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月ノ美兎はなぜ「MVを分岐させてゲームにしよう」と思ったのか?「自分がやる意味のあることをやりたい」と語る委員長に、斬新すぎるアイデアの源泉を本気(マジ)で聞いてみた

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この5つは、バーチャルライバーグループ「にじさんじ」のメンバー・月ノ美兎(つきのみと)さんがこの半年の間に自らのチャンネルに投稿した企画動画のタイトルの一部である。意図せず「クソ」の言葉が3つも並ぶ形となってしまったことをご容赦いただきたい。

『アルクマルチバース』公開を記念してにじさんじライバー・月ノ美兎さんにインタビュー。斬新すぎるアイデアの源泉を聞いてみた_001
(画像は月ノ美兎公式YouTubeチャンネルより引用)

とにもかくにも、月ノ美兎さんはにじさんじのメンバーの中でも独自の立ち位置を確立しているイメージがある。

他のライバーの方々の多くがゲーム配信などの生配信を主とした活動をしているのに対して、月ノ美兎さんは数十分にまとめられた企画や歌の動画の投稿をする活動の割合が高く、逆に生配信の頻度が低めになっている。そのうえ、企画を主とした動画はアイデア自体のユニークさがほとばしっていて、いずれも視聴者側の興味・関心をモーレツに引くもの揃いである。

動画投稿以外にも、月ノ美兎さんは2021年に『にじさんじのタイプ診断』なるお手軽性格診断ゲームも制作し、無料公開。ゲーム制作者としての活動にも乗り出すという多才ぶりを見せつけた。

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(画像はふりーむ!『にじさんじのタイプ診断』紹介ページより)

そして、それに続く事実上の第2作目として『アルクマルチバース』を企画。月ノ美兎さんの1stミニアルバム「310PHz」の特典として、2025年2月に公開された。

月ノ美兎さんいわく「実はライバーになる前からこのアイデアを考えていた」とのことで、作曲家のフロクロさんが楽曲提供、ゲーム・動画・イラストを株式会社HIKEが制作し、完成にいたったこの作品は、プレイヤーの選択に応じて楽曲のみならず、ミュージックビデオ(MV)の内容までも変化することを最大の特徴としており、いわばゲームとMVの融合となっている。なんとも月ノ美兎さんらしい斬新なアイデアが炸裂した作品だ。

このようなゲームでもあり、MVでもある不思議な作品はどのような経緯から生まれたのか。そもそも、この作品に限らず、普段の企画動画などでも見られる奇抜なアイデアの源泉とはいかなるものなのか。

「思いついても絶対作りたくないようなゲームだった」ということを始め、思わず二度聞きしてしまうような発言が飛び出した、月ノ美兎さんご本人へのインタビューをお届けする。

聞き手・編集/逆道


「月ノ美兎が影響を受けたゲーム」とは?

──今回はインタビューの機会を頂きありがとうございます。ゲームメディアである電ファミのインタビューということで、せっかくなのでまずはゲーム周りのお話をぜひお伺いしたく思います。月ノさんはゲームの配信もいくつかされていますが、ご自身がこれまでに遊んだゲームの中で影響を受けたゲームというのはなんでしょうか。

月ノ美兎さん:
そうですね……今回の『アルクマルチバース』で言えば、『428 〜封鎖された渋谷で〜』には結構、影響を受けたかもしれません。わたくしがプレイしたのはかなり前のことなんですけど、「こういうことをやりたい」という気持ちはそこで凄く湧いたように思います。

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(画像は『428 〜封鎖された渋谷で〜』Steamストアページより)

──確かに『428』は選択と分岐が特徴的なゲームでしたね。

月ノ美兎さん:
最近遊んでメチャクチャ面白かったゲームに『Outer Wilds』(アウターワイルズ)があります。別にこれらのゲームが今の活動に影響しているかというとちょっと分からないのですが、『Outer Wilds』については「好奇心の肯定」みたいなものを結構感じまして。散歩に通じると言いますか、「好奇心って素晴らしい!」みたいなことを遊びながら思ったりしましたね。

──言われてみれば、『Outer Wilds』って散歩ライクと言いますか、「違うところに行ってみたら、違う発見があった」みたいなところが大きいゲームですよね。

月ノ美兎さん:
『Outer Wilds』には本当にやられましたね。特にDLCの「Echoes of the Eye」のオチが凄く好きなんです。ネタバレになっちゃうので言えませんが(笑)。

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(画像は『Outer Wilds』Steamストアページより)

──『Outer Wilds』をはじめ、月ノさんは尖った特徴を持ったインディーゲームをよく遊んでいるような印象を受けますが、ピンと来る何かがあるのでしょうか。

月ノ美兎さん:
Steamの名作インディーゲームみたいなものは好きかもしれません。『Outer Wilds』も「名作インディーゲーム」の感じがしますよね。

──『Slay the Spire』もプレイされていましたよね。

月ノ美兎さん:
実は、『Slay the Spire』はどちらかというと、あまり自分がハマらない部類のゲームなんです。けど、あれは好きで遊んでいました。それから『Inscryption』も凄く好きですね。

──ゲーマーとしては、なんとなく共通点が分かるような気もします。あとは、一時期ヨーロッパ企画さんのゲームをかなりプレイされていましたが、月ノさんにとって何か特別なものがあるのでしょうか。

月ノ美兎さん:
そうですね。なんと言いますか……あのゆるい雰囲気の中でやっている感じがいいなと思います。あと、あまりバカゲー感を前に出していないのも好きで。演出でも「ボケていますよ」という雰囲気がなくて、それがいい温度感でちょうどいいんじゃないかと思いますね。

──面白いことを迫られるような圧もなく、ゆるく楽しめる空気感で作られているのがいい、と。

月ノ美兎さん:
そうですね。その雰囲気が、本当にちょうどいいと感じています。

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(画像は『ヨーロッパ企画のゲームムービー研究所』Google Play Storeページより)

ライバーになる前から考えていた『アルクマルチバース』の企画

──それでは本題に移って、今回の『アルクマルチバース』についてお伺いします。『アルクマルチバース』はMVともゲームとも違う、非常に個性的で驚きに満ちた作品になっていましたが、実際に完成品を遊んでみて、月ノさんはどのような感想を抱かれましたか?

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(画像はにじさんじ公式Xアカウントより)

月ノ美兎さん:
わたくしは内容にも関わっていたことから、フラットな目線でゲームをプレイすることはできなかったんです。ただ、結構前から、読み込みの時間を凄く短くしていただけるとの話は聞いていたんですが、やってみたらメチャクチャ自然でビックリしました。

それで初見の人にも1回やってもらったんですけど、「これって選択肢影響しているの?」「初めからそういう曲なんじゃ?」みたいな反応が返ってきまして。ゲームであり、かつMVでもあるというのを大事にしていただけた結果だなと思いました。

──自分もプレイしたのですが、どのルートを進んでも「元からこんな曲だったんじゃないの?」と思うぐらい自然な繋がりになっていて、本当に驚きの連続でした。やはりその繋がりの部分は月ノさん自身、かなりこだわった部分だったのでしょうか。

月ノ美兎さん:
そうですね。そもそもがMVですから、読み込みのタイムラグなどで聴き苦しくならないように、最後まで調整をしてもらいました。

──なるほど。しかし、この「選択肢でMVを分岐させる」というアイデアは、なかなか大胆で斬新だなと思ったのですが、月ノさんがこのアイデアを思いついたきっかけはなんだったのでしょうか?

月ノ美兎さん:
実は、思いついたのは凄く前のことなので、何が発端だったのかは思い出せないんです(笑)。ただ、ライバーになる前からやりたいと思っていました。ヨーロッパ企画さんのゲームを見て、「あ、これってできるんじゃないの?」ってなった記憶がありますね。

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(画像は『ヨーロッパ企画のゲームムービー研究所』Google Play Storeページより)

──となりますと、今回の『アルクマルチバース』はまさに悲願だったのですね。

月ノ美兎さん:
たしか、打ち合わせの時にも「自分にとってこういうゲームだから、本当にやりたい!」みたいな感じのことを言いましたね。ただ、どうしてこんなことをやろうかと思ったのかは、もう思い出せないぐらい前のことになります。

──今、達成感も結構感じられていたり?

月ノ美兎さん:
まだ発売されていませんので、どのような結果になるのか分からないというのが正直なところです。とはいえ、どんな結果になったとしても、「やる意味はあったんじゃないのかな?」ということができた気はしていますね。

──ちなみに複数のルートが用意されていますが、月ノさんのお気に入りルートはなんでしょうか。プレイヤー目線でも、作った側の目線からでも構わないのですが……。

月ノ美兎さん:
曲単体ですと、中華街が結構好きですね。それから、実際に自分でゲームをやってみたら、RPGルートもなかなかいいなと思いました。

※月ノ美兎さんお気に入りの中華街ルートは、公開中の『アルクマルチバース』体験版でもプレイすることができる。気になる人はやってみよう

──RPGは凄いですよね。見たら忘れられないです(笑)。

月ノ美兎さん:
実はあそこ、歌うのが難しかったんですけど、ガラッと変わった感じが出せていたのは嬉しかったですね。

──何度かプレイする上でいいなと思ったのが、一番最初に出てくる「なんか繰り返しみたい」という歌詞なんです。最初は「ああ、日々の繰り返しなのかな」と思いながら聴いていたのですけど、後々にやり直すうちにその一文に深みが出てくるのが素敵でした。

月ノ美兎さん:
あれはいいですよね。多分、皆さんはCD収録版を先に聴くことになると思うのですけど、それもゲームに分岐があるのを匂わせる歌詞になっているんです。

そうなった理由として、わたくしが「散歩には無限の選択肢がある」と考えているというのがあって。「どこを歩くか?」という展開は変えようと思えば、自分次第でいくらでも変えられるんですね。

そういう「最初は1本道の散歩道だと思っていたけど、実は変えられることが分かる」みたいな流れでやっていきたいという話になって、このような形になりました。

実際、匂わせるようなことをいっぱい入れてもらえてうれしかったですし、「やってるな~」って思いながら見ていましたね(笑)。

話が来た時点で、楽曲提供者のフロクロさんが地獄に堕ちる運命は決まっていた

──『アルクマルチバース』は選択によって急にホラーが始まったり、バッドエンドを迎えてしまうとか、本当に色々な要素が盛り込まれていましたが、このような「ゲーム要素」をガッツリ取り入れることになった背景はなんだったのでしょうか?

月ノ美兎さん:
わたくしは曲とMV作りの負担を考えて、選択肢は2択ずつぐらいにしようと思っていたんです。ただ、最初の打ち合わせをする時、今回の楽曲を担当されたフロクロさんから「こういうことがあったら嬉しいですよね?」みたいなことを無限に提案されたんです。

その時「フロクロさんが後々苦しくなるんですけど、大丈夫ですか?」と聞いてみたら、「まあまあ」みたいな感じで返されまして。多分、普通に苦しんでいたと思うんですけど(笑)

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

──なるほど。そうなりますと、分岐の案はフロクロさんと一緒に考えられたのですね。

月ノ美兎さん:
バッドエンドがどちらの案だったかは思い出せないんですが、「こういうことがあったら嬉しい」みたいなことはお互いで出し合ったと記憶しています。「曲調が大きく変わった方が嬉しいから、民族音楽的なものを入れたいよね」という話とか、1~2時間で選択肢の内容を全部考えて、そのあとは割とそのままで進みましたね。

──では、選択肢は最初からあの量だったんですか?!結構な量がありますけども。

月ノ美兎さん:
いやぁ……「止めた方がいいんじゃないんですか?」と思ったんですけど(笑)。ただ、フロクロさんとしてはもう、このお話が来た時点で3択ずつぐらいにするのは確定だったみたいで。それぐらいにしないと、あまり面白くならないのではと考えていらしたようなんです。

なので、フロクロさんが自分の首をどんどん絞めていったというよりは、このお話が来た時点で地獄に堕ちることが確定していたということです。……正直、かわいそうでしたね(笑)。

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

──なるほど(笑)。『アルクマルチバース』はフロクロさんの音楽力もあっての作品ということなのですね。あと、月ノさんと言えば散歩動画でもよく知られていることと思いますが、今回のロケーションのイメージについても、フロクロさんと一緒に決められていった形だったんですか?

月ノ美兎さん:
あ、わたくしはロケーションについては具体的なことはほとんど何も言っていないんです。あくまでもイメージを伝えた感じでして、具体的な案はフロクロさんや制作チームのHIKEさんから出されたものも多かった気がしますね。

RPGはたしか、自分から出した案だったように思います。

──ルートの中にはいわゆるギャルゲー風のものもありましたね。登場人物が凄いことになっていましたけど。

月ノ美兎さん:
それもわたくしの案だった気がします。ですが、登場人物の方はお任せでして……。

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

──あれがお任せで出てきたのですか!なんと言いますか……フロクロさんやHIKEさんが想像を上回るアイディアを出してくれたということがよく分かったような気がします(笑)。逆に月ノさん側で苦労した点や、難しかった部分などはありましたか?

月ノ美兎さん:
わたくしが苦労したことと言えば、10数種類のルートの歌詞を1日で覚えて、次の日に収録をしたことでしょうね……。

──え!?あの量の収録を1日でやったんですか?

月ノ美兎さん:
デモの音源が2日前の夜ぐらいに来て、パートが10種類以上あって……。それを丸1日で覚えて、次の日に収録という感じでした。

──丸暗記されたんですか……各パートは自分も聞かせていただきましたが、歌詞とか曲のイメージに合わせて歌い方を変えられていますよね?そこも1日で?

月ノ美兎さん:
そうですね。歌詞に歌い方のイメージとか音程をメッチャ書き込んで、収録した感じです。流石に当日はそれ以外のことができませんでしたね(笑)。まあ、その日はほかに何の予定も無かったので良かったです。

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

──確かにそれはかなりの苦労でしたね……上手くいって良かったです。ちなみに歌うのが難しかったパート、あるいは歌い方に苦労したパートとかはあったのでしょうか。たとえばブラジルのルートとか、ポルトガル語で歌われていましたけど……。

月ノ美兎さん:
多分、一番難しかったのはCD収録版かもしれないです。正直、ちょっとやり直したい気持ちがあります(笑)。

ブラジルのルートについては、あそこだけ自宅で収録したんです。スタジオ収録の選択肢もあったんですけど、人前でやるのは結構恥ずかしいと思ってしまって、それだと普段の感じになれない気がしましたので、自宅でやりました。3~4回ぐらい練習してから録ったように思います。

──とても3~4回とは思えないぐらい、凄くいい感じだったと思います。何を言っているのかはちょっとよく分からなかったのですが……(笑)。

月ノ美兎さん:
自分も正直、何を言っていたのかはよく覚えていないです(笑)。

確実に面白くなることをやりたい。他の人と被っても自分がやる意味を見出す

──月ノさんはコラボ案件などにも積極的にご参加されつつ、たくさんの企画動画を出されています。月ノさんの企画はほかのライバーさんたちに比べてよく言えば斬新、悪く言えばエキセントリックという印象なのですが、ああいった企画のアイデアってどういった時に思いつくんですか?

月ノ美兎さん:
どうやって思いついているのかを考えてみると、人と喋っている時に思いつくことが多い感じがしますね。普通の雑談の中から生まれる感じです。

それから、本屋のキッズコーナーに行った時でしょうか。割と散歩をした時に立ち寄るんですが、そこに大きな付録と言いますか、科学実験本みたいなものが置かれているのを見て思いつく、みたいなこともありますね。

企画については、他の人とあまり被らないようにするというのは気を付けています。被りそうな時は、企画を2つくっ付けるとあまりないタイプのものになったりするので、そういったところは結構、意識していますね。

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(画像は「「令和のふろく」を知っているか?」より)

──2つくっ付ける……今回の『アルクマルチバース』にも通ずるものがありますね。

月ノ美兎さん:
そうですね。前に「クソ音質伝言ゲーム」というのをやった時も、伝言ゲームとクソ音質をくっ付けたら、あまり他の人がやっていない感じの企画になった……ということがありましたので、全く別のものをくっつけて新しい企画を作ると言う考え方は普段から意識しているかもしれないです。

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(画像は「クソ音質で伝言されたプレゼントを買ってこよう!!クソ音質伝言ゲーム!」より)

──以前に『にじさんじのタイプ診断』というフリーゲームを作られた時もそうですが、月ノさんの普段の活動にはすごく「エンタメ性」を感じます。月ノさんの中で「こういうことをやろう」と思って、何かしらの企画や行動を起こす時の原動力となる衝動って何なんでしょうか?。

月ノ美兎さん:
わたくしにとって一番理想的なのは、「自分がやりたいことついでに動画を撮影する」という形でしょうか。

だから、やりたいことリストみたいなものを結構しっかり書いているんです。それがついでに動画撮影となり、ついでに多くの人たちに見てもらえて、ついでにお金も稼げたらメチャクチャ嬉しいな、と(笑)。理想はそんな感じですね。

──なるほど(笑)。それで実際に企画を出してみたら反響があって、というのが活動の中において多々ありますけど、普段の動画投稿を通して、どんな手ごたえを感じられているのでしょうか。

月ノ美兎さん:
自分がやりたいこととはいえ、ウケたらそれはもちろん嬉しいです。ただ、たまにギャップがある時もありますね。全然ウケないだろうと思っていたものがウケたり、逆に「これは凄いだろう!」と思ったものが普通ぐらいの感じに終わってしまったりとか。

──実際に「これは凄いだろう!」と思って出してみたら、意外に普通の感じに終わった企画動画というのはなんだったのでしょうか?差し支えなければ伺いたいのですが。

月ノ美兎さん:
実は、以前投稿した「パーソナルカラー診断に5回行く」動画というものがありまして……。

パーソナルカラー診断に5回行ってみて、結果が同じなのかを試してみたら、全然バラバラだったんです。それでわたくしが「これってすごいことだぞ」と思って動画にしてみたら、別にそこまで話題にもならなければ、暴動が起きるようなこともなく……(笑)。自分ではヤバいことだと思っていたんですけどね。

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(画像は「【検証】5回受けてもパーソナルカラー診断は同じ結果なのか?」より)

──月ノさんの企画動画は斬新なものが多い一方で、内容を見た時に「ああ、これは委員長ならやりそうだ」と思える一定のラインがあるように感じます。月ノさん的にはその判断軸と言いますか、「自分がやりたいかどうか」というポイントとは別に、方針みたいなものはあったりするのでしょうか。

月ノ美兎さん:
もし企画が被ってしまったとしても、自分がやる意味があるものになればいいという思いはあります。

わたくしはとにかく、絶対に面白くなりそうな企画をやりたいです。自分のアドリブ力がそんなに信用できないので。

自分のアドリブ力に対する信用がないから、動画という形を選ぶ

──……ん!?ちょっと待ってください。月ノさんって、アドリブ力に自信がないんですか?

月ノ美兎さん:
ないですねぇ……。

──さすがにちょっと「異議あり!」と言いたくなってしまうのですが……(笑)。

月ノ美兎さん:
いえ、実際はそうなんですよ。アドリブだと思われている発言も、実はそうじゃなかったりするんです。

──にわかには信じがたい話です。ですが、逆に言えば世間で流行っている企画があったとしても、月ノさん的に面白いと思える自信が無ければ、容赦なくボツにするということなんでしょうか。

月ノ美兎さん:
そうですね。まあ、基本的に誰がやっても面白くなりそうなものをやった方が安心ではありますが、自分が面白そう、やりたいと思えないものはやらないようにしています。

──そう言えば先ほど、人と喋っている時に企画を思いつくとおっしゃられていましたが、その雑談というのはライバーさんと配信している中での雑談も含まれているのですか?

月ノ美兎さん:
はい、ライバーの皆さんとの雑談から思いつくことは結構あります。それから、ご学友の方々と喋っている時に企画が生まれることもありますね。

──ほかのライバーさんの企画にインスピレーションを受けるみたいなことはあるのですか?

月ノ美兎さん:
どうでしょう……?多分、あるとは思いますけど、みんな配信が多いので、意識して参考にするのも逆に難しいんですよね。

誰かの影響というよりは、YouTuberの大きな流れみたいなものは受けているのかもしれません。

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(画像は「2024年買ってよかったものを…発表ッ!!【ベストバイ】」より)

──配信よりも動画を出す頻度の方が高いことについても、何か影響を受けてのことなのでしょうか。それとも月ノさん自身にこだわりがあるのですか。

月ノ美兎さん:
わたくしが動画をたくさん投稿することについては、動画の方が見やすいだろうな、というのが大きいです。

配信も配信で凄くいいところがありますけど、生配信はどんな風に着地するかが分からない制御不能な部分があるんです。先ほどアドリブ力の自信がないと言いましたが、割と不安しがちな性格なので、動画であればわたくしが心穏やかに出せるという気持ちもありますね。

──まさに自分が面白いと思う形で、自信をもって出せるのが動画という形式なのですね。ちなみに、だいぶ話が飛んでしまうのですが、月ノさんの動画ってサムネイルの吸引力が高いなと思っていまして。サムネイルもご自身で考えられているのですか?

月ノ美兎さん:
そうですね。サムネは自分で考えるようにしています。

──何か、サムネイルのアイデアを考えるに当たってのコツはあるんですか?

月ノ美兎さん:
やはり、「初見の人の気持ちになってみる」というところはめっちゃ意識していますね。「本当にクリックしたいと思えるか?」という。だから、結構時間をかけて作ったものでも、あんまりだった時はボツにしてゼロから作ります。

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(画像は「配信中に名前が出た食べ物だけで生活しよう!!【最終日】」より)

──その心意気はメディアとして、記事や動画を出す側としてもタメになる話ですね。勉強になります!

月ノ美兎さん:
ありがとうございます(笑)。そのこともあって、サムネイルはめちゃくちゃ大事だとは思っていますね。

自分より歌の上手い人がいるからこそ、自分は他の部分で戦わなければいけない

──月ノさんは面白い企画やネタをやる人というエンターテイナーとして広く知られているかと思いますが、ひとりのアーティストとして、しっかりとした世界観を確立されていることも印象的かなと思います。月ノさんご自身がいくつかの作品を通じて、目指したいと思っている月ノ美兎像というのはどんなものなのでしょうか。

月ノ美兎さん:
わたくしの活動において、エンタメと歌の側面を切り離して考える方は結構多いような気がするのですけど、わたくしとしては意外にそこは一緒にできるんじゃないのかと思っています。動画のノリを歌の方に持ち込むことをしてみるとか。

今回のアルバム収録曲の中に、「ルナティックウォーズ」という、謎ノ美兎【※】と月ノ美兎が戦う感じの曲があるんです。この曲については、それは自分が配信でやるような仕込みを歌でやりたいところがありまして。曲を聴きながら、わたくしのちょっと凝った感じの配信を見ている時の感覚になれるようなものがいいな、と思ってやっているんです。「こころのアビッシー」という、着ぐるみの曲もそんな感じですね。

曲を作っていただける方にも「絵的なことはこちらにぶん投げてほしい」という話をしていまして。それもあって「ルナティックウォーズ」は、曲だけ聴いていると「一体、何が起こっているんだ?」みたいに戸惑ってしまう可能性もあるんですが、それはもう、しょうがないなと(笑)。

【※】謎ノ美兎…月ノ美兎さんの配信や動画などに登場するキャラクター

──曲単体で完結せず、映像やライブを通じて完成する、ということでしょうか。

月ノ美兎さん:
もう「ライブやMVで完成するものだと思ってください」みたいな形で投げているんです。色んな要素が集まって総合的に完成するという、そんな割り切り方の曲があってもいいんじゃないのかと思うんですよね。

──今回の『アルクマルチバース』にも、急に月ノさんの配信が始まると言いますか、散歩道のテンションになるルートもありますよね。

月ノ美兎さん:
それも動画のノリを歌に持ち込む、というものですね。やっぱり歌に関しては、もっと凄い人たちがいますので。だったらわたくしは、自分がやる意味のあることをやりたいと思っています。

──ライブやMVといった音楽的な作品も、普段の企画や配信といった月ノ美兎としてのライバー活動の延長線上にあるものであると。「月ノさんがやるからこうなる」というのは、ご自身としても大事にされている部分なのですね。

月ノ美兎さん:
曲などの制作を依頼する時にも、自分だけじゃなく、この人に頼む意味があるみたいなものをお願いしたくて。そういうフロクロさんらしさもある曲でなければ、頼んだ意味がないんじゃないのか、ぐらいに思ってました。

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

「月ノ美兎のゲーム」の新作が出る可能性は?

──月ノさんは以前にも『にじさんじのタイプ診断』というフリーゲームを作られたことがあって、それを経ての今回の『アルクマルチバース』はガラッと違った作品になったように思います。今回の『アルクマルチバース』で前々から温めていたアイデアを完成するにあたって、月ノさんが実現したかったゲーム体験とはどんなものだったんですか?。

月ノ美兎さん:
「自分の手で作っていく感覚」を味わってもらえたらいいなと思っています。

自分だけの散歩道みたいなものを作れる感じですね。そこは以前の『にじさんじのタイプ診断』とも若干似ていて、自分だけの選択が積み重なっていくことで、最後に結果が出るという流れがあるんです。それでその人の性格が出るような結果や体験が得られれば、嬉しいなと思いますね。

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(画像は「あなたの選択で曲が変わる!ゲーム「アルクマルチバース」trailer」より)

──プレイヤーの方々には初回はもう、思うがままに遊んでほしいという感じでしょうか。

月ノ美兎さん:
そうですね。そもそも、ゲームクリアというものがありませんので。

クリアという概念がないのも「正解がない」ということを大事にした結果です。「これが正規ルートだ!」みたいなものも、ない方が良いと思っていました。最後まで聴けば、曲としては全部が正規ルートになりますからね。

──今回の『アルクマルチバース』の発表によって、今後、「月ノ美兎が作られるゲーム」にも注目が集まっていくのではと思っています。今後もゲーム制作に挑戦されることは考えられているのでしょうか?

月ノ美兎さん:
やりたい気持ちはめっちゃあります!

──ちなみにお伺いしますが……現実的なコストなどを一切考えず、理想のゲームを作れるとしたら、どんなゲームを作りたいと考えていますか。

月ノ美兎さん:
音声入力を題材にしたゲームをやりたいですね。

昔のゲームになりますけど『デカボイス』とか、最近だと『声マネキング』も音声入力のゲームだったと思うのですけど、実況を見ている人間からすると凄く面白いと思っていまして。もし作れるとしたら、声を使って何か面白いことがやれないかなという気持ちがありますね。最近は聴き取りの精度も上がってきてますし、それを踏まえて面白いことをやれたら嬉しいなと思います。

──声を使うというのは月ノさんらしいですね!ぜひなんらかの形で実現してほしいです。(了)


自分だからこそ、やる意味のあることをする。自分であることの意味を追及する。

そのような姿勢を徹底しているからこそ、月ノ美兎さんの活動全般には「月ノ美兎であればやっても不思議ではない」という納得感と、そこでしか感じ取れない空気感というものが滲み出ているのだろう。

それは今回の『アルクマルチバース』も同じで、その基本コンセプトはもちろんのこと、歌においても月ノ美兎さんでなければ出せない唯一の味、創作的に言うならば作家性に近いものがある。それもまた、自分であることの意味を追求し続けている普段の活動があってこそのもので、だからこそ月ノ美兎さんは、独自の存在感を放ち続けられているということを実感させられるインタビューだった。

最近遊んで面白かった・好きなゲームとして『Outer Wilds』と『Inscryption』という鋭く尖った個性を持つ作品を出されるあたりも、かの「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」的な、つい起立してしまう“なにか”があるのだろう。

とは言え、「アドリブ力に自信がない」という発言には、色んな意味で戸惑いと驚きを覚えるものもあったが。普段の動画や配信において、言い得て妙なコメントや反応が飛び出す様子を知る側からすると、アドリブ力は高い方であるように思えるのだが、どうなのだろう……?

とにもかくにも、『アルクマルチバース』においてライバーとなる前から考えていたアイデアのひとつを現実にした月ノ美兎さん……もとい、委員長。次はどんな「委員長ならやりかねない」ことに挑戦されるのか。

今回の『アルクマルチバース』の特殊な仕上がりを着席して味わいつつ、普段の動画投稿、配信、歌といった活動に注目していきたいところである。

ライター
なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。

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