ゲーマーであれば、『Sky 星を紡ぐ子どもたち』(以下、Sky)というゲームを耳にしたことがあるのではないだろうか。
2019年7月のサービス開始から6周年を迎え、「言葉が要らない心温まるゲーム」として数々の賞を獲得し、2億ダウンロードを超えるなど世代やプラットフォームを超えて多くのユーザーに愛され続けている。
そんな『Sky』の「原点」となる物語を描いたアニメーション映画『Sky ふたつの灯火 – 前篇 -』が “日本限定” で8月8日から劇場公開される。発表当時、そのクオリティや意外性からSNS上で大きな話題となったので知っているユーザーも多いだろう。
今回、映画『Sky ふたつの灯火 – 前篇 -』の公開にあわせて、ゲームの開発元「thatgamecompany」でCEOを務めるジェノヴァ・チェン氏や映画監督のエヴァン・ヴィエラ氏をはじめとする開発陣が来日した。
ジェノヴァ・チェン氏はゲーム内でも数多く登場し、アイテム化もされており、『Sky』ユーザーにとても馴染み深い人物だ。


今回のインタビューでは両氏に映画の制作秘話、『Sky』への思い、そして作品を通じて伝えたいメッセージなどについてうかがった。
なお、映画『Sky ふたつの灯火 – 前篇 -』については、別記事で魅力を紹介しているので興味があればあわせてチェックしてほしい。
じつは雨林や峡谷の大精霊にフォーカスを当てたストーリーも考えていた
──本作はまだ精霊たちが元気に暮らしていた過去の『Sky』の世界が舞台ですが、これらの世界設定やストーリーというものは、開発時点から考えていたのでしょうか?
ジェノヴァ・チェン氏(以下、ジェノヴァ氏):
はい。2014年ごろには本作の舞台や背景、そして「生きている人々が住んでいる世界があり、それが滅んだ過去がある」という世界設定は決まっていました。しかし、映画の主人公である孤児の子どもは、映画のストーリーを考案する段階で生まれたキャラクターです。
──ちなみに、映画の開発当初は別のストーリーやモチーフを考えていたのでしょうか?
ジェノヴァ氏:
アニメーション企画の当初は、「雨林の大精霊」【※1】あるいは「峡谷のふたりの大精霊」【※2】をメインの登場人物に据えたストーリーも考えていました。しかし、「王国が滅びる前のSkyの世界を描いた物語」がプレイヤー自身にもっとも関係してくるであろうと考え、最終的に今回のようなストーリーに落ち着きました。
※1 雨林の大精霊
ゲーム内の「雨林エリア」の最奥にある神殿で、祭壇に光を灯すと会える大精霊。正式名称はないものの、ゲームファンからは「雨林様」という愛称で呼ばれている。
※2 峡谷のふたりの大精霊
同じくゲーム内の「峡谷エリア」の神殿で、祭壇に光を灯すと会えるふたりの大精霊。ゲームファンからは「ツンパ」という愛称で呼ばれることが多い。


ジェノヴァ氏の『Sky』に対する思い
──本作は発表当時大きな話題になった通り、多くのファンが期待している作品だと思います。『Sky』ファンのユーザーを始め、映画で初めて『Sky』を知る方に向けて伝えたいテーマやメッセージはありますか?
ジェノヴァ氏:
thatgamecompany(以下、TGC)には、スタジオジブリや宮崎駿監督の作品のファンが本当にたくさんいます。そのため『Sky』や『風ノ旅ビト』を含めた
TGC作品の制作スタッフは、これらのスタジオや監督の作品、そこで描かれるキャラクターや感情の表現から影響を受け、勇気づけられることがとても多いです。
私たちがゲームを通じて実現したいと考えている「プレイヤー同士が思いやる心」であったり、「プレイヤー同士が友情を築くこと」を作品や本映画を通して感じ取ってほしいです。
──『Sky』は今では全世界でファンを獲得し、当然ながら本作を遊んだユーザーひとりひとりが、ゲーム内でさまざまなドラマや経験をしていると思います。その中で、ジェノヴァさんにとって『Sky』はどのような存在ですか。
ジェノヴァ氏:
ゲームを作ることはさまざまな困難を伴いますし、完成させることはすごく大変です。私自身も開発時にさまざまな苦悩を体験しました。
その中で、作品をプレイしてくれるプレイヤーの存在による応援の声というものが、ゲームを作り続ける一番の動機・モチベーションになっています。『Sky』というのは、これまでゲームをプレイしてくださったプレイヤーのみなさんへの「感謝」という気持ちが、私の中で一番にあります。
──すごく素敵ですね。ジェノヴァさんは以前から「ゲームは映画や音楽ほど作品を評価される機会が少なく社会的に認知されづらい」ということをおっしゃっていたかと思います。今回は映画という表現方法になったことで目標にしていたことや達成できたことはありますか?
ジェノヴァ氏:
ゲームというインタラクティブな体験に対して、音と映像で物語、そして感情を伝える体験をできたことは自分にとってすごく大きな経験でした。
ただ、ゲームにしろ、アニメーションにしろ「体験をした人の心に何かを残したい」「持ち帰ってほしい」「何かを感じてほしい」という点が常に私の目標です。今回の映画ではそれを、達成できたのではないかと思っています。
──エヴァン監督は今回の映画を作るうえでの課題や目標をどのように考えていらっしゃったのでしょうか。
エヴァン・ヴィエラ氏(以下、エヴァン氏):
映画もゲーム制作も同じビジョンのもとで制作しました。それは、時代を超えて語られ続ける・体験され続ける作品にしなければならないという信念です。
流行っているものを作るのではなく、この作品自体が時代を超えて感情に響くようなものにしなくてはいけない点は、制作において重要な課題でした。
また、これは個人的な話ではあるのですが、私はTGCの大ファンなんです。というのも、2013年に『Sky』のコンセプトを作る中心メンバーとしてTGCに所属していました。
──ええっ、そうだったんですか!?
エヴァン氏:
はい。その後、自分の会社を立ち上げてアニメーション制作を行っていました。なので、『Sky』の開発初期にみなさんと一緒に働けたことは私の中で良い刺激になっています。
言葉を使わずに感情を伝えることの難しさ
──『Sky ふたつの灯火 – 前篇 -』は台詞がいっさいないという点も特徴のひとつかと思います。「サイレント映画」は魅せ方が難しく、観客はストーリーを常に考えながら見るため、「疲れてしまう」「飽きてしまう」「苦手」といった意見も見かけます。しかし、ゲーム内で先行上映されている本作へのSNS上の話題を見ると、かなり評判がいいように思えます。そこで、本作で施した工夫や見どころを教えてください。
エヴァン氏:
たしかにすごく難しい挑戦でした。そのため、ゲームで鑑賞していただいた方々から受け取る感想はどれも嬉しいですし、ほっとしています。
私たちがこの作品制作を通して感じたことは、「キャラクターの心情背景を正しく表現できていれば言葉を使わなくても、見た人たちに感情が伝わる」ということです。しかし同時に、私たちが正しく理解・表現できているのかとても不安でした。
──なるほど。「言葉がなくても感情が伝わる」という確信があっても、その表現方法が正しく機能しているかどうかは鑑賞した人の反応を見てみないとわからないですよね。その課題をどのように乗り越えたのでしょうか。
エヴァン氏:
本作の制作にあたり、すごく詳細な脚本を用意しました。しかし、この詳細な脚本に基づいて映画を制作したところ、説明過多だと感じるような映像になってしまい、逆にわかりづらくなってしまったんです。
そのため、映画制作時には、いかに脚本を “単純化” してシンプルにするか、そしてシンプルにしても感情のコアな部分はしっかりと伝えられているか、というところを常にチェックすることを意識しました。
結果としてわかりやすいストーリーに仕上がったと思っています。ぜひ私たちのメッセージをご覧ください。(了)
8月8日に全国で劇場公開予定の映画『Sky ふたつの灯火 – 前篇 -』はゲーム内のシアターエリアにおいて、7月21日からチャプター形式で段階的に先行上映がされており、すでにSNS上ではさまざまなユーザーから感想が寄せられている。
これらのユーザーが感じた想いは、長年の開発陣が積み上げた想いと願いの成果と言えるだろう。

なお、現在ゲームの『Sky』では8月18日までの期間6周年イベントを開催しており、くわえて映画とのコラボシーズン「ふたつの灯火の季節」も開催している。映画にまつわるアイテムや、新エリアも追加されているため、興味があればあわせてチェックしてみてほしい。
『Sky 星を紡ぐ子どもたち』はiOS、Android、Nintendo Switch、PlayStation、PC(Steam)で無料配信中だ。