雨夜燕は人間らしさのある「2番手キャラ」の魅力を意識して作られた
──0.5周年(ハーフアニバーサリー)のタイミングで登場した副会長の雨夜燕は、先ほどお話した極月学園のアイドルたちともまた違う異質なビジュアルだなと感じました。
小美野氏:
これまで登場しているアイドルとは違う雰囲気を出したくて、コンセプトの段階から「尖った子」にしたいとイメージしていました。
デザインを起こす際には「タイトな黒い服」にしてほしいとお願いさせていただいたんですが、塩梅を間違えるとすぐに軍服っぽく見えてしまうのが難しかったポイントでした。
服の構造についてもデザイナーの方が詳細に作ってくれて、チャックの位置や服の着方についても考えられているんですよ。
──クールな見た目に反して、ストーリーでは苦労人というか振り回される役回りだったのが意外でした。
小美野氏:
生徒会長であり、一番星(プリマステラ)である星南に対して、学園No.2アイドルの燕ですが、いわゆる「2番手(ナンバーツー)キャラ」ならではの魅力を意識して作られています。
たとえば、最強に強い主人公はその強さが魅力的なのですが、行動原理や発言に共感できないことがあるじゃないですか。そういう意味では、苦悩や人間らしさがあるライバルキャラ、二番手キャラというのは共感しやすいので、そういうところを狙っているんです。
──となると、星南に振り回される燕を見て「大変そうだなあ……」と感じたのは、開発側の狙い通りだったわけですね。プロデュースアイドル以外だと、放送部の真城優は本編には絡んでこない特殊な立ち位置のキャラクターですよね。彼女はどのような経緯で作られたんですか?
小美野氏:
もともと「Apple Music」さんと一緒に「初星学園音楽部」という音楽にフォーカスしたラジオ番組を実施していたのですが、それとは並行して別のラジオ番組も作りたいという相談を受けていました。
「初星学園音楽部」と差別化する意味でもアイドルにフォーカスした方向で話を進めていた中、「ラジオのMCを務めるキャラクターを作ってもいいんじゃないか」と僕がぽろっと口をこぼしたところ、担当者が「やりたいです!」と。
僕は相談には乗るし、一緒にやるのもいいけど、全部フォローできないし、どんなキャラクターにするか、キャストの選出や収録とかも自分で考えてほしいとお願いしたところ、「(それでも)ぜひやりたいです!」と。担当者にやる気があったからこそキャラクターとして生まれたんでしょうね。
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──では、今回のようなケースが今後あれば、もしかしたら同様に何かが出てくる可能性が……?
小美野氏:
そうですね。あるかもしれませんね。
──ちょっと話が変わるのですが、『学マス』ではアイドルたちがゲーム外でコラボする取り組みも活発ですよね。咲季がフィットネス雑誌「Tarzan」の表紙を飾ったり、リーリヤの描き下ろしイラストがゲーミングアイテムとのコラボで公開されたり。これらコラボ展開の際に意識されていることはありますか?
小美野氏:
基本的にそういったコラボなどゲーム外の展開をする際は、必ず「それに相応しいアイドルをしっかり選ぶ」ことを念頭に置いています。
たとえば、筋肉やスポーツ系のコラボだったら咲季があっていますし、ゲーミング関係のコラボならやはりリーリヤがあっています。原宿系ファッションがテーマならことねや清夏がメインになるなとか。
コラボ先で『学マス』のアイドルを知って、興味を持ってもらうためにも、彼女たちの属性を活かせるように考えて、送り出しています。
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担当アイドルとの1対1のコミュニケーションを体験してほしい
──いちユーザーとして、プレイ開始初期と現在とで大きく印象が変わったところがあって、それが「サポートカードの上限解放」に対してなんです。プレイを始めたばかりのころは完凸(上限解放×4)を揃えるためのガシャ計画を立てていたんですが、プロデューサーレベルが上がって、メモリーも揃ってくると「あれ……⁉ 完凸しなくても十分かも?」と思うようになってきて。
岩本氏:
そもそも「ローグライク」というゲーム性と、いわゆるPay to Winを主軸にした課金のシステムは相性がいいものではなく、そこでさらに課金要素を強めにしてしまうと「アイドルたちとの成長」を体験してほしいゲーム自体を楽しめなくなってしまうのが、理由のひとつです。
加えて、『学マス』はプロデュースアイドルの価値が高いゲームになっていますので、ガシャの重要度としてはそちらに重きを置いているのがあります。
──担当アイドル(推し)をプロデュースすることを楽しみにプレイしてほしい、と。
岩本氏:
そうですね。
小美野氏:
『学マス』のストーリーの根幹は「成長」をテーマに、プロデューサーとして彼女たちと向き合うところにあります。
アイドルとプロデューサー1対1のコミュニケーションをしっかり描いていきたいですし、プロデュースできるアイドルが少ないこともあって、できるだけ個々のアイドルにフォーカスが当たるようにしたい思いは強いです。
──アイドルコミュ(親愛度コミュ)では、プロデューサーと担当アイドルの成長が描かれている一方、初星コミュやイベントコミュでは違った視点での物語が展開されていますよね。すごく自由な印象を受けました。なぜこのような構造にしたんでしょうか?
小美野氏:
アプリならアプリの、アニメならアニメの、マンガならマンガでそれぞれで『アイドルマスター』の世界がこれまで描かれてきました。
それを見てくれていたプロデューサーの皆さんは、「この世界線ではこういう物語」「この世界ではこういう展開」という形で楽しんでいただけている印象があったんです。
ですので、今作を作る際には「一番見せたいものを見せられる世界線の立て付け」にしようと考えました。
──一番見せたいもの……とは、やはりプロデューサーと担当アイドルの成長ですか?
小美野氏:
はい。親愛度コミュがもっとも綺麗に見える形を考えたとき、どうしても他のコミュとの整合性がとれなくなってしまうケースが出てきました。やはり成長していく過程で変わっていく女の子もいるので。
どうしても破綻してしまう……ならいっそのこと完全に別の立て付けてをしまおうと。その結果、初星コミュもイベントコミュもそれぞれまったく違うおもしろさを持つシナリオにすることができたと思っています。
──たしかに。親愛度コミュがシリアス寄りですが、初星コミュはかなりコミカル寄りですもんね。
小美野氏:
そうですね。初星コミュはとくにアニメ的な表現で作りたい意図があり、各話で「掴み」を入れるために伏見先生にもコミカル路線をあえて強めにオーダーさせていただいています。
『学マス』の物語としては、担当アイドルとコミュニケーションをとって一緒に成長していく体験が根幹でありつつも、真面目な話ばかりではなく合間合間にエッセンスとしてコミカルなやりとりが挟まることでより引き立つしテンポもよくなる。
親愛度コミュとの差別化でもありますね。プロデューサーとアイドルの1対1のやりとりとはまた違った、複数のアイドルが絡んでいる展開を見せることができたと思います。
──ちなみに、初星コミュだけUIが大きく違うのには何か理由はあるんでしょうか。読み進めやすいですし、巻き戻しもできますし、すごく便利ですよね。QualiArtsさんの『IDOLY PRIDE アイドリープライド』(アイプラ)でもお世話になっていました。
小美野氏:
便利ですよね。『学マス』開発中に岩本さんからこのシステムを提案されたんです。
岩本氏:
『アイプラ』を作る際に考えた仕様が初星コミュにハマるんじゃないかと思ったんですよね。
小美野氏:
アニメ的な表現にマッチしていたので、思わず「めちゃくちゃよくないですか!」と、テンション上がりました。
岩本氏:
最初に作ったのがこの初星コミュなので、付き合いも長くなってきましたね。
ライバルキャラ初期案は今の咲季と星南を足したようなアイドルだった
──コミュごとの立て付けのお話を聞いて、パッと頭に浮かんだのが咲季でした。親愛度コミュでは熱血でシリアスしているのに、初星コミュやイベントでほかのアイドルと絡むとコミカル寄りの雰囲気が強くてギャップが激しいなあと。
岩本氏:
いいですよね。僕も咲季は本当に好きで、本当は怖いのに姉ちゃんとして強くあり続けようとする生き様に感銘を受けています。
── 「N.I.A編」に入ってさらに引き込まれましたね……。岩本さんはどのタイミングで惹かれたんですか?
岩本氏:
リリース前の開発段階からシナリオの内容は知っていましたし、プレイも何度もしていたんですが、リリース後に記憶をがんばって消してひとりずつプレイしていったんです。
そこへ佑芽が登場したので、彼女のシナリオもあらためて読んでいったら……すごく辛くなっちゃって。あれ、咲季のこと好きかもしれない。って気づいたんです。
──わかります。もう辛くて辛くて。
小美野氏:
初星コミュの主人公は咲季のつもりで作っていて、親愛度コミュとは違って仲間がいることによって咲季がどう変わっていくかというところは見どころかもしれないですね。ここに関してはちょっとだけ僕のこだわりを伏見さんに相談したところでもあります。
──もう……本当に楽しみです。「N.I.A編」を読んだいま彼女を応援したい気持ちが強くて。もともと咲季と佑芽で主人公とライバルのポジションが逆だったらしいですが、もう全然イメージできません。
小美野氏:
逆のときにはけっこうキャラ自体も違いましたよね。咲季にあたるアイドルだった子は今の設定で言うと一番星(プリマステラ)のイメージで、今の咲季と星南を足したようなアイドルでした。
──咲季と星南を足したって……めちゃくちゃ強そうですね。
小美野氏:
努力型の天才で、すごい強いアイドルだったんですよ。それに当初は主人公とライバルで姉妹でもありませんでした。
主人公ポジションの子が新入生で、すごい才能を秘めた子が彼女を追いかける話をひっくり返したのがいまの咲季と佑芽になります。そこで、咲季の身長がギュッと小さくなって。
──えっ、なぜ咲季の身長が小さく?
小美野氏:
もともとが完璧超人のイメージだったので、アイドルマスターとして真ん中に据えにくいところがあったんです。
すごく強い子なんだけど、早熟でそれが悩みで、身体的にも妹(ライバル)に劣る部分があって、そこが少しコンプレックスになって……という足りない部分を作ったこともあり、身長を小っちゃくしたというわけです。
──ちなみに、小美野さんと岩本さん的にお気に入りな「咲季とこのアイドルの関わり、関係性」というのはありますか?
岩本氏:
最近、すごくいいなと思っているのは、星南との関わりですかね。
小美野氏:
リリース当初はそこの繋がりを作ってなかったんですよね。
もともと僕が咲季と星南を担当していた際に「咲季と星南って似たもの同士で、 ここ絶対絡ませたらおもろくなるから絡ませましょうよ!」と提案したことがあったんですが、咲季は佑芽との関係や手毬やことねとの関係を先に描く都合でなかなかタイミングがなく。
星南は、生徒会長で、一番星(プリマステラ)で、接点を作りやすい立ち位置だったこともあり、サポートカードのコミュ含めて出番が多かった。ですので、僕としてもふたりの関わりが見れるようになってうれしいですね。
今後の展開については厳密には決めていないものの、3周年までの内容は話し合っている
──2024年12月に開催された「アイドルマスターEXPO」でも、『学マス』からシリーズに入った方の多さが印象的でした。。開発サイドとして、新規層が入ってきている実感というのはあるのでしょうか。
小美野氏:
電車の中で10代20代の若い方が遊んでくれているのを見たり、ラッピングトレインを見て小さい子が 「ことねちゃんだ!」と喜んでくれているのを見ると、広がりを感じますね。
開発当初は、新規、既存、それから休眠中のユーザーそれぞれにどう届けるかを話し合ってきたんですが、始まってしまうと意外と関係ないのかなと。
岩本氏:
そうですね。それはすごく実感としてあります。
小美野氏:
定めたコンセプトに沿ってしっかりおもしろいものをお届けすれば、どの層も「おもしろい」と言ってくれる。もちろん逆も然りです。僕らとしては、このような区別をすべきではないのではないかと、最近思うようになってきました。

──間違いなく2024年を代表するヒット作となった『学マス』ですが、ヒットしたからこそ実現できることが増えるというのはあると思うんです。理想に向かって突っ走りやすくなった……みたいなのってあるのでしょうか?
岩本氏:
理想のコンテンツをお届けするために、より全力を尽くしやすくなったのはあるかもしれません。ただ、基本的にコンセプトに沿っていいものを作っていくというのは変わらないのかなと思います。
小美野氏:
僕はとくにやることは変わらないですね。僕はIPの責任者として『学園アイドルマスター』というIPや作品が何年も長く愛していただけるコンテンツになることが最重要だと考えています。
もちろん、ビジネスである以上、売上というのは大事ですが、それはあくまでIPを続けていくための手段です。それがある程度理想論であること、さまざまなご意見があること、それももちろんわかったうえで、それでも言い続けようと思っています。
結果的にどうかよりも、自分がどうしたいかを歪めてしまったら、もうその先は流されていくだけになってしまうので。
──いや、でもその信念こそが、コンセプトを貫いた作品がリリースでき、ヒットに繋がったのかもしれませんね。ちなみに、『学マス』の展開については、どの程度先まで見据えているのでしょうか。
小美野氏:
2.5周年から3周年くらいのことまでは話し合いのテーブルにあがっています。ただ、あくまでもイメージです。当初の予定から変更するケースはこれまでも少なくありません。極月学園も具体的な動きは2023年11月ころからでしたしね。
──本日はありがとうございました! 最後に、これからの『学園アイドルマスター』について、プロデューサーの皆さんにメッセージをいただけないでしょうか。
岩本氏:
今回「成長」というコンセプトでゲームを作ってきて、「N.I.A編」では彼女たちの新しい姿を見せられたと思っています。
それこそアイドル撮影もそういう意図があってのものなので、今後もいろいろな形で成長や輝く姿を見せたいというのはずっと思っています。
小美野氏:
まずは1周年がひとつの山場なので、そこまでしっかりとやり遂げるというのが、プロデューサーの皆さんに対する僕の責任です。
その後のことも同じです。こちらとしても3周年くらいまでのことは考えていますけど、それはそれとして今遊んでくださっているプロデューサーの皆さんの期待に応えることを中心にしてやっていきたいと考えています。
『学マス』プレイを始めたときは、「ローグライク」と「アイドル育成」がここまで噛み合うとは想像もしていなかった。
立ち回りを工夫し、メモリーを揃えていくことで、徐々に評価値の高いアイドルを育成できるようになる「自身の成長」と、プロデュースのシナリオを読み進めるにつれて「成長していくアイドルの姿」がリンクする。
プロデュースしていて楽しいし、コミュを読めば読むほど彼女たちを応援したくなる。『学マス』はそんなゲームだった。
リリース直前の心境や手応えを感じたきっかけなど、普段聞くことができない開発裏話をお聞きしていく中で、小美野氏の言葉からはにじみ出ていた「コンセプトを掲げて、それを貫き、届ける」ことを大切に思う気持ちがとくに印象的であった。
また、小美野氏と岩本氏の二人三脚感は相変わらずで、やりとりを見ていて思わず「夫婦」のような熟練の呼吸を感じた。
小美野氏が「岩本さんがいたから『学マス』がここまで皆さんに受け入れていただけたというのは間違いない」と語ったように、『学マス』ヒットにはQualiArtsの尽力があったのは想像に難くない。
いつの間にかチャイルドスモックのデザインを進めていたり、計画にない撮影機能を実装できるように仕込んでいたり。いわゆる開発スタッフの「遊び心」の部分が、どのように新機能実装という形で反映されていくのか。いちプロデューサーとしては気にせずにはいられない。