キャラクターは「パラレルワールドの自分」。キャラと長時間向き合えば、おのずとバックボーンは生えてくる
──『ミルサブ』は、キャラクター同士の関係性、とくにペアの関係性に対する注目度が高いですよね。監督はそれぞれのペアの関係性や個性について意識したことはありますか?
亀山監督:
チハルとマキナや、カートとマックスは「同性同士の信頼できる友達関係」というポジションを意識しているところはありますね。仲がいいから信頼できるし、逆に仲がよすぎてちょっとダメになってるところもあるようなコンビ関係になっているかと。
人間って、一番信頼できる人の横だと素が出るし、見てて面白い立ち振る舞いになると思っているので、基本この2組は仲良しペアとして描いています。
それに対して、アカネとカナタに関してはかなり特殊な関係性にはなっていますね。このふたりはビジュアルの彩りから考えたキャラなので、「ボスと部下」というアニメっぽいステレオタイプ化がされた、現実ではあまり見ない関係性になっています。
ただ、それはそれでアニメ作品として見ごたえになっているんじゃないかなと思いますね。

──ちょっとした立ち位置やかけ合いでお互いの関係性が見えるのは、『ミルサブ』の面白いところですよね。
亀山監督:
アニメキャラって心情を表すために独り言を言ったりしますけど、大抵の人間ってそんなに独り言を言わないじゃないですか。……自分はかなり言いますけど(笑)。
やっぱり、「言葉を発するうえでの必然性として会話相手がいる」というキャラクターの置き方、自分としてはやりやすい手法だったのかなと思います。

──亀山監督は、キャラクターのバックボーンをどこまで作られているのでしょうか? キャラクターの背景を深堀りするような設定は、後から生えてくるようなものなのでしょうか?
亀山監督:
自分の場合、キャラクターのバックボーンは作っていくうえで、どんどん増えていくものですね。
基本的にはビジュアルからキャラクターを作っていくわけですが、ビジュアルを作ってからモデリングして、アニメーションをつけて、何時間もそのキャラクターと向き合っていくうちに、勝手に自分のなかでバックボーンの設定が増えていくところがあるんですよ。
今回新しく作ったハガなんかも、作っているうちにどんどん自分のなかでバックボーンが膨らんでいき、いつかコミカライズできたらいいなと思えるようなエピソードまで生まれたりはしてます。
よく、ほかの人が作った作品の考察動画などを見ていると、「流石に(作者は)そこまで考えてないんじゃないの?」と思ったりしていたのですが……いざ自分で作品を作ってみたら「あ、絶対考えてるな」と思うようになりましたね(笑)。
「作品を作る人たちはそれだけキャラクターと向き合っているわけだから、絶対にそれだけキャラクターのことを考えてるはずだよな」と。いざ自分で作ってみると、そう実感しました。

──『ミルサブ』はキャラの会話が詰め込まれた作品ですが、メインキャラが6人揃ったわちゃわちゃ感には「学校」っぽさも感じます。そういった雰囲気も意識されているのでしょうか?
亀山監督:
たしかに、そう言われると……意識してるわけではないんですけど、自分のなかで、まだ学生気分みたいなのが抜けてないところがあるのかもしれないです。
なんというか、「人が集まる空間で、誰にでも共感できる場所」って、学校しかないじゃないですか。成人になると大抵の人は会社に行ったりするのかもしれませんが、その空気感は学生の視聴者にはわからないわけですよね。
あと、成人しても自分みたいに会社に勤めてない人間もいたりする一方で、学校だったら多くの人が理解できる空間だったりするんじゃないかと。
それこそ、学校って割と社会の縮図だったりするじゃないですか。ギャルみたいな人たちがいて、オタクみたいな人たちもいて……そういう、いろんな種類の人たちが強制的に関わらされるのが学校っていう空間で。
考えてみれば、『ミルサブ』のシチュエーションはわりとそれに近かったところがある気がします。いろんな種類の人間が関わっている物語を見せようとすると、学校みたいな雰囲気になるのかもしれないですね。

──『ミルサブ』の学校っぽい雰囲気は、監督の通っていた学校の雰囲気に近かったりするのでしょうか?
亀山監督:
まあ、こんな感じだったと思います(笑)。
キャラクターのモデルも、ほとんど学生時代の知人が多いですね。
自分は学校を卒業してから、どこかの会社や組織に所属したりということがあまりなかったので、キャラクターのモデルを考えるとき、必然的に学生時代の人間関係がメインになりがちなんです。
社会人になってから出会った人は、モデルにするにはリアルすぎるというのもありますが……。
ただ、リョーコの立ち振る舞いは本物の警察官の方や、教習所の教官なんかをモデルにしています。そう考えると、「たまたま今回が学生時代の知り合いをモデルにしたキャラクターが多かった」という面もあるかもしれないですね。
──つまり、たとえばですが、監督にはカートとマックスみたいな知り合いが……?
亀山監督:
いますね(笑)。
カートとマックスみたいな知り合いもいるし……あとは、結構街中で見かける人とかを見て、「こんなしゃべり方してるよな」みたいなのを参考にしたりはしてます。とくに、言い回しはキャラクターが出る部分だと思うので、大事にしていますね。

──クリエイターによっては、「キャラクターに自分を投影する」タイプの方もいらっしゃいますが、監督にとって『ミルサブ』のメインキャラの6人は、完全にモデルの人をイメージして作られたのでしょうか? それとも、多少なり監督自身が投影されている部分があったり?
亀山監督:
自分は、割とどのキャラも共感できる要素があると思って描いています。共感できるというか、「自分がこういう育ち方をしたら、こういう行動をするのかな、こういう受け答えをするのかな」というのを考えながら描いているんですよね。
たとえば、役者さんなんかは「もしも自分がこの立場だったら」というのを考えて演じているのかなと思っているんですが、監督という立場も同じようなものなんじゃないかなと。
もし自分がこういうバックグラウンドを持って、こういう育ち方をしたらこうするだろう、という風にキャラクターを考える。もっと言うと、パラレルワールドの自分を演じているイメージですね。
カートのデザインのルーツはアーケードゲームだった?駄菓子屋に入り浸っていた学生時代の思い出
──せっかくなので監督自身の話もおうかがいしたいのですが、『ミルサブ』の主題歌『銀河系まで飛んで行け!』は、監督の年齢を考えるとかなり渋いチョイスですよね。曲に出会ったきっかけがあれば、ぜひお聞かせください。
亀山監督:
自分は中学~高校と、学校が終わったあとに近所の駄菓子屋でよく遊んでいたんですが……そのとき仲のよかった友達がめちゃくちゃ昭和歌謡が好きだったんですよね。
その友だちに『ピンクレディー』や『キャンディーズ』の曲をいろいろ紹介してもらって、そこで聞いたアルバムのなかの一曲に『銀河系まで飛んで行け!』があったんです。
自分はあまりジャンルを問わずにいろいろ曲を聞くタイプなんですが、『銀河系まで飛んで行け!』は、本当にシンプルに好きな曲なんですよね。
曲を何回も繰り返し聞きながら、「こういう曲を映像に入れるならこんな感じかな」という妄想をしょっちゅうしていて、『ミルサブ』でそれを実現させていただきました。まさに、夢が叶ったような感じでしたね。
──監督が普段プレイしているゲームや、かつてプレイして印象に残ったゲームはありますか?
亀山監督:
自分の家庭は結構ゲームに厳しくて、新しいゲーム機とかは買ってもらえなかったんですよ。
それに加えて、自分自身もゲームが得意ではなかったので、あまり率先してゲームをプレイするタイプではなかったんですよね。むしろ兄がゲームをプレイしているのを、横から見ていることが多かったです。
ただ、さきほど話した、近所の駄菓子屋に置いてあったアーケードゲームは結構プレイしていました。
とくに、『メタルスラッグ』というゲームをめちゃくちゃプレイしていましたね。
このゲームには「ターマ」と「マルコ」という2人組の主人公がいるのですが、マルコが赤いミリタリーベストを着てるんですよね。『ミルサブ』のカートが着ているベストは、絶対にマルコから影響を受けてるだろうなとは思っています。
とはいえ、映画にも赤いベストを着たキャラクターはたくさんいて、正直どれが本当の元ネタかというのは自分でもハッキリわからないのですが……マルコは間違いなくカートの元ネタのひとつだろうなと思っています。
ちなみに、相棒のターマは中分けの髪型なので、たぶんターマとマルコのデザインが合わさったのがカートなんじゃないのかなと(笑)。

気持ちいいテンポの秘訣は「ギャグアニメの喋り方」。会話はぎゅうぎゅうに詰めると面白い
──『ミルサブ』は、映像の爽快なテンポ感が魅力のひとつだと思いますが、「映像の気持ちよさ」はどこまで意識して作られていたのでしょうか?
亀山監督:
映像を作るときは、実際に自分で声を入れて、腑に落ちるテンポになるように調整して作っていくんですが……「こうすればテンポがよくなる」という気持ちよさは、かなり優先して作っていました。
シーンの尺感を決めるときは、自分の声を入れながら「会話の被せ」なども考えて決めます。
ただ、一度自分の声を入れたあとでも、声優さんに収録してもらった声を入れると調整が必要になったり、タイミングを変えないとスッキリしなかったりします。そういった、テンポ感に関わる部分はかなり細かく調整しています。
そこの「テンポがよくなる作り方」に対する答えというか、はっきりしたルールが自分の中にあるわけではないのですが、映像の気持ちよさを考えると、「テンポで作っている」ところはありますね。

──監督自身のそういったテンポ感は、どのように培ったものなのでしょう?
亀山監督:
作品を作り始める前に、いろいろなアニメを参考として見ていたんですが……その中に、『てーきゅう』や『斉木楠雄のΨ難』といった、「会話がめちゃくちゃ面白いアニメ」がいくつかあったんです。
で、「どうしてこんなに会話が面白くなるんだろう?」と思って見ていると、そういう作品はセリフが結構ぎゅうぎゅうに詰められているんですよ。
まくしたてるようなセリフの詰め方って言うんですかね? それが面白くて、参考にしたところはあります。『ミルサブ』のテンポ感には、その「ギャグアニメのしゃべり方」が、かなり参考になってますね。
──ギャグアニメは基本ハイテンションなものが多いですが、『ミルサブ』は割と一貫してローテンションだと思うんです。ローテンションなまま、なにかテンポを保つ工夫があったりするのでしょうか?
亀山監督:
言われてみればそうですね……。
とはいえ、ローテンションでも会話のテンポを詰めることはできるので、「会話を詰め込む」という点でいえば、ローテンションでも関係なく機能するんじゃないでしょうか。
あと、声優さんには早めのペースでしゃべってもらったうえで、会話が被せられたりもしているので、とにかく情報量が詰め込まれています。だから、聞いてる側はローテンションにならない……のかもしれません。
とはいえ、この「会話の面白さ」は本当に繊細なので、実際にやってみないと見えてこない部分もたくさんあります。「これが絶対」という正解はないんだと思いますね。

──会話の話題でいうと、『ミルサブ』はワードチョイスも独特ですよね。とくに「海老天の尻尾」はかなり印象的なフレーズですが、どんな風に思いついたのでしょう?
亀山監督:
「海老天の尻尾」が出てくる回の話は、カナタの「“いてもいなくてもいい”という立ち位置に対する、煮え切らなさ」を描いた内容ですが……そこになにかしらフックが必要というか、印象に残る要素を入れたくて考えたんですよね。
実際、印象に残ってくれているなら、ちゃんと機能したんだなと思います。
むしろ、「印象に残らない話はダメだな」というか……どんな話でも、どこか記憶に残る要素は意図して入れているので、「海老天の尻尾」も、頑張って捻りだした表現だったと思います。
──その「印象に残らない話はダメ」とは、どういった感覚なのでしょうか。
亀山監督:
印象に残らない会話がダメというか……それが中身のある話なら印象を気にしなくてもいいんですけど、中身のない話はなにかしら別の形で聞いた人の印象に残さないといけないんです。だから、ああいうキーワードを考えた感じですかね。
「強いキーワードで会話に印象を付ける」というのは、いろいろな作品を通じて学んだ要素だったと思います。

──監督から見て、「印象に残る会話と、残らない会話の違い」はどういったところにあるのでしょうか。
亀山監督:
個人的には、「お決まりのセリフ回し」はあまり印象に残らないと考えているんですよね。
使い古されたアニメっぽい言い回しよりも、「アニメではあまり聞かないけど、実際にこういう言い回しってあるよな」と思えるセリフのほうが印象に残るんじゃないかと。だから、アニメでよくある言い回しっぽいものは、意図して使わないようにしています。
アニメでも映画でも、セリフに限らず、その先が予想できちゃうことってあるじゃないですか。でも、いい展開、いい返しって、意表を突くものだったりすることが多いんですよね。だから、「この流れならこう言うよな」という決まったセリフではなく、ある程度ひねりを持たせたほうがいいのかなと思っています。
──アニメらしさに囚われず、現実的に、実際に言いそうなセリフを考えているんですね。
亀山監督:
セリフでいうと、さきほど「『ミルサブ』のそれぞれのキャラにはモデルがいる」という話をしましたが……自分がいままでの人生のなかで関わってきた誰かをモデルにしているから、「その人だったら、このシチュエーションでどういう返しをするだろう」と考えてから、決めています。
ただ、自分で作っていると、どうしても全部自分の言い回しになっちゃったりするんですよね。だから、自分の知り合いが『ミルサブ』を見ると、「全員お前じゃん」と言われたりして(笑)。
そこも気をつけなきゃいけないなと思ってるところです。


