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これはホラーではない。恐怖を超えた「不安さ」を追求した異色作『UN:Me』インタビュー。開発者が語る、魂の消去をテーマにした感情実験とは?

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複数の魂を宿す少女が、不気味な精神の迷宮からの脱出を目指す──。

2025年12月、そんな異色のアドベンチャーゲーム『UN:Me』がアナウンスされた。

主人公である少女の体には4種類の魂が宿り、それぞれの魂がプレイヤーの意図とは関係なく体を乗っ取り、表に出てくるという。魂ごとに異なる「特技」と「トラウマ」があり、それらが切り替わるたびに少女の自意識や行動、そして運命が翻弄されるのだ。

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そして少女は魂と向き合い「対話」を重ね、ひとつの魂を除いた残りを「消去」するという決断を迫られる。最後に残った魂は、少女にどのような影響を及ぼすのか。

12月11日の第一報では、その不可解な設定から「いったいどんなゲームなのか?」と不安を覚えた人も多かったことだろう。

それもそのはず。『UN:Me』の開発者は、プレイヤーにさまざまな形で「不安さ」を与えることを最大のテーマに本作を企画したというのだ。この挑戦的な作品について、関係者に詳しく話を聞いたのでインタビューをお届けしよう。

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写真左から集英社ゲームズ 河合泰一氏、ヒストリア 佐々木 瞬氏、山中拓也氏

集英社ゲームズ 河合泰一氏:
集英社ゲームズ 河合チーム シニアプロデューサー。前職バンダイナムコエンターテインメント時代からこれまで、IPゲームを中心にワールドワイドで数多くのタイトルのプロデュースを手掛ける。『UN:Me』では総合プロデューサーを務めている

ヒストリア 佐々木 瞬氏:
Unreal Engine 専門スタジオ、株式会社ヒストリアの代表取締役。体験設計を重視したゲームデザインと、技術的なバックグラウンドをもとに、企画立案からゲームデザイン、プロデュース、ディレクションまで幅広く担当している。代表作は『Faaast Penguin』(プロデューサー)、『ライブアライブ』(ディレクター)、『Caligula2』(開発ディレクター)など。『UN:Me』では企画・ディレクターを務める

山中拓也氏:
1987年生まれ。ゲームやアニメの企画、脚本、プロデュースなどで活動中のクリエイター。人間の心理を生々しく追求したリアリティのある作風が特徴で、代表作はアニメ化も果たした『Caligula -カリギュラ-』シリーズや、YouTube視聴者参加型音楽プロジェクト『MILGRAM-ミルグラム-』。2025年にはテレビアニメ『うたごえはミルフィーユ』の原作・脚本も担当。『UN:Me』では企画・シナリオを務める

聞き手/豊田恵吾
撮影/永山 亘
文/kawasaki

魂の選別と「不安」を追求する異質なアドベンチャー

──本作のジャンルは「ソウル・トリアージ アドベンチャー」とのことですが、そのコンセプトについて聞かせてください。

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河合氏:
トリアージは災害医療などで使われる言葉で、治療の優先順位を決めるための選別や分類を意味します。つまりソウル・トリアージ=“魂の選別”といったニュアンスで、これが本作のメインテーマとなっています。

──PVを拝見したところ、ホラーゲームのように見えましたが、厳密には違いますよね?

河合氏:
まだファーストトレーラーを公開しただけですので、ホラーゲームだと認識される人が多いと思うのですが、ホラーやミステリーファンに向けてもアプローチできるように作った、アドベンチャーゲームとなります。

言葉で的確に伝えるのが難しいのですが、『UN:Me』が目指しているのは、誰にとってもわかりやすい形の「ホラー」(恐怖)ではありません。

たとえば、ごくふつうの景色に見えるけど、なんとなく気持ち悪さを感じたり、些細な違和感や理解が追いつかない体験を与えることで、つねに「不安さ」がつきまとう感触をプレイヤーに与えたいんです。

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──メインテーマについては、のちほど聞かせていただくとして、まずはゲームの全体像について教えてください。主人公の少女の設定がすごく特徴的ですよね。

河合氏:
はい。プレイヤーが操作する主人公は、ふつうの少女に見えて、4つの魂を体に宿しています。また、それらがプレイヤーの意識とは関係なく、体を乗っ取って表に出てくるんです。

そして、それぞれの魂には異なる「特技」があります。たとえばAの魂だったら、探索中に大きな障害物を排除して先に進めるとか、Bの魂だったら鍵のかかったドアを開けられるとか。それぞれの魂の特技を活かしながら進んでいくわけです。

ですが魂には、特技とは別に苦手なもの、すなわち「トラウマ」も備わっているんです。ある魂が宿っているときはふつうに見えるモノでも、別の魂にとってはトラウマの対象となり、化け物のように見えることもある。このように、魂によってガラリと変わる「特技」や「トラウマ」と向き合いながら、精神の迷宮を彷徨っていくんです。

山中氏:
繰り返しになりますが、魂はプレイヤーの意図とは関係なく切り替わってしまうというのが大きなポイントです。

プレイヤーがつねに進行に有利な状態が選べるとは限らないわけです。目の前の状況に対してプレイヤーが突破方法を思いついたとしても、必ずしもそれを遂行できるとは限らない。それどころか、思いも寄らぬトラウマが襲いかかってくることもあるわけです。

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──そもそも、どうして4つの魂が女の子に宿っているのでしょう?

河合氏:
そこに関しては、ゲームを進めることで少しずつ明らかになっていきます。さわりだけお伝えすると、主人公は精神の迷宮の「探索」を通じて、それぞれの魂に対してさまざまな“問いかけ”を入手します。

その問いかけをもとに、魂との「対話」を行うことで、どういう人物だったのか、どうしてこのようなトラウマを持ち合わせているのか、といった謎が明らかになっていきます。「探索」と「対話」を交互に行いながら、舞台となる精神世界を攻略していくわけです。

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──精神の迷宮の攻略がゲームの目的なのですか?

河合氏:
いえ、まだ大きな仕掛けがあります。

迷宮は大きく4つの階層に分かれているのですが、階層をクリアするたびに、身に宿す魂をひとつずつ「消去」することになります。それを繰り返し、最後にどの魂を選んで精神世界を脱出するかによって、エンディングなども大きく変わるんですよ。

「ホラー」ではなく「不安」をテーマに据える意図

──つまり、魂の選択によって、プレイヤーごとに描かれるドラマやエンディングが異なるということですね。トレーラーからはアートも特徴的だという印象を受けました。「不安」を掻き立てられると言いますか……。

山中氏:
そう思ってもらえれば大成功です(笑)。

というのも本作の要素は、いかにしてプレイヤーに「不安」になってもらうか、というところに終始しています。そのための表現方法をとことん追求しているのが、『UN:Me』の最大の特徴なんですよ。

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河合氏:
だって、ふつうのゲームなら、ゲームが進むとプレイヤーキャラのレベルが上がったりスキルが増えたりと、基本的に成長するじゃないですか。でもこのゲームでは階層を進むたびに魂を失い、それぞれの魂が持つ「得意なこと」も減ってしまう。それによって攻略にも制約が生じるわけです。

山中氏:
先ほどの鍵開けが得意な魂を例に挙げると、仮にその魂を消してしまったら、今後鍵が掛かった扉を見つけたら困るのがわかりきっているじゃないですか。だから魂を消去するときも、「本当にこの選択で良いのかな?」といった心細さを感じますよね。

そのほかのゲームシステムも含め、どうやったらプレイヤーに「不安」の感情を与えられるか、というアプローチをひたすら突き詰めています。

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──なるほど。

佐々木氏:
最終的なゲームの形としてはホラーテイストも含まれていますが、じつは最初に企画書を書いたときは、ホラーのホの字もなかったですから。不安さとか気味の悪さとか、そういう人間の根源的な感情に訴えかけるような作品が作りたくて、本作のプロジェクトを立ち上げたんです。

「複数の魂が消える」斬新なコンセプトはこうして生まれた

──『UN:Me』制作の経緯はどういったものだったのでしょうか? 山中さんが集英社ゲームズさんに企画を持ち込まれたのですか?

佐々木氏:
山中さんと私が以前手がけていた、『カリギュラ2』の開発作業が落ち着いたころに、軽くアイデアを出し合う機会があったんですね。その中に「ひとりの人間に複数の魂が宿り、それらが勝手に入れ替わって、主人公が魂を1個ずつ消去する」というコンセプトを聞いたんです。そのコンセプトで表現された「不安さ」がすごく斬新で興味を引かれて、「一度企画書に起こしてみますね」と伝えました。

山中さんは現代人が日常で抱えているモヤモヤとか、感情の機微を作品に落とし込むセンスに長けているクリエイターです。そんな山中さんが表そうとしている不安さを、もっとも“原液”に近い形で表現するにはどうすればいいのか、ということを考えながら具体的な企画を考えていきました。

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山中氏:
世の中には、めちゃくちゃ悩んでいたり、逆にめちゃくちゃ幸せだったりするのではなく、なんとなく満たされてない想いをしている人もたくさんいますよね。そういった人が潜在的に抱えるものを描きたいと、私はつねづね考えているんです。今回のメインテーマである「不安さ」も、まさにそれに通じているものです。

佐々木氏:
ただ、自分としては、仮に実現できればすごくおもしろそうだけど、おそらく大きなハードルがあると思っていました。だから「本当に良いの?」と思いながら、そのほかのゲームシステムを考えていったんですね。
山中さんと相談するのと並行して、このプロジェクトをパブリッシャーさんに売り込んでいて、そういった中で集英社ゲームズさんに興味を持っていただいたという流れになります。

ゲーム性のジレンマと集英社ゲームズの柔軟な姿勢

──集英社ゲームズにとって、本作のどの部分に勝ち筋を見たのでしょうか?

河合氏:
まず、主人公を支配する魂がアンコントローラブルだということ。そして、魂をひとつずつ消去し、最後にどれを残すかという体験が強烈だと感じました。このテーマに対する可能性というか、もし完成できたらすごいモノになるという直感があったんですね。

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ですが、最初に佐々木さんから話を聞いたときは、そのテーマをゲームに落とし込んだときの完成形のイメージがピンと来なかったんです。おふたりと最初にミーティングを行ったときに、「コンセプトは非常におもしろいです」とお伝えすると同時に、「でもこれって、バトルをしなきゃいけないですか?」と伝えたんですよ。

佐々木氏:
そんなことがありましたね(笑)。

すみません。説明しないとわからないですよね(笑)。まず『UN:Me』はモンスターやクリーチャーと戦うゲームではありません。ただ、いちばん最初の企画書には、「アクションRPGライクなゲームシステム」と記していたんですね。

その企画書を見て、河合さんは「バトル要素はいらないですよね」とおっしゃってくださったわけです。

山中氏:
ゲーム化を考えたときに、僕らがやりたいことをそのまま書いてしまうと、パブリッシャーさんに伝わらないと考えたんですね。似たようなゲームもなかったので、不要だとはわかっていながらも、パブリッシャーさんが振り向きやすい要素として「バトル要素」をあえて企画書に入れていたんです。

そこを見事に河合さんに見抜かれてしまったという(笑)。

佐々木氏:
本作のテーマに対して興味を持ってくれたことに加え、「バトルはいらない」と見抜いていただいたこともあり、こちらとしては「ぜひ集英社ゲームズさんとやりたい!」となりました。

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──なるほど。河合さんとしてはゲームとしての完成形がイメージできなくても、そのコンセプトに可能性を感じたと。

河合氏:
もし、このテーマをうまく落とし込めるのなら、アウトプットは「ゲームじゃなくてもいい」とすら思えましたから。

しかし、そこからゲームの基本システムが出来上がるまでが、かなりの難産でしたね(笑)。

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佐々木氏:
社内で自分といっしょに企画書を作るプランナーを探したのですが、ひとりを除いてギブアップしましたからね……。

「ゲーム」としての設計を考えると、ステージを進めればキャラが強くなって戦術の幅が広がるのが当たり前じゃないですか。でも、『UN:Me』は魂がどんどん減って、プレイヤーがやれることが制限されていくわけです。「これじゃゲームにならないですよ。ふつう、増えるでしょ!」ってみんなに言われましたから。まあ、確かにその通りなんですけど(苦笑)。

山中氏:
プロジェクトを立ち上げて半年ぐらいのあいだは、基本システムを練り上げるためのディスカッションというか、スクラップアンドビルドを延々と繰り返していましたね。

──解決の糸口が見えたきっかけがあったのですか?

河合氏:
最終的に『UN:Me』のメインビジュアルにもなっているのですが、少女がこちらを向いて座っているビジュアルが出来上がったんですね。これを見て「少女や魂と真正面から向き合い、何かを決断する」ことを表現したいと思ったんです。

このビジュアルから着想を得て、先ほどお伝えした「対話」や「消去」などのシステムが連鎖的に誕生し、「これならいける!」という手ごたえを得られました。ゲームとしての完成形が見えたのが今年の春先あたりで、そこからはリリースに向けてチーム一丸となって開発しています。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

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