好きなゲームやアニメの名前を聞いて、「それはこういう書体」と言える時代になっている
──フォントとゲームの歴史についてある程度振り返ってきましたが、改めて思ったのは、フォントの持つ力は本当に強い、ということでして。
指田氏:
そうですね、本当に強いのです。画面に対する面積がそんなに多くなくても、印象に残るので。最近はトリガーさんのアニメとかがそうですけど、文字がそういう力を持って、作品の印象作りをしているので。ラグランパンチ【※1】なんてもう使えないですよ、全部『キルラキル』【※2】になっちゃうから(笑)。
※2 『キルラキル』
トリガーが制作して2013~2014年にTV放映されたアニメーション作品。『天元突破グレンラガン』を手がけた今石洋之監督とシリーズ構成の中島かずき氏による学園バトルアニメ。サブタイトルをはじめ、劇中に登場する文字テロップには特大サイズのラグランパンチ書体となっており、その強烈なインパクトが話題となった。
福島氏:
2010年以降、変わってきましたね。それまでフォントワークスのフォントというと、ゲームやアニメといったカルチャーの部分では、『エヴァンゲリオン』【※】がダントツというか、唯一に近かった部分があるんですけど。あれだけ使われていたら、デザインに携わっていない一般の人でも、印象深かったと思うんです。
それに対して「(コンテンツの名前)_フォント」と検索すると、いろんなものが出てくるようになったのが2010年以降、SNSが流行るちょっと前ぐらいからですね。先ほどの『キルラキル』だったら、ぜんぜんIllustratorとかを触ったことないような子たちでも、フォントワークスのラグランパンチという名前を知っていたりしますし。
それはいろんなタイトルで、フォントワークスのライブラリが増えてきたというのもあるんですけど。
※『エヴァンゲリオン』
1995年~1996年にTV放映され、1997年に劇場版が公開されたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は、作品中でフォントワークスの「マティスEB」フォントが多用されており、“エヴァ明朝”としてアニメファンだけでなく、幅広い層に認知されるようになった。ちなみに、2007年より公開されている『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは、同じマティスEBでも微妙に異なるフォントが使用されている。
福島氏:
また、フォントワークスのフォントを学生や若い子たちが使いやすい形で提供することによって、たとえば同人誌などを元ネタと同じフォントで作ることもできるので(「mojimo-manga」【※】)。そういった形で今後、ますますフォントを目にする機会というのは増えるんじゃないかなと思います。
指田氏:
たしかに、昔に比べて身近になった感じはありますね。
福島氏:
フォントにまったく携わっていない人でも「『パズドラ』のフォントだよ」「『モンスト』のフォントだよ」と言えば、すぐに分かってもらえますから。好きなコンテンツの名前を聞いて、「それはこういう書体」と言えるようになってきたのが、2010年以降で。そんなふうにコンテンツとフォントが結びつくということが、とても増えてきたと思いますね。
──「ファンが作った○○風フォント」というが流行ったのも、ちょうど2010年ぐらいですよね。
福島氏:
そうですね。それでも当時はまだやっぱり高いとか、「フォントって買うもの?」という部分があったので。今は未来のデザイナー向けに、コストを抑えた商品(「mojimo」【※】)というのもこの春にリリースしたんですけど。そのあたりはますます増えてくるんじゃないかなと思います。
指田氏:
昔だったら文字というのは、ただ機械で打ち出されてくる何かみたいな感じで、それを職人さんがデザインしているとかは誰も思っていなくて。文字の表情というのも、普通の人があまり意識することはなかったのですけど。「文字にもいろいろあるよね」というのが一般的になってきたのが、2010年ぐらいだった気がします。
福島氏:
今はもう、テレビでフォントワークスのフォントを見ない日はないと思うんですよ。アニメに限らず、ニュースとかバラエティとか歌番組とかもそうですけど。
文字の表情が意識されるようになったのは、ロゴデザインとシステムフォントの処理が近くなったからというのもあるかもしれません。
指田氏:
そうですね、それもあると思います。コミケとかに行けば、フォントを作って頒布しているところもありますし。
──フォントについての意識が一般化してくると、それに対するユーザーさんの声も出てくるようになったと思います。よく聞くものだと、「このフォントはダサい」とか、洋ゲーだったら「何でこの日本語フォントを使っているの?」とか。
福島氏:
『キルラキル』でラグランパンチが流行ってからは、一般の方もそうですし、たとえば玩具メーカーさんやアパレルメーカーさんから、「ラグランパンチがほしい」と名指しで言われるようになりました。
そんなふうにヒットコンテンツで使ってもらうと、今度はその二次的な部分として、とあるゲームの攻略本で「パブリッシャー様からこのフォントじゃないとダメという指示が入ったから」という理由で、そちらの編集部に入れていただくきっかけになったりとか、そういうことが起こるんです。
その意味ではIPのフォントというのが、だんだん根付いてきたのかなという実感がありますね。欧米であればブランドのフォントというのは当たり前のように意識されているんですけど、日本だと企業のロゴ以外は、まだまだですから。
指田氏:
我々のゲームタイトルがリリースされる時は必ず、パブ素材一式のなかにフォント指定と使用色を入れてお渡ししているのです。たとえば雑誌記事にする時に、「紙面構成でこの割合の色を配色してもらうと、イメージが統一できるのでよろしくお願いします」と。もちろん強制はしていないのですけど。
製品と同じイメージにするためには、フォントを指定してあげるのがいちばん手っ取り早かったりするので。ただまぁ、それをやると「うるせぇこと言うなぁ」みたい雰囲気を若干感じたりもしますけど(笑)。
新しいハードが出てくるたびに、文字の判読性や表現力を検証することになる
──フォントって本当にいろんな種類や特徴があると思うんですが、ゲーム的に使いやすいフォント、使いにくいフォントというのはあるんですか?
指田氏:
具体的にはたくさんありますけど、口には出せないですね(笑)。
鈴木氏:
にぎやかしで使うぶんにはいいけど、読めるか読めないかで言うと、ちょっと読みづらいというものはありますね。ゲームの文字にも用途があるので、読ませる用途であれば、やっぱり読みやすいフォントにしたほうがいいですから。さっきカーニングの話も出ましたけど、日本語だったらカーニングしたいし。
指田氏:
やっぱり個性が強いものは強いので、それに合った使いどころがあればいいんですけど。あまりにも個性が強すぎるので安易に使われ過ぎて、いろんなところで雑に使われているフォントもあるのです。そういうものはきちんと使おうと思っても、どうしても安っぽくなるのです。ちなみにフォントワークスさんのものではないですよ(笑)。
──ふだんゲームを作られていて、こんなフォントがほしいというのはありますか?
指田氏:
Gotham【※】のようなゴリっとした欧文となじむフォントは今すぐほしいですけど(笑)。
福島氏:
Monotypeさんの欧文フォントと、フォントワークスの日本語フォントを合わせた見本帳のゲーム版があれば、ということですか?
大和氏:
普通にデザインを組む時、カッコイイ欧文書体があればそれと一緒に使っても調和する日本語書体がほしいですね。
指田氏:
欧文フォントの方がデザインの選択肢が多いので、最初に画面を構成するときは日本語ではなくアルファベットでやることが多いんです。あとからそれに合う日本語フォントを見つけるのが大変だったり……。
鈴木氏:
欧文で「O」がまん丸のフォントはよくあるけれど、日本語だとまん丸の文字はないですよね。作るとしたらどういう形になるんだろう。まん丸のイメージを踏襲した日本語フォントというのは、すごく難しそうですよね。
福島氏:
であれば、あえて筑紫の冠がついたファミリー(筑紫書体シリーズ【※】)を使ってみるのはどうでしょう? 高級感のあるちょっとアンティークな書体ですが、意外と似合うかもしれません。ゲーム業界のお客様のなかではそんなに使われていませんし。
筑紫の冠がついているものは、基本的には紙で読むというコンセプトで作っているし、縦書きを意識しているので、ディスプレイ越しの書体という部分では、今まで考えてこなかったような組み合わせが出てくるかもしれないですね。
たとえば筑紫アンティーク明朝のLは、ブラウン管の時代であればこの文字の細さをテレビで出すというのは考えられないと思うんですけど、今はガンガン使っていただいています。
4Kや8Kの時代になってきたので、そうなったら使ってもらえるかなと思っているんです。次世代のディスプレイ越しに見るという部分では、ゲームだけじゃなくて放送とかも含めて、次の過渡期に来ているんじゃないかなと思いますね。
──ゲームの画面がSDからHDに変わった際にフォントに対する需要が変わったように、4Kや8Kが当たり前になってくれば、フォントの使われ方もまた変わってくると。
指田氏:
確かに、最近テレビの字は細いですもんね。
鈴木氏:
大きさの問題も残っていますからね。4Kになって1ドットが判別できたとしても、印字が小さくてもいいのかというのは、また別の話ですから。
指田氏:
この4月にバンダイナムコアミューズメントで、大阪に「VS PARK」【※】というスポーツ施設ができました。そこで僕は『ニゲキル』という、全長10メートルのスクリーンを使ってCGの動物と駆けっこをするアクティビティを担当したのですけど。これは解像度が相当にデカいんです。なにしろフルHD3画面分ですから。
そこで使っている文字のサイズが最大1メートルぐらいあって、僕が今まで作った文字の大きさのなかでも最大ですね(笑)。バラエティ番組的なイメージで、かなり派手にエフェクトをかけた文字にしたのです。
これもフォントワークスさんの書体を使わせてもらってます。
※VS PARK
バンダイナムコアミューズメントが大阪・千里のEXPOCITYにオープンした、エンタメ系バラエティスポーツ施設。現実のスポーツを再現したものからユニークな新スポーツまで、25種類以上のアクティビティを楽しめる。
福島氏:
文字の大きさといえば、スマートフォンの画面サイズにHD用ゲームの比率で文字を置いてスマホゲームをやると、文字が小さくて読みにくくなりますよね。逆にスマホゲームの文字の比率をそのままコンシューマに持ってくると、文字が大きすぎて画面が見づらいですし。でもこれってゲームだけじゃなくて、テレビのテロップにも同じことが言えると思うんです。
スマホを横にして動画を見ていると、娘から「縦にして見ないの?」って言われるんです(笑)。今の若い子たちは、映像ですら縦持ちでしか見ないんですよ。
だからディスプレイの大きさだったり、縦向きに見るか横向きに見るかという問題だったり、そういう部分でフォントに対する考え方も変わるでしょうし。
とにかく、見る対象というのはどんどん変わってくると思いますから、デザイナーさんのお仕事も、UIのいろんなパターンを想定していかないといけないでしょうね。
指田氏:
新しいハードが成熟して次の新しいデバイスが出てきたら、もう一度検証するという繰り返しですね。
福島氏:
あとは、VRという新しいメディアですよね。目の前に見えているんだけど、脳は5メートル先、10メートル先と認識している文字というか。
──VRは文字を読めないゲームが多いですね。ちょっとぼやけていたりして。
指田氏:
解像度が逆行してしまっているのです。今のVRは、モニターで見る時よりも解像度が一段、落ちてしまっているので。それと画面の比率に対して、文字がもっと大きくならないとおかしいですよね。解像度で考えると。
※VRはモニタと目の距離が近い為、モニタの解像度(dot per inch)の概念とは別に、目からモニタまでの距離によるドットの大きさの影響が顕著になってくる。結果的に同じHDのモニタであったとしても荒く低解像度に見える)
鈴木氏:
結局ウチはUDフォント【※】を使ったのでしたっけ。UDはやっぱりユニバーサルデザインフォントなので……。
指田氏:
VRデバイスのように新しい技術が出てくると、その技術に対応するような判読性であるとか、そういうところでどういったものが最適なのかが、いろいろと検証されていって。そのうちに解像度や表現力が上がっていくと、もうちょっとVRで見えるカッコいい書体チョイスであるとか、VRに適した文字の表現演出等を色々試す段階になっていくでしょうね。
──今後VRが当たり前になると、VR向けのフォントが出てくるかもしれないですね。
鈴木氏:
まずは読めないと、なんとも言えないですね(笑)。
すべてのゲームが標準的なフォントになってしまったら、面白くない
──4KやVRと、どんどん新しい技術が出てきますが、新しいフォントの開発には、そういった時代のニーズに合わせて作られているのですか?
福島氏:
そうですね。1つは新しい技術が出てくるというところもあります。あとは今使っていただいているお客様からの要望が、業界によってぜんぜん違うので。紙媒体のお客様はやっぱり美しい明朝体がほしいので、今度はそれに合うゴシック体がほしいとか。その一方ではゲーム会社様のように、いろんなコンテンツに使えるようなデザインのフォントがほしいというお客さんもいらっしゃいます。
あとは同じゲーム業界でも、その会社様ごとの色ですよね。アクションゲームが強い会社はわりと派手目なフォントだとか、筆文字がほしいというのもあります。
RPGやテキストを読ませるコンテンツを作っている会社は、読みやすいフォントがほしいというような部分もありますから。
バンダイナムコ様であれば、グループ全体でいろいろなコンテンツを作られているので、所属しているチームによって、なおかつ今目の前の仕事で何をやっているかによって、大きく変わってくると思います。
そういった最大公約数的な部分というのは、お客様の声という形で会社に届けています。
──顧客の要望から時代のニーズをつかんで、新たなフォントが生まれるわけですか。
福島氏:
そういった要望の中から、ニューシネマ【※1】のような映画の字幕書体も出てきましたし。『キルラキル』のラグランパンチだって、アニメでまさかあんなふうに使ってもらえるとは思っていなかったですから。
あれはもともとあった「ラグラン UB」というフォントを、テレビ局様のほうでバラエティ番組や番組のロゴに使いたいという要望があったんです。ただ、もともとのフォントだと線が太すぎてブラウン管では潰れるという話だったので、じゃあもうちょっと細くして、画面で見ても潰れないようにしましょうと。
そういう形で作らせていただいたのが「ラグランパンチ UB」なんです。そんなふうに、お客様の声がヒントでできた書体というのが、じつはけっこうたくさんあるんですね。ライラ【※2】の書体もそうです。
指田氏:
ちなみに、実際の映画の字幕というのは、最近ああいうシネマ書体ではないですよね?
福島氏:
それはそうなんですよ。でも映画のシーンで普通のゴシックや丸ゴシックで字幕を出すよりは、やっぱり昔の映画の手書き字幕風の書体で出したほうがイメージに合うんです。
サッカー・ワールドカップの中継でも、外国人選手が話す時の字幕テロップは、フォントワークスのニューシネマ書体を使っていただいているんです。やっぱり外国人の方がしゃべる時にはゴシックを使うよりも、ニューシネマのほうがイメージに合うんですね(笑)。
今回はゲームのフォントについてのお話ですけど、テレビ番組に関してもフォントあるあるがいっぱいありますから(笑)。
指田氏:
以前に担当した製品で、ムービー部分の字幕にシネマ書体を使いたいと言われて。「いや、映画の真似をしてもしょうがないでしょう」と止めたりしたのですけど、でも今のお話を聞くとアリなのかなという気がしますね。
福島氏:
たとえば『Fallout』とか、ゴシック体で「世界が滅んだ」と言われるよりは、ニューシネマの書体のほうがやっぱり、あの世界観のイメージが湧くと思います。だから正しい・正しくないというよりも、イメージを優先するというのが大事だと思うんです。感情を伝えるというのが、やっぱり文字の部分だと思うので。
弊社のフォントデザイナーがよく言うのは、「自分たちは農家です」と。お米も作れば野菜も作るし、お米でもいろんな種類を作ると。
でもそれをどう料理するのかは、あくまでデザイナー様なので。デザイナー様の選択肢が多くなるように、お米も1種類だけじゃなくてたくさん作りたい。かといってずっと同じものではなくて、旬の野菜や季節の野菜があるような形で、フォントにも流行り廃りとかそういったものもあるし。でもベーシックなものはずっと残るという、そういうつもりで作っていると言っていましたね。
ゼビウスフォントが市販される日がやってくる!?
──そろそろ締めに移ろうと思うのですが、そういったふうに時代が移り変わるなかで、ゲーム開発の現場でフォントに対する接し方にも変化があるのでしょうか?
鈴木氏:
最近のゲーム開発だと、UI関係の人はまず、フォントを選んで契約をどうするみたいな話から始めるかもしれないですね。これ、昔はなかったことです。
指田氏:
そうですね。書体をいくつ使うとか、どの書体を使うとかというのをまず決めて。フォントに関する取りまとめ役の人がいるのですけど、そこにきちんと話をするようにはなっていますね。
鈴木氏:
いまは「このプロジェクトでは、今回はフォントワークスを使わせてもらいます」と、最初に契約する必要があるのですよ。
福島氏:
昔は事後のご相談が多かったんですけどね(笑)。それがいまは、事前の確認という形に変わってきたかなと思います。あとは契約の部分でも、年間ライセンスのサブスクリプションに変わったことで、毎回申請をしなくてもよくなったというのは、ラクになったんじゃないかなと思います。
指田氏:
昔は契約がどうしても整わないからこのメーカーのフォントは使わないで、といった縛りがあったのですが、いまはそういうことはあんまりないというか、フォントワークスさんのものを使えばだいたい何でもあるので(笑)。
あとはどうやって組み込むかですね。
鈴木氏:
技術的な部分のところで。
──というと、文字をテキストデータではなく、画像にして組み込んだりするといったことですか?
指田氏:
昔と違って今は、基本的に画像にすることはないのですけど、見出しをグラフィカルにする時は、どうしても画像になるので。あとは数字とアルファベット、それからオリジナルの言語とかがある場合には、今でも自分たちでフォントを作りますね。『ゼビウス』のゼビ語【※】とかあるじゃないですか。ああいう文化がウチの会社には脈々とあって。
鈴木氏:
世界観を設定するのが好き、みたいな。
指田氏:
1990年代の末期にオリジナルフォントが流行った時代には、フォントを自作できるアプリケーションがけっこうあったのです。
鈴木氏:
それが今はないのですよ。Fontographer【※】が絶滅して。今さらほしくなって、1年ぐらい前に必死で探したのですがなくて。その時はぜんぜん違う別のソフトで済ませましたが。
※Fontographer
1986年にAltsys社によって開発されたフォント作成ソフトで、1995年からはAltsysを吸収したMacromedia社によってリリースされて、フォントを自作するデザイナーの間で広く普及した。2005年以降はFontLab社に権利が移行しており、現在でも購入可能だが、最新OSへの対応などは行われていない。
──もしかして、オリジナルフォントをフォントワークスさん経由で販売するというのができるかもしれない?
指田氏:
良いビジネスチャンスじゃないですか(笑)。
福島氏:
もちろん、ゼビウスフォント【※】を販売させてほしいと思いはあります(笑)。
※ゼビウスフォント
『ゼビウス』ではアルファベットやローマ数字を表現する際に、通称“アタリフォント”と呼ばれる従来のアーケードゲームで使用されていた書体ではなく、文字の太さと細さが強調された独自の書体が使用されている。このゼビウスフォントはその後、さまざまなゲームで使用されていく。
鈴木氏:
ぜんぜんアリじゃないですか?
指田氏:
弊社のIPを集めて、ちゃんとロイヤリティ契約をして(笑)。
福島氏:
2016年に「エヴァンゲリオン公式フォント」【※1】を発売した時は、正直ビックリするぐらいの人気だったんです。なにしろ発表してから発売日までに、初期ロットが売り切れてしまいましたから(笑)。今は弊社のビジネスもダウンロード販売が主流なんですけど、これに関してはコンテンツのものなので、パッケージに付加価値があるので。
「エヴァンゲリオン公式フォント」は、すごくこだわって作りました。じつは『エヴァ』のテレビ版と新劇場版では、使われているフォントデータが微妙に違うんですよ。
使徒の「使」の打ち込みのところが違っていたりとか。それを2種類とも収録しているんです。
パッケージそのものはパッと見、あんまり『エヴァ』っぽくないですけど、こういったデザインの部分も懇意にしているデザイナーの草野剛様【※2】に頼んで作っていただいて。
※2 草野剛
有限会社草野剛デザイン事務所を設立して活動しているデザイナー。ライトノベルの装丁デザインやアニメのタイトルロゴをはじめ、映像、ファッション、WEBなど幅広い分野のアートワークを手がけている。
鈴木氏:
もしこれの『ゼビウス』版が出たら、僕らは買いますよ(笑)。
指田氏:
特定の層しか買わないんじゃないかな(笑)。
鈴木氏:
まあ『ゼビウス』フォントを買って何をするって言ったら、多分何もしないとは思うのですけど(笑)。Illustratorを立ち上げて「『ゼビウス』のフォントになった!」って喜ぶぐらいで。「これで提案書を持って行こう!」とか。ゲーム業界のお客さんには超ウケる提案書にはなると思いますよ(笑)。
──世界観やIPを支えてきたフォントが、メディアミックス的に広がっていく時代になったということですね。本日はありがとうございました。(了)
この座談会を通じて、ゲームハードの進化に応じて画面の解像度が変化し、それに応じてフォントに求められる役割も変わってきたということが、理解してもらえたと思う。そして同時に、ゲームだけでなくパッケージなどの紙媒体から映像まで、フォントが果たしている2つの役割というのが確認できた。
まず1つ目は、文字をできるだけ読みやすく表示するという役割だ。フォントがそこに書かれた言葉の意味を伝えるという機能を持っている以上、そこはまず基本となる。
それと同時にフォントはそれ自体がアートワークの一部となって、ゲームやアニメといったコンテンツ全体の雰囲気を醸し出し、その印象を左右するという役割をも担っている。言葉を伝える機能と、コンテンツの印象を左右するという2つの役割をいかに両立させるかというのが、タイポグラフィを司るグラフィックデザイナーの腕の見せどころなのだ。
本文中にもあるとおり、PCやスマホが普及してDTPが一般の人々にも身近なものとなり、かつてはグラフィックデザイナーしか扱うことのなかったフォントの世界が、今では多くの人に開かれている。
だからこそゲームにおいても我々は、よりいっそうフォントの持つ力に注目するべきだろう。
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