「新しい『アイマス』なんだから、今までの固定観念を壊して新しいものを作ってほしい」
『学園アイドルマスター』の開発中、今作のメインプロデューサーを務める小美野日出文(こみの ひでふみ)氏はこの言葉を何度も投げかけられたらしい。
しかし、小美野氏自身は全く逆の考えだったという。
新しい『アイドルマスター』だからこそ、『アイマス』の良さを残す必要がある。「新入生」とでも言わんばかりの鮮烈なイメージがある一方、『アイマス』として正しいことをできているのかを常に考えながら『学マス』を作り上げてきたらしい。
この事実を知るまで、なんとなく勝手に「『学マス』は相当“新しさ”を意識して作ってるんだろうな」と思っていた。そもそもシリーズ的には6年ぶりの完全新作だし、舞台も学園だし、ビジュアルも、曲も……なんだか全体的に「新しさ」を全面に押し出している感じがした。
『学マス』はきっと、このゲームはこれまでとはまったく違う『アイマス』を目指して作られているのだろう……というのは、私の勝手な勘違いだった。
では、この「新しさ」はどこから来ているのか?
その一方で追求した「『アイマス』の良さ」とは、一体なんなのか?
そもそも『学園アイドルマスター』は、何をしようとしているのか?
そんな根本的な「『学マス』ができるまで」を思いきって開発陣に聞いてみたのが、このインタビューだったりする。
そして今回お話をうかがうのは、バンダイナムコエンターテインメントにて『学マス』のメインプロデューサーを務める小美野氏と、QualiArts側にて開発のディレクターを務める岩本航輝氏のおふたり。
このおふたり、時に仲良く、時に激しく、二人三脚で『学マス』開発に臨んできたという。
そもそもの企画の始まり、『学マス』のコンセプト設計、アイドルの制作秘話、異常に気合の入ったモデルとライブシーンのこだわり、あとあだ名が一瞬「6万ポリゴン」になったらしい小美野氏とか……とにかく『学マス』開発の舞台裏を、たくさんお聞きしてみた。
さらに、以前から話題を呼んでいた「花海咲季、実は当初ラスボスだった」というエピソードも、詳しくお聞きしてみた。この「花海咲季が当初ラスボスだった」という話自体、『学マス』を象徴するエピソードだと感じた。どういうことか、読めばわかる!
『学マス』が気になっている方も、既に初星学園に入学した方も、ぜひ最後まで読んでください!
聞き手・文/ジスマロック
編集/竹中プレジデント
撮影/増田雄介
アイドルの立ち絵、一度全ボツ。なんで!?
──個人的な感覚ではあるのですが、『学マス』は立ち絵、3Dモデル、イラストなどアートワークの完成度がとにかく高いと感じています。今作のアートワークにはどういった狙いがあるのでしょう?
岩本氏:
最終的なビジュアルが固まるまで、結構期間がかかりましたよね。
小美野氏:
それこそ、アイドルの立ち絵が1回全ボツになってます(笑)。
──全ボツですか!?
小美野氏:
ゲーム開発において、キャラクターの「立ち絵」は初期に作る必要があります。だから、現在のビジュアルが決まる前に、先にアイドルの立ち絵を作っていたんです。
そのため、最終的なビジュアルのトンマナ(コンセプトや雰囲気)を決めた時、「いまのビジュアルの雰囲気と、初期に作った立ち絵が全然合ってなくない?」という話になり、立ち絵をすべて作り直すことになりました。
──とはいえ、立ち絵をすべて作り直すというのは大きな決断だと思います。
小美野氏:
プロデューサーの方々が最初に目にするアイドルの姿は立ち絵になりますから、立ち絵から受ける印象というのはとても重要です。
そこで初期の立ち絵を見せてしまったら、最終的に確定したビジュアルが全部無駄になってしまう。だから、「最終的に決まったビジュアルに合わせるべきだ」と判断しました。加えて、そのタイミングで「ポーズも違う」ということに気づきました。
──「ポーズの違い」というのは具体的にどういったことなのでしょう?
小美野氏:
初期の立ち絵は、全員しっかり正面を向いている「ザ・立ち絵」として作られていました。立ち絵というものの固定観念にとらわれてしまっていたんです。
でも、自分はどちらかというと「この子にとって、本当にこれがベストなのか?」ということを考えたくて……要するに、全員が同じ方向を向いている立ち絵ではなく、「そのアイドルにとってのベストカット」を立ち絵にするべきだと思いました。
そこから「もうちょっといい角度を」「もうちょっとこの子のこういう所を見せられるポーズにしてほしい」といったように、そのアイドルに合わせた立ち絵を作り上げていきました。
岩本氏:
だから、「立ち絵」というよりかは、「その子を最初にアイドルとして売り出す時のベストショット」のイメージになっています。「この子はこんな感じで売り出したい」といった打ち出し方そのものが立ち絵に反映されていますね。
──『学マス』のビジュアルを拝見した時、個人的にはすごく「新しさ」を感じました。3Dモデルや立ち絵、イラストなどこれまでの『アイマス』の空気感から外しているような印象を受けるのですが、ここはなにか具体的な方針があったりするのでしょうか?
小美野氏:
おそらく、QualiArtsさん側は「新しいものを作りたい」という意識で制作されていたと思うのですが……逆に僕はそこまで意識していませんでした。
いろいろな人から言われたんですよ。「新しい『アイマス』なんだから、今までの固定観念を壊して新しいものを作ってほしい」と……。
一同:
(笑)。
小美野氏:
むしろ、新しいものを作るのって簡単なんです。
なぜなら、「やってないことをやればいい」だけだから。
だけど、『学マス』においては、これまでの「『アイドルマスター』の良さ」を残しつつ、今の時代にアップデートすることが最も重要だと考えていました。
──新しい『アイマス』を目指したわけでなく、『アイマス』の良さを今の時代に合わせて描いたというわけですね。
小美野氏:
はい。だから僕が強く意識していたのは、「『アイドルマスター』の良さ」という木の幹の部分は絶対に外さないようにして、その上に「いかに今のお客様が魅力的に感じてくれる要素をコーティングできるか」ということでした。
どちらかというと制作中も、「新しいことをやるのはいいけど、これはちゃんと『アイマス』として正しいことをやれているのか?」を常に意識していました。
岩本氏:
QualiArts側のクリエイティブコンセプトとして使っていた言葉は、「みずみずしさ」でした。だから、「差別化」というより、これまでの『アイドルマスター』の良さを踏襲しつつ、いかに「みずみずしさを特徴として持たせられるか」を意識していました。
一口に「新しさ」と言っても、いろいろと浮かぶワードはあると思うんです。「フレッシュさ」「生命力」……あとは、「古臭くならない」とか。そういった「新しさ」のイメージ全体の言葉のかけ算として、「みずみずしいもの」を作ろうと思っていました。
それがすべてのクリエイティブに反映された結果として、新しく見えているのかもしれません。
小美野氏:
アート面に関する一番の功労者は、間違いなくQualiArtsでクリエイティブディレクターを担当されている多田さんですね。多田さんは、岩本さんがアサインされる前から『学マス』に関わられていて、キャラ原案の先生を決める前の段階から一緒に作り上げてきました。
花海咲季、実は当初ラスボスだった。私の妹がこんなに主人公なわけがない。
──公式サイトに掲載されている“小美野さんと伏見つかさ先生のインタビュー”では、花海咲季(主人公的な位置付け)と花海佑芽(ライバル)の立ち位置が当初は逆だったと語られていました。このあたりについて詳しくお伺いできないでしょうか。
小美野氏:
そうなんです。実は、当初伏見さんが挙げてくださった案では妹の佑芽が主人公で、姉の咲季がライバルだったんです。つまり、当初は元気で明るい王道アイドルの佑芽が主人公となり、咲季が物語の最後に立ちはだかるラスボスになる予定でした。
ただ、デザインが決まる前に、ふたりの設定を調整して主人公とライバルを入れ替える形としました。
──たしかに、そう考えると咲季はちょっとライバルっぽいデザインですよね。個人的にも、佑芽の方が従来の『アイマス』のセンターっぽい印象があります。
小美野氏:
そこはすごく狙っていますね……というか、その真逆感を狙ってデザインしてもらいました。
咲季も主人公的なポジションを意識しつつデザインしたのですが、ライバルを想定していた頃のビジュアルイメージはもっと「ラスボス感」が満載でしたね。
──ちなみに、ライバルを想定していた頃と現在とで、咲季の設定などは変わっているのでしょうか?
小美野氏:
いえ、実はあまり変わっていません。
元から「死ぬほど努力している秀才」といった設定のアイドルだったので、「成長を描く」ことをコンセプトにした『学マス』のセンターとしては、咲季の方が面白くなりそうだと考えたんですよね。
つまり、成長曲線的にはかなり上がりやすい方なんですが、才能の限界もすぐに迎えてしまう。その状態になってからの成長をどう描くのかが、咲季のエピソードの軸になっています。そして、「そんな咲季が『学マス』のセンターだったら……一番面白くなりそう」と思ったんです。
──そう考えると、花海咲季、月村手毬、藤田ことねのいわゆる「信号機トリオ」も特殊な組み合わせになっていますよね。
小美野氏:
「バランスは考えるな」というのが、僕が開発初期の段階からチーム全体に強くお願いしてきたことでした。
『学マス』はキャラクターデザインやシナリオも含め、「その子にとってのベスト」を最も大切にしています。だから、バランスは一切取らなくていいし、9人がバラバラでもいい。その代わり、その子にとっての一番ベストな方法を考えようと。
だから、信号機トリオも含め、僕らとしては「無理にバランスを取る」ことは考えていません。常に、「その子にとってそれがベストなのか」を最終的な判断基準とした上で、作り上げています。
ただ……僕が打ち合わせで何度も繰り返してきたからか、途中から開発メンバーの中に「バランス警察」が現れました。
僕が安易な方向に向かおうとすると「あれ? 小美野さん前にバランス取るなって言ってましたよね? いまバランス取ろうとしてませんでした?」と……。
一同:
(笑)。
──お話を聞いていて感じるのですが、『学マス』の開発チームはすごく仲が良さそうですね。
小美野氏:
めちゃくちゃいいチームです。
譲れない部分ではぶつかり合いながらも、カジュアルな雰囲気はあり、楽しく開発しています。
──『学マス』は最初に登場するアイドルも「9人」と、かなり人数が絞られている印象を受けます。実際、この9人のアイドルはすんなり決まっていったのでしょうか?
小美野氏:
いや、全然すんなり決まってないです!
ボツになった子もたくさんいますし、なんならキャラデザまで作ってからボツになった子もいます。
制作順としては、まず最初に信号機トリオの3人(咲季・手毬・ことね)と、ライバルになる3人(佑芽・美鈴・星南)を考えました。そこから残りの6人を作り上げていった感じですね。
──この中で「一番制作が難航したアイドル」はどれになるのでしょう?
岩本氏:
(篠澤)広ですね。
キャラ設定から難航していました……。
小美野氏:
実は、元々広のポジションにいた子が、ボツになってしまったんです。
その別案として、広が生まれました。
当初から「なんとなく枠的に9人くらいは作れるだろう」と思っていて……一度9人のアイドルを制作してみたのですが、ひとりだけボツになってしまいました。そこで新たに考えて、ゼロから作り直したのが広ですね。
──ちなみに、「9人」という数字にはこだわりがあったりするのでしょうか?
小美野氏:
最初の『アイドルマスター』の人数をまったく意識しなかったと言えば嘘になるのですが、「結果的に9人になってしまった」というのが正直なところです。
やはり、ひとりひとりに手間をかけて制作した分、時間やリソースも大きくかかりました。極端な話、10人でも12人でも問題はなかったのですが、その工数はなくて……「9人作るのが限界だった」というのが実情です。
岩本氏:
一応、僕としてはなんとか「9人である納得感」は持たせたかったんですよね。だから、「きっと自分が担当したいアイドルが見つかるであろう最少人数」と「最初の『アイドルマスター』のアイドル枠数」をかけて、9人としました。
──たしかに、ゲームシステム的にも工数的にも何十人も用意するのは難しそうです。
岩本氏:
いきなり100人くらい作り出したら、『学マス』のコンセプトから変わってしまいますからね(笑)。
最初に「ひとりのアイドルにフォーカスしよう」と決めた時点で、アイドルの人数が少なくなるのは間違いなかったんです。だから、実のところ5人くらいでもよかったかもしれないのですが……さきほどの理由も含めて、9人になりましたね。
──なるほど。こうして改めて見ると、9人全体でしっかりシルエット的にもちょうどいい感じになってるというか……いい感じのバランs
小美野氏:
いや、バランスは取ってないです。
一同:
(笑)。
岩本氏:
危ない危ない!
まさにいまバランス警察が(笑)。
小美野氏:
セーフ! セーフ!!
──少し踏み込んだ話になってしまうのですが、伏見さんにはあまり「ゲームシナリオ」を書かれている方との印象がないんです。「伏見さんがシナリオを担当することになった理由」などはあるのでしょうか?
小美野氏:
これは事実ベースですが、ライトノベル業界において「女の子との日常を描いている作家さん」の中で、伏見さんは日本でトップクラスの方だと思っています。だから、これ以上の適任はいらっしゃらないと思っていました。
やはり『学マス』はゲーム上、「テキスト」の面白さが求められてしまいます。
その点において、「テキストでの勝負」では伏見さんで間違いないだろうと。
──ちなみに、伏見さんは今作のメインシナリオもほとんど担当されているのでしょうか?
小美野氏:
厳密には、アイドルの設定を全員分作るのと、学園の設定を一緒に作りました。アイドルのシナリオ的には、咲季・手毬・ことね・千奈・広の5人を伏見さんが担当されています。
だからもう、伏見さんご自身で一番シナリオを書かれていますね……。
岩本氏:
テキスト量的にも、伏見さんが一番多いですね。だから僕らも、いつもチェック時に「すみません……」と伏見さんにお願いをして(笑)。
小美野氏:
しかも、伏見さんはめちゃくちゃ筆が早いんですよね。
そのうえで、クオリティも高いんです。
だから、滅多にこちらが直しを入れなくてもいいくらいで……もう僕ら側の作業としては「(伏見さんのシナリオが)コンセプトに合ってるかどうか」を確認するだけなんです。そこで「もうちょっとここを成長させたい」「この子のコンセプト的にはここを立たせたい」といった相談をしていました。
どうして「学園でアイドルマスター」なのか
──ここからは小美野さんと岩本さんがどう『学マス』開発に携わってきたのかお聞きできればと思います。まず、小美野さんが『学マス』の制作に参加した経緯についてお伺いできないでしょうか。
小美野氏:
僕は元々バンダイナムコで版権系のタイトルを担当していたのですが、ある時『アイドルマスター』シリーズのゲーム統括をしている三本(昌史)さんから、「『アイドルマスター』を一緒に作ってみないか」という相談を受けました。
僕が加わった段階ではまだペライチの企画書があるだけの状態だったのですが、その時点で企画書が面白そうだったんですよね。
ちなみにペライチの段階では、伏見つかささんが所属されているストレートエッジさんと、うちの坂上さん(陽三)【※】が話を進めているような感じでした。そこで「ぜひやりたいです」と快諾し、『学マス』のプロジェクトにチームごと移動して参加した形です。
※坂上陽三氏……元『アイドルマスター』シリーズの総合プロデューサー。「ガミP」という愛称でもお馴染み。現在は、バンダイナムコスタジオ所属。
──では、初期の企画書の段階で「学園の『アイドルマスター』」というメイン要素は決まっていたのでしょうか?
小美野氏:
「学校が舞台」までは決まっていたのですが、ほとんどそれしか決まってなかったです(笑)。
たしか、僕と同時くらいのタイミングで伏見さんがアサインされたので、「どんな企画にするかはふたりで決めていいよ」とは言われていたんですが……「いや、学園は面白そうだしこれでいいよね」と話していました。
そこから主なコンセプトや「『アイドルマスター』らしさ」を探っていく中で、結果的に「学園」がベストな舞台なんじゃないか、という形に落ち着きました。
──それはどういった判断があって、「舞台は学園がベスト」だという着地になったのでしょう?
小美野氏:
僕らと伏見さんが、『学マス』の制作において「『アイドルマスター』のいいところをどう残し、かつ新しさをどう加えていくか」コンセプトづくりの段階で出した答えが「成長を描きたい」ということでした。つまり、「アイドルの成長を描く」ことで、ニーズに応えようと考えたんです。
そこで、「学園」という舞台と、「成長」という要素が非常にマッチしていることに気づきました。アイドルとして成長していき、そして人としても成長する。そこを接続するために、結果として「学園」という舞台がベストだったんですよね。
──では、岩本さんが今作の制作に参加された経緯をお聞きできればと思います。
岩本氏:
『学マス』に参加する前は、別のタイトルに参加していたのですが……その開発中に「『アイドルマスター』に興味ある?」と言われて、「あります!」とお答えしたら、いつの間にか参加していました(笑)。
一同:
(笑)。
岩本氏:
本当にそういう経緯なんです(笑)。
だから、最初は別の企画と並行しつつ、何もわからないままミーティングに参加していました。初対面の時も「コイツ、『アイマス』好きなんですよ」と紹介してもらい、『学マス』に加わった形でしたね。
ちなみに、ニコニコ動画で「ニコマス」という文化に触れてから、『アイドルマスター』にハマりました。結構初期の頃から好きだったので、とても光栄でしたね。
──岩本さんが開発に参加された時期としては、先ほどのペライチの企画書に対して小美野んと伏見さんがコンセプトなどを固めてから……ということなのでしょうか?
小美野氏:
具体的なコンセプトが固まってから、まずQualiArtsさんにご相談をしに行きました。2019年の9月ぐらいだったと思います。そこからQualiArtsさんと詳細な企画を作っていくタイミングで、本当に打ち合わせ中に「ちょっと『アイマス』に詳しいやつがいるから呼びますね!」と言われて、岩本さんが参加されたのを覚えています(笑)。
その打ち合わせで岩本さんとQualiArtsの方が「どう思う、この企画?」「いいと思います」という話をされていて……そこから、気がついたら打ち合わせに出席されるようになっていましたよね。
岩本氏:
本当に、ぬるっと参加しましたね。
「その作り込みは無理です!」「でもやってほしいです!!」
──岩本さんはQualiArts側のトップとして開発を担当しているとお聞きしたのですが、元々『アイマス』がお好きだったと考えると、やはり『学マス』の制作に参加されるのはプレッシャーが大きかったのではないでしょうか。
岩本氏:
震えましたね……というか、今でも震えてます(笑)。
ただ、「嬉しさ」も同時にありました。ここまで大きなプロジェクトに参加したこともなかったですし、緊張と嬉しさが半々くらいでしたね。
小美野氏:
岩本さんとは、本当に二人三脚でここまで作り上げてきました。
特に開発中期くらいは、細かい部分の相談などもめちゃくちゃ密にコミュニケーションを取っていましたね。なにかあったら「このあとお時間いいですか?」と電話をして、打ち合わせをして……その繰り返しで作り上げてきました。
──おふたりのやり取りについて、もう少し詳しくお聞きしてみたいです。
小美野氏:
QualiArtsさんに限らず、基本的に僕は「できるだけ直接的な言葉でお願いをする」ということを心がけています。伝わらないと意味がないですから。
開発のみなさんの都合を考えたり、オブラートに包んでうかがうよりかは、「僕はこれがしたいんです」「ゴールはこれです」ということをハッキリ提示させていただいた上で、可否を決める。そこから「どうやってそこに向かうのか」を話していく。そうした方が、結果的に時間も早く済みますよね。
だから、もう最初の時点でQualiArtsさんには「僕はストレートに言う人間です」というご説明をしていましたね。それこそ『学マス』に登場するアイドルの「髪のポリゴン数」で、「どこまで作り込めるのか」を相談した時にも、「僕が目指したいのはこれくらいです」とストレートにお伝えしていました。
そのうえで、岩本さんからは「それは無理です!」と(笑)。
一同:
(笑)。
小美野氏:
「その作り込みは無理です!」「でもやってほしいです!!」といったやり取りを、繰り返していましたね。実際に「どこを落としどころにするのか」についても、しっかり話し合いながら決めています。
──岩本さんの中で「小美野さんにストレートに言われて印象的だったこと」などはあったりしますか?
岩本氏:
……………「可愛くない」とかですかね(笑)。
おっしゃられた通り、小美野さんはすごくストレートにものを言うんですよね。最初に結論の「こうなんです」と言ってくれるので、それが毎回印象的ですね。「面白くない」とかも普通に言う。
でも、そこで傷つくというよりかは「率直な感想」として受け取って、毎回「じゃあ、どうしようかな……」と悩み始めます。だから、僕の中では「小美野さんの要望を当てるためのハードル」が、勝手に上がっていますね。
小美野氏:
端的にお伝えした後、一応なぜならこうだからって説明はいつもしてますよ……!
とはいえ、この辺のやり取りはある程度岩本さんとの距離が縮まってからです!
ちなみに、割と初期に開発チームで「決起会」のようなものを開いて……そこで岩本さんとは腹を割って話せるようになりましたね。
──ここまでの流れとは全然関係ないのですが、「おふたりの一番好きな作品」をお聞きできればと思います。特に、「人生で一番好きな作品」をお聞きしたいです。
小美野氏:
僕は『マブラヴ オルタネイティブ』です。一番好きな作品というより、「自分の人生が変わった作品」ですね。じつは「ゲームの仕事をしよう」と思ったのは、大学生の時にあの作品を遊んだのがきっかけなんです。
たしか2006年に『オルタネイティブ』が出たと思うのですが、それより少し前に『Fate/stay night』や無印『マブラヴ』を遊んでいて……あの時期に、その辺のゲームを結構遊んでいました(笑)。
特に『オルタネイティブ』は、泣きすぎてパソコンを壊してしまったんですよ。
──えっ、「泣きすぎてパソコンが壊れる」というのはどういうことなんですか?
小美野氏:
当時はキーボードと一体型のデスクトップPCだったんですが、流しすぎた涙がキーボードに侵食して、パソコンが壊れました。特に最後のシーンがね……。
岩本氏:
そう、そこ。そこが最高なんですよ(笑)。
──岩本さんもそういったノベル系のゲームがお好きなのでしょうか?
岩本氏:
僕は『パルフェ 〜ショコラ second brew〜』が一番好きですね。
どれくらい好きかというと、一時期友達と「毎年クリスマスに『パルフェ』をする会」をやっていたくらいです。ふたりで開いていた会なんですが、毎年ふたりで『パルフェ』を遊びながら泣くクリスマスイブを過ごしていました(笑)。
──ちなみに、『パルフェ』のどういったところが好きなのでしょう。
岩本氏:
僕は元々、丸戸史明さん【※】の作品が好きでした。『パルフェ』はその走りみたいな作品だと思っています。
「癒やし」と「裏切り」がどっちも得られるゲームになっていて……要は、癒やしの日常パートがありつつ、最終的にそれが裏切られて、泣ける。この「軽さ」と「重さ」の両方を味わえるのは、かなり丸戸先生の特徴ですよね。ここに、すごく影響を受けています(笑)。
もちろん、『マブラヴ』なども好きですね!
※丸戸史明氏……ゲームシナリオライター、ライトノベル作家。『WHITE ALBUM2』『冴えない彼女の育てかた』などが代表作。
──おふたりとも、結構趣味が近い部分があるんですね。
小美野氏:
そうなんですよね。
もちろん僕も『パルフェ』は遊んでいますし、プライベートでも普通に遊んだりします。
岩本氏:
休みの日にポケカとベイブレードで遊んだりしてます。
バンナムさんとウチの社員で、ポケカ大会を開いたこともあります(笑)。
一同:
(笑)。