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『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、どうしてこんなに「気持ちいいアニメ」なのか?鬼才・亀山陽平監督に聞く、3分半に詰め込んだ映像の快楽と爽快感

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「約43分」……これは、アニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』の本編アニメ12話を視聴するのにかかる時間です。そう、全12話が、たったの約43分で見れてしまうのです。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、2025年にテレビ放映およびYouTubeにて公開された、1話あたり約3分半のアニメーション。それほどの短い尺なのに、1話ごとの満足度がすごく高い。しかも、その制作は亀山陽平監督がほぼひとりで行っている、とんでもないアニメなのです。

その魅力は、なんといっても畳みかけるようなテンポ感。

ちょっと食い気味にセリフが被るようなリアルな会話劇と、レトロポップなキャラクターたちの動作が噛み合った演出が特徴で、3分半の間瞬きもできない、どこを切り抜いても見どころしかない面白さから、SNSなどを通じて人気となった作品でもあります。

今回は、そんな話題沸騰中の『ミルキー☆サブウェイ』の監督であり、シリーズを再編集、新作パートを追加した映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』も相変わらずほぼひとりで制作をしているという、鬼才・亀山陽平氏にインタビューする機会をいただけることに。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』亀山陽平監督インタビュー。会話の面白さにこだわり、3分半に詰め込んだ映像の快楽と爽快感_001
©亀山陽平/タイタン工業

劇場版の新キャラクター「アサミ」をはじめ、劇場版の制作にまつわる話はもちろん、シリーズ本編制作のことも根掘り葉掘りおうかがいしてきました。

本作の「アニメとしての気持ちよさ」を亀山監督がどのように生み出したのか、各キャラクターはどう作られていったのか、1話約3分半の尺にどうストーリーやテーマを詰め込んでいったのか、そしてあの全12話をどう「劇場版」として再構成したのか……。

ファンの方も、劇場版が気になっている方も、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』亀山陽平監督インタビュー。会話の面白さにこだわり、3分半に詰め込んだ映像の快楽と爽快感_002
▲亀山陽平氏。

聞き手/逆道ジスマロック
文/逆道
カメラマン/佐々木秀二


アサミ巡査って、リョーコとどういう関係なんですか?新キャラクターなど劇場版追加要素をめちゃくちゃ掘り下げてもらった

──まずは新キャラクターの「アサミ」と「ハガ」について、お聞きできればと思います。ふたりはどのように生まれたキャラクターなのでしょうか?

亀山監督:
アサミはもともと、『ミルサブ』シリーズ本編にも出そうかなと思って構想していたんですけど、尺の関係などで泣く泣く削ったキャラクターなんですよね。

リョーコが割と破天荒な警察官で、それに対するツッコミ役のポジションとしてアサミが設定されてて。ただ、シリーズ本編ではリョーコが登場するシーン自体も多くはないので、削っても問題ないということで本編から消えてしまったキャラクターでした。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』亀山陽平監督インタビュー。会話の面白さにこだわり、3分半に詰め込んだ映像の快楽と爽快感_003
▲画像は公式Xアカウントの設定公開ポストより

亀山監督:
劇場版の新作パートではリョーコの登場するシーンが大幅に増えたので、それに対する会話相手として新たなキャラクターが必要になり、アサミが復活することになりました。

劇場版では、「シュッとした警察官みたいなニュアンスが出たらいいな」と思ってデザインしてます。

ハガの方は「体格が大きめで、口ひげを生やしている警察官」みたいなビジュアルだけはなんとなく自分のなかにあって、こういうキャラを作れたらいいなという妄想程度のイメージは描いていたキャラクターなんです。

今回新たなシーンを作ることになった際に、「キャラは多い方がいいだろう」「せっかくだからこの上司キャラも出してやろう」というノリで出すことが決まりました。

──アサミとハガについて、キャスティングの決め手などはありましたか?

亀山監督:
アサミはツッコミ役として堅実で誠実そうな声質の人が良いなと思っていたんですよ。「小野賢章さんみたいな感じがいいですね」とか言ってたら、本当にご本人に演じてもらえることになったという……。

ハガ役のロバートさんは、実はショートアニメのテープオーディションの際にお聞きして。素敵な響きの重低音ですごくいい声だなというのは、そのときからずっと思ってたんですよね。

だから、ハガの話をする際に「ロバートさんとかが印象に近いですね」みたいな話をしてたら採用されてしまって……本当に良い声です。

──今回はリョーコ役の小松さん、アサミ役の小野さん、ハガ役のロバートさんがセリフを新録したとのことですが、このお三方にはどういったディレクションをされたのでしょうか?

亀山監督:
小松さんはもうこれまで通りで、毎回素晴らしい演技をしてくださいました。

小松さんはシリーズのときからアドリブを入れてくださったんですが、そういったライブ感ってすごく面白いところだと思っているので、そんなアドリブの部分も全部採用して劇場版の内容に入れ込んじゃいました。

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▲画像は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』本編第6話より ©亀山陽平/タイタン工業

亀山監督:
アサミは「飲みに誘っても断るような関わりづらい新人」みたいな形でお願いして、ハガについては「思いやりはあるけど、すぐ怒鳴る警察の上司」みたいなステレオタイプのキャラでお願いしました。

どちらも、本当に想像していた通りの演技をしていただいたのですが、小野さんが意外とアドリブでおふざけの演技をしてくださっていたのが面白かったです。

アサミは元々サバサバした感じのキャラで設定してたんですが、小野さんの演技を踏まえてキャラを再解釈すると、むしろ世の中を引いた目で見ているからこそ茶化してくるような、ちょっとサイコ味のある新人みたいなニュアンスに更新されましたね。

「演者さんの演技も含めて、キャラのイメージが更新されていく」といったことは、アニメの12話でも劇場版でもあったので、演者さんにお任せして演じてもらうのが楽しいところでもありますね。

──予告編で公開された新作パートは短い時間でしたが、リョーコとアサミの表情の対比が印象的でした。劇場版で追加されたカットのなかで、監督のお気に入りの表情はありますか?

亀山監督:
アサミはリョーコの発言に対してドン引くみたいなシーンが多いんですが、想定していたよりも小野さんの演技が抑え目だったんですよね。

ただ、そっちの方が“わかりやすくなりすぎてなくて”良いなと思いました。キャラクターの表情もそれに合わせて繊細なニュアンスを付けて深みを持たせるような作業が楽しかったです。

いかにもアニメっぽいステレオタイプの表情よりも、映像ではあまり見ないけど現実の人ってこういう表情するよね、みたいなところが表現できたんじゃないかなと。

リョーコは、表情の手数が増えたというか……小松さんがわりとふざけてる演技が多くて面白いところでもあるので、それに合わせてふざけた表情を乗っけるのも面白かったです。

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画像は「予告『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』」より ©亀山陽平/タイタン工業

亀山監督:
あと、ハガは口ひげが生えてるんですが、口ひげが生えてる人の怒鳴ってる顔がすごく好きで(笑)。

理想的な「口ひげを生やして怒鳴ってるおじさん」の表情が作れたので満足してます。

──予告編では、慌てたリョーコに対してアサミはかなり落ち着いていたように見えますが、アサミの表情は割といつもフラットなのでしょうか?

亀山監督:
アサミは基本いつもフラットでいたい人間だと思うんですけど、リョーコが破天荒なので常にちょっと疲れた感じになっちゃってるんですよね。だから、自然と眉毛が傾くみたいな演技が多めになっている気がします。

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画像は「予告『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』」より ©亀山陽平/タイタン工業

──新作パートの中身についてもおうかがいしたいのですが、劇場版で新たに制作されたパートは『ミルサブ』シリーズ本編に入れられずにカットされたシーンというイメージでしょうか? それともアニメの放映・配信を受けて、新たにネタが降ってきて制作された形なのでしょうか?

亀山監督:
もともと考えていたというよりも、劇場版としてすでにある話を繋ぐ際に、エピソードとエピソードの間を繋ぐためのシーンとして用意したものです。

だから、もともと構想があったわけではなく、むしろ新作パートのために新キャラクターを作っていったら、バックグラウンドが膨らんでいってしまったようなところがあって。

今回思いついたハガも、話を作っていくうえでどんどんバックグラウンドが決まっていって……いや、むしろ今まさに決まっていってますね。

──今回はやっぱりリョーコの掘り下げになるのでしょうか?

亀山監督:
今回の新作パートでは、「『ミルサブ』シリーズで、ほかのキャラクターたちが列車に乗っている間にリョーコは何をしていたのか?」という部分が描かれています。

意外と奮闘してたんだよ、というのが伝わればいいなと思って作っています。

だから、『ミルサブ』シリーズの時間軸の話がメインで、リョーコのバックグラウンドのほうは、あまり明らかにならないですね。それは流石に映画のなかで描ききれる部分ではないと思っています。

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画像は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』本編第2話より ©亀山陽平/タイタン工業

──リョーコは登場キャラクターに反省を促したり、キーアイテムを渡したりと重要な立ち位置のキャラだと思うのですが、リョーコ自身は、チハルやマキナといった、ほかのキャラクターのことをどう思っているんでしょう?

亀山監督:
SNSなどでは軽く触れられているんですが、リョーコは昔暴走族だった【※】ので、割とほかのキャラクターの立場や心情が理解できて、受刑者側の立場になって親身に物事を考えられる人ですね。

受刑者本人たちと関わるときは割とサバサバしてるんですけど、裏では親身になって彼らのことを思っている……というのが、新作パートから感じてもらえればと思っています。

【※】公式Xアカウントで公開された設定で、リョーコはかつて暴走族に所属していたことが明かされている。

“12話のアニメ”を“1本の映画”にする難しさ──「しんどいです」

──『ミルサブ』の劇場版については、アニメ放映時からファンの方々も期待されていたと思いますが、監督自身が劇場版の制作決定について知った時はどう思われましたか?

亀山監督:
実は、「劇場版をやりたいですね」という話はシリーズ放送・配信前から出ていたんです。「すごく面白いアニメなので、劇場版も打ち出していきたい」とシンエイ動画さんから持ちかけてもらっていて。

実際にアニメが放送・配信されて評判が上がっていくのを見て、その話が現実味を帯びていったという感じですね。

ですが、劇場版が決まったときはあまり実感が湧いてなかったかもしれません。というのも、昔はけっこう映画を見に行く人間だったんですが、最近はめっきり足を運ばなくなってしまって、「劇場に対する解像度」みたいなものが自分のなかで低くなっていたところがあって……。

劇場版が決まったのを踏まえて、なにかひとつ映画を見に行こうと思って『鬼滅の刃』を見に行ったんですよ。

作品のよさはもちろん、劇場という空間で体験する映像や音質がめちゃくちゃよくて、「これはちゃんと劇場で見て満足できる内容にしなければ」と思うようになりました。

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──『鬼滅の刃』の映画を見て、監督自身のなかでどんなところが参考になりましたか?

亀山監督:
『鬼滅の刃』を見て一番印象に残ったのが炭治郎のモノローグのシーンなんですが、すげーいいBGMが流れてるんですよ。

曲もいいし、すごく直球のセリフを言っていて、めちゃくちゃ胸が熱くなったシーンがあって。「これはできるかわかんないけどやりたいな」と、ピンポイントで思いました。

それと、映像についてはBGMに関わる演出でずっとやりたいと思っていたことがひとつあるんですけど……そういえば『ミルサブ』ではそれをやっていなかったんです。

だから、今回の新作パートではぜひそれをやりたいなと思い、BGMを新しく作ってもらった部分もあります。今回、アニメーションは少し余裕を持って作れているので、キャラクターの動きの質がちょっと良くなっているかもしれません。

キャラクターの動きについては、今回はわりとこだわれるところまでこだわって作っています。たとえば、単純に会話しているところでも、ボディランゲージなどの動きを増やしたり、上半身の動きを増やすように意識していますね。

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画像は「予告『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』」より ©亀山陽平/タイタン工業

──『ミルサブ』は、「テンポの良さ」が高い評価を得ている作品ですが、あのテンポで進む12話分のアニメを繋げて、ひとつの劇場版として制作するのは、大変な作業ではなかったでしょうか?

亀山監督:
『ミルサブ』は、やっぱり話を繋げる作業がめちゃくちゃ大変で……たとえるなら、「12品ある小鉢料理をまとめて、ひとつのちゃんとした料理にしなければならない」ような作業でした。

ただ、劇場版にすると、毎エピソードごとにタイトルの出し方で笑いを取っていくような、そういう各話ごとの演出が全部使えなくなっちゃうので、そういった部分を取り払ったテンポを考えなければならない。

そうして12話を繋げていき、1本の話として見た時に違和感がないように作らなければならないので、結構苦労してます。

……しんどいです(笑)。

──12話を繋げるなかで、過去のシーンを見返すことになったかと思うのですが、既存シーンと新規シーンのなかで、監督の印象に残っているお気に入りのシーンはありますか?

亀山監督:
既存のシーンでいうと、カートが「排除くん」を倒すシーンは作っていて楽しかったですし、SNSの反応とかを見ていてもウケがよくて、うれしかったですね。

ああいう音ハメの演出は面白いですし、これからもそういったシーンを増やしていきたいです。

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画像は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』本編第7話より ©亀山陽平/タイタン工業

亀山監督:
新作パートでいうと、ハガのアニメーションがとにかく作ってて楽しかったです。声にこもっている熱量がすごいので、それに合わせてキャラを動かしていくのがすごく楽しいんですよね。今回作ったハガのシーンは、全体的に気に入ってます。

今回は、ハガとリョーコが口論みたいになるシーンがあるのですが、演じたおふたりの演技が、本当に熱が籠っていてまさに理想の演技をしてくださったのでめちゃくちゃ気に入っています。

──現状(2025年11月)の制作の手応えをおうかがいできますか?

亀山監督:
ちょっと弱気な話になってしまうのですが、映像を作っていて一番しんどいのは、スケジュールを守るために、自分では「もっとこだわれる」と分かっていても次の作業に移っていかなければならない瞬間なんですよね。

だから、「今回は余裕もあるし、満足いくまで作ろう!」と思っていたら、本当に間に合わなくなりそうになっちゃったので……どこまでこだわりきれるか悩んでいるところですね。

あと、自分はスタッフ探しが一番不得意で……今回はそれを全くやらないまま始めたので、新作パートについては完全にひとりで作っている、という面もありますね。

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──亀山監督は以前、「漫画家のようにひとりで作りたい」とおっしゃっていたことがありましたが、今回もそれを貫いているのでしょうか?

亀山監督:
そうですね。

やっぱりクリエイターとしての自由度を守ろうとすると、少数でやることになってしまうので……ただ、世に新しい作品を出すペースが遅くなるのもよくないので、制作環境やスタッフを見直さなければならない時期に来ているとは感じています。

現場づくりに関してはまだまだド素人なので、頑張っていきたいですね。

超新人クリエイターなのに、こんな大御所のインタビューみたいな場を設けてもらって恐縮なんですが、やってることはかなりギリギリです(笑)。

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編集者
なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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