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「良いものを作れば売れる」は幻想。それでもクリエイターの純粋な力を信じ、リーダーは自らが「売る」ための全てを引き受けた。傑作『グノーシア』をヒットへ導いた、川勝徹氏の執念【インタビュー】

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2000年代以降、ゲームというもののあり方は少しずつ変わってきた。

そうした流れを代表するのが、例えば『Fate』の奈須きのこ氏や『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07氏といった、いわゆる同人文化の中から現れたクリエイターたちだ。

彼らは巨大な資本によるバックアップを受けず、プロモーションの力を借りることなく、創作に対する情熱と、作品それ自体の突き抜けた面白さだけで、多くの人たちを熱狂させてきた。

「売れる」ゲームでなく「作りたい」ゲームを作り、多くのユーザーがそれを受け入れる、そうした流れが生まれはじめたのだ。

同時代のクリエイターとして、そうした「純粋な面白さで受け入れられる」タイトルの隆盛を眺めながら歯噛みしていたのが、後に傑作アドベンチャーゲーム『グノーシア』を生み出すことになる川勝徹氏だった。

──「自分たちはこれが作りたいんだ」っていう情熱だけで作られたものが、多くの支持を集めたんです。誰が煽るでもなしに周りが自然に盛り上がってしまう。これが本物の純粋なクリエイティブの面白さなのかと思うと、すごく羨ましかった。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_001

今でこそ『グノーシア』の爆発的なヒットによりインディーゲーム界の寵児になった川勝氏だが、その歩みは決して平坦なものではなかった。

機械メーカーでごく普通のサラリーマンとして勤めながらも、「ゲームに関わりたい」という夢を諦めきれずに会社を辞め専門学校へ入学。自分よりも若い世代の同級生に交じって努力し、けれど念願叶って入社した会社は半年余りで倒産してしまう。

次に入ったのは当時はまだITを主力としていたため「ゲームメインの会社」ではなく、任されたのは旧世代の名作を携帯電話向けに移植する仕事。実績をあげながら、名作への憧れとオリジナル開発を虎視眈々と狙う日々。

──いつか他者のための仕事だけでなく、IPホルダーとして信頼する仲間たちと代表作を作りたい

自分の力でヒットする作品を作りたい。でも、作りたいものは売れるゲームではなく、「自分が遊びたいゲーム」だ。自らの手で作品を生み出すことへの執念は、たった4人のクリエイティブチーム・プチデポットへと繋がり、そこから『グノーシア』が生まれることになる。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_002
画像はSteam:グノーシアより

純粋なクリエイティブを目指す燃えるような執念と、それに相反するような「ヒットさせる」ための冷徹なまなざし。矛盾したふたつの想いとともに歩んできた川勝徹というクリエイターのあり方について、お話を伺ってきた。

聞き手/TAITAI
執筆/恵那
撮影/松本祐亮

クリエイターは純粋な気持ちでゲームを作って欲しい。「売る」ことは全部自分が引き受ける

──これまで過去に何度かインタビューなどでお話を伺ってきましたが、川勝さんは作りたいゲームを作ることに対してある種、狂気的なまでの情熱を傾ける一方で、それをどうビジネスとして着地させるかという、すごく現実的なお話もされますよね。

その矛盾がすごく面白いポイントであると思っていて、本日はそうした「クリエイターとしての在り方」について、お話を伺っていきたいと思います。さっそくなんですが、ご自身では自分の仕事について、どのように考えていらっしゃるんでしょうか?

川勝氏:
経験を重ねると「良いもの作っていれば、誰かが気づいて売れる」なんていう理想は、ほぼないという現実を知るわけで、実際はある程度お金のことだったり、ビジネス感覚がないと難しいんですよ。

特にクリエイティブ以外のやるべきことからは逃げられませんし、とても重要です。夢だけではどうにもならないので、現実を見定めて着実にしっかりと手順を踏んで、調べる、考える、立ち回るを高速でやり続けないと。

一方で、そうしたビジネス的な考えというのは、純粋なクリエイティブにとってはある種の雑念になりかねないと思います。幸運にもうちのメンバーは「売れそうだから」というアイデアに飛びつくような発想は持っていません。

実際、『グノーシア』の開発中は、一時期ネットを遮断し、外からの評価から離れて、自分の世界に没入していたことがありましたね。時としてクリエイティブのためには重要なのだと考えています。

──クリエイターは外部の評価を気にするべきではない、ということですか?

川勝氏:
しっかりとした軸を持つべきなので制作中はある時期ではそう思いますね。同時に誰からも理解されない「孤高のクリエイティブ」というのもビジネス的に難しいかもしれません。だから最初は、プロデューサーさえ理解できていればいいんだと、僕は思ってるんですよ。

クリエイターは外部の評価より先にまず自分自身のうちなる世界と対話し、純粋な創作に対して徹底的に向き合ったほうが深い制作思想が培われると思っています。その代わり、自分たちの作品が目指すゴール、つまり「作品の解像度」を限界まで頭の中で高めておくことが、プチデポットのプロデューサーとして大事な仕事です。

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川勝氏:
僕がスポークスマンを務められるのは、ディレクターとしてメンバーと共にゲームを作り、課題や方向性を共有しているからです。4人しかいませんし、コミュニケーションの密度も濃いんですよね。

開発メンバーと共にどこでつまづいて、何に悩んでいるのか。そしてどんなゲームを目指しているのか、わかっているつもりです。

──クリエイター本人に代わって、プロデューサーがビジネス的な雑念を引き受ける。その代わりにクリエイターは彼ら自身の仕事に集中させると。

川勝氏:
そうですね。私の場合はディレクターを兼務しているので、残りの半分はプロデューサー脳でやってます。本質的には、コア部分の世界を構築するっていうのは少なければ少ないほうが良いと思っています。だからメンバーと共に各々のタイミングで「世俗とのシャットダウン」に入ります。

周囲から離れて集中し、感覚を研ぎ澄ませている状態です。そういう時はお互い極力声をかけないようにしています。特にうちの場合、各担当は1人しかいないので、属人性の高みを目指したい。

もちろん、「こう作って欲しい」という要望は伝えますが、すぐにアイデアを実装できないですしね。その間もずっと開発メンバーと考えながら、初期の段階からテストプレイをし続けます。あくまでプレイヤー目線を忘れないように。編集者のように彼らの悩みに寄り添う動きに徹しています。

──個人の作家さんであればひとりで集中して作業することも可能ですが、ゲームは集団制作だから、そこが難しいですよね。ただその矛盾を乗り越えられなければ、本当に面白いゲームにはならないのだ、というのも共感できる部分です。

川勝氏:
誤解を恐れずに言うと、僕はクリエイターのやりたいクリエイティブをそのまま出し切ってしまうと、ある意味で高尚なものになりすぎて周囲の共感、理解が得られにくい可能性があると思ってまして。作品がクリエイターの思想や背景もわからない状態でリリースしても味が濃すぎるかなと。そこでそのあたりが汲み取れるかを含めて膨大なテストプレイをして確認したいわけです。

インディーゲームで生計を立てようと3年も4年もかけて作ることが多いので、当然売れて欲しいし、ヒットさせたい。継続的な創作活動ができなくなりますからね。

そのためには、もしゲームでプレイヤーが戸惑う点があったとしても、「わからなくてもいい」と意図しないところでもあまり突き放さず、仮に100%理解できなくてもその先に広がりを感じるような筋のよいものにしたいと思っています。

なので誰よりも作品のことを理解しつつ、一方でビジネス的な知見をもって、ゲーム内容の味付けの濃さを調整する必要があるわけです。それが、私の中ではディレクター兼プロデューサーという役割の一つですね。

「ありったけの思いで作るゲーム」で成功しているクリエイターの強さが、本当に羨ましかった

──川勝さんはクリエイターとしてもプロデューサーとしても、両面でゲームを考えることが多いと思うのですが、その意味で気になっている方などはいらっしゃいますか?

川勝氏:
それで言えば、同時代の同人出身の作家さんには剥き出しのクリエイティブというか、属人性の強さに嫉妬していたんです。お客さんの熱狂もすごくて。

僕は以前コミックマーケットに出展したことがあるんですけど、デビューしたちょうどそのタイミングで、後ろの席が『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07さんだったことがあるんですよ。

その時はまだイベント初参加だったと記憶していますが、そこから竜騎士07さんはメジャーに駆け上がって今やコナミさんの『サイレントヒルf』の脚本を担当されています。本当にすごいことです。

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画像はSteam:ひぐらしのなく頃に奉 鬼隠し編より

──同人から活動を始めて人気クリエイターになった方というのも、ここ20年ほどでかなり増えてきましたよね。

川勝氏:
タイプムーンの武内さんや奈須さんも登場するや否やものすごい人気でした。

まだ同人サークルだった頃に、まんだらけで『月姫』を買ってプレイしましたし、彗星のように駆け上がっていくところをみていました。

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画像は月姫 -A piece of blue glass moon- | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より

──それはクリエイターとしての能力に対して嫉妬するところがある、ということですか?

川勝氏:
純粋なクリエイティブの力であれほどの支持を得られたことに衝撃を受けたんです。

何がすごいかと言うと、当時この方々からビジネス的な匂いを感じられなかったし、その必要もない。クリエーターとお客さんの間に余計なものがないダイレクトに繋がるような感覚というか。

あの自然発生的な盛り上がりは、狙ってできるようなものではないと思うし、すごい勢いで駆け抜けていきましたよね。

──ほかに何の要素も含まない、クリエイティブそれ自体がとてつもないパワーを持っていたと

川勝氏:
本当に面白いものっていうのは「問答無用」なのであって、プロデュースというビジネス的なテクニックが入り込む余地なんてないんだと、見せつけられた気分でした。

これが本物の純粋なクリエイティブの凄さなのか。プロデューサーなんていなくても、周りが自然と引っ張ってくれるのかと思ってしまったのです。ビジネスマン的考えが覆された。

そう思うと、すごく羨ましかったし、嫉妬してしまうんですよ。

──問答無用の面白さを持った作品っていうのは、確かに時々出てきますよね。

川勝氏:
僕がリーダーとして『グノーシア』で目指したかったものは、そういうところなんですよね。やるからには、純粋なクリエイターの力だけで面白さを提示したい。

うちのメンバーはクリエイティブにすごく純粋で力もあって、ビジネスとか利益とかを全然気にせず作ってきたメンバーだからこそ原点に立ち返って、これまでの経験をフルに使ってやってみようと。

クリエイターとして、面白さをみつけるのではなく作りたい

──せっかくですので、川勝さんの原点に立ち返ったお話も聞いてみたいと思うんですけど、川勝さんはそもそもなぜゲーム業界の門を叩くことになったのでしょうか?

川勝氏:
もともとゲーム業界は憧れの場所でした。ただ僕はもともと一般大学の商学部出身で、プログラムだったりゲーム作りについての勉強とかは全くしていなかったんですよ。やってたのはマーケティングとか経済の学問でした。

だから当時はどうやったらゲーム会社に行けるかも分からなくて、大学卒業後は普通のサラリーマンとして、工作機械のメーカーの営業になりました。ただ、やっぱり諦めきれなかったんですよね。

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川勝氏:
仕事でPlayStationを作ってる工場とかに自社の工作機械を納品に行ったりするんですけど、すると「そっち行かないんだ、僕が」っていう考えがちらつくんですよ。それで1年間でお金を貯めて、一念発起して専門学校に入り直すことにしました。

そこで改めて2年間勉強してから改めて就職活動して、ゲーム業界に入りました。でも最初に入ったT&E【※】は、なんと入社から半年で潰れちゃって(笑)。

それで次に、当時ガラケー向けのゲームアプリとかを作っていた会社に入ったんですが、当時はメインの業務とは別に新規事業として小規模のゲームも作っているという感じで、完全なゲーム会社ではなかったんですよね。それでも受託で昔の名作を移植する仕事をたくさんできたのは幸運でした。限られた容量の中で、いかに面白くさせるか、演出するか、創意工夫の塊でしたから。

そんな中で最終的に事業部長まで務めたのですが、役割的に専門学校などで会社説明会をする機会が増えたんです。当時は家庭用ゲーム機がメインストリームの時代でしたから、30KBとか500KBのアプリゲームって学生さんからあまり支持されませんでした。悔しかったな。

当時のアプリゲームって短期間で多くのゲームを作れますし、当時は金銭的な開発リスクも低かったので、若手でもオリジナルゲームを作るチャンスも多かったんですね。表面的な情報や流行だけで判断するのはもったいないなと。その時から周囲が口にするデメリットは、本当にデメリットなのか。よく考えたらメリットもあるんじゃないかと考える癖がつきましたね。

※T&E
『ハイドライド』『スターアーサー伝説』などで知られるゲームメーカー

──そういう会社勤めを経て、プチデポットを立ち上げられたわけですよね。

川勝氏:
時期的には入社から10年ほどたって、スマートフォンが登場してきたタイミングですね。あれはものすごい衝撃でした。スマホそれ自体ではなく、その登場によって、個人がプラットフォーム上にゲームを送り出せる時代が来たので。

要するに、これまでのクリエイターという仕事への参入障壁が一気になくなってしまったんです。ビジネスなんて関係なく、世界の誰かがクリエイターとして面白いと思ったものを利益度外視で出してくる時代に、とてつもない恐ろしさを感じました。

逆に、そんな時代になったからこそ自分たちの作品を作ろう、ということで集まったのがプチデポットです。ゲームの面白さをみつけるというより、作りたかったので。

とはいえその時点ではまだ収益もなにもなかったので、会社ではなくサークルみたいな集まりでしたね。名前を付けたのは、パブリッシャーに対してチームの名義が必要だったからです。

──というと、特にオフィスなんかがあるわけでもなく。

川勝氏:
結成当時の僕たちは全員フリーランスで在宅作業でしたが、家同士が自転車で10〜15分ほどの距離にあり、いつでも気軽に集まれたのはチームにとって大きな強みでした。

役割分担は決めていて、クリエイティブと売上や数字まわりの両方を考えるのが僕の担当。他の3人はビジネス分野の経験が浅いこともあり、クリエイティブに専念したほうがよいだろうと。あとなにより「年齢を重ねる中、みんなでもう少し生活を向上させたい」とも感じていました。同時に大事な仲間たちと長くものづくりができる環境も整えたかったんです。

結果よいバランスになりましたね。もし「数字も分かります!」というタイプばかりだったら、きっと衝突も増えていたと思います。仕事としては繋がっていつつも担当領域は異なっていたので、お互いが自分の仕事にしっかり集中できましたね。

──専門学校に入り直したり、そこまでして入った会社も辞めてプチデポットを結成したり、ゲーム開発に対する飽くなき「飢え」みたいなものを感じますね。それはいったいどんな感情だったのでしょうか

川勝氏:
一番は、クリエイターとして勝負したかった。次にその作品を、私たちの管理下においてコントロールしたかった。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_007

──IPを自分自身でコントロールするというのは?

川勝氏:
過去の仕事でどんな名作タイトルをどれほど完璧に移植しようが、それは私たちのものではなく、生みの親の功績あってのことで、有名な作品に関われる喜びとそれで得られる生活に感謝しつつも、同時に頼り切っている自分への憤りも感じていました。このまま自分の人生を終わらせていいのか、自前のIPで挑戦しないと年齢を重ねるだけで終わるなと。

会社員時代に版権モノもたくさん扱ってきましたけど、ゲームを作っていると監修元からの修正依頼に対してゲームとして楽しむためにその方法は最適解か、と思うことがあるんですよ。

僕だったらこうした方が絶対面白いっていうアイデアがあっても、版元さんが絶対ですから。

勝ちにいくためには、みんながやってない「プロデュース」が必要だと思った

──プチデポットとして独立して、第1作目に開発されたのが『メゾン・ド・魔王』ですよね。確か、実際にメンバーの方が副業としてアパートの管理人をした経験が開発の契機になったとか。

川勝氏:
プチデポットとして独立したのが、ちょうどリーマンショックの時期だったんですよ。不景気だったのでゲーム以外の仕事を受ける必要もあって、その中の1つが「アパートの管理人」っていうアルバイトでした。

そのバイトをしてたプログラマーが、住民から家賃を踏み倒されて苦い思いをしたことがあったんですよ。生活が苦しいのはこっちも同じなんで、なんとかそれをネタにゲームを作って生活にあててやろう……と。

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画像はメゾン・ド・魔王 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より

──他のインタビューなどでも、当時からお話されていた結構有名なエピソードですよね。

川勝氏:
ただこういう説明をしていたのには別の理由もあって、実体験から生まれた愚痴みたいな開発秘話ですから、リアリティが半端ないですし切実です。だからきっとゲームの内容が分からなくても、まずは興味は持ってもらえるかもしれないと。

実際のところ、無名のチームが無名のゲームを世の中に売り出そうとした時に、ゲームのスペックとかジャンルをいくら説明してもおそらく興味ないだろうと。

それよりも、「アパートの管理人をやったら家賃を踏み倒されて……」というこのゲームを作るに至った物語を伝えたほうが新鮮かなと思いまして。未回収の家賃をゲームのネタにして回収しようなんて稀だろうし。

──モノを売るんじゃなくて、体験であったり物語を売るということですね。

川勝氏:
そうです。例えばNHKの『プロジェクトX』で「黒部ダムがすごい」といった話で放送されるわけですけど、私はダム建設自体には興味はなかった。それでも、「ダムを作った男たちの熱い戦い」みたいな物語には興奮したんですよ。

そういった文脈によるゲームの伝え方は大事だなと。以前、専門学校で学生が好きなゲームをプレゼンするという授業をした時に、この伝え方を取り入れたらリアクションがすこぶるよくて。

──その『メゾン・ド・魔王』なんですけど、実際のところ商業的にはどのくらいの成功だったんですか?

川勝氏:
切り詰めながら5年くらいは生活できたかな。ネットの親和性もよかったみたいでずっと売れ続けたんですよ。ただ次の『グノーシア』で開発が長引いて、最終的には生活費として足らなくなっちゃったんですけどね。

『メゾン・ド・魔王』は最初Xboxで売り出したんですけど、その後からSteamで展開して大きく伸びました。当時日本はまだ全然PCゲーム文化が大きく根付いているわけではなく、日本のゲーム会社はSteam販売にほとんどノータッチだったんですよ。

販売会社のPLAYISMさんと一緒に「ここに突っ込みたいよね」って相談して上手く成功しました。本音を言うと誰にも気づかれたくなくて、内心では「騒ぐな、騒ぐな……」と思ってました(笑)。

──『メゾン・ド・魔王』は最初Xboxでしたし、『グノーシア』は生産が終わったPS Vitaからのスタートでしたよね。言ってしまうと、市場としてはどちらもニッチです。

当時「なんでそこから行くんですか?」と伺った時に、「狭くても一番が取れるから」といったようなことをおっしゃっていて、驚いた記憶があるんですよね。きちんと「売る」ことを、かなり冷徹に見てらっしゃるような気がしたんですよ。

川勝氏:
狙ったというより発売可能なプラットフォームと時期がそこになっただけなんですよ。それが結果的にニッチだったと。ですので競争相手が少なくランキング上位に上がるだろうと予測はしてました。

4人で開発する開発コストの規模感なら一般的にデメリットにみえても、実はメリットもあるはずで、状況が悪くても、それをプラスに変える考えと伝え方の結果です。プラットフォームの選定はメンバーにXboxファンがいたことや、Windowsで開発しやすかったことなど、理由はいくつかありますが、一番大きな理由は無名のフリーランスが作ったゲームでも、Xboxならリリースできたことですね。

あとどうせ出すなら、最初からPCで出すより家庭用ゲーム機という憧れもあって、Xboxのリリースが望ましいと。当時Xboxは日本でこれからという印象でしたが、熱心なファンがいることは分かっていましたし、尖ったゲームでも受け入れてもらえる期待感はありました。あとなんで?という周りの興味も得られましたしね。

──初出の印象の違いというのは、確かにありそうですね。

川勝氏:
もうひとつ、『メゾン・ド・魔王』はXboxとPCで年間セールスで1位を取れたので、それが他プラットフォームに展開する際の実績にもなりました。

『メゾン・ド・魔王』は3DSでも出てるんですけど、その移植、販売っていうのはうちでは難しくて、メビウスというゲーム会社さんにお願いしてるんですよ。その依頼の際にも、Xboxの時の実績が役立ちましたね。

──『メゾン・ド・魔王』が出た頃って、小規模なデベロッパーが自分たちでゲームを出すという環境は、まだ十分に整っていなかったような時期だったかと思います。これなら行ける、という確信は最初からあったんでしょうか?

川勝氏:
僕がインディー業界に入った当時のことですが、作ることはできても、売り方まで考えている開発者には巡り会わなかった。逆に僕はそうしたプロモーション含めての営業的な仕事も経験していたので、勝機があるとすればそこだと思いました。それに当時インディーゲームとしては稀だったマルチプラットフォーム展開もできるはずだと。

例えばですけど、電ファミさんみたいなメディアの方にうちのゲームをアピールしたいと思っても、普通のインディー開発者って、いきなり編集長の平さんに連絡しないだろうなって(笑)。

──なかなかないですね。そういえば僕(編集長・平)と川勝さんとの最初の接点って、どんな感じでしたっけ?

川勝氏:
今でも覚えてるんですけど、年末の12月31日に、平さんがXかどこかで「『グノーシア』ってゲーム、なんか面白いらしいじゃん」みたいなことを呟いてたんですよ。「認識してくれてるこの瞬間に捕まえよう!」と思って飛び込みでメールしたんです(笑)。

そうしたら平さんも反応してくれて、ふたりでやり取りして年を越えるっていう。一緒に年越しちゃったんですよ。

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──そうでしたっけ(笑)。

川勝氏:
その時は平さんもびっくりされてましたけど、そこで「おや?」という引っ掛かりは作れるんですよね。

そんな風にメディアの人たちとの接点を作りに行くとか、イベントであった人たちに片っ端から全員交換して連絡していくとか。

営業をしている会社員であれば当たり前に考えつくことですけど、当時のインディー業界だと珍しかったみたいです。要は昭和のやり方なんですけど、SNSでちょろっと告知して満足してたらダメなんですよね。機械メーカー営業時代に所長から言われてたので。そもそも営業において、お客さんはおまえのことなんて誰も知らないし興味ないから。待ってたらお客さんから声がかかるなんて思うなと。

発信するだけならSNSなどで簡単にすることはできるんですが、もっと人間性を出した泥臭いこともやる。みんながめんどくさいと思ってやらないことこそ、一番やるべきことだったりするんですよ。今となっては珍しい昭和的コミュニケーション!

──それは僕としてもすごく納得できますね。本当に大事なのは、「自分がどれだけ本気で作ったか」を相手に丁寧に伝えることで、BCCでまとめて送ったメールなんて、結局は埋もれてしまうんですよね。

川勝氏:
そうなんですよ。連絡を受けた側に「君たちにとってわたしは一斉に送った30通のうちの1通だろ」と思われてしまうとよろしくないなと。相手にとっては1個のうちの1個なわけですから。反響があるかわからないものを記事にしていただこうとお願いするにあたって、メディアさんとの関係性ができていない状況で、初手でその対応はいかがなものかと。

三国志の劉備玄徳じゃないですけど、人が集まってくるというのは、そうした赤心に惹かれるからだと思うんです。

他者からみた危うさと期待が『グノーシア』の勝機になった

──さきほど、本当に良い作品は勝手に引っ張られていくんだ、ということをおっしゃっていましたけれど、『グノーシア』もまた、いろいろな人からの熱烈な支持を受けて駆け上がってきたタイトルだと感じます。その点についてはいかがでしょう?

川勝氏:
確かに、『グノーシア』にはそうした面はあるかもしれません。ある意味でそれは、インディーゲームが持つ、無茶で売れないかもしれないけど、それでも食いしばって「これから一緒に頑張っていこうぜ」という挑戦的な応援の歴史でもあり、恐ろしく残酷な物語でもあるんですね。私はインディーゲームファンとして、この極端なところやゲームの中に宿る狂気が好きなんです。

たとえばだれも知らない無名のチームが強豪相手に優勝したりすると盛り上がりますよね。判官びいきというか、ジャイアントキリングというか。ユーザーさんたちの願いを託す存在として見てくれているかもしれません。

そういう意味で『グノーシア』のアニメ化は大きな出来事でした。

──最初から爆発的な人気を得たというよりは、ユーザーさんやゲーム業界人の熱烈な支持を得て駆け上がっていった作品という印象です。実際のところ、PS Vita版の初速ってどのぐらいだったんですか?

川勝氏
そもそも時期が時期ですし、PS Vitaの市場自体がそれほど大きくはなかったのですが、それを考えると悪くない滑り出しだったと思います。初速で5000~6000本くらい、Vita版の累計だと1万5000本ぐらいだったでしょうか。

なにせVitaの生産終了が発表された後にリリースされたわけですからね。そんな時期に新作を出すようなライバルもいなかったので、ランキングもずっと1位みたいな感じでした。

──そもそもなんですが、『グノーシア』ってどんな経緯で立ち上がったプロジェクトなんですか?

川勝氏:
当時PlayStationストアに「Mobile」っていう新しいサービスがあったんですよ。今でいうアプリストアのようなもので、確かVitaやスマートフォンに向けのコンテンツを誰でも自由に作成し、配信・公開できる仕組みだったと記憶しています。

そこで一度テスト的に、簡易的な1人用の人狼ゲームを開発したんです。もともと僕たちは人狼ゲームが苦手だったので、それを1人でも遊べるようにしたら面白いんじゃないかと考えて作ったもので、今より遥かにカジュアルなゲームだったんですよ。

ところがこれを出そうかなというタイミングで、「Mobile」のサービスが終わるという発表があったんです。それじゃあ、どうせなら本格的なものを作ってしっかり出そうということになった、というのが一番最初のきっかけです。元々はもっとライトなゲームのはずだったんです。

──というと、パブリッシャーもついていたわけではなく?

川勝氏:
本格的な開発に入るまではいませんでしたね。本作のコンセプトを気に入ってもらえて、『メゾン・ド・魔王』の時からお世話になっているパブリッシャーのメビウスさんと組んだんです。

当初は開発期間もそれほど長くなる想定ではなかったんですが、こだわりすぎて結局4年もかかってしまいました。そしたら出そうと思ったタイミングで、今度はVitaの生産が終わると発表されて(笑)。

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川勝氏:
結果的にはそのタイミングが令和と平成の挟間という時節にかみ合って、平成最後のVitaゲー、あるいは令和初のVitaゲーって言われて妙な盛り上がりがありましたね。

──Vitaで出たっていう危うさも含めて、「このまま埋もれさせてはいけない」みたいな空気感がファンの間にあったような気がしますね。

川勝氏:
当時は仕組みとしてYouTubeでもあまり情報が出ていなくて、遊んだ人からの反応はいいけどプレイ動画もないので、実態がよくわからない「謎のゲーム」みたいに扱われていて、そうした点も当時のお客さんの興味に繋がっていたんじゃないかなとも思います。

リリース後にはいろいろ反響もいただきましたけど、「これは私のために作られたゲームだ!」みたいなことを言われたのが、一番嬉しかったですね。

「何百万人の人に向けて作りました」ではなく、本気で刺さってくれるであろう人に向けて「あなただけのために用意しました」という気持ちで作ってましたから。
その代わり、1度心に刺さったナイフは抜けないぞっていう(笑)。

『グノーシア』は設計図ではなく、余白から生まれた

──そういえば、『グノーシア』の一番最初の企画書ってどんな感じだったんでしょうか。用意はされていたんですよね?

川勝氏
ありますよ。あの……Vita版やSwitch版を出すときには企画書を出さないといけないから。

──えっ、というと、もしかして最初の立ち上げ時には企画書はなかったんですか?

川勝氏
ありません。作るときの企画書は口頭ですね。途中まで作っていたPlayStationMobile版もありましたし。
一応、パブリッシャーさんと相談するときは企画書みたいなものをまとめはしたんですが、コンセプトの「1人用人狼」っていうのを説明する、2ページくらいの簡単なものでしたね。

──それはちょっとすごいですね。川勝さんがゲームを作られる時って、どんな作り方をされているんでしょう?

川勝氏
会社員時代はバリバリ企画書、仕様書は作ってましたけれど、いまは4人のチームですからね。もちろん先にゲームのコアサイクルは作りますが、そのあとはスクラップ&ビルド前提で進めます。

私たちが遊びたいと思うゲームを作っていくチームですから、少し作ってテストプレイし、体験の解像度を上げて、作り込んでいく手法です。以心伝心みたいなメンバーで少人数だからこそ作れるやり方なので、大人数では無理ですね。私の会社員時代とは真逆のやり方。

仕様もどうせ変わるかもしれないから、ふわっとさせておくことが多いです。メンバー内で中身は全てわかっているし、いつでも修正できる前提で作っていますからね。何かを確定して決めてしまうっていうのは、そこに入る可能性があったものを消すってことでもあるんです。それはギリギリまで残しておきたい。よくないやり方かもしれませんけど。(笑)

──何かが入る余地のある空白こそが、ゲームの面白さに繋がっていると?

川勝氏:
そうです。ゲームに関しては、もうすでに完成している『グノーシア』にせよ、「これはこういう設定で、こういうキャラで、こういうゲームです」とは、はっきり説明したくないんですよ。そこに入りきらない余白こそ、本当に面白い部分だと思うんですよね。

余白の部分を最後まで取っておくようなやり方です。ゲームそのものの力を信じているといいますか。

──それで開発が長引いたようなところもあるのでしょうか。小規模チームで1本の開発に4年かける、というのはかなり勇気がいることだと思うのですが。

川勝氏:
Vita向けの買い切りゲームとして出す以上、きちんとした遊びごたえと「きちんと終わる」体験が必要だと考えていました。

『グノーシア』は「短時間で遊べるシングルプレイ人狼+ストーリー」というコンセプトの期待値が高い一方で、無名でこれまでも実績が知られていない4人組だったので、お客さんから見れば期待と不安が半々の状態だったと思います。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_011

川勝氏:
開発が長引いたのは、その期待を超えようと力を入れた結果ですね。中でも時間がかかったのはシナリオで、4年の開発期間のうち約半分を費やしました。ゲームシステムを先に作り、そのあとからシナリオを乗せていく「後付け」の形だったことも、その大きな理由です。

しかも実際にテストプレイを繰り返しながら、どういったイベントがあると楽しいか、ワクワクするか、みたいなことを都度考えながら入れ込んでいったので、効率とは無縁の作り方です。でも独立してやりたかったんですよね。そういうわがままを。

大失敗するか、想像を超えたものになるか、特殊な環境からしか得られないものがあるだろうと。過去の経験の延長線で行う開発だと、予想を超えるゲームができない気がしていたので。

──スタート時点でシナリオがなかったというのも不思議な話ですよね。そこに後からシナリオを足すというのも、かなり大きな決断だと思います。

川勝氏:
単なる人狼ゲームだけだと、ずっと遊んでいると飽きてしまうんですよ。だからやっぱり物語やキャラクターを生かそうという方向に舵を切りました。

ゲームの仕組みは既にできていたので、どこにシナリオを差し込めるかはゲームの設計上で必然的にわかります。シナリオを練ることは大変ですが、そこまで大きな決断というわけではありません。必然ですね。ゲームデザイン上の制約の中でしか生まれないシナリオや会話劇ができたと思っています。

実は最初に用意していたのは、人狼ゲームの骨子になるルールだけで、コマンドも「疑う」とか「かばう」みたいな本当にシンプルなものだけで、キャラクターも4、5人ぐらいでした。

シナリオ担当のしごとくんと制作の中で意識していたことがあって、「テキスト文だけで判断するようなことをなるべく避ける」ことなんです。『グノーシア』は小説ではなくゲームのシナリオなので、実際にゲームを遊ぶ体験に即したテキストを目指すと。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_012
画像はSteamで30% OFF:グノーシアより

川勝氏:
テキスト上では面白そうに見えても、ゲームとしてプレイしてみると印象がガラリと変わることもあるんですよね。ゲームではボタンを押すと、演出があって、それで物語が進んでいくわけですから。

僕らとしては、その印象がとても大事だと思っていました。そのせいで、結局6000回もテストデバッグをやることになったんですけど。

「背水の陣」だけで良いものは作れない。あらかじめ生活の限界ラインを知っておけば、無理ができる

──「ゲーム開発にはビジネス感覚も必要だ」とおっしゃっていましたが、その点で言えば、『グノーシア』は逆にかなり危うい開発をしていたようにも思います。聞くところでは、川勝さんが自分の稼ぎでメンバーを食べさせていた時期もあったとか。

川勝氏:
というより『グノーシア』の開発チームに制作へ集中してもらうために、僕とサウンド担当のQflavorだけが別の仕事をして収入源を変えた、というのが正しいですね。

プチデポットとして1作目に開発した『メゾン・ド・魔王』が結構売れてくれたので、しばらくはそのロイヤリティをみんなで分け合って生活できていたんですけど、さすがに発売から4、5年経って、『グノーシア』の開発の途中でそれが難しくなってしまったんですよ。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_013

──『グノーシア』自体、開発に4年間もかけられていましたからね。

そこで途中からは、Qflavorと僕はロイヤリティを受け取るのをやめて、その分をほかのメンバーに回すことにしました。僕自身も、その期間は専門学校の講師の仕事をしてなんとか生活を維持していました。

僕だけでなくQflavorへのロイヤリティを止めたのは、「サウンドは一度作ってしまえば、基本的には手が離れる仕事だから」という理由です。作業が終われば、並行で他の仕事をすることもできますから。

でも、プログラムとデザインは違います。ゲーム開発が完全に終わるまで、ずっと関わり続けないといけません。仕様変更や修正などスクラップ&ビルドしまくるので。だからこそ、彼らには余計な心配をせず、創作に集中してほしかったんです。そのためには、生活の心配をしなくていいだけの収入を保証する必要がありました。

──食べさせていたというより、チーム全体で開発完了までの命を繋いでいたようなイメージだったのですね。

川勝氏:
状況としてはギリギリではあったんですが、「もう後がない」というほど追い詰められていたわけではありませんでした。

自分たちで対処できる範囲のやりくりというか、別の仕事をしたり、とにかく何かしらで最低限必要なお金さえ作れれば、どうにかなるもんです。欲とプライドがなければ。(笑)

背水の陣っていうのは、失敗したら終わるという状態がよくないんですよ。「ここを下回らなければ大丈夫」という生活ラインと仕事、つまり自分たちの限界値をお金の面で把握しておくことが大事なんですね。

裏を返せば、そのラインさえクリアできれば生活費のストレスから解放されます。うちの場合、みんなが生活を続けるために必要な最低限の金額って、幸運にもそれほど高くなかったので。もともとフリーランスは収入の波が激しいので、みんな普段から質素な暮らしに慣れていますしね。

──そう聞くと、単なるクリエイティブへの執念というだけではないですよね。クオリティに対する執念の一方で、金銭面でギリギリまで妥協できるところも見ている。純粋なクリエイターとは違う泥臭さも感じます。

最終的に、それでも資金繰りが苦しくなった時には、自分たちの物を売ってお金に換えていました。「ここまで来て中途半端なものを出すんだったら、これまでやったことが全部駄目になるじゃないか」と。まあそれも想定内ということで、背水の陣ではないということで(笑)。

だからこそ、みんなが納得できる完成形にたどり着けるまで、覚悟を決めて突き進もうと思っていました。独立してリスクをとってまでやる意味があることをしたいなと。IPも死守したいし。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_014

──作りたいもののためにギリギリまでは無理をするけど、ギリギリのラインはしっかり持っておくということですよね。

とんでもないこだわり派の人に見えるけれども、一方ではビジネスとしての視点も外さない。傍から見ていると、その矛盾した二面性がとても興味深いです。

川勝氏:
そういう意味では、確かに僕はリアリストだと思います。基本的に、「物事はうまくいかない」という前提で動いていますし。『グノーシア』にしても「本当にこれって売れるのか?」という疑いの目を、もう一人の僕は最後までシビアにみてましたから。

自分の感覚をできるだけ自分から切り離して、なるべく客観的な視点を持つことを意識しています。そのせいで、自分の手がける作品に対しても、かなり冷静というか、冷たい見方をしてしまうところがあると思いますね。非情な判断もしますし。

それでも成功するかどうかは不確実なわけで、だからこそ最後に残る原動力っていうのは、僕もメンバーも「これがいまの全力か」という清々しい気持ちがあるかどうか。究極的には第三者の評価がどうとか、そういうことより自身と最後まで向き合って超えられたかどうかです。

アニメとゲームでは情報の密度も作り方も違うので特性を見極める

──『グノーシア』はアニメにもなっていますけど、これは映像化がすごく難しいタイトルだったのではないかと思います。物語がゲーム的なシステムや表現と深く結びつきすぎていますから。

川勝氏:
『グノーシア』をアニメ化するにあたっては、いくつか大きな課題がありました。
1つ目は、ゲームの物語をアニメの放送枠に収まるように再構成しなければならないこと。2つ目は、ゲームならではのシステムを、どう物語として表現するかということ。3つ目は、ゲーム版のエンディングのオチを、アニメでどう見せるかという点です。

ただ、これは同時に作品の「興味」になり得る部分なので、しっかり認識すべきところですね。市川監督、脚本家の花田さん、プロデューサーの木村さんを中心に、100人以上のアニメチームとともに膨大な時間をかけて作り込んでいきました。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_015
©Petit Depotto/Project D.Q.O.

──その中で言うと、「ゲームならではのシステムを、どう物語として表現するか」という点が一番重要だと感じますね。アニメとゲームというのは根本的に全く表現技法が違うメディアですから、その差を乗り越えることが最も難しいように思います。

川勝氏:
アニメとゲームで大きな違いを感じたのは、作り手の側が視聴体験をコントロールできないことです。アニメだと時間と共にお話が進んでいきますので、できるだけ視聴者が置いてけぼりにしないよう工夫する必要があります。

その一方でゲームは、選択肢やストーリーの分岐など、ボタンを押せばプレイヤーが好きなタイミングで体験をコントロールできます。分からないことがあれば、そこで一度立ち止まって考えることもできるし、ゲームの中で試行錯誤できますから。インタラクション前提で作られているので「私だけのゲーム体験」としての物語を味わえます。逆に言うと、プレイヤーが分からないまま先に進むこと自体が難しい構造とも言えます。

だから、ゲームのインタラクションではなく「映像に託しても楽しめる」作品にすることが重要で。グノーシアのゲームだと無数のエピソードの解放順番が無数にあり、それがプレイ体験に直結した設計なのですが、逆にアニメだと意図的にそのエピソードを自由に繋ぐことができます。どの話数で盛り上げていこうかといった全体話数から逆算で。

だからこの仕組みを使って、毎週視聴し続けてもらうために何が必要かをアニメチームの方々はものすごく考えてくださいました。これはグノーシアだからできるアニメ化の強みじゃないかと思います。

──一般論としては「ゲームは物語体験をコントロールできないから難しい」と言われがちだと思いますが、川勝さんからすると逆なんですね。ゲームはプレイヤー自身の意思で最適化できるが、アニメはそうではない、と。

川勝氏:
そうですね。放送時間の尺もありますし、アニメは一瞬の理解度を一定数あげる必要があると感じていました。ゲームウィンドウのテキストを自分のペースで読めるのと違い、流れる音声によって一瞬で意味や機微を聞き取れないといけないじゃないかと。さらに連続したカットの中で映像表現されるので、情報接種の体感が違います。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_016

川勝氏:
また登場人物が長ゼリフだと、視聴者は疲れちゃいますしね。セリフは短く抑えつつ、キャストさんの演技や画面上の演出で、文字をセリフに置き換えていく必要があります。

要は情報の密度と伝達のタイミングがゲームとアニメで違うんですよね。だから毎週収録スタジオにいき、会話のテンポ感、セリフ回しなど、アニメにおける最適解を音響監督を中心にプロデューサーたちと模索し続けました。

本気でヒットする名作を作りたければ、「王道」から逃げてはいけない

──川勝さんは今回のアニメで、原作者の立場として以上に、アニメ自体のプロデューサーのひとりとしても名前を連ねていますよね。アニプレックスの担当の方にもお話を伺いましたが、こうしたことは稀なことだと聞いています。

川勝氏:
これはあくまで僕個人の考えではあるんですが、ゲーム原作者がアニメ制作において身近な存在というのは、関係者の方々の安心感とクオリティに寄与する部分が大きいんじゃないかと思っています。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_017
©Petit Depotto/Project D.Q.O.

──実際にはどんな形でアニメ制作に関わられていたのでしょう?

川勝氏:
ゲーム原作の設定や思想についてアニメチームへ情報を提供し、そこから脚本を練っていただきました。アニメを成立させるために新たな解釈やオリジナル設定、演出などはアニメチームから「ここはこう演出したい」という提案もたくさん受けましたし、逆に僕の方から「これは絶対やって欲しい」と無理なお願いをしてきた部分もかなりあります。

ただ最終的な判断はアニメチームに委ねることも多かったです。内容だけでなく、予算、スケジュール、クオリティなど総合的に熟考した中での提案だったので。

あと今回のアニメは本当に多くの方に参加いただいたので、キャストさんや制作スタッフ一人ひとりが思う「グノーシア像」をできるだけ作品の中に取り込みたいと考えていました。そういう意味では、コラボレーションアニメとしてかなり振り切った仕上がりになりましたね。原作をベースに多くの方々の世界観が集結した、もうひとつのグノーシアです。

──これは少し本題からは外れますが、最近の原作つきアニメでは、「原作を忠実になぞるべき」という考え方と、「アニメはアニメとしてのオリジナリティを出すべき」という考え方の両方がありますよね。川勝さんは、どちらの立場に近いのでしょうか。

川勝氏:
僕自身もそうなんですが、原作が好きな人にとって「一番は常に原作」なんですよね。だからアニメを同じ軸で比較したら原作は超えられないと思います。『グノーシア』であれば、うちが作った唯一無二のゲームが一番面白いと、僕たちは思っているので。

だからこそ、アニメ化というのは、色々なご意見や反響があることを承知の上で、それでも違う着眼点から最高の面白さを新たなアニメで目指しました。多くのクリエイターが集まるアニメの強みを最大限に活かす。原作をベースに独立した単体のアニメとして成立させたい。──そんな気持ちでアニメに向き合っています。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_018

──ユーザーさんの期待に応えるのは当然として、期待の範囲内に留まっても驚きがなくなってしまいますよね。この矛盾に立ち向かうことこそアニメ化の壁なのだと思います。

川勝氏:
アニメを作る以上は、「予定調和ではなく想像を超えたものでありたい」ですね。

例えば今回のアニメには原作になかった「主人公」のキャラクターが登場しますが、実はここにも議論があったんですよ。一人称のVR視点のような、主観的な視聴体験をすべきなのか、みたいな議論もありました。

しかしそれをやってしまうと、アニメとしては「変わったことをやっているだけ」のものになってしまいます。だからより多くの視聴者に楽しんでもらうためには、アニメとして一番の王道を目指すべきだと思いました。それが一番難しいことでもあるんですけどね。

──確かに、ジャンルの王道から外れたものは、マニア的な人気を得ることがあっても、ヒット作にはなりづらいですよね。本気で視聴者を楽しませたければ、王道を外すことはできないと。

川勝氏:
はい、正面切ってやりつつ、たまには予想外のこともやる(笑)。

アニメとしてのお約束や「これだけは見たい」と思っているアニメ的な王道ポイントが必ずあるはずで、グノーシアなら群像劇や人狼推理、ドラマチックな展開、ループものなどを真正面からしっかり取り組むことですね。

──王道っていうのも、難しい言葉なんですよね。要はマーケティングを放棄した結果として、何も考えずに「王道」云々と連呼するような作品は世の中にたくさんありますけど、今の話っていうのは、小手先の技術に逃げず、真っ当に勝負するっていう王道ですよね。

川勝氏:
そうですね。ゲームをアニメへ再構築し、IPを預けてアニメチームに全部お任せではなく僕もアニメチームの一員として頑張らなければ王道は目指せないと思ったので。

お客さんに評価される以前にやっぱり、少なくとも自分が「面白くないかも?」と思うようなものは出せませんからね。

──多くの人が関わる巨大なプロジェクトであればあるほど、作品の面白さを信じないまま出してしまうこともあると思うんですが、そこに対する川勝さんのある種、愚直さみたいなものが見えて、僕としては今日すごく安心しましたね。

それでは最後になりますが、『グノーシア』はじめプチデポットのファンの方に向けて、ゲームやアニメを楽しんでくれている読者の方に向けて、一言いただけるでしょうか。

川勝氏:
プチデポットとして『メゾン・ド・魔王』と『グノーシア』の2作品リリースし、皆さんに評価いただいてここまでやってこられました。本当に、本当にありがとうございます。これからも僕たちらしくマイペースに創作活動をしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

──本日はありがとうございました。
(了)


“純粋なクリエイティブ”のすごさを見せつけられてしまうと、嫉妬してしまう。本当に面白いものっていうのは、「問答無用」なんだなって──

そう語ってくれた川勝氏の言葉には、ある種の諦観らしきものが感じられた。そういうものには「勝てない」という、悔しさと憧れが混じった諦めの感情だ。

ゲームというのは、数時間──時に数十時間ものプレイを要する娯楽で、その「面白さ」を伝えるのは、本来簡単ではない。その意味で、適切なプロモーションによって「面白さ」を伝えることは、ゲームにとってなくてはならないものだ。

しかし川勝氏の言葉を借りれば、そうしたプロモーションは、しょせん小手先の技術に過ぎない。本当に面白いゲームは、誰の言葉を借りずともひとりでに突き抜け、多くのプレイヤーを熱狂させる力を持っている。

川勝徹という人物は、クリエイターであると同時に、誰よりもそのプロモーションの重要さを理解し、実践してきた人物だ。そしてだからこそ、その諦観めいた言葉には、クリエイティブというものに対する底抜けの信頼が感じられる。

本物の純粋なクリエイティブには、こんなすごいことができるんだ。こんなにたくさんの人を熱狂させられるんだ──そういった信頼だ。

『グノーシア』の制作に対する狂気的ともいえる情熱は、そうしたクリエイティブの力を信じていたからこそ発揮されたものだろう。とてつもないパワーを持った──小手先の技術など入る余地もないような──クリエイティブがありえると信じていたからこそ、そこへ向かう憧れもまた色褪せなかったのだろう。

だからこそ、そうやって生みだされた『グノーシア』は、多くの人に愛され、熱狂される作品になったのだろうと感じられる。

2019年に初めて世に出た『グノーシア』は、初めから万人の期待を受けていたわけではない。
開発したのはたった4人の小規模チーム、発売されるのは生産終了が決定していた最末期のPS Vita。リリース前は、何度も「大丈夫なのか?」と囁かれたという。

けれど『グノーシア』は物語を持っていた。
チームの収入が落ち込むなか副業で生活費を稼ぎ、それでいて4年という開発期間をかけ、6000回を超えるテストプレイを繰り返す。恐るべき創作への執念によって生み出されたその作品は、リリースされるや否や高い注目を集め、多くの熱心なファンに支えられながら、彗星のように時代を駆け抜けていった。

優れた作品はクリエイターから生まれてくる。しかしクリエイターが作りたいものだけを作っていては、商売にならない。ゲームである以上、売れなければ話にならない。

そして優れたクリエイティブとは、この情熱と冷徹さのはざまにある矛盾を突き抜けて生まれてくるのだろう。

プチデポット・川勝徹氏インタビュー|傑作『グノーシア』をヒットへ導いた執念_019

編集・ライター
ル・グィンの小説とホラー映画を愛する半人前ライター。「ジルオール」に性癖を破壊され、「CivilizationⅥ」に生活を破壊されて育つ。熱いパッションの創作物を吸って生きながらえています。正気です。

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