2024年5月16日にリリースされた『学園アイドルマスター』(『学マス』)はまさに「新時代のアイマス」だった。
シリーズ初となる学園を舞台とし、Pライブに登場するのは「アイドルひとり」のみという試み。歴史ある「アイドルマスター」シリーズ6年ぶりの完全新作であることもあり、リリース前から注目を集めていた。
そして、その寄せられる期待を見事に超えて、『学マス』はスマッシュヒットを収める。リリースからわずか2週間足らずで100万ダウンロードを突破。「Google Play ベスト オブ 2024」において「ベストゲーム」を受賞した。
______________
— 学園アイドルマスター【公式】 (@gkmas_official) November 19, 2024
Google Play ベストオブ 2024
🎊ベストゲームを受賞🎊
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
プロデューサーの皆様のおかげで、#学マス がベストゲームを受賞いたしました🏆
たくさんのプロデュース、
改めてありがとうございます✨#GooglePlayBestOf pic.twitter.com/5uCKZmK36m
そんな『学マス』の開発陣はリリース直前をどのような心境で迎えたのか。そして、どのタイミングで手応えを感じたのか。リリースからこれまでどのように駆け抜けてきたのか。
「『学園アイドルマスター』が大ヒットを収めた裏側でなにが起きていたのか」に迫りたい
そんな思いから、このたび電ファミニコゲーマーでは、『学マス』開発陣にアプローチを行い、インタビュー企画を打診。
『学マス』のメインプロデューサーを務める小美野日出文氏と、QualiArts側にて開発のディレクターを務める岩本航輝氏にお話をうかがう機会をいただいた。

二人三脚で『学マス』に臨んできたという小美野氏、岩本氏のふたりにお話をうかがうのはじつは二度目。一度目はリリース直前(掲載はリリース後)の取材の場であった。
その際のおふたりの様子からは「全力は尽くした」という覚悟とともに、リリースに向けての胸騒ぎのようなものを感じとれたのが印象に残っていた。リリースを迎え、ヒットを収めた今、おふたりに改めてお話を聞いてみたい。純粋にそう思ったのだ。
今回のインタビューは、取材の場に筆者が独自で作成した『学マス』年表を持参し、タイトル発表から現在までを振り返るような流れで話をうかがった。そのため、思い出話やコンテンツ実装に紐づく開発裏話が色濃くなっている。
アイドルの柔らかさを表現するために(プロフィールの体重とは別に)BMI値【※】が設定されていた
極月学園の制作秘話。アイドルとトレーナーの声優が同じキャスティングだった経緯
咲季と星南を足したようなライバルキャラ初期案について
※BMI……Body Mass Index(ボディ・マス指数)。体格を表す指標として国際的に用いられている指数。「体重(kg)」÷「身長(m)の2乗」で算出される値。
などなど、開発の裏側がたっぷり詰まった内容になっているので、ぜひ楽しんでいただきたい。
聞き手/竹中プレジデント・ジスマロック
編集/竹中プレジデント
撮影/かちゃ
100万ダウンロード記念衣装のチャイルドスモックは、気づいたらデザインができあがっていた
──『学園アイドルマスター』(『学マス』)はリリースから2週間足らずで100万ダウンロード突破と、リリース直後からものすごい勢いでした。そして登場したチャイルドスモックの衣装……すごく印象に残っています。
小美野氏:
チャイルドスモックは気づいたらデザインまで作られていて、気づいた当時は「えっ」と驚いた記憶があります。
──えっ!? 気づいたら作られていた?
小美野氏:
チャイルドスモックは『アイドルマスター』シリーズの伝統でもありますし、もともと作りたいという話はあがっていました。
僕としても前向きだったのですが、気づいたらすでにデザインまで作られていて。それに、いつの間にか音声収録のスケジュールも入っていました。2023年の11月くらいのことだったと思います。
作ること自体には賛成なのですが、当然、僕としてはどういう状況なのか気になりますよね。岩本さんに話を聞いてみると「ストックです、ストックです」と言うんですよ(笑)。
そっか。じゃあいつ出そうか、と。岩本さんと相談して、100万ダウンロード突破のタイミングがいいのではないかと決めました。
✧━━━━━━━━━━━━━━✧
— 学園アイドルマスター【公式】 (@gkmas_official) June 27, 2024
✨100万DL記念パック 販売中✨
✧━━━━━━━━━━━━━━✧
100万DLを記念した、
🔸衣装「チャイルドスモック」パック👚
🔸【100万DL記念】育成パック
の販売は6/28(金)9:59までとなります🐣
お見逃しなく!… pic.twitter.com/krA0EPFyAO
──驚きですよね(笑)。
小美野氏:
ただ、本来であれば、もう少しリリースから時間が経ってからの実装を想定していました。新規の方も含めてプロデューサーの皆さんに『学マス』が受け入れられた状態で、満を持して「こんな遊び心もどうですか?」と、新たな一面をお見せできればと考えていたんです。
──それがあっという間に100万ダウンロードを突破した結果……。
小美野氏:
初っ端にお見せすることになりました。本当に想定外でした。当時は他にコンテンツを用意していなかったので……それ(チャイルドスモック)しか実装できるものがなくて。
──当時は驚きでしたが、でもその1ヵ月に新機能 「アイドルへの道」の報酬で実装された「キンピカ衣装」のインパクトもすごかったですよ。そういう方向に振り切っている方針なのかと思っていました。
小美野氏:
僕らからすると、そこまで変わった衣装を作っているつもりはなかったですよね。ただ、思ったよりプロデューサーの皆さんが話題にしてくださって。
岩本氏:
もちろん、少しでも楽しんでもらいたい気持ちはありましたけど、製作のきっかけは「アイドルの魅力に還元できる」ものを作りたいという考えからでしたね。
小美野氏:
「アイドルへの道」の報酬については、岩本さんといろいろ議論したんです。『学マス』は基本的にプロデューサー視点で話が進んでいくので、アイドル視点のストーリーをマンガ的な見せかたで展開できないかという案も検討しました。
ただ、更新頻度を考えるとさすがに現実的ではなかったので、どんな報酬なら喜んでいただけるのかを考えた結果、重要アイテムである「ティアラ」なら嬉しいのではないかと。
岩本氏:
まず「お姫様ティアラ」が報酬としてあって、そのティアラに似合う衣装を考えていく過程で、「プラチナの輝き」「ゴールドの輝き」の衣装が作られていきました。
かわいさとは柔らかさ! 3Dモデルで表現するために『学マス』アイドルにはBMI値も設定されていた
──衣装もそうですが、『学マス』といえば3Dモデルの作りこみもすごいですよね。花海咲季の腹筋がバキバキに割れている件でも話題になっていた印象があります。
岩本氏:
咲季の設定をいただいたときに「割れてそう」、むしろ「割れてないと変なのではないか」と思ったんですよね。
小美野氏:
咲季のフィジカルがすごい点については、僕らとしても意識的に表現しているところでもあって、演技にも反映してもらっています。
わかりやすいのが、初星コミュ11話の咲季と手毬が走っているシーンでしょうか。手毬はセリフだけでなく息切れの演技も入れてもらっているんですが、咲季は一切息切れせずにずっと喋っているんです。咲季の体力面を表現する一環として、あえてそういう演技をお願いしているんですね。
※2分30秒ころから見るとわかりやすい。
──では、そんな咲季の3Dモデルの腹筋がバキバキに割れて作られているのを見た際にはもちろん。
小美野氏:
「さすが!!」と思いました。
開発中にQualiArtsさんから「(プロフィールの体重とは別に)アイドルたちのBMIの数値がほしい」と言われてたときは驚きましたが、3Dモデルの監修の際にその意図がわかりました。
──えぇっ!?
小美野氏:
僕らからすると「その数値をどう表現するんだろう?」と思ったんですが、「アイドルの設定としてほしいです」とお願いされたので、もともと身長や体重などのデータはお渡ししていたんですが、追加で希望されたので用意した記憶があります。
僕らとしては数値だけでは伝えきれないと考えて、数値を用意しつつも、全身のスタイルや肩回り大きさなど、アイドルのビジュアルのイメージについてもセットでお渡ししました。
──この点についてぜひ詳しくお聞きしたいのですが、その数値をどのように3Dモデルに反映させているんでしょう。
岩本氏:
完全に手作業です。たとえば「咲季なら運動が得意だからこう」「広なら片足立ち10秒もできない設定だからこう」みたいに3Dモデルに落とし込んでいきます。数値だけを3Dモデルの数値に反映させているわけではなく、感覚的なところが大きいですね。
──とくにうまく設定から3Dモデルに落とし込めた、手応えを感じているアイドルの3Dモデルはありますか?
岩本氏:
全体的にうまく作れたと思っています。そもそも、体形(身長、体重、スリーサイズ)以外の情報も知りたかったのは「柔らかさ」を表現したかったからなんです。
──柔らかさ……ですか。
岩本氏:
はい。たとえば、肉つきの薄い部分を硬そうに見せることで、逆に柔らかさを強調できます。柔らかさを表現するためには硬さの表現も必要なんです。腹筋がまさにそうです。モデリングする際にはそれらをすごく意識していました。
小美野氏:
岩本さんから「かわいさとは柔らかさだ!」みたいなことを力説されたことをすごく覚えています。
──かわいさとは柔らかさ(笑)。その柔らかさはどのように表現されているんでしょうか。
岩本氏:
いろいろな要素がありますね。肌の白さもそうですし、実際の動きからも表現されています。
小美野氏:
たとえば、足(太もも)にバンドを巻くと一部がギュッとなるのも柔らかさの表現のひとつですよね。
そういう表現ひとつひとつにこだわっていただいたからこそ、アイドルたちが生き生きとした姿が、『学マス』のコンセプトでもある「みずみずしさ」が表現できたのかなと思っています。

学園が舞台であること、アイドルの人数が少ないことが、どう受け入れられるかは未知数だった
──『学マス』リリース直前はどのような心境だったのでしょうか。歴史ある「アイドルマスター」シリーズの完全新作ですから、ものすごい重圧がのしかかっていたのは想像に難くないのですが。
小美野氏:
どう受け入れてもらえるのか不安な気持ちはもちろんありましたけど、リリース直前になると逆に「もうやるしかない」と腹も括りきっていたのもあって、気持ちとしては平穏だったと思います。
どちらかというと、初めて本作に関する情報を公開した3月5日の「新ブランドアプリゲーム発表生配信」のときのほうがめちゃくちゃ緊張していました。
──『学マス』として初めてタイトルの情報を公開したタイミングですね。とくに緊張していたのには、どのような理由が?
小美野氏:
一番のターニングポイントがそこだと考えていました。我々としてはQualiArtsさんやストレートエッジさんと自信を持って「いいもの」と呼べる作品を作ってきました。
でも、第一印象でよくないイメージを与えてしまったら、挽回するのが難しくなってしまう。逆に、そこさえ超えることができれば「いいもの」をお届けできると。
──第一印象をよいものにするのが第一関門だったというわけですね。
小美野氏:
僕の中で、いくつか乗り越えなければならないと思うところがありました。
まず、「舞台が学園」であることを発表した際に、『アイドルマスター』シリーズをすでに知っている方々のあいだでどのような反応が起きるのか。そして、プロデュースできるアイドルの人数の少なさについても、どう受け入れられるか未知数でした。
この2点については、情報を初出しした際にどのような反応があるのか読めないポイントで、かなり不安に思っていました。
──たしかに。学園が舞台というのは、これまでの『アイドルマスター』ではなかった世界観でしたから、発表された際もとくに注目されていた記憶があります。
小美野氏:
加えて、岩本さんとずっと議論を重ねていたのが「『学マス』のゲーム性をどこまで公開するか」でした。
楽曲もいいし、アイドルもかわいい、世界観もおもしろい。となったら次に出てくる「どんなゲームなの?」という疑問に、表に立つ作品のプロデューサーとしては、できるだけ情報を公開することで応えたいと考えていました。
岩本氏:
『学マス』のゲーム性や体験はしばらくプレイしないと伝わりにくいため、中途半端に公開すると誤解を生んでしまい、正しく伝わらない懸念が僕としてはあって、そこについてはかなり議論をしました。
小美野氏:
最終的には僕の意図を汲んでいただいて、5月8日に行ったリリース前最後の生配信でゲーム性についての情報を出すことになりました。
ただ、必要以上に「難しく、複雑なゲーム」な印象を持たれないように、段階的に情報を公開していくのがいいのではないかと考えたんです。
──段階的とは?
小美野氏:
まず8日の生配信ではできるだけ情報をコンパクトにまとめ、5月13日に掲載される「9メディア×9アイドルのプレイ記事」で想像を埋めていただきつつ、その直後にサービスが始まる、という流れですね。
僕らが堅苦しく説明するよりも、メディアの皆さんが「ここがおもしろい、ここが気になる」と書いてくれるほうが、プレイヤーの皆さんにも伝わりやすいと思ったんです。
岩本氏:
かなりおもしろく書いていただいて、実際の反響もよかったので、本当にありがたかったです。
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
— 学園アイドルマスター【公式】 (@gkmas_official) May 13, 2024
9メディア×9アイドル
#学マス 最速プレイ
記事公開!
___________◢
各メディアが、それぞれ一人ずつアイドルをプロデュース!
全9記事を一挙公開!
※内容にはネタバレが含まれます
👇リプライから記事を読む!👇 pic.twitter.com/ysqtoW8QwL
小美野氏:
それに、僕らが本当に表現したかったのは、「ローグライク」というゲーム性がメインではなく、くり返しプロデュースしていくことで歌やダンスがうまくなっていく「成長」という体験でした。
「プロセスを踏むことで成長していく彼女たちの姿」は、ゲームの特定部分だけを切り出して伝えるのはやはり難しく、避けていたというのもあります。
──リリース直前のQualiArtsさん側の動きとしてはどうだったんでしょう?
岩本氏:
『学マス』は「Ture Endに辿り着くまでの道筋」が体験として大事だと考えていたので、リリース前の4ヵ月くらいはそこに繋がる「成長の体験」をわかりやすくお届けできるようにチューニングをしていました。
ほかにも、チュートリアルやヘルプの文言については細かく調整していました。少し表現が異なるだけで受けとりかたやわかりやすさが変わってくるので、プレイするユーザーの方が躓かずにプレイいただける環境づくりに尽力したつもりです。