変化していくでしょうし、よりさまざまなものが日本から生まれ、発展していくことが大事だと思っています。
いま、欧米では開発コストがどんどん膨れ上がり、ゲームを販売してもリクープ(コストの回収)がむずかしくなってきています。そのせいで、リストラも多発している、というのが現状です。
そういったこともあり、私たちはAI活用による作業の効率化、生産性アップに注目しています。いまはデバイスのコンポーネントコストも上昇しており、それもひとつの課題になっていると思います。
それゆえに、ゲームをローエンドのハードウェアでも楽しめるよう、最適化がより重要になってくると考えています。とくに、世界のゲーム市場を見れば、ローエンドのモバイルデバイスでゲームを楽しんでいる人も少なくはありません。そこに向けた最適化も必要になってくるでしょう。だからこそ、私たちもAIなどの新しい技術に投資を続けていきます。
──「Unreal Engine 6」はコンテンツのポータビリティ(移行性)を特色としていますが、エンドユーザーとしては実際どのようなメリットが得られるのでしょうか。
ティム氏:
ポータビリティというのは、エンジン間やプロジェクト間などで、コンテンツをどれだけ容易に移植できるかを意味します。これまでにもある程度のポータビリティは存在していましたが、たとえば何かしらの動作を含むオブジェクトは移植するのが難しいなど、十分なポータビリティが確保できているとは言えませんでした。
今後は、講演の中でお話ししたスタンダードを用いることで、そのポータビリティをより高めていこうと考えています。
そしてそれがユーザーに何をもたらすかについて、お答えします。すでにディズニーユニバースとパートナー関係を結んだことは発表されていますが、これにより、ディズニーで購入したエモートを『フォートナイト』で使用でき、逆に『フォートナイト』で購入したコスチュームを持ち出すようなこともできます。
こういった取り組みに対し、パブリッシャーの方々にもご賛同いただき、参加していただきたいと思っています。こういった相互運用性こそが、ゲーム業界の成功につながるものだと考えています。
この仕組みがあれば、ユーザーの方はより安心して課金ができると思います。ゲーム内で購入したコンテンツが、その作品の中に限定されずに持ち運べるわけですからね。
──AIによって生産性が4倍、10倍になるとのお話がありましたが、具体的にはどのようにしてスピードアップが実現するのでしょうか。
ティム氏:
アートに関しては、アンリアルエディターツールを使って操作していくという点で、当初AIの応答性は非常に悪いものでした。しかし現段階では、MCP【※】を活用できるようになり、生産性が向上しています。
※MCP:
Model Context Protocol(モデルコンテキストプロトコル)。AIモデルと外部データやツールをつなぐ共通規格。
MCPを介してAIが何かしらのコマンドを送り、ツールを使って運用していくようなことも可能になっています。AIに対して「こういうものが作りたい」とプロンプトを出せば、AIがコマンドを走らせ、その結果できたもののスクリーンショットや動画を撮影し、成果物の検証・改善をしていくようなことができるのです。
そういったプロセスを経て人間に対する出力がなされ、最終的に求めていたものになっているかどうかを人の目で確かめることができます。これをレベルデザインなどの領域にまで普及させると、生産性が4倍から10倍にアップします。これまで10人が必要だった作業も1人でこなせるようになるのです。
アートの面以外にも、AIを利用できるようにしていくにあたり、AIモデルを提供している企業との連携が非常に重要になってきます。そういった連携により、AIが持つ3Dの理解度を高めていくのです。
「Unreal Engine」に限らず、「Blender」や「Unity」なども含め、さまざまなものから学び、それらのツールを動かさせることで、実際の世界に関するAIの理解度を高めていきます。その結果として、AIが学習したあらゆることに適応できるようになります。
6ヵ月前には、ここまでAIがいいものになるとは思っていなかったので、こんなことができるのは私たちにとっても衝撃的でしたし、AIにおける大きなブレイクスルーになったと思っています。
──Google社やApple社との係争について、現状はどのようになっているのでしょうか。
ティム氏:
まず、日本の皆さんには「おめでとうございます」とお伝えしたいです。というのも、アジアでは日本が初めてApp Storeと競合するストアが共存できる状況になっているからです。これにより、日本の開発者の皆さんはひとつの自由を獲得したと言える、そう考えています。いまのところ、中国や韓国ではこの自由は存在していません。
訴訟については、あらゆるスマートフォンをオープンにする、その最終段階になっていると感じています。Google社がAndroidをオープンなものにしてくださったことについては、私たちとしてもうれしく思っています。PCでSteamとEpic Games Storeが共存しているように、Androidでもオープンな環境ができ、開発者の方々はよりよい条件を選ぶことができるようになってきていると感じています。
Apple社との件については、来年のうちには何かしらの形で決着にいたると考えています。なぜなら、日本の方々に対して提供されている自由を、中国や韓国には提供させない、といった決定は下せないはずだと思うからです。そう考えれば、世界のどの地域においてもApple社は条件を変更せざるを得ないのではないか、と思います。
アメリカでの係争についても、最終局面を迎えていると考えています。これは、アプリをインストールするためのアプリに関する自由や、その開放に関する規制を取り払う部分も含めています。くり返しになりますが、来年の終わりまでには何かしらの決着があるはずですし、そういった決着が得られるまで、私たちも挑み続けます。
──Apple社は外部ストアや外部決済に対して手数料を設定していますが、これに対してはどのようにお考えですか?
ティム氏:
現状、競合ストアに対する手数料が5%となっていますが、これは0%であるべきだと考えています。スマートフォンとアプリケーションというのは、互いに欠かせないものだと思っています。スマートフォンなしにアプリは扱えませんし、アプリなしにスマートフォンを使うこともないでしょう。
外部決済については15%から20%の手数料がかかっていますが、これも0%、ないしはそれに近い数字であるべきだと考えています。アメリカにおいては、この数字は0になっています。ここは速やかに変わっていくべきだと思っております。
たとえば、トヨタの車を買ったとします。その時点で車はあなたのものです。どこに運転していくのも自由です。車を運転したら、ガソリンを入れる必要がありますよね。でもここで、給油したガソリンの20%分をトヨタが徴収するとなったら、妙な話ですよね。外部決済の手数料はそういった形で考えています。
マルチプラットフォームでゲームを展開する際、どのメーカーもプラットフォームごとのスペックの違いなどにより移植には苦労していた印象が強い。
それだけに本講演にあった「一度ゲームを作ってしまえば、あとはエコシステムが自動で変換して全プラットフォームで遊べるようになる」という話にはかなりの衝撃を受けた。正直、いまだに「そんなことができるのか?」と半信半疑な部分もある。
くわえて、AI活用による開発スピードにも驚かされた。来年中ごろには10倍の効率化もあり得るとなると、ゲーム開発の状況は大きく変わってきそうだ。
ゲームハードや技術の進化により開発は長期化し、それゆえに制作コストが膨れ上がり、企業として新規IPなどに挑戦するハードルも上がってきたと言われる。これはそう間違った考えではないだろう。
しかしこの効率化によってゲーム開発が加速し制作コストが抑えられるようになれば、より挑戦的なタイトルが増えることにもつながるかもしれない。そう考えるとなかなかにワクワクする話だ。
「We succeed, when you succeed」(皆さまの成功こそが私たちの成功)の理念を掲げるEpic Gamesが、ゲームエンジンやエコシステムによってどのように新たな未来を開いていくのか。いちゲームユーザーとしても楽しみにしながら注目していきたい。





