初日の売上は、たったの2万円──。
いまでこそ会員数4000万人、年間売上700億円を誇る巨大プラットフォームとなったDMM GAMESだが、その船出はあまりにも過酷なものだった。
2011年の事業立ち上げ当初、実績はゼロ。後発プラットフォームゆえ、パブリッシャーからは門前払い。ゲームのラインナップを揃えることすら困難な状況だったという。
そこから約15年。『艦隊これくしょん -艦これ-』や『刀剣乱舞ONLINE』といった社会現象級のヒット作とともに、DMM GAMESはPCブラウザゲーム市場を牽引するまでに成長を遂げている。


“異常値”としか呼べないレベルでユーザーが押し寄せた『艦これ』、女性向け市場を切り拓いた『刀剣乱舞ONLINE』、過去作とは桁違いの売上を記録した『神姫PROJECT』。その転換点には、つねに「常識外れのヒット」があった。
だが、右肩上がりの成長だけがDMM GAMESの歴史ではない。
その裏側には、ゲーム市場環境の激変、そして2017年ころに訪れた成長の鈍化による組織の立て直しという苦悩があったというのだ。

今回、我々が取材を申し込んだのは、DMM GAMES(現EXNOA)を率いるCEOの東條寛氏だ。東條氏は、2011年のDMM GAMESの立ち上げから参画し、2025年にCEOへ就任。まさに“DMM GAMESのキーマン”と呼べる人物である。
そんな東條氏とともに、激動の15年を振り返りつつ、日本を代表する巨大プラットフォームの「現在地」と「未来」に迫る。
聞き手/豊田恵吾
編集/うきゅう、竹中プレジデント
撮影/永山 亘
「初日売り上げ2万円」から始まったDMM GAMES。苦戦するゲーム事業の空気を一変させた『艦これ』のすさまじさ
──DMM GAMESと言えば、やはり『艦隊これくしょん -艦これ-』の印象が強烈です。東條さんは2011年のDMM GAMESの立ち上げから参画されていたとのことですが、2013年にリリースされた『艦これ』の登場によってDMM GAMESを取り巻く環境も大きく変わったのではないでしょうか?
東條氏:
そうですね。そもそもDMMのゲーム事業は同業他社さんと比べて完全に後発で苦戦していたのですが、『艦これ』はその状況を一変させてくれました。
いまでこそゲーム事業の売り上げは年間700億円以上にまで成長しているものの、実はプラットフォームリリース初日の売り上げは2万円程度だったんです。
──2万円ですか⁉ 初日とは言え、事業としての成立が危ぶまれる金額に聞こえます。
東條氏:
私たちはプラットフォームをゼロから立ち上げることを念頭に100人ほどでゲーム事業に取り組んでいたので、もちろん大赤字です。ですが、いくつか事業を立ち上げてきた私の感覚で言えば、チャンスはあるんじゃないか、という感覚がありました。
実際に日を追うごとに売り上げは徐々に伸びていき、「これなら成長させていけるかもしれない」という手応えを少しずつ持てるようになっていきました。
──そして念願の“成長”をもたらしたのが『艦これ』だったということでしょうか。
東條氏:
正確には『艦これ』の前に『Lord of Walkure』【※】がありまして、これが私たちのプラットフォーム上で初めて、月商1億円を達成したんです。
このタイトルをきっかけに「DMMのオリジナルコンテンツでも勝負できる」という確信を得ることができました。そうして内製タイトルや外部の開発会社様との協業タイトルを仕込んでいく流れのなかで『艦これ』が出てきて……そこから世界が変わりました。
DMMのゲーム事業は2015年には会員数が1000万人を突破しましたが、その数字の多くは『艦これ』が連れてきてくれたユーザーだったと思います。
※『Lord of Walkure』……DMMにて2018年まで運営されていたソーシャルゲーム。カードとして表現されるキャラクターを組み合わせ、武器や防具などを装備させて強化しながらさまざまなクエストに挑む。

──『艦これ』がそれほどの成功を遂げた理由はどこにあるのでしょうか?
東條氏:
正直、ゲームそのものが良かったとしか言いようがありません。C2機関さんの思い入れや熱量が、そのまま形になった結果なのだろうと。大々的な宣伝も広告もない状態なのにユーザーさんがどんどん集まり、プラットフォームの会員数と認知度を一気に押し上げていきました。
具体的な数字は言えませんが、『艦これ』サービス開始直後の数値は“異常値”としか呼べないレベルでした。それこそ、私たちも見たことのない数字だったので「これ、集計エラーじゃない?」と疑って、何度も確認したほどです。
──集計エラーを疑うほどの数字……。すさまじいですね。
東條氏:
当時のソーシャルゲームの主流だった「ガチャで課金して札束で殴り合う」ようなシステムではなく、少し緩やかな課金システムを採用した点も、ユーザーさんにあたたかく受け入れてもらえたのかもしれません。
ですので、私たちプラットフォーマー側が「こういう仕掛けをしたからヒットした」と語れることは、じつは何ひとつないんです。

──先ほど「『艦これ』で世界が変わった」というお話がありましたが、具体的にはどういった変化がありましたか?
東條氏:
最大の変化は、プラットフォームに参入してくださるタイトルが増えたことです。
それまでのDMM GAMESは実績が足りないこともあって、参入を検討していただけるパブリッシャー様は少ない状況でした。『艦これ』のヒットが「おもしろいゲームなら、大きな反響が返ってくるプラットフォームなんだ」ということを証明してくれました。
また、DMMのサービスはブラウザ展開がメインということもあり、アプリゲームを移植するには開発コストがかかります。
それゆえ、なかなか参入いただけなかったのが、『艦これ』による爆発的な会員増が、その状況を変えるキッカケになりました。「それだけの市場があるなら」と、参入障壁を乗り越える大きな材料になったんです。
──プラットフォームとしての認知の確立と、開発コストをペイできるだけの市場規模の提示。その両方を『艦これ』一作で成し遂げてしまったわけですね。
東條氏:
もうひとつ、これはDMMに限った話ではありませんが、「擬人化」というジャンルのイメージが変わりましたよね。
もちろん過去にも擬人化作品はありましたが、どうしてもメジャーになりきれない、伸び悩むジャンルとされていました。
しかし、『艦これ』のヒットでその空気が大きく変わりました。その後、擬人化を取り扱った作品がたくさん出てきたというのは、『艦これ』によって生じた変化と言えるかもしれません。

ニトロプラスと連携し、女性向け市場を切り拓いた『刀剣乱舞』が目指す、「これからも10年続く」コンテンツの形
──『刀剣乱舞ONLINE』も、ヒットタイトルのひとつですよね。
東條氏:
そうですね。それまではDMMグループ全体として、女性向けサービスに関しては苦戦続きでした。その中で女性向けのゲームでヒット作が生まれたというのは、非常に重要な意味を持っています。
ユーザー層の傾向も、これまでのDMM GAMESとは異なり、圧倒的にスマートフォンでの利用が多いですね。

──『刀剣乱舞ONLINE』のヒットは事前に予測できたのでしょうか?
東條氏:
『刀剣乱舞ONLINE』に関しては、多くのコアなファンを抱えるニトロプラスさんという強力なパートナーとのタッグですし、大きな期待がありました。
実際、事前登録の段階から、反響が大きかったのでリリースに向けてどんどん期待が膨らんでいったのを覚えています。とは言え、リリースするまで何が起こるかわかりませんし、予測というより祈っているというほうがしっくりきますね。
──こうした強力なパートナーや熱量あるクリエイターの方々と協業するうえで、プラットフォーマーとしてどのような姿勢を大切にされているのでしょうか。
東條氏:
結局のところ、私たちプラットフォームにできることは、そういったユニークな才能に最大限コミットして、彼らの作りたいものをしっかりと形にしていくということだと思います。
『艦これ』や『刀剣乱舞』の制作過程を再現するのではなく、彼らのような熱量を持ったクリエイターが現れたときに、組織としていかにバックアップできるか。
たとえそれが属人的な企画であっても、こぼさず拾い上げられる体制でいたいと、つねに思っています。
──若干余談なのですが、これほどの人気IPなら「『2』は作らないのかな?」と気になってしまうのですが、続編についてはどうお考えですか?
東條氏:
一つひとつのコンテンツの未来については、作品を形にしてくれているクリエイターの方々の考えを尊重したいですし、なにより現在進行形で楽しんでくださっているファンの方々を大事にしたい。 運用型のゲームサービスにおいて、軽率に「『2』をやります」とは言えません。
とくに『刀剣乱舞』に関しては、様々な展開も含めて、新たな層へのアプローチを積極的に行っているところです。『刀剣乱舞ONLINE』は2025年に10周年を迎えましたが、これから「さらに10年、20年と続くコンテンツ」を目指していますから。
ニトロプラスさんも「仕掛け」を用意してくださっていますし、ゲームの開発・運営を担当する弊社のスタジオやライツチームをはじめ、一丸となって取り組んでいくつもりです。
DMMゲーム事業の転換期。『Lord of Walkure』、『千年戦争アイギス』、『神姫PROJECT』のヒット
──ここからはDMMにてゲーム事業を立ち上げた初期の苦労や、そこからどう転換期を迎えたのかをお聞かせください。
東條氏:
DMMがゲーム事業を始めたのは2011年ですが、当時はガラケー全盛期で、先行する他社プラットフォームが圧倒的なシェアを獲得している状況でした。
そのため、パブリッシャー様に参画をお願いしても「プラットフォームとして実績ができたらまた来てよ」と、やんわりお断りされることがほとんどでしたね。タイトルラインナップを揃えること自体が至難の業でした。
──ちなみに、最初期の時点でゲーム開発のノウハウを持った方はいたんでしょうか?
東條氏:
業界経験者も積極的に採用していたので、それなりにいました。
ただ、目指していたのはコンシューマーのような「AAAタイトル」ではなく、PCブラウザで動作する「ソーシャルゲーム」に焦点を当てていたので、勝手が違うところはあったかもしれません。
一時期「ソシャゲはゲームなのか?」という議論もありましたが、私たちとしては技術的にも仕様的にも、再現出来てチャレンジしやすいのはこちらだと考えていました。
また、当時ソーシャルゲームは、ほぼ全てがスマートフォン向けに展開されており、PCのオンラインゲームはほぼ新作が出ていなかったこともあって、PCで遊べるタイトルの新作は枯渇しているような状態でした。DMMはPCのプラットフォーム基盤が一番大きかったこともあり、PCを含めたマルチ展開が成長への近道になりました。
──「PCタイトルの新作が枯渇していた」というのは、裏を返せばユーザーが新作に飢えていたということでもありますよね。
東條氏:
ええ。その中で『Lord of Walkure』という最初の成功事例が生まれ、続いて『千年戦争アイギス』というタワーディフェンスのタイトルがヒットしました。
ゲーム性の高いタイトルもしっかり評価されるという意味で、パブリッシャーとしても可能性を感じるタイトルだったので、非常に印象深いですね。
そして2016年にリリースした『神姫PROJECT』。トレンドを研究したところに、テクロスさんのクリエイティブ力、形にする力がうまく掛け合わさったタイトルです。当時はソーシャルゲーム市場も激化していましたが、このタイトルは売上もユーザー規模もそれまでとは桁違いで、更に自信に繋がりました。

──スマートフォン全盛のいま、あえてブラウザゲームを主戦場にされるというのは難しさがありますよね?
東條氏:
現状、スマホゲーム市場はアプリを介したコンテンツが圧倒的で、ブラウザゲームの存在感は薄いのが事実です。ただ、アプリを配信するとなるとどうしても他社さんのプラットフォームと競合してしまうため、なかなか運用が難しいんですね。
Android端末は直接アプリをダウンロードしてもらうという手法が取れるものの、iPhoneに対してはあまり多くのコンテンツを配信できていなかったというのが現状です。
そのため、新しい法律の施行にともなって、App Storeを介さずにアプリを配信できるようになった「サイドローディング」機能には大きく期待しています。
──なるほど。アプリ市場の開放を待ちつつ……というフェーズなわけですね。ちなみに、現時点でDMMを選んでくれているユーザーの動向には、どのような特徴があるのでしょうか?
東條氏:
私たちのサービス特有のデータとして、PC上でアプリをダウンロードして遊んでくださっている方の「継続率」が非常に高い、というデータがあります。
そして、今プラットフォームとしていちばん伸びているのが「PCクライアント」なんです。
ライトなユーザーはブラウザで遊び、そこからコアになっていくにつれてクライアントをダウンロードしてガッツリ遊んでいただく、という流れができているように思いますね。

