『鬼滅の刃』、『NARUTO-ナルト-』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ドラゴンボール』。
いずれも名だたる作品だが、これらのゲーム開発を担っている会社がある。その名はサイバーコネクトツー。
福岡・東京・大阪の3拠点を構えるサイバーコネクトツーは、『戦場のフーガ』シリーズなどのオリジナルタイトルのほか、著名アニメ版権ゲームの開発を複数手がけていることで知られている。8月1日にアニプレックスから発売された『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚2』もサイバーコネクトツーが開発を務めている。

そんなサイバーコネクトツーが7月よりアニメ版権ゲームのシナリオデザイナー(シナリオライター)を発掘するオーディションプロジェクト、「シナリオデザイナー養成所」を始動した。
合格者はプロのシナリオデザイナーへの道が開かれるというもので、第二次選抜(試験)までを突破した方は、サイバーコネクトツーで働けるというオーディション。ゲームのシナリオデザイナーを社内に抱えるという風潮は現在は珍しいもので、個性と熱意にあふれるサイバーコネクトツーらしい取り組みと言えるだろう。
そんなサイバーコネクトツー松山 洋社長から、電ファミニコゲーマー編集部宛に、「シナリオデザイナー養成所」について取材をしてほしいと打診をいただいた。本稿では、その模様をお伝えしていこう。
取材・文/豊田恵吾

みんな、もっと「ふつう」になってほしい
松山 洋氏(以下、松山氏):
今日はいろいろと赤裸々に話したいなと思っていて……。もちろん「シナリオデザイナー養成所」のことを最大化したいという目的はあるんですけど、みんなもっと「ふつう」になってほしいと伝えたくて……。
──ん? どういう意味でしょうか?
松山氏:
「現在のゲームシナリオデザイナーに対して求められる能力が何か?」と事前に質問をいただいていましたが、この質問への答えが「ふつう」ということなんです。
──それは今回の「シナリオデザイナー養成所」へ応募をしてくる方に対して求めること、ということでしょうか?
松山氏:
そうです。
電ファミの記事に登場されるような、一線級でシナリオを書かれている方々はまた別の話ですね。
今回のインタビューではシナリオの深い話ではなく、もっと基本的なところの話をしたくて……。私のシナリオデザイナー論は、noteを読んでもらえればわかりますから。
──松山さん、怒ってます?(笑)
松山氏:
そう、怒ってます。なぜかというと、シナリオデザイナー養成所にエントリーしてくださった方(8月7日時点)の“76%”が一次審査で落ちているからです。
一次審査はサイバーコネクトツーが取り扱うアニメ版権タイトルへの理解力や、調べる力などが求められる内容の試験となっているのですが、オンラインでのテスト、しかも選択式で回答を選ぶだけのものなんです。
つまり、テスト中にいくらでも答えが調べられる。それなのに76%の人が回答を間違っている。だから「ふつうの能力があれば大丈夫です」と、ここで伝えたかったんです。
──なるほど。
松山氏:
いまからシナリオデザイナーを目指します、という人に特殊な技能なんて必要ありません。そういったものはディレクターや、アクションゲームだったらバトルディレクターという職種に求められるもの。
たとえば、サイバーコネクトツーはこれまで数多くのアクションゲームを作っていますが、ほとんどのタイトルにストーリーモードがあります。で、そのときに活躍するのは演出家であり監督なんですね。
ゲームをプレイするお客様、コントローラーを握っている方に「これはマンガともアニメとも違う」という、ゲームだからこその体験を感じてもらわなければならない。自分自身が操作しているキャラクターになりきって遊ぶ。ゲームならではの、プレイヤーと操作キャラクターのシンクロ。この最高のゲーム体験というものは、演出担当が手がけるわけです。
そういった中でゲームシナリオデザイナーに求められることというのは、「ふつう」の能力。乱暴な言い方かもしれませんが、常識的な能力があれば誰でもなれる職業なんです。
シナリオデザイナーは、“誰でもできる”職業
──その「ふつう」をもう少し詳しく教えてください。
松山氏:
たとえば、サイバーコネクトツーがお預かりしている作品で言うと『鬼滅の刃』や『NARUTO-ナルト-』、『ドラゴンボール』などがありますが、すでに世界中にファンがいらっしゃるわけです。そういった方々の期待に応えるために、当たり前のことですがシナリオデザイナーはまずは原作のマンガを読み、アニメを観る。

ゲームシナリオを作る際、作品どおりに作ることもあれば、ゲームならではの体験としてオリジナルの話を作るときもあります。
「この物語とこの物語のあいだに、ひょっとしたらこんな冒険があったのかもしれない」というものを”if”としてお客様に提供するうえでは、もちろん脚本家としての提案力が必要になります。
ですが、ひとまずこの提案力は我々に任せてもらえばいい。だから、少なくともサイバーコネクトツーが望むシナリオデザイナーは、誰でもできる職業なんです。ただ、マンガを読む、アニメを観るという「ふつう」の能力だけは持っていてくださいと。最初の入口として、応募者の方にそれ以上は求めていません。
でも意外なほど、それができていない。応募状況の詳細を話すと、8月7日時点でエントリー数が44名。一次試験は全10問で、満点ならば合格。で、現在の合格率が26%。一次試験では『NARUTO-ナルト-』から5問、『鬼滅の刃』から5問出題しているのですが、問題はこういった内容です。
松山氏:
ぜんぜん難しくないですよね。先ほど話したとおり、オンラインのテストですから、いくらでもカンニングができます。要は「調べて回答していいですよ」と言っているんです。
──めちゃくちゃやさしいですね。
松山氏:
仕事だったら、わからないことがあればふつうに調べるじゃないですか。当たり前というか、最低限というか、この「ふつう」の能力さえ身につけてもらえれば誰でもできる仕事なんです。だから74%が不合格というのが、もうショックで仕方なくて……。
試験に合格するために単行本を揃える必要はないですし、ネットで調べればわかるような問題ばかりです。「調べて確認して選択する」という能力は、どんな仕事でも当たり前に求められることですし、それだけできればいいんです。
この記事を読んでいる人たちの多くが「え? それさえできれば雇ってくれるの?」と思ったかもしれませんが、そのとおりです。「調べて確認して選択する」ができれば、合格の可能性があります。サイバーコネクトツーの一員となり、シナリオデザイナーという職業に就けます。
──「養成所」と名乗っているわけですから、合格したあとに育成をされるわけですよね。
松山氏:
合格者は複数……10人くらい残ってほしいと思っていて、合格したあとはシナリオデザイナーとしての教育・育成をやっていきます。「そのレールに乗れるんだったらやってみようかな」と思った方は、いますぐエントリーをお願いします。
──いろいろとよくわかりました。
合格して人生変えてみたい人は来てほしい
松山氏:
決して「シナリオデザイナーさんがふつうじゃない」と言っているわけではありません。今回のシナリオデザイナー養成所を発足したそもそもの経緯を改めてお話しすると、サイバーコネクトツーの社内には言葉を紡ぐ、いわゆる魔法使いのような……私と一緒に演出を担ってくれる脚本家が3人いるんですね。
ただ、彼らはどちらかというと、いまはディレクターの立場になっている。シナリオを書きながらディレクションを行っているのですが、そんな状況の中でひとりで20万文字も書けるわけじゃない。ですので、外部の方にもお手伝いいただいているのですが、外部のシナリオデザイナーさん、シナリオライターさんは皆さん、とても優秀です。
サイバーコネクトツーが複数のプロジェクトを進めていく中で、お預かりしているIPはサイズが大きいんですね。ゲーム規模はもちろん、プロジェクト自体のバジェットも大きい。一定以上のクオリティをお客様に提供するためには、「メインシナリオをクリアしたら終わり」ではなくて、サブシナリオがあったり、いろいろなバリエーションがあったりと、満足度の高い1本にしなければいけません。
ですが、ゲーム制作というのはシステムが日々進化したり、変わったり、戻ったりと、仕様変更が必ず起こるものなんです。しかも、シナリオはある程度システムが完成してからじゃないと発注できない。そうなると、いまは全世界同時発売が当たり前になっていますから、翻訳作業もどんどん後手に回ってしまいます。

──なるほど。社内にシナリオデザイナーがいれば、システム開発と並行して制作を進められるわけですね。
松山氏:
そのとおりです。多くの場合、最初にメインシナリオを固め、そのつぎに監修のあるサブシナリオを作ってゲームに落とし込んでいく。仕様変更が発生した場合はテキストの修正も行うわけですが、外部の会社さんに発注するときは、まずは発注資料を用意しなければならないんですね。
「このゲームはこういう概要です。紆余曲折ありましたが現在はこういう形で固まっています。この仕様に則った形でシナリオを書いてください。この作品にはこういうルールがございます」っていうことを全部まとめた資料を作らなければいけない。相当しっかりしたものを用意する必要があるんです。
さらには、打ち合わせをして、説明をして、先方から届いたシナリオをチェックして、フィードバックを返して……。当然ですけども外部の方が相手ですから、書かれていないことをあとから言うわけにはいきません。
でも、これが社内のスタッフならば発注資料を用意する必要もないですし、何かあったらすぐに対応できるわけですよね。しかも、状況を理解したうえで作業をしてもらえる。シナリオ部分において、このようにゼロ距離で制作できる人員をもうちょっと増やしていこうよ、というのがもともとの考えです。
ですから、いま現在お仕事をご一緒させていただいている外部のシナリオデザイナーの皆さんには、1ミリの不満もありません。
──社内にシナリオデザイナーを抱えるというのは、時代的なものでいうと珍しいのでしょうか? シナリオデザイナーは社内に抱えない、という会社も多いですよね。
松山氏:
その理論はわかりますし、シナリオは外部に発注するもの、というやり方の会社さんはたしかに多いです。でも、サイバーコネクトツーは熱量高いものづくりに定評がありますし、もっとスピード感を持ってクオリティの高いものを生み出したい。
サイバーコネクトツーがさらにステップアップしようと考えたときに、シナリオデザイナーを社内に据えて、育てていく必要があると思ったわけです。
正直に言うと、「外部に発注すればシナリオは回せるから社内にシナリオデザイナーはいなくてもいい」という意見もありました。でも、それだといつまでも変わらないんですよね。サイバーコネクトツーがもっと上を目指す、そのための養成所ということなんです。
実際、どうなるのかは現時点ではわからないですけど、我々はいい結果を出すつもりですし、人を育てる覚悟を持ってやっています。……と、まあ我々の意気込みはさておき「合格して人生変えてみよう」というくらいの気持ちでエントリーしていただければ(笑)。
──門戸を広げているわけですね。
松山氏:
どんな仕事でも最初はみんな素人なわけですから、ゼロから育てます。さきほど、社内には3人のシナリオディレクターがいて……と偉そうなことを言いましたけど、彼らも20年前は新入社員で素人だったわけですよ。大学ノートに手書きでいろいろと書いていて、それをうちに送ってきたんですね。
「こいつおもしろいな」と採用して直接育てて、それがいまはディレクションまで手がけている。20年経てば立派な職人になるんですよね。やっぱり経験が人を育てていくわけです。
ゲームのシナリオデザイナーって、どうすればなれるのかがわからないんですよね。ほとんどのゲーム会社が募集していない職種ですし、就職する先も少ない。さらには、どういう作品を送れば合格になるのか、採用してもらえるのかという部分も明確じゃない。
でも我々はそこを知っているわけです。「ふつう」の能力があれば、誰にもチャンスがある。特殊な能力なんていりません「人よりも好き」っていう、たったそれだけでクリエイティブはスタートするもんなんです。
提案力を持ったシナリオを作るとか、プロットを作るとか、それぞれの会社でセオリーのようなものがあるんですね。うちにはうちのノウハウがあるし、私の流儀がある。そこはうちのシナリオデザイナーやディレクターと一緒に直接教育をしていきますので、さらなる高みを目指すのは入社したあとでいいんです。
しかも仕事をしてお給料をもらいながら、少しずつ学んでもらえればいい。楽しい先輩たちに面倒を見てもらいながら、少しずつやれることを増やしてもらえればと思っています。
想像するのはAIではなく人間の力
──しかし松山さんらしいと言いますか、自社で育てるシナリオデザイナーをオーディション形式で募集するというのは、とても大胆な取り組みですよね。
松山氏:
プログラマー、アーティスト(モデラー、アニメーター)などは社内で育てる体制がすでにありますし、軌道に乗っているんですけども、シナリオだけが欠落していたんですね。さすがに外部の方々に頼りっ放しはよくないですし、制作ボリュームとして見たときにシナリオにまつわる部分は多いので、スピードアップを図る必要があるんです。
昔と比べてゲーム開発は1年や2年では終わらなくなっていますから、どこかで変えなきゃいけなかったんですね。
──乱暴な質問になりますが、AIではなく、生身の人間にこだわる理由はどんなところにあるのでしょうか。
松山氏:
もちろん、AIはうちも研究しています。……研究しているんですけども、作品をお預かりして、その向こう側にいるファンの姿を想像し、そしてゲームに最適化された言葉を紡ぐとなると、正直AIにはまだ荷が重い。
ミスがないかをチェックさせるとか、完成したシナリオを各国言語に翻訳するとか、システムメッセージを用意するとか、そういったことはAIで問題なくできます。
ただ、やっぱり魂を紡ぐ言葉を生み出すというのは、残念ながら人間じゃないといまのところは無理だと思っていますし、事実そうです。だから人を育てたいんです。
──それはすごく理解できます。
松山氏:
あとは想像する力と言いますか、シナリオのミーティングで「作者の先生は、本当はこう言いたかったんじゃないのか?」っていうことをよく議論するんですよ。「そうだとしたらここのセリフはもっと短くしないとダメだよね」とか。
ゲームはアニメと一緒で映像作品です。表情やレイアウト、シチュエーションによって、キャラクターがしゃべらなくても心情を語ることができます。目の前に美しい風景が広がっているなら、その絵を見せさえすれば「綺麗な景色だな」というセリフはいらないんです。
我々は作品にあるセリフを勝手に変えたりはしませんが、引き算の演出は必要なんですね。

──ゲームという媒体の性質を考えた「ならでは」の演出ということですね。
松山氏:
この想像力、そしておもんぱかる感情というのは、まだAIにはできていない。どうしても人間の仕事かなって私は思っています。
まあ、サイバーコネクトツーは世界的なIPをお預かりさせていただいていて、そこに携われる。そしてゲームシナリオデザイナーという職業として、世界に向けて仕事ができるわけですから、こんな誉れはなかなかないと思いますよ(笑)。
──(笑)。
松山氏:
だって自分でも思うもん。「20代のときにこういった養成所があれば……」って(笑)。
──たしかに、『鬼滅の刃』は連載が終了しても映画の人気はすごいですし、マンガ・アニメに携われなくても、サイバーコネクトツーに入ればゲームで『鬼滅の刃』に関わることができるかもしれないわけで……。
松山氏:
でしょ? こんなにうれしいことって、なかなかないと思うんですけどね。ただ、IPそれぞれにルールはもちろんあるので、なんでもかんでも自由に作れるわけではないことは理解しておいてください。これはノウハウの部分でもありますし、合格した方にはしっかりと教えます。
──では最後に「シナリオデザイナー養成所」が気になった方に対して、松山さんからひと言お願いします。
松山氏:
誰でも通れる門なので、少しでも気になった人はエントリーをお願いします。テストも5分くらいで終わりますし、なんだったら数日かけて絶対に正解するまでチェックしてもらってもいいんです。
期間をとっているのはそのためですし、なんだったら誰かに相談してもらってかまいません。
「調べる」という、仕事であれば当たり前の「ふつう」のことをしていただいて、そしてできれば合格していただいて、世界に対して売れるべくして売れるものを一緒に作りましょう。
弊誌はこれまで、ゲームシナリオに関する記事を多数掲載している。
いずれも深掘りを行っているものばかりなので、弊誌の記事をふだんから読んでいる方からすると、今回のインタビューは毛色の違う内容に映ったことだろう。
・「シナリオデザイナー(シナリオライター)」になるにはどうすればいいのか?
・シナリオの書き方はどう学べばいいのか?
・雇ってもらえる会社はあるのか?
これらはシナリオデザイナーを目指す人にとって根源的な悩みとなっているが、サイバーコネクトツーの養成所は、それらすべてを解決している。
求めるのは「ふつう」の能力のみというシナリオデザイナー養成所。文字を書く仕事を目指している方はぜひエントリーしてみるといいだろう。
最後に、サイバーコネクトツーで働いている方の生の声として、開発部 シナリオエキスパートの藤野氏からのコメントを掲載して本稿を閉じたい。
CC2 シナリオデザイナーコメント
アニメ版権の持つ魅力を十二分に理解し、それをゲームで表現する。
言ってしまえば、ゲームデザイナーはそういう仕事です。
版権を預かっているのですから、当然、容易い仕事ではありません。
キャラクター性や世界観の理解度が低ければ、作品もゲームも破綻します。しかし、自分で考えた演出やセリフがゲームに反映され命が吹き込まれたキャラクターを目にすると、思わず「やったっ!」とうれしくなります。
これは間違いなくシナリオデザイナーの特権です。
そうした小さな喜びが少しずつ蓄積され、そして大きく膨らんでゲームは完成します。
さて、この時の喜びはどれほどのものでしょう。
ぜひ、一緒に味わいましょう。
シナリオデザイナーに挑戦する門は開かれています。株式会社サイバーコネクトツー
開発部 シナリオ エキスパート
藤野 成章